2.1
 連載・長篇B・長篇Aを進め、短篇Aを起稿し、夜はゲラ。先月の執筆枚数は173枚(A標準)でした。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうはパーティに出ました。あたらしくきたおともだちのトラのラルちゃんをつれていきました。でも、あんまりあそんでもらえなかったので、会場にいた女の子とむりやりあそびました。おわり。
 

[読書メモ]
(小説)持病の「人の小説を読めない病」につき、今週はお休みです。
(小説以外)小柴昌俊「物理屋になりたかったんだよ」(朝日新聞社)、武相高校鉄道研究同好会「今日ものんびり都電荒川線 チンチン電車でめぐる駅前銭湯と下町の風景」(竹内書店新社)、小泉定弘写真集「工事中 尾久橋通り日暮里・舎人線を歩く」(リトル・ギャラリー)、町田忍「銭湯の謎」(扶桑社)、斎藤茂太「『まさか』の人に起こる異常心理」(主婦の友社)、高橋いずみ「パニック発作、自分が壊れていく 私はアダルト・チルドレン」(講談社)、木村虹雨「辞世の一句」(角川書店)、羽生善治「羽生の頭脳4 居飛車穴熊と左美濃」(日本将棋連盟)、丹羽基二「難読珍読 苗字の地図帳」(講談社+α新書)。
 日暮里界隈ではまだ影も形もありませんけど、北の町ではもう高架鉄道の工事が着々と進んでいるらしい(意味なく「襟裳岬」を踏まえたりしてますが)。もし完成したら前から気になっている足立区皿沼へ越そうかな。


2.2
 そろそろ連載の追いこみモードなのだが、一日2枚どころか1枚書くのもやっとの状態。ときどき全文削除したくなったりする。というわけで鬱状態だったのだが、あと一歩で逆転ばかり食っていた激指2の三段モードにようやく先手番で勝ったので気分が少し晴れる(なぜか後手のほうが好きで勝率も高かったりする)。やはり性格は穴熊向きなのかも。
 

2.3
 昨日よりは復調。連載・長篇A・短篇Aを進め、短篇Bを起稿、夜はゲラ。中に入っている人を入れ替えるのが大変である。
 「将棋世界」3月号を読む。竜王戦3組1回戦、伊藤果七段vs高田尚平六段の夢の対決(と思う将棋ファンはたぶん百人くらいいるだろう)は予想どおりわけのわからない戦いになった模様。風車の三段玉を試したらコンピュータにボコボコにされたけど。囲碁の夢の対決は宮沢吾郎九段vs本田邦久九段なのですが、これもわけのわからない戦いになりそう。
 

2.4
 仕事は連載・長篇B・長篇A・短篇A・ゲラ。夕方、懸案の靴を買う。と書くと、いままで裸足で歩いていたかのようですが。
 

2.5
 連載の下書きを終える。20枚書くのが精一杯になってきた。うーむ。その後は長篇A・長篇B・短篇B・短篇A・ゲラを少しずつ進める。
 

2.6
 連載を画面上で推敲してプリントアウト。推理作家協会と現代俳句協会の会費を同時に振りこんだら急に懐が寂しくなってしまった。長篇Bはようやく150枚に到達。早く人を惨殺したくてうずうずしているのだが。
「無駄な一喜一憂をしない」をポリシーにしていたら去年はついにプロ野球の話題を振れなかったもので、今年はここで。物心ついたころにミラーという助っ人が中日ドラゴンズの四番を打っていたから、「すわ十年に一度のチャンスか。ついに半世紀ぶりの日本一か」と期待していたのですが、どうやらヌカ喜びだったらしい。というわけで、間違って開幕から12連勝でもしないかぎり、また来年。
 

2.7
 連載をメールしたあと、午後4時より日暮里ルノアールで幻冬舎のS儀さんと打ち合わせ。内容はまだ秘密ということで。なぜか囲碁と将棋の蘊蓄ばかり語っていたような気がする。その後は「無言劇」の著者校の一回目をやっと終える。こんなにゲラに加筆したのは初めてかも。
 

2.8
 長篇B・長篇A・短篇A・ゲラ。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。クラニーせんせいが「おまえは秘書なんだから、かくてい申告のちょうぼをつくれ」といいます。でも、ミーコにはむずかしいにゃ。おしまい。
 

