[8月1日]
 長篇Bは粗書き・仕上げの二段階方式を採用するつもりだったのだが、どうもこれは向いていないようだ。いざやってみると落ち着かない。従来どおり、ある程度完成させてからさらに推敲というスタイルにしよう。


[8月2日]
 生まれて初めて薬用不老林を買う。まだ髪の毛はふんだんにありますが、白髪が少し増えてきたし、転ばぬ先の杖といったところ。ちなみに、昔の幻文のメンバーが集まるとなぜか必ずハゲ話が出ました。


[8月3日]
 SF大会に備えてJ・C・ポーイス『モーウィン』(創元推理文庫、品切)と『ひかわ玲子のファンタジー私説』(東京書籍)を読了。どうも予定のところまで読めそうにない。それにしても、私はジャンル・ファンタジーの読書量が致命的に足りないな。


[8月4日]
 ミーコとミミを連れて横浜のSF大会Zero−CONへ。まず伊勢佐木町ワシントンホテルにチェックイン、横浜スタジアムへ赴き久々に野球観戦(横浜−中日)。両軍併せて27安打の乱打戦、9−0から逆転されるかと思ったが中日が10−7で逃げ切る。岩瀬とギャラードを見られたからOKでしょう。やはりギャラードはペタンコートとは違うな。


[8月5日]
 前日も寝不足だったのでぐっすり眠れるかと思いきや、どうも旅なれないので寝つきが悪い。おまけにふだんは使わないヘアクリームがべたべたして不愉快、気分の悪い状態で会場のパシフィコ横浜へ。オープニングから参加したけれども、ずいぶん大がかりなものである。企画はまず座談会SFの20世紀パート1へ。戦前篇なので前のほうは古典SF研究会のメンバーがほとんど。スライドは貴重なものが多く、最前列で目の保養をする。次は秘書より。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコは「ぬいぐるみ参加者の部屋」へいきました。新井素子さんのワニさんをはじめ、おともだちがたくさんいました。ミーコはミミちゃんといっしょにお写真をとってもらい、いろんな方にかわいがっていただきました。うれしいにゃ。うちでおるすばんをしていたカタツムリやコウモリもつれていけばよかったです。またあそんでね。
 遅い昼食のあと、座談会SFの20世紀パート3へ。小松左京、石川喬司、豊田有恒、森優などのお歴々が出演、高橋良平さんが最も若手という恐ろしいメンバー。この企画はSFセミナーなら満員になると思うのだが、入りはいまひとつ。やはり客層が違うんだろうな。座談会の途中、日本SF作家クラブ設立準備座談会の秘蔵テープが流される。福島正実などの肉声が延々と入っていて非常に面白かった。
 さて、六時から最初のパネラー。「ひかわ玲子のファンタジー私説」に妹尾ゆふ子(初対面)、五代ゆう、牧野修、早見裕司の各氏とともに参加。最初からかなりガス欠状態だったのだが、飛び入りで参加した隣の早見さんがどんどんしゃべってくれるし、「私はこれだけ発言したらいいか」と思った瞬間に睡魔に襲われる。おかげでひかわさんの質問にすぐ答えられず立ち往生、あとで聞くとパネラーの皆さんは心配されていたらしい。申し訳なかったです。ホラーの話ならガス欠でもどうにかなるんだけど……。
 というわけで、終了後は速攻でタクシーに乗り、同じ伊勢佐木町のセントラルイン横浜にチェックイン。わりと歴史のある蕎麦屋で夕食を済ませたあと、しばらく散歩してからホテルに戻る。国道沿いにさながらラーメン屋の趣でむやみにヘルスがあるのは奇観だった。早めに十一時に就寝。


