[1月1日]
 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。自分の日記の更新分を読んでいるうちにいつの間にか新世紀になっていました。21世紀になったからには、俳句は有季定型旧仮名に転向、いろいろな意味で早く前世紀の遺物と呼ばれるようになりたいなと思ったりします。「世紀末じゃあるまいに、あいつまだ何の救いもないホラーを書いてるのか」とか(笑)。
 ニューイヤー駅伝を見ながらレシートの整理、年賀状の返事を書いたあと元日から仕事。今年も月産200〜250枚くらいのマイペースで仕事ができればいいなと思っています。ただ、今年の仕事量を考えてやや暗澹たる気分。このところ自分の小説が飽和気味でちょっと情緒不安定かも。その後、コインランドリーで読み初め。ずっと未読が気になっていたスティーヴン・キング『IT』(全4巻、文春文庫)に手をつける。


[1月2日]
 初めてミーコ姫を連れて伊賀上野に帰省。親が地元のケーブルテレビのビデオを見せてくれる。「伊賀の本」というコーナーで『首のない鳥』のジャケットが三十秒も映っていた(翌日の宴会で親が同書を配ってたけど、来年から呼ばれなかったりして)。それにしても、田舎の人は作家がどうして生活できているのかさっぱりわからないようです。「出版社から固定給は出てんのか?」って、そんなものが頂戴できるのならこんなにアホみたいに仕事はしてません。夜はうっかりイヤーウィスパーを忘れてしまい、部屋中の時計を止めても眠れず。キイボードの音が気になって集中できないから部屋でも使用、年間の耳栓消費量はかなり多いです。


[1月3日]
 今日はまず96歳になる祖母の老人ホームを訪問する。大きくなったと言われました(笑)。続いて一時から倉阪一族の宴会。今年はいとこの社長就任祝いがメイン。同じ血統でも片や某一流企業の主要子会社の社長、片や『活字狂想曲』の作者、ずいぶん違うものである。いかに酔っていたとはいえ5歳の姪にジグソーパズルで負けているようではパズラーは無理か。終了後、自転車で本屋に寄ったのだが、帰りに転倒して手と足首を打撲する。幸先のいい正月だ。では、秘書猫のごあいさつです。
 みなさん、あけましておめでとうございます。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ことしもよろしくね。ミーコははじめておこたに入りました。それから、ブラニーの娘さんのめいちゃんといっぱいあそびました。ジャンケンもおぼえました。でも、地元ではあんまりゆうめいじゃなかったです。くすん。


[1月4日]
 帰りの新幹線の中でスティーヴン・キング『IT』を読了。うーん、これは大長編を読む(書く)才能に欠ける私にはあまりにも長すぎました。キングの少年物と作家物では断然後者(「シャイニング」「ダーク・ハーフ」「ミザリー」)が好みだし、やっと盛り上がりかけたところで関係のない無駄な文章がまたひとしきり続くのには閉口。力業は十分認めるものの趣味ではなかったです。さて、せっかくなので今月は海外未読長篇強調月間とします。次はいよいよ「百年の孤独」。
 話変わって、桂三木助の自殺は枝雀以来の衝撃。鬼畜ユーモア作家も他人事じゃないかも。どうも年頭から気分がブルーだな。とりあえず仕事するしかないか……。


[1月5日]
 というわけで長篇Aを進め、300枚をクリア。いよいよラストスパート・モード。その後、二種類のアンケートを送り、短篇のゲラを戻し、夜は長篇Cの第一次推敲を仕上げる。
 このところ、ご好意で頂戴したさる門外不出のビデオを見ています。こんなに長時間映っている自分を見るのは初めて。私の目には佐川一政と及川光博をブレンドしたような人物に見えるのですがどんなもんでしょう?


[1月6日]
 翻訳と長篇Aを進め、夜は長篇Aを頭から読み返し、「サイト」のゲラ校正二回目に手を回す。工程が多すぎるから仕事が片づかないような気もするのだが、これは性分だから致し方なし。


[1月7日]
 日曜日もひたすら仕事。午前中から執筆を始めて夜の十二時くらいまで自分の小説を推敲していたりするので読書は進まず。今年はアンケート界からの引退も視野に入れ、あまり新刊を追わないようにしようかとも思っています。読みたい本は山のようにあるんだし。
[1月8日]
 祝日もひたすら仕事。翻訳の四篇目と長篇Aの追い込み。長篇Aは謎解きのパートに入ったので進むことは進むのだが、説明すべきことが多すぎて順番が難しい。夜は「サイト」のゲラ。


