[11月1日]
 長篇B・Cを進め、今年渡すラスト短篇である短篇Bを起稿したら、すぐさま担当さんから「ご機嫌伺い」の電話がかかってくる。夜はようやくゲラを仕上げる。


[11月2日]
 一時に神保町で講談社のA元さんと打ち合わせ、『十三の黒い椅子』の再校ゲラを渡す。今月後半に刊行の予定です。あとは最近のミステリーの話。グラグラ系なんじゃこりゃミステリーがお好きなA元さんに「眩暈を愛して夢を見よ」をプッシュする。終了後は本の買い出し。探していた文語訳の旧約聖書を古本屋で購入。新刊は私も書く予定のデュアルノヴェラなど。また思い切り浮いてしまいそうな気がする。ひと山越えたので、池の端薮そばでざるを食してから鈴本演芸場へ。トリは長尺物の古典落語を聴きたいのだが、あいにく爆笑小咄系。今回はちょっと低調でした。


[11月3日]
 エッセイの下書きを書き、長篇B・Cを進め、夜は連載のゲラ。山を越えたと思ったのは錯覚だったようだ。
 頻繁に「倉坂」と誤記されるので鬼一郎で検索しているのですが、まったくない名前でもないようです(私は本名じゃありませんけど)。式守鬼一郎という昔の行司は前から引っかかっていましたが、今日はローカルなサイトで佐々木鬼一郎さんを発見しました。なんでも11人の子持ちで市から表彰されたとか。生徒に慕われていた校長先生もいたし、鬼一郎もいろいろですね。


[11月4日]
 読書メモです。小説は読了順に飛鳥部勝則『冬のスフィンクス』(東京創元社)、有栖川有栖『絶叫城殺人事件』(新潮社)、高田崇史『試験に出るパズル』(講談社ノベルス)。『冬のスフィンクス』はクプカなど好きな絵の紹介が多く幻想小説も配合されているからもっと琴線に触れるはずなのですが、登場人物が共通する『砂漠の薔薇』のほうが感銘を受けた。どうしてかしら。『絶叫城殺人事件』のベストはなぜか「月宮殿殺人事件」。イメージ豊かな物語と配合されているミステリーの要素がいちばん私の世界に近いのがこの作品なんですけど、本格プロパーの人はあまり選ばないかもしれない。そちらの系列では「壷中庵殺人事件」が好み(ことにラスト)。『試験に出るパズル』は文章や小ネタなどのディテールが丁寧な作りで、パズルの好みが八丁堀レベルの私でもわりと楽しめました。個人的なベストは「クリスマスは特別な日」。ご謹呈本を含めてまだまだ積み残しがあるのですが、来週からはSFの消化に移ります。
 小説以外は高橋龍句集『後南朝』(九有似山洞)、G・K・チェスタトン『棒大なる針小』(春秋社)、大森荘蔵『流れとよどみ 哲学断章』(産業図書)。『棒大なる針小』所収の「ノンセンス文学弁護」の書き出しを読んでチェスタトンの秘密に触れたような気がしました。引用します。「われわれの住むこの薄明の世界を見る見方として、いつに変わらぬ二つの見方、いずれ劣らぬ二つの見方というものがある。黄昏の薄明と見るか、さもなければ暁の薄明と見るかだ」。わが内部を照らしてみるに、黄昏の薄明(および人格の昏迷)はいやと言うほど見えるのだが、暁の薄明はどこを探しても見えない。要するにチェスタトンみたいな小説は書けないわけですね。ああ。『流れとよどみ』は名著。ことに前半の短いエッセイがいい。後半の「心身問題、その一答案」を読んでやっと「即ち」という奇怪な用語の意味がわかりました。それにしても、やはり「立ち現われ」は私の歪んだ幻想ホラーマインドを刺激しますね(恐怖についての言及もあり)。過去を想起するときに立ち現われているのは実物であるというのは、「泰山は目から入って口から出る」という公孫龍子の詭弁みたいですが。
[11月5日]
 藤原編集室さんがファックスしてくださった北海道新聞の記事を初めて読む。笹川吉晴さんは大きな顔写真入り、しかもネクタイ姿でレビューをやってるんですね。「日本でも一、二を争う凶悪な作家」と『BAD』評(メインは『銀の仮面』ですが)で書いてくださったのでついでに宣伝しますと、来週末の京フェスの深夜企画「鬼畜部屋」に出ます。司会はくだんの笹川吉晴、パネラーは綾辻行人、我孫子武丸、牧野修という豪華メンバーです。何をやるのかさっぱりわかってないんですけどお知らせまで。
 紀伊國屋Webから細切れに本が届く。どうせすぐ読めないから一度にまとめてもらえると手間がかからなくていいのですが。先週末から届いたのは千街晶之選『皆川博子作品精華 迷宮ミステリー編』(白泉社)、デイヴィッド・ロッジ『考える…』(白水社)、野矢茂樹『心と他者』(勁草書房)、ルードウィヒ・ウィトゲンシュタイン『色彩について』(新書館)など。浅暮三文さんが力説するからロッジを買ったんだけど、二段組で長いな。こういう本はだいたい読まないのですが。


