7.1
 連載を少し書き、中篇の第一次推敲分を訂正してプリントアウト。夜は長篇Cの部分的リニューアルに着手。
 先月の執筆枚数は166枚でした。今月はサイクルの代わり目なので激減するかも。ふと気づくともう下半期ですね。仕事のアウトラインは、連載と短篇と単発の仕事に加え、書き下ろしは長篇D・Eとすっかり忘れていた連作短篇集、合間に長篇F・G以降のプロットを作り、できれば第三句集の句稿をまとめ・・・・まあ軽く考えることにしよう。
 

7.2
 連載を進め、長篇Cのリニューアルの下書きを終え、夜は中篇の原稿の最終チェックに着手。深夜はネット碁を少し観戦。たまには実戦もと思うのだが、盤面に集中する脳細胞が残っていない。昼間から打ってるわけにもいかないし。
 

7.3
 連載を書き、長篇Cのリニューアルを完成させたあと、四時半に日暮里ルノアールで講談社のA元さんと打ち合わせ、『青い館の崩壊 ブルー・ローズ殺人事件』(講談社ノベルス・800円)の見本を受け取る。やっと今年初めての本が出ました。ちょうど30冊目の著訳書だし(巻末に著訳書リストつき)、感慨もひとしおです。今回のカバーデザインは岩郷重力さん、夏向きの涼しげな感じに仕上げていただきました。この日記が更新されるころには都内のおもだった書店に並んでおりますので、よろしくお願いいたします。では、秘書猫からもひと言。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。『青い館の崩壊』ではミーコもかつやくしています。西澤のおじちゃんの「両性具有迷宮」でもかつやくしましたけど、それとはまたちょっとおもむきがちがいます。なお、ミーコは著者きんえいにもうつってますが、ほんものはもっとかわいいんだよ。おしまい。
 

7.4
 近くで非常識な時間からマンションの工事が始まり(いや、私が非常識な時間まで寝てるんだけど)、睡眠不足で小説脳がまるで動かず。中篇の最終チェックに専念、仕上げてFDまで作成。今日は連作短篇集「夢見の家」(集英社8月刊)のカバーラフが担当さんから届きました。これも夏向きの涼しげな雰囲気になりそうです。してみると、私は小説界のTUBEだろうか。たぶん違うな、いろんな意味で。
 

7.5
 四時に日暮里ルノアールで徳間書店のK地さんと打ち合わせ。例によって内容は秘密。また一つ肩の荷が降りてほっとしました。帰宅後は連載の追いこみモード。架空の書名を考えているだけで時間がむやみに過ぎていくのだが。
 

7.6
 連載をとにかく最後まで書く。33枚。ひと区切りついたので、夕方は久々に浅草蕎麦ツアーに出かける。ただ、並木の薮のもり二枚は蕎麦湯で意外に腹がふくれるため、二軒にとどまる。
 

7.7
 たびたびしつれいします。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。きょうはミーコのおたんじょうびです。ミーコは四つになりました。んーと、四つにぶんれつしたわけではありませぬ。四さいになったといういみです。わーい。クラニーせんせいはカメのぬいさんをプレゼントしてくれました。緑とピンクのとってもはでなカメさんです。うれしいにゃ。
 

[読書メモ]
(小説)津原泰水「少年トレチア」(講談社)。
 邪悪な少年の帽子からは、きっと水が滴っている。その水が溜まって池と化し、妖しの魚が突出して崩壊に至る。そんなイメージの交響詩を活字で読まされたような作品。「キジツダ」などのリフレインも音楽的で秀逸。
(小説以外)木原浩勝・中山市朗「新耳袋 第七夜」(メディアファクトリー)、笠井俊弥「蕎麦 江戸の食文化」(岩波書店)、新潮社編「江戸東京物語 下町篇」(新潮文庫)、小林覚「五段の壁を破る三つの常識」(棋苑図書)、「森内俊之名人獲得までの戦いの軌跡 実戦次の一手47題」(将棋世界8月号付録)。
 去年はトークライブにほとんど行けなかったので、「新耳袋 第七夜」は初めて接する話が多かったですね。続き物の十章を除いて十話選んでみました。掲載順に「滑女」「黒綿」「しずく」「首玉」「倒竹」「寿司提灯」「屋根渡り」「黒百足」「持ち針」「柿軸」。例外もありますが、さりげなくてヴィジュアル的に鮮烈な話がツボかな。「寿司提灯」はまるで私が書きそうな話ですけど。