[1月9日]
 翻訳の四篇目の第一稿がようやく終わる。既訳を参照できる「銀の仮面」なら進むかと思いきや、折り紙つきの傑作だからプレッシャーがかかって全然捗らなかった。あと七篇か……。その後、旧住所からどっと転送されてきた年賀状の返事をあわてて書く(遅くなって恐縮です。来年からはもう少し出さねば……と毎年思うのだが)。昼食後は長篇A。枚数不足を案じていたけれども、350枚をクリアしたから400枚近くまで延びそう。夜は「サイト」のゲラ校正がやっと完了。


[1月10日]
「サイト」のゲラを返送する。もっぱら文章の細部のチェック、「トル」という赤字がむやみに多い。無駄な言葉が一つもないのが理想なので見るたびに赤字は入ってしまうのですが、どうもキリがないですね。その後は長篇A。翌日の検診に備えて早めに酒と薬を飲んで九時に就寝したものの二時間で覚醒、「将棋世界」をたらたら読みながら無駄な時間を過ごす。


[1月11日]
 午前中、荒川区がん予防センターで胃と肺の検診を受ける。昨年、文京区の検診をきっかけに悪性大腸ポリープが発見されて手術したのだが、同時に受けるはずだった胃検診はできなかった。前日の午後九時以降は禁酒禁煙、食事も水もいっさいだめという厳しい条件に当方の薄弱な意志が耐えられなかったのである。よって今回がリベンジ。意志を強く持ち、煙草を二本吸っただけで会場へ。睡眠不足に加えてコーヒーが体内に入っていないためほとんどゾンビ状態。数年ぶりに呑むバリウムは何の味もついていなくて実にまずかった。なお、検診はガン予防の講習つき。パンフレットには「ひと口に30回くらい噛んで食べるように」などとおせっかいなことが書いてある。江戸っ子(どこがやねん)が蕎麦を噛めるか。終了後、荒川公園を散策。荒川区の公園には「イヌ・ネコの立ち入りを禁じます」という看板がむやみに出ているのだが、飼い主づれのイヌはともかく、ネコに呼びかけても仕方がないと思うぞ。帰宅後は推敲を終えている長篇Cを修正して再プリントアウト。
 G・ガルシア=マルケス『百年の孤独』(新潮社)を読了。ラテンアメリカの長めの長篇はほかにも「石蹴り遊び」「夜のみだらな鳥」などが挫折していたので少し借金を返したような気分。アモラルなディテールを楽しむ小説だが、ラストは予備知識があっても快感だった。次は、ずっと宿題になっていた「イタリアの惨劇」。この調子だとあまり消化できそうにないから、合間に薄い小説を挟みながら上半期は長編在庫一掃期間にするかな。


[1月12日]
 推敲作業をちょっと進めただけでお休みモード。珍しく渋谷に赴き、これだけは行かねばと思っていたデ・キリコ展を観る。影がくっきりと描かれたメタフィジカルでスタティックな作品がキリコらしくて好きです。背景に汽車が描かれている絵がいくつかあるのですが、これはイタリア版「路地裏を夜汽車と思ふ金魚かな」(攝津幸彦)ではないか……という話はやや袋小路か。その後、せっかく渋谷に来たのだから変わった店で食事をしようと散策した末、また蕎麦屋に入ってしまう。太った飼い猫が自動ドアを開けて悠然と出入りするさまは風情があった。ちなみに、うどんは細うどんならOK、噛まなきゃいけない太いものは好まず。ラーメンはインスタントか気合の入っていない店ならOK、何をだしに使っているか知れないような店は怖くて入れません(世間とはまるで逆)。その点、蕎麦屋は変なものからだしを取っていないので安心です。


[1月13日]
 早朝から仕事。長篇Aは週明けにはゴールにたどり着きそう。仮眠後、夜は長篇Cの最終チェック。作中作が二つある次の「メフィスト」連載、まだまだ道は遠い翻訳の下調べ、そろそろプロットを渡さなければならない長篇E、三月締切の二本の短篇あたりまでとりあえず気になっているのですが(なにぶんA型の典型なので)、とても手が回りません。
 さて、「小説すばる」2月号が届きました。特集「ミステリーの快楽・悦楽」に短篇「鳥雲に」を寄稿しています。作中に登場する俳句球体説はもちろん自説です。ホラーの連作が本格寄りのミステリー枠だと縛りがぐっときつくなるんですけど、今回は俳句も作る必要があったためずいぶん難渋しました。あと三篇なので今年中に完結の予定。


