[2000年1月]


1月1日
「幻想文学企画室通信」改め「Eastern Voices 東邦聲明」(東邦生命、に非ず。出典はTyrannosaurs Rexの初期ナンバー)、本日よりスタートします。
 最初にお断りしておきますが、これはいわゆる「日記」ではありません。あくまでも業務上の覚え書き&告知、のつもりです。仕事が忙しくなると、平気で何日でも何ヶ月でもすっ飛ばすだろうことを、ここに宣誓しておきます(でも、なるべく律儀にがんばります……クラニーやワルモノ望にコケにされないためにも)。

 独り淡々と、両国の事務所で平成12年のカウントダウン&年明けを迎える。
 大晦日から手を着け始めたゾンビ文学誌にちょいと詰まったので、8日に「伝奇を書く」@ムーでインタビューを予定している加門七海の近刊『死弦琴妖變』(富士見書房より2月発売予定)のゲラを読み始めたら……止まらなくなる。


1月2日
『死弦琴妖變』読了。むむむ。
 え〜いささか唐突ですが、小生の本業(のひとつ!?)は評論家ゆえ、新作の批評は原則として商業活字媒体を優先したいと思っています(小説家が新作を自分のHPで先に発表したりはしないのと一緒ですな)。
 ……というわけで、ここでは具体的言及をひかえますが、「伝奇と怪異」興隆への確かな手応えをまたひとつ掴んだ! とだけは言っておきましょう、ふっふっふ。
 東京創元社で進行中の平井呈一小説&エッセイ集に寄稿する評伝のため、岡松和夫『断弦』(文藝春秋)を数年ぶりに精読、随所にチェック。ちなみに同書は、平井翁と遠い姻戚関係にある著者が、翁の生涯に取材して執筆した、限りなく事実に近い(と思われる)フィクションなのだ。


1月3日
 横須賀の実家へ戻る。書庫にこもって「ゾンビ」「平井呈一」および「古典芸能」関連の資料を漁る(どーいう取り合わせかね、まったく)。結局『荷風全集』や『佐藤春夫全集』『芥川龍之介全集』も全巻、事務所に移すことに腹をくくる。ああ、ますます居住スペースが……。
 帰りの横須賀線で、荷風の「向嶋」「深川の散歩」などを徒然なるまま再読。明日の七福神めぐりの予習も兼ねて。


1月4日
 恒例の隅田七福神めぐり。事務所を両国に移して以来、毎年続けているのである。
 まずは近所の元徳稲荷さんに詣でてから、タクシーを拾って向島の牛嶋神社(ここは七福神とは無関係なれど……牛だよ、牛!)に乗りつけ、近くの三囲神社と長命寺を起点に、墨堤通り沿いに点在する六箇所の神社仏閣を徒歩で回る。
 それこそ平井呈一や荷風、露伴、龍之介等々、幾多の近代文学者ともゆかりの深い、初春の墨田界隈をゆっくり散策しながら、それでも三時間もあれば巡り果せてしまうところがまたいいのだな、これが。
 帰りは京成鐘ヶ淵の駅から日比谷線経由で秋葉原に出る。紅白歌合戦で久しぶりに堪能した三波春夫『元禄名槍譜 俵星玄蕃』のCDを購入。カラオケのレパートリーにするかどうかは未定(難曲である)。


1月5日
 世間様も仕事始めとみえて、早速、締切その他をひかえた数社から電話が。
 こちらも久しぶりに編集者モードに立ち返り、『幻想文学』次号で予定している赤江瀑座談会の会場探し。わりとすんなり決まって、出席者に早速FAX連絡を入れる。
 ちなみにその顔ぶれは――皆川博子、森真沙子、篠田節子という新春を飾るにふさわしいホラー・ジャパネスク&幻想文学界の三名花!(豪華でしょ?)
 年末に到着していた週刊朝日百科『世界の文学』のモダンホラーの巻(風間賢二監修)のゲラをチェックして戻す。小生は巻末の「文学小事典」を執筆。「ウィアード・テイルズ」や「アーカム・ハウス」なんて項目もあるのだよ。


1月6日
 松の内だというのに、芝・増上寺で第5回「怪談之怪」が開催される。対外的な仕事始めがコレ、とはねえ……こいつは春から縁起がいいのかどーか(笑)。
 今回のゲストは岩井志麻子さん。なんだか昨年暮れからしょっちゅー顔を合わせている気がするのは気のせいか。今回は和服姿で御登場……といっても遊女のコスプレじゃないっすよ。
 増上寺の境内に入るのは、考えてみたら初めて。帰り際、境内裏手にライトアップされた東京タワーがヌッとそそりたつ光景を目の当たりにして、しばし魅了される。
う〜む、怪獣マニア心をそそるのぉ。
 初顔合わせの夏彦VS志麻子の息もピッタリで、終始ハイテンションの会となった(この模様は『ダ・ヴィンチ』3月号にて掲載されます)。『ダ・ヴィンチ』といえば、小生も企画協力させてもらった「陰陽師」特集をフィーチュアした2月号が本日発売。小生は晴明出生伝説の残る茨城の猫島紀行その他もろもろを執筆しております。