[読書メモ]
(小説)今週もお休み。ゲラの見通しがついたので来週からリハビリの予定です。
(小説以外)景山忠弘「とにもかくにも大相撲」(ナンバーワン)、福崎文吾「振り飛車穴熊戦法」(創元社)、小柴昌俊「ニュートリノ天体物理学入門」(講談社ブルーバックス)、枝川公一「東京はいつまで東京でいつづけるか」(講談社)、講談社ノベルス編集部・編「密室本 メフィスト巻末編集者座談会」(非売品)、川村湊「日本の異端文学」(集英社新書)、嵐山光三郎「東京旅行記」(マガジンハウス)、羽生善治監修「羽生が選んだ逆転の手筋」(近代将棋3月号付録)。


2.9
 囲碁と将棋に加えてマラソンまであると仕事にならない。おまけに、コンピュータ将棋の回数がむやみに増える。ついテレビ棋戦と同じ戦法で指してみたくなってしまうのだ。それにしても、時間を費やしているわりには腕が上がらないな。父方のいとこに将棋で人生を誤りかけたアマ五段の人がいるんですけど、その人は数学科だからなあ。数学ができなくて国立をすべった文芸専攻出身者には荷が重いか。
 

2.10
 長篇Aの第七章まで終了、350枚をクリア。
 将棋は得意戦法に特化したほうが賢明だと判断し、風車と振り穴に絞って練習する。
いやしかし、終盤力のない風車党(玉が逃げる方向を間違える)および自玉のほうから端攻めに行ってしまう穴熊党(往々にして逆襲を食らう)ってヘボの見本かも。


2.11
 短篇Bの取材で近くの銭湯へ。ちょうど部屋から古風な構えが見えるのだが、行くのは初めて。3年ぶりの銭湯なので妙に緊張したりする。久々に熱い湯に浸かったら、すっかりのぼせてしまった。まさに体を張った取材と言えるだろう。ちなみに、短篇Bは銭湯ホラーです。
 

2.12
 長篇B・長篇A・短篇A・短篇B・ゲラを進める。
 早めに宣伝です。長篇ホラーの代表作ということになっている「ブラッド」(集英社文庫)は20日発売予定です。同時刊行は牧野修「忌まわしい匣」、田中啓文「異形家の食卓」、まるで特殊小説家三役揃い踏みのような偏ったラインナップになっております。なお、「ブラッド」の解説は特殊評論家の笹川吉晴さん。氏のファンの方も刮目してお待ちください。
 

2.13
 仕事は昨日と同じ。王将戦のネット中継が気になって逃避回数多し。それにしても佐藤棋聖は調子が出なかったな。相穴熊でジリ貧になり、苦しまぎれに端攻めに行って最後は大差って私の将棋みたいではないか。夕方は久々に散髪。タマちゃんがどーしたこーしたという話題を振られてもリアクションに困るんだけど。
 

2.14
 今日はとても執筆者がかぶりそうにないムックと雑誌が同時に届きました。一冊目は「SFが読みたい! 2003年版」(早川書房)、国内アンケートに参加しています。素朴にSFから選んだつもりなのですが、やはりそこはかとなく邪悪かも。二冊目は「俳壇」3月号(本阿弥書店)、「光る新鋭作家たち」という欄に怪しい写真つきで登板しています。俳句に関しても何がデビュー作なのかよくわからないのですが、一応のところは1991年刊行の「燦 『俳句空間』新鋭作家集」(弘栄堂書店)がそれに該当するものと思われます。その後12年経っても、まだ新鋭のままなんですね。ま、そんなもんでしょう。
 

2.15
 仕事はガス欠気味。「無言劇」のゲラがようやく完成する。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうはかくてい申告のちょうぼをつくろうとしたのですが、「ぬいさん」と「その他」にわけたらクラニーせんせいに「こんなんじゃだめだ」としかられたのでやめました。くすん。
 

[読書メモ]
(小説)柴田よしき「猫は聖夜に推理する」(光文社カッパ・ノベルス)、井上雅彦「奇妙な幻獣辞典」(実業之日本社)、菊地秀行「魔界都市ブルース 孤影の章」(祥伝社ノン・ノベル)、西澤保彦「ストレート・チェイサー」(光文社文庫)。
 今週はご謹呈いただいた本で小説読みのリハビリをしておりました。ありがとうございます。まだずいぶん未消化なのですが・・・。
(小説以外)モーリス・ブランショ「来るべき書物」(現代思潮社)。
 時間と死と言葉と作者についてのブランショの語りは透明感のある陰鬱な音楽のようで、寝る前にちびちび読むとしみじみといいです。最も印象に残ったフレーズを引用します。
 「砂漠とは、未だなお時間ではなく、また空間でもない。それは場所を持たぬ空間であり、ものを生むことなき時間である。そこでは、人はただ、彷徨することが出来るだけだ」(「予言の言葉」より)。


