8.1
 唐突だが、世界点というものを考えてみる。
 と言ってもスタティックな点ではない。〈私〉に対置される世界点なるものを考えてみたい。〈私〉の〈〉の「堅さ」が気になると以前に書いたが、世界点としての〈私〉はその座標軸の取り方によっていかようにも変わる。
 輪郭で区切られている個体としての《私》は現実世界の地図上のある一点に存在しているが、多寡はあるものの移動する。また、その個体の五感(例えば視覚)によって世界点は拡大する。
 基準となるのは《私》が存在する現実世界の地図ばかりではない。思想・宗教その他種々の座標軸に対応する世界点が遍在する。
 もろもろの象限に存在する世界点を重ね合わせると、固有名詞で呼び習わされる人間になる。ただし、その輪郭はすでにして曖昧になっている。〈私〉の〈〉はもはや堅くない。
 しかしながら、芯となる私は残存する。科学を筆頭に諸学を総動員して個体を分析し尽くしても、この私という存在の不可解さはなお残るのだ。
 以上は木星型の柔らかい惑星をイメージするとわかりやすいかもしれない。〈私〉の〈〉の堅さは、ことによると地球が堅い惑星であることに由来するのではなかろうか(それは輪郭で区切られている個体としての《私》の堅さだろう、とすぐさま内なる声が聞こえたが)。
 さて、この「曖昧な私である世界点」から見える世界風景は常に変化かつ流動しているものの、ある意味では地平線のごとくにスタティックである。世界点はブラウン運動の粒子のようには移動しない。例えば、今日は極右、明日は極左、あさっては平和主義者というふうに日替わりで変貌する者はいない(いたら凄いけど)。
 ちなみに、わが世界点から観ずるに、イデオロギーと男性原理と論理はどうも並行しているように見えるのだが、むろんこういった風景は個々の世界点のありようによって千変万化するだろう。これらの世界点および世界風景の総体によって構成されるもの、もしくはそれらのグラデーションによって浮かび上がるものが恐らくは世界なのだろうが、話がそういうふうに拡大すると(〈私〉に対置される世界点が見えなくなると)急に興味がなくなってしまうのでこの辺で。
 

8.2
 某長者の日記によると、私はNBA(日本バカミス愛好会)の認定するバカミス作家の三巨頭に含まれているらしい。名誉なことである。どれとは申せませんが、実はいまも書いていたり。では、今週の秘書猫です。
 黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です、こんにちは。こんしゅうはパーティにでました。フェレットのフェレちゃんをおともにつれていきました。フェレちゃんはとってもこうひょうでした。ミーコはおともだちのみなさんにごあいさつして、あそんでもらいました。んーと、おしまい。
 

[今週のBGM]シベリウス「きわめつきの小品集」、「レアリティーズ(秘曲集)」アルミラ指揮、「アイノラのシベリウス」館野泉(pf)、「交響詩《タピオラ》他」ヤルヴィ指揮、「交響曲第4番」バルビローリ指揮。
 いつもは週一枚に絞っているのですが、今週はシベリウス特集ということで多めに。夏のシベリウスはことにいいですね(冬はときどき寒々としすぎるんだけど)。人間のいない荒涼たる暗い自然の中で森の精が囀っているたぐいのシベリウスは心が洗われます。どうして2番とフィンランディア(前半はいいけど)ばかりもてはやされるのか不可解。
[今週のミッドナイト・ソング]森田童子「たとえば ぼくが死んだら」