[1月14日]
 ひたすら長篇Aのラストスパート。
 その他の読了は、永沢光雄『AV女優』(文春文庫)、『綾辻行人が選ぶ!楳図かずお怪奇幻想館』(ちくま文庫)、徳南晴一郎『怪談人間時計』(太田出版)、仁平勝『俳句をつくろう』(講談社現代新書)、大屋達治句集『龍宮』(富士見書房)。復刻版の『怪談人間時計』は併録の「猫の喪服」のほうが狂ってます。うーん、凄い世界だ。
[1月15日]
 長篇A「四重奏 Quartet」の第一稿390枚が完成。
 個人的には自分にしか書けない作品を書かないと意味がないと思っているので本格それ自体を書くとは一度も言っていないのですが、問題はミステリーの配合の仕方で、どうも物理トリックや不可能犯罪のたぐいは向いていない。そこで今回は、伏線と結果の主述関係の織物がミステリー、浮かび上がる図柄がホラーもしくは幻想小説というコンセプトで書いてみたんですけど、いざ織り上がってみると歪みや綻びが目立つ。これを修正しなければならないのですが、従来のように頭から文章中心に推敲していたのでは駄目だな。登場人物別、主題別、伏線別というように視点を変えつつ直していかないときれいな織物になりそうにない。完成までにはまだ時間がかかりそうです。
 午後は長篇C「ワンダーランドin大青山」の最終修正とFD作成。これであとは渡すのみ。なんとなく山を越したような気もするけど、頭の片隅では幽かに「ホンダラ行進曲」が響いているのであった。その後、二種類のエッセイを送付してとりあえず目先の締切をクリアしておき、夜はディテールを呼び覚ますべく「メフィスト」の連載を読み返す。


[1月16日]
 翻訳と連載を再開するも調子出ず。半ばやけを起こして二つの短篇を同時に起稿する。夜は長篇Aの推敲に着手。さらに、しばらく滞っていた長篇Bを読み返す。また頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。さて、『サイト』(徳間書店)は少しずれて4月刊行でほぼ決定したようです。今度は某関西在住作家の短篇集とカップリングの模様。
 サーデグ・ヘダーヤト『生埋め』(国書刊行会)を読了。イラン作家27歳のおりの暗黒第一短篇集(私と同じではないか)、幸薄い作品が多くて好みだった。人形愛の主人公に感情移入できる「幕屋の人形」、何の救いもない「深淵」、黒一色の表題作がベスト3。作者は48歳で自殺しているのだが、その作品は反復されるアプローチだったのかもしれない。とにかく暗くていいです。最後は箴言風に引用。
 誰もが死を恐れるが、僕は執拗に続く生が恐ろしい(「生埋め」より)。


[1月17日]
 午前中は長篇Bの構成を練り直す。パーツが74もあるのか……。午後は連載の作中作(今度はシナリオ)、夜は長篇Aの改稿。どうも仕事のバランスが難しい。
 新刊はあまり追うまいと思っていたのにほうぼうからプレッシャーをかけられるので、殊能将之『黒い仏』(講談社ノベルス)を読了。結論を言えば快作なんですが、ある種の固有名詞に反応できる人は驚けないという構造ですね(参考文献は先に読まないように)。その固有名詞群を包含するサブジャンルは、ある意味ではホラーとSFの境界に位置しており、筋の通り方などではデジタルな部分があるのでミステリーと親和性があるのかなとも思ったりしますが、特筆すべきはミステリーに対するシニカルな視点で、なるほどこういう探偵虐待法もあるのかといたく感心し、そうかそれならあの作品もそうだなとふとタイトルを思い浮かべてみたりしたんですけど、もう一つ想起したのは昨年の収穫だったある作品で、タイトルが示唆するテーマおよび作品における役割に共通性があるように思われ、このあたりの構造も興味深かったですね。未読の方の興を殺がないように坊主の寝言のようなことを書きましたけど、まあ坊主が出てくる作品なのでご容赦を。とにかくセンスのいい快作でした。拍手。