7.8
 連載をメールしたあと、四時より神保町で東京創元社のK島さんと打ち合わせ。暑いのでどこにも寄らずに帰宅。夜は連作短篇Aを推敲しながら読み返す。
 

7.9
 一時半に虎ノ門の神経科へ。二十日分の薬をいただく。今日も暑かったため、蕎麦も食べずぬいぐるみも買わず帰宅。雑務をこなし、とりあえず長篇D・Eを一行ずつ進める。またこれから長い道のりが始まるわけだ、うーん。
 日記に書き忘れたので、いささか唐突ですが牧野修「傀儡后」のあとがき「物語から遠く離れて」を読んで思わず強くうなずいてしまった箇所を引用してみましょう。
「いったい誰が私の小説を読んでいるのだろう」
 あ、違う、ここじゃなかった。
「とにかく私は一つのことしか書けない。それにしか興味がもてない。にもかかわらず『それ』が何なのかわからない」
 そうなんですよね。「それ」っていったい何でしょう? と訊かれても困りますかそうですか。
 

7.10
 今週は連日のお出かけ、今日は三時ごろ竹本健治さんの事務所へお邪魔する。なんとなく不定期で催されている蕎麦とゲームの集まりで、他のメンバーは、浅暮三文、福井健太、遅れてその後輩二名。まずは竹本五段と碁を一局。いつもの超宇宙流ではなく普通の碁だったのでびっくり(せっかく対策を考えていったのに)。序盤に疑問手を二手打って損をしてしまい、形勢容易ならずと見て目一杯頑張って打っているうちに致命的な見損じが出、あとは投げ場を求めるだけという負けパターンで敗北。自分の碁の弱点はわかってるつもりなんですが、なかなか矯正できませんね。二間ビラキの下のオキはネット碁や碁会所でも仕掛けて墓穴を掘ったのに、どうしてまた打ってしまうのだろう。近場の蕎麦屋で夕食を済ませたあとはポーカー。気弱でオリが早い私の性格はこのゲームに向いていないような気も。オリて観戦してるほうが面白いな。終電で帰ろうと思ったのだが、山手線の池袋から先がすでになく、構内をうろうろしたあげくタクシーで一時半ごろ帰宅。というわけで、お疲れさまでした。その後、AI囲碁をいじめて憂さばらしをしようと思ったら、なぜかMacがうまく起動せず修復にずいぶん手間取る。現在AM5時、6子局で78目勝ったしMacも正常に戻ったから、これでやっと寝られます。
 

7.11
 長篇D・Eを進める。もっとも、一行が数行に増えただけ。連作短篇Bも読み返して再開。今週は肩を酷使した投手が軽いリハビリ中という雰囲気で、本格的な再始動は来週からでしょう。いや、急ぎの仕事はあるんだけど。あまりにも暑くて本屋へ行けないため、紀伊国屋Webでまた2万円以上も本を買ってしまう。中年になってから将棋を勉強してもたいして伸びないのはわかってるのに(おまけに時代遅れのマイナー戦法しか指さないのに)、どうして性懲りもなく「羽生の頭脳」シリーズとか発注してしまうのだろう。
 

7.12
 中篇の加筆部分を検討し、連載のゲラを返送する。執筆は長篇D・E、数行が一枚に増える。いつものことながら、いずれ歪んでしまうプロットはあるものの、長篇の前半の百枚は手探りでトンネルを掘っているみたいな感じですね。
 

