[4月1日]
「ワンダーランドin大青山」のゲラを返送。これで上半期の三冊が完全に手を離れる。あとは下半期の推定五冊だなあ。げそっ。
 今週の読書メモです。読了順に小説は小野不由美『黒祠の島』(祥伝社ノン・ノベル)、J・G・バラード『残虐行為展覧会』(工作舎)、藤岡真『六色金神殺人事件』(徳間文庫)、小説以外は『ヨセ小事典』(日本棋院)、種村季弘・高柳篤『だまし絵』(河出文庫)、藤井猛『四間飛車を指しこなす本1』(河出書房新社)。
[4月2日]
 二時より荒川青色申告会へ赴き、青色申告の記帳説明会に出席する。物書きには関係ない話が大半で何度も寝そうになる。ミーコに秘書手当を出せば丸もうけだと思ったが、さすがにそれは犯罪であろう。終了後、行きつけの家具屋でバットマット用の座卓を発注。文房具屋でさっそく金銭出納帳と経費明細帳を買って帰宅。10万円控除コースならいままでとさほど変わらないな。


[4月3日]
 六時半より神保町で講談社のA元さんと打ち合わせ、『四重奏 Quartet』(講談社ノベルス・740円)の見本を受け取る。今回も薄いんですが、黒地に騙し絵の表紙に銀色の帯というすっきりした仕上がりになっています。来週の初めには(都内は今週末から)書店に並ぶ予定。『サイト』(徳間書店)の見本も来週届くので今月は週刊クラニーです。その後はいづもそばに河岸を変えて打ち上げ、美味を耽能する。「闇の司」とか「六色金神殺人事件」とか人の小説の宣伝ばかりしていたような気が。九時すぎに帰宅後、「将棋世界」で順位戦の結果をチェック。


[4月4日]
 翻訳、長篇B、連作短篇Aを進める。夜は翻訳の推敲。ゲラはなくなったけど、今度は推敲すべきものが溜まってきた。


[4月5日]
 連作短篇A「ラジオ体操殺人事件」88枚の第一稿が完成。こんなに長い短篇を書いたのは実に久々である。


[4月6日]
 翻訳の八本目の第一稿が完成。おお、やっとピッチが上がってきたぞ。この調子で残り三本をどこまで追いこめるだろうか。


[4月7日]
 翻訳、長篇B、連作短篇B、長篇Aをちまちまと進める。
 さて、「ダ・ヴィンチ」5月号が届きました。「作家カラオケ交遊録」にちらっとだけ登場しています。実は破線があと5本足りなかったりするんですけど(笑)。


[4月8日]
 今週の読書メモです。珍しく小説のみで、読了順に霞流一『スティームタイガーの死走』(ケイブンシャノベルス)、石崎幸二『あなたがいない島』、清涼院流水『秘密屋』(以上、講談社ノベルス)、瀬川ことび『夏合宿』(角川ホラー文庫)、津原泰水『ペニス』(双葉社)。
『ペニス』は耽能。ことに終章「ペニス」、さらに絞ればP416の前半とラストがいいな。連載時の拾い読みではさっぱり話が見えなかったのですが、「性的不能者の現実が幻想世界に溶けこむとき、言葉は虚空に踊る」という帯のキャッチは同じ片仮名三文字の近日発売『サイト』に付いていてもおかしくない。むろん話も感触も全然違うんですけど、『サイト』もいちおう「もの悲しいポルノグラフィ」でもあるからなあ。私のほうがずっと淡泊だけど。
[4月9日]
 やっと翻訳の調子が上がったかと思いきや、次の作品は前半に気合の入った自然描写があって進まない。私は短篇の翻訳しか経験がないのですが、長篇より割に合わないかも。


[4月10日]
 家具屋から座卓が到着。さっそくバットマットを移動し、碁盤と将棋盤を周辺に置く。これでますます勉強に身が入ろうというものだ。
 さて、「メフィスト」が届きました。「十三の黒い椅子」連載第四回が掲載されています。次はいよいよ最終回、もう最後の一行は決まってるんですけど、そこに至るまでが大変そう。


