6.1
 連載・中篇・短篇Bの執筆と長篇Cのプリントアウトを進め、夜はゲラに着手。月初めから飛ばし過ぎかも。
 ケダちゃんのサイトによると、牧野修さんがデビュー十周年だそうです(数え方に異論もあるようですが)。おめでとうございます。「傀儡后」は長いので先の楽しみにとってあるんですけど、また不気味なシンクロニシティがありました。同書のあとがきのタイトルは「物語から遠く離れて」ですが、実は先月、俳句の同人誌からエッセイを請われ、まったく同じタイトルの文章を書いてしまったのです。真似したわけではなく、偶然の一致です。
 そういえば、いつデビューしたのかわからないことにかけては牧野さんと双璧かもしれない私は、最初の本を出したのがデビューだと考えると十五周年になるんですね(そうか、新本格と同じなのか)。商業誌に小説を発表したのをデビュー作とする方もいるんですけど、季刊「幻想文学」はいまや堂々たる商業誌だとしても、載ったのは中篇の後篇だからなあ。後篇でデビューした作家ってほかにいないでしょう。そうすると二十周年か(五周年という考え方もありますが)。まあどっちでもいいんですけどね。
 

6.2
 昨夜の仮眠が長すぎたためか、寝る前に指した東大将棋マスター戦で勝って興奮したせいか(このところ三間飛車には左玉で連戦連敗だったのだが、居飛車穴熊に組めば勝負になるという単純なことに気がついた)、朝までまったく寝られず。とりあえず二時過ぎまで寝て、あまりにも暑いから今年初めて半袖の服を着る。仕事は小説脳が動かず、長篇Cの第一次推敲分のプリントアウトのみ完了。食事前の計量で、本日の体重は48.6kg、体脂肪率は8.5%、誘惑に抗しきれず主食を蕎麦に戻したらライトフライ級まで落ちてしまった。明日からは米を食べるようにしよう。
 

6.3
 どうも睡眠障害が続いて調子悪し。昨夜は録画したNHK将棋トーナメントを観ながら早めに寝るつもりだったのだが、なにぶん相矢倉の将棋らしい将棋だったので、ついまた東大将棋をやってしまい、これがまた140手を超える泥仕合ですっかり目が冴えてしまった。困ったものだ。二時過ぎに起床、連載・中篇・短篇B・ゲラを夜まで進める。とにかく手を動かすしかない。
 

6.4
 連載の追いこみモードに入り、中篇と短篇Bを進める。その後はワールドカップの日本の試合が行われる時間帯を見計らってコインランドリーへ。予想どおり貸し切り状態でした。夜はゲラを少し進める。
 

6.5
 まずは連載のラストスパート、31枚と最低ノルマをようやくクリアする。続いて、短篇Bをとにかく最後まで書く(35枚)。40枚の依頼だと、かなりの確率でこれくらいの枚数で終わってしまいますね。超過することはまずありません。今月はあと一つ短篇があるし、全然山を越えてないなあ。鬱陶しくなってきたので夕方は散髪。いつも我慢していた電動マッサージ器を初めて敢然と拒否する。肉のある方は気持ちいいのかもしれませんが、私にとっては拷問です。夜はゲラ。深夜のAI将棋はいつものように風車と見せかけて右四間飛車という新戦法を考えて中盤で逆転し、何度も必至をかけたのだが、例によって寄せ損なって逆転負け(翌日は右四間穴熊で泥仕合の末また逆転負け)。「光速の寄せ」シリーズを完読してもヘボはヘボなり。


6.6
 エッセイをメールしたあと、連載と短篇Bを画面上で推敲してプリントアウト。夜は「青い館の崩壊」の再校ゲラが終了。次は長篇Cの第二次推敲かな。
 

6.7
 連載をメールで送り、中篇と短篇Aに戻る。夜は長篇Cの第二次推敲に着手。そういえば、病院と打ち合わせ以外にろくに出かけてませんね(本はネットで買ってるし)。長篇D・Eの合同取材も企画してるんですけど、なかなか行く気になりません。ほかの作家みたいに海外などの遠方じゃなくて近場の亀戸なんですが、最近は日暮里の駅前まで行くだけで億劫です。
 

