1.1
 というわけで、本年もよろしくです。元日は年始回りなど。今年で百歳になる祖母の老人ホームへ行ったら「次に飛んでくるトンビの色は何色や?」と問われて返答に窮する。禅問答みたいで難解な質問であった。
 

1.2
 6時ごろ帰京。歳のせいか長旅は疲れる。
 

1.3
 例によって箱根駅伝を観ながらレシートの整理。続いて年賀状の返事。ずいぶん出し忘れたので、来年はぐだぐだにならないように住所録をすぐ改訂する。
 

1.4
 執筆再開。長篇Bはあともう少しなのだが、短篇Aを急がねば。
 冊数にはこだわっていないのですが、ふと思い立って昨年読んだ本を数えてみたら(囲碁将棋雑誌の付録はカウントせず)399冊だった。もう一冊読めばよかった。
 

1.5
 短篇Aと長篇Bを進める。夕方は「将棋世界」を買って初蕎麦。相も変わらぬ一年になりそうだ。
 

1.6
 長篇Aを訂正して再プリントアウト。続いて長篇Bを最後まで書く。自然に残りを書いたら小ネタどおりに422枚で終わってしまった。うーん。
 

1.7
 短篇Aを最後まで書く。長篇Bの残りを画面上で推敲してプリントアウト、夜は長篇Aの最終仕上げ。一週目からへろへろなり。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。お正月はおみやげの紙バッグに入れてもらって町内のしんせきのお年始まわりをしました。くらさか風月堂の和菓子はとってもきれいでした(せんでん)。んーとそれから、百人一首やトランプやオセロやじゃんけんをしてあそびました。めいちゃんはつよいにゃ。
 

[今週のBGM]マデトヤ「交響曲1〜3番他」サラステほか指揮/フィンランド放送交響楽団ほか
 今年はマイナー交響曲のけもの道に足を突っこもうかと思っております。マデトヤはポスト・シベリウス世代のフィンランドの作曲家。フランス音楽の影響を受けたせいか、あるいは持って生まれたものなのか、北欧の香りはあるもののそんなに暗くない。ときおり意外な技を使ってくる技巧派で、2番はかなりの名曲です。今週のその他のCDベスト3は、パガニーニ「カプリース(全24曲)」五嶋みどり(vn)、ブラームス「交響曲第3番他」ワルター指揮/コロンビア交響楽団、「北の調べ フィンランド・ピアノ名曲集」舘野泉(pf)でした。カプリースは弟さんもCMで颯爽と弾いてますが、これはほんとに凄いです。


[読書メモ]
(小説)西澤保彦「神のロジック人間[ひと]のマジック」(文藝春秋)、「複製症候群」「幻惑密室」「実況中死」(以上、講談社文庫)、「笑う怪獣」(新潮社)、「リドル・ロマンス 迷宮浪漫」(集英社)。
 今年最初の特集は西澤保彦特集です。「神のロジック人間のマジック」は間違いなく代表作の一つ。きびすを接するような先行作品があったのはなんともお気の毒ですが、個人的には本作のほうが断然好み。西澤作品の表芸はSF設定の本格パズラー、裏芸は現実への違和を淵源とする根の暗い作品だと思うのですが、ここではその二つの流れが見事に融合しています。先行作品は一般受けするエンターテインメントに徹していて鮮やかな仕上がりで評価が高いのもうなずけるんですけど、この作品の余剰の部分、ことに「ファンタジー」というキイワードに象徴されるものに私はいたく反応してしまうのですね。西澤さんは同い年で現時点の著書数が同じで、収録インタビューを読むと最初は純文学志向で「SFマガジン」のコンテストの一次だけ通ってその後は投稿で苦杯を嘗め続けてやっと専業作家になったところまで不気味に似ているのですが(笑)、何か過去に似たようなマイナスのカードを引いているのかもしれない。表芸路線では犯人の動機の伏線がきれいな「幻惑密室」(「複製症候群」はやはり脳がディックを求めてしまう)、永劫回帰型キャラの短篇連作では小粋でそこはかとなくダークな「リドル・ロマンス」が好みでした。
(小説以外)種村季弘「偽書作家列伝」(学研M文庫、文庫版で再読)、鶴岡善久「超現実と俳句」(沖積舎)、種村季弘「江戸東京《奇想》徘徊記」(朝日新聞社)、ポール・ホフマン/吉永良正・中村和幸・河野至恩訳「数学の悦楽と罠」(白楊社)、森まゆみ「明治・大正を食べ歩く」(PHP新書)、永沢光雄「強くて淋しい男たち」(筑摩書房)、元田隆晴「病怨」(竹書房文庫)。
「偽書作家列伝」は種村ベスト5に入る名著。「超現実と俳句」は当然のことながら好みの句が多く採り上げられていたのだが、伝統系の現代俳人がかえって盲点かも。


