[幻想文学企画室通信]


5月1日
 とある親切な方とそのお仲間から、「お誕生祝いに……」と、貴重な本を山盛り(笑)プレゼントされる。嬉しきこと限りなし。
 その中の一部を記すと――
David Pringle(ed.)『St.James Guide to Horror, Ghost & Gothic Writers』(あの『幻想文学大事典』とタメを張る、最新の欧米ホラー・レファレンスなのだが、うかうか買い洩らしていた)
佐藤有文『日本妖怪図鑑』(第一次妖怪ブーム華やかなりし72年初版の少年向け妖怪入門書。往年の少年漫画誌巻頭グラビアそのままの挿絵に味があり、構成もかなりマニアック)
平野威馬雄『お化けは生きている』(内容はさておき、横尾忠則の装幀がともかく素晴らしい。最近のCG中心のデザインでは、この味は出てないんだよな〜)
スクリーン臨増『恐怖! オカルト映画のすべて』(ホラー映画じゃないよ、オカルト映画だよん。「エクソシスト」ブームのさなかに刊行されたもの)
『CINEFANTASTIQUE』創刊号、テレンス・フィッシャー特集号ほか(マニアな方には説明不要ですね)
 いやあ……長生きはするもんだ(笑)。この場を借りて、御礼申し上げます。
『幻想文学』次号に掲載予定の山尾悠子さんの新作短編「夜の宮殿と輝くまひるの塔」が到着! 一読茫然となる。20年近いブランクをまったく感じさせない、この硬質にして艶やかな異空間の輝きよ……作者の短編中でもベストテン級の出来映えではあるまいか。うっふふふ、早く読みたいでしょ!?(笑)――編集者の特権を満喫する瞬間である。


5月2日
 夜半、本郷の旅館で開催されたSFセミナー合宿企画「真夏の前のホラーの部屋」にゲスト出演。他のメンツは、倉阪鬼一郎、中島晶也、笹川吉晴、大森望(司会)の各氏。考えてみると、現在日本のホラーを守備範囲にしている評論家は、これでほぼ全員のよーな(笑)……つくづく狭い世界であることよ。
 日本のホラーとSFの現状をめぐり、白熱の議論が交わされた……かどうか、保証のかぎりではないが、SFな方々がどういう部分に反応するのか、肌で感じられたのは収穫だったかも。スタッフの皆様、お世話になりました。
 しかしなぁ、開口一番、ああいう話題を振るかな〜フツー(苦笑)……邪悪なり大森望、おそるべしおそるべし。


5月3日
 夜が明けるまで旅館の大部屋で、倉阪氏や中島氏、夏来健次氏、巽昌章御夫妻、ホラー掲示板でおなじみのフク氏らと円座になって、ゆるゆる歓談。夜昼逆転している日常の就寝時間を過ぎたところで、一足先に失礼して帰宅する。
 熟睡後は、ひたすら幽霊百物語の仕事を続行。


5月4日
 夜半、明石町の須永朝彦さん宅で、久しぶりに〈倶楽部トランシルヴァニア〉の会合。
 ……などと書くといかにも妖しげに聞こえそうだが、美青年の生き血を嗜む秘密結社などではさらさらなく(笑)、作家の服部正さんや南條竹則さん、練達のフリーエディターにして書評家の吉村明彦さん、国書刊行会編集長I氏や元ペヨトル工房の敏腕編集者O氏らと他愛ないおしゃべりをしながら飲み食いする集まりなのである。連休直前に速攻で出た『書物の王国 妖怪』の解題ゲラを、I氏に渡す。
 昨年逝去された一代の碩学・郡司正勝先生の句集『茫々』(編集・須永朝彦/製作・国書刊行会)を須永さんから頂戴する。小ぶりながら贅沢な造本だ。御遺族が記念に作られた非売品の由。
  町の灯や生れぬ先の雪あかり
  深緑にまぎれて蝶の闇となる
  ぼうふらの湧く日や脳の疲れかな


5月5日
 明日から平日、締切も待ったナシなので、終日机に向かう。
 幽霊譚渉猟の合間に『ワールド・ミステリー・ツアー 京都篇』のゲラをチェック。とはいえ、こちらも幽霊オンパレードの原稿なので、相変わらず気分はゴーストリーなまま。そういえば「貞子はなぜ怖い!?」も毛髪=幽霊の因縁話だったし……ここ数年、夏前の時期はいつもこんな感じではあるのだが、ここまで徹底して「幽霊漬け」なのは初めてだな。
 気分転換に、前述のD社から打診されている企画の素案を一気呵成にまとめて送信。とはいえ、これまた「もろホラー」な企画なんだけどねー(笑)。


5月6日
 昨日、D社宛に企画書を送ったら、打てば響くように検討案のFAXが送信されてきた。連休明け早々だというのに、うーむ、す、素早いなり。
 こういう企画書ってのは、どうせ色々変更やらリクエストやらが入るのが常ゆえ、とりあえずこちらのやりたいことをズラズラと盛り込んで送ったのだが、あにはからんや、ほぼ希望どおりの内容で進めてもオッケーということで、嬉しい反面、かえって狼狽えたりして(笑)。
 すでに確定した企画なのでオフレコ解除しますと、版元は同文書院、『怖いホラーはこんなふうにして書く』(仮題/笑)という実践的啓蒙書であります。
 すでに〈純文学〉編や〈ミステリ〉編が出ていますが(それもビックリするくらい売れてるそうな)、それらが複数の筆者による作家案内集なのに対して、今回は小生単独の著作で……というオファー。啓蒙書の形で、自分なりのホラー観を提示しておきたい、というのは最近切に思うところでもあったので、まさにカモネギ、じゃなかった(笑)大変ありがたく、やりがいのある仕事をいただけたと感謝……し、しかしスケジュールがなぁ……ますます切迫した情況に(泣)。