6.8
 中篇と短篇Aを進める。連載を鬱々と書いている反動か、ほかの作品がヤケクソ化しつつあるような気も。夜は長篇Cの第二次推敲。深夜はまずネット碁の観戦(長考派だから早碁は打ちたくないし、性格的にやはり向いていない)、東大将棋マスター戦は四間飛車と見せかけて風車という新手の組み方を考えて優勢になったのだが、163手で逆転負け。勝ち負けはともかく、手数が130手以上じゃないとあまり将棋を指した気分にならないのは私だけだろうか(ちなみに千日手は歓迎)。さて、日記を読み返すと、今週は床屋とコインランドリーしか行ってませんね。来週はもう少し行動半径を広げたいものです。
 

[読書メモ]
(小説)積木鏡介「芙路魅」、浦賀和宏「浦賀和宏殺人事件」(以上、講談社ノベルス)。
 今年はミステリーの消化がほぼ絶望的に進んでいないので、とりあえず私の狭いツボに来そうな薄い本からぼちぼち読んでます。ただ、また「人の小説を読めない病」の兆候があるから停滞するかも。そういえば、一括で買ったプルーストはまだ一行も読んでないな。一生このままかも。
(小説以外)谷川渥「形象と時間」(講談社学術文庫)、大野裕「『うつ』を治す」(PHP新書)、金子満雄「囲碁はボケ予防の妙手」(河出書房新社)、川名紀美「時代はセックスレス」(朝日新聞社)、谷川浩司「光速の寄せ2 振り飛車で勝て!」(日本将棋連盟)、岸田秀「心はなぜ苦しむのか」(毎日新聞社)。
 「囲碁はボケ予防の妙手」というある意味では秀逸なタイトルの本を読んだのを機に、碁打ちと将棋指しの実寿命について考えてみました。高齢になっても活躍する将棋指しもいますけど、おおむね碁打ちのほうが寿命は長いようです。関西棋院には90歳まで現役プロだった人がいるとか。現在も老雄・橋本昌二九段が活躍しています。「碁ワールド」6月号によると、日本棋院の杉内九段(大正九年生)は3勝3敗、岩田九段(大正十五年生)にいたっては6勝2敗と大きく勝ち越しています。片や将棋指しは、二十代でタイトルを獲っても四十くらいになると(下手すると三十くらいで)急に衰えてしまう例が目立つような気がします。逆に、碁打ちは中年になってからにわかに強くなることがあります。相手玉を詰ませなければならないゲームと最終的に地が多いほうが勝ちになるゲーム、原因はこの本質的な差異に求められるでしょう(あるいは女流棋士の活躍の度合いの歴然たる差も)。話変わって、私はマイナーな関西棋院を贔屓にしているので、苑田・本田・清成各九段あたりには何かタイトルを獲ってもらいたいものですね。ことに本田邦久九段はもっと要領良く打てば勝てるのにと思うんですけど。むろんレベルはまったく話になりませんが、私も無用の頑張り(打ち過ぎ)をして墓穴を掘るタイプなので。ああ、また読者の少ないネタを振ってしまった。


6.9
 ゲラを返送し、中篇と短篇Aを進める。夜は長篇Cの第二次推敲を完了。特記事項なし。
 

6.10
 悪夢の勤め人時代が長かったせいか、月曜日はどうも調子が悪い。それでも中篇と短篇Aを進め、長篇Cを仕上げてFDを作成。夜は短篇Bの推敲に入る。食事前の計量で本日は47.6kg、このところ毎週のように最低体重を更新している。これで秘書猫がだんだん太ってたら不気味だけど。
 

