12.1
 短篇Aを仕上げた程度で半休。日曜は録画した囲碁将棋番組を二つずつ見なければならないから忙しいのです。囲碁将棋チャンネルでも入れたら仕事にならないかも。たかが早指し戦の二回戦なのにタイトル戦みたいな和服姿で登場した小林健二九段の辛気臭い三間飛車が気に入ったので試してみたのですが、AI将棋に勝勢から逆転負け。終盤だけ誰か代わってくれないかしら。
 

12.2
 短篇Aとアンケートをメールし、連載・短篇C・短篇B・長篇Aを進める。夜はNHK囲碁トーナメントをビデオでもう一度観る。さんざんぼやきながら勝ってしまう加藤本因坊はやはり強いな。ぼやくことだけなら私もひけは取らないんだけど。
 

12.3
 連載の追いこみなのだが、第九章「屋根裏部屋」に入ってからピッチが上がらず2枚が限度。夜は本日届いた「ブラッド」(集英社文庫2月刊行予定)のゲラの疑問箇所をチェックする。小説は初文庫化だし、ハードカバーにおける致命的なミスを直せるのでありがたい限りです。最後に小ネタを一つ。カバーデザイン(うつ)というのが同封されていてちょっと悩んだのですが、何のことはないカバーデザイン(ラフ)でした。ダイイング・メッセージにどうですか。
 

12.4
 連載をとりあえず最後まで書く。今月は24枚しか書けなかった。少々鬱である。気分転換に「相撲」と「将棋世界」を読む。後者は相手玉に即詰みがあるのに投了してしまった福崎八段が「もう42やからなあ」と嘆いた話が印象深かった。その後、東大将棋のマスターを相手に居飛車穴熊から必勝の将棋を落とす。42でいくら勉強しても駄目そうだな。
 

12.5
 連載をプリントアウトして推敲、長篇Aを進める。私が地の文で理系の蘊蓄(と言うほど大層なものではありませんが)を振るのはキャラに合わないので登場人物に関西弁で講釈させてるんですけど、これやと書いても書いても終わらへんねん。
 国内SFファン度調査の読了は300作品中87作品。あかんなあ。誰かホラーをやってくれないかしら。
 

12.6
 連載をメールし、短篇Bと長篇Aを少し書き、長篇Bの第三章までの改稿作業に着手して夜はゲラ。三人に分裂したらもっと捗るのだが、一人は本ばかり読んで、あと一人は碁と将棋ばかりやっているような気も。
 さて、井上雅彦監修「異形コレクション 酒の夜語り」(光文社文庫・857円)が届きました。「夢淡き、酒」という短篇を寄稿しています。さる古典をベースに何か実験的な試みをというコンセプトで書いてみたのですが、それでどうして本格懐メロ小説になってしまうのかという気がしないでもない。藤山一郎も登場しますので、その筋の方はお読み逃しなく。何人いるのか知りませんけど。
 

12.7
 仕事は亀のごとし。近視が進行してしまって車に轢かれかねないので、メガネを新調する。いままではここぞというときだけ使用していたのだが、常時掛けていても鬱陶しくない薄くて小さめのレンズを発注。気に入ったフレームがあったのですが、「それは女性用でございます」と言われたので断念する。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。クラニーせんせいが「根がつづかない」というので、こんしゅうは「集中しよう ミーコ姫」とかいたハリガミをはりました。ちゃんと秘書のおしごとをしているミーコでした。おしまい。
 

[読書メモ]
(小説)シオドア・スタージョン「コスミック・レイプ」(サンリオSF文庫)、マーク・マクシェーン「雨の午後の降霊術」(トパーズプレス)。
 「コスミック・レイプ」は期待したものとはずいぶん違う話だったのですが、嬉しい裏切られ方。骨格の弱いところを含めてかなり好みでした。「雨の午後の降霊術」は薄さが心地いい一冊。展開は読めるんですけど、皮肉なラストの舞台的な効果は秀逸。
(小説以外)佐藤勝彦監修「最新宇宙論と天文学を楽しむ本」(PHP文庫)、井田茂「惑星学が解いた宇宙の謎」(洋泉社新書)、二間瀬敏史「ここまでわかった宇宙の謎」(講談社+α文庫)、リチャード・モリス「越境する宇宙論」(青土社)、峯尾文世句集「微香性」(富士見書房)、瀬名秀明「ハートのタイムマシン!」(角川文庫)。
 今週はもっぱら資料読み。理系の本は最新刊を読まねば駄目だということを学習しました。



