11.1
 先月の執筆枚数はジャスト200枚(S標準)でした。今月は「小説すばる」の連作の最終回があるし、長篇AとBは今年いっぱいかかるかな。
 

11.2
 長篇A→長篇B→長篇Cの推敲。
 今週の十句改め近作十句です。
 
何かの裏は何かの表夕紅葉
絶望のきはみに赤い棗かな
砂金零れをり金枝雀の奢り
越境せよと誰か十月の砂に告げよ
とりかぶとふとひらがなでかいてみる
滅びたる世に耿々と曼珠沙華
後の世は茸だらけの砂漠かな
夕紅葉まづ線が揺れ点が消え
からだなき十一月の悪所かな
秋冷の一角獣はいづくにぞ
 

11.3
 中篇→長篇A→長篇B→短篇Aのプロット→長篇Cの推敲。大原テルカズの幻の句集「黒い星」がネット通販に出ているのを見つけて色めき立ったのだが、価格は二種セットで69800円。そんなもの買えるかよ。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうはパーティにでました。おともはフェレットのフェレちゃんでした。んーと、そのまえに、せたがや文学館で森まりさんがかわいがっていたいぬのぬいさんとおはなししました。ミーコもあんなガラスケースに入るのかにゃ。クラニーせんせいはあんまりゆうめいじゃないからだめかにゃ。えっと、パーティではメイドさんのコスプレをしました。とってもこうひょうでした。猫耳をつけた人がたくさんいました。ミーコはおともだちにいっぱいあそんでもらいました。おんなの子ともあそびました。わーいわーい。みなさん、おつかれさまでした。おしまい。
 

[今週のBGM]「フランス管弦楽作品集(3枚組+1)」チェリビダッケ指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団、ブルックナー「交響曲第8番(2枚組)」チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ブルックナー「交響曲第9番/リハーサル(2枚組)」チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ブルックナー「交響曲第7番」チェリビダッケ指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団。
 今週はチェリビダッケ特集です。フランス管弦楽作品集のベストはドビュッシー「夜想曲」。同名の小説を書いているくらいで昔から好きな曲なのですが、このスローテンポはほとんど麻薬的。遅いといえばブルックナーの8番もむちゃくちゃスローなんだけど(なにしろ百分もかかっている)、これも慣れると麻薬。人間のいない音だけの世界はいいなあと素直に陶酔できます。9番は音の伽藍を造った(第1楽章)男が得体の知れない獣に何度も踏みつけられ(第2楽章)ゆるゆると血を流しつつ幻覚を見ながら死んでいく(第3楽章)という音楽。完成されなかった第4楽章には救済があったのでしょうが、ここで切られたらほんとに死にそうになります。


[読書メモ]
(小説)今週も完読なし。エンターテインメントを読みはじめても止まってしまうので、ル・クレジオ「逃亡の書」を繙読中。これなら最後まで読めそうなんだけど、何かまずいような気が。
(小説以外)クラウス・ヴァイラー「評伝チェリビダッケ」(春秋社)、平林直哉「クラシック中毒」(青弓社)、橋本治「宗教なんてこわくない!」(ちくま文庫)、山本夏彦「男女の仲」(文春新書)、「ひとことで言う 山本夏彦箴言集」(新潮社)、山田消児歌集「見えぬ声、聞こえぬ言葉」(作品社)、渡辺和彦「ヴァイオリニスト33 名演奏家を聴く」(河出書房新社)。
「見えぬ声、聞こえぬ言葉」は「アンドロイドK」以来4年ぶりの歌集。私は二十代であっさりやめてしまったのですが、もし短歌を続けていたらこんな歌を詠んでいたかもしれないとふと思ったりしました(作者は同学年らしい)。ことに好きな作品を掲載順に十首。
 屹度[キット]世界ハモウオワリデス 朝ごとに水鏡水と光を集め
 ひそけくも終車発ちたり後尾より魔女の耳もつひとりを降ろし
 くろぐろと日ごと濁れる湖に陽はいちまいの鏡を沈め
 眠られぬ子らにも明日[あした]はきっと来る夜ふけ必ず何かは終わり
 人工の街はさやけし雨上がりピアノ線首の高さに張られ
 人形[ひとがた]は累々とありやわらかき部位ことさらに十字に裂かれ
 開かれしままのページに横たわりいつまでも死んでいるごんぎつね
 未生なる魚にも似たるはかなさの風の絵の前にて巡り会う
 生還者ら語り集えるそれぞれに見届けてきし未来の終わり
 まだ死なぬ人々のため精魂込め釘打つ汗まみれの棺桶屋


