[11月1日]
 長篇A・Bに加えて、長篇Cのリニューアルにも着手。息抜きのバランスとしてはいい組み合わせかも。先月の執筆枚数は213枚、執筆稼働日数25日、一日平均は8.5枚でした。
 さて、俳句同人誌「豈」33号が届きました。「裏扉」20句を寄稿しておりますけど、見るからに不調。かねてより怪奇タームに頼らない意味性の剥落した怖い句を作りたいと思っているのですが、いっこうに俳句の神様が降りてきませんな。


[11月2日]
 皆様、はじめまして。鬼子(きこ)と申します。多重人格者クラニーの一人格でございます。本日は鬼百合の会という秘密結社の会合がございました。出席者は奈津子おねえさまこと森奈津子さん、保子さまこと西澤保彦さん、それに、前髪を下ろして猫や豹のついたかわいいお洋服を着た鬼子withミーコ姫&ミミちゃんです。一時に根岸の笹乃雪に集合、豆富料理をいただきました。鬼子の失われた体重を求めてという趣旨もあったのですが、おなかがいっぱいになりお茶漬けまでは入りませんでした。個室で大変落ち着きましたので、秘密プロジェクトの相談や盗聴されてたらまずいなというお話をたくさんいたしました。鬼子はいけない子でございます。いずれ保子さまの連載小説「両性具有迷宮」に反映されることでしょう。立ち食い蕎麦屋の二階にある面妖な神社へご案内したあと、タクシーで淡路町へ向かいました。ここからは野間美由紀さんが幹事で、ぼたんという鳥鍋のお店でお夕食を食べました。保子さまはいたく御満悦でした。「日本一腕貫きが似合う男」と言われたという話がたいそうウケておりました。その後、野間さんの行きつけの六本木のバーへ移動、ここから保子さまの小説の舞台化を手がけている役者の直塚さんと光原百合さんが合流されました。十一時過ぎに奈津子おねえさまがお帰りになったあと、五人でカラオケになりました。ボックスじゃないお店で歌うのは久しぶりです。直塚さんが芸達者な方なので、鬼子も「老人と子供のポルカ」などたくさん歌わせていただきました。朝の四時になんとなく途切れたあと、お話をしてから六時に解散いたしました。みなさま、お疲れさまでした。


[11月3日]
 一時半まで寝て再校ゲラを返送したあと、夕方より本格ミステリ作家クラブの創設記念パーティに参加する。非常に盛会で動きづらいほど。読みましたよと声がかかったから自分の小説かと思いきや西澤さんの連載(通称「エロボロス」)の話だったりしたのですが、その「小説推理」のH野さんから連載のオファーがあり、しばらく話しこむ。何も自主規制せずに本当に書きたいものをというありがたいお申し出だった。ただ、「メフィスト」の連載が来年の六月に完結してからじゃないとつらいかな。やるからには一千枚級の大作にしたいところ。初対面は敬称略で野崎六助(緊張しました)、倉知淳、二階堂黎人、松尾由美、村瀬継弥、森博嗣、川越幸子(以前に挿絵を担当していただいた方)などの皆さん。二次会はカラオケボックスのフロアを借り切り。小部屋に入った鯨統一郎さんは例によってウソツキで、あれほど固辞していたのに三曲目から連続三曲(全部デュエットしましたけど)。その後は延々とカラオケ。宮部みゆきさんの歌はぜひともCD化を希望します。癒し系でとても素晴らしいです。その宮部さんと念願の「月がとっても青いから」のデュエットができたし、森奈津子さん、森博嗣さんの歌というレア物も聴けたし、いろいろと収穫の多いカラオケだった(いや、カラオケをやりにきたわけじゃないんですが)。芸域の広い横井司君とは懐メロを結構デュエットしましたけど、野口五郎に固執していた夏来健次さんも含め、ミステリーの批評家は場を読まずに暴走するタイプが多いかも。明日が結婚式で欠席した笹川君がいたらどうなっていたことやら。というわけで二時過ぎに解散、図子慧さんとタクシーで帰宅。では、秘書猫の登場です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコとミミちゃんはとてもかけないほどたくさんのみなさんにかわいがっていただきました。でも、ちょっとつかれてくたっとしています。またあそんでね。おわり。