12.8
 というわけで、Weird Worldは5年目に入ります。とくに抱負めいたものはありません。人生と同じで、たらたらとつまらなく続くだけです。
 執筆は久々にお休み。囲碁将棋番組を観たり、第三句集の原稿作りをしたりしながら(ようやく第二段階が終わる)、早めに年賀状を印刷。ベスト画質でミーコ姫を150匹刷ったから、むちゃくちゃ時間がかかってしまった。俳句関係者にも出さねばならないのに、ちょっと乙女チックにしすぎたかしら。
 

12.9
 雪が積もっていたので、ぬいぐるみたちに見物させる。仕事は短篇C・短篇B・長篇A・長篇Bの前半の改稿、夜は「ブラッド」のゲラ。作家モードの私の頭の中には「いま書いている小説」と「これから書く小説」しか存在していなくて、「すでに書いてしまった小説」についてはかなり記憶が曖昧になっています(「赤い額縁」ってどういう話だったっけ?)。「ブラッド」はいかにもツボに来そうな話だから(当たり前だが)わくわくしながら読みはじめたんですけど、さすがにディテールを思い出して展開が読めてしまった。つまらんな。
 

12.10
 ゆうべ秘書猫が紙になってしまった悪夢を見て夜中に目が覚めたせいか、執筆は絶不調。夜のゲラもあまり進まず。三年前の文章には無駄な言葉が多いので、むやみに「トル」という赤字を入れています。あ、また「むやみに」と書いてしまった。
 

12.11
 仕事は同じところで足踏みをしているような感じ。ファンタジー小説ファン度調査の既読は350作品中約70作品(やや記憶が曖昧)。最下位争いをしている「放浪者メルモス」と「耳らっぱ」を筆頭に、200位以下の読了率のほうが高い。やはりファンタジーファンではなかった。
 

12.12
 短篇Aのゲラを戻し、短篇C改めBをとりあえず最後まで書く。夕方、新しいメガネを受け取りにいく。今後は外出するときにはかける予定です。肩に黒猫が乗っているのでパーティでは私であると識別できると思います。これを逆手に取り、替え玉を使ってアリバイ工作をするというアイデアがふと浮かんだのですが、即座に却下。
 

12.13
 長篇Aと短篇B改めAを進め、夜は「ブラッド」の著者校の一回目をようやく完了。同書はこのたびめでたく日本SF大賞を受賞された牧野修さんの「忌まわしい匣」と同時刊行の模様です。やっぱりそうだったか。
 さて、探偵小説研究会編「2003本格ミステリベスト10」(原書房)が届きました。アンケートは締切に間に合うように郵送したつもりなのですが、未集計になってましたね(メールにすればよかった)。恥ずかしい限り。これでは内藤陳みたいではないか。SFアンケートと二つはつらいし、どうも浮いているようなので、こちらの投票は今年限りということにさせていただきます。なお、作家の近況と予定欄にも登板しております。同欄でいちばん読みたいと思ったのは斎藤肇さんの次回作。読者はいますよ。
 

12.14
 秘書猫をつれて夕方より神保町へ。性懲りもなく将棋の本を買ってから(巷で話題の「島ノート」とか)、古典SF研究会の忘年会に参加する。北原尚彦さんに見せてもらった電波系奇書、ラー・ケェシェマレ・アマテシュ著「ケェシェマレ」(栄光出版社)は私も欲しいな。久々に凄い本を見たかも。それから、西崎憲さんがギタリストとして参加しているswiss camera 「about our life」(dog and me records, 限定500枚)を購入してサインしていただく。これはレアでしょう。一次会のみで失礼して九時過ぎに帰宅。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。せんしゅうは忘年会をひとつわすれちゃってクラニーせんせいにしかられました。しょぼん。こんしゅうはちゃんとおぼえてて、つれてってもらいました。でも、あんまりあそんでもらえませんでした。くすん。
 

