牛込間借日記


8月19日
 幕張メッセの国際会議場で開催中のSF大会へ。陰陽師伝奇小説をめぐるパネルに出席。他の出席者は、作家の小沢章友、加門七海、霜島ケイ、映画監督の佐藤嗣麻子の各氏、それに司会が、某誌でレビュー隣組のO氏というにぎやかな顔ぶれ。盛会でした。
 このときの模様は、学研『伝奇M』2号で予定されている「陰陽師伝奇スペシャル」で一部掲載されるかも知れませんが、されないかも知れません(いいかげん)。
 パネル終了後、クラニーや関西ホラーな人たちのサイン会会場をひやかしに行く。その場に居合わせた綾辻行人、藤原ヨウコウ、津原泰水の各氏と久闊を叙す。
 ヨウコウさんは、伝奇M文庫の『伝奇の匣1/国枝史郎ベスト・セレクション』表紙画のオファーを、ふたつ返事でお引き受けくださったそうで感謝感謝。ちなみに同書には、国枝の処女作『レモンの花の咲く丘へ』が完全復刻される! ……と云えば、たぶん日本全国で10人くらいは色めき立ってくれることだろう(笑)。


8月20日
 夕刻より赤坂「ですぺら」に腰を据え、津原泰水&声優の栗田ひづるさんと、とあるイベント企画の打ち合わせを兼ねて静かにグラスを傾ける……はずが、なんだかんだと打ち合わせに追われる。
(その1)『別冊幻想文学/種村季弘スペシャル』の寄稿者一覧と企画趣意書を、今回責任編集をお願いした「ですぺら」店主の渡辺一考さんから受け取る。いやはや、マジで凄まじい顔ぶれです。乞う御期待!>金光様
(その2)角川書店編集部のHさんから、加門七海の新刊『おしろい蝶々』の書評依頼が。表題作は非常に思い入れのある作品なので、速攻で引き受ける。「それじゃ、ゲラ送っといてくださーい」と答えて電話を切ったら……(以下「その3」に続く)。
(その3)9月上旬発売の角川ホラー文庫版『文藝百物語』の担当者Mさんが、わざわざ確認用ゲラを「ですぺら」まで届けてくださったのだが、「Hからお渡ししてくれと頼まれまして」と、『おしろい蝶々』のゲラをついでに持参。麗しき連繋プレーであることよ(笑)。
(その4)四方山話の席上、津原氏がエニックス・エンターテインメントホラー大賞を受賞した片瀬二郎『スリル』を高く評価していることが判明。ならば……と早速、エニックスの担当者と電話で連絡をとり、津原VS片瀬対談開催を即決。


8月21日
『ダ・ヴィンチ』来月号の「岡野玲子『陰陽師』特集」に寄稿した「『陰陽師』が奏でる音楽――音楽神秘主義と魔術的芸術の系譜」のゲラ戻し。やや強引にノヴァーリスへつなげたあたりが、ちょっと自慢かも(笑)。
 学研M文庫で再刊される安原顕監修『ジャンル別映画ベスト1000』に寄稿した「SFファンタジー映画ベスト50」のゲラが返却期限を過ぎていたことを思い出し、慌ててチェックし投函する。ちょこっとだけ加筆。


8月22日
『ムー』の「伝奇入門」の原稿をそそくさと書き上げて送信。今回は「日本編」のイントロダクションのつもりでいたが、山田風太郎氏逝去の報を受けて、急遽、追悼的内容の一文となった。


8月23日
 夕刻より学研で打ち合わせ。「ヒガシさんにきっちり仕事してもらう秘策を考案しました」とK氏に脅かされていたのでドキドキしながら出向いたところ、たんに専任の担当編集者氏(男性)をつけるということだったので拍子抜け。いや、いいんですけどね。Oさん、よろしくお願いします。
 帰りに『ムー』編集部に寄って「九州怪猫紀行」のゲラをチェック。久々の15ページ2色刷特集である。同朋舎の『日本怪奇幻想紀行』で書いたものと一部重複するネタもあるのだが、鍋島猫騒動の「血染めの碁盤」遭遇のくだりや、怪猫ハンターと徐福渡来伝説の意外な関わり、そして怪猫王国九州のシンボルともいうべき阿蘇の根子岳=猫岳登攀記など、新ネタも満載なのだ。


8月24日
 角川『本の旅人』来月号に寄稿した高橋克彦『闇から招く声――ドールズ3』の拙評が、急遽、単行本の巻末に収録されることになったので(光栄なことです)、せっかくだからと、枚数の関係で端折った部分を加筆させていただく。


