[2月1日]
 連載における作中アンソロジー収録の最後の作中作(我ながら面倒なものを書いてるな)が完了、通算で300枚をクリア。これを祝すべく毎週恒例の蕎麦ツアー。本日は浅草の残りで、まず長浦で胡麻切りそば、ひさご通りを北上し、つむぎでもりそば、さらに千束通りを北上、大黒屋で大盛りせいろを食す。これで浅草蕎麦ツアー黄金コースがほぼ完成したのだが、さすがに一日に全部回ったら胃袋が持たない。


[2月2日]
 四時半より水道橋の東京ドームホテル。まずラウンジで集英社のC塚さんと打ち合わせ。メインはカバーイラストの相談で、『日本のイラストレーター一〇〇〇人』という電話帳みたいな本からC塚さんが一次選考した50〜60人について「これは明るすぎますね」「ちょっと奥行きに欠けます」「書籍だとリスキーかも」などと勝手なことを言いながらどんどん付箋を剥がしていき、最終候補の5人に絞りこむ。結構楽しい作業でした。再来年の話ですが、次の書き下ろしは中国を舞台にした初の歴史物になる模様。アイデアだけは浮かぶのでほうぼうで風呂敷を広げてるんですけど、果たしてこれでいいのだろうか?
 六時より同ホテルで白泉社の懇親パーティに初参加。いままで出たなかで最も豪華で最も知り合いが少ないパーティでした。文芸書編集窓口のS宮さんに長篇のプロットを渡し、同社で営業をやっている幻想文学会の後輩のO君に久々に会えたから目的は達成。それにしても、福引の景品がとても豪華(七等賞でも折り畳み式自転車)、番号表示は電光掲示板、おみやげは8種類のブランド品からチョイス(手首が細すぎて女物しか合わないのでユリエ・ニタニの腕時計はありがたかった)、漫画と文芸の羽振りの違いをまざまざと見せつけられた一夜でした。では、秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。おともだちが少なくて「こまったにゃ」とおもってましたが、後半は「かわいい」という声がかかってほうぼうでお写真をとってもらいました。どなたかはぞんじませぬが、ありがとうございました。おわり。


[2月3日]
 複数の仕事が気になって早めに目が覚める→睡眠不足で捗らずというおなじみのパターン。短篇A・Bはそれなりに進む。夜の仮眠中、牧野さんの坊主頭を撫でている夢を見て目が覚める。疲れてるかも。


[2月4日]
 三時より赤坂「ですぺら」に赴き、「幻想文学」60号のベストブック回顧放談会。オーナーの渡邊一考さんとは初対面。出席者は篠田真由美、南條竹則、小池壮彦(初対面)、高原英理、長山靖生、石堂藍、東雅夫というかなり濃いメンバー。テープは四時間ほど回っていたものの、使えるのは限られた部分だけだろう。もっとも終了後に酔って寝てしまったので何をしゃべったか記憶にございません。復活後、オーナーを交えて話が続き、九時すぎに終了。


[2月5日]
 仕事に復帰。連載はいよいよ本格的に伏線を回収するパートに入ったのだが、早くも気が狂いそう。
「ワイルダーの手」はまだ上巻の途中。伝説の日夏響の訳はとてもこなれていていいのだが、相変わらず「世界幻想文学大系」はヴィジュアル的に読みづらい。その他の読了本は志村有弘『妖異・怨霊・奇談』(朝文社)、権藤芳一・中川彰・露乃五郎『日本の幽霊』(大阪書籍)、暉峻康隆『幽霊』(桐原書店)、柳史一郎『伝説の雀鬼・桜井章一伝』(幻冬舎アウトロー文庫)、「日刊ゲンダイ」編集部『私のヰタ・セクスアリス2』(河出文庫)、加藤晴之『蕎麦打』(ちくま文庫)、野間幸恵句集『WOMAN』(TARO冠者)。
[2月6日]
 二時より日暮里ルノアールで講談社のA元さんと打ち合わせ、『四重奏 Quartet』のゲラを受け取る。また何か吹いてしまったかもしれない。帰宅後、同じA元さん担当の連載を進める。これを恐れていたのだが、すでに活字になってしまっている部分の暗号が一カ所違っていたことが判明。うう、申し訳ございません。