2.16
 連載のゲラをチェックして再開。とりあえず一行のみ。
 早指し戦で米長永世棋聖が右玉を採用して羽生竜王にボコボコにされてましたが、右玉って破られて相手の攻めが続くと泣きたくなりますね。こんなガラス細工のような美しい囲いをどうして攻めようとしますか。こうなったら負けても負けても風車だ。どうでもいいけど、女流棋士はアニメ声の人が多くてわりといい感じかも。ほんとにどうでもよかった。
 

2.17
 秘書猫をつれて神保町へ。まず2時30分よりルノアールで東京創元社のK島さんと打ち合わせ、「無言劇」のゲラを渡す。刊行は4月か5月の予定です。あとは次回作の話など。続いて4時より古瀬戸で集英社のI藤さんと打ち合わせ、「ブラッド」(集英社文庫・533円)の見本を受け取る。著者のイメージを反映してか、背表紙は純白となっております。それにしても、同時発売の牧野さんの顔写真は護送される犯人にしか見えないのだが。この人はいったい何をやってしまったのだろう?
 

2.18
 女流名人戦のネット中継をチェックしながら連載・長篇B・長篇A・短篇A・短篇Bを進める。夜は後手に回っている帳簿作り。いまごろ去年の年収を把握しているようではいかんかも。
 さて、「小説すばる」3月号が届きました。連作「十人の戒められた奇妙な人々」第五話「センイは喪失する」が掲載されています。小説の掲載順はアグネス・チャンの次ですね。すると、あたしは南沙織かしら。・・・石を投げないでください。
 

2.19
 どうも言葉の質感がいまひとつで不調。本日は今年最大の隠し球、第三句集「魑魅」(邑書林)のゲラが届く。刊行時期などの詳細については後日発表ということで。


2.20
 連載・長編A・短篇A・短篇B・ゲラ・帳簿を進める。月に短篇二本はつらくなってきたな。
 

2.21
 棋王戦のネット中継を折にふれて見ながら仕事。夕方は徒歩二分の場所にある図書館へ。たかだか数万冊の蔵書なれど、やはり開架式の図書館はある種のワンダーランドという気がします。私は作家にしては珍しく図書館擁護派で(むかし、ちっとも売れなくて押し入れに死蔵していた自費出版の短篇集をほうぼうの図書館へ謹呈していたという個人的な思い出も微妙に絡んでくるんですけど)、むしろ数が少なすぎるのではないかと思っています。いまの三倍くらいあれば(もし全体で三千部も入れば)ハード主体の規模の小さい版元や著者は堅い商売になっていいように思われるのですが。
 

2.22
 短篇Aをとりあえず最後まで書く。これじゃ全然ダメかも。長編Aは第八章まで終了、400枚をクリア。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは打ち合わせについていきました。ミーコもクラニーせんせいといっしょにお写真にうつってるから「ブラッド」かってね。おしまい。
 

[読書メモ]
(小説)鯨統一郎「『神田川』見立て殺人」(小学館・文芸ポストNOVELS)、柴田よしき「猫と魚、あたしと恋」(イースト・プレス)、菊地秀行「ブルー・ソルジャー 完結篇」(中央公論新社・C★NOVELS)。
 今週もリハビリ続行中。「『神田川』見立て殺人」は40代を狙ったかのようなセレクションですが、勝手に続篇を考えているとわりと飽きなかったりします。「折鶴」見立て殺人、「悲しみは駆け足でやってくる」見立て殺人、「Deep」見立て殺人、「ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ」見立て殺人・・・マイナーすぎますかそうですか。
(小説以外)週刊将棋編・湯川博士「新版奇襲大全」(毎日コミュニケーションズ)、モーリス・ブランショ「友愛のために」(《リキエスタ》の会)、山田史生「将棋名勝負の全秘話全実話」(講談社+α文庫)、大崎善生「編集者T君の謎 将棋業界のゆかいな人々」(講談社)、杉本一文銅版画集「翼類伝説」(岩崎電子出版)、アンドレ・ブルトン美文集「至高の愛」(エディション・イレーヌ)、先崎学「先崎学の浮いたり沈んだり」(文藝春秋)、江崎誠致「呉清源」(新潮社)。
 名著「新版奇襲大全」で最も印象深かったのは一ページだけ紹介されている森安流棒玉穴熊。故森安秀光九段が考案した奇策で、途中図は次のとおりです。
 
