[2000年4月]


[4月1日]
 朝から翻訳。午後は四日市工−明徳戦を見ながら荷造り。三重県勢が優勝候補になるなんて前代未聞だったのだが、惜しくも一点差負け。うーん、高知に負けたのは悔しいな。DASACONをパスしたことだし、夜もひたすら仕事。
 先月の執筆枚数はジャスト200枚。執筆お休みは10日(うち完全オフ3日)、一日当たりの平均執筆枚数は9.5枚でした。今月は引っ越しがあるからともかく、来月からは250枚に上げないとだめだな。


[4月2日]
 どうも「ネット接続一時間以内」が画餅に帰しつつある。まあ幻想的掲示板のイデア系ボードリーダーだから意図的にイデア関係の話を振らなきゃならない場合もあるんだけど(戦略的には思い切りワンパターン)、それにしても元の木阿弥だからなあ。諸悪の根源はナイトキャップの後の接続。「飲んだら見るな、書き込みするな」といずれ貼り紙でも出しておこう。我ながら意志薄弱だな。
 まだ三分の一だが、佐藤信夫『レトリックの意味論』(講談社学術文庫)を繙読中。内容はハードだけど文章を含めて刺激的。感想は読了後に。
[4月3日]
 先週に続いて引っ越し日記です。敷金・礼金・仲介金などを総合した決済金を振り込み、転居通知と新しい名刺を受け取る。『不可解な事件(仮)』はいよいよラストスパート態勢。夜のイベントについては秘書が書きます。
 みなさん、ごぶさたしてました。黒猫のぬいぐるみのミーコです。今日はママのマイコさんとクラニーといっしょに柴田よしきさんの屋形船オフに参加しました。集合は浅草橋の船宿、七時半から二時間です。柴田さんの掲示板の常連さん、作家さん、編集者さんなど、ぜんぶで五十人くらいいたんじゃないかにゃ? ミーコはおふねにのるのがはじめてだったので、ママにだっこしてもらって夜景を見てました。そのあと、いろんな人にかわいがっていただいて、お写真をいっぱいとってもらいました。みなさま、ありがとうございます。あ、ママとかわるね。
 皆様、始めまして、黒猫のぬひぐるみのマイコと申します。M38星雲(説明省略)にて学習した妾[わたし]の日本語は少々古く、お見苦しいかと存じますが、何卒ご寛恕を願ひます。扠、本日は久々に娘とクラニー様とともに外出致し、屋形船オフてふものに参加させて頂きました。様々な方々のご愛顧を賜りましたが、就中、図子慧様の娘さんが妾を殊の外お気に召され、おねむになつても妾を抱くと嬉しさうにされるのでかはいいものだと感じ入りました。といふわけで、今後とも娘ともども宜しくお願ひ申し上げます。あらあらかしこ。
 ふたたびミーコです。二次会は銀座のビッグエコー、十八人が参加しました。クラニーは「夏のお嬢さん」とか「さらばシベリア鉄道」太田裕美ヴァージョンとか歌ってました。年のせいで高音が出なくなっているので、津原さんの音域の広さがうらやましそうでした。それから、初対面の野間美由紀さんはずいぶんカラオケがお好きな方でした。けっきょく、二時ごろまで歌って解散しました。みなさん、おつかれさまでした。おわり。