1月7日
『ムー』3月号の2色刷特集「妖獣くだんの謎を追って(仮題)」の締切が近いことにハタと気づき(笑)そそくさと取材資料の整理を始める。
 東京創元社のK浜氏から『エヴァンゲリオン』論のゲラが出たので送る旨、連絡が。実に1000枚近い、大瀧啓裕氏入魂の大作である、が、結論部分はいつ上がるのだろう(笑)。


1月8日
 品川プリンスホテルで、加門七海インタビュー。久々の新作長編『死弦琴妖變』(仮題じゃなくて、ホントにこの題で出すそーな、いちおう半ジュヴナイルなのに……いや、いいんですけどね別に/笑)を中心に、伝奇観・創作観・オカルト観(?)をめぐって2時間弱、あれこれお話をうかがう。この模様は『ムー』3月号に掲載予定。
 夕方から池袋西武で、新年最初のホラー講座。今回のお題は新春にふさわしく「伝奇と怪異の風が吹く!」――日本怪談史のおさらい&岩井志麻子や京極夏彦や加門七海のホラー・ジャパネスク小説をめぐって。


1月9日−11日
 「くだん」特集とホラー大賞予備選の原稿読みに専念。


1月12日
 夕刻より飯田橋の角川本社で、第七回日本ホラー小説大賞の予備選考会。
 応募作のレベルは昨年度に較べるとやや低調な印象だったが、個人的に推していた作品が長編・短編部門ともに本選進出を果たしたので、いちおう満足。
 摩天楼飯店での食事会の模様は「狂乱西葛西日記」@大森望参照。小生は別に風間賢二氏と怪しい話をしていたわけではないのだが(笑)、氏は「牛込櫻会館」もこまめにウォッチングしているようなので、原理主義な人は腹を括ってかかるよーに(嘘)。


1月13日
 虚脱状態で「くだん」特集の残り原稿を片づけていたら、「鳩よ!」編集部のKさんより電話が。4月号の「江戸っ子ホラー作家」(まだ仮称、だそうだが、このネーミング小生のツボにハマりまくり)岡本綺堂特集でやる対談(VS加門七海)用に、意中の作品をピックアップしてほしいとの事。そうだなぁ、と、うっかり綺堂本の山に手を出したらついつい読み耽ってしまう(許せ、獅子堂@ムー!)。
 しかし仕事から仕事へ現実逃避してどーすんだ。<俺
 結局「〈半七〉から〈青蛙堂〉へのミッシング・リンクたる〈三浦老人昔話〉を見直そう!」というコンセプトでいくことにする。二大人気シリーズに挟まれて、いささか影の薄いこの連作は、滅びゆく江戸の残照を湛えて胸に迫るものがある。
 単発では「ゆず湯」という、小説と随筆の中間をいくような短編に感銘を新たにする。
 「ムー」編集部のMさんからも電話。「かごめかごめ」のわらべ唄の謎を探訪する企画の打診。今月下旬取材にという日程を聞いて臆するが、千葉の某神社に「籠の中の鳥」の彫刻があり、その籠の一部が破れていて云々と聞かされ、思わず「見たい見たい!」と口走る(笑)。好奇心は猫をも殺す。
 というわけで「かごめかごめ」に関する情報を御存知の方はぜひ御一報ください!


1月14日
 夕刻から五反田の学研に出向いて、「くだん」特集の図版選びその他につきあう。久美浜の兜山で撮った「人喰岩」の望遠写真は、やはり何度見ても怪しい(人面岩マニアは、「ムー」3月号を見逃すな!)。
 その合間に「歴群新書」編集部のKさんと密談。「ムー伝奇ノベル大賞」および「伝奇を語る」の作戦会議である。
 ふと傍らを見ると、ゾンビのようにふらふらと横切る影が! 旅とグルメの新雑誌「金羊毛」じゃなかった「アルゴ」創刊号が売れ行き好調で旭日の勢いの某Masuda氏ではないか! 「幻想文学」との交換広告を申し出るも(笑)「くわ〜んべんしてくださいよぉ」と却下される(あたりまえか)。


1月15日
 早朝、タンビ氏@メディア・ファクトリーより「第5回怪談之怪」のゲラがFAX&メールで到着。
 「SFマガジン」のホラー時評に着手するも、昨夜から風邪気味で心気朦朧、S澤編集長に平謝りして早めに寝てしまう。


