9.1
 AM6時に起床、例によって細切れに仕事を進める・・・と言うより、それしか進まず。心身ともに低空飛行で安定しているような気もするけど、そのうち思いきり山にぶつかりそうで不安なり。日々薄氷を踏むといったところか。夜はテレビ東京の「昭和歌謡大全集」を鑑賞。これが私の懐メロである。
 

9.2
 AM8時に起床、連載はそろそろ追い込みモードなのだが、相変わらず一日2枚しか書けぬ。
 なお、今週の十句はしばらくお休みです。現代俳句協会が五年を費やして完成させた「現代俳句歳時記」を繙きながら作句しているのですが、現代人の生活感に合わせて太陽暦を採用し、九月から秋になっているとはいえ、さすがにこう暑いと秋の句を作る気はしませんね。
 

9.3
 連載は今日も2枚ペース。あとは短篇に加筆したくなったので修正など。鬱病は治ったことにしているのだが、相変わらず掲示板の書き込みはできないし(なぜか秘書猫モードなら可)、ネット碁や将棋は観戦する気にもならない。涼しくならないとダメだな。というわけで、気分を換えるべく、夕方は久々に日暮里の駅前まで歩き、喫茶店で「将棋世界」の最新号を読む。堀口一史座朝日オープン選手権者の自戦記がおかしい。サッカーの話題が唐突にサルトルへ飛んだり、脈絡なく仏教の話になったりしたあげく、いきなりブルトンの引用で終わってしまう。私の好きな風車戦法で有名な伊藤果七段の弟子なんですけど、なんか変人っぽくていいですね。この文章は天才しか書けないと思う。
 

9.4
 連載がようやく30枚に到達、画面上で推敲してプリントアウト。炎天下のマラソンのラビットがへろへろになって30キロ地点にたどりついたようなものですか。それにしても、抗議の焼身自殺でもしたくなるほど暑い。太陽に抗議してどうする。その後は山崎ハコを聴きながらネットで調べ物など。「飛びます」は何度聴いてもいいなあ。
 

9.5
 連載を推敲してメール、長篇Dの第一章を加筆修正しながらプリントアウト。やっと50枚をクリアしたけど、大きな亀のジグソーパズルは依然としてスカスカなり。
 

9.6
 ダウナー系の長篇Eを進める。ただし、これも2枚が限度で、累計はようやく30枚。どうあっても聖書を完読せねばならないのですが、文語訳旧約聖書はまだ三分の一弱。先が長そうだ。
 さて、朝松健編・書き下ろしクトゥルー神話アンソロジー『秘神界-現代編-』『同-歴史編-』(創元推理文庫・各1300円)が届きました。現代編に「イグザム・ロッジの夜」という短篇を寄稿しています。誰ともかぶらないように後ろ向きの作品を書いてみました。それにしても、聞きしに勝るボリュームですね。
 

9.7
 午後7時より赤坂ですぺら、西崎憲さんの日本ファンタジーノベル大賞受賞を祝う会に参加する。遠路はるばる組を含む25名が参加。なかなかいい感じでしたが、当方はまだ本調子に遠く、人の多いところに出ると頻繁に耳鳴りがするので11時ごろ早めに退散。それなりにしゃべれたから復調途上だと思うことにしよう。では、秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコはライオンのマルちゃんといっしょに出ました。ひさびさのお出かけだったから、ちょっときんちょうしましたが、クトゥルーちゃんやルリちゃんにあそんでもらってたのしかったです。おわり。
 

