[幻想文学企画室通信]


6月3日(木)
 昼過ぎまで熟睡後、たらたらと取材資料の整理やら、溜まっていたメール類の返信やらで一日が終わってしまう。
6月4日(金)
 別冊宝島のIさんに同行して、お茶の水・山の上ホテルへ。小生の監修/編集協力による『別冊宝島 20世紀ホラー読本(仮題)』の寄稿打ち合わせである。今週から来週にかけては、同企画の寄稿依頼の山場なのだ。
 ハリウッドとパルプ・マガジンの世界に始まり、キング&クーンツのモダンホラーへと至るホラー・エンターテインメントの歴史を、時代との関わりの中でキイワード別に「解読」しようという野心的な一巻、になる予定。
 Iさんとは『死体の本』や『怖い話の本』で御一緒させていただいたのだが、今どきの雑誌編集者には珍しく(!?)、著者にとことん付き合って仕事を進めていくタイプ。小生が最も信頼している編集者のひとりである。「今回は大いに勉強させてもらいます」などとリップサービスも怠りないが(笑)、むしろ小生のほうが、学ぶべきことが多かったりして。
6月5日(土)
 池袋西武のホラー講座の日。今日のお題は〈幽霊〉。とてもじゃないが2時間弱で語り尽くせるテーマではないが、今回は東西の文学史・美術史における幽霊表現の差違などを中心に概説してみた。
 このネタって、いかにも新書向きなのだが……新書創刊ラッシュの昨今、関心をもってくれる奇特な版元さんはないものか!?
6月6日(日)〜7日(月)
 別冊宝島関係の依頼やら何やらで、わらわらと過ぎる。
6月8日(火)
 別冊宝島のIさんに同行して津田沼で打ち合わせ。
 帰途、打ち合わせを兼ねて錦糸町でメシを食うことに。洋食屋に入り、目の前に美味そうなポークソテーが運ばれてきた瞬間、携帯が鳴った。
 読売新聞文化部のI記者より、土曜夕刊読書欄の特集記事に関してアンソロジストの立場からコメントを求められる。なんたってアンソロジーの事とくれば黙っていられない小生、ついつい問われるままに熱弁をふるい(店外の道ばたで)、戻ってみれば……ポークソテーは冷めはてていたのであった(笑)。しくしくしく。
6月9日(水)
 学研にて某極秘プロジェクトの第2回会議。首脳陣のこの大プロジェクトにかける意気込みがヒシヒシと伝わってきた、ということにしておこう。ねっ?>Masuda様
6月10日(木)
 別冊宝島のI氏に同行し、国立駅前で作家&妖怪ルポライター(?)の林巧さんと打ち合わせ。林さんが怪異を語る姿勢には、かねてから大いに共感を覚えていたのだが、文章から受けるイメージどおりの方だった。
6月11日(金)
 同文書院のSさんに『怖いホラーはこう書く』(仮題)の冒頭部分を送信。文体や狙い目を現物に即して相談するためのサンプルのつもりで送ったのだが……。
「ああ、この調子でお願いしまーす。来週、次章分をいただけますよねっ!」
 うーむ、この手があったか。同文書院、おそるべーし(笑)。
6月12日(土)
 学研のプロジェクトの件で、某先生に御意向打診のFAXをお送りしたところ、思いがけず快諾の御返事をいただき……興奮する(笑)。いや〜、えらいこっちゃ。これは本当にエキサイティングなプロジェクトになるぞ!
 読売新聞夕刊に「アンソロジーが面白い」と銘打つ特集記事が。小生のコメントに関しても、キチンと趣旨を汲み取ってまとめていただいており、満足満足。ただ、『屍鬼の血族』や『怪獣文学大全』が「変わり種」というのは……(苦笑)。今後は「変格アンソロジスト」を名のろうかしらん。
6月14日(月)
 別冊宝島のIさんと一緒に宝島社で、映画評論家の神無月マキナさん、ライター&エディターの矢吹武さんのPLUGHEADSコンビと打ち合わせ。ホラー映画を語らせたら、いま最も「旬」なひとりである神無月さんは、発言の端々にホラーへの愛とこだわりが滲み出る感じ(笑)。以前ペヨトル工房にいたこともあるという矢吹さん共々、共通の知人が多いので話が弾む。
6月15日(火)
 本当は昨日までに書くはずだったSFマガジンの原稿が玉突き的に遅れてしまったので、横目で時計をニラみながらの執筆。今回のメニューは、『さむけ』『時間怪談』のアンソロジー2冊と『虚ろな穴』『ジャッカー』の長編2冊(牧野修『編集の彷徨』はSF欄にさらわれた……え、タイトルが違うってか!?)。まあ色々と問題もあるけれど、総じて「ホラー・ニューウェイヴ」到来の予感を抱かせるラインナップだった。いつもこの調子だと、日本のホラーの未来も明るいんだけどねー。
 なんとかタイムリミットまでに送信して、脱兎のごとく待ち合わせに飛び出す。国書刊行会のI編集長と、調布の水木プロを訪ねて水木しげる翁に面談するのだ。
 現在国書で企画進行中の妖怪絵巻本に推薦文をいただくのが主目的で、同企画とは関係ない小生は純然たる野次馬。「今度の『妖怪』アンソロジーを水木先生がお気に召されたらしいので是非同行するよーに」というI氏の甘言に乗せられて(笑)ノコノコついていったのだが、特にその話題は出なかった。しかし、少年時代から熱烈愛読してきた(怪奇幻想嗜好の刷り込みにおける影響度という点では、たぶんナンバーワンだろうな)妖怪漫画の第一人者の謦咳に接することができただけでも大満足である。おまけに、「あげますっ」という単刀直入にして独特な水木的お言葉とともに、御新著『幸福になるメキシコ』(祥伝社)まで頂戴してしまった。ありがとうございました!