[11月6日]
 連載、長篇B、短篇、長篇Cを進める。頭を切り替えなければならない小説の複数同時進行は四作くらいが限度かな。現在執筆中、あとは書くだけ、プロット作成中、全部合わせると長短とりまぜて二十くらいあるんですけど、とても頭と手がついていかない。三人くらいに分裂しないかしら。
 俳句同人誌「豈」34号が届きました。「偶景」二十句を寄稿しています。俳句はずっとスランプ状態です。


[11月7日]
 エッセイをメールしたあと、昨日と同じく連載、長篇B、短篇、長篇Cを進める。中篇に備えて検索も開始。何を検索しているかはもちろん秘密。


[11月8日]
 仕事の話ばかりではつまらんので漫文です。ことによると、私は日本でいちばん行動半径が狭い作家なのではないだろうか。基本的にブッキッシュな人なので、資料は読むけどあまり取材はしない。間違っても遠方へは行かない。ともすると取材が楽な近所を舞台にしてしまう。だいたい現実なんか写して書いても面白くない。そもそも現実と称されているものがまやかしのように感じられる。その結果は次のごとし。海外旅行はおろか飛行機に乗ったこともない。本州を出たことがなく、それも北は宇都宮、西は神戸どまり(三重県の出身なのに)と異様に狭い。この人なら勝てるかもと思って倉知淳さんと勝負したことがあるのですが、役者時代に旅巡業があったらしく一敗地にまみれてしまった。誰か私より行動半径が狭い方はおりませんでしょうか。


[11月9日]
 中篇をとりあえず起稿したあと連載から書こうと思ったのだが、どうも脳が拒否しているので執筆はお休みにして資料読みに専念。


[11月10日]
 一日休んだおかげで脳の容量が回復、連載・短篇・長篇B・Cを進める。今週はどこにも出かけていないことに気づき北千住へ。イトーヨーカドーで黒服、ルミネで本とCDを買う。洋楽のレパートリーを増やそうと思っていろいろ物色したのだが、結局ポール・アンカとかニール・セダカとか買ってしまう。私の最新レパートリーは永遠にブロンディなのだろうか。