6.11
 中篇だけ進めたあと、久々に高田馬場へ出かける。スラックスがゆるくて歩きづらくなったため(勤め人時代を思い出すからバンドは使用しない)、AOKIで細いスラックスを発注。さすがに既製品で最もウエストが細いクラスになると黒で統一しきれず、夜には黒く見える紺やグレーも交える。その後、ユーエス・バンバンで黒服を思いきり買い、喫茶店でオムライスを食べてから生まれて初めて碁会所へ。恐る恐る扉を開けて中へ入ったら、これがもう見事なまでにおやじばかり(笑)。厄年の私が下手したら最年少、若い女性なんて一人もいない。「ヒカルの碁」の影響はディープな碁会所にまではとても及んでいないものと見える。本当は格上の人に黒を持って教わりたかったんだけど、四段で登録したからなかなか適当な相手がいないらしい。待つこと一時間余、年季の入っていそうなおじいさんと二子局でようやく対局開始。二段格に二子置かせて勝てる自信はまるでないのだが、一局目は白模様に深々と打ちこんできた黒石をAI囲碁いじめで鍛えた腕で召し捕って打ちやすい形勢になる。ただ、ここで堅くじっくり打てばいいものを、まだ敵は厚いからもっと儲けてやれと無理っぽい仕掛けをして墓穴を掘るのがわが悪弊で、これもよくあることだが後悔しているうちにまたヘボ手を打ち、死んだはずの黒石と薄い白石の攻め合いに持ちこまれてしまう。結局、白の一手寄せコウだが適当なコウ材がないので投了。あっさり投げたから相手が驚いてました。二局目(これも二子)はとにかく作り碁にしようと思い、無理めの手を打ちたがる頭を必死になだめて穏健に頑張って打ったのだが、厚みのヨリツキの差で6目負け。というわけで、碁会所初体験は連敗でした。あの「おやじの海」は一度経験すればいいような気も。次の目標は何かの大会なのですが、たいてい40分切れ負けのルールだから長考派には苦しいか。なんとなくすっきりしないので、深夜は慣れないネット将棋でリベンジを試みる。それにしても、どうして相手は私の最も苦手とする三間飛車党ばかりなのだろう(これだと風車にも正調高田流にも組めないのだ)。まあそれでも相穴熊の130手を超える将棋らしい将棋を指せたので満足です。せっかく作った馬をうっかり桂馬で取られていては勝てませんけど(あれは魔が差したなあ)。なんだか負けっぱなしだな。あーあ。
 

6.12
 中篇・短篇Aを進め、夜は連載のゲラと短篇Bの推敲。あまりにも作風が違うので頭がクラクラする。その後は深夜まで読書。
 

6.13
 ゲラを返送し、短篇Bをメール。好評だったのでほっとする。夜は久しぶりにドローイング。
 

6.14
 四時より神保町で東京創元社のK島さんと打ち合わせ。このところなにかと慎重になっているため、内容は秘密ということで。その後、神田まつやを経て秋葉原に回り、デジカメケースと性懲りもなく「最強 東大将棋4 付・矢倉道場」(PS2)を購入。上野まで歩き、久々に鈴本演芸場へ(推定観客数30人)。出てくる芸人がマクラでことごとくワールドカップの話題を振るのにはうんざり。その点、何事もなかったかのように吉原の話を軽く振ってから古典落語を演じた五街道雲助は偉い。三遊亭小金馬も味があってよかった。終了後はヨドバシカメラでスマートメディアなどを調達。帰宅後はさっそく「東大将棋4」を試してみる。おまかせモードなのにいきなり鬼門の三間飛車で来たのにはびっくり。なぜ私の弱点を知ってるのだ。強さは3とあまり変わらないような気もしますが、従来のやや不可解な感想に加え、局面による形勢のグラフ表示と相手の読みが追加されています。何より安食総子女流1級(実はファンだったりする)との模擬対局のポイントが高い。四間飛車党の受け将棋のようなので、高田流左玉で攻めて中盤で逆転したんだけど、相変わらず終盤がヘボでした。矢倉の定跡がふんだんに入ってるし、使用ソフトが限られているMacの将棋ファンにはありがたいですね。
 さて、「ジャーロ」8号が届きました。本格ミステリ大賞の小説部門のみ、選評なるものを寄せています。
 