[4月4日]
 昨日受け取った名刺に大きなミスがあることに気づき、作り直しを依頼する。版下のハガレ事故が生じたらしく、メールとHPのアドレスが昔のものに戻ってしまったのだ。校正者時代に何度か痛い目にあっており、自分が指摘する側に回るのは少し複雑な気分。午後は引っ越しの見積り、段ボールの追加分40箱は明日届く予定。見積りの最中に同文書院より『夢の断片、悪夢の破片』の再校ゲラが届く(副題は版元の意向により「倉阪鬼一郎のブックガイド」に決定。絶版書が多くて種々雑多だし、ブックガイドとして使えるかどうかはやや疑問なのですが)、ゴールデンウィークの前に刊行予定につき、実質中一日で見なければならない。うーん、いよいよピンチか。
 ノートパソコンに「飲んだら見るな、書き込むな。ネット接続は一日一時間以内」と記した紙を貼る。中学生とやってることが変わらないような気もするが、いまのところ効果あり。
 と、ここまで書いたときに衝撃的なニュースが飛びこんでくる。
 簡潔に伝えますと、廣済堂出版が文芸部門から完全撤退、著者校まで終わっていた異形コレクションの『帰還』は廣済堂出版からは出なくなりました。ただし、監修の井上雅彦さんが目下他社と交渉中、「異形コレクション」についてはいずれどこかで再スタートとなる模様です。残り1篇となっていた私の短篇集とハードカバー書き下ろし(未起稿)もいったん白紙となりました。
 以上、すでにWebに流れているので記しましたが、引っ越し直前に主要クライアントの一つがなくなるのは不吉かも。そう言えば、変名で書いた最初の共著は大陸書房だったし、第一句集の版元である弘栄堂書店は出版から撤退したし(自費出版だったけど)、今度は初めての文庫本を出していただいた廣済堂出版だし……ああ、気分を換えなきゃ。


[4月5日]
 気分を換えるも何も、朝から終日ひたすらゲラ。午前一時に終了。
 さて、「メフィスト」が届きました。「十三の黒い椅子」の連載第一回が掲載されています。外骨は決まっているけれども、細かい内骨を作って作中作も考えなければならない。この連載だけでも大変なのだが、とりあえず優先順位は先だな。


[4月6日]
 午前八時起床、ゲラを速達小包で送ったあと、御茶ノ水の某検診センターへ赴き検査の結果を聞く。大腸ポリーブからガン一歩手前の細胞が検出されたものの進行が遅く、手術は半年後となった。うーん、どうも厭な感じ。区が変わったら胃の検診も受けておいたほうが無難かも。
 そのあと三省堂へ行くと、平積みの『ブラッド』にPOPがいくつか立っており、サイン会の告知がなされていた。まるで交番の前を通りかかった犯罪者のような気分(笑)。いちおう日時は下記のとおりです。
 4月14日(金)神田神保町・三省堂書店本店 18:00〜19:00 ゲストは黒猫のぬいぐるみのミーコとカタツムリのぬいぐるみのスワーリー。
 帰宅後はひたすら荷造り。やっと部屋から本がなくなったのだが、横二畳分のキッチンが古本屋状態。いつ終わるのだろう? ワセミスだったら現役の後輩を呼んで手伝ってもらったりできるんだろうけど、幻想文学会は重い物を持たせたらギックリ腰を起こしそうなOBだけだからなあ。
 悪いニュースばかりではなく、前にもオファーがあった某社から短篇集の件で電話あり。企画が通れば今年中に出せそうです。そうなると、今年はMAX9冊……いったいどうなってるんだ?


[4月7日]
 午前中は執筆、鬱陶しくなってきたので散髪に行ったあと午後はひたすら荷造り、やっと本を詰め終わる。最後にまたバッグ一杯分の本を売って八合目まで完了。明日は転居通知だな。
 特集「作家に学ぶ『就職』成功術」の「ダ・ヴィンチ」が届いたのでひと言。作家は「就職」するものではありません。「初めに(自分の)小説ありき」が基本です。それにしても、作家の年収のモデルケースには思わず笑ってしまった。CMに出ている作家って何人いるのだろう?
 読了本は二冊。森英俊/野村宏平編『乱歩の選んだベスト・ホラー』(ちくま文庫)はE・F・ベンスン「歩く疫病」の初訳が事件。これはもう後ろ向きの怪奇小説で、終盤は怪奇マインドをいたく刺激された。巻頭の江戸川乱歩「怪談入門」は当時としては驚異的な充実ぶりだけれども、分類などについては割り引いて見なければならない部分もあるでしょう。やはり怪談と言えばゴーストストーリーですから。秋山裕美『[図説]拷問全書』(原書房)は、文章やディテールにもう少し鬼畜度があればという勝手な読後感。