8月25日
 エニックスの会議室で、津原泰水&片瀬二郎対談を収録する。片瀬氏の大賞受賞作『スリル』を、津原氏が高く評価していることを知っての「ペニスVSスリル」尻取り対談と相成ったわけだが、津原氏の的確なリードで終始なごやかに展開。
 スティーヴン・キングの圧倒的影響下にホラー執筆を志した、と片瀬氏。やはりあの独特な文体のルーツは、キングでしたか。この模様は、bk1の9月特集「エニックス・エンターテインメントホラー大賞」特集に掲載の予定。


8月26日〜30日
 信州方面に取材旅行。主要目的は、伝奇M文庫の『シリーズ伝奇の匣1/国枝史郎ベスト・セレクション』解説執筆のために、長野県茅野市出身である国枝史郎ゆかりの地を探訪すること、あ〜んど、某誌や某誌や某社のための伝説&妖怪ネタの仕込みである。
 よって、もっぱら営業面の配慮から詳細やら収穫やらは、まだナイショ。すいません、追って然るべき媒体で書くつもりですので。ともあれ旅の途中でいくつかの、望外に嬉しい出会い、有意義な遭遇があった……とだけは記しておこう。
 さるにても最大の収穫は、国枝史郎探訪の過程で、はからずも諏訪信仰のスケールの大きさと奥の深さを実感することができたという点に尽きる。国枝が生まれ育った茅野は、上川(かつては「神川」と呼ばれたとか)流域に広がる美しい町だったが、同市一帯は、諏訪大社の筆頭神官を代々務め、謎の古代神ミシャグジ祭祀の中核を担った守矢一族の本拠地でもあったのだ。
 実際、シャーマニックな遺跡が点在する諏訪大社上社前宮や、藤森照信による洒落たデザインの守矢史料館(串刺し兎や耳裂け鹿のキュートな展示が目を愉しませる)から、国枝の生家や菩提寺までは、歩こうと思えば田園散策気分で歩けるくらいの位置関係で、これには一驚を喫した。
 ……などと深遠なる古代信仰に思いを馳せていたら、歌舞伎町の新女王(!?)岩井志麻子さんからメールが。『DIAS』今週号に、拙著『百物語の百怪』の書評を御寄稿くださったとのこと。早速、駅のキオスクで購入して一読、大笑い。いやはや、あのネタから、こう結びつけますか。
 そういえば、茅野で一泊した駅裏のビジネスホテルでは、窓を開けたら真正面に、手芸洋品店「クニエダ」が見えて、これまたビックリ(直系の親戚とかではない模様)。


8月31日
 取材から帰った翌日は、たいてい半死半生状態でひっくり返っているのだが、今回はそうもいかず(当初の予定日数をオーバーしちまったのだ)、午後から白泉社へ出向いて『皆川博子短篇セレクション(仮題)』の打ち合わせ。
 同書は、皆川博子の短篇作品(単行本未収録含む)の粋を、恐怖ミステリー(千街晶之編)、怪奇幻想小説(東雅夫編)、伝奇時代小説(日下三蔵編)という三つの分野別に精選収録する短篇選集である。3人の評論家がそれぞれの個性とセンスで担当の巻を責任編集する――というのも新機軸だろう。要するに「選集+アンソロジー」の面白さをもつ本を作れないか……と考えて企画してみたのだが、幸い版元&千街・日下両氏の理解を得て、トントン拍子に実現の運びとなった。
 第1弾となるミステリー篇のセレクションが早くも上がっていて、内心あわてる(笑)。ま、伝奇時代篇担当が日下三蔵先生なので、ちょっとは気が楽なんだけどさー。
 いつものことだが留守中に、あれこれ郵便物やら宅配便やらが溜まっていた。
 まずは小生編『文藝百物語』(角川ホラー文庫)の見本が早くも到着。各時限の実況中継部分を細かく手直ししたのと「文庫版あとがき」を書き下ろしております。さらに小池壮彦氏による解説も付いて、断然お買い得かと。ぶんか社版を買い逃していた方も、この機会に是非!
 ひとめ見て大爆笑したのが、牧野修『呪禁官』(祥伝社ノンノベル)。いや、作品そのものは至って明朗健全な(ホントよ、ホント)オカルト青春アクションで、別に笑いをとるようなシーンは、そんなにない。
 何がおかしかったのかというと、カバー見返しの推薦文の顔ぶれ。小生のほか、井上雅彦&笹川吉晴というあまり一緒にされたくない取り合わせなのだが……こ、これって、某キチク先生の某シリーズに登場するオカマ刑事の三馬鹿トリオ、まんまでは!?(苦笑)
 かくも阿呆らしい冗談を仕掛けたのは誰なのか、非常にキョーミがあるので、首謀者は名のり出るよーに。