[2月7日]
 七時よりミーコ姫とミミちゃんを連れて秋葉原パセラ、第3回洋楽カラオケに参加する。永久幹事の中嶋千裕、高瀬美恵、けーむら、ブラニー、櫻井管理人などのメンバー。体調が芳しくなく途中で引き返そうかと思ったくらいだったのだが、マイクを握るにつれて復調(笑)、数曲歌ったら本調子に戻ってしまった。途中まで80年代しばりだったので私だけ治外法権、初めて歌ったのは「砂に書いたラブレター」「ザ・ツイスト」「リリー・マルレーン」。新しいレパートリーも開拓せねば。十二時まで歌ってお開き。お疲れさまでした。


[2月8日]
 翻訳・連載・短篇Aを進める。先日の座談会のゲラが届く。うーん、こんなことをしゃべってたのか。まずい発言が目立つので夜は直しに専念。


[2月9日]
 翻訳の五篇目の第一稿が終了。まだ半分行っていない。軽い蕎麦ツアーをしたあと、夜は本のゲラ。


[2月10日]
 二時半にミーコ姫とミミちゃんを連れて表参道。本多正一、可能涼介(ともに初対面)、福井健太、橋詰久子のメンバーとともにまず「藤田新策個展」へ。『赤い額縁』『白い館の惨劇』の装幀をしていただいた藤田さんに遅ればせながらご挨拶する。テンペラ画は生で見るとまたひと味違いますね。古本屋を見かけるたびに吸いこまれてしまう西の古本女王に付き合ったあと品川に移動、ご息女の渡辺東さんの画廊で「渡辺啓助100歳展」を観る。すでに私のほうが作品数が多いし、36歳で専業作家になって初の長篇書き下ろしを上梓したのが55歳のときだし、昔の作家は悠長だったんだなと感慨を催す。近くの古本屋に移動、なかなか見つからなくて石堂藍に借りて読んだジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』およびF・M・クロフォード『プラハの妖術師』(ともに国書刊行会)を購入。偶然合流した宮澤善永、藤元直樹両氏を交え品川で八時くらいまで飲み、かなり酔っぱらって帰宅。
 さて、本日付の「東京新聞」夕刊の一面コラム「心の語録」に登板しています。親や恩師や先輩から言われた思い出のひと言という趣旨なんですけど、こういう一般向けの題材だと呻吟しますね。


[2月11日]
「ワイルダーの手」はあえなく挫折。人の小説が読めない病のときにただでさえ不得意な大長編(しかも退屈な)を読もうとしたのがそもそもの間違いだったかも。今後は薄い作品でリハビリを図るつもり。今週の読了本は著書名五十音順に、瀬名秀明監修『「神」に迫るサイエンス』(角川文庫)、ロラン・バルト『偶景』(みすず書房)、バクシーシ山下『セックス障害者たち』(幻冬舎アウトロー文庫)、『苑田勇一の大模様はこうして勝て』(誠文堂新光社)、南條竹則『ドリトル先生の英国』(文春新書)、谷川渥『バロックの本箱』(北宋社)、小島武夫『麻雀・最強の打ち方』(日本文芸社)、春日武彦『ロマンティックな狂気は存在するか』(新潮OH文庫)。竹本さんが「活字倶楽部」のアンケートで取り上げていた『苑田勇一の大模様はこうして勝て』は確かに目からうろこがボロボロ落ちるものの、弱いアマ四段にはちと難しい。「寂光とでもいえばいいのでしょうか、強くも派手でもありませんが、澄んだ光がそれでいて玄奥まで差し込むような光景が、私の模様観として厳として存在します」と言われても……。
[2月12日]
 連載の追い込み。一つ伏線を回収するたびに付箋を剥がしているのだが、最終回ではないもののまだむやみに貼ってある。自分が造った怪物に襲われるフランケンシュタイン博士みたいな気分。