[4月8日]
 朝から転居通知の宛て名書き。一筆添えている余裕がないので、愛想がなくて恐縮。ノートパソコンは明日荷造り、しばらくメールが読めなくなります。当日は電話とFAXも不通、お急ぎの方はPHSにお願いします。掲示板の「ブラッド」関連のレスはしばしお待ちください。
 では、次回の「新居篇」をお楽しみに。
[4月9日]
 まずは昨日の日記の続き。夕方、同文書院より『夢の断片、悪夢の破片』の索引のFAXが来る。今日中に直して印刷所へ渡さないと間に合わないという話なので、項目だけをトップスピードでチェックして戻す。索引の校正の経験は豊富なのだが役に立たず。とりあえずフォン・ユンツト『無名祭祀書』を索引から消せたからOKか。それから、担当さんも私も確証を得られなかったのだが、角田喜久雄「紅座の庖厨」の紅座は「くれないざ」と「べにざ」のどちらが正しいのだろう? なお、同書は約330ページ、1800円で今月末に発売予定です。ひと月に二冊も本を出すのは大変。
 続いて、今日の日記。書き下ろし短篇集『不可解な事件(仮)』の最終話「湖畔にて」58枚を脱稿しプリントアウト。来週、新居の整理のかたわら手を入れれば完成する見込み。続いて荷造りの追いこみに移り、夕方に完了。いよいよ明日は引っ越しである。


[4月10日]
 というわけで午後七時、新居よりお伝えしています。いやー、2LDKは夢のように広い。使用できる壁の面積(長さ)が推定四倍になると、ここまで違うものだろうか。しかもすこぶる閑静、これなら落ち着いて仕事できそう。まだ段ボールを開けている途中なので今日はこれだけ。あ、秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。おひっこしがおわりました。ミーコは旅館みたいな和室でくつろいでいます。どくしんで入っているのはクラニーだけなので、とっても広いです。「これで嫁がいたら完璧だったのに」とクラニーはいってます(笑)。じゃあ、またね。


[4月11日]
 六時半に目が覚めたので午前中は段ボールを開けていたのだが、腰が痛くなって断念。ガスの開栓に立ち会ったあと、転入届を出す。前にも住んだことがあるけれども、荒川区はまだ「川の手」キャンペーンをやっているようだ。町名が七つしかないマイナーな区がいくら気勢を上げても「山の手」の塁を摩するのは不能だと思うんだけど。昼食後は北千住、イトーヨーカドーで大量に商品を発注する。羽毛3点セットにマットレス、休憩用の折り畳み式ベッド、照明3種類(部屋にあるのはショールーム用らしい)、それに特筆すべきは木製フリーボックス15個(すべて本箱)。店員さんが一瞬絶句していた。その後、日比谷線で秋葉原へ回り、BS内蔵テレビを買う……つもりだったのだが、やはり一時から相撲を見そうだし、いまのテレビはまだ映りがいいしと考え直す。懸案の電子レンジ(置き場所がなかった)も見ただけで今日のところは買わず、五千円の電気スタンドのみ購入。気合を入れて三十万も下ろしたのに、つくづく貧乏性である。
 なんとなく釈然としないので、いったん帰宅後に三河島へ再出陣。ずいぶん前に幻想文学会の私的イベントで使った店の前を通る。まだほとんど知られていなかった目黒の寄生虫博物館を訪れるなど、昔の幻文は人がやらないようなイベントを好んでやっていたのだが、この店では犬を食った(私は偏食なのでナムルしか食さず)。懐かしいけれども、ちょっと痛い青春の思い出もあったりする。商店街の雑貨屋で大量に物を購入、今日はひたすら歩いた。おかげで体脂肪率は自己ベストの12.5%を記録、やはり歩くのが基本かも。というわけで、明日は三ノ輪の予定。