[読書メモ]
(小説)竹本健治「フォア・フォーズの素数」、綾辻行人「最後の記憶」(以上、角川書店)。
 9年ぶりの第二短篇集「フォア・フォーズの素数」のベスト3は「熱病のような消失」「ボクの死んだ宇宙」「震えて眠れ」。千街氏の解説に「全体的な構築性を必要とする作品を破綻なく組み立てるのは不得手な代わり、物語の断片が随所で妖美な煌きを放つような小説を書かせれば抜群の才筆を発揮する作家(中略)の最右翼」というくだりがありますが、その少数派の末席を汚しているという自覚症状は充分にあるので(ことに前半ね)、やはり散文詩として読めてヴィジュアルの喚起力が強く、結果として存在のよるべなさが伝わってくる作品に最もセンサーが反応します。なお、ホラー的には「震えて眠れ」がベストだと思うんですけど、なぜ作者は「反省」しているのだろう。いずれにせよ、読み手のセンサーによってベスト作品が変わってくるのは優れた短篇集の証左でしょう。
 「最後の記憶」は7年ぶりの長篇。「本格ホラー」「本格ホラーの恐怖と本格ミステリーの驚きの融合」という書きだしたら長くなるテーマはひとまず迂回します。本作は「殺人鬼」シリーズとはベクトルが違う後ろ向きのモダンホラー(「ホラーと怪奇小説の差異」「モダンホラーとモダン・ホラーの中黒の有無の違い」も迂回します)、囁きシリーズを筆頭に作者の共通低音として流れている「迷子感覚」にセンサーが働く読者なら何らかの反応ができるでしょう。ただし、それは恐怖とは限らず(私見によればホラーの第一義は「スーパーナチュラル」であって「恐怖」ではなく、スプラッターからジェントル・ゴーストストーリーまでとりあえず全部ホラーという立場なのですが、これも長くなるので迂回)、あるいはノスタルジアかもしれません。読み手がセンサーを持ち合わせていても、読むときの心的状態がうまく合致しないと恐怖は発動してくれないから針の穴に糸を通すような難しさがあるんですけど、個人的には「恐怖」ではなく「おそれ」と平仮名で表記したいような感覚が伝わってきました。モダン・ホラー(この場合は中黒入り)では恐怖を喚起する対象が「外」ではなく「内」であるという話をレ・ファニュから始めたりすると収拾がつかなくなるからまた迂回しますが、ちょうどうまく心的状態が合ったような感じです(最近、元気なころはどうだったか思い出せなかったりするもので)。「驚き」に関しては、ある巧妙なミスディレクションにすっかり騙されました。これはすれっからしのホラーファンほど引っかかりやすいかも。充分長くなってますけど、避けて通れないので最後に「本格ホラーの恐怖と本格ミステリーの驚きの融合」について。本格ホラー(アナログ)と本格ミステリー(デジタル)は本来ならベクトルが逆方向だから、走り高飛びに譬えればいちだんとバーが上がるわけですけど、ミステリーに軸足のある選手はさすがにスマートなフォームで飛ぶなあ、と軸足が逆で何本もバーをへし折っているような気がする選手は思ったりします。この高いバーを飛ぶためには、もう片方の脚をどう上げるかが鍵になってくるのですが、そのあたりのためらいも逆だなと感じました。恐怖に関しては「自分で書いていてぞくぞくしたり気色悪くなったりしたら伝わる読者には伝わるだろうし、伝わらない読者に伝わらないのは致し方ない」と腹をくくって書けるのですが(恐怖と笑いは紙一重だからセンサーの周波が変わって笑われたりもしますけど)、驚きはそうはいかない。いささか哀しいことに、作者は自分の原稿を読んで驚くことができないのです。「ああ、そういう仕掛けだったのか!」とか「おお、読み返してみたらこんなところに伏線が!」と驚愕する作者がもしいるとすれば、それはよほど幸福な天才でしょう。驚きを演出したいという稚気は持ちあわせているつもりなんですけど、どうもそのあたりの手ごたえと感触がアナログ的にわからないので悩ましいですね。全然まとまってませんが、この辺で。来週からは短いコメントにしよう。
(小説以外)森禮子「神父ド・ロの冒険」(教文館)、町沢静夫「絶望がやがて癒されるまで」(PHP)、蔵間龍也「まわしだけが知っている」(集英社)、平成すもう研究会「大相撲の秘密」(データハウス)、大和岩雄「鬼と天皇」(白水社)、有栖川有栖「迷宮逍遥」(角川書店)、石黒マリーローズ「『聖書』名表現の常識」(講談社現代新書)、山折哲雄「死を視ること帰するがごとし」(講談社)。
 「迷宮逍遥」のベストは再読の山口雅也論で動かないのですが、はからずもこの日記で伏線を張ってしまったためシンクロニシティーに驚いた一文がフェラーズの解説にありました。ただ、前後の文脈を抜きにしてそこだけ引用するわけにいかないので、どの箇所であるかは謎ということで。
9.8
 長篇Eの第一章をプリントアウト、仮題を「汝らその総ての悪を」に変更。これじゃ西村寿行みたいだからまた変えるかも。あとは連作短篇Eに専念。鬱状態でもユーモア物だけ順調に進むのは不思議なり。
 

