4.1
絵蝋燭燃えつきてをり櫻守
 連載・短篇・中篇を進め、短篇のゲラ。これだけ仕事したあとの将棋はポカの連続なり。そういえば野球が始まったようですが、私のテレビは将棋ソフトのモニターと化しており、まったく見る気がしませんね。やはり鬱状態(ただし低レベルで安定)だと外界に対する反応がとみに鈍くなります。ネットも昔ほど見なくなったし、新聞はとってないし、世の中がどうなってるのかさっぱりわかりません。まあ基本的には関係ないんだけど。
 前回の「旗は旗であるがゆえに持ちたくも振りたくもない」(3.28)というくだりはちょっとわかりにくい書き方だったので補足しますと、大文字の政治からジャンル政治めいたものに至るまで(もちろん会社や学校や地域社会なども)あまり関わりたくはないということなんですが(生きるのが苦痛なだけなのかも)、それもまた保守系(ここ重要)アナキストとしての旗になりかねない。そうすると、「旗は旗であるがゆえに厭だ」と「私は私であるがゆえに厭だ(自同律の不快ってやつですな)」が微妙にクロスし、そのうちに「しかしながら、私は<私>でしかありえない」と第三の声が聞こえ、「いや、<私>の内部には無数の私がいるのではないか」と第四の声が響き、なおさらわけがわからなくなって暗いモノローグめいてくるので、まあこのへんにしておきましょう。こういう答えの出ないことは日記ではなく、固有名詞がいっさい出てこない連載「The End」で書くべし。と言うか、書かねばならないのですが・・・。
 

4.2
涅槃西風貝寄風黒い風見鶏
 昨日は睡眠薬が切れていたので久々に強い酒をたくさん飲んで寝ようとしたのだが、明け方まで全然眠れず。酔いが残った状態で一時半に虎ノ門の神経科へ。血圧は110-54、勤め人時代の健診ではいつも高めだと言われていたのにいやに低いなと思ったけど、べつに心配はいらないようだ。例によって二十日分の薬をいただいたあと有楽町へ。マリオンの阪急にぬいぐるみ用のシャンプーがあると浅暮三文さんから聞いていたので、インフォメーションのおねえさんに訊ねて売り場らしきものに到達したのだが、昨年暮れのリニューアルで取り扱わなくなってしまったらしい。かなり汚れてきた三毛猫のミミちゃんを洗ってあげたいから、別の店を探さねば。やむなくソフマップに回り、プリンターのカートリッジを調達。むやみに絵を描いてるとすぐなくなるので少し控えることにしよう。Macソフトのコーナーもあるにはあったけど、いかにもわびしい佇まい。シェア的にはしょうがないか。帰宅後は連載を一枚だけ書いてダウン。ちなみに、今日の体重は50.6kg、体脂肪率は10.5%。あまり食欲がわかないのですが、このあたりで食い止めないとまずいかも。
 

4.3
問題は遠方にあり春霞
 短篇のゲラを返送し、連載をやっと20枚まで書く。目標の30枚が見えてきた(どうもレベルが低いような気もするが)。その後は短篇を進める。これも20枚に到達。夜の東大将棋3マスター戦は高田流左玉で勝勢から見事に逆転されてしまう。どうして終盤になると4級になってしまうのだろう。詰将棋の数をこなすしかないか。
 話変わって、4/2付の風野春樹さんの日記には思わず反応してしまいましたね。離人症も世界没落体験も過去に似たような体験をしていますから。そうか、私は一歩間違えば分裂病になってたのか。いや、いまでもときどきミーコと自分の区別がつかなくなったりするんだけど(笑)。
 

4.4
ものの芽のあはれをにがき舌先に
 二年後は都落ちかなと思いつつ、午後にマンションの更新をする。仕事は連載・短篇・中篇。一日十枚が近くなると小説脳のバッテリーが上がってダウンしてしまう。
 さて、しばらく品薄状態だったストリブリング「カリブ諸島の手がかり」(国書刊行会)がおかげさまで三刷になりました。一方、二冊目の「ポジオリ教授の事件簿」(翔泳社)は苦戦中のようなので、こちらのほうもできればよろしくお願いいたします。
 