[4月12日]
 今日も七時に目が覚める。ボックスが届かないことには残り30箱の段ボールを開けられないので、午前中は徳間書店からゴーサインが出た短篇集のデータを揃える。とりあえず向こう一週間は推敲がメイン。
 今日はまず徒歩二分の日暮里図書館へ行き、資料類をチェック。翻訳の調べ物にはあまり使えそうにないけれども、諸漢があるからOKか。二階には吉村昭コーナーがあり、自筆原稿などが展示されていた。八割方読んでいるのに失念していたのだが、吉村昭は日暮里生まれなのだ。還暦祝いに作られた門外不出限定十五部の句集もあった。市場に出たらかなりの高値がつくだろう。そのあと三ノ輪まで歩き、イトーヨーカドーで書斎兼仕事場用のカーテンを買う。昼食は三ノ輪の砂場、これも幻文の有志で行ったことがある店。砂場は室町などが有名だが、ここが本家らしい。久々に都電に乗って町屋へ(いずれミーコを連れて荒川遊園へ行こう)。徒歩で戻る途中、大きな家具屋を発見、ダイニングセットの下見をする。帰宅後はインタビューのチェックや『不可解な事件(仮)』の推敲など。


[4月13日]
 昼すぎにイトーヨーカドーから荷物が届く。ボックスを五つ組み立てるのは疲れるな。月曜には残りの十個が届くのだが。とりあえず洋書を全部出し、残りの段ボールは21となった。その後、連作書き下ろし短篇集『不可解な事件(仮)』をついに脱稿、FD作成。間髪を入れず、短篇集『屍船(仮)』の推敲のためにプリントアウトしようとしたところで息切れする。今日もかなり疲れたのだが、明日はサイン会……。


[4月14日]
 朝、親からの電話でたたき起こされる。まだ整理がついていないから今度にしてほしいと言ったのに、旅行のついでに押しかけてきたらしい。新居にはいたく満足そうで、ミーコと記念写真を撮って帰っていった。サイン会に備えてもう少し寝たかったのだが。午前中は短篇集『屍船』の原稿を最後までプリントアウト。家にいても落ち着かないので、風呂に入ってから早めに出る。三省堂の文具売り場でペンを買おうとしたらサイン会のアナウンスが流れてきて居心地が悪くなり、万引きでもしたみたいにすぐ逃げる。時間をつぶしたあと、五時に三省堂2FのピッコロでC塚さんと待ち合わせ、さらに販売の方々と対面、七階の控室へ。このあたりは極度の緊張状態。六時に開始、いざ始まってしまえばどうということはなかった。ただ、引っ越しの整理で指をケガしていたため字はいまひとつだったかも。はるばる関西から見えた方や複数の著書をお持ちくださった方もおり、やはりファンがいるんだなと再認識。結局、来場者は92名、岩井志麻子さん、五條瑛さん、森英俊さんなどの姿も。みなさん、ありがとうございました。では、秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。クラニーの肩にのってました。ミーコのおともだちもけっこうきてくださいました。ドルバッキー姉妹からカタツムリのぬいぐるみ、ファンのSさんから恐竜のぬいぐるみ、五條さんからお花をちょうだいしました。ありがとうございます。
 二次会は約二十名で出雲そば。『ブラッド』の装幀をしていただいた妹尾浩也さんとは三年ぶり。ほかに浅暮三文・A元(講談社)・千街晶之・福井健太といった面々も合流。岩井・五條両嬢はAV女優の話などで盛り上がっていた。困った人たちである。どうでもいいけど、やはり「双頭の蛇」は私のことだったのね(何のことかわからない方は森菜津子嬢の日記をお読みください)。その後、集英社のC塚・K原コンビ、「元禄名槍譜 俵星玄蕃」でおなじみのAZMさん、シマコ嬢(初めて聴いた歌が「満州娘」)、福井とともに御茶ノ水のパセラ。シマコ嬢は相変わらず「県境を股にかけた男泥棒」とか「逆×××××」とか詳しく書けない話で飛ばしていた。軽く三時間ほど歌って(笑)タクシーで帰宅。みなさん、お疲れさまでした。


[4月15日]
 午前中はエッセイ。食い物随筆はいかにも不向きなのだが、これはそれなりに面白いかも。午後は長篇に戻るも調子出ず。夕方は勝手知ったる谷中まで足を延ばし、靴やトレーナーなどを購入。行動半径が広いような狭いような……やはり狭いな。夜は短篇集の推敲に着手。


