4.1
 長篇Aを最後まで書く。第一稿は550枚。まだ穴だらけだから今月はじっくり推敲することにしよう。それにしても、よくこんなアホな話を最後まで書いたものだ。いや、べつにいまに始まったことじゃないんだけど・・・。
 

4.2
 ずいぶん長い時間がかかったけれども、体重52kg、体脂肪率13%前後の元の状態に戻る。抗鬱剤と睡眠薬を常用していたころはあれほど好物だったチョコレートがまったく食べられなくなり、一時は体重47kg、体脂肪率1桁まで落ちてしまったのだ。最近はほぼ毎日食べている。チョコレートで戻してもという気もするのだが。
 

4.3
 連載と長篇Bを進める。将棋は相変わらず風車に専念。対振り飛車の風車は、とりあえず飛車を振られた筋に振り返して速攻を封じ、約50手もひたすら忍従して(間違っても攻めたりはせず)中住まいの正調風車に組んでから棒金という方向で試行錯誤中。相居飛車の風車は東大将棋や激指とほぼ互角の勝負ができるようになったのだが、まだまだ道は遠いか。なお、伊藤果「風車の美学」を探しているのですが、ネット古書店でも入手できません。高価買い取り致しますので、お譲りいただける方はメールください。
 

4.4
 連載を最後まで書く。だんだん週刊誌並みの連載枚数になってきた。うーん。ひと区切りついたので、秘書猫をつれて近所の公園へ夜桜見物に出かける。満開の桜の樹の下に黒猫とともに佇むと、死んで鬼にでもなったような気分でいい感じでした。
 

4.5
 今日はもっぱら推敲。升田幸三賞はカニカニ銀の児玉孝一七段が受賞。こういう一人一派のマイナー戦法に固執して独自の戦いをしている棋士に与えられるのは本筋でしょう。この流れなら、伊藤果・高田尚平・武市三郎と続くはずなのだが。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、クラニーせんせいが夜ざくら見物につれてってくれました。ぜんぜんライトアップされてなくてちょっとじみでしたが、ミーコは初めてさくらにさわったのでまんぞくです。おしまい。
 

[読書メモ]
(小説)今週は完読なし。
(小説以外)ブルーガイド編集部・編「お江戸探訪 東京・江戸を歩く」(実業之日本社)、「三段合格の死活150題」(日本棋院囲碁文庫)、小川明久「終盤の定跡 基本編」(MYCOM将棋文庫)、シルヴィー・ジョドー「シオラン あるいは最後の人間」(法政大学出版局)、福田国士「地図から消えた『東京の町』」(祥伝社黄金文庫)、E・M・シオラン「涙と聖者」(紀伊国屋書店)、平山夢明編「『超』怖い話A」(竹書房文庫)。
「シオラン あるいは最後の人間」は〈神なきグノーシス〉や音楽といった視点が鮮やかな評論。「オマージュの試み」以降の邦訳テキストを読んでいなかったのでぼちぼち再開。「涙と聖者」でしみじみと良かったのはこのくだり。これは「青い館の崩壊」のなかで引用したかった。
「すべてのものはすでにして存在した。私には生は実体なき波動のように思われる。事物は二度と繰り返されることはなく、私たちはすぎ去ったひとつの世界の反映のなかに生きており、その世界の遅いこだまをひきのばしているように見える。記憶は時間への反証にとどまらない。それはまたこの世界への反逆でもあり、私たちの内部に、ありえたかも知れぬ過去のさまざまの世界と、楽園をもって飾られるそれらの世界の頂点とをぼんやりと啓示するのである」(P53)。


4.6
 不調につき半休。新棋戦のJALスーパー早碁と両NHK杯トーナメントが開幕。スーパー早碁の形勢判断ボードはもう少し金のかかっている(ように見える)ものにはならなかったのかしら。テレビ東京だから仕方ないか。
 

4.7
 全面リニューアルすれば(入念に再検討して頭から全部書き直せば)使えそうな長篇の存在を思い出し、とりあえずプリントアウトしておく。あとは連作短篇のプロット作りや推敲など。
 

