[2000年2月]


[2月1日]
 まずは前日の日記。
 書き下ろし短篇集の三作目をプリントアウトし、FAXで原稿とゲラを送ってから神保町へ。四時より同文書院のKさんと打ち合わせ。前に隠し球と記した本で、仮タイトルは『夢の断片、悪夢の破片−書評・エッセイ・評論1980〜1999』、一部で「倉阪鬼一郎全仕事」と称されていたものです。ブックガイドとしても使える20年間の集大成なのですが、あくまでも仕事の一部なので「全仕事」はやめました。4月下旬もしくは5月上旬刊行で進行しています。ついでに業務連絡ですが、「幻想文学」「別冊幻想文学」「BGM」「ホラーウェイヴ」初出の収録についてはご了承ください。ほかには、各種解説や「別冊宝島」などのメジャー媒体から「金羊毛」「幻想卵」「豈」といった同人誌、「SFの本」「読書マガジン」など今はなき雑誌までいろいろ。比較的出来がいい文章しか選んでいないので300ページくらいで収まりそうです。
 続いて、本日の日記はまず秘書から。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。四時に集英社さんへ行き『ブラッド』の写真撮影をしました。担当のC塚さんの立ち会いのもと、クラニー先生といっしょにお写真をとってもらいました。おそとでも撮影があったので、ミーコはとってもきんちょうしました。クラニーは黒い服しか着ないから、保護色になってミーコがめだちません。こまったものです。最後に編集部へごあいさつにいって、京極さんの『どすこい(仮)』をおみやげにいただいて帰りました。とっても凝ったご本です。
 そのあと新刊書を購入。今月は「海外SF強調月間」にしたので当分読めそうにない。書名だけ記すと、井上夢人『オルファクトグラム』(毎日新聞社)、篠田節子『第4の神話』(角川書店)、小池真理子『ノスタルジア』(双葉社)、高橋克彦『蒼い記憶』(文藝春秋)。
 帰宅後、短篇のゲラを返送してから仕事に戻る。先月の執筆枚数は210枚、執筆お休み10日(うち完全オフ3日)、一日あたりの平均執筆枚数は10.0枚でした。目標はクリアしたものの後半息切れ。


[2月2日]
 四時より新宿プチモンドで「アサヒ芸能」のインタビュー。『白い館の惨劇』の新刊インタビューで、再来週号に載ります。インタビュアーの大谷佳奈子さんが日記までチェックされている方だったので、わりと滞らずにしゃべれたかも。そのあとミーコとともに写真撮影。HMVで及川光博と欧陽菲菲と木之内みどりのCDを買ったあと、六時半にプチモンドの隣の中華料理屋へ。個室で大多和伴彦さんと対談。前から断片的に記しているのですが、ここで正式発表しますと、三月半ばにアスペクトから刊行される書き下ろしホラー・アンソロジー『憑き物』(大多和伴彦・編)に本邦初のホラー歌仙「歌仙 牛の首の巻」が掲載されます。編者と二カ月にわたってメールでやりとりして完成、ここで句意を明かしつつ対談という段取り。対談を含め、我ながら面白いと思うのでご期待ください。なお、『憑き物』は作家だけで25名参加、コラボレーションなども含む900ページ弱の重量級アンソロジーになるようです。最後にミーコとともに写真撮影。この一両日で大量のミーコ写真が撮られている。まるで人気女優。
 九時半に歌舞伎町のロフトプラスワンの座敷に到着。今日の出し物は中山市朗さんの「封印の世界」、聖徳太子に関する新説など、脇の木原さんが突っ込みどころに困るほどハードな内容。いずれ続篇がある模様です。会場にはまた幻想的掲示板のメンバーの顔がちらほら。十一時半に終了したあと、高瀬、けーむら、角銅、イダタツヒコ&なち夫妻と一時間ほどお茶。初対面のイダさんは風貌が牧野さんにそっくり、ホラー坊主は二人いるのかと驚く。「おおからい」の二人がカラオケに乗ってこないので、おとなしく終電で帰る。帰宅すると、アンケートがらみの急な追加取材の依頼が入っていたのだが、この調子だといっこうに原稿が進まないからお断りする。