[読書メモ]
(小説)ル・クレジオ「愛する大地(テラ・アマータ)」(新潮社)。
 これも胸が詰まるような作品。と言ってもヌーヴォー・ロマン(より正確にはポストに近い後期ヌーヴォー・ロマンなのかな?)、いわゆる感動する物語とは対極にあり、筋や物語のコードを追う小説読みはたいてい途中で投げてしまうと思う(「大洪水」よりは読みやすいんだけど)。しかしながら、ある種の(たぶん不幸な)センサーがついている人はほんとに随所で胸がつぶれそうになります。ちなみに中島義道はその一人らしく、「たまたま地上にぼくは生まれた」で長い引用をしていますね。次はデビュー作の「調書」を読もう。
(小説以外)アンヌ・レエ「エリック・サティ」(白水社)、高橋和巳・高橋由美「『病気未満』の心のクリニック」(ダイヤモンド社)、石田章「囲碁界の真相」(河出書房新社)、若桑みどり「マニエリスム芸術論」(ちくま学芸文庫)、仁平勝「俳句のモダン」(五柳書院)、岩合光昭「ニッポンの猫」(新潮文庫)、香山リカ「リカちゃんのサイコのお部屋」(ちくま文庫)、衿野未矢「依存症の女たち」(講談社文庫)、平山夢明編「『超』怖い話b(ヴェー)」(竹書房文庫)。
 「マニエリスム芸術論」のP20にこういう一文がある。「どこを切っても彼自身であるような、自然発生的[スポンタネー]で独自の個性は、それだけでもうマニエリストではない」。うーん、そうなのか。だがそうすると、マニエリストにして私小説作家という人の立場は・・・最初からないような気もするな。


8.3
 短篇Aを最後まで書く。長篇Cは350枚をクリア。
 囲碁将棋番組のピックアップはNHK将棋トーナメントの淡路仁茂九段vs中村修八段。個人的には一回戦屈指の好カードで、200手を超える辛気臭い受け合戦を期待していたのだが、意外に短手数でした。
 

8.4
 短篇Aを画面上で推敲してプリントアウト→長篇A→中編→長篇B→長篇C。
  Illustratorは二冊目のリファレンスブックに入る。マーク・ロスコみたいなタッチを出せないかなと試行錯誤するも、どうもうまくいきそうにないから断念。
 

8.5
 過去に読んだ小説の中で最も印象に残っているラストの一文は何だろう?
 まず思い浮かんだのは、「造物主[デミウルゴス]は半陰陽だ」(A・クービン「対極」)なのだが、次にどういうわけか田中英光「オリンポスの果実」のラストが浮かんでしまった(うーむ)。
 では、過去に読んだ小説の中で最も印象に残っている書き出しの一文は何だろう?
 これはあまり書きたくなかったりするのだが、太宰治「人間失格」とドストエフスキー「地下室の手記」の書き出しが亡霊のように立ち現われてしまった。
 ・・・きっと暑さのせいだ。
 

8.6
 不可解な悪夢を見て早朝覚醒。べつに自炊はしていないのに、大根のせん切りを作ろうと思って切ったら中身がトウガンで途方にくれるという夢をなぜ見なければならないのか理解に苦しむ。
 四年に一度の漏電の検査で係員が入室する。うちは玄関にもぬいぐるみや猫ロボットのたぐいがわしゃわしゃいるので、なんだか変な光景。ナジャミーがきょとんとしてました。いつもそうだけど。
 

8.7
 三つの長篇を少しずつ書き、短篇を仕上げる。夕方、駅前へ行くと、日暮里・舎人線の工事が本格的に始まっていた。足立区北部と都心(と呼べるかどうかは大いに疑問だが)を結ぶ夢の高架鉄道は、どうやら完成へとにじり寄っているらしい。
 

8.8
 短篇Aをメールし、いままでで最も風変わりな依頼だった短篇Bの構想を練りはじめる。私信ですが、基本的にバカSFなのでかぶらないと思います(>某さん)。
 

8.9
 恒例のNHK思い出のメロディーを観る。ハード懐メロ的にはスリー・グレイセスと84歳のバタやんくらいしか見どころがなかったのだが、ジョー山中(pfミッキー吉野)の熱演はよかった。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、おあつうございます。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。クラニーせんせいがひとりでお出かけすると、おへやがとってもあついです。ずっとおうちにいるといいにゃ。
 