[8月6日]
 昨日の失敗に鑑み、ホテルで練習してから会場へ。まず座談会SFの20世紀パート5へ。森下一仁さんのテンポのいい司会で70年代後半から80年代にかけての話が語られる。当時のSFブームと現在のホラーブームはクロスする部分があるから興味深く拝聴。
 続いて十二時半から二つ目のパネラー。ジャンル対抗〈最強〉決定戦にホラー代表として臨む。テーマは悪者で、私がエントリーしたのはジョン・クーパー・ポウイスの邪悪な吸血鬼短篇「ロマー・マウル」の主人公ロマー・マウル。予想どおり下馬評では最下位だったのだが、「田舎の県立高校が番狂わせで甲子園に出場、正しい野球をして敗退し横浜の土を拾って帰る(矛盾)」という方針につき、これはやむなしといったところ。だいたい客層を考えて選ぶような人ならもっと本が売れてます。一回戦の相手は菅浩江さん(ほとんど初対面)の「ピーター・パン」のウェンディ。わりといい勝負でしたが、実はべつにロマー・マウルが悪者だとは思っていなかったりするので、そのあたりも減点材料で敗退。ホラーは牧野さんもファンタジーの高野史緒さんに一回戦負け、上品で奥ゆかしい結果となりました。来年のテーマが善人だったらリベンジの候補作は決まってるんですが。一回戦最大の番狂わせは、なぜかミステリー代表の田中啓文さんが駄洒落一発で優勝候補の野尻抱介さんを破ったことでしょう。いわゆるラッキーパンチというやつですな。一回戦の好カード、山田正紀(SF)vs我孫子武丸(ミステリー)は山田さんの「エイリアン」のリプリィが三回戦分のレジュメつきの凝りよう、我孫子さんも戦意喪失ぎみでSFの圧勝。そのまま順調に勝ち進み、決勝でウェンディを僅差で破って優勝、司会の大森さんより優勝賞品の韓国海苔が贈呈されました。おめでとうございます。
 続いて「日本人補完計画」という奇妙な三本立て企画を見たあと、エンディングの途中で退場。中華は駄目なので中華街に繰り出す人々と別れて単独行動、横浜そごうのぬいぐるみショップ→相鉄ジョイナス地下の蕎麦屋で夕食(横浜でも蕎麦ばかり食べていた)→猫グッズショップで1万円散財という経路をたどって帰宅。では、再び秘書です。
 えっと、クラニーがまたおともだちを買ってくれました。コラットのみどりちゃんです。目がきみどりだし、横浜で買ったやせた猫なので、木之内みどり「横浜いれぶん」にちなんだのだそうです。それから、ミーコにはダヤンのついた二千円もする赤い首輪を買ってくれました。同じく二千円するエメラルド風の首飾りもつけてくれました。ミーコ姫はすっかりゴージャス系にへんしんしました。おふるのおリボンはミミちゃんにあげました。とってもよく似合います。じゃあ、またね。
[8月7日]
 長篇Aに戻るも、二日間のブランクとSF大会の反動で調子出ず。しかし、考えてみたら長篇リニューアルを優先しなければならないのだった。私は同時進行したほうが調子が出るという珍しいタイプなのですが、長篇ばかりはつらいかも。
 さて、「メフィスト」が届いております。「十三の黒い椅子」連載第二回が掲載されています。また伏線を張ったところに附箋をつけておいて、次のプロットにもそろそろ着手せねば。長篇の中にアンソロジーが一冊入っていて作中作は文体の違う独立した短篇として読めるというスタイルだから、短篇のプロットも同時に作らなければならないのです。