4.5
ひどく羊な夕べの星と思ひけり
 連載を少し書いてから三時に新宿で編集プロダクションのS宮さんと打ち合わせ、長篇Bの原稿を渡す。やっと少しだけ肩の荷が下りました。終了後は西武新宿から野方へ。学生時代は沼袋と野方の中間に住んでいたから土地鑑のある場所です。目指すは棋書が充実している古書店・アカシア書店、残念ながら伊藤果「風車の美学」が見当たらなかったので、2500円もはたいて児玉孝一「必殺!! カニカニ銀」を購入。どうしてこういう風変わりな戦法ばかり好きなのだろう。その後は蕎麦屋をハシゴしながら沼袋まで歩く。学生時代からある店もわりと残っており、基本的にはあまり変わってませんでしたね。なお、沼袋は地名で選びました。前から気になってるのは足立区の皿沼、いずれバスで行ってみようかな。
 

4.6
疵のある皿に捧げん冬の水
 連載の追いこみ、もう少しで最低ノルマの30枚なり。あとは短篇と中篇を進め、夜は別の短篇ゲラに着手。東大将棋3で初めて持将棋を経験する。相矢倉で一つだけどうしてもクリアできない形の初級(と言ってもかなり強いのだが)に対する強引な端攻めが切れ筋になってからは泥仕合と化し、278手で完全に相入玉、指す手がなくなる(いままでの記録はクラニー流不死鳥風車で手待ちの応酬になった271手)。持将棋はシステムに入っていないのでここで打ち切り、珍しく相矢倉でマスターにリベンジを挑む。3筋の歩を早めに突いて性懲りもなく端を攻めたら今度は成功し、誰も見ても優勢。ただ、かれこれ400手も続けて指してるし終盤は4級だし(単独の詰将棋なら初段の問題も解けるんだけど)、頭が朦朧としてきて例によって例のごとく物の見事に逆転負け。誰か終盤だけ代わってくれないかしら。
 

[読書メモ]
(小説)大石圭「殺人勤務医」(角川ホラー文庫)。
 ありがちと言えばありがちな話なのですが、この作家のセンスはやはり琴線に触れますね。狂った精肉業者が描いた地下室の絵という設定が秀逸。
(小説以外)中島義道「騒音文化論」(講談社+α文庫)、香山リカ「サイコな愛に気をつけて」(青春出版社)、高田尚平「高田流新感覚振り飛車破り」(毎日コミュニケーションズ)、河口俊彦「将棋界奇々快々」(NHK出版)、中山典之「悠久四千年囲碁の魅力」(三一書房)、大内延介「将棋・端攻め全集」(日本将棋連盟)。
「騒音文化論」と関係があるような無いような話ですが、こんな三人の人物がいるとします。一人目は重い十字架を背負い、辛そうに歩いています。誰の目にも十字架に見えるので、助けの手を差し伸べようとする人がたくさんいます。二人目も重いものを背負っているのですが、それは十字架に見えず、形がいやにいびつで滑稽だからなかには嗤う者もいます。しかしながら、その人物は自分が何を背負っているかはっきりと認識しています。だから、辛そうであっても毅然として歩いており、行き先々で初手から必敗の喧嘩をふっかけたりします。三人目も重いものを背負っていますが、不定形でぐにゃぐにゃしています。この人物にとって困るのは、いったい自分が何を背負っているのかさっぱりわからないということです。ひたすら気色が悪くて不安です。さて、この三人のうち最も不幸なのは誰でしょうか・・・という問いは、私見によればあまり意味がありません。せんじつめれば、それぞれの不幸は個人的な問題なのですから。


4.7
物語はなんにもなくて浮氷
 連載がようやく30枚に到達。明日で区切りをつけよう。短篇も30枚をクリア。コインランドリーではひたすら詰将棋。10分で二段の問題が1分で解けたりすることもあるんだがなあ。
 

4.8
薄くて白いガラスの破片 惜春
 連載32枚の第一稿を仕上げてプリントアウト、あとは推敲のみ。短篇を進めて夜は別の短篇のゲラ。ようやく山(小さい山だけど)を越えられそうだ。夜のお楽しみである東大将棋3マスター戦は久々に藤井システム四間飛車を試そうとしたのだが、ふと気がつくとツノ銀中飛車に組み替えてしまっており、さらに持久戦になって右玉風車に組んでしまう。やはり流行に関係なく好きな戦法を指すのが本筋かも。例によって強引な端攻めを経て優勢になってから逆転負け。桂馬を四枚も持っていたのにいちばんヘボなところへ打ってしまった。とほほ。
 

