[幻想文学企画室通信 99年4月]


4月11日
 誕生日である。夕刻、独りで銀座に映画『リング2』を観に行く。ポーラ文化研究所の「化粧文化」という専門誌に書く原稿のため、貞子のヘアスタイル(!?)をチェックしに行ったのだ。
 ……と、いきなり日記形式で始めてしまったが、このコーナーでは、幻想文学企画室および東雅夫個人の仕事にかかわるトピックスを随時掲載していきます。日付を入れたのは整理の都合上で、修羅場が到来すれば平気で一、二週間空白になることもありますので御承知おきください(生まれてこのかた、日記というものを付けたためしのない私)。空白の日というのは、朝から晩まで仕事に追われてひーひー言ってる……とお考えいただければ幸いかと(ホントよ、ホントなのよ)。
 なお〈幻想文学企画室〉は、東の個人事務所の名称で、会社組織ではありません(東のプロフィールは別掲参照)。扱い品目は、怪奇幻想文学全般(特にホラーは看板商品)の企画・編集・制作・執筆……等々。「おいしい企画は他社様で!」をモットーに(笑)24時間営業しておりますので、業界の皆様、お気軽に御相談ください。


4月12日
 根津の旅館で、第2回〈怪談之怪〉が開催される。これは京極夏彦氏と〈新耳袋〉の木原浩勝&中山市朗コンビ、それに小生が発起人となって、雑誌「ダ・ヴィンチ」誌上で始まった新企画。怖い話や不思議な話を「語り、聞き、愉しむ」ことを通じて、怪談の復権、ひいては怪談文化の興隆をめざす壮大なプロジェクトなのだ。今回のゲストは、春風亭小朝師匠と中島らもさん。ともに「語り」のプロフェッショナルだけに、やたらと濃いぃ三時間となった(「ダ・ヴィンチ」6月号に掲載予定)。
 会場には、お忍びで見学に来た新本格ミステリ作家Aさんや、ノンジャンル・ホラー作家(!?)Oさん、某集英社のC塚さんなどの顔も(お忍びなので一応名を秘す)。さらに京都テレビのクルーやフライデーさんなど取材陣も詰めかけて盛況だった。
 なお「怪談之怪」では、読者投稿を積極的に募っております。腕と怪異体験に(笑)覚えのある方は、ふるって御参加ください(「ダ・ヴィンチ」5月号144頁に募集要項あり)。


4月13日
 同朋舎編集部のMさん、来訪。好評のシリーズ『ワールド・ミステリー・ツアー13』京都篇に小生が執筆した原稿の図版打ち合わせのため(例の「木娘」探しのゴースト・ツアーを綴ったものですな)。今回は当初から写真掲載のリクエストがあったので、望遠つき一眼レフと愛用のコンパクトカメラ(フジフィルムのティアラ。これはなかなかの名器だと思う。掌にすっぽり収まるところが取材に最適なのだ)、それにデジカメまでフル装備で出かけて撮りまくってきた。最後に清滝トンネルで撮ったスナップは見るからに怪しげで、やはり大の怪談好きとお見受けするMさんも満足気。もしも掲載された節は、ぜひ御一見を。


4月14日
「幻想文学」第55号
の特集〈ミステリVS幻想文学〉(仮題)の目次立てが最終確定したのでお披露目しておきます。
 ●巻頭総論
 笠井 潔
 ●作家インタビュー
 山口雅也
 麻耶雄嵩
 ●評論(50音順です、念為)
 千街晶之
 服部 正
 福井健太
 藤田知浩
 森 英俊
 ●特別書き下ろし短編
 芦辺 拓
 ※このほか〈小特集=勝手に京極夏彦(仮題)〉やミステリ作家アンケート、倉阪鬼一郎、西崎憲、藤原義也による『幻想文学大事典』刊行記念座談会、そして注目の山尾悠子新作書き下ろし第2弾など盛り沢山!
 そろそろ原稿も集まり始め、いよいよ追い込み体制に。(と、さりげなくプレッシャーをかけておこう>福井様)


4月15日
 先ごろ五反田に移転した学研の一般教養編集部(と言いつつ、ムーとかエソテリカとか歴史群像とかが寄り集っている……どこが「一般教養」なんだか!?)に呼ばれて、とある件の会議に参加する。面白いことになりそうな予感大。わくわく。


4月16日
「化粧文化」の編集者T氏来訪。原稿受け渡しと挿入図版の相談のため。今回は『妖髪鬼談』海外編のノリで書きはじめたのだが、結果的に「貞子はなぜ怖い?」がメイン・モチーフになってしまった。
 用件が終わって雑談中、T氏が大学時代SF研に在籍し、山尾悠子やレーモン・ルーセルの愛読者だったことが判明。うーむ、どうしてこう濃い人ばかり……(笑)。