[11月11日]
 読書メモです。小説は読了順に井上雅彦監修・異形コレクション15『宇宙生物ゾーン』(廣済堂文庫)、同17『ロボットの夜』(光文社文庫)、中村融・山岸真編『20世紀SF1 1940年代』『同2 1950年代』(河出文庫)。やっと異形コレクション既刊二十冊を完読。今後はあまり溜めないようにしよう。『宇宙生物ゾーン』はこれしかないでしょうという感じで山田正紀「一匹の奇妙な獣」、『ロボットの夜』は少し迷って草上仁「サージャリ・マシン」がベスト。ようやく手が回った「20世紀SF」は五段階評価を施しながら読んでいますが、SFは打てるポイントが限られているのでどうも宇宙船が出てくると2をつけてしまう(ブラッドベリ「万華鏡」やシェクリイ「ひる」みたいな作品ならOKなんだけど)。40年代はチャールズ・L・ハーネス「現実創造」、50年代はジェイムズ・ブリッシュ「芸術作品」がベスト。ところで、編集委員会を作れば「20世紀ホラー」全十巻を編めそうですね。
 小説以外は、永井均『〈子ども〉のための哲学』(講談社現代新書)『マンガは哲学する』(講談社)、土屋賢二『ツチヤの軽はずみ』(文春文庫)、菅野覚明『神道の逆襲』(講談社現代新書)、田丸昇『すぐに役立つやさしい実戦詰め方ドリル』(棋苑図書)、ジョン・スペンサー、志水一夫監修『UFO百科事典』(原書房)、リチャード・ザックス『闇の世界への招待状 封印された下品で残酷で悪趣味な教科書』(KKベストセラーズ)、村山定男・藤井旭『ヴィジュアル版 天文学への招待』(河出書房新社)。永井均にはアフォリズムとして抽出できる文章が結構あるのですが、今回は「思想を持てば、思考の力はその分おとろえる」がベストでしょうか。
[11月12日]
 朝の六時に目が覚めたので仕方なく仕事。連載・中篇・長篇Bを進める。長篇Bは百枚をクリア、やっと少し調子が出てきたけど今年中に完成するだろうか。


[11月13日]
 急に寒くなったせいか歳のせいか、体のあちこちに故障が生じてかなりダメ状態。べつに相撲を取るわけじゃないから、腰が痛いのは我慢できるんだけど。長篇Cのプロットをまた練り直す。


[11月14日]
 心身ともに不調につき静養。有名なのになぜか観ていなかった「チェンジリング」をビデオ鑑賞。怪奇映画ファンの琴線に触れる前半のカメラワークや間の取り方は絶品なのだが、謎解きに重きが置かれる後半は明らかに失速。うーん、惜しいな。


[11月15日]
 相変わらず絶不調につき、集英社三賞のパーティをパスして引きこもりモード。関係者とミーコ姫のおともだちの皆様すいません。


[11月16日]
 夕方、大津のホテルに移動。県庁所在地にしてはいやに地味な佇まいで、ホテルの周りには何もない。食事に出たけど駅の周辺にも目ぼしいものがない。これなら津でも勝ってるぞ。蕎麦屋を見つけてうどんのような蕎麦を食してからホテルに戻って静養。では、秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。クラニーせんせいはびわ湖を見せてあげるといったのに、見えたのは国道1号線だけでした。でも、ベッドはかいてきでした。つづく。


[11月17〜18日]
 京都駅から京阪までぶらぶら歩き、モーニングを食べてから京フェス会場の京都教育文化センターへ。合宿の深夜企画のパネラーなのに本会のオープニングから出る。一コマ目は「あの人は今……」、英語圏の作家は年に何冊も書かなくてすむからいいなと思ったりした。昼休みは京大方面へ散歩、二コマ目は「SFのロボットはどこまで実現するか」、私が読んでいる哲学関係の本には頻繁にロボット問題が登場するのですが、やはり科学とは温度差を感じましたね。三コマ目は「対談・森奈津子×牧野修『バカとエロ』」、ここで森さんが一時間遅れることが判明、何食わぬ顔で私が替え玉で出るという話もあったのだが、なにぶんシラフだとアドリブが利かないことで定評があるのでつなぎ役は田中啓文さんに決定。司会の笹川吉晴さんも酒が入っていないと口数が少ないため、牧野さんがテンションを上げて孤軍奮闘の趣。寄せられた質問に答えるというスタイルですが、強力な援軍となったのは高知県在住の自由業・西澤保彦さんの文面。場内は爆笑の渦で見事に師匠の穴を埋めてました。森さんが到着してからは軌道に乗り、滞りなく終了。今度は逆方向へ散歩し、貸し切り状態の古い喫茶店で『20世紀SF』を完読してから合宿会場のさわや旅館へ。「SF作家とアイドルの幸運な出会い」(「玩具修理者」の予告篇など)、「出張ダサコンの部屋」を経て大広間。「テルミン耳の冒険を耳で聴く」を半分聴き、牧野修とフェティシズムを語る会(非公認)が盛り上がってきたところで、深夜企画の「鬼畜小屋」(綾辻行人、我孫子武丸、牧野修、私、笹川吉晴)がスタート。何をしゃべったか忘れましたが、途中から我孫子さんが脈絡なく正義の熱弁を振るいはじめたのでツッコミを入れていたような気がする。お客さんは面白かったのだろうか。終了後は延々と大広間で過ごす。いろんな話があったように思われるが、記憶に残っているのはボラギノールA嬢などのあほなネタばかりである。ガス欠が見えてきたので七時前に旅館を出て十時半ごろ帰宅。では、秘書猫です。
 えっと、ミーコ姫です。ミーコはケダちゃんやSF人妻さんや五代ゆうさんやたくさんのみなさんにあそんでもらいました。ありがとうございます。んーとそれから、クラニーが京都タワーでごほうびのぬいぐるみをかってくれました。赤と白のしまもようのおさかなです。たべないようにしようっと。ではではまた。おしまい。