4.9
夏木立樹のふりをして眠りをり
 連載を推敲してからメールし、短篇をとにかく最後まで書く。40枚の依頼で第一稿が超過したのはいつ以来だろうか。たった3枚だけど。
 なお、俳句は有季定型に転向しているのですが、当季にはこだわっていないのでバラバラです。日記の内容とも関係はありません。
 

4.10
三伏の銀のトレイに何もなし
 久々に執筆はお休み。短篇を画面上で推敲してプリントアウト、あとは長篇のプロットを作ったり手を入れたり、ネットで調べ物をしたりいろいろ。部屋の整理にも着手。服が全部黒いから、どれが春物なのか出してみたいとわからないのは困ったものだ。
 さて、津原泰水監修「血の12幻想」(講談社文庫・629円)が届きました。いまのところ短篇集未収録の作品「爪」が収録されています。文庫化にあたっては、文章の細部に手を入れました。わりと気に入っている作品なので、お読みいただければ幸いです。もう一つ、「Hiミステリー」5月号も届きました。「屍船」所収の短篇「白い呪いの館」の漫画化作品が掲載されています。漫画化は初めてだから不思議な気分ですね。難しい作品だと思うのですが、篠崎佳久子さんにうまく描いていただきました。ありがとうございます。
 

4.11
篝火草枯れてゐるばかりの夜
 連載のゲラが出るまでは書き下ろしの進め時なのだが、どうも反動で調子が出ない。おまけに、睡眠薬を使ってるから強い酒は飲むまいと決めていたのに昨夜はブランデーをがんがん飲んでしまい、酒と眠気が残っている。そういえば、当初は一日一箱を目指して節煙を志し、毎日律義に吸った本数を数えてたんだけど、すっかり元に戻ってしまった。私は何のために一万円もする禁煙飴を買ったのだ。意志が弱いのにも程がある(緩慢で消極的な自殺を図っているような気がしないでもないのだが)。それでも長篇Dだけようやく起稿する(たった一行ですけど)。あとは中篇を進め、短篇の推敲を了える。と思ったら、また急ぎの短篇のゲラが届く。仮眠後の将棋はカニカニ銀を試してみたのだが、どうも棋風に合わないようでボコボコにされてしまう。やむなく後手番で例によってツノ銀中飛車から右玉風車に組もうとしているとき、いつもの手待ち合戦に飽きたのか珍しくAI将棋2001が攻めてきたから最後に逆襲して快勝。棋譜を保存しなければレベル6(三段)以上が出るかなと思いきや、設定はマニュアルどおりのはずなのにやはり出ない。せっかくの快勝譜を無駄にしてしまった。それにしても、コンピュータ将棋は対戦相手の棋風を学ぶから、AI将棋も東大将棋もこのところまったく穴熊に来てくれない。藤井システムのみならず、右玉風車も高田流左玉(これは振り穴)も穴熊にだけは強いです。いや、端攻め一辺倒の対局者に問題があるんですけど。


4.12
晩夏光錫の器の中心に
 短篇をメールしたあと、四時より神保町で東京創元社のM原さん、K島さんと打ち合わせ。M原さんには短篇のゲラを渡す。媒体については月末に発表する段取りになっています。K島さんとはミステリーの打ち合わせ。とりあえず、これでやっとひと息といったところ。その後は秋葉原まで歩きMac館へ。新型iMacの最低機種は半ば予想通り品切れ中だった。もう少し様子見ですね。上野まで歩きヨドバシでPS2の「東大将棋振り飛車道場」を買う予定だったのだが見当たらず、結局むやみに歩いただけで何も買わずに帰宅。夜は急ぎの短篇ゲラに専念。久々に級数表を使ったから昔を思い出してしまった。銀行の統合がこれほど続くと印刷会社は地獄でしょう(一日中、細かい字の約款の校正とか)。また死人が出てるかも。深夜の東大将棋マスター戦は右玉風車でほぼ完璧に端を破って角を成りこんだのに、苦労してつくった馬を肝心なところでタダで取られて逆転負け。どうしてこうヘボなのだろうか。
 