[8月8日]
 長篇リニューアルがやっと軌道に乗りはじめる。夕方はコインランドリー、芸なくまた蕎麦を食べたあと長篇Aに戻る。


[8月9日]
 エッセイの原稿を送ったあと、ミーコ姫とミミちゃんを連れて上野の鈴本演芸場へ。ドルバッキー姉妹さんと落語を聞く。記憶にないから寄席は初めてかもしれない。前座の落語と漫才はついに笑うところがなかったのだが(まんがカルテットのほうがずっと面白い)、独楽回しと粋曲は満足。本日のお目当ては露の五郎師匠の「お岩さまの死」。櫛に絡まった髪の毛を取るシーンなど、さすがに芸が細かく堪能しました。では、秘書です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。「お岩さまの死」がおわったあとドルバッキー妹さんがとつぜん号泣しはじめたので、みんなおろおろしてました。話をきくと、「お岩さんがかわいそう」と感極まったのだそうです。わるものの伊右衛門に肩入れしてみていたクラニーは理由がさっぱりわからずうろたえてました。
 その後は御徒町のパセラ。「元禄名槍譜 俵星玄蕃」に浪曲と台詞が入っていなかったのはいかがなものか。歌だけなのはただの「俵星玄蕃」であり「元禄名槍譜」を冠することはできないはず。厳しく糾弾しておきたい。初めて歌ったのは「祝い酒(全英語詞)」。またレパートリーが増えたぞ、ふっふっ。


[8月10日]
「週刊小説」8/25号が届きました。ミステリー・ベスト10のアンケートに答えているのですが、これは「このミス」みたいに全員の回答が掲載されるんじゃないんですね。「オルファクトグラム」の主な推奨者のところに名前が載ってるんですけど1位ではなかったりするので、いちおう私のベスト10をここに記しておきます(期間は去年の12月から今年の6月末)。
(1)福澤徹三「幻日」
(2)若竹七海「遺品」
(3)小池真理子「ノスタルジア」
(4)篠田節子「第4の神話」
(5)井上夢人「オルファクトグラム」
(6)恩田陸「月の裏側」
(7)有栖川有栖「幽霊刑事」
(8)貫井徳郎「妖奇切断譜」
(9)歌野晶午「安達ケ原の鬼密室」
(10)高橋克彦「蒼い記憶」
 広く構えたミステリーなので(怪奇小説系は含め、モダンホラーは原則として除くという方針)、まあこんな感じです。最後まで迷ったのは「美濃牛」と「象牙色の眠り」でした。ベスト選びは難しいっす。


[8月11日]
 東京創元社より共編訳アンソロジー『淑やかな悪夢−英米女流怪談集』のゲラが届く。ついに、やっと、ようやく、今度こそ(くどいな)出るらしい。いちおう十月刊行の予定です。
『山尾悠子作品集成』(国書刊行会)を読了。「世界は言葉でできている」というフレーズは一部で有名ですが、できればあと二行付け足したいところ。
 世界は言葉でできている。
 しかし、世界は崩壊する。
 崩壊する世界は美しい。
 これは私のミステリのイデアめいたものともそこはかとなくクロスしてくるんですけど、まあそんな話はどうでもいいので、五部構成を順に。
 I「夢の棲む街」は久々に再読。わりと穏当に表題作と「遠近法」を選びます。「夢の棲む街」は〈薔薇色の脚〉より断然〈天使〉でしょう。
 II「耶路庭国異聞」では「黒金」がベスト。どこにあるとも知れない毛深い部屋、ひたすら硬質でエロティック。「触」のラストも忘れ難い。
 III「破壊王」はちょっと私が戻りたくない世界かも。いや、昔は三島由紀夫とか全部読んでいたのですが、資質に合わないと判断して振り払ったもので。硬質なSFのガジェットが出てくるほうが個人的には好みです。
 IV「掌篇集・綴れ織」のベストは「眠れる美女」。シュオッブより完璧。小品ながら「天使論」も印象に残る。あとは穏当に「傳説」と「月齢」。
 V「ゴーレム」はせんじ詰めれば〈赤い本〉……と思うのは私だけか。
 というわけで、またむらむらとパスティーシュをやりたくなってきたクラニーでした。