[11月4日]
 仕事に復帰。長篇A・B・Cを進める。
 どうも電話の回線の調子が芳しくなく、ファックスがまともに届かなかったり、雑音が混じったり、ネットの接続が頻繁に切れたりするから困ったものだ。これは引っ越す前にチェックできないからなあ。そう言えば、風呂の追い炊き機能が壊れてるし、懸案の電子レンジも買っていないのだった。来週は生活向上週間にしよう。


[11月5日]
 朝の四時に目が覚めたため、個人輸入したメラトニンを試してみたのだが、ちっとも効かない。やむなく六時から仕事。いったん目が覚めてからじゃダメなのかな?
 今週の読了は由良君美『みみずく偏書記』『みみずく古本市』(いずれも青土社)、宇野功芳・中野雄・福島章恭『クラシックCDの名盤 演奏家篇』(文春新書)の三冊のみ。体系よりフラグメントの人なので、ブリコラージュ系の博識エッセイ集はわりと好きです。最も印象に残ったのは『みみずく偏書記』で紹介されているシクロフスキーの〈高等芸術は下等芸術を増幅したところに生まれる〉というテーゼ。なるほど、ポオやラヴクラフトの独創の前には雑誌文化がむやみに栄えていました。
[11月6日]
 祥伝社のY田さんから「首のない鳥」の推薦文その他がファックスされてくる。いままでたくさんの方にご推薦をいただいてきたのですが、大トリの趣で今回は菊地秀行さんです。ありがとうございました。そこはかとなく「ブラッド」と呼応してるんですけど、確かに「首のない鳥」はそっち系の路線です。
 生活向上週間の初日はバスの追い炊き機能の復活。管理人さんに見てもらったところ、何のことはない、フィルターがむやみに詰まっていただけだった。引っ越してから芳香入浴剤を毎日喜んで使っていたのだが、どうも泡になって消える炭酸系じゃないといけないらしい。さらに、不安定な電話回線について電話局にチェックを依頼する。こういう場合は113にかけるのだそうだ。生活に関する知識が欠如しているかも。


[11月7日]
 生活向上週間二日目は電話回線の復活。NTTの調査によると、マンションの一階と三階をつなぐ線が古くなっていたらしい。取り替えたら雑音が交じらなくなった。ファックスが送りづらくてご迷惑をかけた方々、もう大丈夫です。私の部屋だけ呪われていなくて幸いだった。
 乾くるみ『Jの神話』(講談社ノベルス)をいまごろ読了。これはコード虐待型でわりと好みです。B級「サスペリア」めいたものが配合されているので、そちらのファンも要チェック。


[11月8日]
「メフィスト」のゲラを返送、「ダ・ヴィンチ」のアンケートをメール(なぜか文芸書部門)、長篇Aの構成表を全面改訂する。これで少し見通しが立ったかな。それにしても、当初はいままでで最もミステリーらしい作品にするつもりだったのに、なぜこうなってしまうのかという気がしないでもない。
 生活向上週間三日目。秋葉原に赴き、最も簡明な電子レンジを買う。配送の依頼をしたあと、PHSをH"に買い替える。今度こそちゃんとマニュアルを読もう。御徒町まで歩いたものの多慶屋が休日だったのは誤算、やむなくアブアブのユニクロに回り、今月の百物語に備えて青い服を購入する。正式な百物語は必ず青服を着用するらしい。秘書猫が巻く青いスパンコールの派手な靴下も買う。変態と思われたかもしれない。