4月17日
 今日は池袋西武コミュニティ・カレッジで小生が続けているホラー入門講座(正式な名称は「恐怖と幻想の構造」だが、そんな御大層な話をしているわけではない)の日。
 今期は毎回テーマを決めて、フルタイム講演形式で進めることにしている。その第一回目となる今日のお題は「吸血鬼」(テキストに『屍鬼の血族』を指定するなどという阿漕なマネはしていないのだが、自発的に購入してきてくださった方が多くて、ありがたいことです)。久しぶりに二時間近く喋りまくって、ヘバる。終了後は、いつものように近くの居酒屋で二次会。有志をつのってヨーロッパ・ホラー・ツアーをやりたいね〜、などという話で盛り上がる。
 なお、講座は毎月第一・第三土曜日、午後六時半からやっております。途中受講も可能なはずなので、興味のある方はコミュニティ・カレッジ事務局(03-3988-9281)までお問い合わせください。


4月18日
 事務所の資料山積み状態改善のため、書棚を物色に行く。まだしばらくは収納スペースに余裕があると考えていたが甘かったみたい。本ってのは、部屋の片隅で秘かに自己増殖してるんじゃないかと疑いたくなりますな。しかし手頃な価格で実用本位の書棚って、意外にないんですよねー。


4月19日
 午後からぶんか社で、和田はつ子、倉阪鬼一郎両氏と三人で「サイコ座談会」。純正サイコ・ミステリー作家である和田さんと、純正サイコ(・ホラー作家)である倉阪さん(あっ! うっかり「作家」までカッコに入れちゃったい)の激突! ……を期待して仕掛けたのだが、終始なごやかな雰囲気。
 この模様は、6月頃刊行予定のムック『サイコが最高!』(もちろん仮題……だよねぇ?>Tくん@ぶんか社)に掲載されるとのことです。


4月20日
 宅配便に叩き起こされる。何かと思えば、児童書の版元である岩崎書店からの「箱」だった。???と思いつつ、開けてビックリ。昨年夏から刊行の始まった矢野浩三郎編訳〈恐怖と怪奇名作集〉全10巻1セットをドーンと御恵与いただいたのである(矢野先生、ありがとうございます!)。
 その内容にまたビックリ。矢野氏編による月刊ペン社版〈アンソロジー 恐怖と幻想〉や角川文庫版〈幻想と怪奇〉などをベースに、各巻三、四編を収録しているのだが、ダーレス「シデムシの歌」を表題作に、フレムリン「アパートの空き部屋」、ボーモント「もしも夢を見たら」、ロレンス「木馬に乗る少年」を収めた第1巻、ベン・ヘクト「死のなかばに」を表題作に(!)、ブラックウッド「ランニング・ウルフ」、フォースター「天の乗合馬車」を収める第9巻をはじめとして、無茶苦茶シブいセレクション。
 訳文も児童向けとはいえ、ヘンにアレンジしすぎることなく、原文に忠実にという配慮が見られる。クラシック・ホラー愛好家は要チェックだろう。特にお子さんのいる向きは、英才教育(笑)に是非!


4月21日
 午前中から少年社のNさん来訪。朝から夜遅くまで、働き者よのう(笑)。学研〈ブックス・エソテリカ〉の『幽霊の本』に執筆する原稿の打ち合わせである。
 今回は、なんと誌上で「独り百物語」をやらされることになっているのだ。それも歴代の幽霊話オンリーで……。根っから霊感と無縁でなければ、やってらんない稼業かもしれないなー、と思うことしきり。


4月22日
 学研一般教養部のオヤジ軍団(おまえだってオッサンだろうって? そのとおりです、スミマセン)、じゃなかった、錚々たる切れ者トリオの後にくっついて、某作家先生宅へ。とある一大プロジェクトの件でお願いにうかがったのだが、無理を押して御快諾をいただくことができて、思わず万歳三唱(笑)。
 いやぁ、良かった良かった。これで日本のホラーの未来も明るいゾ(たぶん……)。


4月23日
 本日発売の「フライデー」に〈怪談之怪〉の記事が出ると聞いていたので、近くのコンビニへ。お、出てる出てる、巻末の「ピープル」欄の片隅に、6人の怪しげな、いや恐ろしげな面相の男どもが密集して(笑)。
 ……次回はぜひとも女性ゲストをお招きしたいものである。
 原稿取り立ての苛酷さでは日本一とも噂される(嘘)国書刊行会編集長I氏より、「いいかげんに『書物の王国 妖怪』の巻の解説、仕上げんかーい!」と最後通告が。やむをえず、やりかけの仕事(どこの仕事かはトップ・シークレットとしておこう>Masuda様)を中断して専念していると、原稿取り立ての苛酷さでは世界一とも噂される(嘘、もちろん嘘だってば)「幻想文学」発行人K氏より「いいかげんに〈怪談之怪〉の裏リポート、まとめんかーい!」とハルマゲドン通告が。
 ううう、この世界、やっぱり声の大きいほうが勝つのね(泣)。