[1月18日]
 翻訳と連載と長篇Bを少しずつ進めたあと、これも懸案だった初期短篇選集に手をつける。品切の第一・第二短篇集からセレクトしたものに未収録全面改稿作品をいくつか加えたものなのですが、昔は手書きだったからあまりデータが残ってないな。ぼちぼち合間に進め、夏に出せればベストなのですが。それから、『悪魔の句集』もほぼ品切になったようです。著作リストの12346が品切、5『百鬼譚の夜』7『妖かし語り』(出版芸術社)はまだ初版の在庫があります。夜は長篇Aの推敲。これを先に進めるべきだろうな。


[1月19日]
 長篇Aの第一次推敲をとにかく最後まで進めたあと、四時半より新宿プチモンドで集英社のC塚さんと打ち合わせ。書き下ろし長篇ユーモア・ファンタジー『ワンダーランドin大青山』の原稿を渡す(某さん、先に渡してしまってすいません)。「『ブラッド』と同じ作者とは思えない」がコンセプトにつき、表紙はかわいいイラストになる模様。その後、伊勢丹美術館で「ベルギーの巨匠5人展」を観る。スピリアールトの初期作品は陰鬱ですごく好みだった。ただ、幸せになって色彩が豊かになったとたんにややつまらなくなってしまう印象。やはり家庭の幸福は諸悪の根源かも。ポール・デルヴォーも好きな画家だからたくさん観られていたく満足でした。
 六時半より幻想的掲示板オフの「恐怖の会」。今回は20人ほど(参加者名は幹事のフクさんの日記をごらんください)。初対面は遠路はるばる北海道から参加の質草サワトさんのみ。いろいろと業界の話など(大ざっぱなまとめだな)。二次会は例によってパセラ。今年の歌い初めである。初めて歌ったのは「箱根八里の半次郎」「道頓堀人情」「バイブレーション」「花も嵐も」「君は薔薇より美しい」など。久々に東雅夫全開モード。いつもながら、浅暮さんの前フリは真似できない。十二時に終了、珍しく三次会もなく電車で帰宅。ちょっと疲れてたから助かったかも。では、元気な秘書です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。C塚さんに「噂のくだんちゃん」をプレゼントしたらウケてました。オフ会では『夢の断片、悪夢の破片』の担当だったK野さん、SF人妻さん、ブラニーさんなどのみなさんにあそんでもらいました。みなさま、おつかれさまでした。おわり。


[1月20日]
 翻訳と連載、夜は長篇Aの推敲。
 このところ毎日暗号を作っているような気がするのだが(気のせいじゃないか)、唐突に「クラニーの三原則」を思いついたので書いてみます(むろん自戒をこめて)。
1.暗号自体に整合性があること(アナグラムに意味なく濁点を加えたりするのは不可)。
2.作品に暗号が登場する最低限の必然性があること(どう転んでも不自然という部分はあるのですが、「なぜ暗号が作られたのか」という最低限の理屈は付与されるべきでしょう)。
3.作品全体がディテールまで推敲された完成度の高い文章で綴られていること(これによって部分と全体が響き合うわけです)。
 1は法則に則ってひたすら脳漿を絞ればいいのでわりと楽であるとも言えるのですが、2が意外に難しかったりしますね。


[1月21日]
 長篇Aの第二次推敲を終えて訂正、プリントアウト。あともう少しだ。
 アン・ラドクリフ『イタリアの惨劇』はまだ上巻のみ。わりと読みやすくはあるのですが。感想は下巻読了後に。その他の読了は、岩井志麻子『岡山女』(角川書店)、下川耿史『10代の遺書』(作品社)、大原健士郎『「職員室」の心の病』(講談社)、小島武夫『勝つ麻雀負けない麻雀』(日本文芸社)。『岡山女』のスーパーナチュラルは脇なのだが、その発動が片目の喪失というのはそこはかとなくオブセッションを刺激される部分があった。文章は平明にして上品。
[1月22日]
 午前中は長篇Aのプリントアウトの残り。午後は長篇Bと連載を少し進める。連載はやはり「書き下ろしなら前に戻って仕掛け直すのに」という箇所が出てきますね。いまごろ思いついてもなあ……。その後、深夜まで長篇Aの第三次推敲。


[1月23日]
 長篇A「四重奏 Quartet」が完成。これであとは渡すのみ。複数の作品を同時進行しているのでたまにこういうこともあるのですが、続けて書き下ろし長篇を完成させるとずいぶん消耗します。ここらでひと月くらい充電したいところなれどそうもいかず、かくなるうえは、走り続けていなけりゃ倒れちまう自転車みたいなこの命転がしてそうさ死んでも黒い服を着るよ……という中島みゆきファンにしかわからない話はこのへんにしておこう。
 さて、『この新書がすごい』(洋泉社ムック)が届きました。やや不出来な原稿を一本だけ寄稿して浮いています。この分量で表紙に名前が載っていると恐縮しますね。なんだか昔の「別冊宝島」みたい。