[11月9日]
 想定外だったSFのアンケートも来たのでうろたえる。これでホラー、本格ミステリー、ただのミステリーに続いて四ジャンル目。しかも、90年代SFのベストテンという特別企画つき。べつに書評家じゃないから、やればやるほど持ち出しになるんですけど。というわけで、読むのに時間がかかる海外物はとりあえずパス、泥縄ですが今月は日本SF強調月間とします。
生活向上週間四日目。荒川の家具店でレンジ台を購入する。さほどの重さには見えなかったので持ち帰りにしたのだが、いざ運んでみると実に重い。途中で推定三十回も立ち止まり、半ば引きずるようにして帰宅。自分の乏しい腕力を過信してはいけない。その後、二時間以上かけて組立を完了。支柱が一本余ったからたぶん失敗だろうが、とりあえず大勢には影響がなさそうなのでOKとする。組立説明書は猫でもわかるように書いてもらいたい。それにつけても、こんなときに夫がいればと思う独身女性の気持ちが……わかっていてはいかんかも。
 さて、「幻想文学」59号(特集「ボルヘス&ラテンアメリカ幻想」)が届きました。久々に俳句時評を寄稿しています。なお、翻訳の不定期連載「英米百鬼譚」が滞ってるんですけど、ヒュー・ウォルポールが終わらないと手がつきません。気長にお待ちください。


[11月10日]
 長篇Aが100枚、Cが50枚をクリア。Bはスピードが落ちる部分にさしかかる。
生活向上週間五日目。待望の電子レンジが届く。苦労して運び(目下、全身筋肉痛状態)組み立てたレンジ台に置くと見た目は完璧。さっそく雑貨屋でミトンとレンジ用の皿を購入、和風きのこスパゲティを試してみる。なるほど便利なものである。それにしても、レンジ用カレーにことごとく肉が入っているのはいかがなものか。少しなら許容できるのだが、たいてい増量もしくはたっぷりと書いてあるから買えません。


[11月11日]
 京都行きも考えていたけれども、今月は後半にわりと予定が入ってるし調子も芳しくないので自重。泥酔後にメラトニンを飲んでも支障はなかったのだが、期待したほど効かないな。
 というわけで、地味に仕事。今日は長篇C・B・Aの順、夜は翻訳の下調べに手を回す。脳の容量が不足ぎみだから睡眠障害を起こすのはわかっているのだが。


[11月12日]
 マリオ・プラーツ『官能の庭 マニエリスム・エンブレム・バロック』(ありな書房)を読了。七百ページの大冊ゆえ、ずいぶん時間がかかってしまった。「猥りがましいほど博識」とは言い得て妙で、これだけ次から次へと学を披瀝されると端から抜けてしまう。付箋はたくさん貼ったから全部抜けたわけじゃないと思うけど。『肉体と死と悪魔』に続いて二冊目だが、これでも氷山の一角(邦訳は少ない)。この著者はある種の化け物かもしれない。
[11月13日]
 幽霊マンションで数々の怪奇体験を味わう……のならよかったのだが、ただの悪夢であった。人形に軽く爪を立てられたり、幽かな温かみが伝わってきたりしたのは、きっと秘書猫のしっぽを握ったまま寝たせいだろう。おかげで夜中に目が覚めたので仕方なく朝の五時から仕事。
 長篇Cが100枚をクリア。さすがに原型のあるユーモア物は順調。これがいちばん早く上がってしまうかもしれない。その後、「首のない鳥」の著者謹呈リストを作ろうとして元版にうっかり上書きしてしまう。毎回お送りしている方とジャンルによって送ったり送らなかったりしている方がおり、いつも80人強の元版から50人前後に絞りこんでいるのだが、その元版がなくなってしまったのだ。また作り直さねば。


[11月14日]
 頭の疲労が蓄積してきたのでメリハリをつけるべく本日は休業、浅草へ息抜きに行く。松屋デパートをひやかしたあと、目をつけていた十和田で野菜天ざるを食す。まいたけがとても美味だった。次回はまいたけ天ざるにしよう。その後、例によってROXビルで本とCDとぬいぐるみを買う。レジの娘さんに「猫のぬいぐるみをいっぱい飼ってるんです」と言ったら笑われてしまった。ちなみに、今日買った赤紫系青猫はサリーちゃん。浅草はぬいぐるみメーカーのお膝もとだからレベルが高いな。


[11月15日]
 短篇Aを仕上げ、長篇A・Cと仕事モードに復帰。
 菅浩江『永遠の森 博物館惑星』、柾悟郎『ヴィーナス・シティ』(ともに早川書房)を読了。前者は共感覚が扱われている「天上の調べ聞きうる者」が好み。私が書いたらめちゃくちゃ後味の悪い話になったかも。後者は文章のリズムがすこぶる合ったので心地よく読めた。
 

