[12月1日]
 MSNから「ぷらら」への移行に伴い今日からメールアドレスが変わるのだが、なにぶんローテクなので接続できない(インターネットは可能)。ホットメールというのにも入ったからエッジを含めるとアドレスが4つになったんだけど、届いているはずのメールが読めないのは隔靴掻痒。どこに問題があるのかさえわからないのは困る。だいたい私のパソコンのトップはめちゃくちゃで(執筆はワープロ専用機)、城平京とかrakugo(田中啓文さんのエッセイをダウンロードしようとしたらしい)とか不可解なアイコンがむやみにある。実に困ったものだ。
 五時よりミーコ姫を連れて新宿。ホテルセンチュリー20階の会議室で井上雅彦さんと対談する。「ダ・ヴィンチ」連載の異形対談がめでたく13回目を迎えるのでゲストに呼ばれたという次第。構成の神無月マキナさんとはたぶん初対面。写真撮影を済ませ、しばらく井上さんとジャシカ・ハーパーの話などの雑談をしていたのだが、だいぶ経ってからテープが回っていることに気づく。それにしても記憶力が減退ぎみで、読書体験の話でタイトルが出てこないは、自分の小説のディテールを思い出せないは、全般に不調。なぜかカーの話などをしていたような気がするけど、すでに再現できない。ちょっと疲れてるかも。七時に終了後、紀伊国屋に寄ってから帰宅、やっとメールの設定変更に成功する。では、秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコはクラニーといっしょにお写真をとっていただきました。それから、神無月さんにとってもかわいがってもらいました。ミーコが対談に入るというおはなしもあったのですが、きんちょうして発言できませんでした。ちょっとざんねんです。おわり。
 対談でも話題になっていた飯野文彦『アルコォルノヰズ』(ハルキ・ホラー文庫)を読了。おお、陽気で軽快な酔っぱらいが隠し続けてきた陰鬱で暗い素顔が(笑)。こういう作品をぶつけてくるとは意表をつかれました。それにしてもこの主人公、長身でロシア人の血が入った超美形という菊地さんのヒーローみたいな設定なんですけど、どこをどう読んでも飯野さん(笑)、設定だけいやに浮いてるような気もします。今年は『魔障』もあったし、私小説ホラーはささやかな潮流になるかも。


[12月2日]
 昼の十二時よりミーコ姫を連れて有楽町・朝日ホール、ソノラマ文庫創刊25周年記念「作家と読者のつどい」というイベントに参加する。最初は前のほうの招待席にいたのだが、ロフト・プラスワンの座敷組が来たのをしおに一般席に移動。その後、『アルコォルノヰズ』が一部で話題沸騰の飯野文彦、これだけのために単身上京してきた牧野修、新婚の笹川吉晴といった変わり映えのしないメンバーが続々到着。第一部は記念トークショー(パネラーは菊地秀行・笹本祐一・竹河聖・森下一仁の各氏)、菊地さんの披露した裏話がウケてました。第二部は原作者と監督の対談のあと、「バンパイアハンターD」の上映。基本的にアニメは苦手なんですが、随所にクラシック・ホラー映画を彷彿させるカットがあり、これならOK。とても凝った映像でした。来年の七月までには公開される模様です。
 終了後、銀座に場所を変えて記念パーティ。ソノラマの仕事は何もしてないんですけど、ロフトのトークライヴの常連という資格で参加する。名札が「倉坂鬼一朗」になっていたのは認知度の低さを物語ってました(笑)。初対面は永瀬唯さんなど。酔っぱらって飯野さんとキスしていたような気もするが、あれは悪夢の中の出来事だったかもしれない。べろべろに酔った上機嫌の社長さんの挨拶が印象的でした。早めに動いて眠くなってきたため二次会はパスして有楽町に引き返し、ぬいぐるみショップに寄ってから八時ごろ帰宅。
 たびたびしつれいします。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。パーティではさいしょ学研のF西さんのお肩にのってました。でも、ミーコがのってないとクラニーだとわからないという声があったのでもどりました。それから、いろんな方にかわいがっていただいて、お写真をとってもらいました。またあそんでね。おしまい。