11.4
 こんな夢を見た。どこかで講演をしなければならないのだが時間がない。ホテルを駆けずり回ったあげく、ようやく一分前に到着する。会場は水を打ったように静まり返っている。何をしゃべったらいいのか思い出せない。そうだ、講演ではなく弁論コンクールだった、ならば応募した元原稿があるはずだと思い当たるが、手元にはそれらしいものがない。会場に入ると、パックに入った昆布巻きのようなものが目にとまる。先に弁論を終えた男の席へ進み、「ちょっと臭いますよ」と言いながらパックを半分開ける。そうか、テーマは昆布巻きだったか、一瞬だけ安堵したが、さて昆布巻きについて何を弁じればいいのかさっぱりわからない。・・・これは小説になるかなあ。ちなみに、短篇集「鳩が来る家」の収録作で実際に見た夢に基づいているのは「骸列車」「蔵煮」「アクアリウム」、ほかにも境界作がいくつかあります。
 

11.5
 長篇Cの第一次推敲が完了。次は連作を読み返さねば。
 

11.6
 夕方、性懲りもなくまた靴を買う。革靴は合ったのだが、ウォーキング・シューズがどうもしっくりこないのだ。1800円の靴なんか買ってるからだという気もするが。夜は付箋を貼りながら連作を読み返す。これで週末は動けるかな。
 

11.7
 悪夢を見たのだが二度寝して思い出せず。短篇Aを起稿。
 

11.8
 秘書猫をつれ、取材を兼ねて京都へ行く。三時過ぎに京都駅着、京都タワーをさまざまな角度から撮影してから地下鉄で北山へ、じん六でざるそばを食す。蕎麦は結構でしたが、薄口醤油を使用した辛いつゆはちょっと口に合わなかった。腹ごしらえが終わったので上賀茂神社の近くまで革靴でえらい勾配の坂を上り(京都の夜は冷えるかなと思って厚めの上着にしたらいやに暖かくて大汗をかく)、高台から随所を撮影。北山へ引き返し、今度はなからぎという隠れ家めく蕎麦屋で辛味大根おろし。こちらは普通に旨かった。北山を離れ、地下鉄の終点の国際会館から叡山電鉄の八幡前駅までとくに何もないところを歩く。これは取材ではなく叡電に乗ってみたかったのである。なんとなく田舎に帰ってきたような雰囲気でしたが、電車にたくさん人が乗っているのは致命的な違いか。終点の出町柳駅周辺を散策したものの何もなさそうだから京阪で丸太町に向かい、京都SFフェスティバル合宿会場のさわや旅館に入る。関西方面の取材と京フェスの組み合わせは毎年恒例と化しつつあります。今年はやや作家率が低め。オープニングのあとは麻雀部屋。大森望・東浩紀・冲方丁(初対面)の三人と卓を囲む。ちょうど一年ぶりの麻雀だが、オーラスで二位になるのが精一杯の冴えない内容だった。トップの東さんはたった半荘一回なのに信じられないほどの喜びぶり、いずれ痛い目に遭わせなければ。企画は「喜多哲士の名盤アワー」(「出町柳から」は名曲)→「東浩紀vs堺三保」→「SF雑誌ってどうよ!」。最後のコマが終わったのは明け方、私はジャンル経営論にさほど興味がないので拝聴していただけですが、ここにもう一枚浅暮三文が加わっていたらどうなっていただろうかとふと思ったりしました。強行軍で疲れたので六時過ぎに旅館を出て十時ごろ帰宅。
 