[4月11日]
『サイト』(徳間書店・1600円)の見本が届きました。『屍船』に続き、久枝アリアさんに装画を描いていただきました。ありがとうございます。『屍船』は牧野さんの『病の世紀』とカップリングだったのですが、今回は田中啓文さんの短篇集『禍記[マガツフミ]』と同時発売です。相方をころころ変える売れない漫才師みたいだけど(笑)。来週の初めには書店に並びます。


[4月12日]
 ミーコ姫とミミちゃんを連れて七時に神保町、集英社のC塚さん主催の神保町歌謡祭東京分科会に参加。まず、双葉社のH野さんをいづもそばへお連れする予定だったのだがあいにく臨時休業、代役のやぶ仙で九時まで腹ごしらえをする。会場は例によって御茶ノ水パセラ、浅暮さんの前フリ芸が炸裂、完全に食われてしまう。ことに踊りながら歌う「涙をふいて」は絶品です。浅暮さんが終電で帰ったあとも歌謡祭は延々と続く。年間ヒットメドレーのたぐいがむやみに入ったのだが、C塚、AZM、東雅夫、クラニーと四枚揃うと強力で、推定百曲を完封。結局、二時半までガンガン歌い、集英社で『ワンダーランドin大青山』のカバーを拝見してから帰宅。お疲れさまでした。


[4月13日]
 長篇Bがやっと50枚をクリア。世界の構築性を要求される初のSF設定につき前半の百枚が難航。本質的に私は脱構築の人だと思うのですが(人体損壊癖と一脈通じるかも)、長篇はどうしても構築性を要求されるからそのあたりの折り合いの付け方と配合がいまだに難しい。筋も物語性もまったくない一千枚の長篇を書きたいと発作を起こしそうになることも。


[4月14日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。きょうはドルバッキー姉妹さんと上野動物園へあそびにいきました。ミミちゃんとペンギンのフリジッド・バルドーをつれていきました。ミーコはトラさんを見ました。とってもきれいでした。でも、ライオンさんとかほかのおともだちはいませんでした。むかしはサーバルキャットとかいろいろいたのだそうです。ちょっとざんねんでしたが、キリンさんも見たのでまんぞくです。クラニーはカンガルーとモモンガのぬいぐるみをかってくれました。では、かわります。
 その後は池の端薮蕎麦から上野のパセラ(動物園の前に上野の森美術館で「ヴェネツィア絵画展」を観たけど普通の絵ばかりで空振り)。一週間に二度以上カラオケはしないという年頭の誓いがあったような気もするが、あれはきっと去年の話であろう。初めて歌ったのは「女学生の決意」(西崎憲作曲)「森を駆ける恋人たち」「南の薔薇」など。意外な曲がひそかに入っていたりするので侮れない。軽く二時間半ほど歌って解散。お疲れさまでした。


[4月15日]
 読書メモです。読了順に小説はパトリック・マグラア『血のささやき、水のつぶやき』(河出書房新社)、光原百合『遠い約束』(創元推理文庫)、恩田陸『MAZE』(双葉社)、小説以外は小島武夫『小島武夫の実戦麻雀「読み」のすべて』(永岡書店)、『死活小事典』(日本棋院)、鈴木大介『明快四間飛車戦法』(創元社)。ブランショの『文学空間』を少しずつ読んでいるのだが、まだ三分の一。肌には合うけどいかんせん難解でちっとも進まない。
[4月16日]
 翻訳、長篇Bを進め、夜は停滞気味の長篇Aを読み返す。分類すればミステリーなのですが、また私の作品としか言いようがない特殊小説になりそう。ミステリーに関しては「火刑法廷」「盃のなかのトカゲ」「霧越邸殺人事件」などが出発点になっていて、その先に続いている面妖な(アナログな)細い道をたどると誰も目にしなかった美しい山の湖もしくは沼に到達するはず……なのだが、なにぶん道がはっきりしないのでむやみに迷うこともしばしば。まあ人と同じ道を歩いても仕方ないんだし。