[12月3日]
 仕事モードに復帰。翻訳の三本目の第一稿がやっと完了。当初の予定では年内アップだったのだが、まだ三分の一も進んでいない。もう少しピッチを上げなければ。
[12月4日]
 短篇のゲラを返送したあと、長篇Aを進める。何度も頭から読み返しているのだが、うっかりしていると作者が陥し穽に落ちてしまう。面倒なり。長篇Cは300枚をクリア。これは年明けに渡せそう。
 福岡国際マラソンの藤田選手のウイニングランつき日本最高記録にはびっくり。また練習しすぎの疲労骨折がなければ男高橋尚子になるかもしれない。ただ、個人的には4位の五十嵐選手のほうが好み。あのフォームでスピードランナー、二回連続でサブテンは将来有望だと思う。


[12月5日]
 長篇A・C・Bの順に計十枚。夜はようやく形になった長篇Dのプロットをメールする。長篇Eのプロットもうっすらと光が見えてきた。また頭がぐちゃぐちゃになってきたけど。
 日本棋院に囲碁四段の免状を申請する。高段者の免状はむやみに高く、会員費を含めると十万の出費なのだが、これ以上昇段しそうもないから思い切って申請。次のターゲットは将棋だな。まず将棋盤を買わねば。


[12月6日]
 長篇Bがようやく100枚に達する。これは700枚コースかも。それにしても、作中作の旧仮名は面倒である。旧仮名ソフトもあるらしいけど、なにぶんワープロ専用機なので、かうやつていちいち変換してゐるのだから時間がかかるのも当然だらう。
 星野敬太郎選手がWBA世界ミニマム級タイトルを獲得。平成五年まで6勝(1KO)5敗というどこにでもいる凡庸な選手がよく世界チャンピオンになったものだ(しかも31歳)。負けを重ねて自分の打たれもろさを自覚し鉄壁のガードを作り上げてひと皮剥けたという点ではタイプこそ違え古城賢一郎を彷彿させる……という話は誰も読んでくれないような気がするな。なお、解説の川島の採点はクレバーでよかった。


[12月7日]
 Weird Worldは本日で二周年を迎えました。三年目の抱負はとくにありません。たらたら続くだけです。よろしくお願いします。
 七時よりミーコ姫とミミちゃんを連れて赤坂。柴田よしきさんの掲示板のクリスマス・オフに参加する。掲示板には参加していないのですが、秘書猫のおともだちがたくさんいるし、カラオケがメインだという話なので業界枠で参加。もっとも、ハードな神保町歌謡祭のあとにつき軽く二曲だけ。このところ南沙織に凝っており「傷つく世代」と「ひとかけらの純情」をわざわざ練習してから行ったのに、入ってない機種だったから(これはしばしばある)やむなく「色づく街」を歌う。特筆すべきは最後のビンゴゲーム。いままでこのたぐいの賞品に当たった記憶はないのだが、なんと一等賞のミャーチ(猫ロボット)がビンゴ。秘書猫がおまじないをしたに違いない。柴田さんがカンヅメに戻るため一次会のみで十時にお開き、珍しくそのまま帰宅。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。みなさんにとってもかわいがっていただきました。ミーコはどこへいっても人気者です。わーいわーい。かえってからクラニーがミャーチをうごかしてくれました。うれしいにゃ。みなさま、おつかれさまでした。おわり。
 さて、「ダ・ヴィンチ」1月号が届きました。P32にアンケートを寄せています。うーん、やはりこのセレクションは渋すぎたか。それにしても、担当さんが五人も載ってるとは。オフ会で回し読みになってウケてました。


[12月8日]
 長篇Aが200枚をクリア。来月中に二冊分の原稿を渡すメドが立ってきたかも。「サイト」の初校ゲラも届く。こちらは余裕があるからじっくり見よう。ゲラの出るころにはもう憑き物が落ちているため、もっぱら文章の細部の修正です。
 衣装が黒ばかりでぐちゃぐちゃになってきたから、近所の雑貨屋で深型三段クローゼットケースを購入。やっとセーターと寝間着の区別がすぐつくようになった。もう一つのクローゼット用の洋服掛けも必要だし、本とぬいぐるみは増殖中だし、来週は珍しく予定がないから生活向上週間第二弾にするかな。