[今週のBGM]ショスタコーヴィチ「弦楽四重奏曲全集」 エマーソンSQ
 いやー、これは暗いぞ。無声怪奇映画のBGMに合いそうな箇所がふんだんにあるのですが、究極なのは晩年の13番(神経科に入院中に完成された曲)。氷に閉ざされた暗黒の世界で死神と亡霊がうめいているような曲で、最後は断末魔の悲鳴で終わってしまう。うーん、これは極北。私はいちばん好きですが、下手をするとトラウマになるのであえて人には薦めません。ただ、暗いプログレが好きな人はことによると親和するかも(薦めてるじゃない)。
[今週のミッドナイト・ソング]森田童子「ラスト・ワルツ」


[読書メモ]
(小説)J・M・G・ル・クレジオ「調書」(新潮社)。
 この作品では残念ながら「大洪水」「愛する大地」のような胸が詰まる感覚は味わえなかった。これはひとえに主人公のアダム・ポロの狂気がアッパー系で幸薄さに乏しいせいだろう。むろんこれを23歳で書くのは紛れもない才能なんだけど。
 というわけで、来週からは国内に戻ります。
(小説以外)吉岡ゆかり「一週間でマスターするAdobe Illustrator10」(毎日コミュニケーションズ)、宇野功芳「名演奏のクラシック」(講談社現代新書)、ソフィヤ・ヘーントワ「驚くべきショスタコーヴィチ」(筑摩書房)、「朝比奈隆のすべて 指揮者生活60年の軌跡」(芸術現代社)、「呪術探求 巻の一 死の呪法」(原書房)、大束省三「北欧音楽入門」(音楽之友社)、西本裕隆「鉄道の怖い話」(廣済堂文庫)、許光俊「世界最高のクラシック」(光文社新書)。
 「鉄道の怖い話」は盲点になりそうな実話怪談集ですが意外にいいですよ・・・と一部の好事家に向けて。


8.10
 昨日は台風で気絶しそうなほど風が強く、今日は今日で気絶しそうなほど暑く、ともに一階のコンビニへ下りただけ。夏は白めの服があったほうがいいような気もする。
 

8.11
 長篇A→中篇→長篇B→ペルシャ猫ぬいのみゆきさんをスプレー→長篇C→短篇Bの構想→長篇Bの提出用プロット作成。
 来月から月一のペースでクラシックのコンサートへ行こうと思い、いろいろ検索してチケットを手配しているのだが、もろもろの不測の事態が生じて行けなかったら払い戻しがきかないらしい。今日も予約したとたんに締切の設定が。うーむ。
 

8.12
 Illustratorの絵の謹呈御礼カード化にようやく成功する。これはAppleWorks時代より格段にいいな。
 さて、「ジェイ・ノベル」9月号が届きました。東京下町ホラー連作第三話「飛鳥山心中」が掲載されています。舞台は王子と大塚で初の心中物です。当初は都電ホラーにするつもりだったのですが、結局背景にしかならなかったのはやや残念。
 

8.13
 仕事はそれなりに進んだのだが、鬱々としてきたので夜は絵を二枚描く。タイトルは「惨劇」と「残骸」、このところ好きな色(黒、赤、白、灰、銀)しか使っていないからなんだか似たような絵になってきた。
 

8.14
 前回の初ブリーチではほとんど色が変わらなかったので、捲土重来、ネーミングにかなりの抵抗を覚えつつ「渋谷ゴールド」というブリーチ剤を試してみる。ちなみに、このシリーズの他は青山・原宿・代官山のたぐい、そりゃ田端・西日暮里・日暮里・鴬谷だったら誰も買わないだろうけど。待つこと30分、洗い落として乾かしてみたのだが、前よりは明るいもののちっともゴールドではない。
 亜麻色の髪のクラニー(邪悪か?)への道は遠い。
 