[2月3日]
 早起きして溜まっていたゴミを出し、再度寝てからコインランドリー。その後、ようやく仕事モードに戻るも調子出ず。どうも先が見えないなあ。
 津原泰水監修『十二宮12幻想』(エニックス)を読了。星座を意識した作品のほうが興味深く読めた。私が参加していたとすればどんな作品を書いただろう。水瓶に血を溜める話とか、後頭部を水瓶で叩き割るとか……ほかに発想はないのか? ベストは島村洋子「スコーピオン」、BGM「さそり座の女」でどうぞ(笑)。
 コミックの読了本が溜まったのでまとめて紹介。「ザ・ホラー」2月号(角川書店)は原作者が掲示板で宣伝していた児嶋都さんの「眼球綺譚」がハイライト。とても丁寧なお仕事で感服。諸星大二郎『栞と紙魚子 殺戮詩集』(朝日ソノラマ)はラヴクラフトと「妖怪百物語」のファン必見。高港基資『女優霊』(角川書店)は原作をかなりアレンジしている。霊の描き方のセンスに感心。あとは大越孝太郎『フィギッシュ』(青林工藝社)、千之ナイフ『エデンの最期に』(秋田書店)など。


[2月4日]
 例によって六種類の小説を少しずつ進める。
 ロバート・シルヴァーバーグ『内側の世界』(サンリオSF文庫)を読了。この世界は結構好きだし、多重人格感応のシーンを筆頭に面白く読めるのだが、やはり最後は美しく崩壊してもらいたいと思ってしまうのがホラーの人か。
[2月5日]
 ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』(創元SF文庫)を読了。私はあまり「アイデア読み」をしないタイプだから、世評が高いことはうなずけるものの、いまひとつツボじゃなかったかも。


[2月6日]
 久々の黒クラニー発動。グレークラニーとブルークラニーはたまに出るのだが、黒は久々。爆発後に徐々に白クラニーに戻る。あとはイエロークラニーとピンククラニー……って筆がすべってますな。


[2月7日]
 四時から千駄木で祥伝社のKさん、Yさんと打ち合わせ。今年の夏から秋にかけて刊行される祥伝社文庫十五周年企画「百五十枚文庫書き下ろしシリーズ(正式名称未定)」に参加することになりました。コンセプトは決まっているのですが秘密にしておきましょう。内容はホラー。


[2月8日]
 神宮寺元『戦国群雄伝 二 憤怒の鬼・柴田勝家』(学研歴史群像新書・800円)が届きました。幻想文学会会長が放つ第二弾です。あの遅筆の(と言うか、書き渋りの)会長がこんなに続けて本を出すとは。いよいよ本腰が入ってきた模様。なお、シリーズの二作目なのに「今回の作品が、はじめての著書となる」と著者紹介に記されているのは謎。
 バリントン・J・ベイリー『永劫回帰』(創元SF文庫)を読了。細部の描き方は力量を感じさせるのだが、これも話が私のツボじゃなかったな。


[2月9日]
 ついに、やっと、ようやく、井筒俊彦『意識と本質』(岩波書店)を完読。内容が特濃のため、咀嚼しながら読んでいたらいっこうに終わりそうにないから、中盤からはスピードアップを図った。丸山圭三郎経由でソシュールに接しているとき、「これは東洋人がア・プリオリにわかっていることをやろうとしたのでは?」という疑問を抱いたのだが、本書でそのあたりがかなり氷解したような気がする。「言語アラヤ識」や「意識のM領域」など、ホラー論や俳論にも援用可能。購入時はゴーストハンターのハッタリ用の資料だったのだが、いま書いている幻想ホラーの参考資料に方向転換しよう。次のターゲット資料はメルロ=ポンティ『眼と精神』、これも時間かかりそうだなあ……。