[12月9日]
 今週はハルキ・ホラー文庫を中心に未読本を消化。ほぼ読了順に、平山夢明『メルキオールの惨劇』、森奈津子『あんただけ死なない』、友成純一『ナイトブリード』、佐々木禎子『鬼石』、森真沙子『朱』、新津きよみ『ふたたびの加奈子』、小沢章友『極楽鳥』(以上、ハルキ・ホラー文庫)、瀬川ことび『厄落とし』(角川ホラー文庫)、恩田陸『puzzle』、若竹七海『クール・キャンデー』(以上、祥伝社文庫)、水木しげる監修『変化』(PHP文庫)と小説は11冊。『メルキオールの惨劇』はなかなか邪悪でいいんですけど、「ホラー小説の歴史を変える傑作」とまで大きく出られるとむやみに期待値が高まるからなあ。『極楽鳥』は邪悪な鳥を縦糸、芸術家を横糸に丹念に織られた一冊。幻想文学ファンには最もおすすめです。『クール・キャンデー』の底意地の悪さも心地よかった。文脈はがらりと変わりますが、『あんただけ死なない』はP103〜106がいちばん気持ちよさそうでした(笑)。
 図書館本は芸能の棚に移動、広岡敬一『浅草行進曲』、榎本滋民『古典落語の世界』(以上、講談社)、柳澤睦郎『落語つれづれ草』(鳥影社)、前川道介『アブラカタブラ奇術の世界史』(白水社)の4冊を読了。前川氏にこんな著作があったとは、完全に盲点だった。このところノルマの一日十枚を達成するとにわかに根が続かなくなるので意外に読書時間がとれているのですが、分厚い本と面倒そうな本に手が伸びないのは問題かも。


[12月10日]
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。きょうはぬいぐるみ掲示板の第1回オフ会でした。十二時に吉祥寺に集合、井の頭どうぶつえんへあそびにいきました。引率者はクラニー、優、ドルバッキー姉妹。ぬいぐるみは猫6匹、カタツムリ3匹、犬、カッパ、カメレオン各1匹です。おめあてのアムールヤマネコさんはおねむでうごいてくれませんでしたが、ミーコはいっぱいどうぶつをみました。モルモットさんにもさわりました。とってもたのしかったです。そのあとは喫茶店でコーヒーをのみました。クラニーは猫耳をつけてました。こまったものです。では、カバン持ちにかわります。
 ご婦人方がホテルオークラの光り物鑑賞ツアーに向かうため五時に解散、ここからは吉祥寺単独蕎麦ツアー。前後するが、昼食は吉祥寺砂場で大もり(お目当ての上杉は臨時休業)。こういうこともあろうかと周到に持参した杉浦日向子とソ連編著『ソバ屋で憩う−悦楽の名店ガイド101』(新潮文庫)でチェック、まず神田まつや吉祥寺東急店でごまそばを食す。美味。続いて南口からひたすら歩き(うまい蕎麦屋は駅から遠い)、やっとよしむらを発見、辛味大根せいろを味わう。蕎麦も雰囲気も満足。近場だったら酒も飲むんだけど。吉祥寺に引き返すのも業腹なので腹ごなしに西荻窪まで歩く。住宅街をうろうろしていたら忽然と地玖庵というよさげな手打ち蕎麦屋が現れたから、仕上げに好物の野菜天せいろを食す。さすがに一日四軒はハードだったかも。というわけで、お疲れさまでした。
[12月11日]
 対談のゲラを返送したあと、長篇C・A・Bを進める。生活向上週間初日は北千住のイトーヨーカドー。丈が合っていなかった窓用のカーテンと前から一着欲しかった黒のカシミアのコートを購入。安物だけど。
 さて、探偵小説研究会編『2001本格ミステリ・ベスト10』(原書房)が届きました。アンケートを寄せています。私はカップリングの妙とかシンメトリカルな美しさとか余計なことを考えるタイプで、誰と重なったかチェックするのが楽しみだったりします。今回は順位を含めて3つ重なった鷹城宏さんがビンゴ。おまけに座談会の「マニエリスム」までかぶっている。私のコメントの最後のほうはちょっとわかりにくいんですけど、要するに、復古(回帰、保守)本格と前衛(革新)本格などというタームはやや洗練さに欠けるのでルネサンス本格とマニエリスム本格はどうかという問題提起をしたかったわけです(先例があるかも)。ただ、本格ミステリーそれ自体にマニエリスム性が内包されており、マニエリスムとマンネリスムの語源が同じだったりするので話がさらにややこしく、だいたい、「では、バロックと二つのゴシックはどうなるのか?」などと突っこまれるとにわかに腰が砕けてしまうのが我ながら情けないところなのだった。ちなみに、P67の「断裂せる世界を虚構の全体の中へと弥縫する」のもマニエリスムですが、逆に調和せる世界を断片の集積に解体するのもマニエリスムでしょう。まあこのあたりは騙し絵的なんですけど。もう一カ所、「ミステリと幻想文学のクロスする部分がフィールド」というくだりもわかりにくいかもしれないので簡潔に述べますと、狭義の幻想文学というのもなんとなくあるのですが基本的に幻想文学はハイパージャンルで、四つの座標に遍在しています。ただし含有率には差異があり、きわめて大ざっぱにまとめると、ホラーとファンタジーでは高く、論理的整合性が構成要素となるSFとミステリーでは低くなります。SFとミステリーを比べた場合、SFのほうが幻想文学の含有率が高く、コードの規範性が強いミステリーは四ジャンルのうち最も低い。この狭い「ミステリと幻想文学のクロスする部分」へのアプローチの仕方は二通りあって、ミステリーの内側から領域を拡大して至る場合がほとんどなのですが、逆に外側から至る場合もあります。かく申す私がそうで、個人的には『火蛾』にも同じベクトルを感じたため文句なしの1位にしたというオチになるんですけど、この説明でわかりましたでしょうか?