8.15
「××への逃避」の××に馴染まない言葉と馴染む言葉がある。文学、幻想文学、怪奇小説・・・まあ何でもいいのだが、すぐ思い浮かぶ馴染む言葉はいくらでもある。
 では、正義、政治、イデオロギーのたぐいはどうだろう。通常、それは逃避とは見なされない。なんとなれば、それら「××への逃避」の××に馴染まない言葉はマジョリティによって支えられているからである。
「正義への逃避」とはある種の免罪符を買ってマジョリティにつくことだ。それはある意味では大衆の特権だから致し方がないのだが、正義へ逃避する「声が大きいだけのインテリ」はどうしようもなかろうと思ったりする。
 

8.16
 秋でもないのに・・・と思わずトワ・エ・モアでも口ずさみたくなる異様な陽気である。おかげで急に鬱になったりするんだよな。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。えっと、クラニーせんせいはかみの毛があかるくなりましたが、ミーコは黒猫のままです。ミーコがきんぱつになったら、ちょっとはですぎるにゃ。おしまい。
 

[今週のBGM]「ヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリン」「ヴァイオリン小品集1946-1970(4枚組)」 ハイフェッツ(vn)
 爽快にして(男の)色気あり。ハイフェッツの「ツィゴイネルワイゼン」(前者に収録)は何度聴いても凄いですね。後者に収録の「剣の舞い」もしばし呆然。
[今週のミッドナイト・ソング]森田童子「G線上にひとり」


[読書メモ]
(小説)福澤徹三「廃屋の幽霊」(双葉社)、浅暮三文「似非エルサレム記」(集英社)。
「廃屋の幽霊」はハイレベルな後ろ向き文芸怪談集。集中のベストは巻頭の「春の向こう側」、怪談としては長すぎる枚数で、通常は引き伸ばした部分が夾雑物と化してしまうものだが、この作品は違う。ざらざらした人生の手触りを感じさせるディテールが圧倒的迫力、ゆえに哀切な幕切れが生きる。読み終えた読者は、印象的な冒頭のパラグラフを必ずや再読することだろう。「庭の音」は怖さなら随一なのだが、私の一人称ならともかく手記という体裁から生じる齟齬が若干気にかかった。本集には構造が比較的鮮明な話が多いけれども、「不登校の少女」などはとにかく細部で読ませる。スーパーナチュラルと狂気のグラデーションが各篇によって異なる点も読みどころで、ことに「市松人形」の呪物の使い方には唸った。巻末の表題作は、「超能力者」のようなわかりやすいまとめ方になるのかと思いきや、ラストは懐かしの「幻日」テイスト。大変結構でした。
 ダウナー系とアッパー系の落差が激しいことではよく似ている「似非エルサレム記」の作者ですが、これはアッパー系。昨年の「鯖」はやや不慣れなポップスだったけど、ここでは気持ちよさそうにコブシを回しています。ちょうど三章構成なので心置きなく演歌に見立てますと、三番の終盤でテンポが緩くなってラストに思い入れ・余韻・拍手というパターンに見事に嵌まっていて(むりやり嵌めたんだけど)カタルシスがありますね。さて、この作品自体はどう見ても寓話系ファンタジーですが、実はコード進行はホラー。そういう点でも興味深い作品でした。
(小説以外)許光俊・鈴木淳史ほか「クラシックB級快楽読本」(洋泉社)、平山夢明「鳥肌口碑」(宝島社)、梅津時比古「フェルメールの音」(東京書籍)、北原尚彦「新刊! 古本文庫」(ちくま文庫)、「200クラシック用語辞典」(立風書房)、平山夢明「怖い本4」(ハルキ・ホラー文庫)、渡壁輝「楽屋に裏話人にエピソード」(日本実業出版社)、「怨霊地図 関東一都六県」(宝島社)。
「鳥肌口碑」は「狂の鳥肌」のほうに怖い話があったのですが、引用したいのは箴言ともなりうるあとがきのこのくだり。
「徹頭徹尾、何の歪みもなく完全に球体のような瑕疵のない精神は、それだけで十分に狂っている」


8.17
 小説に挿入する地図を二枚描く。「無言劇」の地図も著者自らワープロで作成したものなのですが、おかげで蕎麦屋と定食屋がいやに大きくなっております。これはまあどちらも厨房に場所をとるということで。
 