[4月16日]
 読了本は三冊。佐藤信夫『レトリックの意味論』(講談社学術文庫)を読んだおかげで、丸山圭三郎経由でソシュールに接したときに感じたそこはかとない不満が解消されたような気がするが、個人的な最大の収穫はP164の「颯爽」の使い方だったりする。文章レベルなら次の一文だろうか(図がないとわかりにくいんだけど)。「そして、これは格別に重要なことだが、ときどき、『非論理的な』ただの布置(B)は、いわゆる『論理的な』統語構造(C…F)よりも、(いっそう詩的だからではなく!)Aを歪曲する度合いが少ないがゆえに現実を論理的にいっそう正確に−−あるいは、より少ない誤差をもって−−記述しうるのであった」(P347)。これはホラー論と俳論の両方に使えるぞ。市川浩『〈身〉の構造』(講談社学術文庫)も丸山圭三郎経由、講演録なのですこぶる読みやすい。癒合的同一化と星雲状複合体のくだりがスリリング。その用語を使えば〈身分け〉された読書・蒐書体験を綴ったのが牧眞司『ブックハンターの冒険』(学陽書房)。これは面白くて一気読み。おかげでまた小説読みたいモードになってきた。創土社のルヴェルとか買い逃してるんだよな。なお、最後のほうにちらっと私も登場しています。
[4月17日]
 残りのボックス十個が届く。四つ組み立てたところで中断、日暮里の喫茶店で幻冬舎のS儀さんと打ち合わせ、『不可解な事件』の原稿を渡す。刊行は六月か七月になる模様。あとは次のミステリの話など。要するに「虚無への供物」みたいなものを書けばいいらしい。そう軽く言われても(笑)。戻ってからボックスを四つ組み立て、仕事場の段ボールから本を出す。夕食後、折り畳み式ベッドを組み立てる。これは現品限りに飛びついて正解だったかも。残りの二つのボックスを組み立て、段ボールの整理をし、本を全部出そうとしたのだが、残り七箱で腰が痛くなってダウン。
 さて、「小説すばる」5月号が届きました。「渓谷の手」という40枚の短篇を寄稿しています。かなり力が入っているゆるやかな連作はこれでいよいよ折り返し、残り五篇となりました。そろそろ次も着手せねば(文芸ホラー短篇は時間がかかるのです)。


[4月18日]
 今日は資源ゴミの日につき、七時に起きて大量の段ボールを出す。残りの七箱も開け、ついに部屋から段ボールがなくなる。すると急にDKが殺風景になったので、目をつけていた家具屋へ赴きダイニングセットとスライド式本棚を発注する。それにしても、ボックスを十五個追加しても本が入りきらないとは。配列を含めると今月いっぱいかかりそう。その後、西日暮里まで歩き(よさげな蕎麦屋多し)、馬場へ回る。AOKIでスラックスを注文、U.S.VAN・VANで例によって黒い服ばかり大量に購入。一部でダンディとか言われてるんですけど、私の衣装はだいたいこの二店で賄ってますから金かかってません(笑)。夜はやっと仕事モード。


[4月19日]
 四時より同文書院のKさんと打ち合わせ、『夢の断片、悪夢の破片 倉阪鬼一郎のブックガイド』の見本を受け取る。裏帯の「ロバート・エイクマ」と正誤表つきの索引はちょっと割引なんですが、期待以上の装幀でした。書影の扱い方が凝っています。どの本も見本ができると嬉しいんですけど、本書は二十年かかっていますからとりわけ感慨がありますね。週明けには大書店に並びます。帰宅後はあさって渡す短篇集の追い込み。


[4月20日]
 朝から短篇集『屍船』の仕上げ、午後にFDを作成。完成祝いに歩いて根岸の笹乃雪へ赴き、4300円のコースを食す。さすがに創業三百年、下足番のおじいさんまでいる。旅館みたいな構えゆえ自分で靴を下駄箱に入れようとしたら「お客様、それは手前が」とばかりに飛んできたので少々うろたえた。四時前だったから座敷はほぼ貸し切り状態。ここの豆富(豆腐ではない)は久々に食べたのだが、デザートの豆富アイスともども美味だった。ただ、単品で攻めるのが正しいような気もする。夜は現在進行中の長篇を読み直し、今後の作戦を考える。相変わらず読むのは自分の小説ばかりなり。