1.8
 長篇AのFD作成→短篇B・Cのプロット作成→長篇Eのプロット再検討→長篇Bの推敲。今月中に次のサイクルへ移れそう。
 

1.9
 書き下ろしの優先順位が上がった中篇を再開。夕方は浅草へ。並木の薮(もり二枚)→駒形蕎上人(三色そば)と年末のリベンジをしてから本とCDを買って帰宅。
 

1.10
 短篇Bを起稿したあと、リベンジその2で池袋へ。前回は休館日に行ってしまったミステリー文学資料館に足を運び、「虚無への供物」展を観る。羽根木の中井英夫邸へうかがったときに「新思潮」などの貴重な資料を見せていただいたのですが、さすがにアドニス版「虚無への供物」は初めて。生原稿には「浅草の男色酒場」と書いてありましたね。名前もアラビクではなく蝶屋[ぱぴよん]。梅酒でも置いてあるのでしょうか。それよりおおと思ったのは一枚のメモ用紙。「小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない」という有名な言葉はほんとに走り書きだったんですね。これを観ただけでも行った甲斐がありました。何も書けなくなってしまいそうだからべつに座右の銘にはしませんが。
 続いて東京芸術劇場、当日券を買ってゲルト・アルブレヒト指揮、読売日響のコンサートを聴く。プログラムはオール・ドヴォルザーク、序曲「謝肉祭」、チェロ協奏曲、交響曲第9番「新世界から」という外しようのない名曲三連発。ソリストはジャン=ギアン・ケラス、この協奏曲は長くて終わりそうで終わらず、最後まで歌わせないといけないから見るからに大変そう。ソロのアンコールがなかったのは致し方ないでしょう。オケのアンコールは予想どおり「スラヴ舞曲」から。軟弱と言われるかもしれませんが、私はドヴォルザークが好きなので耽能しました。
 

1.11
 長篇Eを起稿。長篇Fの構成表と、版元未定ですが長篇G以降のプロット(交響曲第3番とか)作りにも着手。徐々にサイクルが変わりつつあります。
 囲碁将棋番組のピックアップはNHK将棋トーナメントの中原誠永世十段vs中井広恵女流三冠。後手番の中原永世十段はなんと右玉。風車党は必見の一局でした。
 

1.12
 中篇→短篇B→長篇Fのプロット再検討→短篇Aの最終仕上げ。
 では、今年最初の近作十句です。
 
白い茸赤い茸も屋根裏に
終末の冬の太陽冬の中
生き急ぐ冬の信号どこも赤
冬の紐に触れられてゐるからだかな
うしろてふ言葉恐ろしく呟くうしろ
うらがなしこの鏖殺の霜柱
初山河いづこも同じ宇宙人
人の日の柱の中の模様かな
落葉籠落葉ばかりが腐りをり
冬の蝿こんな恐ろしい世界に
 

1.13
 短篇Aをメール、長篇Dを再開したあと神保町へ。四時より古瀬戸で祥伝社のY田さんと打ち合わせ、長篇Aの原稿を渡す。終了後は薮伊豆で三色せいろ、激戦区だけあって神田の蕎麦屋はレベルが高いですね。さらに秋葉原へ向かい、石丸でクラシックのCDを大量に買って帰宅。
 

1.14
 長篇Bを訂正して再プリントアウト。残るは最終仕上げのみ。
 さて、「新刊ニュース」2月号が届きました。同誌の名物コラム「私のデビュー作」に登板しています。茶髪の近影つき(モノクロだけど)。なお、タイトルは「デビュー作がわからない」。作家多しといえども、こういう人はほかに牧野修さんくらいじゃないかな。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、クラニーせんせいのなつメロのカセットをいなかのおじいちゃんにおくりました。古くさいものばかりだといわれました。にゃー。
 