 新宿へ戻り、I編集長行きつけの飲み屋で(バイトの美人女子大生たちを相手にブイブイ言わせている模様!?)、懸案となっている某企画や某々企画に関しての打ち合わせ。なんと! 編集長サマの奢りであった(タダほど怖いものはないともいうが……)。
6月16日(水)
 昨夜は久しぶりにビール以外の酒を本格的に呑んだせいか、起床後もちょい頭が重い。
 ほぼ終日、事務所に腰を据えて原稿執筆のための資料を読んで過ごす。
6月17日(木)
 光文社文庫編集部のOさんより、菊地秀行『淫邪鬼』文庫版解説の原稿催促。けっこう切羽詰まっている感触ゆえ、ちゃきちゃきいこう! と思うのだが、ポイントをどこに置くかでちょっと迷っている点があり、うだうだと時間ばかりが経過。えーい、こうなったら……と思い切って、雑用も放り出して寝てしまう(笑)。原稿に詰まったときの奥の手である。
6月18日(金)
 昼近くに卒然と目覚め、飲まず喰わずで一気呵成に『淫邪鬼』解説を書き上げる。結果的に「人面疽文学論」になった模様(笑)。
 FAXで原稿を送信してホッと一息、さあてメシでも喰いに出るかー、と思った直後、「ダ・ヴィンチ」編集部のKさんから電話が。「お世話さまでーす。怪談之怪の読者投稿選評、まだですかー?」
 ……空き腹を抱え、涙に暮れながらふたたび机に向かう。
 同朋舎の『ワールド・ミステリー・ツアー13 京都篇』の見本が到着。小生は「妖しき京の幽明界を彷徨する」を寄稿しております。「話が出来過ぎちゃうか〜」と突っ込まれそうな内容なのだが、いえいえ、九割方は正真正銘のノンフィクションなのよ。
6月19日(土)
 池袋西武のホラー講座の日。今回のお題は〈妖怪〉だ。え!? 当面の仕事がらみのネタばかりじゃないかって? すいません図星です(笑)。ただ、講義の形でまとめてみると、その都度、予想外な発見があるのも事実。今回も「戦中戦後の動乱期の怪奇幻想文学を支えたのは妖怪物であった」という新発見があった(ホントか?)。
 講義のあとの二次会に、受講生Oさんの知り合いの青年二人が飛び込み参加。かたや某書店チェーン勤務、かたや俳優さんとのこと。どちらもベースはSFのようだが、ホラーや幻想文学にも関心があるそうで、いきなり「ホラーウェイヴはどこかで継続刊行されるのか?」「〈異形コレクション〉監修者とのバトル(おいおい……)の行方は?」など、核心を突く(でもないか)質問を受ける。
6月20日(日)
 久々に横須賀の実家へ帰る。『幻想文学』最新号を、地元最大の老舗書店である「平坂書房モアーズ店」に納品するのがメインの用事。
 小生、大学二年の時から卒業まで、この本屋さんでアルバイトをしていたのだ。通常は日曜祭日のみのバイトだが、夏冬の休暇中などは連日フルタイムで勤務していたこともある。本が社割で買えるのも嬉しかったが、ついうかうかと買いすぎて、給料から足が出たこともしばしば(笑)。
 しかし考えてみると、出版業界と最初に直接関わったのがこの時であり、その際に得たナマの見聞や経験は、後の仕事にも確実にプラスになったように思う(販売要員ではなく、棚責任者の補佐的な仕事を任された、というのもラッキーだったのだが)。
 実家の書庫にこもって、H社の某企画のための資料その他を漁り、そそくさと終電間際の横須賀線で東京に戻る。
6月21日(月)
 同文書院『怖いホラーは〜』執筆のために、恩田陸作品をまとめて読み直す。特に『六番目の小夜子』は、初出の文庫版とハードカバー版の異同を綿密にチェック。すると、驚くべき事実が判明……(嘘)。
 散髪と古本屋回りのため、久々に自由が丘へ。行きつけのヘアサロンが新しく店舗を出店、それが文生堂の目と鼻の先だったのに大笑い。こりゃー便利だ。シンプル&メタリックな内装はフランスの本部から直輸入したものだとかで、「人が主役の空間」がテーマなんだそうだが、小生は速攻で「銀パソ」を連想してしまふ(笑)。