7.13
 中篇の加筆・長篇D・連作短篇Bを進める。今日はすべてアッパー系だったので久々に十枚書けた。ダウナー系ばかりだとこんなに進まないだろうから、並行作業の組み合わせを考えながら仕事をしなければ。ダウナー系の作品が続くと作者の鬱が募ってぬいぐるみと化してしまうのです。寝室では常に秘書猫が隣にいるんですけど、片方の大きなぬいぐるみがぼうっと本を読んでいるような光景でしょうか。


[読書メモ]
(小説)倉知淳「まほろ市の殺人 春 無節操な死人」、我孫子武丸「まほろ市の殺人 夏 夏に散る花」、摩耶雄嵩「まほろ市の殺人 秋 闇雲A子と憂鬱刑事」、有栖川有栖「まほろ市の殺人 冬 蜃気楼に手を振る」(以上、祥伝社文庫)、浅暮三文「石の中の蜘蛛」(集英社)。
 競作を読むと「自分が参加していたらどういうものを書いただろうか」と考えてみたりするのですが、「幻想都市の四季」に私が加わっていたら・・・きっと真幌市は無残に崩壊したことでしょう。それにしても、「闇雲A子と憂鬱刑事」の見立ては私の狭いツボを直撃でした。先に書かれてちょっと悔しかったりする。
 この日記で何度も強調してますけど、私のツボは異様に狭くて偏っています。小説読みのなかでは圧倒的に比率が高い筋読み・物語読み・ジャンルコード読み・キャラ読みその他ではなく、極端な話、ある種の俳句のように忘れ難い文章が一行でもあれば物語はめちゃくちゃでもOKだったりします(そういう意味では広いとも言えるんだけど)。本来ならハードボイルドもファンタジーも苦手なのですが、浅暮さんの小説は文章に音楽性が備わっているから心地よく読めますね(作者の有する共通低音としての中年感覚もその音楽性に含まれている)。試みの可否(物語の部分)については当方に語る資格なしということで。来週からは海外ホラーの消化に移る予定です。
(小説以外)「対談 杉浦日向子の江戸塾」(PHP研究所)、栗原亨監修「廃墟の歩き方探索篇」(イースト・プレス)、稲垣史生「江戸の大変 地の巻」、「同 天の巻」(以上、平凡社)、「囲碁鉄人指南 筋と形の美学」(日本棋院)。


7.14
 引き続き中篇の加筆、エッセイの下書き、連載の構想を練ってとりあえず再開、長篇D・Eを一枚ずつ書く。無理をすると反動が出そうなので夜は静養。深夜は相も変わらぬ東大将棋4、グラフによると完全な勝勢から二度も逆転負け。そうか、17手詰があったのか。7手詰でも苦しいからなあ。悔しいからAI囲碁をいじめて徹夜という愚行を繰り返す。それにしても、実力初段クラスの囲碁ソフトはいつできるのだろうか。
 

7.15
 中篇の加筆作業が一応完了。10ページ増やすのにこんなに苦労するとは(短い中篇なのにページ数が足りなかったのです)。その後は連作短篇B、あまりにも蒸し暑くてむしゃくしゃするから作中で人をガンガン殺してしまう。明日は早い時間に打ち合わせがあるため、仮眠をやめて早めに就寝。
 誰もこんな酔狂な統計はとらないでしょうけど、本格ミステリー=本格推理と考えている読者の比率はどれくらいなのだろう(かなり高そう)。私はタコのような軸足が変なところにあるし、推理小説が誕生する前のゴシックロマンスから一応読んでるし、さらにそれ以前のマニエリスム(やや飛躍あり)と通底している本格ミステリーがツボなのですが、これは圧倒的に少数派かもしれない。基本的にはポストモダン世代の保守系アナキストであるせいか、近代(というタームは不用意に使うべきじゃないかもしれませんけど)に生まれたジャンルに何か一矢報いようとしている部分があるような気も。ほかにもいろいろ考えてみたのですが、売れなくて当たり前というダウナー系の結論しか出ないのでこの辺で。
 