9.9
 短篇をメールし、連作短篇Eを最後まで書く。相変わらず「まじめで勤勉な無頼派」(評・浅暮三文)らしい仕事ぶりである。そういえば、最近「人間失格」をむらむらと読み返したくなるときがあるのだが(今度読んだら八回目だ)、さすがにこの歳で太宰は恥ずかしいか。
 

9.10
 長篇D・Eの第二章に着手。長篇Dは仮題を「大亀神」に変更。なんとなくしっくり来ないから、これもまた変えるかも。続いて次の短篇のプロット作りに着手。ジャンル内サブジャンルの難度の高い融合にも気があったりするんですけど、スプラッター・ジェントルゴーストストーリーって難しいな。下手に書いたら笑われるだけだろうし。
 

9.11
 とりあえず短篇を起稿し、連載のゲラを返送。あとは長篇D・Eを少しずつ進める。特記事項なし。
 

9.12
 また暑くなったせいか小説脳が動かず半休。
 では、意外に早く復活した今週の十句です。俳句は好調で小説が不調だと、どう考えても食えなくなるのだが。
 
 今朝の秋しろがねばかり零れをり
 秋暁の硝子光りそめ廃市
 銀漢となりて去る風の無い夜に
 秋光や誰も通らぬ非常口
 薄いナイフ閃いて閃いて流星
 少年の墓しづかなり秋の虹
 迷子の泣き声消えてそのまま大花野
 残月の虎となりゆく漢かな
 いちめんの山粧ひて何もなし
 秋思の川へ儚きものを三棹ほど
 

9.13
 連載を早めに再開、あとは亀のごとし。
 さて、『内宇宙への旅』(徳間デュアル文庫・505円)の見本が届きました。発売は21日の予定です。カバーとイラストは同じSF系の「BAD」に続いて槻城ゆう子さんにお願いしました。渋めのかっこいいカバーです。なお、読者の年齢層に合わせて書けるほど器用な作家じゃないもので、「エロは入れない」というただそれだけの縛りで書いてみました。内容は同世代の作家もずいぶん書いている記憶テーマとのみ。これって中年感覚なのかしら。
 もうひとつ、「小説すばる」10月号も届きました。「Oh! マイアイドル」というコラムに登板しています。また性懲りもなく秘書猫の話を書いてしまった。


9.14
 書くことがないため、いきなり今週の秘書猫の日記です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうはお出かけがなかったので、おうちにいるおともだちの数をかぞえました。ぜんぶで48ぴきいました。うちわけは、猫13(ミーコをふくむ)、ウサギ4、カタツムリ3、コウモリ2、おさかな2、トリ2、オコジョ2、クマ1、かいじゅう1、カメ1、エイ1、ライオン1、ゾウ1、モルモット1、キツネ1、ヤドカリ1、カエル1、タツノオトシゴ1、クラゲ1、ヘビ1、キリン1、カンガルー1、クジラ1、モモンガ1、リス1、ペンギン1、人間1、です。んーと、ちょっとかぞえまちがえたかにゃ?
 