[12月12日]
 生活向上週間二日目は御徒町の多慶屋。コーヒーメーカーと折りたたみ式将棋セットを購入。その前に上野蕎麦ツアー、よく飽きないものである。まず池の端薮蕎麦でいそゆきそばを味わう。卵の白身を溶いたものに蕎麦が浸かっており、もりの要領でたぐって食べる。風情はあるけどやや食べにくい。続いて蓮玉庵でせいろを食す。栞には斎藤茂吉の短歌が紹介されていた。「池之端の蓮玉庵に吾も入りつ上野公園に行く道すがら」これならいくらでも作れるぢゃないの。上野薮蕎麦はまた後日。
 さて、「メフィスト」が届きました。「十三の黒い椅子」連載第三回が掲載されています。作中アンソロジー収録の作中作はいよいよ残り二篇です。


[12月13日]
 翻訳、長篇A・Bでどうにか十枚。夜は「メフィスト」連載の伏線箇所を忘れないようにチェック。生活向上週間三日目、近所の雑貨屋で突っ張り押し入れポールなるものを購入。取り付けは後日。
 紙媒体ではないのですが、できたばかりの日本推理作家協会HPに自筆プロフィールと写真が載っています。写真はハードボイルド系なのに趣味がぬいぐるみとか書いてあったりします。bk1と連動しているので「倉阪鬼一郎の本を探す」をクリックしてみたところ、実に43件がヒット。アンソロジー収録の小説や翻訳も網にかかるんですね。これは便利かも。


[12月14日]
 危惧していたのだが、長篇Aで作者が思い切り錯覚に陥っていたことに気づき、また最初から読み返して修正する。おかげで執筆は停滞。夜はどうにかゲラに着手。
 生活向上週間四日目、まずカーテンを付け替える。窓の下が使えるようになったため荒川の家具店に赴き、二段組のカラーボックスを三つ、さらに先を見越してパソコンデスクと椅子を発注。いずれ調査してからデスクトップ型を買う予定なのだが、当面はぬいぐるみ領になる見込み。続いて三河島のセイフーに寄り、ハンガーなどをむやみに購入。帰宅後、さっそく突っ張り押し入れポールをクローゼットに設置しようと試みる。しかしながら、まったくサイズが合っておらず、やむなく健康器具もしくは護身棒に用途を転換する。何をやってることやら。


[12月15日]
 生活向上週間五日目は高田馬場、例によってアオキとユーエスバンバンで冬物の黒服とスラックスを調達。生活向上を標榜するには立ち回り先がショボすぎるような気もするけど。そのあと、喫茶店で『このミステリーがすごい!2001年版』(宝島社)を読了。池波志乃さんが「屍船」を1位に選んでくださっていたのでびっくり。2位が「火蛾」か、濃いなあ。それでも牧野さんの「病の世紀」と同様6点どまり、あと一歩で名前が載らないあたりが特殊小説家らしい勝負弱さかも。
 さて、「新刊ニュース」1月号が届きました。アンケート「2000年印象に残った本」に参加しています。ちなみに私のベスト3は、
1.山尾悠子『山尾悠子作品集成』
2.平井呈一『真夜中の檻』
3.福澤徹三『幻日』
でした。きわめてオーソドックスな選択をしたつもりですが、そう思ってくれる人が何人いるかは謎。