11.9
 反動で不調、日記を書いただけ。
 

11.10
 仕事に復帰。冷えてきたので今年初めて蕎麦屋で種物を食す。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは京フェスにつれてってもらいました。おともはフェレットのフェレちゃん、オコジョのオコちゃんとジョーちゃんでした。ミーコはおともだちとあそびました。ずいぶんバッグに入ってたのでつかれましたが、行ってよかったにゃ。おわり。
 

[今週のBGM]ショスタコーヴィチ「交響曲全集(11枚組)」バルシャイ指揮/WDR(西部ドイツ放送)交響楽団
 半分くらい未聴だったので定評ある全集で頭から。マーラーのときにも書きましたが、声楽入りの交響曲は苦手(ことに2番と3番は苦痛)。当たり前だけど5番が突出した傑作。あとは1番と8番、あからさまに舌を出してるのによく粛清されなかったなと思う9番あたりかな。ショスタコーヴィチは室内楽のほうが断然好きですね。
 

[読書メモ]
(小説)引き続きル・クレジオ「逃亡の書」を繙読中。
(小説以外)中野雄ほか「クラシック名盤この1枚」(光文社知恵の森文庫)、藤井誠二「人を殺してみたかった」(双葉文庫)、山本敏倖句集「天韻」(ながらみ書房)、「続・粕谷栄市詩集」(思潮社)、門馬直美「ブルックナー」(春秋社)、「三段合格の手筋150題」(日本棋院囲碁文庫)、渡辺和彦「クラシック極上ノート」(河出書房新社)、中井久夫「最終講義 分裂病私見」(みすず書房)、バランシン/ヴォルコフ「チャイコフスキーわが愛」(新書館)。
 刊行に気づくのが遅れた「続・粕谷栄市詩集」にはなんと「悪霊」がすべて収録されている。この詩集だけ古書店でも手に入らず未読だったので感涙。胸苦しい諧謔と実存的な暗さ、血と狂気と悪夢とある種の懐かしさに彩られた不毛にして甘美な世界を耽能できます。散文詩につき部分的な引用はできないのですが、ことに好きな詩は「感傷旅行」「悪霊」「霊狐」「肉体」「寒夜」「春鶯囀」「落魄」「繋船」「猿の日」「天路歴程」「五月」でした。私の読者(故山本夏彦翁風に言えば百人の読者)にはきっと合うと思います。ぜひお読みください。


11.11
 アンケート→短篇A→長篇A→長篇B。
 「世界」という言葉から何をイメージするかによって人はかなり違う。世界地図や世界情勢を想起する人はたぶん健全なんだろうけど、独我論系の人(より正確に言えばそうならざるを得なかった人)は基本的には「私」との関係性においてしか「世界」をとらえることができない(「世界」は「政治」等にも置換可能)。それはまあ少数派(「政治」に侵食されている言葉)なのだろうが、健全な人々にせめて一太刀という気分は常にどこかに底流している。してみると、私はセカイ系ならぬ「世界」系なのだろうか。・・・きっとどうでもいいな。
 

11.12
 このところ悪夢画廊の趣で次々に夢を見るけれども、絵の数が多すぎて最後の扉くらいしか憶えられない。テープレコーダーでも買おうかな。
 

11.13
 昔から暗い曲が好きだったのだが、中学時代(たぶん)に聴いた歌でいまだに強く印象に残っている極めつきのマイナー・ソングが二曲ある。
 いまなりあきよし「九條物語」(人間は地面にへばりつき、いちばん哀しい声を上げるのだ・・・)
 藁人形と五寸釘「30になったら」(30になったらわたし死にます。きれいなままで死にます・・・)
 前者の作詞者はシマダソウジ(島田荘司)なのですが、あまり知られていないかもしれない。これはほんとに鬱陶しくて暗かった。
 

11.14
 短篇A→長篇A→長篇B。少しずつ冬支度・模様替え・部屋の整理などを進めようと思い、とりあえず敷布団カバーを買う。ここで寝ている時間が長い秘書猫に合わせようとしたら、たくさん薔薇がついたピンクになってしまった。そのうちキティちゃんのカーテンでも買ってしまいそうで怖い。
 