[読書メモ]
(小説)柾悟郎「シャドウ・オーキッド」(コアマガジン)、ミッシェル・フェイバー「祈りの階段」(アーティスト・ハウス)、デイヴィッド・チャクルースキー「詩神たちの館」、スーザン・ヴリーランド「ヒヤシンス・ブルーの少女」(以上、早川書房)。
 いっこうに分厚い長篇には手が伸びませんね。「シャドウ・オーキッド」は私の狭いツボを直腸・・・じゃなくて直撃。SFとSMってスペキュレイティヴでつながると思うんだけど、これはいかにも細い線か。チャクルースキーは期待したガイ・バート系の新人ではなく秀才型かな。道具立ては好きなので、それなりに面白くは読んだのですが。「祈りの階段」は中篇がベストの形式だったかどうか微妙なところ。
(小説以外)筑紫磐井「定型詩学の原理 詩・歌・俳句はいかに生れたか」(ふらんす堂)、中山鹿之介「幻聴 統合失調症の記録」(健友館)、春日武彦「17歳という病 その鬱屈と精神病理」(文春新書)、森山公夫「統合失調症」(ちくま新書)、藤山一郎「藤山一郎自伝 歌声よひびけ南の空に」(光人社NF文庫、再読)、森本敏克「音盤歌謡史」(白川書院、たぶん四回目)。
 「定型詩学の原理」は大判二段組600ページに上る大冊。こういう体系的で重厚な本を読むのはあまり得手ではないので、読了するまでむちゃくちゃ時間がかかってしまった。聡明な頭脳、該博な知識、粘り強い努力が三位一体になれば、在野の人でもこんな仕事ができるという好個の例でしょう。引用しはじめると収拾がつかなくなるから割愛。「17歳という病」は副題とは裏腹、著者の鬱屈ばかり吐き出していていい感じなんですが、怒る人もいるだろうな。


9.15
 やっと涼しくなったけれど、よろずに適応能力に欠けるもので、かえって調子が悪い。相変わらず低空飛行。特記事項なし。
 

9.16
 連載・長篇D・短篇を進める。それにしても、私の時代考証は懐メロの話ばかりだ。これでいいのか。
 

9.17
 秘書猫を連れて午後六時より帝国ホテル、江戸川乱歩賞のパーティに出席する。いきなり遭遇した米田淳一さんとしばらく立ち話をしてから会場へ。関西の人々とは久しぶり。牧野さんが妙にハイテンションで無駄な写真を撮りまくってましたが、どうしてデジカメの機種までかぶりますか。今日は耳鳴りもせず、仕事関係の話もできたから復調気配なり。ただ、体力は回復していないので二時間も立ってると足が辛くなって閉口。二次会は十数名で同ホテルのスカイラウンジ。竹本さん、我孫子さんと囲碁の話など。今月は予定が立てこんでいるため、出来上がった笹川君の話が例によってループしはじめたのをしおに引き上げ、電車で十二時ごろ帰宅。お疲れさまでした。
 

9.18
 連載・長篇D・E・短篇をちびちびと進める。特記事項なし。
 

9.19
 郵便局へ将棋二段の免状代を振り込みに行く。これで囲碁とあわせて六段に昇進できそうです。デジタルのハードルが高い将棋はこのあたりが限界につき(曲がりなりにも二段の将棋になるのは風車に組めたときだけのような気も)、次の目標は囲碁五段なのですが、課題が山積みだなあ。というわけで、夜はネット碁の観戦を再開。岡目八目で人の悪手は見えるのだが。
 