1月16日
 早期療養(!?)の甲斐あってか、かなり回復したので、午後から神保町に出て、必要な本の買い出し。メイン・ストリートの老舗古書店は軒並み休日閉店だが、裏通りの新興古書店は日曜営業のところも多い。RBワンダーほかをちょっと覗いて、そそくさと帰宅。


1月17日
 昼は座談会の仕切り、夜は対談出席と大車輪の一日。
 午後2時から東京駅ステーション・ホテルで、皆川博子・森真沙子・篠田節子の三氏をお招きして赤江瀑座談会。
 伝説の新宿「ナジャ」での赤江氏のたたずまいを懐かしく回想する皆川氏、「もう迷路みたいなのよ!」と下関の赤江邸探索、自称ミーハー紀行を語る森氏、終始ハイテンションで暴言・名言連発の篠田氏と、実ににぎやかなひとときに。しかし同業者から、これほど熱き思い入れを込めて語られる作家ってのも、珍しいのではなかろうか。
 会場の都合で、4時ちょうどにお開き。移動途中、喫茶店で「怪談之怪」ゲラに手を入れ、ダ・ヴィンチ編集部にメール送信する(遅くなってゴメン!>タンビ様)。
 午後6時から浅草東上野町の茶藝館・樗(おうち)で「鳩よ!」の対談。お相手は加門七海さん。稲荷町の駅を出ると、暗天より氷雨が霏霏として降りかかる。「おお〜青蛙堂日和じゃん」と感じ入りながら、閑散とした街路を抜けて会場へ到着。ふと隣の敷地を見れば……石塀の向こうに卒塔婆が林立しているではないか(笑)。おいおい〜、今夜のテーマが岡本綺堂だからって、百物語をおっ始めるわけじゃなかろうがっ!(口調がべらんめえなのは対談相手の影響と思われる)
 古い仕舞屋をオシャレに改装した店の二階に上がると、すでに到着していた加門七海が開口一番――「さっき階下で男の人の話し声がしてさぁ、てっきりヒガシさんかと思ったよ」「ドアの開閉音は?」「しなかった(笑)」(店は貸し切り状態で、店員は女性の方ひとりだけだった)。こらこらこら〜。
 2時間ほどしゃべりまくって(どっちもせっかち&早口なので展開の早いこと)、浅草フラミンゴでお茶して帰宅。


1月18日
 まだ体調が完全復旧ではないので、終日事務所に腰を据え、人類文化社から3月に出る安村敏信監修『日本の幽霊名画集』(錦絵を中心とする近世・近代幽霊画の名品を集成した決定版豪華本! ただしちょっと高額の見込み)に寄稿するエッセイに取りかかる。「イワイサダコ」の御真影に触発されたわけではないのだが(ナンのことやら分からない人は大森掲示板参照)、「貞子」と近世の幽霊像を対比的に論ずる方向に。
 ムー編集部のM上氏から電話で「かごめかごめ」取材の行動予定表がFAXされてくる、が……朝9時にぃ! 東武野田線の柏駅前に集合だぁぁぁ!? 前夜は完徹だなーこりゃ(泣)。
「メンズ・ウォーカー」のO氏より、ホラー映画&小説特集のコメント依頼。FAXによる質問−回答形式とのことなので、安んじて応諾する。怖い小説のベスト3を選べばいいそーな。


1月19日
 同朋舎のM津田氏より『ワールド・ミステリー・ツアー13』締切直前の偵察(!?)電話(幻想的掲示板を見たせいではない模様)。ついでに注目の新企画〈ホラー・ジャパネスク9〉の話とか水木しげる御大の話とか。
「ユリイカ」のS川編集長よりボリス・ヴィアン特集の件で電話。『うたかたの日々』は大いにツボなのだが、時間がなぁ……とペンディングにしてもらっていたのだけれど、「ヴィアン、カヴァン、十蘭」の押韻三題話なら書けるかも(笑)……ってなことで結局、引き受けてしまう。どうなることやら。
 ダ・ヴィンチのK本(ある理由によりしばらく敬称略の刑に処す/笑)と、ある用件で連絡を取り合うが、スピーディな対応に深謝。陰陽師特集(売れ行き良好!)の次は、ぬわんと「巫女」特集を企画中だそうで愉しみである(森真沙子ファンは刮目して待て!?)。
 久しぶりにアタマを編集者モードに切り替えて、創元のK浜氏&著者の大瀧啓裕さんに電話、『エヴァンゲリオンの夢――使徒進化論の幻影 De harmonia mundi.』(東京創元社)の詰めの段取りを打ち合わせる。小生が単行本の編集実務を請け負うことは今後当分ない(どこかの誰かさんが原稿仕上げない限りはねっ!)と思うので気合いが入って……は、いるのだが、なにせ、すでに3年越しの仕事ゆえ、どこでテンションを頂点に持っていくかが今後の課題であろう。
 大瀧さん、エヴァの呪いが解けたら大いに暴れるそうな。英米ホラー・ファン諸賢よ、一日も早いエヴァ論脱稿を、ルシファー様に祈ろうではないか!