[12月16日]
 長篇Cの第一稿376枚が完成。渡すのは年明けの予定だからじっくり推敲しよう。ただ、「サイト」のゲラもあるし、推敲すべきものが溜まってきたかも。配分を考えねば。
 生活向上週間最終日。近所の雑貨屋で木製ハンガー掛けを購入、試行錯誤しつつ組み立てて設置。最初からこれを買えばよかったのだ。さっそく月曜に買ったコートなどを吊るしてみたところ、なにぶん黒服ばかりで異様に陰気になったためピンクのクジラのぬいぐるみとナジャミーを移動する。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。えっと、おしらせです。ミーコは冬コミで作家デビューをします。『噂のくだんちゃん』というご本に「くだんちゃん危機いっぱつ」という小説をかきました(完結してないけど)。クラニーが特殊小説家なら、ミーコはとくしゅ小説家あるいはふくめん作家です。当日(30日)は午後のある時間から売り子さんをする予定なので、みなさんあそびにきてね。くわしいおしらせは高瀬美恵さんのWater Gardenをごらんください。おわり。


[12月17日]
 今週は海外物の読み残しをまとめて消化するつもりだったのだが、思ったより進まず。とりあえず読了したのは、エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』(東京創元社)、『ドイル傑作選1』(翔泳社)、フィリップ・ナットマン『ウェットワーク』(文春文庫)の3冊。『隠し部屋を査察して』は冷たいラファティの趣もある好短篇集。ベスト3は「隠し部屋を査察して」「刈り跡」「ともあれこの世の片隅で」。『ドイル傑作選1』はボクシング小説を最も面白く読んでしまった。『ウェットワーク』は男の子ノリが配合されているからちょっと割り引き。
 図書館本は犯罪の棚に移動、コリン・ウィルソン『「死体の庭」あるいは「恐怖の館」殺人事件』(ぶんか社)、小倉孝誠『近代フランスの事件簿』(淡交社)、高山文彦『地獄の季節』(新潮社)、宮元純『ストーカーの恐怖』(中央書院)の4冊を読了。「恐怖の館」は鬼畜でいいんですけど、どちらかと言うと不能系のほうがツボかな。
[12月18日]
 休日に働き平日に休むのが自由業の醍醐味の一つにつき、本日は久々に執筆お休み、年賀状の印刷と住所録の改訂を済ませたあと浅草蕎麦ツアーに赴く。まず尾張屋本店で松茸そばを食べる予定だったのだが売り切れ、やむなくもりとなす田楽を食す。続いてメインの長浦へ向かったら休業、ROXビルでオウムのぬいぐるみなどを買って気を取り直し、満留賀浅草雷門店でとろろそば。まだなんとなく釈然としないから腹ごなしに散歩したあとメトロ通りの十和田で野菜天ざるを食し、やっと満足してバスで帰宅。有意義な休日であった。


[12月19日]
 長篇Aを250枚まで進めてから神保町へ。バッグ一杯分の本を買ったあと、五時から講談社のA元さんと打ち合わせ。十代のころに「群像」の新人賞に出した小説の話など。昨日の蕎麦がまだ残っていたため出雲そばではなく古瀬戸から古瀬戸というパターン。ミステリーの批評家が絶賛する作品と一般読者との乖離とか(あまり憂えてはないけど)例によってそこはかとなく邪悪に八時半まで飲む。


[12月20日]
 翻訳のピッチを上げないと夏のシリーズ完結に間に合わないことが判明、ノルマを一日二枚にする。同時進行はあまり苦にならないのですが(瞬発力がないからこれだけが取り柄)、さすがに翻訳と小説は使う脳が違うからなあ。その後は長篇Aを進め、夜はゲラ。
 さて、日本棋院から囲碁四段の免状が届きました。本因坊の直筆署名入りでなかなかに風格があるんですけど、できれば武宮時代に欲しかったというのは贅沢だろうな。