[4月17日]
 書くことは途方もない救済である、本を出すことも然り、とシオランが言ってますが、悲しいことに続けて本を出してもなんとなく救済感に乏しく、かえって豆腐と寒天が交じったようなぼんやりした不安が募っていたりする。私の作品でなぜ登場人物が破滅するかと言うとこれは形を変えた緩慢な自殺であるわけで、エンターテインメントの作家としてはあまり益にならない資質のような気もするのだが、とにかく書くべきことを書くしかないのであった。
 というわけで、気分を変えるべく亀有の吟八亭やざ和へ赴き、二十食限定の田舎せいろとおろしそばを食す。ほとんど私信ですが、ここの田舎蕎麦は黒い細打ち、大根もひたすら辛くてパーフェクトです。
 さて、「小説すばる」5月号が届きました。「行列」という短篇を寄稿しています。連作の残りはいよいよ二篇。〈本邦唯一の怪奇小説家〉はどこへ行ってしまったのだという声もなんとなく聞こえるんですけど、人知れずこのゆるやかな連作を書いておりますので。


[4月18日]
 一時ごろ江戸川橋の竹本さんの仕事場にお邪魔する。今日は蕎麦とゲームの日で、他のメンツは浅暮三文、福井健太。まず仕事場近くの筋のいい蕎麦屋で胡麻汁せいろを食す。午後は竹本さんと碁を一局、さしたる悪手もなく20目負けてしまうのは棋力の差。夜は生粉打ち亭で津軽蕎麦と田舎蕎麦、豆乳つなぎの津軽蕎麦は初めてだが、なかなかの喉越し。そのあとは近くの雀荘で半荘3回、浮きの2位で来週の水庭杯防衛戦に向けて調整。浅暮さんが帰ったあと福井君の後輩二名が合流、ゲームは延々と続く。福井君との将棋は大熱戦の末、惜敗。対局時計の秒読みは心臓に悪い。寝不足だったのでこのあたりからガス欠、あとは竹本さんに将棋で負け、後輩二名の置碁で連敗とまるでいいところなし。石が下へ行く薄い無理筋が多くていかんな。結局朝の六時まで長居して帰宅。お疲れさまでした。


[4月19日]
 十二時過ぎまで寝たあと、仕事に復帰。なにげなく「週刊文春」を見たら千街さんが『四重奏 Quartet』を大きく取り上げてくださっていて実にありがたかった。なにぶん気が弱くなっていたので。


[4月20日]
 翻訳の九篇目「トーランド家の長老」が完了。うーん、これは「田舎の事件」みたいな話だなあ。いかにも私が選びそうな作品。これでマジック2。夜は初期短篇選集の推敲に着手。


[4月21日]
 早起きして溜まっていたゴミを出し、バリバリ仕事をしようと思ったら不愉快なメールが届き、怒りのあまり集中できず。困ったものだ。


[4月22日]
 読書メモです。読了順に小説は北森鴻『凶笑面』(新潮社)、古橋秀之『ブラックロッド』『ブラッドジャケット』『ブライトライツ・ホーリーランド』(以上、電撃文庫)、小説以外は唐沢俊一編『ホラーマンガの逆襲 みみずの巻』『同 かえるの巻』(知恵の森文庫)。牧野修絶賛の〈ケイオス・ヘキサ〉三部作はルビの使い方だけでほぼOK。
[4月23日]
 例によって翻訳・長篇B・長篇Aをちまちまと進め、次の短篇をとりあえず起稿する。そろそろ連載も気になってきた。締切が迫っても平気で遊んでいられるような図太い神経にならないものだろうか。
 さて、唐突な思いつきですが、世界を論理的に把握できるものにする(透明で均質な見透しのいいものにする)欲望と、世界それ自体を崩壊させる欲望というのはベクトルが違うだけで欲望の在り方としては等価なのではないかとふと考えました。もう一つ、主体を世界に遍在させても構造としては同じになりますね。これはジャンル論とも一脈通じてくるのですが、とりあえずこれ以上進展しそうにないのでまたいずれ。