7.16
 遅刻しないように目覚ましを二つもセットしたのに、蒸し暑くてAM5時半に目が覚めてしまう。小説脳は動かないから中篇の加筆を完成させ、早めに神保町へ。PM1時半から編集プロダクションのSさん、某社の三名の編集者と五人で長篇Bのリニューアルについて打ち合わせ。睡眠不足だと気が短くなるもので危うく切れかける場面があったのですが(汗)、先方から提示された加筆案は私のホラーのイデアに抵触するものではなかったし(もしそうだったら蹴ろうと思っていたんですけど)、そうしたほうが骨格がしっかりしそうな納得できる内容だったから受諾する。その後は、「金羊毛」の出店を憶えているという先方の直接の担当さんが温厚な方だったこともあり、穏やかなよもやま話に終始。短気を起こさなくてよかった。というわけで、一つ加筆が終わったと思ったらまた加筆です。この長篇Bを予定どおり刊行できれば気分良く厄年を越せるんですけど。それにしても、私のリニューアルは加筆ばかりで削った記憶はほとんどないですね。根が短篇作家や俳人だから、省略癖が身についているのかも。夜の仮眠後はさっそく長篇Bを頭から読み返し、付箋を貼りながら加筆部分の細かい構想を練りはじめる。今週中にこの作業を終え、来週から集中してやれば大丈夫だろう。
 

7.17
 中篇の加筆分と俳句の原稿を速達で送り、連載・長篇D・E・連作短篇Bを進める。もっとも比較的捗ったのは後半に入った連作短篇Bのみ。仮眠後の夜は長篇Bの加筆準備、短篇のゲラにも着手。
 さて、「小説すばる」8月号が届きました。連作「十人の戒められた奇妙な人々」第三話「ユリアは笑う」が掲載されています。今回は「灼熱の恋愛小説特集」、作者としてはそれに合わせようと努力してみたんですけど、半ば予想どおりそういう作品にはならず(ただの特殊小説になってしまい)、結局、読切短篇枠に収まったという次第です。やはり恋愛小説は無理だったか。ちなみに、ヒロインは落ち目のボーイズラブ作家です。
 

7.18
 仕事は昨日とほぼ同じ。暑いから日の暮れるまで外へ出る気がしませんね。黒い服しか持ってないし、体重は50kg台に戻らないし。深夜は東大将棋4のマスターに風車で快勝。久々の会心譜でした。勝率は5%くらいだけど(安食女流1級との模擬対局では15%くらい)。右玉風車か高田流左玉の理想型に組めれば(相撲に譬えれば得意の四つに組んで上手さえ引ければ)一応勝負になるんですが、最近の将棋は横歩取りや升田幸三賞を受賞した近藤五段のゴキゲン中飛車(私はひたすら角道を止めるフキゲン中飛車が好き)などの張り手の応酬みたいな急戦調の突き押し相撲が主流のようです。久しくやってませんけど、ネット将棋で急戦に来られたらにわかに指す気が萎えたり切れたりしてしまいますね(おかげで電車道で突き出されたりします)。いずれ急戦の受け方の勉強でもするかな。
 

7.19
 短篇のゲラを返送し、連載を少し進めてから連作短篇Bの追いこみ。夜は長篇Bの加筆部分の検討。それにしても、戸川京子の自殺にはびっくりしました。姉ならちっとも驚かないんだけど。まるでクラニーではなくブラニーが自殺するようなものではないか(やや不穏当な譬えか)。いや、薬はちゃんと呑んでるから大丈夫なんですけどね。
 