[12月21日]
 荒川の家具店から注文の品が届く。まずカラーボックスを三つ組み立てる。二段を買ったつもりなのに三段が届いたのだが、設置してみると結果オーライだった。さっそく積ん読本(和書のみ)を分類して入れる。これは謹呈本これは資料、以下順次ジャンル別に整理していったところ、あっけなく全部埋まってしまった。本さえ買わなければ半年くらいで消化できるんだけど。とりあえず強調月間を設けて減らすべきは海外ミステリーだろうか。
 夕食後、今度はパソコンデスクと椅子を組み立てる。デスクのネジ留めに力が要るのには閉口、こんなときに夫がいればと思う独身女性の気持ちが……という話は前にも書いたな。四時間かかってやっと完了、ノートパソコンと数種のぬいぐるみを移動する。次は周囲に使い手の多いMacを考えてるんですけど、ローテクでも使いこなせて作曲とお絵かきソフトがインストールされている機種はあるのかな? 約四十曲のオリジナル曲(大半は演歌とコミックソングだけど)を譜面化したいし、ゆくゆくは装幀のラフスケッチ、ミーコ姫のホームページ、私家版の詩集などと構想だけはむやみに広がっているのですが。なお、執筆はずっとお気に入りのワープロ専用機(シャープのSERIE)の予定。


[12月22日]
 恒例の菊地秀行プレゼンツ、ロフトプラスワン・トークライヴ「ザ・忘年怪」のため歌舞伎町へ。その前に新宿東急で「エクソシクト ディレクターズ・カット版」を観る。中学のころわざわざ大阪まで観に行った思い出の映画を二十数年ぶりに再見、渋い演出で堪能しました。喫茶店で昨日から読みはじめた『紅秘宝団』(全2巻・祥伝社ノンノベル)を読了したあと会場へ。今回は映画なしでトークオンリー、まず菊地ファンによるコスチューム・コンテストが行われる。最初はいつもの座敷にいたのだが、なんとなく審査員に加えられてしまい、飯野文彦、外谷善子、笹川吉晴、遅れて井上雅彦といった面々とともに壇上へ。休憩後は私のディナーショー(笑)。尾崎紀世彦の「さよならをもう一度」を歌いながら会場を一周したところアンコールの嵐になったので「モンスター」も歌う(昔はこういうキャラじゃなかったのだが)。特筆すべきはバックダンサー、なんと菊地さんと外谷さんが並んで踊ってました。ここでお役御免となり、恒例の福引。三つしかない笹川吉晴賞のバスケットがなぜか座敷組の高瀬美恵さんと私に当たってしまう。ぬいぐるみはカンガルーのほうがよかったけど。菊地さんのオリジナル生原稿は今年も一般のお客さんがゲットしてました。その後は質疑応答が中心のトーク、今夜の飯野さんはいやにまじめで短篇と長篇の違いの話などをしていたからびっくり。四時すぎに終了後、二十数人で二次会。途中で寝てしまった飯野さんに代わり、後輩の高瀬さんが少女相撲などまとめにくい話で飛ばしてました。というわけで、六時半ごろ解散。お疲れさまでした。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコはオウムのジャバーといっしょに出ました。毛皮のイヌさんとあそんだり、クラニー賞のプレゼンターをしたり、おうたに合わせておどったり、お客さんとあくしゅしたり、んーとそれから、角銅さんのおくさんにエプロンをまいてもらったり、今夜もとってもかつやくしました。またあそんでね。おわり。


[12月23日]
 四時間ほど寝たあと年賀状の表書き。六時から神保町へ赴き、今度は古典SF研究会の忘年会に出る。出席者は横田順彌、森下一仁、北原尚彦、長山靖生、高橋良平、矢口悟、日下三蔵、藤元直樹など十数名。例によって長山さんにサインしたあと、なぜか横光利一や三島由紀夫の話などいろいろ。店を出るときにちょっとした怪談がありました。最初から貸し切りの店で靴が一足余ったため、誰かがサンダルで帰ってしまったのではという話になった。途中で帰ったのは確かに一人だけなのに、マスターはこう言う。「もう一人帰られましたよね。あの方が忘れたのでは?」忘年会に交じっていたのは誰でしょう。さすがに眠かったので二次会はパスして帰宅。