[4月21日]
 朝からトップスピードで短篇集のあとがきを執筆。四時半より新宿で徳間書店のK地さんと打ち合わせ、一式を渡す。『屍船』は八月刊行で進行するようです。紀伊国屋で合流した面々とともに六時半より幻想的掲示板オフの「恐怖の会」へ。32名が参加。初対面は謎宮会の精鋭トリオ(電圧高し)など。誰と何の話をしたか、すでに記憶が薄れている。二次会はパセラで歌部屋と話部屋、三次会は十名余で再びパセラ。弟のブラニーと「あずさ2号」をデュエットしてしまった(「悲しみロケット2号」も)。顔は似てないけど声質が同じで(ただし私のほうが邪悪)、ドルビーだとかなりうるさいらしい。あ、秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。ミーコも一曲だけ「やぎさんゆうびん」をうたおうとしました。でも、ちゃんと「ミーコがうたいます」とごあいさつしたのに、笹川吉晴さんがなんのことわりもなく割りこんできてマイクをもって普通にヘタクソにうたいはじめたので、ミーコはうたえませんでした。ずいぶんまえからきんちょうして準備をしてからうたいだしたのに、とってもひどいです。かねてより笹川さんの傍若無人なカラオケにむっとしていたクラニーは、激怒してライターを投げつけてました。怒って物を投げたのは『活字狂想曲』でおなじみの二穴パンチ事件以来だそうです(ふだんは温厚なんですけど)。とにかく、みなさんおつかれさまでした。
 というわけで、「恐怖の会」は癖の多い面々が揃うから不穏な事が起きねばいいなと案じていたのだが、自分がいちばん不穏だったというお粗末。大変失礼いたしました。雰囲気を壊してしまい、反省しております。ただ、笹川君のほうが反省点は多いと思うし、一生忘れないかも(笑)。


[4月22日]
『血の12幻想』(エニックス・1429円+税)が届きました。平背がとても美しいですね。「爪」という30枚弱の短篇を寄稿しています。作家単位のコンセプトはバラバラなんですけど、私は「ハードカバーのアンソロジーでテーマが血だから気合の入った文芸ホラーを」という方針で執筆しました。なお、著者紹介には血液型が記されているのですが、A型8、AB型2、B型1、O型1、と異様にA型が多い。ちなみに、私はかなりA型の典型だと思います。
 国書刊行会より「ミステリーの本棚」(全6巻)の内容見本も届きました。うーん、明日から翻訳も再開せねば。ラインナップは下記のとおりです。
 1 G・K・チェスタトン 西崎憲訳『四人の申し分なき重罪人』
 2 E・C・ベントリー 好野理恵訳『トレント乗り出す』(6月刊)
 3 R・L・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン 千葉康樹訳『箱ちがい』
 4 ヒュー・ウォルポール 倉阪鬼一郎訳『銀の仮面』
 5 フレデリック・アーヴィング・アンダースン 駒瀬裕子訳『怪盗ゴダールの冒険』
 6 パーシヴァル・ワイルド 巴妙子訳『悪党どものお楽しみ』 
 もう一つ、推理作家協会の会報も届いています。新入会員案内のコーナーに「コウモリより」というエッセイを寄稿しました(そういえば、昨日コウモリのぬいぐるみを二つ購入、バット君、バティちゃんと命名ずみ)。ついでに記すと、日本的共同体にはうんざりにつき(むろん私の内部にもそういう要素はありますが)、「ホラー村」「ミステリ村」「SF村」のたぐいには今後ともコウモリは深入りしませんのであしからず。フレームは当事者間でやるように。何の関係もない少女小説界がいちばんいいかも(笑)。