[2月13日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。きょうは「小説推理」のグラビアの取材でした。「だから猫が好き」という巻頭グラビアの最終回にミーコが大トリで出るのです。三時半に日暮里ルノアールへおむかえにいき、クラニーの担当のH野さん、グラビア担当のS町さん、インタビュアーのI藤さん、カメラマンのI葉さんをマンションにごあんないしました。きれいに片づいてるのでみなさんびっくりしてました。ぬいぐるみのおともだちをぜんぶ紹介したあと、インタビューになりました。いつもはお写真だけなのですが、きょうはミーコもインタビューにこたえました。とってもきんちょうしました。それから、たくさんお写真をとってもらいました。メイドさんのお衣装も着たよ。終了後は、おそばにうるさいH野さんのためにクラニーがげんせんした「とお山」でお食事をしました。たいへん好評でした。どうもおつかれさまでした。おしまい。


[2月14日]
 連載の第一稿が完了。続いて、短篇Bを最後まで書く。ゲラの第一次著者校正も終了。


[2月15日]
 翻訳、短篇Aを進め、しばらく滞っていた長篇Aに戻り、さらに長篇Bをとりあえず起稿する。これで来月上旬までに設定されている締切はクリアできそうだが、まだ確定申告が残っているのであった。
 さて、井上雅彦監修・異形コレクション18『幽霊船』(光文社文庫・762円)が届きました。「鳩が来る家」という短篇を寄稿しています。BGMは「石狩挽歌」でどうぞ。


[2月16日]
 確定申告の書類の下書きを進めたあと、三時ごろ江戸川橋の竹本健治さんの仕事場にお邪魔して碁を打つ。他のメンバーは福井健太とその後輩二名。翌朝六時までというとんでもない長居をして囲碁を四局、将棋を二局。竹本さんに二子置いて二度挑戦したのだが、12目、13目負けと不出来な内容。プロの八段に三子で勝つ人の超宇宙流を崩すのは至難だなあ。このところ寸暇を惜しんで将棋の勉強をしているのですが(おかげでますます本が読めない)、前はまるっきり歯が立たなかった福井君に連勝したからこちらは成果がある模様。というわけで、大変お疲れさまでした。


[2月17日]
 疲れたときの危険信号であるこむら返りを起こして十二時前に目が覚める。執筆はお休み、最優先課題である確定申告を進める。
 畑山隆則vsリック吉村戦。若き日のリック吉村がスラフ・ヤノフスキー(37歳つるっぱげの超テクニシャン)に翻弄されて完敗した試合を後楽園ホールで見ているのだが、同じくらい齢を重ねたリックが披露したベストバウト。あれは勝たせたかったな。ホールドの減点がいかにも痛かった。


[2月18日]
 今週の読了本は、柳井伸作『拷問・処刑・虐殺全書』(KKベストセラーズ)、養老孟司『臨床読書日記』(文春文庫)、武市三郎『将棋の力をつける本』(毎日コミュニケーションズ)、土屋賢二『人間は笑う葦である』(文春文庫)の四冊のみ。そろそろ小説も読まねば。なお、私も非推薦人に名を連ねている田中啓文『銀河帝国の弘法も筆の誤り』(ハヤカワ文庫JA・580円)が届いてますのでお知らせまで。
[2月19日]
 短篇Aを最後まで書く。初稿から依頼枚数をオーバーしたことがないのは短篇型らしいところ。夜は「サイト」の再校ゲラ。


[2月20日]
 短篇Bを珍しく改題、推敲してプリントアウト。翻訳、長篇Aのあと、書き下ろし連作短篇の細部を煮詰める。夜は本日届いた「四重奏 Quartet」の校閲ゲラをチェック。