7.20
 相変わらず引きこもって仕事。書くことがないので秘書猫に代わります。
 みなさん、ごぶさたしてます。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコは夏はあつくてきらいです。クラニーせんせいがおへやにいないとクーラーがとまるので、あまりおでかけさせないようにしています。おしまい。
 

[読書メモ]
(小説)ラムゼイ・キャンベル「無名恐怖」(アーティストハウス)、ジョン・ソール「妖香」(ヴィレッジブックス)、ジェシー・ダグラス・ケルーシュ「不死の怪物」(文春文庫)。
 今年は復活組が多いですね。キャンベルは「母親を喰った人形」(ハヤカワ・モダンホラーセレクション)以来、実に15年ぶりの長篇紹介。うーん、しかし、やはりキャンベルの持ち味が十全に発揮されるのは中篇までのような気がする。死者からの電話がある静かなホラーといえば、すぐ想起するのはこれまた忘れられているS・ラスニック・テム「深き霧の底より」ですが、個人的にはそちらのほうが上の評価。英国の作家らしい丹念な情景描写などの美点はあるんですけど。
 本邦では紹介に恵まれているソールですが、これは久々の刊行。派手なアメリカン・モダンホラーに色目を使いだしてからはあまり読まなくなったんですけど、本書は陰気なソール節復活、すっかり見直しました。チラー・ポイントを抑制し、徐々に雰囲気を盛り上げていく筆致は貫録すら感じさせます。今年の収穫の一つでしょう。
 名のみ高かった「不死の怪物」がいきなり文庫化されたのも今年の事件の一つ。第一部はゴシックロマンスの亡霊のような陰鬱でブリティッシュな雰囲気で始まるのですが、伏線めいて「五次元」というタームがすでに現れています。モダンホラー(中黒なしのほう)はゴシックロマンスへの先祖返りであるとつとに指摘されていますけど、確かにホラーのみならずSF・ミステリー・ファンタジー、すべての要素が入ってますね。遅れてきたゴシックロマンスでも早すぎたモダンホラーでもある、妙な位置に存在する作品。なお、荒俣氏の解説「『不死の傑作』が陽の目を見るまで」は、つい力が入りすぎて思いきりクライマックスのネタを割ってますので、先に読まないようにご注意を。このタイトルだと最初に読むよなあ、ふつう。
 というわけで、あとはカーシュとストラウブを読めば一段落かな。
(小説以外)米長邦雄「泥沼流振り飛車破り」(日本将棋連盟)、平谷美樹「百物語 実録怪談集」(ハルキ・ホラー文庫)、謀(誤字)図かずお「恐怖への招待」(河出書房新社、たぶん再読)。


7.21
 連作短篇Bを最後まで書いてプリントアウト。むやみに時間がかかってしまった。夜は長篇Bの加筆構想をまとめる。その後は学生時代からほぼ欠かさず見ているゴルフの全英オープンを最後まで観戦。ブリティッシュ・オープンの最終日は陰鬱な風雨のなかでやってもらいたかったけれど、なかなかの好勝負でした。しかし、フランス人は肝心なところで勝負弱いな。三年前に優勝目前の最終ホールで錯乱して大魚を逸したバンデベルデはたぶん一生忘れないでしょう。
 大相撲名古屋場所回顧。史上二番目の高齢再十両・琴冠佑の勝ち越しには惜しみない拍手を。今場所のこの一番は湊富士vs浜ノ嶋、十両で大負けした湊富士と幕下に落ちて負け越した浜ノ嶋、かつて幕内で活躍した古豪同士の哀しい消耗戦でした。
 

7.22
 連載・長篇D・Eを少しずつ進めたあと、銀行まで家賃の振り込みに行ったら暑くてめまいがしました。盆地育ちなのに暑さには人一倍弱いのです。その後は長篇Bの加筆に着手。
 