 溝口@書物の帝国さんの掲示板でも話題が出ていたが、『幻想文学』創刊号3000円@文生堂3号店ってのは、お買い得かも(とか言ってねーでとっとと復刻しろよ? いや、それはそれで色々ムズカシイのですよ……)。平井呈一「真夜中の檻」が掲載された『推理界』の怪奇・恐怖小説特集号を発見、ええッ! これって雑誌が初出だったのかっ! と一瞬色めき立つものの、冷静に考えたら単行本のほうがずっと刊年が古いのだった。それでも紀田順一郎先生の解説が付いてるし……と観念して買ってしまう。
 ってな具合に、調子にのってアレコレ買い込んでいたら、重くて歩行もままならなくなったので、近くのコンビニに飛び込んで宅配便で自宅へ発送する。
6月22日(火)
 事務所へ戻ると、怪談之怪投稿選評と『淫邪鬼』解説のゲラでFAX周辺が波打っているではないか! おまけにどちらも「即戻し」の指定。大わらわで片づける。
 夜、事務所で別冊宝島のIさんと打ち合わせをするはずが、予定変更の電話が入ったので、これ幸いと急遽、熟睡。生まれついてこのかた、およそ不眠症とは縁のない私(笑)。
6月23日(水)
『ホラーを書く!』(ビレッジセンター出版局・本体1600円)の見本が到着。予想どおりというか予想以上というべきか、色々と手こずった本だけに感慨もひとしおである。
 瀬名秀明、飯田譲治に始まり、皆川博子、森真沙子、菊地秀行、朝松健、井上雅彦、小野不由美、篠田節子、小池真理子という日本ホラー・シーンの最前線で活躍する10人の作家が、自身のホラー観や創作の秘密を寛いで語ったインタビュー集。面白さには自信があるので、是非、書店でお手に取って、どのページでもいいから立ち読みしてみてください(あ、でも真ん中へんは避けたほうが無難かも!?)。きっとアナタはレジに足を向けたくなることでしょう……なんちゃって(笑)。
 冗談はさておき、多大な心労と肉体的負担(?)に加えて、土壇場ではタダ働きも覚悟した(!)担当編集フカサワの執念に報いるためにも、何としても売れてほしい! と切望している次第。
 極私的には、倉阪鬼一郎、小林泰三、田中啓文、津原泰水、牧野修……(どーでもいいけど野郎ばっかじゃねーか)といった面々をフィーチャーしたパート2『ホラーを書く! 新世紀激闘篇』をいずれ実現したいと思っているのだが……ビレッジセンターさん、いかがでしょ?(ま、すべては本書の売れ行き次第っすね)。
6月25日(金)
 夜、新宿歌舞伎町の個室ルノアール(いや別に怪しげな店じゃないのよ)で『別冊宝島』のための越智道雄VS風間賢二対談に同席する。テーマは〈郊外〉。そう、アメリカン・モダンホラーの核心をなす大テーマだ。明大教授で米国生活も長い越智先生の豊富な知見・鋭い現状認識と、キング・オブ・モダンホラー評論(!?)風間氏の文学&映画をめぐる蘊蓄が火花を散らし……アッという間に閉店時間を迎える。
 帰路、風間氏から『週刊朝日百科 世界の文学』の担当者が人事異動で交替したことを教えられる。「おっ、それってもしかして締切が延びるってことか?」などと儚い期待に色めき立つ二人(笑)。
 ちなみに風間氏責任編集による第49号は「存在の大いなる不安」(仮)と銘打たれたモダンホラー特集というべき画期的一巻。こういうシリーズでホラーが一冊を占めるのは前代未聞だろう。隔世の観しきり。小生は巻末の「文学小事典」をお手伝いするのだが、〈クトゥルー神話〉〈ダーク・ファンタジー〉〈ウィアード・テイルズ〉なんて項目もあるのだ!
6月26日(土)〜7月2日(金)
『別冊宝島』の締切/原稿催促週間である。その間に各種打ち合わせやら締切やらが到来していたはずなのだが……その後の修羅場を経て記憶が朦朧(笑)、よって謹んで省略させていただきます(原稿取り立てに関して色々思い出したくない出来事があったから……な〜んてことはありません。いや、ちょっとはあったか/苦笑)。
 なお、『本当に恐ろしいサイコ・ホラー読本』(ぶんか社・本体950円)が出ました。小生は倉阪鬼一郎、和田はつ子両氏とのサイコ・ホラー座談会に出席しております。『このホラー〜』に比べると、目を覆うような誤植は減ったものの、相変わらず大味なつくりなのは残念なり。