4.8
 なぜこの時期に年賀状を出し忘れて蒼くなる夢を見なければならないのか腑に落ちないが、それはともかく連載をメールし、長篇Bと推敲を進める。
 

4.9
 また急に暖かくなったので順応できず。長篇Aの第一次推敲が完了。夜は推定十数年ぶりに二時間ドラマを観ようとしたのだが(「血塗られた将棋駒」という番組)、二十分くらいで挫折。不自然なイントネーションの関西弁は生理的にダメなのだった。
 

4.10
 俳句同人誌の原稿を送り、長篇Bを進め、長篇Aの加筆作業に着手。
 例によって紀伊国屋Webから発注した本が届く。三千円もする「韓国囲碁年鑑2002」なんてものを買ってしまった。私は模様の碁が好きなので棋風は違うのですが、勉強にならないはずはないからイ・チャンホの碁を並べてみるつもりです。
 

4.11
 夕方から秘書猫をつれて久々に谷中へ。川むらでさくら切りそばを食べたあと、谷中墓地の奥まったところで桜見物。その後は上野桜木から鴬谷というタクシーの午前様ルートをひたすら歩いて帰宅。
 

4.12
 第三句集「魑魅」(邑書林・1905円+税)が届きました。句集は久々なので感慨もひとしおです。なお、一般書店での注文はすでに可能、ネット書店は来週の半ばくらいにデータが入る見込みです。句集にしては多めの部数なので大書店の特殊なコーナーには入荷されると思うのですが、最も確実な入手方法は邑書林のHP経由です(自力でリンクを貼れないため、ご面倒ですが検索してください)。一冊から注文可能で、送料無料・翌日発送だそうです。よろしくお願いいたします。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうもクラニーせんせいがお花見につれてってくれました。せんしゅうはまんかいだったのに、もう葉ざくらになってました。さくらさんはたいへんだにゃとおもいました。んーと、ナマ猫さんがたくさんいたのでごあいさつしました。おわり。
 最後に、「ジェイ・ノベル」5月号が届きました。東京下町ホラー第二話「昭和湯の幻」が掲載されています。銭湯ホラーです。次は都電ホラーを構想中。


(管理人註:リンクはっておきました)
 


[読書メモ]
(小説)笠井潔「オイディプス症候群」(光文社)。
 必要あって、読むのも書くのも不得手な大作をようやく読了。「ロンド」と「紙葉の家」はいったいいつ読むのかしら。ちなみに、プルーストはもうあきらめました。発作的に「大菩薩峠」を買わなくてよかった。
(小説以外)王銘〓「銘〓流石の動き『広い方から押し込む』」(NHK出版。〓は王ヘンに宛、「さすが」の動きではない)、丸山圭三郎「生の円環運動」(紀伊国屋書店)、日本将棋連盟女流棋士会編「女流棋士の本」(日本将棋連盟)、河口俊彦「大山康晴の晩節」(飛鳥新社)、シオラン「敗者の祈祷書」(法政大学出版局)、「名局細解 高尾紳路八段vs山下敬吾七段」(「囲碁」5月号付録)。
 では、なぜかレギュラー化してしまった今週のシオランです。
「無限によって駆り立てられる精神において、夢はどんな真理よりも実在的なものだ。世界は存在しない。世界は、私たちの魂の燠が始まりの戦慄によってかき立てられるそのつど、創り出される。『自我』とは無の上の岬であり、『自我』はそこで実在の光景を夢みるのである」


4.13
 長篇Aの修正と再プリントアウトが完了。あともう少しである。
 テレビの囲碁棋戦はどちらも終盤に逆転。私はこらえ性がないので形勢が悪くなると無理な手を打ってあっさり投げてしまうのですが、碁は最後に悪手を打ったほうが負けるゲーム、やはり辛抱と粘りが肝要のようです。
 

4.14
 早めに連載を再開し、長篇Bを進め、夜は長篇Aの第二次推敲にかかる。
 また将棋の話題です。対振り飛車の正調風車はうまくいっても千日手にしかならないので(振り穴が相手なら使えそうなんだけど、コンピュータはなぜか必ず銀冠に組む)、左だけ風車のクラニー流左玉で棒金という攻め筋を試行錯誤中。完成すればオリジナル戦法だと思うのですが。
 ちなみに、基本的な駒組は下記の通りです。