5月7日
『ダ・ヴィンチ』6月号
が到着。春風亭小朝、中島らも両氏を迎えての第2回〈怪談之怪〉の模様が掲載されているのだ。
 名人・三遊亭円朝の怪談噺は「後からじわじわ効いてくる」という小朝師匠の深〜い指摘や、京極堂もタジタジとなった(!?)らも氏語る「逆三角形顔の金属お化け」目撃談は、必読でっせ〜。


5月8日
 フリーランス編集者のFさんが『ホラーを書く!』のゲラを持って来訪。一週間で著者校を終えるように、との厳命がくだる。
 おそるおそる(←同書に関しては色々と迷惑をかけっぱなしで、Fさんには全くアタマが上がらないのであった)同文書院の件を切り出すと、「あ、そうすっかー。いや、かえって相乗効果が出ていいんじゃないですか」との温かい御返事であった。ホッ。
 確かに見かけの体裁こそよく似ているものの、ビレッジセンター出版局の〈書く!〉シリーズと同文書院のそれとは、コンセプトが全く異なる本なので(前者は作家インタビュー中心、後者は作家・作品の読解中心)、相互補完効果が、メいっぱい期待できるハズなのだ(もちろん小生も、それを前提に企画書を書いたわけですが)。がんばらねば。
「そうですよー、ウチの本が店頭に並んでるあいだに出ると、いいんですけどね〜、ほーほほほ」
 ……高らかな哄笑とともにFさんは去っていった。


5月9日
 幽霊百物語の全100話リストアップを完了する。やれやれ。
 近世以前の説話集や怪談本、随筆書の類を渉猟していて難渋する大きな理由のひとつは、関係ない話まで、ついつい次から次へと読んでしまう点にある。
 しかし……この有無をいわせぬ「モノガタリ」の素朴だが圧倒的な呪縛力に匹敵するパワーをもった近現代作品が、どれほどあることやら……鏡花や綺堂が、それらの古典をこよなき霊感の源泉としていた気持ちが分かるような気がする。


5月10日
 朝からひっちゃきで学研様の仕事に打ち込む……ハズなのだが、月曜日ということもあって各方面から、打ち合わせやら問い合わせやら催促やら勧誘やらデートのお誘い(嘘)やら某石堂の咆吼(ホント)やらの電話が連続して閉口する。
 やむなく真っ昼間から(いつもは午前3時〜6時くらいの閑散とした時間帯に仕事しに行くのだ。この店は数あるジョナサンの中でも画期的に居心地が良い造りなのである)行きつけのジョナサン両国店に避難して仕事を続ける。


5月11日(火)
 少年社のNさんと電話で何度も打ち合わせして、幽霊百物語の仮台割が確定。
 あとはひたすら書くだけ、なんだけどね〜。


5月12日(水)
 幽霊百物語の間隙を縫って『幻想文学』55号の編集後記その他を送信。
 えんえん55回も書いていて言うのもナンだが、小生、編集後記というやつが苦手である。特集の方針とか理念(!?)について熱弁をふるうのは巻頭言みたいな場所でやるべきだろうし、だからといって身辺雑記的なとりとめない記述でお茶を濁すのもなんだかな〜と思ってしまうのだ。で、結果的には、ヌエ的なものになり果てているという……そういえば小学校の頃から、読書感想文なら「ビアス『犬の油』を読んで」とか「ブラックウッドのスーパーナチュラリズム」とか(厭な小学生である)大いに教師を煙に巻いたものだが、学校行事のリポートみたいな課題では、さっぱり低調だった記憶が(笑)。


5月13日(木)
 ノートパソコンの日本語入力の調子がイマイチ。どうもWZエディタとATOKの相性が良くない模様。先代のノートでは問題なかったのに……原因を追求しているヒマがないので、安直な手段に訴える。最新のATOK12を買ってきて、入れてみたのだ(今まで使っていたのはATOK10)。とりあえず具合は良くなった……ようだな。


5月14日(金)
 幽霊百物語の間隙を縫って『SFマガジン』のホラー時評原稿を書き上げる。今回取り上げたのは『クリムゾンの迷宮』『バトル・ロワイヤル』、そして……『秘神』だ(笑)。


5月15日(土)
 池袋西武コミカレのホラー講座の日。本日のお題は〈人狼〉である。例によって「東西人狼小説年表」を作成しながら、何を話そうか考える。そういえば……と、生まれて初めて書いた文庫解説が、田中光二さんの『闇の牙』という人狼伝奇SFだったことを思い出し、そそくさと参照する。
 ちなみに今日は当ホームページの管理人であらせられる櫻井清彦氏の「授業参観日」(笑)なのである。パワープック&デジカメ持参で颯爽と現れた櫻井氏、教室でHPを出張公開、生徒さんの注目を一身に集めていた模様。講義のあとは居酒屋で二次会。いやはや、お疲れさまでした。