8.18
 中学時代の思い出話を一つ。当時はフォーク全盛で、同級生たちはフォークギターをかき鳴らし、限られたコードしか弾けない楽器に合わせて同じ歌をみんなで楽しげに歌ったりしていた。世の中にはさまざまな音楽があるというのに、「フォークにあらずんば音楽にあらず」といった態の視野狭窄ぶりにはまことにもって辟易させられた。当時からまるで協調性がなかった私は、フォークに背を向けてクラシックギターを買い、「影を慕いて」と「王将」のイントロの練習をした(ちゃんと弾けなかったけど)。
 ・・・ただの昔話である。
 

8.19
 名前を「倉坂鬼一郎」と誤記されるのは相変わらずですが、検索したところ、ほかにもいろいろヴァージョンがあるようです。「鬼一朗」はともかく、「倉板」や「板倉」や「飯阪」は全然違うと思うのだが(某ネット書店のデータによると「飯阪鬼一郎」は一冊だけ句集を出した俳人の由)。


8.20
 長篇A→中篇→長篇C→短篇Aのゲラ→短篇B→短篇Cの構想→長篇B。相変わらずバタバタしているばかりなり。
 大正叙情というお酒をいただいたので宣伝を。ラベルデザインは松木美紀さん、協力は津原泰水さんという12幻想ラインで、白ワインめくハイカラな佇まいです。中身については、私は日本酒が得手ではなく味がわからないため(軟弱にもロックで薄めて飲んでいたりする)、ほかのプレミア試飲モニターの方にお任せということで。醸造元は岩手の横屋酒造、秋から三越で買えるそうです。
 

8.21
 来週は軽めの取材旅行につき、宇都宮のホテルを予約する(水・木は不在です)。例によって半分は蕎麦ツアーですが。
 夕方は久々に高田馬場へ。ムトウでクラシックのCDを腰が抜けるほど買う。昔はハード懐メロを腰が抜けるほど買っていたものだが。フィンランドのマイナーな作曲家のシリーズがすごく気になったんだけど、なんだか袋小路っぽいので今日のところは見合わせる。いずれ買うだろうな。
 

8.22
 小説脳が疲弊してきたので、やたら質問数の多い推協の無料アンケートに逃避する。しかし、「職業作家として成立する条件は何だと思いますか?」と私に訊かれても・・・。
いまだに何かの間違いのような気がするのだが。


8.23
 急に暑くなったから心身ともにまるで駄目。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、おともだちにひつじのぬいさんをいただきました。おなかに小さいひつじさんが入っています。おなまえは、ひーちゃんとつーちゃんです。クラニーせんせいがわすれないように、おぼえやすいおなまえをつけてるんだよ。おしまい。
 

[今週のBGM]「ライヴ・イン・東京1970(2枚組)」 ジョージ・セル指揮
 最初で最後の来日公演になった(セルは帰国2ヵ月後に癌で死去)伝説のライヴ。モーツァルトの40番はとてもよかった。何度も書いてますけど、シベリウスの2番はどうしてもシベリウスらしくないと思ってしまう。
 ・・・と、いったん完結したのですが、今週最後に聴いたチェリビダッケ指揮のブルックナーの4番が凄くよかったので(とくに第4楽章の終盤)追加します。
[今週のミッドナイト・ソング]King Crimson 「Starless」
 たまにカラオケで見かけるのだが、まさかロング・ヴァージョンじゃないだろうな(歌が終わったあと延々と演奏が続いたりして)。
 