[2月21日]
 今度は短篇Aを画面上で推敲してプリントアウト。「ワンダーランドin大青山」の初校ゲラが届き、ついにゲラが三冊になる(泣)。校閲プロダクション時代に釣りのムック三冊分のゲラで部屋が一杯になったときのことを思えば天国……と考えるようにしよう。というわけで、夜はとりあえず「四重奏 Quartet」の著者校正の赤字を校閲ゲラにドッキングする。
『SFが読みたい!2001年版』(早川書房・660円)が届きました。90年代マイ・ベスト10を含め三種類のアンケートに答えています。律義にSFから選ぼうとしたのですが、なにぶんどこへ行ってもマージナルな人なので結局こうなってしまったという感じのリストです(ことに90年代海外)。スラデックを挙げたのが浅暮さんと福井君と私の三人だけで全員順位が4位だとか、「セックス・スフィア」の6位が柳下毅一郎さんとかぶってるとか、そういう瑣末なところをチェックしているとわりと飽きなかったりしますね。


[2月22日]
 連載の最終仕上げをしてFD作成。やっと一つ渡せる。翻訳と長篇Aを進めたあと、夜は「ワンダーランドin大青山」のゲラの疑問箇所をチェック。
「小説新潮」3月号が届きました。体験エッセイ競作〈ヘンな人、奇妙な事件〉に「謎の民謡少年」という5枚のエッセイを寄稿しています。同誌は初登場。


[2月23日]
 朝から確定申告の書類を清書し、荒川税務署に提出。同時に青色申告承認申請書も出す。今度こそちゃんと記帳説明会に出て来年から青色に変えなければ。その後、新三河島の古本屋に寄ってから西日暮里で蕎麦ツアー。小さな街だがむやみに蕎麦屋が潜んでおり、まだ一軒残っている。三時より日暮里ルノワールで講談社のA元さんと打ち合わせ、「メフィスト」連載の原稿と「四重奏 Quartet」のゲラを渡してひと息。帰宅後は「ワンダーランドin大青山」のゲラ、さらに短篇A・Bの推敲。


[2月24日]
 なんとなく山を越えたような気がするので夕方から浅草。本とペンギンのぬいぐるみを買ったあと、長浦で妙興寺そば、並木の薮でもり二枚を食す。蕎麦もさることながら、あの濃いつゆを蕎麦湯でこれだけ飲めると満足。ユニクロで服を買ってから帰宅後、中断していた「サイト」の再校ゲラに戻る。


[2月25日]
 今週の読了本は、立川昭二『病気を癒す小さな神々』(平凡社)、内藤国雄『将棋定跡入門』(日東書院)、宮田登『霊魂の民俗学』(日本エディタースクール出版部)、佐藤信夫『レトリック感覚』(講談社学術文庫)、井出洋介『東大流実戦麻雀』(ナツメ社)の五冊(読了順)。短篇をぼちぼち読んでいるものの、小説はまだ読了に至らず。
[2月26日]
 短篇Bの最終仕上げをしてメール。長篇Aの長い旧仮名の作中作がやうやく終はる。もう少しすらすら書けるアイデアは思いつかないものだろうか。夜は「ワンダーランドin大青山」のゲラに戻る。


[2月27日]
 短篇Aの最終仕上げ。短篇の手持ちはなくなったものの長篇はまだどれも前半で手探りという状況に鑑み、連作短篇Aを起稿する。続いて今週が締切の俳句同人誌の原稿20句の選定。夜は相変わらずゲラ。


[2月28日]
 サイクルが変わりどれもこれも進まないので、半ばやけを起こして連作短篇B・Cと長篇Cをとりあえず起稿する。今月の執筆枚数は先月に続いてジャスト200枚。執筆稼働日数23日、一日平均は8.7枚でした。来月は翻訳のノルマを上げないと帳尻が合わなくなるのだが。夜は「ワンダーランドin大青山」のゲラを仕上げ、長篇Aをまた頭から読み直す。