1月20日
 夜、新宿歌舞伎町のロフトプラスワンで行われた津原泰水監修のアンソロジー〈12幻想〉シリーズ(エニックス)刊行前夜祭にゲスト出演。別に寄稿しているわけでもない小生が何で呼ばれたのかというと、3月に正式発表される「ENIXエンターテインメントホラー大賞」の選考委員を拝命しているから、なのだろう、たぶん(同賞の詳細は追ってまた)。
 午後9時過ぎに会場入りすると、すでに場内もスタッフ・ルームも満席でほとんど何がなにやら状態。辛うじて岩井志麻子さんを見つけだし、赤江瀑特集でお願いしたエッセイ原稿を拝領する。仕事方面およびネットでおなじみの顔、オフでは初対面の顔があっちにもこっちにも(具体的な参加者等の情報はフクさんのHPなどを参照)。木原さん@新耳、某しがらみを脱してホラー道に邁進の模様。
 小生は壇上に二度召喚されたが、一度目はなぜか竹河聖さん&クラニーとプレゼンターをやらされたりで結局、壇上でも訳が分からず状態(笑)。菊地秀行さん、竹河さん、北原尚彦さんと同席した二度目のときは、掲示板で公言した(!?)以上、一応そっち方面の話題も振っとこうかなと(律儀な性格の私)そこはかとなく水を向けるも、某無軌道少女小説家の捨て身の突っ込み芸の前に不発に終わったのは残念……でもないか。
 時間切れで尻切れトンボ気味に終わった点を補足しておけば、かりそめのホラー・ブームの最も有効な利用法は、一にも二にも「新たな才能の発掘」にあり、そのためにも批評サイドにあっては「ホラーとは何か」がこれまで以上に真剣に問われ、率直に論議されてしかるべきであろう……ってなことですか。
 散会後、喫茶店「上高地」で朝までしゃべって帰宅。


1月21日
 昼すぎ、人類文化社Nさんからの電話で起床。『日本の幽霊名画集』に寄稿した「そして、サダコが来た!?(仮題)」、なかなか面白い&そんなに違和感ない由で一安心。なにせ他の寄稿者が、監修の安村敏信氏や小松和彦氏をはじめアカデミズム本流の錚々たる方々ゆえ、浮きまくるのではないかと懸念していたのだ。
 別々の出版社の方から、学研ホラーノベルズの権利関係の件で前後して問い合わせがあり、ちょっとびっくり。
 加門七海インタビュー@ムーのテープ起こし&まとめをやってるうちに夜が明け染めて……当初の予想どおり(!?)完徹のまま「かごめかごめ」取材に突入することとなったのであった(その驚くべき顛末は……次回を待て!)。


1月22日
 今年一番かという極寒もものかは、通勤客の不審げな視線もものかは、電車内でも
パソコン全開状態のまま(インタビューのまとめが完了しなかったのよ)ヨロヨロと
JR柏駅にたどりつくと……携帯が鳴った。「ムーのOK谷です、おはようございま
す」「あ、ごめん、今ついたとこだから、もうちょい待ってて」「いえ、それがボ
ク、まだ松戸なんすよ。15分くらい遅れるって、M上さんによろしく〜」……実に
末恐ろし、いや頼もしい新人ではないか(笑)。
 編集者が二人も同行するのはVIP待遇とかでは全くなく、期待のニューフェイス
OK谷くんの実地研修的意味合いらしい。
 まずはタクシーで柏市郊外の布施弁天に。ここには筑波の名工・伊賀七(名前から
して怪しい)が設計した多宝塔形式の鐘楼があり、その側面に「籠の鶏」の彫刻があ
るのだ。境内に入ると、いきなり見事な雄鶏(生身)がコッコッコとお出迎え。
 いったん柏駅に戻り、東武野田線の清水公園駅へ。駅前に建てられた「かごめ唄」
の像を撮影し、隣の愛宕駅へ向かう。ここが野田の中心街らしい。醤油醸造で名高い
野田市は、さながらキッコーマン・タウンの趣きだが、幻想文学的には「伝奇と怪
異」の先達の一人で惜しくも急逝した宗谷真爾の故郷として知られる。(←これ伏
線)
 ヨーカ堂横のファミレス(メニューがみんな異様に安いのは何故?)で昼食後、近
くの愛宕神社へ。市街地の神社としては広壮な境内には、築山や祠が点在。本堂側面
に刻まれた見事な彫刻の一角、「籠の中の鶏」のレリーフを撮影……したいのだが、
外側の囲いに邪魔され、うまく撮れない。M上&O谷コンビが御近所を走り回って
(宮司さんのいない社なのよ)、首尾よく門の鍵をゲット! 噂の曰くつき彫刻を堪
能する。
 取材がすんなり進んで次のアポまで時間が余ったので、ここぞとばかり市立図書館
に立ち寄る。真新しく立派な施設だ。ここでなんと、宗谷真爾が「かごめ唄」を素材
に執筆した短編小説とエッセイを収めた私家版の小冊子を発見! OK谷くんにコ
ピーを任せて(ああ、なんて便利なんだ)M上氏、カメラマン氏と野田市広報課の北
野氏の御自宅へ向かう。氏は環太平洋学界会員で、「ムー」を創刊当時から愛読され
ている由。市の出版物に載せられた「かごめ唄」のリポートも、お役所仕事とは明確
に一線を画す充実した出来映えである。いろいろと参考になるお話をうかがう。帰り
は御母堂にマイカーで駅まで送っていただいた。ありがとうございました。
 てなことで、アッという間に夕刻。柏に戻って、打ち合わせ&打ち上げ。さすがに
疲れたなり。「かごめかごめ」の謎解きは「ムー」4月号を待て!