[12月24日]
 読書はしばらく小説主体だったため、今週はノンフィクションを中心に読んでいました。読了したのは、吉野裕子『狐』(法政大学出版局)、大泉実成『消えたマンガ家 アッパー系の巻』『同 ダウナー系の巻』(新潮OH文庫)、養老孟司『涼しい脳味噌』、桂米朝『落語と私』、矢野誠一『落語家の居場所』(以上、文春文庫)、宮崎国夫『修羅の棋士 実録裏将棋界』、松田美智子『女子高校生誘拐飼育事件』(以上、幻冬舎アウトロー文庫)、佐野眞一『あぶく銭師たちよ!』『ニッポン発情狂時代』、下川耿史『変態さん!』(以上、ちくま文庫)、島朗『純粋なるもの』、上村邦夫『鬼手』(以上、河出書房新社)の13冊。読むのはわりと早いほうなんですけど、さすがに週15冊は逃避のような気がするからもう少し絞ろう。
[12月25日]
 まず年賀状を投函。百枚強に一筆ずつ添えるのは面倒につき、ほとんど秘書猫に代筆させました。あまり愛想がないんですけど、俳句は未発表オリジナルなのでご勘弁を。その後、夕方からミーコ姫を連れて高田馬場。ディナーショーの練習用のCDを買ったあと、五時よりジァンナンで双葉社のH野さんと打ち合わせ。「小説推理」で連載予定の長篇メタフィジカル・ラビリンス「The End」の構想を渡す。幸い気に入っていただいたのでこれで進行。やはり奇特な編集者あっての特殊小説家だなあ。気合を入れて書かねば。ただ、「メフィスト」の連載があと二回あるし、上半期の「小説推理」は西澤さんの連載に出演しなければならないので(笑)、スタートは来秋からになります。その後、偏食の構造がいやに似ているH野さんを歌千代(先週も行ったわりと好きな蕎麦屋)に案内し、ミーコ姫を交えて会食。帰るときにちょっとしたカルチャーショックあり。イオカードやメトロカードは小銭をわざわざ出さなくても切符を買えるように開発されたものだと思いこんでいたのだが、H野さんのご指摘によるとあれは自動改札も使えるらしい。そ、そうだったのか……。


[12月26日]
 翻訳のあと散髪。やけにサービスのいい床屋なのだが、首や背筋の電動マッサージはいかがなものか。骨から脳に響いてひたすら気色悪いんだけど。帰宅後は長篇Aを進め、気分転換に締切までひと月以上あるエッセイの第一稿を書き、夜はゲラに戻る。
 浅暮三文『夜聖の少年』(徳間デュアル文庫)を読了。媒体を意識してもおのずと滲み出てしまう作家性が興味深かった。SFとファンタジーの線引きは最も弱いのですが、この作品はあえて分類すればどちらになるのかな? 主人公が成長する物語はSF設定のファンタジーのような気もするんですけど。


[12月27日]
 今世紀最後の「新耳袋」トークライヴのため、ミーコ姫を連れて夕方より新宿へ。まず恒例の伊勢丹大古本市。収穫は以下の5冊。アンナ・カヴァン『愛の渇き』、ロバート・シルヴァーバーグ『確率人間』、アルフレッド・ベスター『コンピュータ・コネクション』、シオドア・スタージョン『コスミック・レイプ』、ラングドン・ジョーンズ『レンズの眼』(いずれもサンリオSF文庫)。おお、これでやっとサンリオのカヴァンとシルヴァーバーグが揃ったぞ。このラインナップで1万2千円はまずまずかも。ただ、ディキンスンが好例で、揃うと安心してなかなか読まないんだけど。そのあと新宿東映で「バトル・ロワイアル」を観る。ちょっと早めに入ったらロビーはオール若者の行列。原作よりたくさん人が死ぬ小説を書いた中年作家は孤独でした。映画はところどころ鬱陶しいシーンや台詞があるものの意外な健闘ぶりで観て正解だった。二丁目で蕎麦を食べたあと、喫茶店で西澤保彦『猟死の果て』(ハルキ文庫)を読了。本格パズラー作家もしくはSFパズラー作家の仮面の下に隠された邪悪で変態で暗く陰気な(くどいな)素顔が随所に見えて好みでした。十二時よりロフトプラスワン、いつもの座敷で「新耳袋」トークライヴを聞く。かなり眠かったのだが、ハイライトの京都の幽霊マンションの取材話ですっかり目が冴える。なかんずく「リング」のビデオの話が秀逸。別の話題では、冒頭の三面鏡と唇が印象的だった。こういう断片をいったん壷に入れて発酵を待ち、いずれ機会があれば思い切りアレンジして作品のディテールに活かす予定。すでに『不可解な事件』と『首のない鳥』でさりげなく一カ所ずつ使ってるんですけど、来年三月刊行の『サイト』では「あの話の否定された箇所がこういうとんでもない化け方をするか」という部分があります。この場をお借りして木原さんをはじめ関係者の皆様に御礼を申し上げます。その後、十人ほどで上高地で厄落とし、七時に解散。お疲れさまでした。では、秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。角銅さんのおくさんがつくってくださったフリルのついた白いくだんちゃんエプロンをまいてもらいました。ミーコはかわいいメイドさんになりました。わーいわーい。壇からみるとミーコだけ光っててぶきみだったそうです。というわけで、30日の日記につづきます。