[4月23日]
 というわけで、朝から翻訳、その後小説。やっと執筆モード再開といったところ。
 読了本は三冊。土屋賢二『われ笑う、ゆえにわれあり』(文春文庫)は文体が好ましい(続けて読むと飽きそうだが)。「わたしのプロフィール」がベストか。ミステリファンにおすすめ。関川左木夫『本の美しさを求めて』(昭和出版)は書影多数。モシャー本のフランシス・トムスンとか欲しいけど高いんだろうな。杉浦日向子とソ連編著『ソバ屋で憩う−悦楽の名店ガイド101』(新潮文庫)は私もソバ食いなので参考になるけど、やはり遠くの名店より近くのソバ屋が基本でしょう。近所は幸いにも店数豊富。ああ、来週は小説も読まねば。
[4月24日]
 どうも六月に大きな山が来そうなので、とりあえず三つの短篇のプロットを考えはじめる。長篇に戻るも進まず、これまたとりあえずエッセイを送付。その後、本の整理の続きに着手するも途中で挫折。私はコンプリート趣味が希薄なのだが、シリーズはちゃんと番号順に並んでいないと落ち着かない性分だから時間がかかってしまう。夜は「メフィスト」の連載を読み返し、自分が張った伏線を忘れないように附箋をつける。翻訳の下調べなどもあるし、どうしてこんなにやることがたくさんあるのだろう(無駄なことまでやっているような気もするけど)。


[4月25日]
 夕方まで仕事したあと、竹本さんの仕事場にお邪魔して久々に碁を打つ。一局目は終盤に差が開いて16目負け、二局目が9目負け、前回よりいい碁が打てたように思われる。逆に、福井君との初手合い(四子局)は連勝したものの我ながら不出来。どうも置き石の圧迫感があり、無理な手を打って墓穴を掘ることが多かった。ふだん通り厚く打ち、徐々に差を詰めるのが正しいようだ。というわけで朝の六時前に解散、お疲れさまでした。


[4月26日]
 今週の打ち合わせに備えて半年ぶりに「執筆予定」を作成、しばらく呆然とする。今年は9冊ほぼ確定、来年も翻訳を含めて現時点でMAX8冊になっている。うーん、いつのまに引き受けてしまったのだろう(謎)。どうもマネジメント能力に欠けるかも。かと言って、秘書猫は代わりにやってくれないしなあ……。
 さて、八年前に出した第二短篇集『怪奇十三夜』(アトリエOCTA)が、ついに、やっと、ようやく品切になった模様です。まだ一部の書店にはあるようですけど。


[4月27日]
 家具屋からダイニング・テーブルとスライド式本棚が届く。テーブルはノートパソコン台としても使えるように横長のものにした。さっそく得意の(ほとんどこれしか作れない)目玉焼き入り野菜焼きそばを作り、前の椅子にミーコとマイコを座らせて食す。なんだか幸せな気分(ちなみに玄関には黒い招き猫が鎮座しています)。続いてひたすら本の整理、五十音順の並べ換えまで済ませる。分類にやや首をかしげる点はあるのだが、いちおう落着。これでやっと自宅でインタビューを受けられる。夕方は雑貨屋でむやみに物を購入、あとは電子レンジを買えば終了か。
 とりあえず自分が書いているアンソロジーを二冊読了。断るまでもないのですが、感想はスクエアに書こうとしているので敬称は略します。まず、大多和伴彦編『憑き者』(アスキー)は、コンセプト上サイコスリラーが多いのはやむを得ないところなのだが、本格ホラーの収穫もある。小林泰三「家に棲むもの」はオーソドックスな枠組みにナスティな要素を配合、そこはかとなくクトゥルー味も効かせた正攻法の作品で、とにかく読ませる。図子慧「地下室」も苦みのある乾いたジェントル・ゴーストストーリーで収穫。怪談ではないが、若竹七海「バベル島」も怪奇小説ファンの琴線に触れるかも。境界作(いろいろな意味での)では山田正紀「バーバー」。もともと床屋物はツボなのだが、配合されている理屈が電波系で好ましい。サイコスリラー系では、「おお、増淵倉吉!」と口走ってもごく一部にしか通じないかもしれない田中哲弥「はかない願い」、デジタルと見せかけて実はアナログでその部分がかなりツボだった西澤保彦「未開封」、H・G・ルイスを彷彿させるセンスが心地いい霞流一「スティーム・コップ」がベスト3。続いて、津原泰水監修『血の12幻想』(エニックス)。うーん、ほんとにバラバラ(笑)。ベストは菊地秀行「早船の死」。ウエットに流れるとどうかなという題材なのだが、乾いた文体が効果的で勉強になる。ラストもいい。「わらい」のほうでは両田中が持ち味を出している。そちらは全然考えなかったな(監修者も今回はお笑い系)。