1月23日
 仕事の疲れは○○○で癒す! ……などと太平楽なことをいってると、祐天寺方面
からチェーンソウが吹っ飛んできそうなので(というのは真っ赤な嘘で、神無月マキ
ナ編集長は生き仏のように慈悲深いお方である。編集長仲間だからか!? ホラー物書
き兼業仲間だからか? いずれにせよ、ありがたいことである)「SCARED」の
新連載原稿の構想を練り始める。


1月24日
 朝も早よから早稲田に出向き、デザイナーの伊勢功治さんの仕事場を訪ねて、依頼
してあった『幻想文学』表紙の新デザイン案を受け取る。おお〜う、ナイスな出来!
 乞う御期待。
 午後3時半に飯田橋の角川本社前で「メンズウォーカー」編集部のSさん&カメラ
マン氏と待ち合わせ。コメント掲載時の顔写真撮影。写真だけ撮るのかと思ったら、
話してるところを……のリクエストで結局「怖い小説ベスト3」について喋るハメ
に。実はその時点で最後の一編を何にするか決めていなかったのだが、話の流れで自
然に決定(いいかげんである)。何を選んだかはまだヒ、ミ、ツ。
 そのまま角川の新館に移動し、中井拓志@『クォータームーン』インタビュー。ホ
ラー大賞予備選の席で、編集部のSさんに「中井氏にインタビューしたいんだけ
ど……上京の予定、ないっすか?」(氏は福岡在住ゆえ『幻想文学』の予算では交通
費の捻出不可なのよ、とほほほ)と聞いたら、「あ、それなら呼びます」と太っ腹な
答えが返ってきたのであった(感謝)。
 中井氏は寡黙を絵に描いたような青年。同じホラー大賞受賞者でも、あ〜んな電波
坊主や、こ〜んな女怪の人とはエラい違いである(笑)。意外にもネットはほとんど
やっていないし、今後も積極的に関わるつもりはないとか(賢明かも!?)。このイン
タビューの模様は『幻想文学』57号(2月末頃発売予定)の「新・一書一会」に
て。
 新宿へ移動し、新興小劇団「天」の代表&演出家の江藤いずみさんと「劇団てぃん
か〜べる」が誇る「おたキラー」女優(!?)迫水由季さん(今回は客演)を交えて、
「ムー」新企画の打ち合わせ(仕切りは我らが獅子堂だッ)。劇団とムーの取り合わ
せとはこれ如何に、だが、どういう企画かはまだナイショ。なんとムーの奢りで
(!)焼肉を御馳走になる(女優連れだと待遇が違う!?/嘘よ嘘)。
 事務所に戻ると、読売新聞文化部のIさんから定期コラム「めっけもの3冊」の件
でFAXが。なになに、今週締切ですぅ!? やべッ(約三ヶ月に一度のお勤めなの
で、ついつい失念してしまうのであった)。
「メンズウォーカー」用の正式コメントを書き上げ、FAX送信してから就寝。今日
も長〜い一日であった。