[8月12〜13日]
 ミーコ姫とミミちゃんを連れて歌舞伎町ロフトプラスワン、「新耳袋」深夜トークライヴへ。入口でタイミングよく木原さんに会ったので先に案内していただき、角銅夫妻、イダタツヒコ・なち夫妻などとともに久々に座敷で聞く。今回は木原さん一人で、いままで封印されてきた話を披露するという趣向(もちろん内容は書けません)。なんとなく空気が重苦しい。いつもは何も感じないのだが、妙に後ろが気になる。ほかにも日本酒が水になるなどの怪異が生じていたらしい。これは封印と関係ないので記すと、前回の参加者の一人がライヴ中に観客がだんだん墓標と化していく幻景を見たという話も印象に残った。ぼひょ〜ん(二番煎じ)。終了後はワセミスご一行様などと合流して上高地、八時ごろ帰宅。では、秘書です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコはなちさんや岩崎摂さんや角銅さんの奥さんなどにかわいがっていただきました。えっとそれから、クラニーがまたおともだちをかってくれました。ピンクのゾウさんのエルちゃんです。耳とお鼻がうごいて、パオ〜ンとさびしそうになきます。二次会では脱力系だといわれてました。とってもかわいいです。
 その後の読了本は四冊。松浦寿輝『花腐し』(講談社)は『幽』に続く作品集。「ひたひたと」は相変わらず官能的な文章で後ろ向きの靉靆とした世界を描いており満足。芥川賞受賞作「花腐し」は靉靆さにやや欠けるか。それだけに受賞できたとも言えるのだろうが、個人的には「幽」で獲ってもらいたかった。乙一『石ノ目』(集英社)はホラーとミステリー(やはり座りが悪いので音引き入れます)のセンスの違い(さらにファンタジーも)ということを考えさせられる作品集。山口雅也『マニアックス』が人工だとすれば乙一は天然。試みに表題作を見てみよう。テキストとしては土俗ホラー系なんだけど、この妙に均質な物語空間はミステリーのもの。たとえ舞台が田舎に設定されていてもミステリー空間は都市空間であり、その意味で綾辻さんが推薦しているのはぴったり嵌まっている。この欠落感を新鮮と見るか食い足りないと感じるか、ホラーとミステリーの両サイドで微妙な差異が生じるかもしれない。河村錠一郎『世紀末美術の楽しみ方』(新潮社)は私好みの絵が多かった。それにしても、デルヴィル「スチュアート・メリル夫人像」はいま書いている長篇Aに怖いくらい嵌まってるな。部屋に飾りたいのはクプカ「沈黙の道」とグリムショウ「リーズのパーク通り」。ローデンバックなど幻想作家についての言及も随所にあります。高橋輝次編『誤植読本』(東京書籍)は誤植や校正に関するアンソロジー。あとがきに『活字狂想曲』が出てきてびっくり、どうやら本書の成立に影響を与えているらしい。四刷と言っても世間が思うほど売れてるわけじゃないので、恐縮しきりであった。
[8月14日]
 麻耶雄嵩『木製の王子』(講談社ノベルス)を読了。今年の国内ミステリーのベストワン候補。逆三角形の向きが変わり、砂のように崩れる。コードからさほど逸脱しない古い本格ではもはやこのような感覚を与えられないと半ば本能的に察知している作者は、周到に二つの三角形を用意する。このあたりはきわめてディキンスン的。さて、この小説には絵と音楽が彩りを添えているのだが、これには意味がある。絵も音楽も直観把握、論理とその対極にある宗教的なもの(強烈に引かれる部分はあるのだがそちらには行けない)の中間に位置するのが直観把握による世界であり、ここにおいて三角形が構成されるのである。古風な批評の骨法に従い、作者をだしにしてさりげなく自己を語っていたりするのだが、むろん配合はかなり違います。それにしても、三角形にはドキドキしましたね。いま執筆中の長篇Aのキイワードでもあるので(全然かぶってなかったけど)。