11.15
 三時前に高崎へコンサートを聴きに出かける。部屋の扉を開けるとき、ふと厭な感じがした。麻雀で言えば、「危険牌をつかまされたな」というあの感覚である。支度は整えてあるので、幽かな不安を覚えつつも計画を実行に移すことにした。まず京浜東北線が異常信号で十分ほど停まった。これが危険牌の正体だったかとやや安堵し、五時ごろ高崎着。ところが、進めど進めど街は閑散とするばかりで目的地に着かない。競馬場の近くまで歩いたとき、ようやく錯覚に気づいた。西口と東口を完璧に間違えてしまったのだ。なるほど、これが災厄の正体だったのか、ならば引き返せばいいだけだと納得し、死ぬほど歩いてシンフォニーホールに到着する。ところが、妙にがらんとしており人影がない。当日券を売っている様子もない。不安を募らせつつ予定ボードを見て愕然とする。お目当ては群馬交響楽団の定期公演で、シベリウスの4番などのとても珍しいプログラムだったからわざわざ聴きにきたのだが、よほどチケットが売れなかったのか中ホールのマチネー公演に変更されてしまったようなのだ。声をかけても係員は出ない。そうか、これが真相だったのか・・・悄然と会場を後にし、蕎麦屋で武蔵丸の敗戦(これが最後の相撲になった)を見届けてから引き返す。
 しかし、そこはかとない災厄の予感で幕を開けた本日のミステリーには思わぬどんでん返しが待ち受けていたのであった。帰りの電車の中で地図を確かめていたとき、ふとある疑念が生じた。帰宅後にネットで確認することによってそれは揺るぎないものとなった。シンフォニーホールが会場だと思いこんでいたのだが、その奥に群馬音楽センターというもっと大きな建物が存在していたのだ。そう、シンフォニーホールは本会場ではなく、練習会場だったのである。オケは昼間に直前練習をする。それを「公演がマチネーに変更された。やはり今日は運が悪かった」と勝手に解釈してしまったのだ。そう言えば、いやに規模が小さいなと思ったのだが、どうも頭が猫又と化してしまっていてその場で地図を見なかったのがなんとも悔やまれる。昨夜は演奏曲の予習までしたのに、会場と練習会場を間違えてむざむざと引き返すとは情けない限りだ。嗚呼。
 さて、「小説すばる」12月号が届きました。連作「十人の戒められた奇妙な人々」第九話「ダイアリーは破れる」が掲載されています。目下、最終回で苦戦中。
 

11.16
 東京国際女子マラソンを観る。録画テープを長篇Bの参考資料に使うつもりなので、前に取材を行った沿道にも目を凝らす。それにしても人が多かったな。ディテールを再検討しなければ。レースは大本命の高橋尚子選手が意外な失速、いかに過酷な条件でも27分台では印象が悪すぎるから名古屋で再走でしょうか。このままだったら陸連がまた苦渋の選択を強いられるかも。
 

11.17
 秘書猫をつれて帝国ホテル、集英社のパーティに出席する。今年から開高健ノンフィクション賞が増えて文芸四賞、いやに背広の人が目立つ。最初のうちは知り合いが少なくてやや心細かった。終了後は石田衣良・浅暮三文両氏と「小説すばる」新人賞の二次会へ。受賞者は「笑う招き猫」の山本幸久さん。篠田節子さんにお目にかかるのはSFセミナー以来かも。そのうちスピーチが回りはじめたので姿を隠したのだが、結局見つかってしゃべらされてしまう。その後は怪しい企画の話など。ちょっと飲みすぎたので三次会はパスして11時過ぎに帰宅。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうはパーティに出ました。いつものようにフェレットのフェレちゃんがおともでした。ミーコはおともだちとあそんだり、どさくさにまぎれてお写真にうつったりしました。おつかれさまでした。んーとそれから、たかさきにもついていけばよかったにゃ。ミーコがついてないとせんせいはだめだにゃー。
 

