[幻想文学企画室通信]


7月3日(土)
 今日から恐怖の(!?)宴会週間。とはいえ『別冊宝島』その他も切迫の度を増して、本当は飲み歩いてなんぞいられないのだが……。
 夕刻、ミステリ評論家&翻訳家の森英俊さんが大労作『世界ミステリ作家事典・本格派篇』で日本推理作家協会賞を受賞されたお祝いの会に出席。小学校時代の恩師という御婦人が朗々と詩吟を披露されるなど、通常の文学系パーティとはひと味違ったアットホームな雰囲気で、気持ちの良い集いだった。
 幻想的掲示板の常連陣らと談笑後、一次会のみで失礼して、銀座に回る。マリオンで『スター・ウォーズ/エピソード1』の先行ロードショーを観るのだ。仕事である。講談社のインターネット・マガジン『WEB現代』のSW特集に「神話・伝奇ロマンとしてのSW」という角度からのコメントを求められたのだが、「新作、まだ観てないので書けない」と逃げを打つと、編集部のYさん、「それなら今度の土曜日、ボクが順番待ちで並びますから!」。そこまで言われては、と、恐縮しつつお引き受けする。
 で、感想は、って? いや、実に豪勢なエンターテインメントではあります。しかしアミダラ姫(アホダラに非ず)の絢爛たるジャパネスク・ファッションといいジェダイたちの殺陣といい、相変わらず「クロサワ」してますなぁ、ルーカスは。
7月4日(日)
『スター・ウォーズ』のコメントをそそくさと書き上げて送信。
7月5日(月)
 ブックス・エソテリカ25『幽霊の本』(学研・本体1200円)が到着。表紙は前巻『妖怪の本』と同じく北斎の連作〈百物語〉から「皿屋敷」をチョイス。うっかりすると同じ本かと思うくらい、完全なる姉妹篇の趣きであります。例によって基本重視のキッチリした誌面構成に、編集長Masuda氏の職人的こだわりが滲む(笑)。特に、巻頭の小池壮彦「日本の五大幽霊」は出色の好企画。しかし肩書きにある「日本怪談史学会」って、何じゃこりゃ?
 小生は巻末の「怪談百物語」(だ〜か〜ら〜「百物語」=「怪談」なんだってばぁぁぁ〜)を担当しております、って話は、この通信でも耳タコですな。いや、長い道のりでした。貴重な体験をさせていただきました。
 夕刻から、第6回日本ホラー小説大賞の授賞式に出席。大賞の岩井志麻子さん、佳作入選の牧野修さん、瀬川ことびさん、お三方ともすでにプロとしての実績豊富なだけに、いつもとは違った雰囲気が漂う。受賞の弁も三者三様、並々ならぬ作家魂の片鱗を覗かせた岩井氏、「これから新人として……」と見事にハズしてくれたホラー坊主氏(笑)、いやぁ皆さん、イイ味出してます。
 二次会の会場に移動し、小林泰三+田中啓文&哲弥の大阪トリオ各氏や鬼氏、大森望氏らと、あの話題やこの話題をめぐり談笑しつつ主賓の来場を待つが……いつまで経っても現れない。何でも角川さんとゆかりの深い某作家先生の肝いりで開かれた顔合わせの会が異例に長びいたのだとか。すでにあちこちで顰蹙かいまくりの選評といい、それもこれも『バトル・ロアイヤル』効果か!?
 閉店間際になって、ようやく主賓到着。慌ただしいスピーチの後、降り出した雨の中を歌舞伎町に移動、ロフト・プラスワンで菊地秀行さんをはじめとする先発組と合流、自然発生的貸切状態の中、時ならぬ「ジャンル・ホラー大宴会」が挙行される(スポンサーは、なぜか角川ではなくエニックス&アスペクトだった。御馳走さまでした)。結局、朝帰り。ホラー・シーンの上昇機運を実感した一夜であった。
7月7日(水)
 夕刻より、山岸凉子さんを迎えて第3回〈怪談之怪〉が開かれる。今回の会場は、四谷の某ホテル内の日本料理屋。あのサン・ミュージックと目と鼻の先という恰好の(!?)ロケーションで、前もって某氏より「あそこ、出ますよ」と脅かされていたのだが……。
 前回までと違って、夜間、円座になって語り合うというスタイルに変更したのだが、結果は……大成功! いやぁ、これほど異様なまでに盛り上がるとは、予想外の嬉しい驚きだった。詳しくは「ダ・ヴィンチ」9月号を是非ご覧ください(実は担当編集のKさんが原稿まとめ中に怪異が頻発、とか。しかも……当日のハイテンションぶりを裏づける挿話がゾクゾクと)。
 終了後、京極夏彦さんから、例の講談社ノベルス特製妖怪扇子を頂戴する。氏の達筆は幽明、いや有名だが、その画才も端倪すべからざるものであることを再認識。一芸に秀でた者は二芸、三芸にも秀でる、ということか(笑)。
7月8日(木)
 夕刻より高田馬場で、第2回〈恐怖の会〉が開かれる(しかし「怪談之怪」の翌日に「恐怖の会」とは……俺って、俺ってぇぇぇ)。