4.13
表札ありていづこも春塵の家
 久々に早起きして短篇のゲラを返送。ネット将棋やネット碁もやろうかなと思い立ち、ADSLの申し込みをする。いまひとつよくわかってないんですが。午後は中篇を進め、ネットで調べ物。夜はディテールを思い出すべく長篇Cを頭から読み返す。
 

[読書メモ]
(小説)牧野修「だからドロシー帰っておいで」(角川ホラー文庫)。
 幻想文学会出身であるにもかかわらずファンタジーはかなり音痴な部分があるんですけど(ダーク・ファンタジーは除く)、こういう作品ならOKですね。
(小説以外)林道義「囲碁の心理学的上達法」(三一書房)、保阪正康「安楽死と尊厳死」(講談社現代新書)、森内俊之「実戦の詰将棋 初段120題」(成美堂出版)、児玉孝一「必殺!! カニカニ銀」(日本将棋連盟)、E・パノフスキー「ゴシック建築とスコラ学」(ちくま学芸文庫)。
 本では初段レベルに達するのに実戦ではなぜ終盤が4級になってしまうのか、単純な理由に気がついた。詰将棋の本にはヒントが書いてあるのだ。


4.14
 俳句はさすがに息切れしてきたので、しばらくお休みです。また数が溜まったら再開します。中篇を進め、懸案の長篇Eを起稿(たった一行ですが)。デジカメを買ってモデルになりそうな教会の周辺を取材せねば。長篇Cも再開。
 

4.15
 中篇・長篇Cを進め、3月16日以来、一カ月ぶりに一日十枚書く。夜は連載のゲラ。今日の体重は50.2kg、体脂肪率は10.0%でした。風が強い日は百メートル以上歩く気がしませんね。深夜は初めてネット将棋につないでみたのだが、どうもMacだと難しようだ。碁も将棋もwin専用のところが多いからなあ。
 

4.16
 今日も風が強いので近くのコンビニへ行っただけ。ゲラを返送し連載を再開、とりあえず一枚書く。あとは中篇と長篇Cを進める。長篇Dは毎日一項目ずつネットで調べ物。巨大な亀のジグソーパズルを始めてしまったような気分。別のネット将棋にも登録したのだが、ブラウザかJAVAの関係らしく将棋盤が出ない。Mac用のネット碁もあるようだけど、やたら難しそうなことが書いてある。やむなく東大将棋3で我慢する。不死鳥風車で例によって手待ち合戦になり、業を煮やして棒金に出て端を破れそうだったのだが、銀ならともかく金はもったいないと躊躇してしまい、結局角を切る羽目に。いつものように端は破ったけど203手の熱戦の末、投了。
 

4.17
 また強風のため引きこもりモード。よくこれで11年間も会社勤めをやっていたものだ。中篇と長篇Cを進める。中篇はこれだけ苦労してまだ三分の一、100Pを超えればあとは一瀉千里なんだけど。今日の体脂肪率は9.5%、ついに一桁に落ちてしまった。薬の副作用のせいか、いままで好物だったチョコレートやケーキなどに食指が動かなくなったのが大きいかもしれない。昼まで寝てるから一日三食は無理だからなあ。夜はネット碁のためのソフトをダウンロード、Macでも使えるネット将棋道場で人の対局を観戦だけしていたのだが、5級の人から挑戦状が届いたので慌てて拒否して退室。負けたらみっともないし、ネットでも人見知りするたちだから向いてないのかも。というわけで、深夜はいつものようにコンピュータ将棋。ウソ矢倉やウソ四間飛車から風車という組み型を試してるんだけど、端攻めに行っては墓穴を掘るという展開の繰り返しでスランプ状態。
 

4.18
 午前中はブラウザをMac IE5.1にバージョンアップ。仕事は例のごとし。夕食前に量ったとはいえ、今日の体重は49.8kg、ついに大台を割ってしまった。うーん、米を食べなければ。jagoというソフトのおかげでネット碁にも接続できたけど、今日は観戦のみ。
 

