[2000年1月下旬]


[1月16日]
 短篇をプリントアウトしたあと、四時から荻窪へ赴き、浅暮三文、福井健太(遅刻)両氏と蕎麦オフ(のようなもの)。蕎麦はうまかったけれども量が物足りない。その後ショットバーへ移動、十一時まで飲む。さまざまな話題が出たが、特筆すべきは今年のSFセミナーの企画。通ればの話ですが、「浅暮三文をもっと売れる作家にするための会議(仮称)」をやりますのでご期待ください。意外に実のある話に発展するかも。あ、秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。ミーコは今年の初おでかけでした。浅暮のおじちゃんのサンモン博士(クマのぬいぐるみ)とあそびました。博士はとっても物知りでした。おわり。


[1月17日]
 書き下ろし短篇集の二作目が完了。長篇と連載を軽く推敲しながら読み直し、徐々に煮詰める。メモと構想用にインデックス付きのノートも買う。
 アンドリュー・クラヴァン『ベラム館の亡霊』(角川文庫)を読了。序盤は「赤い額縁」かと思ったけれども(笑)、中盤以降は過剰に期待しすぎた部分と齟齬があった。と言うより、自分の小説がいささか飽和状態で、人の作品に常にも増してバイアスをかけて読んでしまう傾向にあるようだ。しばらく読書は小説から離れることにしよう。


[1月18日]
 とりあえず連載を進める。また面倒なものを書こうとしているぞ。困ったものだ。
 佳多山大地・鷹城宏『探偵小説美味礼讚1999』(双葉社)を読了。個人的な好みは断然後者。蘊蓄系の長い前振りの部分など、まるで「幻想文学」の原稿(笑)。P217を筆頭に分析も犀利。ただ、本としてはやや薄めなので、来年からは並木士郎の書き下ろしも掲載していただきたいものです。


[1月19日]
 ホラー長篇に戻る。マラソンに擬して言えば30キロあたりまで自重する作戦なのだが(雰囲気を徐々に盛り上げる)、スピードランナーが自重しすぎて凡走する例は多い。いずれにしても、長篇は課題が山積み。
 さて、「問題小説」2月号が届きました。「辞令」という40枚の短篇を寄稿しています。題名から察せられますとおり、サラリーマンの哀歓を描いた作品です(嘘)。


[1月20〜21日]
 午後七時ごろミーコとともに新宿歌舞伎町ロフトプラスワンに赴き、エニックス主催の津原泰水監修アンソロジー「12幻想」シリーズ発売記念前夜祭に出席する。会場は大盛況。私は深夜枠と言われていたので、とりあえず拝聴モード。ちなみに初対面は、早見裕司、飯田雪子、皆川ゆか、仲村明子、八尾の猫、青猫、比呂、かずめといった方々。業界関係の出席者は正確に書けそうにないのでパス。司会は最初から最後まで津原さん、長丁場ご苦労様でした。飯野文彦さんがアシスタントを務めるのかと思いきや、菊地さんのトークライヴとは客層が異なり下ネタ不発で早々と交替。あとは順次、執筆者を中心に舞台へ上がる。私はいつものワセミス座敷、高瀬、柴尾、角胴、福井、けーむら、Y野などの面々と一緒に見る。どうもここだけうるさい。そのうち、成り行きで舞台に呼ばれる。東雅夫、竹河聖、私に司会津原の組み合わせ。なぜか志賀直哉の話などをしたような気がするが再現できず。ちょっとここで秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。くじ引きのおてつだいをしましたが、ミーコにはツメがないのでちゃんとつかめませんでした。くすん。
 そのあとは、京極夏彦、綾辻行人、竹本健治という豪華メンバー。折り返して深夜枠へ。我孫子武丸(再登場)、森奈津子、南智子、皆川ゆかの面々で、少しまずい話題も出始めたころ、いままで尻込みしていた高瀬美恵嬢が投入される。下ネタを振らない女飯野の趣でどこから見てもよっぱらい。なお、なぜか姿を消して安否が気遣われていた飯野さんは、そのころ歌舞伎町のバーで思い切りボラれていたらしい(笑)。泥酔して常にも増して妙なハイテンションの福井健太もいたし、つくづくワセミスは人材豊富。それにしても、ロフトプラスワンではどうも異な展開になって私のネタがステージで振られるな。困ったものだ。菊地さんと北原尚彦さんが入ってからホラーのイデア系の話に流れたのでよほど割りこもうかと思ったのだが、本来私がいるべき席で高瀬嬢が梅チャーハンをパクパク食べてるし(笑)、時間も押してきたので再登板のないまま午前四時にお開きとなる。ロフトプラスワンを出て上高地へ流れてお茶(約30名)。さすがに疲れて六時ごろ退散。合流した柴田掲示板の美女たちとともに帰る。
 最後に、「エニックス・エンターテインメントホラー大賞」の募集発表もなされました。大賞賞金700万円、詳しくは津原アンソロジーの巻末をご覧ください。三巻目の『血の12幻想』に文芸ホラーを寄稿してしまった私は「エンターテインメントホラー」にそこはかとない抵抗を感じたりするのですが。
 三時間ほど寝てから、短篇の仕上げをしてプリントアウト。しかしながら、夕方『ブラッド』(集英社)のゲラがバイク便で届いたし、急ぎのエッセイの依頼はあるし、元の木阿弥状態。なお、隠し球の企画書は首尾よく通ったようだ。原稿は渡してあるから、これで今年は最低7冊……って仕事しすぎかも。