9.20
 秘書猫を連れて午後六時より高田馬場、第四回水庭杯に参加する。例によって予選半荘4回、決勝2回のトータルポイント制。結果は以下のとおりです。
 優勝 鴨阪新水庭杯 +136
 2位 ブラニー +114
 3位 クラニー +29
 4位 西東京伝前水庭杯 +9
 5位 みえぞうこと高瀬美恵 −44
 6位 MANTRA −50
 7位 比呂 −60
 8位 音羽亭こと森英俊 −134
 予選はブラニーが未曾有の絶好調で一人勝ち。どうにか4回戦でトップをとり、沈みの2位でA卓へ。この時点では予選で大三元を出した鴨阪さんとブラニーの一騎打ちムード。迎えた決勝1回戦、リーチ一発で四暗刻をツモり、大トップをとって総合2位に浮上する。最終戦は仕掛けが早すぎて墓穴を掘り後退、いったんブラニーが優勝トロフィーに手をかける。ここでメンチン・ピンフ・ドラ1のダマ倍を直撃して弟を引きずり下ろし、また混戦に。結局は満を持していた初参加の鴨阪さんがラストスパート、息切れした倉阪兄弟を置き去りにして総合3位から逆転優勝。オーラスで3回もラスに転落していては勝てんな。その後は午前三時ごろまで飲んで帰宅。お疲れさまでした。
 

9.21
 反動で調子悪し。連載・長篇D・短篇を進める。では、秘書猫の日記です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です、こんにちは。こんしゅうは二回もお出かけしました。らんぽ賞ではいろんな人にかわいがってもらいました。クラニーせんせいがお出かけできるようになってうれしいにゃ。らいしゅうもいそがしそうです。おわり。
 

[読書メモ]
(小説)三津田信三「作者不詳 ミステリ作家の読む本」(講談社ノベルス)。
 「作者不詳」はまさに離れ業。これは史上最もアクロバティックな本格ミステリーと本格ホラーの融合ではないかと思う。体操のつり輪の見たこともない力技を目の当たりにしたような感じ。腐るほどミステリーを読んでからまた腐るほどホラーを読んだという膨大な蓄積(筋肉)があったればこそ可能になった演技でしょう。着地は鉄棒ではなくつり輪なので個人的にはOK(妙な袋小路に入ってしまったから怪異が襲ってきそう)。ともかく十点に近い高得点、今年度ミステリーのベストワン有力候補です。
(小説以外)渡辺哲夫「死と狂気 死者の発見」(ちくま学芸文庫、再読)、鈴木輝一郎「何がなんでも作家になりたい!」(河出書房新社)、探偵小説研究会編「本格ミステリ・クロニクル300」(原書房)、山田風太郎「戦中派焼け跡日記 昭和21年」(小学館)、山本夏彦「『戦前』という時代」(文藝春秋、再読)。
 「死と狂気」は戦慄の一冊。紹介されている六人の狂者のうち、最も慄然とするのは夏雄。この人の話はいずれ何らかの形で書かずばなるまい。もう一つ強調すべきは、著者が徹底的に自分の言葉で書きながら考え、考えながら書いていること。精神分析の専門用語は皆無に近く、哲学書の内実を備えているのに哲学者の言葉の引用もない(唯一の例外はオルテガの悲痛な言葉だ)。代わりに引かれるのは柳田国男、折口信夫など、読者は著者の自前の哲学が暗々と立ち上がる瞬間を共有する。今年のベストブックの有力候補。
 話変わって、やや気は進まないのですが一応記しますと、「本格ミステリ・クロニクル300」の既読は現時点で辛うじて半分の151冊。べつに国内の本格ミステリーが読書の支柱じゃないし、好みも偏ってるからまあこんなものですか(後味が良さそうな作品に未読多し)。いやしかし、ずいぶんスルーしてしまったから、いずれ「こんなものをいまごろ読んでるのか強調月間」でもやるかな(前にも試みて「月長石」とか「レベッカ」とか潰したような記憶が)。最後に、「戦中派焼け跡日記」は山風ファンは申すに及ばず古典から読んでいる人は必読とのみ。


9.22
 大相撲秋場所回顧。今場所は年寄り受難の場所だった。35歳以上で勝ち越した力士は、幕下上位まで見渡しても栃天晃と星誕期だけではないだろうか。この一番は順当に貴闘力vs寺尾戦を挙げておきます。いや、上のほうも見てるんですけどね。
 

9.23
 連載・長篇D・E・短篇を少しずつ進める。夜は碁盤を枕元に移動し、定石を片っ端から並べはじめる。とりあえず数の少ない高目から。「定石をおぼえて二目弱くなり」という不吉な格言もあったりするんですが。
 