7.23
 エッセイをメールし、連載を少し書いたあと、長篇Bのリニューアル。夜になって薬が切れるとだんだん鬱々としてくるのでネット将棋も碁もできず(電話をかけられないのと同じですね)。軽い酒を飲むと回復するから、深夜はシラフでは見損じて負けてしまった(手も読めなくなってしまう)AI囲碁の6子局で久々に投了に追いこむ。同じ愚行の繰り返しである。
 さて、集英社より8月下旬刊行予定の幻想ホラー連作短篇集「夢見の家」の初校カバーが届きました。妹尾浩也さんにとても美しく仕上げていただきました。やはりハードカバーはいいな。なお、短篇集ときびすを接するように「紅と蒼の恐怖」(祥伝社ノン・ノベル、9月上旬)、「秘神界」(創元推理文庫二分冊、9月)とホラー・アンソロジーが続々と刊行、傾向の違うホラー短篇で参加させていただきます。なんだか季節労働者みたいですが、とりあえず予告できるのはそこまでということで。
 

7.24
 六時に南千住の改札に集合、今日は実に久しぶりに催される幻想文学会OB(残党)の飲み会である。集まったのは、南條竹則、その作品にしばしば登場する「のたい」君(得がたいキャラなので私もときどき使ってますけど)、古株のOさんの四名だけというやや寂しいメンバー。南條さんとのたい君は南千住、私は隣駅の三河島だから、荒川区民が三人もいることになる。まずは名所旧跡を回りながら(刑場跡だの首切り地蔵だの陰気なものしかないんだけど)山谷方面に向かい、いまどき扇風機しかない小汚い店で軽く呑む。河岸を変え、眼目の中華カラオケ酒場へ。ここはボックスではなく、広めの座敷とカウンターに分かれており、毎日客の誰かが必ず「山谷ブルース」を歌うというロケーション。これなら何の気兼ねもなく思いきり歌える。加えて、大学で形式論理学を講じているのたい君も筋金入りの懐メロおたくだから、勢い懐メロ歌合戦の様相に。ここの機種はNEONというマイナーなもので、元昭和歌謡史研究家の私も初めて目にする面妖な歌がボコッと入っていたりする。神楽坂浮子「三味線フラ・フープ」ってどんな歌なんだろう? 曽根史郎「僕の東京地図」も気になる。結局、私が歌ったのは「ロンドンの街角で」「お俊恋唄」「背広姿の渡り鳥」「高原の駅よ、さようなら」「バタビヤの夜は更けて」「懐しのボレロ」「ニコライの鐘」「小島通いの郵便船」「ふるさとの灯(正字)台」「ふるさとのはなしをしよう」「涙の渡り鳥」「ソーラン渡り鳥」「流転」「裏町人生」(一部、のたい君とのデュエットを含む)。以上の楽曲の歌手名を全問正解した方には・・・べつに何も出ませんけど。とにかく、久々に懐メロ全開モードでいい気分転換になりました。またやりましょう。
 

7.25
 少し懸念していた昨日の反動もなく、量は少ないけどわりと順調に仕事を消化。連載・再開した連作短篇C・長篇E・長篇Bのリニューアルをちびちびと進める。夜はシベリウスの交響曲で最も好きな第四番(指揮ベルグルンド)を聴きつつ静かに読書。深夜は岡晴夫を聴きながらネット碁を観戦。やはり夏はシベリウスと岡晴夫ですね。
 

7.26
「夢見の家」の献本リスト(50名を上限にしているのでいつもかなり迷うんですけど)をメールしたあと、今日は連載と長篇Bのリニューアルに絞る。外へ出ただけで暑くて酸欠を起こしそうになるため引きこもりモード。
 さて、「小説推理」9月号が届きました。連載「The End」第11回が掲載されています。次で第六章が終わるはずなのですが、前へ進まないんだなあ、これが。同時に届いた「ポンツーン」「星星峡」によると、既報の「活字狂想曲」(幻冬舎文庫・533円)は最新刊になっていましたので、8月上旬には発売されると思います。同時刊行は「バトル・ロワイアル」などの強力メンバーです。なお、親本をお持ちの方もいらっしゃると思いますし、文庫本なので献本はしておりません。ご了承いただければ幸いです。