[1月22日]
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。きょうは猫茶さんとくみさんが企画したナンジャモンジャオフに出ました。午前十一時に池袋に集合、遠路はるばる組を含む十数名が参加。少女小説系なので男性はクラニーを入れても三人だけでした。こういうオフ会に出ている怪奇小説家ってなんだろうと秘書はおもいます。お食事をしてからサンシャインのナンジャタウンへ。中にはおともだちがたくさんいました。わーい。ミーコとクラニーは琳さんと組んでアトラクションを四つまわりました。「ディモスの審判」で寿命があと九カ月というお告げをもらったクラニーは、ムキになって占いをあと四つやってました。ミーコは大きなナジャミーと戦って負けちゃいました。六時前に月島のもんじゃ焼き店に移動。ここから二名追加。クラニーはもんじゃ焼き初体験、おこげがうまいと言ってました。それから新宿に移動、片桐さんが景品にたくさんぬいぐるみをもってきたので、半分以上の人が電車の中でもぬいぐるみを出してました。とってもあやしい団体だったとおもいます。三次会はパセラ、遅れて高瀬さんとけーむらさんが登場。かもこちゃんがフリつきでプッチモニを歌いました。クラニーの歌い初めは戸川純でした。十二時ごろ解散。みなさん、おつかれさまでした。またあそんでね。


[1月23日]
 というわけで、今日から本来の勤勉モード。
 「オール読物」2月号が届いております。「?の考現学」という見開きエッセイのコーナーに「モダン・ホラーとモダンホラー」という題で寄稿しています。客層を考慮して「TerrorとHorrorの差異」という当初の予定を変更したのですが、たいした違いはなかったかも(笑)。


[1月24日]
 スラックスの裾上げが甘くて剥がれたため、アイロンと裾上げテープを買い自分でやってみようとしたのだが、なにぶん家庭科はずっと2だったからさっぱりうまくいかない。一時間後に癇癪を起こし、ハサミでスラックスの裾を切ってしまったあと、ようやく正解に気づく(そうか、両面テープとは違うのね)。あわててやり直したものの、丈が短くなって覆水盆に返らず。私は何をやってるんだ? そもそも、嫁がおらんからいかんのだ。
 えー、気を取り直して進捗状況。ファックスと郵便で三種類の原稿を送り、3月20日までに締切が設定されている三つの短篇を起稿する。根が小心者なので締切が気になって早めに始動、結果として一週間以上も前に上がったりするだけで、決して書くのが早いわけではないのです。ついでに書き下ろし短篇集の短篇も二つ起稿、これで長篇と連載を含むと八つの小説が並行していることになる。さすがに一日に全部は書けませんけど。