6.15
 東大将棋4で徹夜してしまい調子悪し。連載の構想を練り直し、中篇と短篇Aを進める。夜はネットで採集した長篇Dの資料をファイルに分類する。とりあえず陰陽道・呪術・亀伝説・奈良時代・外国の亀・ニュートリノ・SM・曲芸飛行・陶器・亀戸に分けてみたのだが、どうつながるのか作者にも謎。深夜は東大将棋の模擬対局で初勝利(もちろん高田流左玉)。ただ、継続対局はマスターじゃなくて上級だから、弱めに設定してあるような気も。
 

[読書メモ]
(小説)持病の「人の小説が読めない病」につき今週はお休みです。著者や出版社からたくさんご本を謹呈していただいているのに、なかなか消化できなくて申し訳ありません。来週は復活の予定。
(小説以外)藤井誠二「殺人を予告した少年の日記」(ワニブックス)、速水由紀子「あなたはもう幻想の女しか抱けない」(筑摩書房)、宮田登「妖怪の民俗学」(ちくま学芸文庫)、倉阪秀史「環境を守るほど経済は発展する」(朝日選書)、河口俊彦「新対局日誌 第五集升田と革命児たち」(河出書房新社)、知切光歳「天狗の研究」(大陸書房)、小林伸一郎写真集「人形 HITOGATA」(DANぼ)、山本慶一「江戸の影絵遊び」(草思社)。
 身内の宣伝で恐縮ですが、ブラニーこと実弟の倉阪秀史千葉大助教授がやっと初の著書を出しましたので、ご興味のある方はどうぞ。兄の書くものとまったく接点はないんですけど、なぜか黒猫のミーコがちらっと出てきます。


6.16
 例によって隠居の日曜日。ドローイングが50枚に達したので少しプリントアウト。中篇と短篇Aを進める。夕方、ついに文庫化される『活字狂想曲』(幻冬舎文庫8月刊)のゲラが届く。これは明日からにしよう。
 

6.17
 中篇と短篇Aを進める。どちらも追いこみモードなるも、鞭を入れども馬はさほど走らず。夜はゲラに着手。毎月中旬は比較的黄金期間なのですが、今月は碁会所と寄席へ行っただけで終わりそうです。
 

6.18
 次に来るのが終電だとわかっているのに、ベンチで抗しがたい睡魔に襲われ、まったく身動きがとれない。こんな状況になったらどうします? 私は頭を振ってのたうち回り、首尾よく睡魔を追い払いました。ただ惜しむらくは夢の中の話で、ふと周りを見るとまだ真夜中。ゆうべは中途半端な仮眠をやめて早めに床に就いたのに、これでは意味がない。やむなく早朝から仕事、中篇と短篇Aの追いこみ。さすがにガス欠を起こし、仮眠後に眠気覚ましにテレビをつけたら日本戦をやっていたので初めてワールドカップを見てしまう。ただ、あまりにも退屈でなおかつ応援とアナウンサーの声がうるさく、15分が限界。録画したNHK将棋トーナメントにあっさり切り替える。同じ駒と駒のぶつかり合いなら将棋のほうがずっとエレガントで面白いと思うけど。耳障りな応援と実況は入らないし。夜は「活字狂想曲」のゲラ。読むのは久しぶりなので、書いた本人なのに随所で笑ってました。
 