[2月10日]
 七時よりミーコとともに神保町のいづもそば。まず集英社のC塚さんから『ブラッド』の再校ゲラを受け取る。別のゲラもあるし、また本が読めない。遅れてKK事務所のAZMさん、『ブラッド』の帯を書いていただいた大森望さんが登場。話題はネット関連やSFベストテンなどいろいろ。
 当然、そのあとは神保町のパセラ。遅れてさいとうよしこさんも合流。ハイライトはAZMさんの「元禄名槍譜 俵星玄蕃」、このフルヴァージョンをカラオケで最後まで歌う人を見たのは初めて。うーん、CD買わなきゃ。それから、ごく一部で話題の「赤鬼と青鬼のタンゴ」を歌おうと思ったのだが、なぜかいくら探しても発見できず。謎。ついでにほとんど私信ですが、田中啓文さん、神保町パセラの「暴いておやりよドルバッキー」は「断罪動物ドルバッキー」が入っていないダメ・ヴァージョンですからね。初めて歌ったのは「今夜、桃色クラブで。」「原宿メモリー」「外は白い雪の夜」など。あ、秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。ミーコは大トリで「やぎさんゆうびん」をうたいました。そのあと集英社さんにいって、こないだのお写真を見せていただきました。ミーコは表情ゆたかにかわいくうつってました。わーい。みなさん、おつかれさまでした。


[2月11日]
 四種類の小説を少しずつ進めて12枚書いたあと、ゲラに手を回す。このところ打ち合わせのたびに「疲れてますね」と言われているような気がする。一日に進める小説は三種類くらいに絞ったほうがいいかも。


[2月12日]
 今日は執筆お休み。ゲラの疑問箇所を解決、めんどくさい確定申告の書類作成を進めたあと新宿へ。まったく遅ればせながら「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を観る。これはホラー的にはきわめて正しい映画で、久々に大満足。もうSFXに頼ったハリウッド・ホラーは観たくない気分だったから、なおさら新鮮。やはり「ブレア・ウィッチ」のほうが王道でしょう。それにしても「陰獣の森」とは出来が違うな……って比べるほうがおかしいですかそうですか。その後、坂本冬美と河合その子と河合奈保子のCDを買ってから十時ごろ帰宅。


[2月13日]
 日曜は翻訳の日だったはずなのだが、どうも小説が進まないのでなしくずし状態。と言うより、毎週マラソンを最初から最後まで見ているからいかんのだが。
 井上夢人『オルファクトグラム』(毎日新聞社)を読了。この人の作品は岡嶋二人時代からあらかた読んでいるけれども、個人的なツボは「メドゥサ、鏡をごらん」と「プラスティック」。この作品はリーダビリティ抜群で一般読者には絶対受けるだろうけど、もう少し読者を限定する方向のほうがツボだったように思われる。嗅覚に関して言えば、「カニスの血を嗣ぐ」がアナログなら、こちらはデジタルで乾いている。個人的な好みは「カニス」かな。
[2月14日]
 書き下ろし短篇集の四本目とホラー短篇を最後まで書き、長篇に戻る。久々に仕事が進んだような気分。
 権田萬治・新保博久監修『日本ミステリー事典』(新潮社)を購入。誕生日や本名など、初公開情報が多くて重宝。まず、同じ1960年生まれの作家を誕生日順にピックアップしてみました。
 1/9 斎藤肇
 1/13 井上雅彦
 1/28(倉阪鬼一郎)
 2/15 水城麗子
 4/19 谺健二
 5/7 野沢尚
 5/8 天童荒太
 5/9 図子慧
 7/22 阿部陽一
 7/24 鈴木輝一郎
 8/19 乃南アサ
 9/5 梅原克文 
 11/27 松尾由美
 12/23 綾辻行人、宮部みゆき
 12/24 小野不由美
 12/25 西澤保彦
 私のように載っていない作家も含めると倍以上になるかもしれない(大森さんの昔の日記から拾遺すると、新井基子、岡崎弘明、青山智樹、山之口洋、佐藤哲也、樋口明雄といった方々も1960年生まれ)。ちょっと異常かも。