7.27
 昨日「活字狂想曲」の話題を振ったせいか、いまだに会社勤めをしていてチーフに昇進して切れかけているという悪夢を見て目が覚める。やむなく午前中から仕事、とりあえず連載と長篇Bのリニューアルを進め、仮眠後は長篇D・E・連作短篇Cを少しずつ書く。夜は外出する余力なく、引きこもって静養。では、秘書猫の日記です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。きょうはひさびさにぬいさん用のスプレーをかけてもらいました。クラニーせんせいがいちばんお手入れしているのは、大きなペルシャ猫のみゆきさん(2さい)です。毛がながくて真っ白だからたいへんそうです。ミーコはよごれがめだたない黒猫でよかったにゃとおもいます。おしまい。
 

[読書メモ]
(小説)ジェラルド・カーシュ「壜の中の手記」(晶文社)、「幻想文学63号 特集M・R・ジェイムズと英国怪談の伝統」(アトリエOCTA)。
 カーシュの短篇集の邦訳は「冷凍の美少女」(ソノラマ文庫海外シリーズ)以来、実に17年ぶり。「洗練や繊細さの欠如をもってカーシュを難ずるのは見当違いというものであろう。カーシュはそのようなものが無意味になる地点から書きはじめているのである」という解説の評言を踏まえたうえで、「人格が半ば変わって陽性になった久生十蘭」・・・と前半を読んでいるときはまとめようと思っていたんだけど、カーシュはどんな縛り方をされても擦り抜けてしまう奇怪な大男めいている。とにかく一筋縄ではいかない作家なのだ。ちなみに、最も驚いたのは「ブライトンの怪物」。エインズワースとブライトンがはからずもミスディレクションとして機能したおかげで(面倒なので詳しい説明はしませんが)、その後の展開には唖然としました。
「幻想文学」はもう64号が出ているのに出し遅れの証文めきますけど、翻訳を含めてやっと全部読んだので本邦初訳の怪談に限ってコメントします。エイミアス・ノースコート「ブリケット窪地」(南條竹則訳)は紆余曲折を経て陽の目を見た作品。本当は「淑やかな悪夢 英米女流怪談集」(東京創元社)に収録される予定だったのですが、エイミアスっていかにも女っぽい名前だけど実は男だったことが判明、ようやくここで活字になったという長い物語があるのです。赤煉瓦の屋根が忘れ難い印象を遺す埋もれた名作怪談。W・F・ハーヴィー「真夜中の家」(西崎憲訳)は原文で読んでいるのですが、これは私も好きな作品ですね。ハーヴィーは作品数が少ないから、もうあまり残ってないかも。ブレイクストンは何か別の作品を読んだんですけど、まだ全貌がわかりません。特集以外にもヴァーノン・リー、A・E・コッパードの短篇が載っている豪華な布陣。ヴァーノン・リーなんて面倒なものをよく訳す気になるなあ。そういえば、ニール・ミラー・ガンの短篇の翻訳が途中で止まってるので、少なくとも年内には完成させたいところなのですが・・・。
(小説以外)モーリス・ブランショ「完本 焔の文学」(紀伊国屋書店)、「銀星倶楽部18 特集ぬいぐるみ」(ペヨトル工房)、中嶋昌彌編「ポピュラー文学の社会性」(世界思想社)、伊藤篤「日本の皿屋敷伝説」(海鳥社)。
 ブランショは親和するんだけどなにぶん難しいから、やっと読み終えました。本には色とりどりの付箋がついています。巻末の「文学と死ぬ権利」から箴言風に少し引用してみましょう。
「作家は、書くことによって、自分自身の可能性である純粋な夜を犠牲にしてはならぬ」
「沈黙と虚無、まさにそこにこそ文学の本質、つまり《物自体》がある」
「神を見る者は死ぬ。言葉に生命を与えるものは、言葉のなかで死ぬ。言葉とはこの死者の生命なのだ」
 こういうものを読んでいたら、ますます売れなくなってしまうような気も。でも、ブランショはいいなあ。