1月25日
 一日中出ずっぱりはさすがに疲れたので昼過ぎまで万年床でへろへろしていたら、
校了真っ最中の学研から、校正FAXが相次ぎ到着。いろいろ確認作業やら微調整や
らの必要が出てきて、結局夜まで対応に追われる……あああ、今日は「SCARE
D」の日だったのにぃ〜(泣)。
「SFマガジン」のS水さんから電話。なんと最新号の近況欄を見た野田昌宏氏よ
り、「かごめ唄」の件で連絡をいただいた由。以前、氏が率いる日本テレワークで
「かごめ唄」をネタに特別番組を制作されたことがあるそうで、必要なら資料も御提
供くださるとのこと。SF系人脈は一部に偏っている小生、これまで野田氏とは面識
がなかったのだが(にもかかわらずの御高配に深謝!)、ありがたく取材に参上させ
ていただくことにする。
 で、その「SFマガジン」最新号が、おやおや二冊届いてるよ……と思ってよくみ
れぱ、一冊は「ミステリマガジン」3月号。恒例の翻訳ミステリ年間ベスト3アン
ケートに、小生も寄稿していたのであった。例によって、ちっともミステリじゃない
ベストなんだけどね。
 K本@ダ・ヴィンチより「巫女」企画の件で、ちょっと嬉しい連絡が入る。いや、
これは小生以上に、ヒラノマドカさんやニムさんら、ネット系ファンタジストにとっ
ての朗報になるかも!?(何のことかは追ってまた)
 明け方、石堂藍@アトリエOCTAから中井拓志インタビューの草稿が到着してい
たことを卒然と思い出し(しかし昨日の今日だぞ、石堂! 少しは編集長を思いや
れ〜)、せっせと手を入れて送り返す。


1月26日
 昼前、「鳩よ!」のK編集長から電話。明日の岡本経一氏インタビューの段取りに
ついて打ち合わせる。
 読売新聞文化部Iさんより「めっけもの三冊」の督促。す、すいまへん〜。そうい
えばマーヴィン・ピークの噂の奇書の翻訳がもう出来たとか言ってたよなぁ……と、
国書刊行会のイソZ編集長に問い合わせると、打てば響くように「今からすぐに持参
いたします」(!)……無気味である。実はこれには深い社内事情が以下略(笑)。
ピークの『行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙』(国書刊行会/
1900円)は噂にたがわぬ奇天烈な一巻。手書き文字の部分が、訳者の横山茂雄さ
んの見慣れた筆跡なのに大笑い。
 またも風邪気味で喉が痛い。


1月27日
 風邪薬の副作用か、原稿書きのつもりが、明け方から昼近くまでついうかうかと寝
入ってしまう。ハッと飛び起きて、用意もそこそこに地下鉄駅へ。改札口でハタと気
がついた。「さ、財布忘れたよ……」自慢じゃないが忘れ物は少ない性分なので、こ
れは異例中の異例。やはりクスリでボーッとしとるんか。慌てて事務所に引き返し、
タクシーに飛び乗る。待ち合わせ場所が、本郷三丁目で幸いだった。
「鳩よ!」のK編集長と青蛙房に岡本経一氏を訪ねてインタビュー。岡本さんは、か
の岡本綺堂の養嗣子で、戦前から書籍編集に携わり、戦後みずから「青蛙房」を設
立、綺堂作品をはじめ、江戸関連書や芝居、大衆文学方面の諸著を、堅牢古雅な造本
で送り出してきた。頑固なまでに一貫した、そして品位ある出版姿勢と、地味ながら
息長い活動の軌跡は、独立系小出版社の鑑といっても過言ではない。小生なんぞに
とっては、遥かに仰ぎ見る大先達といってもよい方だ。齢90を越えてなお矍鑠、結
局、予定時間を大幅に超えて懐かしいお話の数々をうかがうことができた。しかも別
れ際に「これを参考にしてください」と、氏みずから編述された『綺堂年代記』(同
光社/昭和26)を託されたのには、驚くとともにはなはだ恐縮。こ、こんな貴重な
本を頂戴してしまってよいものか……。この模様は『鳩よ!』5月号の岡本綺堂特集
にて。
 そのあとKさんと、本郷3丁目駅前の「麦」で新企画の打ち合わせ。これから荻窪
へ向かうというKさんを送り出し、小生は読売新聞「めっけもの3冊」の原稿を書き
上げて、その場で送信。
 夜、新宿ゴールデン街で、西はりま天文台長の黒田武彦さんと一献かたむけつつ歓
談。仲介役は、ネット系ファンタジスト文学の暁星(!?)寮美千子さん。しかし天文
学者とホラー評論家に何の接点が!? 答えは当然、陰陽道! 西はりま天文台の所在
地は兵庫県佐用町。そう、昨年小生が、道満塚と晴明塚の探訪におもむいた、陰陽道
と関わり深い土地なのである。科学と文学、オカルトをめぐる有意義な意見交換がな
された……はずなのだが、後半は酔っぱらった某ノギガ姫の独壇場だったという説も
(笑)。
 ついでに、宣伝。先頃、その寮美千子さんのホームページ「HARMONIA」
開設されました(http://www.linkclub.or.jp/~chico/)。現在執筆中の長編幻想小
説「夢見る水の王国」の草稿を、連日オンラインで公開してゆくという非常に興味深
い試みを展開中。草稿といっても、すでにそこには作者ならではの「遥けさ」の感覚
と、きらびやかな幻想質が横溢、しかも断片ならではの謎めいた展開に目が離せな
い。他に、驚異博物誌作家としての資質をうかがわせる「ハルモニア博物誌」のコー
ナーなど。幻想文学ファンはぜひ御一見を!