[11月19日]
 読書メモです。小説は読了順に中村融・山岸真編『20世紀SF3 1960年代』『同4 1970年代』『同5 1980年代』『同6 1990年代』(河出文庫)。60年代のベストは文句なしでR・A・ラファティ「町かどの穴」、70年代は迷ったあげくやはりR・A・ラファティ「空(スカイ)」、80年代はコニー・ウィリス「リアルト・ホテルで」、90年代はテリー・ビッスン「平ら山を越えて」。評価が信用できない人の典型かもしれない。平均値は微差ですが、1位が70年代、2位が同率で50年代と60年代、4位も同率で40年代と90年代、最下位が80年代という結果でした。半ば予想どおりかも。
 小説以外は木原浩勝他『都市の穴』(双葉社)、合田一道・友成純一『北の幽霊、南の怨霊』(同朋舎)、和田秀樹『多重人格』(講談社現代新書)、入江敦彦『京都人だけが知っている』(洋泉社新書)。
[11月20日]
 右手の中指を頻繁にやけどするため、左手で煙草のフィルターを挟む吸い方に転向中。これが治れば一連の故障は癒える模様です。それにしても、市販の塗り薬や散布薬などは効用を慎重に確かめてから使用しないと痛い目に遭いますね。


[11月21日]
 連載・短篇・長篇B・Cを進める。特記事項なし。


[11月22日]
 脆弱な脳がまた仕事を拒否するので、長篇Bの取材を兼ねて懸案の本郷・上野蕎麦ツアーへ。夢境庵はあいにく休業、まず萬盛庵で三色そばを食す。しらゆきは更科なのに太麺だった。もう一軒本郷の蕎麦屋で量の多いもりを食べて外したあと、腹ごなしに湯島までぶらぶら歩き、湯島天神にお参りしてから手打古式蕎麦で割り子の三段。これは出雲蕎麦だが本家より色が黒い。薬味は見るからにカンナで削っている鰹節、紅葉おろし、とろろなど。隠れた名店ですが、場所はかなりわかりにくい。ここで限界だったのだが上野まで歩き、名店で一軒だけ入っていなかった上野薮蕎麦で泣きながらせいろうそばを食べて帰宅。久々にハードな蕎麦ツアーであった。


[11月23日]
 脳の容量が戻ったため、今日はひたすら仕事。連載・短篇・長篇B・C・中篇・連作短篇Bを少しずつ進める。長篇Cは50枚をクリア。


[11月24日]
 ふと気づくと来月の10日までに六つも締切がある。とりあえずアンケートを二つ投函。俳句同人誌の忘年会の予定があったのだが、テンションが上がらないためパス。このところドタキャンが多いな。何か手を打ったほうがいいかもしれない。