4.19
 本日も引きこもりモードで仕事。長篇Cは250枚をクリア。夜はまた将棋で徹夜してしまう。これはひとえに東大将棋3のマスターが悪いのです。このところ風車から強引な端攻めに行って墓穴を掘ることが多いので、基本に立ち返り(千日手も辞さずという特殊な戦法なのです)、後手番でどこにも隙のない美しい布陣を敷き、相手が攻めてくるのを待っていた。ところが、コンピュータ最強を誇る東大将棋は攻めてこない。こちらからも有力な攻め筋が見えない(だいたい酔っぱらってるし睡眠薬は飲んでるし)。以下、右玉にしたり不死鳥にしたり、ひたすら風車で手待ちを続けたものの、666手を超えたところでついに我慢の限界を迎えて歩を突いてしまい、例によって終盤にヘボ手が出て712手で投了。一局700手以上もコンピュータ将棋を指すアホがどこにいますか。
 さて、探偵小説研究会編「本格ミステリこれがベストだ! 2002」(創元推理文庫)が届きました。なんと拙作「四重奏」が「2001年本格ミステリ10選」に選ばれています。これでいいのかという気がしないでもないんですけど、ありがとうございました。ミステリーの年間ベスト10は紙媒体だけで5つもあるのですが、「週刊文春」「ダ・ヴィンチ」(ランク外)→「このミス」(ランク外、28位相当)→「本ミス」(15位)→「本ベス」(10選入り)という「四重奏」の推移はわりと象徴的かもしれませい。逆のほうが売れるんだけど(笑)。
 

4.20
 今週の行動半径は猫なみでした。来週は外に出ます。連載・中篇・長篇Cを少しずつ進め、次とその次の短篇のプロットに肉付けし、ネットで長篇Dの調べ物、夜は短篇のゲラ。だんだんバッテリーが上がってきました。仮眠後の深夜は例によってボードゲーマーに変身。今日こそネット碁かネット将棋をと思ったのだが、土曜の晩とあって接続できない。AI将棋に負けた借りをAI囲碁で返すといういつものパターン(9子はさすがに大変なのでたまに負けるけど)。東大将棋戦は相振りで左玉風車がそれなりに使えたことが収穫。負けても負けても風車一本槍にするかな。


[読書メモ]
(小説)山田正紀「サブウェイ」(ハルキ・ホラー文庫)、菊地秀行「幽剣抄」(角川書店)「幽幻街」(新潮社)、柴田よしき「リアル-ゼロ ベト ノワール」(祥伝社文庫)「宙都 第二之書 海から来たりしもの」(トクマ・ノベルズ)、田中啓文「UMAハンター馬子(1)」(学研M文庫)。
 今週は旺盛な執筆活動を続けておられる方々の作品を読んでいました。紙面からパワーが伝わってくれないかしら。
(小説以外)「埴谷雄高準詩集」(水兵社)、依田紀基「基本の詰碁 初段・二段・三段」(成美堂出版)、古東哲明「ハイデガー=存在神秘の哲学」(講談社現代新書)、千石正一監修・徳永卓也「カメの衣食住」(どうぶつ出版)、ロラン・バルト「表徴の帝国」(ちくま学芸文庫)。
 古東氏の著作はとっつきにくいタイトルで内容もハードなのですが、書きぶりが軽快で面白く読めます。最近ではお奨めの新書。


4.21
 脳のメモリが足りなくなり半休。録画した碁と将棋の番組を見たりしてだらだら過ごす。ほとんど隠居の日曜日である。
 

4.22
 久々に執筆は全休。短篇のゲラを返送したあと、午後は虎ノ門の神経科へ。例によって二十日分の薬をいただいたあと、銀座の博品館で懸案のぬいぐるみ用スプレーとミーコのおともだちを買い、蕎麦屋に寄ってから帰宅。では、秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。クラニーせんせいがミーニャちゃんをかってくれました。ミーニャちゃんはくびをふってなきます。芸ができていいにゃとおもいます。スプレーのおかげでミミちゃんはだいぶきれいになりました。ミーコもためしてみようかにゃ。それから、ごほうびにサンマのぬいぐるみをもらいました。おわり。
 再びクラニーです。夜はネット碁を初体験。東大将棋と160手の熱戦のあとだったから観戦のみのつもりだったのだが、挑戦状が届いたので受けてしまう。四段の免状を信じて全世界で上から6番目のクラスに登録してしまったので、相手はかなりの打ち手でした。途中までは私が打ちやすいかなという感じだったのですが、白模様にドカンと入られた黒石をいじめきれず、やや地合いが足りない感じ。AI囲碁なら筋っぽい手を打つと気持ちよく間違えてくれるんですけど、しっかり受けられて手にならない。目一杯頑張って打っているうちに終盤に致命的な見損じが出て投了。五段への道は遠い。それにしても、一時間以上もかかるとは。常時接続になるまではネット将棋のほうがいいかな。
 