[今週のBGM]「恐怖音楽」ジャケット・楳図かずお
 クラシックの恐怖音楽を集めたオムニバス。「オーメン」のメインテーマまで収録されている。小説論とも一脈通じるのですが、恐怖の対象が外である標題音楽は個人的にはあまり怖くない。作曲家・演奏者・指揮者の狂気や鬱が直接襲ってきて憑依されそうな音楽(内面に直接吹きつけてくるもの)が怖いですね。なお、今週のCDベスト3はJ・S・バッハ「音楽の捧げもの、フーガの技法&チェンバロ協奏曲第1番(2枚組)」パイヤール指揮/パイヤール室内管弦楽団、シベリウス&チャイコフスキー「交響曲第4番」ロジェストヴェンスキー指揮/モスクワ放送交響楽団、シベリウス&ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲」前橋汀子(vn)/オッコ・カム指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団でした。
 

[読書メモ]
(小説)ル・クレジオ/望月芳郎訳「逃亡の書」(新潮社)、大石圭「湘南人肉医」(角川ホラー文庫)。
 今週から横着せずに訳者名も記すことにします(ジャプリゾで有名な人ですが、ル・クレジオもいいぞ。・・・フランス語は読めないけど)。「逃亡の書」は冒険小説と銘打たれているのだが、こんな冒険小説なら私も書いてみたい。相変わらず散文詩として抽出できる部分は秀逸。ただ、太陽へのオブセッションからも見てとれるようにル・クレジオは南方系、ダウナーな北方系ならもっとよかったのに勝手なことを思ったり。似たような感触の作品が多くて少し驚異が失せてきたかもしれない。続いてエンターテインメント読みのリハビリ。もともと食っちゃう系は好きなので「湘南人肉医」は安心して読めた。
(小説以外)出口裕弘「澁澤龍彦の手紙」(毎日新聞社)、毎日コミュニケーションズ編「右玉伝説」(MYCOM将棋文庫)、近藤滋郎「アマチュア・オーケストラ入門」(音楽之友社)、日名子暁・夏原武・山岡俊介他「新宿歌舞伎町アンダーワールド」(宝島社文庫)、マンフレート・ルルカー/竹内章訳「象徴としての円」(法政大学出版局)、松岡正剛「花鳥風月の科学」(淡交社)、渋谷知美「日本の童貞」(文春新書)、春日武彦「何をやっても癒されない」(角川書店)「家屋と妄想の精神病理」(河出書房新社)。
「澁澤龍彦の手紙」はルサンチマンが絡んでいるので存外に重い。「京子変幻」「天使扼殺者」などの小説も愛読していたのですが、私にとっての著者はやはりシオランの訳者、そのもとへ集まって夜な夜な議論を戦わせる空恐ろしいほどの知識を持った老残の人々の話が印象深かった。「花鳥風月の科学」はセイゴオ節を耽能。しかし、来年は還暦なのか・・・自分も歳をとるわけだ。


11.18
 反動で不調。連作はもうすぐ終わるのだが。
「The End」(双葉社・来月刊行予定、奥付はタイトルに合わせて12/31)のカバーラフが届きました。デザインはミルキィ・イソベさん(かれこれ二十年くらい前に「夜想」のオフィスでお会いしたきりなのですが)、交響曲第1番にふさわしい瀟洒なハードカバーになりそうです。ご期待ください。
 

11.19
 短篇A→長篇A→句稿の下書き→長篇C。
「俳壇抄」21号(マルホ株式会社)が届きました。「豈」の項で拙句「つつめどひらけど匣の中の夏」を採っていただいています。
 

11.20
 このところエンジンのかかりが遅いので、珍しく夕食後も少し執筆する。夜はカラオケの練習。課題曲はわざわざCDを取り寄せた中之島ゆき「出町柳から」。意外にトラップがあって難しい。併録の「朝靄の京橋で乗り換え」もいい曲でした。しかし、これはほんとにカラオケに入るのかしら。
 