7.28
 連載を少し書いたあと、長篇Bのリニューアルに専念。いよいよ後半の正念場に入った感じ。見逃してしまった13歳の囲碁棋士の対局の再放送を録画予約したのに、番組が高校野球に変更されていてむっとする。ちなみに、私が碁を覚えたのは6つか7つのときだから、かなり早いです。親父が近所ではいちばんの打ち手で、ヘボなおじさんがよく実家に教わりに来ていました。それを見ているうちに自然に覚えたんですね。ここまでは林海峯と同じだから、しかるべき指導者に巡り合って囲碁一筋に打ちこんでいたら、いまごろは関西棋院のむちゃくちゃ弱いプロになり、負けが続いて鬱病になって首でもくくっていたかもしれない。なぜ文章の途中でマイナス思考に転換するのか謎ですが。
 

7.29
 今日は長篇Bのリニューアルのラストスパート。午後九時にFD作成まで完了。加筆分は22枚、むかし百枚加筆したことがあるから、あれに比べれば順調だったかな。おかげでどこのイベントにも行けなかったけど。
 

7.30
 また睡眠障害らしく、何か予定があって目覚ましをセットすると(念のために二つ枕元に置いたりする)、朝まで眠れないかとんでもない時間に起きるかどちらかである。今日は睡眠一時間でAM4時半に目が覚める(ちゃんと薬は呑んだのに)。とりあえず長篇Bのリニューアル版を送ったあと、パンチドランカー状態でPM1時半に虎ノ門の神経科へ。症状を説明したところ、どうも脳に睡眠の負担をかけすぎているらしい。「あまり物事にこだわらず楽な気持ちで」という先生のアドバイスだったけれど、そんな楽観的なプラス思考ができるのなら神経科になど通っていないような気も(どうでもいいけど、新庄と誕生日も血液型も同じなのに)。たまの休日だからいろいろ回りたかったのだが、あまりにも暑いので上野でPS2の「THE囲碁」と「超高速リバーシ」を買っただけで帰宅。
 今日はさらに苦難が続く。室温が上がりすぎていたせいかMacが起動してくれないのだ。久々に日付の設定からやり直しました。その後は購入したゲームを試してみる。「THE囲碁」は学習機能があって強くなるという話にうかうかと乗ってしまったのだが、早いだけが取り柄で、ヘボすぎて話にならない(べろべろに酔っぱらった状態で上級モードに9子置かせて113目勝ってしまった)。これならAI囲碁のほうがずっとましである。それにひきかえ「超高速リバーシ」の最強モードは強すぎ。超高速のわりに中盤でいやに長考するのですが、どうやら最後まで読みきっているらしい。これはレベルを下げないと勝負にならないな。ちなみに、リバーシの8路盤はオセロと同じで(リバーシは石の置き方もいろいろあります)、日本オセロ連盟と日本リバーシ協会に分裂しているようです。俳壇にも協会が三つあるし、いずこも同じ光景か。そういう政治にだけは巻きこまれたくないものですね。
 

7.31
 連載を再開。相変わらず一日2枚しか書けない。その後は同時進行している作品を読み返し、来月に備える。今月の執筆枚数は133枚でした。夏はこんなもんでしょう。
 深夜の東大将棋4は「女流棋士に挑戦」ばかりやっております。安食総子女流1級との模擬対局の7番勝負で勝ち越せば安食グッズをもらえるらしいので専念しているのですが、通算成績11勝74敗で勝ち越すのは無理そうだな。あたしって女流7級くらいかしら(ちなみに女流プロは2級から)。勝勢になってもしぶとく受けられているうちに切れて逆転負けしてしまう。どうも将棋は才能がないな。