              歩
歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩   歩
    桂 銀 角 銀 桂  
    王 金 金(←この金が右方へ遠征) 
香             飛 香

 組み方の要点は、
1. 飛車を振られた筋に振り返す(機を見て8筋に移動)
2. 角道を止める。
3. 3二金からいったんカニ囲いにする(序盤は専守防衛)。
 攻め方は、
1. 基本図から棒金スズメ刺しで端を破る(迂遠だ)。
2. 龍か馬を作って自陣に引き、押さえこみを狙う(攻め合いは玉型が薄いので避ける)。
3. あとはと金攻めで、場合によっては入玉を狙う。
 これで長手数でたまに勝てたりするのですが、どこかで失敗すると見るも無残に潰されます。こんな戦法、誰か使ってくれるのかしら。とりあえず早石田やゴキゲン中飛車などの乱戦は封じられるので、気合の悪い陰気な将棋が好きな方にはお奨めなんですけど、決して作戦勝ちにならないのは致命的なネックかも。
 


4.15
 連載のゲラを戻し、連載と長篇Bを進める。長篇Bはやっと200枚に到達。その後は短篇A・B・Cのプロットを作り終え、とりあえず短篇Aを起稿。夜は長篇Aの第二次推敲を完了。疲れた。
 さて、「小説すばる」5月号が届きました。連作「十人の戒められた奇妙な人々」第六話「ヴィーナスは歌う」が掲載されています。この連作ではモーセの十戒を一つずつ潰しているのですが、今回は「姦淫してはならない」をぶつけてみました。また、「一言万象」のコーナーにも登板しています。「行楽シーズンですね。お弁当に欠かせない一品といえば何ですか?」という(私には)難しい質問だったので苦しまぎれに答えたのですが、思いきり浮いてますね。そう言えば、行楽のお弁当って食べた記憶がないし、そもそも行楽に出かけるという発想それ自体が欠落しているのだった。
 

4.16
 長篇Aの最終仕上げをしてFD作成。ようやく一つ終わった。反動で脱力したのでその後は半休。
 

4.17
 連載・長篇B・短篇Aを少しずつ進める。
 今週は拙句集「魑魅」に関する御礼状とメールを多数頂戴いたしました。とても励みになります。まとめてで誠に恐縮ですが御礼申し上げます。
 

4.18
 午後二時より神保町の古瀬戸で祥伝社のY田さんと打ち合わせ。詳細は後日発表ということで。出版社対抗の将棋大会に出るというY田さん(自己申告7級)にいろいろと秘策を伝授する。将棋盤があればもっと教えられたんだけど。その後は神田まつや経由で秋葉原へ。七千円もする詰め碁ソフト(約千題収録)を買って帰宅。
 

4.19
 連載・長篇B・短篇Aを進める。全部ダウナー系だと気が滅入りますね。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。クラニーせんせいがミーコせんようのメールボックスを追加してくれました。ときどきせんせいからおてがみがきます。「ミーコや、げんきですか?」とかかいてあります。ヘンだにゃ。
 

[読書メモ]
(小説)霞流一「呪い亀」(原書房)、小川勝己「まどろむベイビーキッス」(角川書店)、西澤保彦「スコッチ・ゲーム」(角川文庫)、柴田よしき「好きよ」(双葉社)。
「呪い亀」は亀の蘊蓄が未刊の拙作とかぶってるんじゃなかろうかと緊張しながら読んだのですが、幸い大丈夫だったのでほっとひと息。「まどろむベイビーキッス」は万人に薦められる爽快なエンターテインメント・・・だと思うんだけど違うかも。「スコッチ・ゲーム」は百合物だったんですね。いや、百合物と規定するのはどうかと思いますが、ことにP55の以下自粛。「好きよ」はある程度の予備知識があったにもかかわらず仰天。これは力技だなあ。
(小説以外)先崎学「ホントに勝てる穴熊」(河出書房新社)、シオラン「告白と呪詛」(紀伊国屋書店)、笠井潔「探偵小説論序説」(光文社)、武宮正樹「武宮宇宙流妙手録」(三一書房)。
 では、なかには楽しみにしている方もいるらしい今週のシオランです。
「私たちは、ある国に住むのではない。ある国語に住むのだ」(P26)
「生にはなんの意味もないという事実は、生きる理由の一つになる。唯一の理由にだってなる」(P74)
「全力をあげて、私は、宇宙を--私のいない宇宙を思い描いてみる。さいわいにして死というものがあり、私の想像力の不足分を補ってくれる」(P94)