[2月15日]
「新刊ニュース」3月号が届きました。「世界の縁に向かって」というエッセイを寄稿しています。『白い館の惨劇』『迷宮 Labyrinth』についてまじめに執筆しました。なお、P33の「草に覆われて見えづらくなくなっているものの」は「見えづらくなっているものの」の誤りです。それから、「アサヒ芸能」2/24号の本のコーナーに『白い館の惨劇』に関するインタビューが載っています。今回はノーサングラスで、ミーコとともに穏やかに写ってます。さらに、まだ掲載紙が届いていないのですが、「ふえたこ日記」によると先週水曜日(日付は木曜かな)の「日刊ゲンダイ」に読書日記が掲載された模様です。高原英理『少女領域』(国書刊行会)を取り上げました。以上、小説以外でも働いているクラニーでした。


[2月16日]
『ブラッド』の再校ゲラを返送するも、短篇のゲラが届く。一進一退。
「MEN'S WALKER」2/29日号が届きました。総力特集40ページ「このホラーが怖い!」にアンケート「この小説が怖い!ベスト3」を寄せています。奇しくも(でもないか)アズレーと並んで登板。こういったオールタイムのベスト選びは個人的なコンセプトによって毎回変わるでしょう。今回は谷崎潤一郎「柳湯の事件」を加えて「柳づくし」というのも考えたのですが、さすがにやり過ぎかと思って自重しました。なお、写真の撮影者は浅暮三文さんです。気が短い右翼みたいで失敗だったかも。ほかに、「引田天功さんも私の読者だったのか」「なるほど、『遺品』は書かれるべくして書かれたんだな」「『妖かし語り』だけ装幀がいかにも貧相」「某選考委員は宗旨変えしたのか」「某嬢はここでも下ネタを振ってるぞ」など、いろいろ感想あり。
 フィリップ・ホセ・ファーマー『恋人たち』(ハヤカワ文庫SF)を読了。うーん、いまとなっては衝撃的とは思えないな。どうでもいいけど、オザゲンが出てくるたびに「オザケン」を連想して閉口したのは私だけだろうか。ブライアン・W・オールディス『手で育てられた少年』(サンリオSF文庫)も読了。これは全然SFじゃなかった(笑)。


[2月17日]
 朝の七時に起きて某検診センターへ。前に「節目検診の結果は異常なしだろう」と記したけれども、さすがに四十になるとガタが来はじめるらしい。区の保健指導なるものは頬被りをしたのだが、精密検査は逃げられない。今日は採血と説明(説教を含む)のみ、大腸レントゲンのための検査食や各種の薬をもらって帰る。「前日と当日は七時前に起床」「前日は禁酒」「当日は禁煙」恐ろしいことばかり書いてあるな。というわけで、26〜29日は打ち合わせ不可ですからあしからず。
 帰宅後、とりあえず連載の第一回を仕上げ、短篇などを各種プリントアウト、夜は二種類のゲラをチェック。せっかく執筆はお休みにしたのにカラオケの練習に手が回らなかった。やらなくてもいんだけど。


[2月18日]
 二つの長篇を進めたあと、掃除とコインランドリー。夜は三種類の短篇。また五種類も書いてしまう。全部合わせて10枚ですが。
 ナターリヤ・ソコローワ『旅に出る時ほほえみを』(サンリオSF文庫)を読了。いきなり大時代的なSFのガジェットが登場するけれども、基本的にはカフカ系の幻想小説という風変わりな作品。忘却の刑に処せられてからの後半の展開は「貴種流離譚はいずこも同じ」という趣で好みだった。アンナ・カヴァンやエリアーデがこの話を書いたらどうなっただろうかと少し考える。