[読書メモ]
(小説)牧野修「呪禁官特別捜査官ルーキー」(祥伝社ノン・ノベル)。
 話もアッパー系で快調ですが(雨宮リルルは復活希望だにゃ)、牧野色に染められたガジェットとディテールがひたすら楽しい。「いただきマンソンファミリー」は・・・流行りませんかそうですか。
(小説以外)磯田健一郎「ポスト・マーラーのシンフォニストたち」(音楽之友社)、大川渉・平岡海人・宮前栄「下町酒場巡礼」(ちくま文庫)、小石忠男「CD名曲名盤100交響曲」(音楽之友社)、佐野眞一「紙の中の黙示録」(ちくま文庫)、許光俊編「クラシック、マジでやばい話」(青弓社)、田辺忠幸「最古参将棋記者高見の見物」(講談社+α文庫)、堀内修「クラシック不滅の名演奏」(講談社選書メチエ)、太野祺郎「蕎麦の蘊蓄 五味を超える美味しさの条件」(講談社+α文庫)、牛山隆信「もっと秘境駅へ行こう!」(小学館文庫)。
「紙の中の黙示録」の副題は「三行広告は語る」。「だれが『本』を殺すのか」の数倍面白い。


8.24
 今日もむやみに暑い。囲碁将棋番組のピックアップはNHK将棋トーナメントの中田宏樹七段vs島朗八段。私が東大将棋に逆転されるときのようなヘボ手を天下のA級八段が指したので仰天する(桂馬が利いているところへタダの銀を打って取られて投了)。いったい何が起きたのかと思いました。
 

8.25
 長篇A→長篇B→アンケートをメール→短篇B改めA。
 今日も暑し。取材旅行を計画したのは早まったか。
 

8.26
 夏涸れで書くことがない。旅行の準備など。
 

8.27
 秘書猫をつれて取材旅行に出る。3時ごろ宇都宮着、まず川べりを取材。期待以上に物悲しい雰囲気だったので喜ぶ。ホテルにチェックイン後は市内散策。大谷石造りでロマネスク様式の松ヶ峰教会はとてもいい被写体だった。もろもろの規範を含めてキリスト教は大嫌いなのに、なぜか教会の建物だけ好きだったりする。さて、宇都宮といえば餃子ですが、もちろん夕食は蕎麦。死ぬほど歩いて(気温が下がったのは幸いだった)ただの住宅街の一角にある宇都宮一茶庵へ。三色そばが終わっていたから、やむなくざるそばを食す。蕎麦はともかく、植木用みたいなプラスチックの古い湯桶はどうでしょうか。その後はホテルに引き返して静養。
 

8.28
 9時半にチェックアウト、東武宇都宮から栃木県の県庁所在地(うそ)の栃木市へ。両毛線に乗り換え、今日のメインの足利に到着。駅からまたむちゃくちゃ歩き、一茶庵本店にたどり着く。蕎聖と謳われた片倉康雄(友蕎子)が戦後に開いた店で、この系列からは数々の名店が生まれています(あとは今週の読書日記に載っている本をお読みください)。食したのは五色そば、駒形蕎上人[そばしょうにん]の五色そばを何度も食べてるからべつに感動はしなかったけど、さすがは老舗の貫録でした。その後は足利学校などの観光コースをたどり、最後に足利市立美術館のコレクション展を観る。これは前衛系の絵画が意外に多くてよかった(普通の人間や自然のたぐいが描いてあると素通りしてしまう人なので)。こんなところにゾンネンシュターンの絵があるとは。あとは東武伊勢崎線に延々と乗って夕方に帰宅。
 