1月28日
 打ち合わせやら何やらをこなしていたら、風邪がふたたび悪化の兆候を見せ始めた
ので、急遽、夜の予定をキャンセル(イソZ編集長&横山茂雄さん、お許しを)。フ
トンにくるまって「SCARED」(ああ、やっと……)の原稿を書こうと思いき
や……学研&読売新聞&メンズウォーカーから校正FAXが、どかどか到着(ああ、
マキナ編集長ぉぉぉ〜、これは何ものかの陰謀ではぁぁぁ〜)。
 深夜、タンビ氏から電話が。新宿ロフトプラスワンの新耳イベント、大いに盛り上
がっているらしい。クラニーやシマコさんや管理人氏もお見えですよ〜、と誘われる
も、事情を話して御容赦いただく。
1月29日
 いやはや夜昼無茶苦茶な生活だなぁ〜と仮眠をとって、気がつけば午後5時! 慌
てて池袋へ向かう。今日はホラー講座に、岩井志麻子さんをゲストでお招きしている
のだ。
 明日の下関行きのため、みどりの窓口にうっかり立ち寄ったら……大変な事態に。
やたらと要領の悪い窓口係にぶつかったせいで、たかが東京−下関間の乗り継ぎを調
べて切符を発券するだけのことに延々20分近く待たされる!(しかも、オマヌケな
ミスをやらかしてくれたことに翌日気がつくのだが……)
 シマコさんと待ち合わせた時間は過ぎてしまうしで、もう怒り心頭。通行人をはね
飛ばしながらコミカレに突入すると、あららら、すでにシマコさんは教室の中に。待
合所にいたシマコさんに気づいた生徒さんたちが、気を利かせて御案内してくれたの
だった(感謝)。
 シマコさんは今日もエンジン全開。岡山駅前にたむろするヤンキーたちのあいだで
「きょーてーシマコ」と怖れられた少女時代の武勇伝(←若干の潤色を含みます)に
始まり、ぼっけえ苦難を乗り越え、ついにホラー大賞の栄冠をつかむまでの疾風怒濤
の半生を縦横に語って、爽やかな感動を呼んだ模様(って、本当に作家志望の人たち
の参考になるお話であった)。
 西武の向かいの「藩」で二次会。ここでもシマコさん、次々と繰り出される生徒さ
んたちの質問に、ひとつひとつキチンとした答えを返していく。実に見上げたサービ
ス精神である。しゃべりっぱなしでロクに食事もできなかったようなので、散会後、
食事にお誘いする。シマコとディナーといえば、そりゃーもー「焼き肉」(笑)――
いまや文壇の常識である。