[11月16日]
 夕方よりミーコ姫とミミちゃんを連れて帝国ホテル、集英社の三賞祝賀パーティに参加。半ば予想どおり、早めに行ったら知り合いがいない。最初に会ったのはなぜか迫水由季さん、その後しましま姉妹など少しずつ増えてくる。柴田よしきさんを岩井志麻子嬢に紹介したところ、いきなり書けないディープな話題(笑)。知り合いが少ないと食事に手が回るので、初めて帝国ホテルで満腹になるまで食べる。大半はパンとサラダだけど。あとはいろいろと仕事の話。「小説すばる」のK原さんに短篇を渡す。「小説推理」の連載は来秋からスタートの予定。「カフカの『城』みたいなものを書きたい」とH野さんに言ったら通ってしまった。こんなにすんなり通るとは……。
 二次会はしましま姉妹にくっついて近くのバー、角川書店のS戸さんとは初対面。今日は編集者の名刺を五枚もらっただけだった。三次会は柴田さんたちと合流してカラオケ。歌う人が少なかったのでガンガン飛ばす。初めて歌ったのは「狙いうち」(志麻子リクエスト)「晴れのちBlue boy」など。十二時半ごろに別のところへ顔を出していた島村洋子さんが合流、待望のデュエットを三曲(「虹と雪のバラード」「愛の奇跡」「愛は傷つきやすく」)。それから二時すぎまで再び飛ばして解散。お疲れさまでした。では、秘書です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコは北方謙三さんにだっこしてもらって記念写真をとりました。とってもきんちょうしました。おわり。


[11月17日]
 メラトニンを常用するようになったせいか、最近長めの夢を見る。昨夜は変なテーマパークに入った夢で、質問に引っかかると空中で行き止まりになってしまう。「朝日新聞」が実は地名だったという引っかけがあり、これは秀逸な叙述トリックだと興奮して目が覚めたのだが、使えるかこんなもん。
 恒例の「活字倶楽部」のアンケートに答えるべく、来年の予定を整理する。いつの間にかまた年八冊になってるんですけど……これはきっと何かの間違い……じゃないかもしれない。


[11月18日]
 今日は新耳袋トークライヴ特別篇「百物語」の日。朝から「怪談蒐集」というファイルを作り、準備してから新宿ロフトプラスワンへ向かう。遠い昔、幻想文学会で一度だけ百物語をやったことがあるけれども(翻訳家時代の菊地さんも参加)、正式なものは初めて。六時半に入場、いつもの座敷に陣取る。角銅博之、けーむら、シェヴァイク、金光寛峯、アスミックエースO川(初対面)、それに、全然久しぶりじゃない岩井志麻子&角川書店K良というメンバー構成。会場には櫻井管理人、比呂、塵芥などの面々も。木原・中山ご両人から説明があったあと、八時ごろに開始。いきなり一サイクル目で登壇、取材した話を三つ披露する。ひとつ語り終えるたびに暗い二階へ上がって鏡を覗き、無言で戻ってから蝋燭を吹き消すという段取りである。少し緊張したのは初回だけで、三回目はもう懐中電灯なしで上がった。
 座敷に戻ると拝聴モード。八十人ほどの客があらかじめアンケートを提出し、面白そうな話を持っている人が次々に指名されて語るというシステムである。休憩を交えつつ、九十九話になるまでこれが延々と続く。語りに巧拙があるのは致し方ないところで、似たような話でも話術でこれほど違うものかと再認識。具体的な話では、強烈な印象が残ったのは比呂さんの「ハト」(笑)。怪奇小説家の琴線に触れたのは「毬」「顔のない男」など。このあたりは会場の反応とちょっと違うかもしれない。七十話あたりは勘違い話が連続して完走が危ぶまれたのだが、午前五時ごろにようやくカウントダウンが始まる。さすがに払底してきたようなので再び登壇、さらに二話披露する。取材したものをほとんど吐き出してしまった。もう少し勘どころを押さえた取材をせねばと反省。最後の九十九話目は本日のMIPである講談社N村氏が締め、蝋燭から線香に火が移る。これが完全に消えるまで無言を続けるのが絶対の作法。独り言を言う癖があるからひやひやしました。それにしても、あの線香はしぶとかった。消えるまでに無慮二十五分を要したのである。というわけで、午前六時前に無事終了。例によって上高地で厄落とし、七時すぎに解散。大変おつかれさまでした。
 えっと、たびたびしつれいします。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコとミミちゃんは青い靴下をまいてもらって参加しました。でも、ミーコにはおはなしがありませぬ。ちょっとざんねんでした。おしまい。