[12月28日]
 今日は執筆お休みでゲラに専念。読み返して推敲すべき文章はほかにもまだまだあるのだが。
 さて、「週刊文春」が届きました。コメントは書かなかったのですが「20世紀ミステリーベスト10」に投票しています。私の国内1位「霧越邸殺人事件」がやっと29位、同2位「夏と冬の奏鳴曲」と海外1位リチャード・ニーリイ「心ひき裂かれて」はランク外ってこんなもんですか。海外2位のガイ・バート「体験のあと」は入らなくて当然だけど。それから、末尾の総括を見ると、ホラー・プロパー以外では国産ホラー=ホラー・ジャパネスクと思われているようですね。この文脈で「バトル・ロワイアル」が入っていると二重の意味でむちゃくちゃ違和感があるのですが。


[12月29日]
 ようやく「サイト」の著者校正一回目を完了させたあと大掃除のようなもの、夜は長篇Cの推敲に手を回す。
「ダ・ヴィンチ」2月号が届きました。「井上雅彦の異形対談」にゲストで出ています。当日は不調だったのですが、神無月さんがうまくまとめてくださったおかげでどうにかサマになったかな(発言には若干の韜晦がある模様)。ただ、いま手がけているのは短歌ではなく俳句なんですけど……。
 瀬名秀明『八月の博物館』(角川書店)を読了。「物語」についてのスタンスは作家によっておのずと差異があるでしょうね。私はどちらかと言うと物語よりそれを解体した神話の断片めいたもののほうがツボのような気がする。「どこでもドア」に触発された構造はかなり参考になったかも。これで歴史物も書けるかもしれない。ずいぶん先の話だけど。


[12月30日]
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。きょうはコミケで売り子さんをしました(メイドさんのコスプレつき)。十二時半ごろにクラニーにつれてってもらいました。出ぶしょうのクラニーはゆりかもめに乗るのもはじめてで「東京にこんなところがあったのか」とおどろいてました。初参加のクラニーは人ごみがだめなので、ついたときにはもうへろへろでした。ミーコは高瀬美恵さん、樹川さとみさん、ミミちゃん、ジェニーさんといっしょに「噂のくだんちゃん」を売りました。いろんな方がきてかわいがってくれました。ななさんからネックレスをいただきました。黄色いヘビのぬいぐるみの巳之吉もちょうだいしました。クラニーは会場を回ったようですが、何がなんだかよくわからず、吸血鬼のご本を一冊かっただけだったそうです。けっきょく、ミーコのデビュー作がのっている「噂のくだんちゃん」は120冊ほど売れました。そのうち10冊をクラニーがかってました。おわりごろになってブラニーさん、アズレーさん、けーむらさんなどがきました。りえぞんさんからいただいたひみつのご本は柴尾さんに売ってました(ごめんね)。四時に終了してから月島にいどう、30人くらいでもんじゃ焼きをたべました。ミーコは油がきらいなのでかくれてました。クラニーの席だけたくさんたべてたようです。八時すぎにしゅうりょう、大江戸線でかえりました。みなさま、おつかれさまでした。では、よいお年を。


[12月31日]
 翻訳と小説を進めようと思ったのだが根が続かず、早々に仕事納め……って大晦日だけど。今月の執筆枚数は203枚、執筆稼働日数25日、一日平均は8.1枚でした。
 その後の読了は紀田順一郎『神保町の怪人』(東京創元社)と大室幹雄『囲碁の民話学』(せりか書房)。前者にちらっと出てくる橋間石は俳人として最も有名なのだが言及がない。紀田氏でも盲点になることがあるんですね。蘊蓄物は怖いな。
 というわけで、とくに感慨もないですが20世紀はおしまいです。今年一年のご愛読ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。