[2月19日]
 女性を主人公にした小説を執筆していると、参考資料として女性誌を買わざるをえない局面に立たされることがある。今日は「きれいになりたい」を買いに行ったのだが、さすがにこれだけ買うのは非常に恥ずかしいので「ムー」と「碁ワールド」も購入。なおさら変だったかも。「三波春夫長篇歌謡浪曲集」もゲット。どんどん課題曲が増えるな。
 アントニイ・バージェス『どこまで行けばお茶の時間』(サンリオSF文庫)を読了。昔から薄い本が好きなのだが、これも哀惜すべき一冊。折にふれて挿入されるイラストがまた心地いい。好みのタイプの言語ファンタジーだった。
[2月20日]
 二種類のゲラを返送したあと、ようやく確定申告の書類を完成させる。今年は最高25万円の定率減税に助けられた模様。やっと入ることになった『日本推理作家協会会員名鑑』(非売品)に目を通す。過去会員編に資料的価値あり。現会員編でいちばんウケたのは夏来健次さんの項目、どこに何を書いても浮いてしまう人って珍しいかも。いや、幻想文学会の重鎮なんですが。
 伊藤潤二『うずまき』(小学館)を読了。やはりこの人はホラーコミック界で頭ひとつ抜けている印象。ことに不条理が配合されると強力です。他のコミック読了本は、高橋葉介『手つなぎ鬼』(ぶんか社)、さそうあきら『黒のおねいさん』(文藝春秋)、山田章博『ボーナス・トラック』(日本エディターズ)、いずれも満足。


[2月21日]
 俳句同人誌「」の原稿を郵送したあと、本郷税務署に赴いて確定申告の書類を提出、帰りに神保町で資料を購入。
 J・G・バラード『ハイ−ライズ』(ハヤカワ文庫SF)を読了。バラードは未読の作品が結構残っている。これはコード進行だけを取り上げればホラー、おかげですらすら読める。モダンホラーの文脈の中に強引に位置づけることも可能。


[2月22日]
「メフィスト」の連載の第一回分(85枚)を郵送。どうやら一番乗りらしい。ついでに、推協の入会挨拶も速攻で送る。もっとも、週末にはまたゲラが来るし全然楽になっていない。仕方なく五種類の小説を進めたあとカラオケの練習。


[2月23日]
 掌編小説を最後まで書き上げて第一稿をプリントアウト。たった8枚の小説にどうしてこんなに手間どったのだろう?
 夜は新宿。クラゲやカタツムリなどのぬいぐるみを購入したあと、テアトル新宿で「犬神の悪霊(たたり)」のレイトショー。字幕に三重県の名前が出てきたのだが、どことなく昔の父方の田舎を彷彿させる風景だった。ホラー・ジャパネスクのみならず、ウラン採掘所の建設現場でドリルが暴れるシーンはほとんどフルチの世界で満足。ただ、主演の大和田伸也はバカすぎだよなあ。終わったあと千街晶之、笹川吉晴両氏と軽くお茶を飲んでから帰宅。
 さて、「小説NON」3月号が届きました。「蔵煮」という50枚の短篇を寄稿しています。津原掲示板において「クラニー缶」で盛り上がっていたときに思いついたアイデアです。その際に参加されていた方々、ありがとうございました。なお、食事の前にはお読みにならないほうがいいと思います。「小説すばる」の連作が文芸ホラーなので、変化をつける意味でこちらは「痛くて厭なホラー」というコンセプトでやっております。


[2月24日]
 四時に交通博物館の前で待ち合わせて蕎麦屋鼎談。今回は浅暮三文福井健太両氏に加え、講談社のA元さんも参加。場所は神田まつや、ここの蕎麦はうまかった。その後やぶに河岸を変え、喫茶店に寄ってから九時半ごろおとなしく解散。SFセミナーの企画の話ばかりしていたわけではありませんが、正式タイトルがほぼ決まりました。「中年ファンタジーの時代は来るのか?! 浅暮三文改造講座」です。次回はいづもそばの予定。