6.19
 引き続き中篇と短篇Aの追いこみ。とにかく最後まで書いておかないと連載モードに移行できないのだが、どうしてこんなに時間がかかってるんだろう。夜はゲラ。
 

6.20
 午後一時に虎ノ門の神経科、いつもどおり二十日分の薬をいただく。その後、博品館でぬいぐるみを買い、高田馬場でスラックスを引き取ってから帰宅。夜はゲラを最後まで読む。では、秘書猫です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんにちは。クラニーせんせいがまたおともだちをかってくれました。めずらしい緑色の猫のグルーちゃんです。ワインレッドの猫のレディちゃんとならぶといい感じです。クラニーはクリプキというてつがく者の用語からとったとせつめいしてくれましたが、ミーコにはよくわかりませんでした。おわり。
 

6.21
 中篇と短篇Aをとりあえず最後まで書く。疲れた。
 

6.22
 五時より神楽坂、第二回本格ミステリ大賞のパーティに出席する。パーティは推協の新年会以来、あのときは元気だったのだが、やっと出られるようになったという感じ。とりあえず打ち合わせすべきことはできたからOKかな。ただ、久々に人の多いところに出て耳鳴りがしてきたので、一次会のみであっさり帰宅。まだ本調子には程遠いようだ。では、再び秘書猫です。
 ミーコ姫です。こんばんは。ミーコはミーニャちゃんといっしょにでました。ミーニャちゃんは芸ができるのでほうぼうでウケてました。ミーコはせっかくおめかししていったのに、ちょっと影がうすかったです。くすん。
 

[読書メモ]
(小説)鯨統一郎「文章魔界道」(祥伝社文庫)、殊能将之「樒/榁」(講談社ノベルス)、櫻沢順「ブルキナ・ファソの夜」(角川ホラー文庫)、石崎幸二「袋綴じ事件」(講談社ノベルス)。
 小説読みを再開したものの、相変わらず読むは薄い本ばかりなり。さすがはマルケスの「百年の孤独」を二十年間積ん読にしておいた人である。とりあえず気になっている長篇を並べ、来月から少しずつ消化していく予定なのですが、アラビアはあまりに厚し。思わず頭韻を踏んでしまった。
(小説以外)工藤紀夫「囲碁鉄人指南 中盤戦の定石」(日本棋院)、千街晶之「怪奇幻想ミステリ150選 ロジカル・ナイトメア」(原書房)、森下一仁「魔術師大全」(双葉社)、清成哲也「清成哲也の実戦に役立つ格言上達法」(NHK出版)、貝谷久宣「脳内不安物質」(講談社ブルーバックス)、笙野頼子「言葉の冒険、脳内の戦い」(日本文芸社)。
「怪奇幻想ミステリ150選」は90作弱しか読んでませんね。これを機に読みたくても読めない海外物が復活してくれるといいのですが(デ・フェリータとかほんとに面白いのに)。P265の「幻想文学」9号に関する修学旅行時のエピソードは個人的に感慨を催してました。当時の幻想文学会にはミステリー方面の人材が乏しく、同号のガイド「怪奇幻想ミステリー50選」は必死に減らそうとしたのに結局五分の一も書く羽目になってしまったのです。高校二年といえば、同書にもピックアップされている横溝正史の「三つ首塔」を読んでえらく興奮し、しきりにクラスメートに勧めていたような気がする(いい迷惑だ)。年寄りの昔話でした。


6.23
 「活字狂想曲」のゲラを返送したら「夢見の家」の再校ゲラと短篇Bのゲラが届く。短篇Aを画面上で推敲してプリントアウト、連載を再開。推敲待ちの中篇、リニューアルを検討しなければならない長篇C、枕元に自分の小説の原稿とゲラが山のように積まれている。とりあえず仮眠後、夜はできるところから手をつける。深夜はネット碁を観戦。
 