4.23
 連載と中篇を進めたあと、四時半より秘書猫をつれて日暮里ルノアールで双葉社のH野さんと打ち合わせ。連載の今後の展開について。その後蕎麦屋で七時半までしゃべる。酒も飲んでないのに個人的なことをべらべらカミングアウトしていたような気がする。
 さて、日記では伏せていたのですが、カドミス5月号で竹本健治さんがお書きになっていたので訃報をお伝えします。「刻Y卵」の作者である東海洋士さんがさる三月に急逝されました。あの奇作をたった一つだけ遺して夭逝するなんて格好良すぎるよなあ。面識はなかったんですけど、鬼才のご冥福をお祈りいたします。
 

4.24
 気合を入れて連載を書きはじめたのだが、半ば予想どおり2枚で止まる。この不可解な暗い小説をたくさん書くと薬を飲んでいても鬱状態になってしまうのです。あとは中篇・長篇Cを進め、長篇Dの調べ物。今年初の本のゲラが届き、少し安心する。夜はネット将棋を初体験。その前の東大将棋マスター戦(例によって160手の熱戦で154手まではほぼ完璧だったのだが)でかなり消耗してたし、初めてで勝手がわからないしむやみに緊張するし、5級(時間切れ負け)とX級(かなり強かった)の人に風車で惨敗してしまう(コンピュータと違って序盤から攻めてくる)。さぞやカモ初段と思われたことでしょう。あまりにも情けない内容だったから、今度は穴熊や矢倉もやるかな。
 話は微妙に変わりますが、ボードゲームの愛好者はボケないと言われています(ちなみに父も弱い囲碁アマ四段)。それに加えて、ある種の人々にとっては「ボードゲームをやっていれば完全に発狂はしない」とも言えるのではないでしょうか。ややうろ覚えですが、小栗虫太郎が碁会所通いをしていたのはことによると象徴的かも。元の頭がおかしいのは、もはや治しようがないんですけどね。
 

4.25
 連載・中篇・長篇Cを進め、コインランドリーで詰め碁。昨日に続き、本のゲラが届く。「小説すばる」に断続的に発表してきた幻想ホラーの連作をまとめたもので、タイトルは「夢見の家」、集英社から八月下旬に発売の予定です。短篇集が出るのは実にうれしいですね。夜はとりあえず二冊のゲラに手だけつける。
 このところちびちびと聖書を読んでいます(べつに信仰に目覚めたわけではなく必要もあってのことなんですが)。テキストは現在流通している味のない新共同訳ではなく、古本屋で買った文語体の聖書。文藻の豊かさと文体の格調の高さが違いますね。それにしても長いな。前に翻訳の参考のために「ヨブ記」と「黙示録」だけは読んだのですが、まだ「創世記」が終わらない。
 