[読書メモ]
(小説)マイケル・スレイド「髑髏島の惨劇」(文春文庫)、浅暮三文「殺しも鯖もMで始まる」(講談社ノベルス)。
 「髑髏島の惨劇」は素朴に読んで楽しい作品。まあ綾辻行人・千街晶之ダブル推薦で私の狭いツボに来なかったらおかしいのですが(ただしフラジャイル系にはあらず)。まともな人間がほとんど出てこない作品は清々しくていいですね。やたら蘊蓄が多いんですけど、ミステリーに関するものはいやに平凡で、逆に犯罪とオカルトはむやみにマニアックなところがほほ笑ましい(H.H.ホームズはオリジナルのほうだし)。野暮を承知で「本格ミステリーが背負っているもの」という話を振りますと、身も蓋もなく言えば還元主義的な西洋近代で、さらに読者参加型という部分に着目すれば民主主義が浮上します。で、そういうものに対して違和感を抱くからこそ往々にしてホラーへ傾斜するわけで、無い袖を振ろうとしても面妖なキメラにしかならないのです。そのあたりのシンパシーも含めて私は面白く読みました(要はマニエリスム的にはOKということ。翻訳の小見出しの凝り方にも拍手)。なお、視点を変えると、アメリカン・モダンホラーと言えばジャンルミックスなのですが、ことによるとこれは最終兵器かも。慣れないポップスに挑戦した「殺しも鯖もMで始まる」は、努力の甲斐あって確かにポップスにはなってるんですけど、やはりコブシが回ってしまっているような気が。はからずもそれがいい味になっていて面白いのですが、もっと大胆に伏線を張ってもいいのにと思ったり。サバとミソのダイイング・メッセージそれ自体はとても好みなのですが。
(小説以外)菜摘ひかる「菜摘ひかるの私はカメになりたい」(角川文庫)「ふにゃふにゃ日記」(主婦と生活社)、飯田弘之「コンピュータは名人を超えられるか」(岩波科学ライブラリー)、監修指導・鵜飼良平、イラスト文・荒井正憲「図解江戸流そば打ち技術」(柴田書店)、入江吉正「SMアンダーグラウンド」(バジリコ)、「有段者の序盤感覚100題」(日本棋院囲碁文庫)。
 今週はまず菜摘ひかる追悼から。わりと愛読してたんですけど、生きるのがつらそうだった人には「お疲れさまでした」と声をかけてあげたいです。合掌。「コンピュータは名人を超えられるか」の著者は目下休場中ですがプロの将棋指しでAI研究者という人。本書を読む限り、十年後に名人に勝つのはどうでしょうか(弱いプロなら勝負になるかもしれませんが)。言及されている「終盤は駒の損得より速度」のみならず「王の早逃げ八手の得」も研究課題でしょう。



12.15
 早起きしたものの、どうも鬱で心身ともに動かず半休。将棋番組を観ながら今年のレシートの整理に着手したら、かえって気が重くなってしまった。夜はゲラ。
 メガネをかけて外出するようになって初めて、世の中にはメガネ着用の人がずいぶん多いことに気づいて驚く。べつに急にメガネの人が増えたわけではない。大森荘蔵のタームを用いれば「立ち現われて」いたものが「見える」ようになっただけの話だ。人間が世界を均質に見ていると思うのは錯覚で、実は「見える」と「見えている(ただ単に立ち現われている)」が混在しているのが世界なのである。主体と世界のあいだに何か関係の糸が結ばれると、それまで「見えている」だけだったものが「見える」ようになる。ひょっとするとこれは「生きている」と「死んでいる」の関係にも応用が可能で、せんじつめれば言葉それ自体の問題にもつながってくると思うのだが、面倒だから今回はここまで。
 

12.16
 長篇Bを再開し、短篇Aと長篇Aを進める。長篇Aは200枚をクリア。夜はゲラの追いこみ。
 季刊「幻想文学」があと2号で終刊。最近何も書いていなかったから、せめて終刊号には「英米百鬼譚」の最終回をと思っています。同誌が唯一の活字発表媒体だったころ、重い足を引きずって会社へ行く前に書評の推敲をしていたことなどをしみじみと思い出したりしました。
 