11.21
 短篇A(連作の最終話)を最後まで書く。一段落したので、まず近所の内科で先日の健康診断の結果を聞く。血糖値が引っかかって半月後に再検査なり。「毎日チョコレートを食べてるんですけど、やめたほうがいいでしょうか」とたずねたら医者に笑われてしまう。ポリフェノールが含まれているから体にいいと思っていたのだが、どうもそうでもないようだ。その後は北千住で本とCDと服を購入。着るかどうかわからないけど、ド真っ赤な服も買ってみる。べつに昔から黒ずくめだったわけではなく(黒しか着ないガキがいたらさぞ可愛げがないだろう)、学生時代は緑ばかり着ていた。やはり細胞は入れ替わるものらしい。もう一度入れ替わって志茂田景樹みたいになったらどうしよう(その昔、幻想文学会の早稲田祭講演会にお呼びしたときは地味な方だったのだが)。
 

11.22
 短篇Aを画面上で推敲してプリントアウト。続いて今日届いた「The End」の青焼き校正に移る。未練がましくゆっくり読んでいるので本日はp176まで(ちなみに385pの最も分厚い本になります)。
 

11.23
 著者校を進めてから秘書猫をつれて目黒へ。俳句同人誌「豈」の懇親パーティに出席する。たまにしか顔を出さないからすっかりマレビト状態。またマイクが回ってきたのでこのHPに俳句を発表しているなどといったことをしゃべったのだが、俳人のネット率はかなり低そう。ノンアルコールで通し、一次会のみで失礼して再び青焼き。根が続かずp320まで。
 大相撲九州場所回顧。武蔵丸が引退した場所に黒海が14勝1敗の好成績で十両優勝、まだ若いしグルジア出身のこの力士はいずれ横綱になるでしょう(こういう予想を大きく外すとみっともないが)。もう一人、元幕内の戦闘竜も引退。琴稲妻が果たせなかった「マゲが結えなくなって引退」を期待していたのだが、どうもそういう理由ではないようだ。
 

11.24
 青焼き校正を終え、訂正箇所をファックス。やや控えめな数の献本リストも送付。これでやっと憑き物が落ちたかな。
 夜は録画したNHK将棋トーナメントを観る。中井広恵女流三冠がバリバリのA級棋士の青野照市九段に快勝。一回戦でB2棋士に勝ったときも驚いたけれど、とにかくこれは歴史に残る快挙でしょう。
 野球の話題を一つ。なぜか横浜を自由契約になったドミンゴは中日が獲るらしい。まだ28歳で上がり目があるし、後ろがしっかりしていれば(引っ張りすぎなければ)15勝しても不思議じゃないピッチャーだと思うのだが・・・。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうもパーティにでました。はいくのパーティははじめてだったので、こわいおじちゃんがいるのかにゃときんちょうしましたが、じょせいのはいじんのみなさんにとってもかわいがってもらいました。わーい。
 

[今週のBGM]シューベルト「交響曲全集(4枚組)」カール・ベーム指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 交響曲を一人ずつ全集で潰しています(曲数の多いハイドンはとりあえず最後にしておこう)。やはり有名な曲の恰幅が違うのですが、未聴の初期作品では2番がわりとよかった。その他のCDベスト3は、スメタナ「わが祖国」クーベリック指揮/ボストン交響楽団、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」&チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」アルゲリッチ(pf)、「望郷のバラード ベスト・セレクション」天満敦子(vn)でした。