 直前に打ち合わせがあったので、30分ほど遅れていくと、エレベータ前で柳下毅一郎さんとバッタリ。「別宝の原稿は〜」と切り出すと、「あ、今日お送りしました」との御返事。一瞬、後光が射して見える。貸し切りの個室へ入ると、早くも宴は絶好調。話題の中心は当然……(笑)。「編集稼業の女」さんほか、初対面の方ともすぐに会話が弾むのは当然……(大笑)。
 ちなみに宴会の前に入稿を済ませてくる柳下氏とは対照的だったのが、某大森望氏。あまつさえ「で、ヒガシさんはもう書いたの?」と逆襲してくるとは! むむむ、監修者特権というものを知らんのか(嘘)。
(大森氏からは翌日入稿いただきました、超多忙のおり感謝です。なお小生は氏には24時間ほど遅れをとりましたが、ブービー賞ではありません。小生の後塵を拝する猛者が若干3名ほど、リテイクで手こずる方がやはり数名……かくして担当編集氏は地獄を見た……のは後日の話)
 カラオケ屋で二次会後、散会。
7月9日(金)
 五反田のムー編集部で獅子堂と「陰陽師伝説紀行」の最終打ち合わせ。
 某寺院から所蔵品の掲載許可が下りず、対応策に追われる。公共機関やアカデミズムには低姿勢、それ以外には高圧的、という一部の寺院の姿勢、なんとかならないものか……。
7月10日(土)〜11日(日)
 週末の間隙を突いて、一気に『別冊宝島』の原稿を書き上げる。小生の担当分は〈アンダーグラウンド〉。ポオ−ラヴクラフト−キングと続くアメリカン・ホラーのメイン・ストリームに顕著な「地底恐怖」をめぐって大風呂敷、じゃなかった、ポップ&アクチュアルな持論を展開しております。監修者という立場上、恥ずかしいものは出せないし……とプレッシャーかかりまくりだったが、別宝名物(?)鬼の担当氏より一発オーケーをいただき、ホッと胸をなでおろす。
7月12日(月)
 午後、お茶の水山の上ホテルで、学研一般教養部首脳陣と某作家先生との顔合わせに同席。色々と参考になるお話を拝聴する。
 場所を移して打ち合わせ中に、獅子堂@ムー編集部より原稿催促の電話が。強力な後ろ盾が同席しているのをいいことに(笑)、堂々と一日の締切延長を承諾させる(許せ、獅子堂)。
7月13日(火)
 ムー9月号の「蘆屋道満伝説紀行」を書き上げて送信。今回は岡山〜兵庫の分で、八百比丘尼伝説との関わりを中心とする後半は11月号に掲載の予定。
 息つく間もなく、やはり切迫している「SFマガジン」のホラー時評にとりかかる、が、読み残していた新刊を消化する途中で、某社の企画打ち合わせがあったのを思い出して、急遽外出。
 打ち合わせの内容は時期尚早につき一切伏せるが、これはちょっと大変なことになりそうな手応えを得る。いや、マジでここ5年ほどのホラー業界地図が一変する可能性も……ふっふっふ、と不気味な笑みを浮かべつつ、豪雨の中をタクシーで帰宅。
7月14日(水)
 前夜の興奮さめやらぬまま、ホラー時評の原稿を執筆。
 結局(不本意ながら!?)津原泰水という女性の趣味に一部問題のある(「こだまのあとだま」ほかでの発言を参照)作家の処女短編集『蘆屋家の崩壊』をメインで取り上げることに。
7月15日(木)
 角川書店文庫編集部のM氏より『完訳 グリム童話3』の文庫解説のオファーをいただく。なぜ小生がグリム童話……と一瞬不審に思うものの、2巻目の解説者が風間賢二氏と聞いて納得。要するに「あの」ノリなのね。好き勝手に書いてよい、という言質をいただき、ありがたくお引き受けする。
 ちなみに「あの」グリム本に関しては、作家の松本侑子氏が自著からの盗用箇所をHP( http://member.nifty.ne.jp/office-matsumoto/ )上での公開に踏み切り、話題騒然ですな。小生も参考のために(笑)覗いてみたが……いやあ、こりゃもう歴然、でしょう。
7月16日(金)
 角川書店「本の旅人」編集部のTさんより、京極夏彦氏の近刊短編集『巷説百物語』の書評依頼をいただく。連日の御注文(笑)ありがたいことである。もう飯田橋方面に足を向けては寝られませんが、ホラー大賞関連では言いたいことを言わせていただく予定。
 Tさんとは面識がない(はず)のだが、「いま京極夏彦論を書いてらっしゃるとうかがいまして……」とのこと。な、何でそんなこと知ってるんだぁぁぁ〜、はあはあ、おそるべしカドカワの情報網(笑)。
 ちなみに、京極論というのは某社から出る京極本のために「陰陽師文学としての京極作品」というテーマで40枚書かねばならないのだが……考えてみたら20日が締切だったよーな、おぼろげな記憶がっ! やばい。
 夜、別冊宝島のI氏が来訪。事務所の蔵書を総動員して、図版・写真類の打ち合わせをおこなう。無理無理ながら、なんとか発売予定日をクリアできそうで、一安心。少しでも良いものにしたい! という目的のためには手段を選ばない(笑)I氏のエディトリアル・スピリットに敬服しきりである。