12.17
 ゲラを返送し、夕方から神保町。五時より角川書店のK田さんと打ち合わせ。当方の筆の運びが鈍く、忸怩たるものがあります。出雲そばで食事をしてから帰宅。
 さて、長篇書き下ろしホラー「泉」(白泉社・1500円、12月20日発売)の見本が届きました。赤と黒を基調にしたきれいな装幀です。これがちょうど30冊目の著書になります。ゴルフのエイジシュートならぬエイジブックを達成したらペースを落とそうかと思ってるんですけど、さてどうなりますか。日記が更新されるころには発売になっておりますので、よろしくお願いいたします。
 もう一つ、「新刊ニュース」1月号も届きました。アンケート「2002年印象に残った本」に参加しています。新刊に限らず三冊選ぶという形式で、今年の私のラインナップは、
1. 渡辺哲夫「死と狂気」(ちくま学芸文庫)
2. ラングドン・ジョーンズ「レンズの眼」(サンリオSF文庫)
3. 飛浩隆「グラン・ヴァカンス」(早川書房)
でした。
 国内小説・海外小説・それ以外から一冊ずつ選んだら、小説はなぜかどちらもSFになってしまった。ニューウェイヴ限定だけど。
 

12.18
 今日は最悪の一日だった。掃除機をかけているときにパソコンのコードを抜いてしまい、iBookがすっかりへそを曲げて起動してくれない。ここでどこからか一匹の大きな蝿が迷いこんできた。思わず首をくくりたくなるような耳障りな羽音である。キッチンの照明に止まったから怒りにまかせて手近の分厚い雑誌で殴りつけたら、物の見事に照明が砕ける。ガラスが割れるのは当たり前なのだが、私は錯乱すると理性が崩壊してしまうのだ。さすがにここで頭を冷やそうと思い、殺虫剤を買いにいく。帰宅後、むやみに撒いて蝿の息の根を止めたところでふと思い当たった。頭のみならずマシンも冷やせばどうか。しばらく休ませてから再操作したところ、あっけないほど簡単に旧に復した。おかげで仕事にならなかった。


12.19
 久々に風邪をひいてしまい、終日不調。
 「週刊文春」12/26号が届きました。こちらのミステリー・アンケートはコメントが採用されるかどうかわからないのですが、4位の「奇偶」の欄に載っています。ちなみに「個人的には今年度最高の感動作」というコメントで、ちっとも間違ったことは言ってないんだけど、これを見て何か大きな誤解をして読んだ人の怒りは投票者のほうへ向けられるのかもしれない。
 

12.20
 風邪が悪化。連載と短篇Aを少し書いただけでダウン。
 

12.21
 風邪は少しましになった程度。年明けの15日までに締切が四つあってこのままでは正月が来ないから、やむなく仕事。では、今週の秘書猫です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんにちは。クラニーせんせいが「何かプレゼントはいらないかな」というので「クラニーせんせいのぬいぐるみ」とこたえたら、「そんなものは売ってない」といわれました。せんせいはあんまりゆうめいじゃないんだにゃとおもいました。おしまい。
 