4月24日
 大森望さんが日記に「えらいぞ、IBM」という話を書いていたが、こちらは「ざけんなよ、IBM」という話。
 過日購入したTP235。一週間足らずで突然ハードディスクがぶち壊れ、修理工場送りとなったのだが、十日近くかかって戻ってきたら、翌日まったく同じ症状でダウン。怒り心頭に発しつつも再びドック入りさせたところ、今度は待てど暮らせど音沙汰ナシ。どうしたのかと思えば、ハードディスクの在庫がなくて取り寄せていました……ホントかよ!? そして、ようやく戻ってきたマシンは、4Gバイトだったハードディスクが、なんと、3・2Gバイトのものに「換装」されていた!(大笑)
 ……というわけで、いま小生の机上には、TP235変じてパナソニックのレッツノート・コムが鎮座しているのであった(まさか自分が銀パソ・ユーザーになろうとは……)。もともとIBM贔屓の小生としては、つくづくトホホな気分である。
 そんなこんなで久しぶりに秋葉原へ行ったら、ザウルスの最新鋭機種「アイクルーズ」が店頭に。液晶の美しさに思わず陶然となる。ただしデジカメ・ユニットの位置がちょっとねー、これではパワーザウルスみたいに、メモをとるふりをして、さりげに撮影……という裏技が使えないではないか。ナニを撮っているのかって? それは企業ヒ、ミ、ツ(笑)。


4月25日
「幻想文学」の原稿をそそくさと取りまとめ、国書の妖怪アンソロジー解説に集中。ふとテレビをつければ、K1リベンジの真っ最中。おおー、フィリオはやっぱり凄いヤツだったのか……などと画面を眺めているうちに、天啓が到来した(いや、そんな御大層なものではないですが)。
 どのようなアイディアが閃いたのかは、来月発売予定の『書物の王国18 妖怪』の解題を、ぜひ御参照ください。セレクションともども、けっこう自信作なのである。


4月26日
「化粧文化」の校正ゲラを戻したら、折り返し担当のTさんから電話が。当方が希望していた参考図版掲載の件、すべて承諾がとれた由。今回はヴィジュアル・イメージがポイントになる原稿内容だったとはいえ、こんなに万全な形で要望を叶えてもらえるなんて滅多にないことなので、とても喜ぶ。Tさんの熱意に感謝。
 ……というところへ、今度は『ワールド・ミステリー・ツアー 京都篇』のゲラが到着。こちらはすでに写真や脚註まで入った完全版(?)のゲラになっている。用意周到なMさんらしい手際の良さだ。小生が撮りまくった素人写真を、メいっぱい御活用いただいていて恐縮してしまった。
 それはそうと、御両人にひきかえ、編集者モードでの己れのズボラさを反省することしきりである。


4月27日
『幻想文学』次号の原稿取りが大詰めを迎え、アタマを編集者モードに切り替える。福井健太氏、服部正氏、森英俊氏と続々、力作原稿が到着。皆さん、きっちり締切を守ってくださって、ありがたや、ありがたや(ちなみに発行人を通じて寄稿依頼した芦辺拓氏や尾之上浩司氏の原稿は、さらに一足早く入稿していた由。これまたありがたいことです)。
 それはそうと、各氏にひきかえ、文筆家モードでの己れのズボラさを反省すること、しきりである。(ホントなのよ>Masuda様)


4月28日
 終日「幽霊百物語」のための資料繙読にいそしむ。連休前にアウトラインだけでも固めておくよーに、と念押しされていたのだ(泣)。
 読み進めるうち、日本の幽霊譚に占める「後妻打(うわなりうち)」パターンの異様な多さに改めて驚く。死んだ先妻の亡霊が、後妻に祟る……という類の話ですな。なにしろ「うわなり」という言葉には、「後妻」と同時に「怨霊」の語義まで付加されるに至ったのだから、大変なものである。


4月29日
 連休初日にもかかわらず、D社の編集者Sさん来訪。今年は「連休どころじゃない!」モードの社員編集さんが、ことのほか多い気がする。毎年、連休なんぞとは無縁の小生としては、お仲間が増えて嬉しい反面、同情を禁じ得ない。フリーと違って何かと拘束の多い社員編集の立場で、カレンダーどおりに休みもとれないってのは、ねえ?
 ちなみにD社からのオファーは初めて。まだ確定した企画ではないので全面オフにしておきますが、小生としては今いちばんやりたかった類の仕事なので、思わず興奮して長口舌をふるってしまった(笑)。


4月30日
 ムー編集部の最終兵器とも噂される魔人・獅子堂(仮名である)と取材旅行の打ち合わせ。散発的に連載している〈日本伝説紀行〉で四国に行くはずだったのが、何故か急遽、〈陰陽師〉関連の取材を先に行なうことに。陰陽師といっても、安倍晴明に関してはすでに何度となく取り上げられていることもあり、今回は晴明の宿敵・蘆屋道満(「ドーマン・セーマン」の道満ですな)にもスポットを当てようではないか、ということで相談がまとまった。
 ここで【告知】であります。
 え〜、蘆屋道満関連の史蹟や遺品(!)の所在を御存知の方は、ぜひ当企画室あて情報をお寄せください。よろしくお願いいたします!