[11月25日]
 読書メモです。小説は読了順に奥泉光『鳥類学者のファンタジア』(集英社)、佐藤哲也『ぬかるんでから』(文藝春秋)、北野勇作『かめくん』『ザリガニマン』(以上、徳間デュアル文庫)、吉川良太郎『ペロー・ザ・キャット全仕事』(徳間書店)。二段組で分厚くて饒舌な物語はあまり得手ではないのですが、『鳥類学者のファンタジア』ならOK。音楽やナチスなどの道具立てもツボだった。『ぬかるんでから』はSF版内田百間(誤字)の趣もある好短篇集。ベストは「無聊の猿」、不条理感がひたすら心地いい。この短篇集は今年の収穫でしょう。というわけで、どうにかアンケートの季節を乗り切る。どこにもベストテンがないホラーの消化はあとでぼちぼちということで。
 小説以外は桐原春子『イギリス庭園めぐり』(千早書房)、永井均『翔太と猫のインサイトの夏休み』(ナカニシヤ出版)。内容はともかく、猫のインサイトはもっとチャーミングに書けるのにと作家は思ってしまう。


[11月26日]
七時より幻冬舎のS儀さんと打ち合わせ。飯田橋で待ち合わせて早稲田に近い料亭へ。作家の接待で頻繁に使われる店のようですが、私は高級な店だと萎縮する性格で落ち着かず(これは親父の遺伝らしい)。コースだと食べるものがないので特注料理を出していただいたんですけど、対面式のカウンターが苦手でこれまた落ち着かず。私の接待は蕎麦屋か居酒屋で十分ですからよろしくお願いします(>担当の皆様)。その後タクシーで高田馬場へ、喫茶店・白百合に入ってひと息つき、十二時まで打ち合わせ。なお、長篇A「青い館の追憶(変更の可能性大)」はリテイクを経て来春刊行の予定です。ゴーストハンターと黒川とミーコ姫のファンの皆様、いましばしお待ちください。それから、来年6月か8月に『活字狂想曲』が幻冬舎文庫に入る予定です。カルチャーショックだったのは「売れる作家はタイトルの付け方がうまい」という話。考えもしませんでしたが、なるほど言われてみればそうですね。
大相撲九州場所回顧。今場所のハイライトは何と言っても大善の金星でしょう。久々にいいものを見たような気がします。勝ち越したら初の三賞だったのに。琴冠佑の6勝1敗にも拍手を。
さて、「小説推理」1月号が届きました。連載「The End」第三回が載っています。いささか重めの打ち合わせのあとだったので、こういう小説を連載させていただけるありがたみをしみじみと感じつつ電車の中で読みました。もう一つ特筆すべきは「特集 ミステリーファンのための〈幻想と怪奇〉への誘い」。「ミステリー・ファンに薦めるこの五冊」というエッセイを寄稿しています。写真はまるで座敷牢の狂人ですけど(笑)。