[1月25日]
 七時半に起床、文京区の節目検診なるものに出かける。検診は三年ぶり。コーヒーを飲まないと体が動かないので胃検診はパス。頭はともかく、体は見かけよりずっと頑健で風邪も三年に一度ぐらいしかひかないから、たぶん異状なしであろう。そのあとはひたすらゲラ。
 「Esquire」3月号が届きました。特集「恐怖の館へ、ご招待」のうち「プロが怯える映像とは?」というコーナーに登場しています(6名中4名が「幻想的掲示板」に登板)。まだ拾い読みですが、思った以上に濃いホラー特集ですね。盲点になりそうだし、将来は意外な古書値がつくかもしれないので、お買い逃しなく。


[1月26日]
 ゲラを返送したあと神保町へ。五時から「オール読物」のグラビアでおなじみの(笑)講談社のA元さんと打ち合わせ。古瀬戸から古瀬戸へといういつものパターンで、なぜかボクシング・相撲・マラソンの話。「やっぱり浜ノ島でしょう」とかオタクな会話をする(ちなみに、ポスト浜ノ島は追風海で決まり)。
 さて、「活字倶楽部 2000冬号」が届きました。作家アンケートに答えています。私だけベスト3などを選んで浮いているような気がしないでもない。


[1月27日]
 朝の六時に目が覚めたので勤勉モード、四時までに17枚書くも完全にガス欠、そのあとは久々にカラオケの練習をする。いろいろ聴いたが最も琴線に触れたのは拓郎のベスト版だから、やはり「おやじしばり」の人か。
 Fantasy Centreより本が大量に届く。今回は収穫多し。特筆すべきは、Equationのペイパーバック・シリーズEquation Chillers。バレイジ、スウェイン、ケイペスの選集、さらにジェローム・K・ジェローム、バリー・ペイン、ロバート・バーで一冊というのも渋すぎるほど渋い。何度も外したハーヴィーのペイパーも入手したし満足です。


[1月28日〜29日]
 というわけで、四十回目の誕生日です。何が不惑やねんという感じですが。
 歌舞伎町で「リング0」と「ISORA」を観る。映画館へ行くのは久々かも。「リング0」はツボを押さえた手堅い演出だった。その足でロフトプラスワン。まずは「リング0」記念座談会(司会は木原浩勝さん、鶴田監督と脚本の高橋洋さんが登板)、撮影秘話や某劇場の事件などをいつもの座敷で聴く。木原さんの話術の巧みさに瞠目。休憩時間は幻想的掲示板のミニオフ会の趣、十人くらい来てたかも。
 日付が変わり、「新耳袋」アワー。木原さんと大阪から駆けつけた中山市朗さん(青空ぼっけえ・きょうてえ)の快調なトークとともに興味深いネタが連打される。あまり完成度が高いものは小説に使えないけれども、断片的なアイデアはかなりいただいた。さっそく次の短篇にそこはかとなく活かすかな。夜明けの質問コーナーでもテンションは落ちない。かつて一般的掲示板で出ていた「新耳袋」空白ページの謎でステージに動揺が走ったり、見るたびに顔が動く8ミリビデオの関係者が名乗りを上げたり、五時まで盛り上がりが続く。そのあと、十人強で上高地。八時前に帰宅。皆さん、お疲れさまでした。


[1月30日]
 読了本が溜まったので、まとめて紹介。森下一仁『思考する物語 SFの原理・歴史・主題』(東京創元社)は堅そうな雰囲気だが、文章が明晰かつ平明で一気に読める。センス・オブ・ワンダーをキイワードとした前半の分析が秀逸。ジャンル論に興味のあるホラーとミステリの人もぜひお読みください。個人的にはあまり「感情」に重きを置くジャンル分けはどうかなとも思うのですが、これはまたいずれどこかで。
 北原尚彦『SF万国博覧会』(青弓社)は、「SFマガジン」の二つのコラム「空想科学小説叢書列伝」「バベルの塔から世界を眺めて」をまとめたもの。うーん、私はつくづくSFの読書量が足りないな(シルヴァーバークですっかり止まっている)。これも勉強になります。ところで、三回登場する三村美衣がすべて三村三衣になっているのはなぜだろう? 謎。
 小説読みも再開。皮切りは津原泰水監修『エロティシズム12幻想』(エニックス)。私は長らくエロス方面を抑圧してきた部分があるので、これは未開拓の分野。収録作は「これくらいなら書けそうだ」「ちょっと無理だな」に大別される。作品としてのベストは牧野修「インキュバス言語」。頭の中を覗いてみたい(笑)。