[8月15日]
 ミーコ姫とミミちゃんを連れて神保町、「輝け!第1回神保町ムード歌謡祭」に参加(ただのカラオケですが)。まず六時に出雲そば、主催者の集英社C塚嬢、大森さいとう夫妻と食事。SF大会とか『木製の王子』とかよもやま話。八時前から御茶ノ水パセラで歌謡祭開始、途中から岩井志麻子嬢と集英社K原嬢が参加。もっともシマコ嬢はリクエストするだけで歌わず、珍しく昭和三十年代のレパートリーを披露していた大森さんも途中で抜けたので、さいとう・C塚・私の三人でひたすら回す。「元禄名槍譜 俵星玄蕃」は毎日歌ったら確実に寿命を縮めます。C塚嬢とのヒデロザのデュエットは今後も使えそう。ムード歌謡が基本だったのだが、なんとなく流れでエロ画面しばりに。おかげで、つボイノリオを二曲も歌ってまったがや(関係なかったけど)。最後はなぜか「アテンション・プリーズ」で締めて、十二時前に終了。久々にハードなカラオケだったかも。お疲れさまでした。


[8月16日]
 フレッド・チャペル『暗黒神ダゴン』(創元推理文庫)を読了。一部で刊行が待たれ続けていた幻の作品である。発表は68年、作者は純文系の詩人作家という極め付けの異色クトゥルー長篇。登場人物はいたって少なく、序盤は怪奇小説の王道の雰囲気……と書くと、モダンホラーのファンは「一部のマニア受けの退屈な静かなホラーか」と早合点するかもしれないがさにあらず、魚類を連想させる異貌の娘ミナの存在感は「ミザリー」を彷彿させる。個人的にはマッケンの最も邪悪な部分を思い浮かべた(やっぱりマニア受けか?)。終盤も異様に盛り上がるし満足。待った甲斐がありました。


[8月17日]
 とりあえずゲラを戻し、長篇リニューアルを継続。
 西澤日記に触発され、久々に食い物の話題を。気になっていた根岸の手打ち蕎麦屋へ赴く。重ねせいろを注文したところ、一枚目を食べ終わるころを見計らっておかみが「お漬物ですが、お箸休めにどうぞ」とさりげなく小皿を持ってきた。ほんとに変哲のない浅漬けなのだが、「お箸休め」のひと言とタイミングで光る。美しい言葉です。それにしても、先月からほとんど蕎麦屋にしか入ってないな。いちおう食い物の話題でした。


[8月18日]
 地震で目が覚めたので朝の六時半から仕事。
 昨日のスポーツ紙によると、陸上四〇〇メートル障害の山崎選手の体脂肪率は3%なのだそうだ。2%になるとよくないので3%を維持しているというコメントがあったから、理論的には1%だって可能なのだろう。鍛練はもとより、サラダにドレッシングをかけないなど食生活も厳しく節制しているらしい。腕立て伏せしかやっていない私は12〜15%を上下するばかりで一桁は遠いのだが、考えてみたら、いや考えるまでもなく、小説書きに体脂肪率は何の関係もないのであった。


[8月19日]
 またぞろ凡庸なホラー・バッシングが始まっているようだ。一部の報道によると、さる少年犯罪に「13日の金曜日」が影響を与えた可能性があり、くだんのビデオショップからホラービデオが一掃されたらしい。いつも思うのだが、ホラービデオが本来なら十人殺していたかもしれない犯人の抑止力となった可能性についてはなぜ考慮しないのだろうか。まあ、そういう相対的な思考ができないからこそ単純な反応をしてるんだろうけど。それにしても、「13日の金曜日」はあまりにも凡庸。せめて「悪魔のいけにえ」の影響でチェーンソー殺人、欲を言えば「ドリラー・キラー」で電動ドリル……って論旨が完全に矛盾してますかそうですか。
 松浦寿輝『もののたはむれ』(新書館)を読了。芥川賞受賞のおかげで手に入りやすくなった第一短篇集。「胡蝶骨」「並木」「雨蕭々」は土地鑑のある場所が舞台になっており、ことに懐かしい気分で読んだ。後ろ向きの文学っていいなあ。私もこういう思い切り後ろ向きの短篇を書いてみたいのですが(いままでだって前向きなものは書いてないけど)、純文学誌から依頼が来ないかしら?