[11月27日]
連載・短篇・長篇Bを進める。あとは短篇集の配列を考えたり、連作短篇集の構想を練り直したり。


[11月28日]
メールをプレビューしただけでいま流行のウィルスに感染したらしく(添付書類には注意してたんだけど)、自動的にほうぼうにウィルスメールが送られてしまったらしい。申し訳ないことです。情報を目にするのがタッチの差で遅れてしまった。おわび申し上げます。ローテクなので対処法がわからず、仕事どころではない。もうこれは懸案だったMacに買い替えるしかないと思い(初代機のメビウスは一年半前に98のバージョンアップに失敗して95を入れ直してから調子が悪く、最近はまともに電源が切れなくなっていたのだ)、あとで後悔しそうだが青色申告の決算説明会をパスして秋葉原へ。安めのiBookとウイルスバスターを購入して接続しようとしたらアダプターが違っていてつなげられない(と思いこんでいたのだが)。やむなく秋葉原へとって返し、店員に部品を提示して説明したら「このおっさん、何言うてんねん」と言わんばかりの変な顔をする。たらい回しにされたあげく、意味がわからないままに八千円もするパーツを買って開いたところ、すでに入っていたものと同じではないか! ここでかなり頭に血が上ったのだが、ぐっとこらえてハードを確かめるとバッテリー充電式なのだった。メビウスは常に電源コードでつないでいたのでローテクの私はわからなかったのである(この時点でもまだ秘密に気づいていない)。いったい何をやっておるのだ。さっそくモデムをつないで電源を入れたらあっけなく画面が出た。しかし、ここからがローテクの悲しさ、Macは慣れないのでさっぱりわからん。そうこうしているうちにデスクトップがぐちゃぐちゃになり、やむなく応急処置だけ施して散歩に出て血圧を下げ、またiBookに戻る。すると今度は電源が切れなくなり、そのうちバッテリーが上がってきたのだが充電方法がわからない。仕方なくまたメビウスに戻すと、感染したらメールだけでなくネットに接続しただけでまずいという恐ろしい情報が目に飛びこんでくる(重ね重ねおわび申し上げます)。自力で駆除するしかないようなのだが、方法は当然ローテクには難しすぎてわからない。普通の人は誰かに電話するという選択肢が当然のように浮かぶだろうが、私はテンションが高くないと電話をかけられない因果な性分なのだ(だからいまだに独身だったりするのだが)。とにかく怖くなったのでメビウスを厳重に梱包して捨て(まるで「サイト」の一節のようだが)、風呂に入って頭を冷やす。落ち着きを取り戻したあと、やっと秘密に気づく。私は電源アダプタのキャップ部分をずっと豆電球だと思いこんでいて、ひたすら首をひねっていたのだ。あげくに秋葉原まで同じものを買いに行ってバカにされたのだ。キャップを外せば簡単に接続できるではないか! 店員が首を傾げるのも当然である。これでは猫と変わらない。その後、ノートンのアンチウイルスをインストールし、MacOSXに移ってぐちゃぐちゃやっていたところで変な画面になって凍りつく。今日はここで限界なり。


[11月29日]
MacOSXは難しくて使えないのでMacOS9.2に戻し、とりあえずネット環境だけ整備する(しかし、幻想的掲示板に報告したら文字化けを起こしてうろたえる)。次はメーラーを変えようと思ったのだが、Outlookという字を見ただけで全身に拒否反応が走るので冷却期間を置く。また、フロッピーが使えないことに初めて気づき愕然とする。道理で軽いわけだ。これでは原稿をメールで送れないではないか。その原稿の締切が近いけど、とても仕事脳にならず。また秋葉原に出てMacの入門書を探す。大きな本屋を見つけたのだが、上から下まで難しい本ばかりで役に立たない。ようやくMac館を発見、何冊か購入。七時からは東中野で講談社のA元さんと打ち上げ、『十三の黒い椅子』(講談社・1800円)の見本を受け取る。装幀は北見隆さん、昔の発禁本を彷彿させる黒と赤と銀のきれいな造りです。ありがとうございました。なお、同書はメフィスト・クラブの一冊です。初の雑誌連載だし、同シリーズには好きな本がたくさんあるし、見本を手にして感慨を催しました。打ち上げに使われたのは睦という蕎麦居酒屋、お蕎麦もできたて豆腐などの肴も大変結構でした。久々のクリーンヒット。朝から何も食べておらずトリガラ状態だったんですけど、おかげでトリに戻りました。よもやま話をして十時半に帰宅後はまたMac。メールをニフティ経由に設定しようとしていたら完全にドツボに陥る。なぜ言うことを聞かないのだ。どうして突然ハードディスクの索引なんか作りはじめるのだ(所要時間約90時間と出たときには泣きそうになりました)。パソコンなんて大嫌いだ。


[11月30日]
やっとネット機能だけ復旧する。どうも過剰防衛に走って墓穴を掘ったらしいのだが、ぐちゃぐちゃになりすぎて修復できない。貞操帯を装着しているのに鎧に身を包み、なおかつ薙刀を振るおうとして倒れて起き上がれないような状態。新アドレスだけは決まったので、メールで連絡がありそうな担当者にファックスを流し、修復エキスパートの出動を依頼する。ふと気づくと仕事に火がついてきたため何度も戻ろうとしたのだが、仕事脳の状態が回復せず5行しか書けず。夜中に目が覚めたので、全部リセットしようとニフティを解約。今月の執筆枚数は192枚、稼働日数22日、一日平均は8.7枚でした。