    歩 歩 歩   歩     
歩 歩 角   銀 歩 玉 歩 歩 
            飛     
香 桂   金   金 銀 桂 香 

 組み上がりはどこから見ても振り穴なのですが(成功すると相穴熊にはならない)、一度も飛車を振っていないため、正確には袖飛車右穴熊もしくは右居飛車穴熊だというところが実にマニエリスティック。何度も試してるんですけど、激指2は許さんとばかりに猛然と攻めてくるので(東大将棋4は笑って見逃してくれるのだが)、対策に苦慮しているところ。


2.23
 短篇Aを推敲。確定申告はようやく帳簿が終わり、内訳書の下書きへ。なかなか計算が合わなくて暴れたくなる。青色の十万コースだからそうたいしたことはやってないんですけど、月別収入の総合計と十数社のクライアントの支払調書に記された収入の合計が一致しないと原因を究明しなければならないのです。毎年犯すミスは、初版印税額と献本分を差し引いた振込額を間違えるというやつですね。青色申告会には「パソコンでやってますから、ご指導無用」と見栄を張っているのですが、実情はソフトではなく清書だけでひたすら電卓頼り、どうも無駄な労力を費やしているかもしれない。
 

2.24
 連載・長編A・短篇Bを少しずつ進め、確定申告の書類の下書きを完了。それにしても、源泉で一割引かれているのに、まだこのうえ税金を納めねばならんとは。・・・と一度でいいから日記に書いてみたいものだ。還付金で取材旅行に出ようかな。
 

2.25
 句集のゲラを返送し、あとは昨日とほぼ同じ。
 去年からゲラを戻すたびに赤字がきれいだと感心されるもので、僭越ながらアドバイスをひとつ。「赤字の引き出し線を文字面にかけない」これに留意するだけでもゲラは格段に見やすくなると思います。
 

2.26
 棋聖戦のネット中継をチェックしながら仕事。女流名人戦(囲碁)はMacだと見られない。ボードゲームだけのためにwin機を買おうかと思ったりする今日この頃。では、久々に今週の十句です。
 如月の吉凶われの眼の中に
 暴力の行き着く果てか冬の釘
 荒星やテルミン少し転調す
 根雪その中心にあり赤い靴
 小数点は言葉か否か二月尽
 一片の英知を 霙ふりしきる
 朱欒ひとつ鏡の中で腐りをり
 笹鳴や井戸の縁にはちいさな手
 一本は冬木のまねをしてゐたり
 駅伝の黒い襷よ誰か死ぬ
 最後に、「小説推理」4月号が届きました。「The End」連載第18回が掲載されています。装画を担当していただいている高瀬智佳子さんのイラストは、今回ことにイメージどおりでした。ありがとうございます。


2.27
 新三河島の荒川税務署へ赴き、確定申告の書類を提出、ほっとひと息つく。その後は京成で荒川区が誇る繁華街・町屋へ向かい、ぶらぶら散歩。食い物屋がむやみにあって住みやすそうな街である。都電荒川線で今度は北区の中枢・王子へ。将棋センターを見つけたから入ろうかなと思ったのだが、真剣師でも出てきそうな界隈の雰囲気だったのでやめる。花の咲いていない飛鳥山公園を散策したあと、ガイドブックに載っていた無識庵越後屋へ。王子のきつね、星の王子さまなど、面妖なメニューが並んでいる蕎麦屋である。蕎麦ツアーの三軒目だったから種物はパスし、王子のもぐらを食す。もぐらの正体は辛味おろし、これは地下鉄南北線開通記念で、もぐらも大根も土の中という見立てらしい。蕎麦自体は大変結構、満足して京浜東北線で帰宅。
 山下敬吾七段が棋聖位を奪取。これで高尾八段が十段を獲れば、いよいよ羽根天元を加えた三羽烏の時代の到来でしょうか。さらに若い河野六段や瀬戸四段なども含め、厚く打つ棋士の勝率が圧倒的に高いような気がします。女流名人戦(将棋)は中井広恵名人が防衛。角換わりの右玉ってよくボコボコにされるのですが、さすがにうまく指すものですね。
 

2.28
 昨日歩きすぎた反動で調子悪し。仕事もあまり進まず。今月の執筆枚数は167枚(A標準)でした。