[8月20日]
 ふと気づくともう20日ではないか。長篇リニューアルはもう少しで話がつながるのだが、前後にも全面的に手を入れなければならない。やや焦り気味。SF大会で横浜へ行ったのが夏休みだったとしたら寂しいなと思う今日この頃である。
 近日発売の短篇集『屍船』(徳間書店・1600円)は明日見本を受け取ります。17篇収録につき単価は百円を切っていますからお得だと思うのですが、ハルキ・ホラー文庫が山のように出たあとなのでホラーファンの懐具合がやや心配。同文庫についてはいずれまとめて(全部は読めそうにないけど)。
[8月21日]
 六時半より高田馬場で徳間書店のK地さんと打ち合わせ、短篇集『屍船』の見本を受け取る。凝った造本と装画で感激。8年ぶりの純然たる短篇集なのでよろしくお願いします。その後、新しいビルに移転した「ちゃぼ」で濃い話を交えつつ九時半ごろまで飲む。さかえ通りは久々だが、ずいぶん変わっていてびっくり。


[8月22日]
 長篇リニューアルがやっとつながる。あとは最後まで加筆しながら辻褄を合わせ、前に戻って伏線を張り直す作業が残っている。ホラーだからべつに伏線は張らなくてもいいんだけど、これはまあ性分なので。来年は300枚の原型を全面加筆リニューアルする書き下ろしがあるから勉強になるかも。


[8月23日]
 牧野修『病の世紀』(徳間書店)を読了。モダンホラーの骨格をしっかり作り、細部でホラー電波を発するというスタイル。二段組の長篇も広義のミステリーも初めてだし(もちろんホラーでありSFでもあるんだけど、いちおう×××殺人とフーダニットとホワイダニットが配合されています)、推薦者に瀬名さんを配して勝負気配がひしひしと感じられる。実際、「このミス」にランクインしてもいっこうに不思議ではない出来で、特筆すべきは脇役の造形のうまさ。ことに、性格の歪んだアニメ声の天才科学者は秀逸だった(某男性作家もそこはかとなく配合されている)。不満があるとすれば、やはりラストで世界が……というのはややネタバレ気味なのでこの辺で。


[8月24日]
 長篇リニューアルがやっとエピローグに到達する。400枚が540枚になってしまった(ホラーでは最長)。あとは微調整と推敲。
 このところ一日三枚くらいのペースでクラシックのCDを聴きながら読書をしている。最初は抵抗があったけれども、慣れるとBGMがあったほうが落ち着くな。学生時代からドビュッシーだけは折にふれて聴いているのだが、ほとんどド素人、奥が深くて山のように未聴盤がある。懐メロとガールポップに続いて散財しそうな気配。とりあえず図書館で目についた本を借りて、宮本英世『よくわかるクラシック入門』(主婦と生活社)、吉松隆構成・編『究極のCD200 クラシックの自由時間』(立風書房)、三枝成彰『知ったかぶり音楽論』(朝日新聞社)、吉松隆『世紀末音楽ノオト』(音楽之友社)、斎藤晴彦『クラシック音楽自由自在』(晶文社)の五冊を読了。


[8月25日]
 「囲碁ワールド」9月号を購入。前回の有段コースの解答を見ると、驚いたことに全問正解だった。初の快挙だ。これで三段の申請資格は得たのだが、欲をかいてその上を目指そうかな。竹本さんに笑われそうだけど。


[8月26日]
 長篇リニューアルの微調整が終わり、プリントアウトまで完了。あとはこの状態でもう一度推敲してFDを作れば終了。長篇Aは400枚近くまで来ているから、問題は長篇Bと翻訳だな。
 ひと息ついたので、来月の打ち合わせに備えて来年の刊行と執筆予定を作ってみる。な、なぜMAX十冊になってるんだ? これはきっと何かの間違い、いや、秘書猫の陰謀に違いない。