[読書メモ]
(小説)アンナ・カヴァン/山田和子訳「氷」(サンリオSF文庫、たぶん三回目)
 新刊の消化が絶望的なので、いっそ背を向けて今週から再読モード。うーん、やはり「氷」はいい。随所で胸が詰まりそうになりました。アンナ・カヴァンは若死にしたイメージがあるのですが、長命とは言えないにせよ67歳まで生き、死の前年にこの代表作を発表してるんですね。・・・長生きしようっと。
(小説以外)ピーター・J・デイヴィース/川端博訳「人間モーツァルト 天才の病理学」(JICC)、日野啓三「モノリス」(トレヴィル)、千街晶之「水面の星座 水底の宝石」(光文社)、布施英利「脳裏一体」(白水社)、阿部純子・伊藤なたね写真「若き女職人たち」(集英社新書)、伊東雨音・塩澤秀樹撮影「指揮者・西本智実」(ソフトバンク・パブリッシング)、藤井誠二「17歳の殺人者」(朝日文庫)、安土茂「出所後の殺人者たち」(双葉文庫)。
「水面の星座 水底の宝石」はバランス感覚が光る連作評論集。例えば村に神社と神木があるとする。神社の由来に関する論争、あるいは神木の縄の張り方はどれが美しくてフェアかといった議論があったりするのだが(むろん村の活性化などの話も)、著者は少し離れた小高い丘からポイントを狙う。すると、バックに暗い森が映り、その向こう側の消息が伝えられる。強引に蘊蓄のブルドーザーで森を切り開くのではなく、その入り口の葉擦れめいたものを伝えるところが著者ならではの芸風と言えるでしょう。


11.25
 中篇→長篇B→長篇A→短篇Aの推敲。
 夜はCGソフトで年賀状の原版だけ作成。またラブリーなものを作ってしまった。
 

11.26
 秘書猫をつれて夕方より東京會館、第10回日本ホラー小説大賞のパーティに出る。今年は三つ賞が出たのですが、受賞者は61〜63年生まれ。ホラーとSFはこのあたり(前後3年くらいを含む)の世代が異様に濃い。あとで略歴を見て驚いたんですけど、大賞の遠藤徹さんは「怪物の黙示録」の訳者だったんですね。へえ、そうだったのか。終了後は竹本健治・大森望・奥田哲也といった面々とラウンジでしゃべってから十時過ぎに帰宅。
 

11.27
 短篇Aをメール、ようやく連作が終わる。あとはエッセイを起稿→短篇Bのプロット→句稿を送付→長編A。
 

11.28
 今日は半休。高田馬場でクラシックのCDを買ってから中野へ。まずさらしな総本店で三色そば、真っ黒な炭そばを初めて食す。中野は上京して最初に住んだ街だから古巣のはずなのに(三畳の下宿から2DKのマンションまで引っ越すたびに少しずつ広くなっているのだが、逆に街の格は落ちているような気も)、あまりにも様変わりしていて記憶が戻らない。時間があったので旧居まで足を延ばしてみると、私が住んでいたクリーニング屋の二階はまったく往時のままだった。妙な記憶が甦りそうで怖かったから早々に立ち去り、6時半からなかのZERO、前橋汀子さんのヴァイオリン・コンサートを聴く。早めに予約したため最前列、鈴本演芸場なら間違いなく芸人にいじられる席である。一曲目はあらと思ったのだが、髪が揺れるに従い調子が上がってくる(女剣劇を彷彿させる所作でカッコいい)。もともと低音に色気と凄みがあるヴァイオリニストだから、フランクのソナタは合っていたと思います。休憩後の後半は得意の小品集、クライスラー「プニャーニのスタイルによる前奏曲とアレグロ」、フォーレ「夢のあとに」、それにプログラム最後の「チゴイネルワイゼン」が良かった。ほんとにジプシーが弾いているかのようでした。満足して十時過ぎに帰宅。
 

11.29
 いささか紹介が出遅れましたが、朝松健編「秘神界」(創元推理文庫、二分冊)が英訳されることに決まりました。拙作は四分冊の四巻目なのでずいぶん先の話なんですけど、英訳は初めてなので楽しみです。イギリスのスモールプレスにもひそかに期待しているのですが、日本語が読めるかなり物好きな人材はいないのかしら。
 久々に競馬の話題を。ジャパンカップ・ダートはベテランアナが1着を間違えるほどの名勝負。モンテプリンス・ホウヨウボーイの一騎打ちを思い出したりしました。また話が古いな。
 

11.30
 来月に備えて執筆は休養、長篇Cを訂正して再プリントアウト。今月の執筆枚数は201枚(S標準)でした。やっと月産二百枚ペースに戻ったのだが、いつまで持つかは不明。