[4月28日]
 馬場で野暮用を済ませたあと、芳林堂で買い逃していた本を購入、七時よりジャンナンでエニックスのA島さん、H澤さんと打ち合わせ。仕事では初めてだが、学生時代から使っている喫茶店である。それもあって、H澤さんを浅羽通明と間違えてしまう。失礼しました(でも、よく似てるよなあ)。さて、同社のホラー&ファンタジーノベル長篇書き下ろしシリーズが年内からスタートします。私は来秋の刊行予定で、とりあえず秋からプロット。
 帰宅すると、集英社のC塚さんからサイン会の写真が届いていた。これを見ると、私のバックには金屏風があり、さらに大きな赤い文字で「倉阪鬼一郎さんサイン会」と看板が出ている。緊張のあまり全然目に入っていませんでした(笑)。なんとなくミステリ風の一日だったかも。


[4月29日]
 連載のプロットを煮詰め、とりあえず三つの短篇を起稿したあと、まず神保町へ。古典SF研究会に出席、長山靖生さんにサイン……だけかと思いきや、ドクター中山が登場する箇所を原稿用紙に清書させられる(笑)。酔狂にも額に入れて飾るらしい。なお、「未来趣味」8号が出ています。今回の特集はコナン・ドイル、詳細を極めた邦訳書誌などが満載。その後新宿へ移動、パセラで半日過ごすことになるのだが、これは秘書より。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。七時からドルバッキー姉妹とカラオケでした。クラニーVSアズレーの演歌デスマッチも予定されていたのですが、アズレーがドタキャンしたのでいつものドルバッキー・カラオケでした。ぬいぐるみは猫キャンディーズ(ミーコ、ルリ、コッヒー)にマイコさん、マミーちゃん(以上、猫)、スワーリー、マリ、タマコ(以上カタツムリ)、バット、バティ(以上コウモリ)、クラリモンドとなんだっけ?(以上クラゲ)、ネオン(タツノオトシゴ)などが出席しました。クラニーは「ジャワのマンゴ売り」「御案内」「STONE」などを発見して喜んでました。
 十一時まで四時間うたったあと、西澤保彦さんの観劇オフのあとのおとまりカラオケに参加しました。60人部屋にずいぶんたくさん人がいました。C塚さんの掲示板でおはなししてる西澤さんちのぽちちゃんとは初対面でした。とっても小さくてかわいい猫のぬいぐるみです。ミーコは図子慧さん、光原百合さん、大地洋子さん、たれきゅんさんなどのかたがたにかわいがっていただきました。同じカラオケでもクラニーのファンとはずいぶんノリが違い、アニソンが主体でした。クラニーは西澤さんと何曲かデュエット、「恋のバカンス」では三回もキスしてました。ともに男とキスしたのは初体験だったそうです(笑)。夜が明けても、満を持していた野間美由紀さんが飛ばしはじめたりして歌がとぎれません。けっきょく、飛行機の時間がある西澤さんたちといっしょに六時半ごろ出ました。みなさん、おつかれさまでした。


[4月30日]
 というわけで、昼過ぎまで寝たもののよれよれ状態でお休み。
 その後の読了本は近藤誠『それでもがん検診受けますか』(文春文庫)のみ。秋に予定されている大腸ポリープの内視鏡手術は頬被りしようかな? 先に読んでいれば検診も受けなかったかも。ただ、体験取材にはなるし、病院にはナースがたくさんいるし(この記述はいかがなものか)、いろいろと悩ましいところである。