[11月19日]
 今週はアンケートのためにひたすらSFを消化。山田正紀『エイダ』(ハヤカワ文庫JA)は大風呂敷系の伝奇SFかと思いきや、こんな展開になるとは。物語と現実が錯綜していく話は根っから好きなので耽能しました。その他の読了本は、秋山瑞人『猫の地球儀 焔の章』『猫の地球儀その2 幽の章』(電撃文庫)、大原まり子『吸血鬼エフェメラ』(ハヤカワ文庫JA)、ロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』(ハヤカワ文庫SF)、資料は谷川渥『図説だまし絵』(河出書房新社)のみ。この機会にツボに来そうな90年代SFをまとめて読もうと思ってるんですけど、あと十日でどれだけ消化できるだろう?
[11月20日]
 このところ強行軍で、本日は第2回「輝け!神保町ムード歌謡祭」に参加する。まず、六時から主催者の集英社C塚さんといづもそばで会食。移転していてうろたえたけれども見つかってよかった。長篇の打ち合わせをしたあと、七時にパセラに移動、集英社K原・K崎さん、AZMさんが合流。まだまだここは練習モード、初めて歌ったのは大人数ではちと歌いづらい「時代おくれ」と「無縁坂」。その後、東雅夫、森奈津子、南智子、日下三蔵、集英社K島といった面々が続々と到着、九時にようやくメインの一行が現れる。山田正紀さんと西澤保彦さんの対談が大森さんの司会で行われており、徳間書店のO野・K地さんとともに合流したという経緯。さらに遅れてさいとうよしこさんと新潮社T内さんが登場、十数人のかなり濃いメンバーである。C塚さんの開会宣言があり「第一部ムード歌謡祭」がスタートする。アズレーと私は本格ムード歌謡を担当。ガジェット的には濡れたサキソフォンが入るのがド本格でしょう。今日もレア物の収穫あり。デュエットながら山田正紀さんの歌声を初めて聴く。南智子さんの「黄色いさくらんぼ」はあんまり色っぽいので鬼百合の会の三人はすっかり親衛隊モードだった。西澤さんの「わたしの青い鳥」は森奈津子さんの命令による特別羞恥プレイ(笑)。K島さんはムード歌謡祭でも踊る。というわけで、十一時半ごろに第一部が終了、縛りが解除されて第二部へ。ここからがまた長かった。結局最後まで残ったのは、集英社C塚・K原・K崎、徳間書店O野・K地(どちらもうまいです)、新潮社T内、AZM(第一部で「元禄名槍譜 俵星玄蕃」をデュエット)、西澤、私の九名。「さよならをもう一度」でディナーショー芸に自信を深める。こんなに芸ばかり増やしてどうするのかという気もするが。初めて歌ったのは「ともだち」と「ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ」(さて誰の歌でせう?)。三時ごろまで飛ばして解散。皆様、お疲れさまでした。次回はラヴソング・フェスティバルのようです。
 えっと、黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミミちゃんといっしょに参加しました。いっぱいおどったのでぐったりしました。かわいがっていただいたみなさま、ありがとうございました。おわり。


[11月21日]
 短篇とエッセイをメールし、とりあえず目先の締切をクリアしておく。あとはひたすら90年代SFを消化。
 筒井康隆『残像に口紅を』(中公文庫)を読了。ネタがわかっていたので敬遠していたのだが、いざ読んでみるとむちゃくちゃ面白い。これは大傑作でしょう。ただ、よく見るとハードの刊行が89年4月で期間外だった。何をやってることやら。
 神林長平『言壷』(中公文庫)『我語りて世界あり』(ハヤカワ文庫JA)はどちらも面白かったけれども、後者のほうがより凝っていて好み。猫のぬいぐるみに過剰反応しているような気もするが(笑)。牧野修から毒電波を引けば神林長平にかなり接近するようにも思われる。その他の読了は、松尾由美『バルーン・タウンの殺人』、大原まり子『アルカイック・ステイツ』(ともにハヤカワ文庫JA)、椎名誠『アド・バード』(集英社文庫)。