[2月25〜26日]
 まず新宿京王百貨店で目をつけていた黒猫のぬいぐるみを購入。ミーコの倍くらいある猫なので、M38星雲から娘のもとにやってきた母親のマイコと命名する。タグを見ると浅草で作っているらしい。「M38星雲は浅草生まれ」ってまるでゼンジー北京。
 四時半より滝沢別館で同文書院のKさんと打ち合わせ。既報の書評・エッセイ・評論集『夢の断片、悪夢の破片』のゲラを受け取る。このままでは四百ページに達しそうなので俳句時評などはカット、かなりの調整をすることになった。ほかにもクリアせねばならないハードルが多く、このゲラは大変。
 七時過ぎよりパセラでドルバッキー姉妹とカラオケ。人間は三人だが、ぬいぐるみは九匹(猫6、クラゲ2、カタツムリ1)という布陣。うちの番猫のピーターとドルバッキー妹のコッヒーの種類が同じなので、ミーコママと入れ替わりにさしあげる。初めて歌ったのは「バラ色の人生」「好き好き大好き」「祝い酒」「ちょこっとLOVE」「悲しみロケット2号」「モーター・ハミング」「これでいいのだ」「暑中お見舞い申し上げます」「ほおずき」「ハイヌーン」「買物ブギ」など。筋少は五曲分くらいカロリーを消費するかも。四時間歌い、例によって「暴いておやりよドルバッキー」を合唱してお開き。姉妹を連れて歌舞伎町のロフト・プラスワン(の座敷)に向かう。
 というわけで、零時より菊地秀行さんのトークライヴ。今回はユニバーサル以前の映画を特集。ジョン・バリモアの「ジキルとハイド」、スウェーデンのサバト映画など珍しい作品が多くて満足。ジャン・エプスタン監督の「アッシャー家の末裔」は久々に観たけれども、カーテンや振り子などのディテールがやはり秀逸。ただ、いい場面になるたびに酔っぱらったアシスタントの飯野さんが脈絡なく私に話を振るので閉口。二次会は十数人で上高地。よせばいいのに本番ではまじめなこともしゃべろうとしてややスタンスが曖昧だった飯野さんのエロパワーがここで爆発、あの言語内容で周囲を爆笑させるのだからもはや至芸でしょう。
 夕方からゲラ。予想どおり進まず、直接いただいたばかりのイダタツヒコ『HERALD』(講談社ヤンマガKC)に逃避。これは濃いです。やはりホラー坊主は二人いる。


[2月27日]
 海外SFの読了本は二冊。
 R・A・ラファティ『イースターワインに到着』(サンリオSF文庫)は真に独創的な作品。ポジティヴであれネガティヴであれ近代をバックボーンとしているのが普通のSFなのだが、ラファティは中世から神話に通じる肥沃な世界を背負っている。それでいてSFのガジェットはめちゃめちゃ濃い。おかげで読むのに時間がかかるし、骨格を楽しむタイプの読者には合わないと思うけど、個人的には満足。これのミステリ版(思考機械と名探偵の性格エキスとか)を猛然と書きたくなったのだが、書いている当人は楽しくともきっと売れないだろうな。
 ヤン・ヴァイス『迷宮1000』(創元推理文庫・品切)も満足した作品。いきなり記憶喪失の探偵が出てくるし(笑)、わけのわからない広告など前半はディテールが秀逸。ただ、やはりホラー読みをしてしまうため後半には不満が残る。

[2月28日]
 明日が精密検査につき、本日は検査食。仕方なく朝の七時に起きて白がゆを啜り、昼もおかゆ、夜はスープのみ。その間ひたすら規定どおりに下剤と水を飲み続ける。ほとんど拷問に近い。ゲラは予想どおり難航。


[2月29日]
 ひたすらタバコを我慢し、午後一時より某検診センターで大腸レントゲン検査。勤め人時代に受けた胃のバリウム検査を大掛かりにしたような感じだった。詳細な結果は来週だが大きな問題はなさそうだという話で、「ふえたこ日記」風に書けば、ほーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとする。帰宅後、とりあえず短篇を一本仕上げてメールで送る。
 さて、「幻想文学」57号が届きました。今回からレイアウトが変わり、タイトルに斜体がかかってますけど、中身は似たような感じです(笑)。例によって俳句時評を寄稿しています。特集は赤江瀑ですが、著作リストを見ると意外に寡作なんですね。全盛期がリアルタイムだったので多作のイメージがあったのですが。それにしても、書評欄に小説が少なくてOBとしてはちょっと寂しいかも。