6.24
 現在AM6時過ぎなのだが、ちっとも眠れない。トレドミンとエスタロンモカ(併用はよくないんだけど)が切れた状態で風呂に入ってしばらくすると猛然と眠くなるため、仮眠をとらないとゲラチェックや推敲が不可能で本も読めないのですが、目覚ましをセットしてもまったく反応せず二時間くらい死んだように寝てしまったりする。睡眠薬も前ほど効かないし、以前と同じように寝酒を飲んでるんですけど(ちなみに煙草も減らず)、とにかく寝られないのは困ったものだ。この分じゃ寿命は長くないな。すっかりダウナー系の日記になってますが。そういえば、最初に鬱病の自覚症状を感じたのは冬季オリンピック中、いま巷ではワールドカップをやっている。これには何か相関関係があるのだろう。してみると、戦争でも起きたら完全引きこもりモードになるのかもしれない。
 というわけでPM2時半に起床。週末に午前中の予定が入っているので、都内に住んでるのにあわててホテルを予約する。よくこれで11年間も勤め人をやっていたものだ。仕事は短篇Bのゲラを戻し、連載を少しだけ進め、夜は仮眠なしで短篇Aなどの推敲。
 担当さんから「四重奏」の読者カードがまとめて届く。ありがとうございます。そのなかにこんな感想がありました。「プロローグが延々と続き、エピローグに至る不協和音。コンサート前のチューニングが延々と続いたあと『本日の演奏は終了しました』みたいな」。これはとても褒めているとは思えませんけど(笑)、むちゃくちゃカッコいい小説だなと思った。こういう感覚だから売れないんだよな。
 

6.25
 仮眠をとらないと「一度目の眠りは本番ではない」と頭が思うらしく、今日はAM6時に起きてしまう。やむなく仕事。短篇Aを送り、連載を2枚書いただけでガス欠。仮眠後は引きこもりモードでゲラなどを進める。読むは自分の小説ばかりなり。深夜はネット碁の観戦。AI囲碁は入り組んでくると目あり目なしの死活すらわからず、不当に負けにされてしまったのでカッとしてまた明け方まで打ってしまう。6子に置き石を減らして投了させる練習をしてるんですけど、どんどん筋が悪くなっているような気も。将棋も完全にスランプ状態。東大将棋4の定跡対局は戦型別にかなり細分化されているのですが、風車と高田流はともかくツノ銀中飛車が入っていない。木村名人必勝の構えと言われ(いつの時代の話だ)、3八飛と回る大山流もあるのに、もはや廃れてしまったのだろうか。薄いけど美しい陣形だと思うのですが。
 

6.26
 今日は雑誌が二冊届きました。まず「SFマガジン」8月号(R・A・ラファティ追悼特集)では、「マイ・フェイバリット・ラファティ」(追悼文/短篇ベスト3)に参加しています。「意志と壁紙としての世界」をほかに挙げた人がいなかったから、よしよしといったところ。誰も入れないのなら「町かどの穴」をあえて外して「時の六本指」だったかな。深堀骨さんだけが挙げている「秘密の鰐について」「世界の蝶番はうめく」も候補作だったんだけど。ちなみに、ホラーファンにもラファティは合うんじゃないかと思います。わけがわからない話は気にしなければいいだけなので。続いて、「小説推理」8月号には「The End」連載第10回が掲載されています。ついに連載回数が二桁に到達しましたが、累計はまだ350枚、おまけに第六章が終わりそうにない。うーん、いつ完結するのかしら。
 

6.27
 連載を進め、夜はゲラを最後まで読む。そのあと中篇の推敲に移ったところでダウン。深夜は東大将棋4のマスターを相手に風車戦法のヴァリエーションをいろいろ試してるんですけど、昨日は195手、今日は140手で敗戦(悔しいからツノ銀中飛車でリベンジを試みたら同じ140手で負けてしまった)。ただでさえ終盤がヘボなのに、だんだん頭が朦朧としてくるような長手数の将棋が好きだからなあ。データによると70から80手目くらいで最初の致命的なヘボ手が出て形勢を損じ、あとは粘ってトン死狙いしかないという展開になることが多いです(コンピュータは間違えてくれませんけど)。碁なら転戦して勝負手の連発で逆転することも可能なのですが、将棋は駒損すると難しいですね。
 