[11月22日]
 長篇Aを進める。やっと小説勘が戻ってきたかも。体重はなかなか52キロ台に戻らず。ちなみにスリーサイズは82・67・83、ウエストがあと10センチ細ければ完璧というのは絶対に悪魔の囁きだろう。
 森岡浩之『夢の樹が接げたなら』(早川書房)を読了。SFにはテーマとしての言葉にこだわる作家がずいぶん多い(そういうものばかり選んで読んでいるような気もするけど)。アナログで垂直的な詩の言語に比べると取り扱い方が水平的でデジタル、言語のポリフォニックな面に着目されていてもアイデアが介在しているから印象はスライスされた銀の円盤めき、モノとしての手触りがあるのが特徴。このあたりの差異の確認は興味深い。筒井康隆『パプリカ』(中公文庫)は面白いけど一般向けすぎてやや食い足りなかったかな。


[11月23日]
 長篇Aが150枚をクリア。折り返しは目前。半分終わったらじっくり読み返して手を入れ、後半はあらかじめ骨格を細かく作ってからスパートすることにしよう。


[11月24日]
 一枚だけ翻訳したあと長篇A。ある重要な伏線が丸わかりのような気がしたので、木を森の奥のほうへと移植する。今後もかなりの移植作業が必要か。久々に長篇Bも進める。ともすると作中作のほうに気合が入ってしまう作家って変かも。長篇Cは順調に200枚をクリア。やはりこれがいちばん早いな。


[11月25日]
 二時より神楽坂エミール、同人誌「豈」の忘年句会に参加する。最近は忙しいので句会は年一回だけ。始まる前にさる若手俳人の奥さんが幻想文学会のK枝さんの親友だという話を聞いて世間は狭いなと思う。K枝さんは元気にお仕事しているようです。参加は27名、それぞれ2句提出、無記名の54句から5句ずつ選句するというスタイル。高得点句は次のとおりでした(*は私も選んだ句。/は改行)
[7点句]
 越冬の黄蝶群がる//不眠の/谷間 福田葉子
 頭韻を/ときに/図りて/揺れる水 大井恒行
[6点句]
*とり落とす時間の束の烏瓜 守谷茂泰
 空虚[うつろ]までくっさめこらえまいります 山本敏倖
 てのひらの白きはまれり憂国忌 秦夕美
[5点句]
 混沌が野菊の呼吸[いき]で棲みつきぬ 山本敏倖
 とよあしはら衣笥[いこう]に水位あふれしむ 高橋比呂子
 枯れ果てて晴れか 宮崎二健
 黄落に声がとどいて糸電話 椎名陽子
 腰かけて木の腹筋になっており 川名つぎお
 吾亦紅なんじわれなれ入れ替わる 堀本吟
*枯れ並木地下の嬰児は育ちいる 島一木
 冬の窓人離れては寄りたがる 日吉わたる
 溺愛の鰯雲にも内緒なの 中山美樹
 海はいま水嵩を増す朝御飯 橋本七尾子
 えー、スランプ状態の私は両方1点で低調でした。昔は総合トップをとったこともあるんだがな。なお、選句の残り3句は次のとおりです。
 しぐるるや電送人間ややななめ 鈴木純一
 ふたとせの/おこりやまひの/逆蓮へ 酒巻英一郎
 人格の深いところに冬林檎 中山美樹
 最後の句は椎名林檎と解釈しました(笑)。引き続き、六時より「豈20年/攝津幸彦『俳句幻景』刊行を語り合う会」に参加。俳壇関係者など約70名が参集する。俳人はむやみにパーティをやるんですけど、私はほとんどパスしてます。ヒエラルキーに従った挨拶が多くてちょっとかったるい。ちなみに、秘書猫を連れていかない(いけない)今年唯一のパーティでした。昼間から動いたので二次会はパス、九時ごろ帰宅してSFの消化を続行。