[1月24日]
 夕方よりミーコ姫を連れて飯田橋のホテル・エドモント、推理作家協会の新年会に参加する。名刺交換をしたのは、過去に何度も同席している太田忠司さん、掛け違っていて初対面の鈴木輝一郎さん、パーティ・デビューの黒田研二さん、新潮社のT沢さんなど。私も緊張しながら鮎川賞のパーティに初めて出たときのことを思い出しました。いまはすっかり堕落してほうぼうに出てますけど。いまだに秘書猫が肩に乗っていないと気後れして落ち着かない部分もあるのですが(普通は逆か)。席上、集英社のC塚さんと打ち合わせ、どうも長篇の着地がいまひとつ決まっていなかったため、助言を容れて最後の三章分をリテイクすることに決定。これがいちばん急ぎだな。明日も昼から打ち合わせだし仕事も気になるし、なにより「カラオケは週に二度以上やらない」と年頭に誓いを立てたので一次会のみでおとなしく帰宅。では、秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。双葉社のH野さんに「噂のくだんちゃん」をさしあげました。「漢字をいっぱい知ってるのね」とほめてもらいました。新井素子さん、AZMさんなどのみなさんにもあそんでいただきました。おつかれさまでした。おわり。
 アン・ラドクリフ『イタリアの惨劇』(全2巻、国書刊行会・品切)を読了。ラドクリフの「ユードルフォの秘密」に触発されてM・G・ルイスが「マンク」を書き、さらにそのアンチテーゼとしてラドクリフがこの作品を書いたという見取り図なんですが(いずれも18世紀末の作品)、これなら「マンク」の圧勝だよな。ゴシック・ロマンスには二つあり、20世紀後半に市場として成立していたサブジャンルもあるから話がややこしいんですけど、どうもこの作品はそういったエンターテインメントの祖型の一つという色合いが濃くて私にとっては退屈だった。祖型と言えばホラーよりミステリーで、あらすじが紹介されている「ユードルフォの秘密」など、ラドクリフは「超自然的な謎が合理的に解決される物語」を書いています。ポオが現在のようなたぐって食べる蕎麦を発案し、その後蕎麦打ちの機械が開発されたり更科系の変わり蕎麦がいろいろ生まれたりして蕎麦文化が発展したと考えてみましょう。しかし、蕎麦自体はポオ以前も食用として供されていたのであり、ラドクリフはむちゃくちゃ大ざっぱな「そばがき」と考えれば一つの説明にはなると思います。さて、次のターゲットはずいぶん昔に買った「ワイルダーの手」。ただ、間歇的に襲ってくる「人の小説を読めない病」の兆候があるので、いつ完読できるかわかりません。


[1月25日]
 二時より神保町で講談社のA元さんと打ち合わせ。「四重奏 Quartet」の原稿を渡す。これでほっとひと息。上半期の三冊の刊行時期については本決まりになるまでしばしお待ちください。終了後、毎週の恒例と化しつつある蕎麦ツアー。さんざん迷ったあげく日本橋の利休庵でもり、さらに高名隠れなき室町砂場で大もりを食す。蕎麦もさることながら、冷えた体でもりをたぐったあとの蕎麦湯はまた格別である。老境まで寿命があったら『下町蕎麦散歩』でも書くかな。それがいちばん売れたりして。
 さて、「活字倶楽部」01冬号が届きました。例によってアンケートを寄せています。景気よく刊行予定を並べていますが、ほかにも書き忘れたものがあったりするのはなんだかなあ……。


[1月26日]
 リテイクに専念。やっと着地が決まってほっとしていたらショックな知らせが届き半年の家賃相当分が宙に浮くことが判明したため、盲点になっていた西日暮里の蕎麦ツアーに出かける(やや不可解な行動)。徒歩圏にごませいろを出す店を発見したのは収穫だった。
 さて、なんとなくサイクルが変わったので、長篇の略号を下記のように改めます。
 長篇B→長篇A「青い館の追憶」(ミステリー系。現在120枚)
 長篇D→長篇B「BAD」(SFホラー。プロット通過で未起稿)
 長篇E→長篇C「泉」(ホラー・ジャパネスク。プロット作成中)
 今年の長篇書き下ろしはこれで終わりです。