9.24
 午後六時より大手町のクラブ関東、初めて日本ファンタジーノベル大賞のパーティに出席する。まずは授賞式。清水建設と読売新聞の共催とあって雰囲気が違い、聞いているだけなのに緊張したりする。こんなところでスピーチでもやらされたら緊張のあまり思わず一曲歌ってしまうかもしれない(「国境の町」とか)。大賞の西崎憲さんのスピーチは簡潔で堂々たるものでした。続いてパーティ。大賞と優秀賞(最年少受賞の小山歩さん)の二人が新郎新婦のように入場してくるし、背広の人は多いし、まるで披露宴みたいな雰囲気。黒猫を肩に乗せた変な人は大賞受賞者の友人方面にまぎれて小さくなってました。途中で両受賞者のロングインタビューが入るのも珍しい。西崎さんの口からエドワード・ルーカス・ホワイトという固有名詞が発せられたときは、ごく一部だけ反応していました。歴代受賞者が壇上に並んでひと言ずつスピーチする光景も初めて。とにかく物珍しいことばかりで新鮮でしたね(いちばん珍しがられていたのはかく申す筆者のような気も)。二次会はパレスホテル地下のバー。べつにここでしゃべらなくてもいいような人々と十一時過ぎまでよもやま話。お疲れさまでした。
 

9.25
 また睡眠障害気味。イベントの谷間なのでひたすら仕事。短篇はやっとゴールが見えてきたかな。
 

9.26
 午後六時半より神保町の出雲そば本家、集英社のC塚さん主催の浅暮三文「石の中の蜘蛛」&倉阪鬼一郎「夢見の家」合同慰霊祭・・・じゃなくて合同打ち上げに出る。そばを食べたあとはやや寂しいデフォルト・メンバーで御茶ノ水パセラ。新譜に中島みゆきのマイナーな曲がかなり入っていたので驚く。ついに名曲「海鳴り」を歌える日がやってきました(感涙)。すっかり酔っぱらった浅暮さんが「合同の芸を作ろう」と強要するので、なんとなく成り行きで麻丘めぐみ「森を駆ける恋人たち」のバックでヒゲのおじさんが手旗信号よろしく踊りまくるという珍妙なものができあがったのだが、翌日会ったときはきれいさっぱり忘れてましたね。十二時半ごろ終了、タクシーで帰宅。お疲れさまでした。
 さて、「小説推理」11月号が届きました。「The End」連載第13回が掲載されています。このグラビアは迫力があるなあ。
 

9.27
 午後六時より飯田橋のホテル・エドモント、第12回鮎川哲也賞のパーティに出席する(早めに出たのにボケていて出版記念クラブへ行ってしまい大汗)。直前に鮎川氏が逝去されたので、まずは黙祷から(ここで本格プロパーの方々の追悼メッセージにささやかながら付言しますと、私は氏の編まれた怪奇探偵小説アンソロジーおよび「幻の探偵作家を求めて」などの著作によって数々の忘れ難いマイナーな怪奇幻想作家に出会いました。本格の驍将でありながら、資質の違う作家の作品も丹念にフォローされていた[骨を拾っていた]懐の広さと温かさもまた記憶さるべきかと存じます。合掌)。各種の挨拶が一時間近く続き、貧血を起こしそうになったころようやく乾杯・歓談に。初対面は並木士郎さん。性格俳優っぽいヴィジュアル系の方だったのでびっくり。「青い館の崩壊」のゴーストハンターの作中作をもっと延々と読みたかったと言う人はあからさまに少数派かも。槻城ゆう子さんが見えていたので、一部で話題になっている「内宇宙への旅」のカバー問題について質問する。イラストレーターによりますと、カバーに描かれている人物は小説の主人公すなわち倉阪鬼一郎だそうです。これほど確かな証言はございません。あれは私です。あとは三津田信三さんと互いの著書を褒めあったり(これだと世界は何も拡がっていないような気が)、竹本健治さんに同じ囲碁強豪の村田基さんを紹介したりいろいろ。二次会は「秘神界」の打ち上げ。居酒屋で編者の朝松健さんを筆頭に十名強のメンバー。初対面は米沢嘉博さん、原田実さん。隅のほうで笹川吉晴・夏来健次両氏と語る。これも世界が拡がっていない。終了後はタゴールに移動して本体と合流、しばらくぬいぐるみたちを心地よく遊ばせる。その後は向かいのバーのカウンターで霞流一さんとまったりとしゃべったり、いちいち書くのが面倒な動きをしてから一時過ぎに夏来さんとタクシーで新宿へ移動、ロフトプラスワンの菊地秀行さんのトークライブに合流する。今回は珍しいロシア・アニメの特集。印象に残るシュールな作品がいくつかありました。例によって上高地に移動、飯野文彦さんの文字通りの「腹芸」を見物したあと午前八時ごろ帰宅して爆睡。
 