8.29
 二日休んだのでなかなか勘が戻らず。特記事項なし。
 

8.30
 午後から渋谷、まずBunkamura Galleryの「建石修志展 月の庭を巡って-〈幻想文学〉とともに-」を観る。画伯にお目にかかるのは久しぶり。やはり原寸の原画はひときわいいですね。会場に詰めている石堂藍さんから「一枚買いなさい」と言われましたが、さすがに予算が一桁違うので辞退(そもそも使える壁に乏しいから飾るところがない)。なお、同展は9月7日まで開催しています。続いて「フリーダ・カーロとその時代 メキシコのシュルレアリストたち」を観る。メインのフリーダ・カーロはさほど琴線に触れなかったけど、レメディオス・バロはかなり好みだった。マリア・イスキエルドの暗い絵(タイトル失念)とアリス・ラオンの抽象画も印象に残りました。
 その後は半蔵門線で神保町へ回り(そうか、古典SF研究会の例会だったのか・・・)、夕食後の7時より岩波ホール。白石加代子「百物語」シリーズ第二十夜公演を観る。サキ「開いた窓」(翻訳 都筑道夫)、ヒュー・ウォルポール「銀の仮面」(翻訳 倉阪鬼一郎)、コナン・ドイル/夢枕獏筆「踊るお人形」より、の三本立てで、パンフレットに「引き継がれる銀色の光」という短いエッセイを寄稿しています(当初はタイトルが「銀色の仮面」というお話だったので表記を合わせてあります)。自分の文章の朗読を聞くのは初めてにつき、出だしはなんとも落ち着かない気分。朗読されると最初からわかってたら訳文を工夫したのにと思ったり。「銀の仮面」は実に舞台向きの作品だし、期待通りの熱演で大変結構でした。パンフの対談で「猿の手」が挙がっていたから、次は拙訳のノーカット版「猿の手」(「乱歩の選んだベスト・ホラー」ちくま文庫所収)を希望・・・と書いておこう。ちなみに、同公演は地方公演も含めて10月末まで続きます。夢枕さんの書き下ろしは凝った作品だし、今回は(って観るのは初めてだけど)ミステリー方面にもウケそうなラインナップです。
 

8.31
 5行だけだが、長篇Dを起稿。今月の執筆枚数は188枚(A標準)でした。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうはクラニーせんせいが旅行につれてってくれました。フェレットのフェレちゃんをおともにつれていきました。ダブルのおへやだったので、ゆっくりおねんねしました。ゆかたは大きすぎるから、おびだけまきました。あしかがではいろんなものをみました。コイさんやフナさんがおほりでいっぱいおよいでました。んーと、ミーコは太平記館のろう人形のおひめさまにごあいさつしました。だれもこないので、おひめさまはちょっとさびしそうだったにゃ。えっとそれから、おともだちがいるかにゃ?とおもって30日のてんらん会にもつれてってもらいましたが、だれもいなかったのでねこの絵を一枚みました。こんしゅうはつかれたにゃ。おしまい。
 

[今週のBGM]「神秘のメッセージ トルミス、ドビュッシー、シベリウス作品集」アヌ・タリ指揮
 まったくもってミーハーですが、若き美人指揮者っていいですね。調べてみたら今年来日してたのか。ちぇっ。
[今週のミッドナイト・ソング]King Crimson 「Moonchild」


[読書メモ]
(小説)日下三蔵編「氷川瓏集 睡蓮夫人」(ちくま文庫)。
「氷川瓏集」は待望の一冊。「悪魔の顫音」が入っているせいか、さながらヴァイオリン小品集の趣。マイナー・ポエットらしく、書き飛ばした跡のないちょっとアンニュイな文章がなんとも心地いい(ことに表題作の書き出しなど)。私もこういう作家になるつもりだったんだがなあ・・・。
(小説以外)岩崎信也「蕎麦屋の系図」(光文社新書)、牛山隆信「秘境駅へ行こう!」(小学館文庫)、志鳥栄八郎「CD名曲名盤100管弦楽曲」(音楽之友社)、大川渉・平岡海人・宮前栄「下町酒場巡礼 もう一杯」(ちくま文庫)、大和國男「腐りかけたクラシック音楽界への警鐘」(カズ出版)。
「秘境駅へ行こう!」に付されている秘境駅ランキングを見ると、近鉄大阪線の西青山が124位、東青山が129位に堂々ランクインしている。著者のサイトにレポートがなかったのでフォローしますと、東青山駅周辺にはかなり歩くものの垣内[かいと]という小さな集落があります。西青山駅周辺はほんとに何もありませんが、奥鹿野[おくがの]という集落まで歩くことは可能です。以上は三重県立上野高校人文地理部(三年次の年報を全部一人で書いたりしてたんだけど、きっともうつぶれてるだろうな)のフィールドワークの調査結果ですが、二十数年を閲したいまもたぶん変わってないと思います(笑)。