4.26
 連載と長篇Cを進めてから、初めて近くの将棋道場へ赴く。ここはプロや奨励会員や名だたるアマ強豪がひしめいているレベルの高い道場で、緊張しながら入る。まずは1級(辛い道場だからかなり強い)のおじさんと対戦、相手が四間飛車に来たので居飛車穴熊に組もうと思ったのだが、いかにも藤井システムの使い手でございという感じだったからびびってしまい、高田流左玉に路線転換。この時点ですでに作戦負けなんだけど、いちおう勝負形にはなる。ただ、ここで30分の持ち時間が切れて秒読み。こうなるともういけない。例によって終盤にヘボ手が出て敗戦。次はむちゃくちゃ強い席主に平手で指していただく。ウソ矢倉から右玉風車の理想形に組み、手待ち合戦という好きな展開になったのだが、あいにく私は先手である。ここで千日手にするのはいかがなものかと思い(風車は攻め手が少なく玉形が薄いからあまり指す人がいないんです。いま思えばアマ六段と千日手にしたらささやかな自慢になったんだけど)、駄目だろうなと思いつつ無理やり端攻めに行ったら予想どおり墓穴を掘って端を破っただけといういつものパターンで敗戦。感想戦では貴重なアドバイスをいただきました。いつの日かひとかどの風車使いになりたいものです。ほんとに攻めさえしなければ風車は美しいんだけどなあ。
 将棋にうつつを抜かしていてすっかり食事を忘れてしまい、本日の体重は49.4kg(ちなみに身長は170cmあるんですが)、体脂肪率9.5%。あわててコンビニへ夕食を買いにいく。仮眠後はさっそく教わったことを試し、AI将棋をボコボコにしてやろうとしたのだが、そのような展開にはならず、いつもよりひどい負け方で三連敗。将棋の敵を囲碁で討とうとしたもののネット碁で初めて思い切って出した挑戦状が拒否され、すごすごと退散。登録名がkranyだから外人だと思われて敬遠されてしまうのかしら。仕方なくAI囲碁に9子置かせて一局。これをやってるとどんどん弱くなってしまうような気も。ちょっと足りないから頑張って打ってたら、セキなのに相手がダメを詰めて取られてくれました(笑)。ただ、ソフトのヨセだけはかなり正確です。
 

4.27
 早起きして溜まっていたゴミを出す。外に出た翌日は反動でテンションが低い。執筆は例のごとし。長い仮眠後はゲラと読書。
 さて、「小説推理」6月号が届きました。「The End」連載第8回が掲載されています。次でやっと300枚を超えます。
 

4.28
 いつもの隠居の日曜日。特記事項なし。
 

4.29
 連載・中篇・長篇Cを進め、夜はゲラ。作家の日常はつまらんな。
 

4.30
 アンケートと句稿とエッセイを送り、GW明けの締切を連載だけにして短篇Aをとりあえず起稿する。今月の執筆枚数は180枚でした。やや復活の兆しあり。秘書猫をつれて七時に神楽坂に集合、久々に麻雀を打つ。今日は水庭杯ではなくオープン戦、結果は以下のとおりです。
 1位 クラニー +137
 2位 MANTRA +37
 3位 西東京伝 −43
 4位 高瀬美恵 −131
 このところボードゲームでは負け続きだし、二年余り続けているトータルのノー沈み記録を更新できればという感じで臨んだのですが、半荘6回でトップ4回は出来過ぎでした。しかし、これだけ打つとへろへろで体力の衰えを感じますね。一時半ごろタクシーで帰宅、お疲れさまでした。
 最後にお知らせです。8月下旬に朝松健監修「秘神界(上下)」(創元推理文庫)が刊行されます。すべてクトゥルー神話で書き下ろし、1300ページを超える大冊になるとか。HPをもっている参加者はこの日に同時に告知するというプロジェクトらしいので、末席を汚してみました。私は「イグザム・ロッジの夜」(このタイトルに反応する人は日本に何人くらいいるのだろう?)という短篇を寄稿します。
 

[読書メモ]
(小説)西澤保彦「夏の夜会」(カッパ・ノベルス)、浅暮三文「左眼を忘れた男」(講談社ノベルス)。
 同じミステリーでも作風はまったく違うのですが、記憶のテーマひいては中年感覚に妙に共通する部分がありますね。たぶん同世代だからそういった部分に反応してしまうのでしょう。
(小説以外)「高岡修句集」(ジャプラン)、小林健二「歩の徹底活用術」(創元社)、アミール・D・アクゼル「『無限』に魅入られた天才数学者たち」(早川書房)、ドクター・カバネス「衛生博覧会」(ユニテ)、川俣正「アートレス マイノリティとしての現代建築」(フィルムアート社)、大竹英雄「アマ高段者を鍛える!」(フローラル出版)、友成純一「内臓幻想」(ペヨトル工房)、高橋道雄「新しい詰将棋 初段・二段・三段」(成美堂出版)。
 碁か将棋か腰が据わらないから腕が上がらないような気もするんだけど(碁だけでも勉強することは山のようにある)、そう言いつつたまにオセロの定石を並べていたりする。こりゃダメだわ。