[読書メモ]
(小説)ミシェル・ウエルベック「プラットフォーム」(角川書店)、ジャン・ヴォートラン「グルーム」(文春文庫)、西澤保彦「ファンタズム」(講談社ノベルス)、井上雅彦監修「酒の夜語り」(光文社文庫)。
 ウエルベックはラヴクラフト論と詩集でデビューした人なのですが、何も関係はなかった。これじゃ全然鬱が足りないと思うんだけど、面白く読んでしまったのは人間的にダメかも。男臭いノワールは不得手で途中で止まったりするのですが、「グルーム」のようなひきこもり系ならOK。構成が巧みで、構想のまま停滞している作品ともそこはかとなくかぶっており、かなり琴線に触れました。「ファンタズム」は私の感覚ではやはりミステリー。著者ならではの冥い共通低音が流れていて好みなんですけど、プロローグや殺人シーン(思わず声援を送ったり)などに見られる実存方面がもっと書きこまれていたらなお良かったかも。「酒の夜語り」は中島らもvs飯野文彦の酔っぱらい対決がハイライト。ホラーブームは終わったことになっているようですが、飯野文彦の短篇集がないのは画竜点睛を欠くと思います。
(小説以外)池田晶子「メタフィジカル・パンチ 形而上より愛をこめて」(文藝春秋)、団鬼六「真剣師小池重明の光と影」(小学館文庫)、羽根直樹「厚い碁の作り方」(日本棋院)、川端要壽「下足番になった横綱-奇人横綱 男女ノ川-」(小学館文庫)、四谷シモン「人形作家」(講談社現代新書)、勝浦修「終盤の手筋」(創元社)。
 「メタフィジカル・パンチ」によると、著者はとくに生きていたいと思わない破滅型なのだそうだ。えてしてそういう人ほどむやみに長生きしてたくさん本を出し、「また性懲りもなく同じことを書いてる」と言われたりするものである。



12.22
 風邪はやや回復したものの仕事は進まず。夜はずいぶんコンピュータ将棋を指す。このところ振り飛車対策(べつに居飛車党でもなくて、悪型とされる玉飛接近型がいちばん好きな変飛車党なんだけど)は地下鉄飛車に凝っています。端ばかり狙う暗い棋風には合ってるんですが、穴熊と同じで無理に組みにいくとダメだな。
 

12.23
 ちっとも風邪が抜けない。とりあえず短篇Aを最後まで書く。また変な話になってしまった。
 

12.24
 それにしてもしつこい風邪である。いっこうに抜けぬ。クリスマスイヴだから年賀状の宛名書き。つまらん人生だ。
 深夜の東大将棋マスター戦、ウソ矢倉→右玉風車の持久戦からの百手目に新不死鳥風車と称すべき陣形が完成する。結局180手で負けたけど感動してしまった。これだから勝てないのだが。
 
               桂 歩
 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩  
     金 銀 角 銀 金    
 香       王       香
         飛         持ち駒 桂
 

12.25
 年賀状を投函(コメントなしの手抜きで恐縮)。仕事に復帰するも、どれもこれも進まず。では、すぐ止まりますが今週の十句です。
 玄冬のビニール袋そこで飛べ
 思ふべきはすでにそこにある氷河
 累々と卵積まるる寒夜かな
 眼球はガラスのかげに元日も
 足跡のふとあらはれて雪あかり
 うつくしき獣のにほひ懐手
 昔がたりの婆は土鍋に榾あかり
 さりげなく死とかいてみる吉書かな
 ふくわらひ左の耳を中央に
 ししまひを脱げば貌なき女かな
 

12.26
 連載・長篇B・長篇Aを進め、連作短篇集改め連作形式長篇の加筆作業。風邪が抜けないのはむやみに煙草を吸っているからなのだが、これはいかんともしがたい。
 

12.27
 午後三時に日暮里ルノアールで光文社のF野さんと打ち合わせ、「鳩が来る家」(光文社文庫・552円+税、1月9日発売)の見本を受け取る。カバーイラストは久枝アリアさん(アリアドネさん)、イメージどおりの美しいイラストで飾っていただきました。カバーデザインの櫻舎は、異形コレクションの担当編集者からデザイナーへと華麗に転身したM川さんの会社です(補足ですが、クレジットが見当たらないんですけど「泉」の装幀は妹尾浩也さんです。ウエイクフィールド「赤い館」とも一脈通じるマニエリスティックな仕掛けがあります)。もう一つ特筆すべきは並木士郎さんによる入魂の解説。この犀利な文章を読むだけでも値打ちがあると思います。言葉に対する愛憎はまさにそのとおり。ありがとうございました。肝心の内容ですが、13篇のうち競作集収録作品が8篇、ブックフォーム未収録作品が5篇という構成です。競作集収録短篇についても入念にゲラを見て文章のシェイプアップを図っておりますので、よろしくお願いいたします。その後は書き下ろし中篇についての話。またとんでもないものを書くぞ。
 