9.28
 そろそろ追いこみモードなのだが小説脳は動かず、日記を書いただけで終わってしまう。では、秘書猫より。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは三回もお出かけがありました。パーティはライオンのマルちゃん、打ち上げはオコジョのオコちゃん、ジョーちゃんといっしょに出ました。パーティではおともだちのみなさんにいっぱいあそんでもらいました。ちょっとつかれたけど、うれしいにゃ。おわり。
 

[読書メモ]
(小説)スタニスワフ・レム「完全な真空」(国書刊行会)、朝松健編「秘神界-現代編-」「同-歴史編-」(以上、創元推理文庫)、藤本ひとみ「変態」(文藝春秋)。
 唐突に「完全な真空」を読んだのにはささやかな理由がありまして、翻訳SFファン度調査の結果が29冊と半端だったから30冊にしておきたかったのです(これを焼け石に水と言う)。サンリオ以前ならもう少し健闘できるんだけど(せっかく「20世紀SF」を完読したのに一冊カウントとはやや釈然としない)。作品は「虚数」に続いて狭いツボを直撃。完全な真空のような小説って見果てぬ夢だよなあ。
 「秘神界」をようやく読了。ダーレス以降の体系化されたクトゥルー神話は限りなく伝奇に接近します。伝奇というのは元来「小説」という意味だから、主要四ジャンルのどこからもアプローチが可能なんですね(伝奇ホラー、伝奇ミステリー、伝奇SF、伝奇ファンタジー、どれもまったく違和感がない)。それかあらぬか、「秘神界」にはすべてのジャンルの作家が参加、世代の幅も加え、なかなかに壮観です。自分も寄稿している競作集はどうもスクエアに読めないし読了にタイムラグもあるためベスト選びのたぐいは遠慮しておきますが、新鮮で印象に残ったのは妹尾ゆふ子「夢見る神の都」(現代編)、松殿理央「蛇蜜」(歴史編)といった普段はとても手が回らないファンタジー系作家の作品でした。ことに「蛇蜜」は変態のツボも心地よく刺激してくれます。やや竜頭蛇尾ですが、疲れたのでこの辺で。
(小説以外)山本夏彦「二流の愉しみ」(講談社文庫、再読)、大山史朗「山谷崖っぷち日記」(角川文庫)、天本英世「日本人への遺言」(徳間書店)、第二十六代式守伊之助「情けの街のふれ太鼓 行司ひとすじ五十年」(二見書房)。


9.29
 短篇をとりあえず最後まで書く。推敲と加筆に時間がかかりそう。連載はやっと15枚で今回も苦戦。
 

9.30
 連載と長篇Dを進め、短篇を画面上で推敲してプリントアウト。今月の執筆枚数は150枚でした。夜は「名曲ベストヒット歌謡・1960年代スペシャル」をビデオ撮りしたうえで鑑賞。日野てる子・山田太郎・箱崎晋一郎あたりがレアでした。テレビ東京は偉いな。