4.20
 どうでもいい区議会議員選挙などというものが始まってしまい、うるさくて閉口。コンビニの店員の名札は「きむ」か「ちょ」か「ぱく」という町に住んでるから、都知事選は静かでよかったのだが。
 NHK将棋トーナメントは236手の泥仕合。かつて後楽園ホールでたまにボクシング観戦をしていたころ、絶妙のタイミングで「両方負け!」というヤジを飛ばして笑いをとる名物おやじがいたことを唐突に思い出したりしました。面白かったけど。
 

4.21
 また将棋の話題です。東大将棋4の「女流棋士に挑戦」(安食総子女流初段との模擬対局七番勝負)でついに勝つ! 酔っぱらってノータイム指しでカッとして続けて十番くらい負けたりすることはよくあったにせよ(出だしが連敗だとどうもやる気が失せてしまう)、通算成績427戦56勝370敗1分でよく勝ち越せたものである。東大将棋5のPS2版が出るまでに勝ててよかった。ちなみに、相手は四間飛車一辺倒、戦型は以下のとおりです。
第一局 先・千日手(串カツ囲い)
第二局 後○(陽動ミレニアム)
第三局 先●(高田流左玉)
第四局 後●(クラニー流左玉)
第五局 先○(5五角)
第六局 後○(居飛車穴熊)
第七局 先○(居飛車穴熊)
 優勢な将棋を千日手にしてしまい、気合が入ったのが勝因かも。「島ノート」で勉強した甲斐があったなあ。


4.22
 今日も朝から選挙カーがうるさい。中島義道を千人くらい野に解き放ちたいような気分。かえってうるさくなってしまうか。長篇Bはようやく前半の第一部が終了。来月は取材に行かねばならないのだが・・・。
 

4.23
 午後、久々に千駄ケ谷の幻冬舎へ赴き、担当のS儀さんと打ち合わせ。連作形式長篇「学校の事件」(事件シリーズ第3弾)のリニューアルの件。例によって着地などが決まっていなかったのですが、これで改稿すればすっきりしそうです。なお、同書は7月下旬に単行本上梓の予定です。「田舎の事件」と同じくらい面白いという評判なのでご期待ください。また、その「田舎の事件」が文庫化されます。幻冬舎文庫より6月10日刊行の予定です。併せてよろしくお願いいたします。
 せっかく千駄ケ谷に来たので、終了後はすぐ近くの将棋会館道場へ。初めて足を踏み入れる総本山だから緊張する。平日の昼間とあって道場には子供の姿が目立つ。一局目は得意の風車に組み、桂馬の丸得をして見るからに優勢。しかし、ここで急に顫えて手が見えなくなってしまい、勝負どころで緩手を連発して逆転負け。うーん、情けなし。二局目はやたら手つきのいい男の子と対戦。こちらは性懲りもなく風車、組む手順前後を斜め棒銀でとがめられて大苦戦。中盤までは完敗モードだったのだが、今度はここから力を出し、乱戦に持ちこんで勝負手を連発、ついに敵玉に必至をかけて逆転勝ち・・・かと思いきや、十数手詰めを入念に読まれてヌカ喜びに終わる。私が投了を告げたときの男の子の笑顔が印象的でした。そらおっちゃんかて、ボクくらいのころから勉強してたらもうちょっと強なってんねん。というわけで、連敗で根が続かなくなり、早々に退散。あかんなあ。
 