[4月24日]
 午前中に御茶ノ水の東京都がん検診センターに赴き、検診の日取りを決めて薬を受け取る。去年の最も軽い大腸ガンの手術の後検診で、今回は内視鏡検査だけだからやや気は楽。来月の22日が検査につき、その前後は予定を入れられませんのでよろしく。検診センターの前で「がんでお困りの方へ」という電波ビラを受け取る。これは資料になりそうだから保存しておこう。その後、久々に国会図書館へ行き、翻訳の調べ物をする。ネットで網にかからず、どの資料を探しても出てこない地名と人名は創作と断定。ずいぶん迂遠な作業だ。相変わらず要領が悪く、パーフェクトには至らず。寝不足も手伝い、洋書の細かい字を見ているうちに立ちくらみを起こしそうになったので切り上げ、神保町で本を買って帰宅。


[4月25日]
 翻訳・長篇B・長篇A、夜は翻訳の推敲。どうも調子が出ず、総計8枚くらいで止まってしまう。
 さて、早川書房編集部編『新・SFハンドブック』(ハヤカワ文庫・740円)が届きました。「SFマガジン」からの再録ですが、「日本人作家が選ぶ文庫SFマイ・ベスト5」に登板しています。縛りがなければアンナ・カヴァンの「氷」は当然入れるんだけど。


[4月26日]
 昨日からバスの水が止まらない。人に会うときはそれなりにテンションを上げて行くものの自宅では一日中耳栓をしているような人なので、流れ続ける水というものはどうも神経に悪い。管理人がつかまらないからパッキンなるものを交換すべく器具なども購入したのだが、なにぶんドメスティックなスキルが皆無で、怒りに任せてあれこれやったら症状は悪化するばかり。夕方、やっと管理人がつかまり見てもらったところ、どうやら栓を思い切り壊してしまったらしい。やむなく水道屋に連絡、七時半ごろやっと水が止まる。ただし応急措置で、取り替えは後日。今日は仕事にならなかったな。
 えっと、黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。「小説推理」6月号がとどきました。「だから猫が好き」というグラビアにミーコがでてます。インタビューにもこたえてるし、コスプレもしてるよ。おともだちもいっぱいうつってるから見てね。おしまい。


[4月27日]
 朝の六時に目が覚めたので仕事。ただし量は同じ。どうも今週は頭痛が抜けない。夜は静養して読書に専念。


[4月28日]
 二時に高田馬場で待ち合わせて麻雀。第二回水庭杯の予定だったのだが、二卓立たずオープン戦に。五名が参加して2ヌケで半荘八回。結果は以下のとおりです。

1位 クラニー水庭杯 +168
2位 MANTRA +80
3位 音羽亭こと森英俊 −17
4位 みえぞうこと高瀬美恵 −47
5位 ブラニー −184
 
 トップ二回、2位三回、ヌケ番三回のノー沈み。初めて雀鬼流(第一打の字牌とドラ切りなし。リーチ牌のヒッカケなし)を試してみたのだが、結果が出たからこれでやろうかな。終了後は軽く飲んで解散。お疲れさまでした。


[4月29日]
 読書メモです。小説は池上永一『レキオス』(文藝春秋)のみ。これは私には書けない小説だなあ。サマンサに萌えるのはきっと正しいでしょう。くすくす。小説以外は読了順に探偵小説研究会『本格ミステリこれがベストだ!』(創元推理文庫)、桜井章一『超絶 麻雀戦術論』(竹書房)、小山正とバカミステリーズ編『バカミスの世界』(美術出版社)、桜井章一『雀鬼に訊け』(竹書房)。
[4月30日]
 最終日にようやくノルマを達成。今月の執筆枚数は202枚、稼働日数26日、一日平均は7.8枚でした。連載の最終回を含めると七月末までに四冊分渡さなければならないのだが、この調子で乗り切れるのだろうか?
 頭痛が起きないように煙草の銘柄を2mgのラッキーストライク・ウルトラライトから1mgのラークワンに変える。銀地に赤帯で白ヌキ、このデザインはなかなかです。