6.28
 中篇の第一次推敲を終えてから、秘書猫をつれて恵比寿のホテルへ。ほとんど来たことがない街なので、ホテルを見失わない範囲で散歩しながら蕎麦屋をハシゴする。いかにも良さげな店を見つけたのだが、うどんみたいな太い蕎麦でがっかり。私は江戸っ子だから(どこがやねん)蕎麦は細くないと駄目なのだ。その後はホテルに戻って静養。ただ、中途半端な時間に目が覚めてあまり眠れず。
 

6.29
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。きょうはミーコが日記をかきます。寝不足のクラニーせんせいをたたき起こし、自由が丘の紅茶のお店へいきました。AM11時から、優さんとねこっちゃさんの結婚ひろうパーティ兼お茶会があるので、さいきん午前中からうごけないクラニーがちこくしないように前の晩からおとまりしたのです。ミーコはメイドさんのコスプレ(大きいメイドさんといっしょにお出むかえをしました)、クラニーは胸にきらきら光る猫のついた女物のお洋服を着てしゅっせきしました。おふたりは高瀬美恵さんのWater Garden系のネット婚なので(せつめいするとながいの)、ブラニーさんとかけーむらさんとか、その関係者が25人もでました。とってもいい感じでした。優さんは「ぬいぐるみ掲示板」をつくってくれて、ミーコはそこで部長さんをしています。そんなわけで、クラニーにかわいいぬいさんをさがしてもらってプレゼントしました。うちでは「おすわりミーコ」とよんでました。M38星雲クラリスようちえんの黒猫ぐみの後はいみたいです。ほかのぬいさんとなかよくしてくれるといいにゃとおもいます。二次会は渋谷のパセラでした。クラニーは坂本冬美「祝い酒」と村田英雄「夫婦春秋」をうたってました。おうたがうたえるようになってミーコはほっとしました。というわけで、おつかれさまでした。おしあわせに。おしまい。
 

6.30
 隠居の日曜日。「夢見の家」の再校ゲラを返送し、ひと息つく。
 

[読書メモ]
(小説)牧野修「傀儡后」(早川書房)。
 スキン、と書くと何か誤解されそうなので皮膚もしくは人工皮膚および触覚とあわてて言い換えておきますが、そういうものに関するオブセッションが折にふれて変奏される牧野節のSF。個人的には〈街読み〉が最もツボでした。ただ、やりたい放題とはいえ話は充分派手で意外に読みやすいし、これなら私の連載のほうが読者のリストラ率は高いかもしれない。そんなことで張り合ってどうする。
(小説以外)中島義道「時間論」(ちくま学芸文庫)、大森荘蔵「時間と存在」(青土社)。
「時間と存在」では相変わらず随所で大森節が炸裂しています。例えば次のようなくだりでしょうか。
「(前略)机がそこに持続的に実在している物体として見えることは、知覚の確たる事実である。その机はそこに降ってわいたようにあるのではなく、しばらく前からそこに存在し続けており、今しばらくはこれからも存在し続けるだろう、そういう物体として見えている。つまり、机の持続的存在はその意味からして過去存在と未来存在を含んでいる。存在が過現未の時間を既に含んでいることを指して道元はそれを「有時」と呼んだのではあるまいか。もしそうであれば机の実在性には過去根とも言うべき過去が接続している」(「色即是空の実在論」)。
 ほら、哲学ってシュールなホラーでしょ? ただ、同書はちととっつきにくいので、大森荘蔵入門にはエッセイ集「流れとよどみ」をお勧めします。