[1月27日]
 たびたびしつれいします。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。きょうは大雪のなか、おともだちのルリちゃんとコッヒーちゃんがあそびにきてくれました。一日早いクラニーのおたんじょう会です。ドルバッキー姉妹さんがケーキとクッキーをつくってきてくれました。お出かけができない大きなペルシャ猫のみゆきさん、猫ロボットのミャーチなどといっしょにあそんでたくさんお写真をとってからお茶会になりました。とってもおいしかったそうです。それから、ミーコはメイドさんのかっこうをして喫茶店ごっこをしました。六時すぎからはカラオケです。クラニーがはじめてうたったのは「愛のメモリー」「らいおんハート」「望郷じょんから」「バスルームより愛をこめて」「恋のインディアン人形」「古い日記」「ジェニーはご機嫌ななめ」などでした。とってもたのしかったです。またあそんでね。


[1月28日]
 二時より銀座へ赴き、推理作家協会の麻雀大会に初参加する。ホラー代表(打てる人がほとんどいなくて異様に層が薄いのだが)がどの程度まで通じるか腕試しといったところ。一回戦はいきなり佐野洋さんの隣り、最初のうちは指が震えてました(「えらいとこへ来てしもた」と思った)。どうにか浮きの3位で切り抜けたものの、すでに疲労困憊状態。どこへ入ってもメンバーがきつく、私は右目が見えないせいかむちゃくちゃ不器用で一人だけ理牌が遅いから二回戦も気後れモード。ハイテイしかツモがないリーチでハネマンをツモり(本日のハイライト)、なんとか浮きの2位で終わる。三回戦はこれでたぶん対戦成績がタイになった大森さんと同じ卓だったのでわりとリラックスして打つことができ、勝負手は逃したものの浮きの2位。四回戦は、三回戦もご一緒だった松本賢吾さん、権田萬治さん、内藤みかさんとともになごやかな接戦の小場が続く。親倍の勝負手を逃したからダメかと思っていたらオーラスの配牌が十三不塔のテンパイ。これが決まればかなり上位だったのだがここまでで沈みの2位。結局40人中19位でした。目標の20位以内を達成したから小さくガッツポーズ。優勝は井谷昌喜さんでした。それにしても、トップを取れずにいつも少しだけ浮くのは幻想文学会付属「幻想麻雀会」のナンバー3だった昔とちっとも変わってないな。終了後、同じ千円のバッグを持っていた浅暮さん(ファンタジーの代表には勝ちました)と有楽町で飲み、よもやま話をしてから帰宅。
 忘れるところでした。今日が誕生日で41歳になりました。40から41はべつにどうってことないですね。


[1月29日]
 仕事モードに復帰。
 都筑道夫『推理作家の出来るまで』(全2巻・フリースタイル)を読了。面白くて一気読み。原因不明のスランプに陥ったときラヴェルを聴いて伝奇物が書けるようになったというエピソードが最も印象に残りました。とにかく驚異的な記憶力。このところ酔うと記憶が飛びがちな私は絶対『特殊小説家の出来るまで』など書けません。そもそも需要はないと思うけど。その他の読了本は、明野照葉『輪廻』(文藝春秋)と佳多山大地・鷹城宏『ミステリ評論革命』(双葉社)。鷹城さんとはかなり読書傾向がかぶってますね。『スイート・リトル・ベイビー』評も収録されているのでお読み逃しなく。
[1月30日]
「ワンダーランドin大青山」のリテイク三章分を送付。「四重奏 Quartet」はずいぶん高い評価をいただいて一発で通り、ほっとひと息つく。もう一つ、胃と肺の検診結果がセーフでこれまたひと息。
 筒井康隆『恐怖』(文藝春秋)を読了。面白く読めたものの、なにぶん「大いなる助走」を三回読んでるから個人的にはそのあたりがちょっと割り引きだったかな。


[1月31日]
 長篇Cのプロットを仕上げたあと、翻訳・連載の作中作・長篇A・短篇Aを少しずつ進める。どうも新世紀に入ってから「ぼんやりとした不安」が抜けないので、夜は精神安定剤の代わりに折にふれて詩を書いています。我ながら暗い詩ばかりですが。今月の執筆枚数はジャスト200枚、執筆稼働日数21日、一日平均は9.5枚でした。