4.24
 連載と短篇Aを進める。急な短篇の依頼があったし、これから複数のゲラは来るし、ゴールデン・ウィークはべたっと仕事の模様。
 

4.25
 連載を進め、新短篇Aのプロットを作って起稿し、短篇A改めBの稿を継ぐ。夜は改稿の下書き。
 今週も拙句集「魑魅」についての御礼状を多数頂戴いたしました。ありがとうございます。「私説昭和歌謡史」が意外に好評なので、いずれ昭和三十年以降の続篇を作ろうかなと思っております。
 さて、「小説推理」6月号が届きました。連載「The End」第20回が掲載されています。ようやく終章にたどり着きました。あと2回で完結する予定です。
 

4.26
 仕事は昨日とほぼ同じ。ただし不調。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。クラニーせんせいがごやしょうぎのばんぐみをよくみるので、こんしゅうは秒よみとよみ上げのれんしゅうをしました。「ごて、にゃにゃにゃにゃ、ふ」
 

[読書メモ]
(小説)伊島りすと「橋をわたる」、牧野修「ファントム・ケーブル」、小林泰三「家に棲むもの」(以上、角川ホラー文庫)。
 今週はホラー文庫の消化に専念(積み残し多し)。「橋をわたる」はこの薄さがいい感じ。「ファントム・ケーブル」のベストは「死せるイサクを糧として」、これは感動してしまった。代表短篇の一つでしょう。「家に棲むもの」のベストは疑似菜食主義者の琴線に触れた「肉」でした。
(小説以外)長山靖生「怪獣はなぜ日本を襲うのか?」(筑摩書房)、「次の一手 戦いの急所」(「碁ワールド」5月号付録)、探偵小説研究会編「本格ミステリこれがベストだ! 2003」(創元推理文庫)、E・M・シオラン「絶望のきわみで」(紀伊国屋書店)、林信吾「日本国ロンドン村」(マガジンハウス)、佐々木ひとみ/文 本郷けい子/画「ふだん歩きのイギリスノート」(大和書房)。
 では、今週のシオランです。
「世界のなかに私が消えうせ、私のなかに世界が消えうせ、そして私たちが、惨憺たる夢を、結末のヴィジョンにも似た奇怪な、崇高な夕暮れにも似た壮麗なる夢を錯乱のなかで生みださんことを。私たちの夢の織物から、謎めいた燦然たる輝きが、心を奪う影が生まれ、くまなき火炎がこの世界を呑み込み、その火炎から、死におとらず複雑な、虚無さながらに心を魅する、夕暮れの快楽の生まれんことを」(「絶対的情熱」より)


4.27
 暗い日曜日である。十数年前のことをふと思い出したり(意味不明)。
 

4.28
 四時より日暮里ルノアールで東京創元社のK島さんと打ち合わせ。「無言劇」の再校ゲラを受け取る。同書は6月10日、「田舎の事件」(幻冬舎文庫)と同日発売になります。その後は湿っぽい話題など。いろいろと日程がタイトなので、さっそく夜からゲラに着手。妙なシンクロニシティがあるのですが、私の場合は作中人物が代わりに消滅してくれるから(あるいは世界のほうを崩壊させているから)事無きを得ているのだなといまさらのように思ったりする。まあ齢を重ねて小狡くなっただけですが。
 

4.29
 秘書猫をつれて十二時より下落合、二階堂奥歯さん(享年25)の告別式に列席する。友人代表の雪雪さんの弔辞を聞いているとき(ことにぬいぐるみのピエロちゃんのくだりが・・・)と最後の献花ではさすがに感極まってだめでしたね。何とも言いようがありません。数回しかお会いすることができなかったのですが、もう少し「ぬいぐるみの哲学」の話をしたかったな・・・。
 なお、あまり知られていないようですけど、故人が編集者として関わった初めての仕事は「山尾悠子作品集成」でした(同書の出版記念パーティについて記した私の過去の日記に元気な「S嬢」として登場しています・・・)。もしお持ちでしたら、あの美しい本を繙いてあげてください。合掌。
 此処過ぎていづくの春か出棺す
 

4.30
 連載・短篇A・短篇Bを少しずつ進める。どれもこれも気が滅入るような作品ばかりである。夜は本日届いた「田舎の事件」のゲラに着手。深夜、ふだんは飲まない日本酒を飲みながら中島みゆきの「子守歌」を聴いていたら、やけに泣けて仕方がなかった。
 眠りなさい娘 恐い夢を見ずに・・・