12.28
 秘書猫を連れて午後六時半より赤坂ですぺら、幻想的掲示板オフ「恐怖の忘年会」に出席する。このところ日記に引きこもっていて掲示板には何も書いてないんですけど。十数名が参加。まだ風邪が抜けていないため、十一時過ぎに早めに帰宅。愛想がなくて恐縮です。では、秘書猫のレポートです。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。ミーコはオコジョのオコちゃん、ジョーちゃんといっしょにでました。オコジョさんたちはとってもウケてました。クトゥルーちゃんとあそびました。ではでは、よいおとしを。
 最後に、「小説推理」2月号が届きました。「The End」連載第16回が掲載されています。屋根裏部屋に入ってからいっこうに進まず難渋しているのですが。
 

[読書メモ]
(小説)西崎憲「世界の果ての庭」(新潮社)、菊地秀行「幽剣抄-追跡者」「幽剣抄-腹切り同心」(以上、角川書店)、京極夏彦「覘き小平次」(中央公論新社)。
 「世界の果ての庭」は羨望を禁じえないエレガントな作品。読む絵画や音楽を志向した作品ならいざ知らず、読む庭園というのはきわめて斬新。いろいろと仕掛けはあるのですが、いくらそれを解読して見取り図を提出してもこの小説を読んだことにはならない。一通行人として佇み、通り抜け、重層的な庭のさまざまな消息を聴いて愉しむテクストでしょう。その意味ではすこぶる音楽的だし、また俳句的とも言えます(しきりに去来したのは「曙や屋上の駅永遠に 摂津幸彦」という俳句なのですが)。「物語」とは異なり、「小説」はどう書いてもいいし、どう読まれてもいいものだということが感得される傑作。脱帽。
 以下は国内ホラーを消化。幽剣抄シリーズは本篇もさることながら幕間の掌編も読みどころ。怪異をさらりと描く剣さばきならぬ筆さばきが鮮やか。いずれ時代小説を書こうと思って枕元に三田村鳶魚を山のように積んであるのですが、ずいぶん勉強になったかも。「覘き小平次」は小平次の存在感が凄い。なんだか哲学者みたいです。最も薄い色に独特の光沢がある幕が開いては閉じるからくり芝居を見物したような読後感。ついでにここでも俳句を引用します。「小平次がまだ生きてゐる蚊帳の中 筑紫磐井」。
(小説以外)下條信輔「〈意識〉とは何だろうか」(講談社現代新書)、「デ・キリコによるデ・キリコ展図録」(毎日新聞社)、勢古浩爾「まれに見るバカ」(洋泉社新書)、山田風太郎「コレデオシマイ。風太郎の横着人生論」(講談社+α文庫)、真石博之「『うっちゃり』はなぜ消えたのか」(日本経済新聞社)、諸橋轍次「十二支物語」(大修館書店)、林海峰「システム布石 中国流」(誠文堂新光社)。
 「コレデオシマイ。」は「僕らが小説だけで食えた、最後の世代かもしれん」で終わるのですが、確かに晩年は困窮したとはいえ大坪砂男は短篇だけで食ってたんだから、昔のほうがはるかに良かったのかも。



12.29
 連載と長篇Aを進める。第三句集の原稿がおおむね完成。13歳のプロ棋士の番組を見て刺激を受け、夜は碁の勉強。碁を覚えた年齢だけはあの少年とほぼ同じなのだが。
 

12.30
 連載・長篇B・長篇Aを少しずつ書いて仕事納め。今月の執筆枚数はジャスト150枚でした。もう月産200枚はつらいので(最高記録の300枚はなおさら無理)、来年からは三段階標準を設ける予定です。A標準は167枚、B標準は150枚、C標準は125枚。順に年産2000枚、1800枚、1500枚となります。私の一冊の平均枚数は四百枚だから、これでいいはずなんだけど。
 

12.31
 秘書猫をつれて八時過ぎに帰省。相変わらず伊賀上野は遠かった。舞台との直線距離が近い地点で「戌神はなにを見たか」を読み終えたのはいい感じだったかも。あとは田舎のデフォルトの紅白。中島みゆきはダムの上に立って歌うのかと思っていたのだが。