1月30日
 シマコさんをタクシーで送り届けて帰宅すると、すでに午前2時近く。一度寝てし
まうと定刻に起きられるか不安なので、そのまま旅行準備やらなにやらを進めること
に。
 6時56分初の新幹線で下関へ。新大阪で約30分の待ち合わせで「こだま」に乗
り換える……はずが、ふと向かいに停車中の「ひかり」を見れば……新下関、止まる
じゃんかよ、おいッ(笑)。池袋みどりの窓口のバカやろー! とムカつきながら飛
び乗る。
 新下関から下関まではほんの二区間ばかりなれど、接続がよくない。吹きっさらし
のホームで20分近く待たされ凍えてしまう。2時前に到着、ホテルのチェックイン
は3時からなので、それまで喫茶店で「予習」を。シャワーを浴びた後、会見場所に
指定された長府のマリンホテルへ。夕暮れの関門海峡を一望する素晴らしいロケー
ションである。
 待つことしばし、悠然と現れた赤江瀑氏は……大荷物を抱えていた(笑)。事前の
打ち合わせの際、図版資料を拝借したい旨お願いしたのだが、そのひとつとして、能
筆で知られる氏の「書」作品を所望した。「うーん、書はどれも大きなものばかり
で……」と躊躇されたのだが、ま、まさか、優に畳一畳分もあるような大作ばかりと
は! 恐縮至極。
 延々2時間余に及んだインタビューの模様は『幻想文学』57号をお楽しみに、と
しておくけれど、どんな質問にも丁寧に、そして真摯に応えていただき、感激。終了
後「夕食を御一緒しましょう」のお言葉に甘えて、馴染みの料理屋へお供する。その
あと、やはり行きつけのスナックで武部忠夫さんと合流。武部さんは地元で劇団「海
峡座」を長年主宰してこられた方で、独自の観点に立つ赤江瀑論の書き手でもある。
 お店の一角をお借りして、例の「書」作品を広げる。「あいにく手元にあるのは書
き損じばかりで」……と〜んでもない!「われは海の子 虚空の子」「桜」……まさ
に赤江世界を凝縮したような言葉が、奔放な筆勢で白紙に躍る。武部さんも感に堪え
た面持ちで「いいなぁ、これ。一枚、いけませんか?」気心の知れた間柄ゆえのおね
だりを快諾される赤江氏。しかも!「ヒガシさんも、こんな書き損じでよかったら、
どうぞ」ひょええええ〜、『幻想文学』やってて、よかったよ(涙)。
 午前零時を回ったあたりで、小生はリタイア。ホテルに戻ってメールを開くと……
「こんばんは、神無月です。明日、ヒガシさんと山Gさん(特に名を秘す)の原稿が
入り次第、印刷所に直行します。何時にいただけるか御連絡ください」あうあう、最
後通牒だな、こりゃ。いくらなんでも、あの山Gさんに遅れをとったら、これはもう
人間以下、深きものどもの親戚になってしまふ。今夜は寝ないで原稿書くぞー、とい
う意気込みも空しく、長途の疲れと風邪薬の誘惑に、マクラを濡らしたのであった。


1月31日
 ハッと目覚めれば、もう朝。チェックアウト時間までひたすら書き続け、ホテルを
追い出されてからも、近くの喫茶店とミスドをハシゴして何とか書き上げ、その場で
送信(下関まで来てナニやってんだか>俺)。
 ホッとして手近の読売新聞を開いたら、おっととと、もう載ってるじゃん、「めっ
けもの3冊」
(笑)。今回のメニューは、ピーク『行方不明のヘンテコな伯父さんか
らボクがもらった手紙』、カバット編『大江戸化物細見』、加門七海『死弦琴妖
變』――キイワードは「へんてこりん」だ。ふと見れば、すぐ上の記事は久世光彦&
建石修志コンビで、しかも今回のテーマは渡辺温「可哀想な姉」! とても日本で最
大手の新聞の紙面とは思えないゾ。
 とりあえずの懸案を片づけ、心も軽く身も軽く、赤江作品ゆかりのスポット撮影行
に出発! ホラーな人には「耳なし芳一」の伝説でおなじみの赤間神宮を皮切りに、
名作『海峡』に登場する魚市場(地下には黒い男たちが蠢いて……はいなかった
が)、レトロな建築物などを押さえたのち、路線バスに飛び乗り、いよいよ赤江瀑の
ハートランド・長府へ。
 ホタルの名所・壇具川沿いに、城下町らしい床しさを感じさせる町並みが連なる光
景に、まず感嘆。商店街を抜けて忌宮神社へ向かう。素敵なたたずまいの古社であ
る。ここで、大変なモノを劇的に発見して随喜の涙を流し、写真を撮りまくる。と
いっても赤江瀑特集とは無関係、「ムー」5月号でやる予定の「牛鬼紀行」に直結す
る、とんでもない代物と偶然遭遇してしまったのだが……ふっふっふ、真相は同号を
待て!(最近コレばっかり)
 壇具川河口から海沿いの集落へ。赤江氏が「春の寵児」で印象深く描いた、迷路の
ような路地のたたずまいに陶然となる。ただし全裸の男女が壁際でまぐわったりはし
てなかったけどね(>ニム様)。細い坂道を上がるとそこは豊功(とよこと)神社。
境内からは、沖合の満珠・干珠両島が指呼の間に望まれる。まさにこの地が、神功皇
后伝説の一大拠点であることを実感するのであった。(←これ、牛鬼紀行への前フリ
ねん)
 夕闇迫る長府の街に名残を惜しみつつ、下関へ戻って駅の窓口へ。「東京まで? 
それなら新下関じゃなくて小倉に出たほうがいいよ、直通ののぞみがある
よ」…………池袋のみ〜ど〜り〜の窓口めぇぇぇぇ〜(怒)。
 コジャレた真新しいビルが林立する九州小倉駅前の書店に立ち寄り、ひとしきり郷
土本を漁った後、新幹線に。さすがに疲労困憊して車中ほとんど眠りっぱなし。東京
駅からタクシーでサッと帰れる距離に事務所がある便利さをつくづく実感したので
あった。