[Weird World 2000年1月上旬]


[1月1日]
 というわけで、本年もよろしくお願い申し上げます。
 親戚の家に寄ったあと、取材を兼ねて自転車で街を回る。上野市随一の本屋には「郷土関連書」コーナーがあり、榊莫山・倉阪鬼一郎・麻耶雄嵩の著作が並んでおります(笑)。市内は帰るたびにあからさまに寂れているけれども、郊外には大型店舗が進出している。ブックマーケットを見つけ、ベックフォード『呪の王』(角川文庫)などを90円で購入。正月から幸先いいかも。夜は型通りの田舎の宴会。


[1月2日]
 夕方、弟とともに帰京。出していない方からずいぶん年賀状が届いていたので、年末酷使につきおふとんで寝正月をさせていた秘書猫をたたき起こして返事を書く。例によって代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。ミーコあての年賀状もいただきました。ことしもよろしくね。


[1月3日]
 箱根駅伝を見ながら去年のレシートの整理。また年賀状の返事を書いたあと、正月から仕事をする。先月の総執筆枚数は180枚、執筆お休みは7日(うち完全オフ3日)、一日当たりの平均執筆枚数は7.5枚でした。今月からは最低200枚に上げます。
 そうこうしているうちに読了本が溜まってきたので、まとめて紹介。角川ホラー文庫の瀬川ことび『お葬式』、中井拓志『quarter mo@n』、新津きよみ『招待客』、若竹七海『遺品』、西谷史『記憶』では『遺品』がベストかな。『quarter mo@n』はもう少し電波がほしいところ。牧野さんと比較するのは酷なのだが。
 異形コレクション14『世紀末サーカス』(廣済堂文庫)のベスト3は、田中啓文「にこやかな男」、西澤保彦「青い奈落」、竹河聖「サダコ」。読んで気持ちがよくなった順に選びました。『有栖川有栖の密室大図鑑』(現代書林)からは好みの密室を挙げてみます。海外は「密室の行者」、国内は「ローウェル城の密室」。物理トリックはつくづく向いてないかも。ロバート・D・ヘア『診断名サイコパス』(早川書房)は目からうろこが落ちる人がいるかもしれない。
 この調子で今年は365冊紹介……って無用の仕事を増やしてどうするんだ。


[1月4日]
 五種類の小説をちまちまと進める。ひょっとしたら効率が悪いのかもしれないが、長篇は100〜150枚、短篇は15〜20枚あたりにまで達しないとピッチが上がらないのだから仕方がない。道は遠いな。


[1月5日]
 二時半より千駄木で講談社のA元さんと打ち合わせ、『迷宮 Labyrinth』(講談社ノベルス・740円)の見本を受け取る。作中に登場するボッシュの絵をあしらったすっきりした装幀です。大書店では7日から並びますのでよろしく。謹呈分も週末に届くようです。それにしても薄いな(笑)。ちなみに、後書きなし・著者近影つき、いずれも初めてです。次回作『四重奏 Quartette』は一年後の予定。
 遅ればせながら、服部まゆみ『この闇と光』(角川書店)を読了。紹介しづらい作品だが、幻想文学ファンにもおすすめの傑作ミステリ。ただ、ゆうべ読了後やや興奮ぎみに「幻想的掲示板」に書きこんだところ、物語世界ならぬ掲示板が反転、ボードリーダーがボードクラッシャーと化してしまった(汗)。不気味な暗合かも。


[1月6日]
 やれやれ、掲示板のデータは大丈夫だったようだ。ひと安心。「掲示板に長々と書いている暇があったら仕事しろ」という天の声であろう。
 今月は特に読書の強調テーマはなし。長らく止まっていた笠井潔『機械じかけの夢 私的SF作家論』(ちくま学芸文庫)を読了。うーん、重くて濃い本であった。もうひとつ止まっている『意識と本質』とそこはかとなくクロスする部分が私的なツボなのだが、まだ明解に説明できない。