[8月27日]
 山のように出たハルキ・ホラー文庫のうち、山田正紀『ナース』、井上雅彦『綺霊』、朝松健『魔障』、竹河聖『ウンディネ』、友成純一『ストーカーズ』、島村匠『聖痕』、中原文夫『言霊』の七冊を読了。まず採り上げたいのはバカホラー(貶辞ではありません)。「ナース」は心構えをしてから読んだのだが、予想をはるかに上回る展開で唖然。B級ゾンビホラーのファンはお読み逃しなく。ここからは私的な妄想ですが、ナースたちが邪悪に変容してさらに巨大化したりしたらなおよかったかも。「巨大ナースの襲撃」って気絶しそうなほどいいと思いませんかそうですか。「言霊」は狙っているとは思えないけど妙な緊張感のなさが印象に残る怪作。「綺霊」は書き下ろしショートショート集。書き下ろし短篇集ならともかく、ショートショート集までは私は無理だな。ベストは「中二階の鏡」。アルフレッド・ノイズを彷彿させます。「魔障」はとっておきの題材である表題作より巻末にさりげなく収録されている「追ってくる」のほうが怖かった。E・L・ホワイトの例を引くまでもなく、悪夢に材を採るのはホラーの王道の一つ。「聖痕」は凝った構成の意欲作で「眼球譚」などは好みなのだが、一人称の語りがやや淡泊かな。残りの二作は持ち味の出た手堅い作品。
 というわけで、今年はホラーを消化するだけで大変です。
[8月28日]
 エッセイの下書きを済ませ、リニューアル長篇の推敲を終えてFDの作成まで完了。とりあえず目先の仕事からやるしかないのだった。


[8月29日]
 ネタが夏枯れにつき、今日は食い物の話題を。昼は根岸の登仙でおろしそば、夜は三河島の長生庵で冷しむじなを食す。相変わらず蕎麦ばかりである。むじなはきつねとたぬきをアウフヘーベンしたものだが、意外に出す店が少なく、冷しむじなはさらに珍しい。「むじなばやし」という単行本未収録の短篇があるくらいで、私の数少ない好物の一つ、蕎麦屋で冷遇されているのは合点がいかない。


[8月30日]
 エッセイの原稿を送り、アンケートの下書きをしたあと長篇Aに戻る。
 ちょいと必要あって、スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』(ハヤカワ文庫SF)を再読。やはりベストワンは動かず。


[8月31日]
 一時より日暮里ルノアールで祥伝社のK藤さん、Y田さんと打ち合わせ。リニューアル長篇を渡し、中篇書き下ろしのゲラを受け取る。十月に刊行される中篇書き下ろしシリーズはハルキ・ホラー文庫なみの刊行点数になる模様。私の作品が最大の異色作のようです(笑)。
 帰宅後は今後のプロット作りなど。今月の執筆枚数は251枚、執筆稼働日数24日、一日当たりの平均は10.5枚でした。この四カ月で一千枚以上書いたから来月は少しセーブしようかな。
 仮眠をとってからミーコ姫とミミちゃんを連れて歌舞伎町、深夜零時より「新耳袋」トークライヴを聴く。今回は有線の生放送を兼ねており、もっと旧ネタが多いのかと思いきや、京都の幽霊マンションを筆頭に新鮮な話も多くて満足。ただ、最も印象に残ったのは狐に化かされた話かも。終了後は十人ほどで上高地、八時ごろ帰宅。あの話を聞いたあとで八階建てのマンションに帰るのはなんだかなあ。では、秘書です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。クラニーがまたおともだちをかってくれました。歌舞伎町へいくたびにエニイというへんなものがいっぱいあるスーパーでおともだちをかうのだそうです。白いペルシャ猫のみゆきちゃんはミーコの三倍くらいあって、毛がふさふさしててとってもきれいです。うちのぬいさんでいちばん大きいので、おでかけはできません。おしまい。