[11月26日]
 90年代SF強調月間はやっと海外物に手が回る。SFもかなりツボが狭く、男の子に好まれそうな、筋の運びで読ませる、冒険小説が配合された娯楽SFは素直に楽しめない因果な体質なので、おのずと読むものが限られてきます。読了したのは、ルーディ・ラッカー『セックス・スフィア』、ジョン・スラデック『遊星よりの昆虫軍X』、テリー・ビッスン『世界の果てまで何マイル』(いずれもハヤカワ文庫SF)。「セックス・スフィア」と「遊星よりの昆虫軍X」は甲乙つけがたいけれども、暗号のポイントが高いからスラデックのほうが上位かな。それから、ビッスンは「氷」を読んでいるのだろうかとふと思ったりした。
[11月27日]
 翻訳と長篇A・B・Cを少しずつ進める。特記事項のない平穏な一日。
 なにぶんドメスティックな知識に疎いので、この歳になってようやく歯ブラシが掃除に効果的に使えることを知る。どうしてもっと早く気づかなかったのだろう?


[11月28日]
長篇Aが折り返しに到達。単純に二倍すると320枚で終わってしまうのだが。今月のノルマは達成したから、海外SF消化の追い込み。とりあえず読了したのは、ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』(福武書店)、イアン・マクドナルド『火星夜想曲』、ルーディ・ラッカー『ラッカー奇想博覧会』(ともにハヤカワ文庫SF)。『エンジン・サマー』は間に合ってよかった。ディテールが心地いい多面体、いずれ一段組で再読したい。


[11月29日]
 長篇Dのプロット作りを進めた程度でSFの最終追い込み。グレッグ・イーガン『順列都市』、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『故郷まで10000光年』(以上、ハヤカワ文庫SF)、ウィリアム・コツウィンクル『ファタ・モルガーナ』(福武書店)、石黒達昌『人喰い病』(ハルキ文庫)を読了。『ファタ・モルガーナ』は境界作だけど、すこぶる面白かったから入れてしまおう。『人喰い病』所収の「雪女」は斬新な秀作。ホラーファンも要チェックです。
 というわけで、さすがに息切れしたのでアンケートの仕上げをしてメールする。本年度では『レキオス』と『八月の博物館』に手が回らず、90年代国内は『猶予の月』『バベルの薫り』など未読多し、海外はまずダン・シモンズごめんなさい。曲がりなりにもイーガンに到達したのでそれなりに満足ですが、せめてあと半月あればなあ……。


[11月30日]
 二時より日暮里ルノアールで祥伝社のY田さんと打ち合わせ、『首のない鳥』(ノン・ノベル、900円)の見本を受け取る。『屍船』に続いて表紙と扉イラストは久枝アリアさん、ノベルスとしては実に凝った装幀に仕上げていただきました。今度は著者近影もいいです(笑)。すでに並んでいる書店もあるようなので、よろしくお願いします。謹呈の方は週明けになるかもしれません。なお、ちょうど二十冊目の著書につき、巻末に著訳書リストも付されています。次は伝奇ホラーになる模様ですが、とりあえず再来年のことを考えるのはよそう。
「SFマガジン」に続き、これまた初参加の「週刊文春」のアンケートを送付。こちらには過去22年間の国内・海外ベスト5などという無体な注文がある。広義のミステリーだし、コンセプトを決めなければとても絞りきれない。国内は新本格以降からわりとオーソドックスに選び(でも、5位が『プラスティック』だったりする)、海外はリチャード・ニーリイを1位にしたためなんとなくそちらの路線。コリン・デクスターが1位ならがらっと変わったかも。ガイ・バートとサイモン・ブレットにはほかに点が入るのかしら?
 さらに「活字倶楽部」のアンケートをメール、短いエッセイを投函、とりあえず目先の締切をクリアしておく。それにしても、ホラーだけアンケートもベストテンもないんだよな。ぶつぶつ。
 なお、今月の執筆枚数は201枚、執筆稼働日数22日、平均枚数は9.1枚でした。