[1月7日]
 短篇を進めたあと池袋へ。丸井で体脂肪率が測れる体重計を買う。さっそく何度か試したところ、体脂肪率は16.5%と判明(その後、一日だけ14.5%まで減少)。もうすぐ不惑でこの数字は立派かも。
 アンドリュー・ワット&長山靖生『彼らが夢見た2000年』(新潮社・2500円)を読了。今世紀初頭のテクノロジー信仰が一目瞭然の未来予想図を多数収録。私は「未来」と聞くと半ば条件反射的に「退行」という言葉が浮かぶのですが(笑)。友成純一『凌辱の魔界』を幻冬舎アウトロー文庫で再読。面白くて一気読み。やはり第一章と第二章の落差が壮絶です。


[1月8日]
 例によって五種類の小説を少しずつ進める。多忙につき、今後は書くことがない日は空白にしますので、あらぬ邪推をされぬように。


[1月9日]
 この調子だといつまで経っても翻訳に手が回らないため、秘書猫と相談の結果、日曜は翻訳の日とする。ただ、ずいぶんブランクがあったから全然調子が出ない(小説とは使う頭脳が違うのだ)。まあとりあえず、この感じでぼちぼち進めることにしよう。


[1月10日]
 今年から成人の日が移動。年間数百点のカレンダーやダイアリーを校正していた印刷会社時代だったら、さぞ大変な目にあっただろう。それでふと思い出したけれども、「成人の目」という誤植を見逃したことがあった。これはまずいでしょう。
 執筆はお休みにしたのだが、原稿の仕上げや何やらで結局べたっと仕事をしてしまう。打ち合わせや取材のある日が半休、イベントのある日が全休という感じだなあ。


[1月11日]
 二種類の原稿を送り、五種類の小説を進める。世はこともなし。
 ホラーの落ち穂拾いモードで、今邑彩『蛇神』(角川ホラー文庫)を読了。オーソドックスな伝奇ホラーにミステリを軽く配合した作品。蛇物にしてはホラー・パートのクレシェンドに欠けるのは残念。水木しげる監修『妖かしの宴』(PHP文庫)はわらべ唄をテーマにしたホラー・アンソロジー、縛りとしてはかなりきつい。霜島ケイと高瀬美恵が双璧かな。酒量の話じゃないですよ(笑)。


[1月12日]
 四時から神保町で同文書院のKさんと打ち合わせ。まだ詳細は秘密ですが、ことによると今年も隠し球があるかも。話をしてみるとKさんは謎宮会の方で、渡辺はま子(合掌)だの中島みゆきだの趣味がいやに似ていた。
 西崎憲編訳『ヴァージニア・ウルフ短篇集』(ちくま文庫)を読了。「意識の流れ」の手法は電波系ホラーの勘どころで使えるかもしれない。ベスト3は難しいけれども、「池の魅力」「ラピンとラピノヴァ」「弦楽四重奏団」としておきます。


[1月13日]
 二つの短篇が後半に入りピッチが上がったため、今日は16枚も書けた。去年は15枚が最高だったから早くも更新。いずれ20枚に届くかも。その分、長篇は進んでいないのだが……。
 さて、「ニュータイプ」2月号が届きました。P209にインタビューが載っています。サングラスを間違えたし、ミーコが猫面疽みたいで写真はいまひとつなのですが。


[1月14日]
 高橋順子『連句のたのしみ』(新潮選書)を読了。車谷長吉の奥さんで住所がとても近い。文音で連句を巻き終えてから「打越にかかる」という言葉を覚えているようではいかんかも。柳田・折口の両吟歌仙なども解説付きで載っています。
 それから、「文藝春秋」2月号の瀬名秀明「鉄腕アトムをつくれ!」のみ読了。私は頭が完璧に文系なので、人工知能とチェスの戦いの話が最も興味深かった。ついでに私語りをしてしまうと、実は「文藝春秋」94年11月号の俳句欄に登板しています。その後、俳人としては完全に頭打ちなのですが(笑)。


[1月15日]
 「小説すばる」2月号が届きました。「花の名前」という40枚の短篇を寄稿しています。これは文芸的な本格ホラーというコンセプトの連作なのですが、今回は本格ミステリーの特集に入るということでかなり苦労して書いた作品です。特集の目玉は三大トークバトル「@綾辻行人VS皆川博子」「A笠井潔VS野崎六助」「B我孫子武丸VS牧野修VS田中啓文」、さっそくこれだけ読みました。AとBの落差にご注意ください(笑)。