[今週のBGM]ヴォーン・ウィリアムス「交響曲全集(8枚組)」ボールト指揮/ロンドン・フィルハーモニー交響楽団他
 作曲者は「グリーンスリーヴスによる幻想曲」で有名なイギリスの重鎮、この廉価版の全集はありがたい限り。好みは3番「田園交響曲」と7番「南極交響曲」、言葉なしのソプラノが入ってるし、まるでドビュッシーが書いたかのようなシンフォニーでした(限りなく交響詩に近いんだけど)。次点は2番「ロンドン交響曲」。その他のCDベスト3は、ドヴォルザーク「交響曲第7番他」ジョージ・セル指揮/クリーヴランド管弦楽団、モーツァルト「交響曲第36番『リンツ』&第39番」ワルター指揮/コロンビア交響楽団、ショパン「バラード集&スケルツォ集」カツァリス(pf)でした。セルとワルターは甲乙つけがたい名盤です。


[読書メモ]
(小説)飛鳥部勝則「ラミア虐殺」(カッパノベルス)。
 カーの「火刑法廷」とともに影響を受けた海外ミステリーにピーター・ディキンスン「盃のなかのトカゲ」というほとんど読まれていない作品があります。「火刑法廷」とは対照的に、この小説はお世辞にも傑作とは言いがたい。むしろ退屈です。にもかかわらず、私にとっては〈その先〉の光を強く感じる作品だったのですね。さて、「ラミア虐殺」はそちらのベクトルにある程度沿っている作品で、本来なら凄く好みのはずなのです。むろんアイデアは面白いのですが、ハードボイルド・タッチの文章がいささかなじめなかったのは残念。
(小説以外)王銘エン「ゾーンプレスパーク」(日本棋院)、先崎学「まわり将棋は技術だ」(文藝春秋)、トッド・E・ファインバーグ/吉田利子訳「自我が揺らぐとき」(岩波書店)、氏家幹人「大江戸死体考」(平凡社新書)、池内友次郎・外崎幹二「楽典」(音楽之友社)。
 著者から「ゾーンプレスパーク」を謹呈されて読んだ先崎八段は感想をこう記している。「難しいはなしをくだいて読ませようとする構成上の配慮なのだろうが、それにしてもくだけすぎで、はっきりすべっている。しかし、すべり方もここまでくると一種小気味いいのである。ともあれこんな本は囲碁将棋界を通じていままでなかった」。確かに、これはある種の奇書と申せましょう。


1.15
 さる秘密プロジェクトのため、Illustratorで描いた絵をPDFファイルに変換してCDに保存する。開けることは開けるのだが、この画質では駄目そう。JPEG形式の「web用に保存」がベストなのかしら。うーむ。
 

1.16
 長篇Bの最終仕上げをしてFD作成。午後から竹本健治さんの仕事場にお邪魔する。ちょうど我孫子武丸さんと9子局の最中だったので観戦。9子だと上手は大変なのですが、強欲に差を詰めて終盤に逆転してしまう竹本6段格はさすがの打ち回し。今日は蕎麦とゲームの集まりにつき、浅暮三文・福井健太・その後輩たちが徐々に合流。続いて、竹本さんといつもどおり定先で対局。難しい戦いをフリカワリで切り抜けたときは黒が打ちやすい形勢だと思ったのだが、絶妙のタイミングで右下隅に入られて非勢を意識。勝負手を連発するも正しく受けられて不発、蕎麦タイムになったので早めに投了。なかなか牙城は崩せないですね。棋譜を採ったからいずれ検討しよう。蕎麦ツアーはまず松庵へ。料理屋が経営している店で蕎麦はなかなか結構でしたが、どうも一人では入りづらい雰囲気。お次はいつもの「はし」、ここは少しだけ洒落た町場の雰囲気と蕎麦が絶妙で落ち着きます。仕事場に戻ってからは、我孫子さんと初手合わせの9子局。胃の痛む思いをしながら必死に差を詰めたのだが5目届かず。ほんとに星目の上手は消耗します。その後は午前一時までポーカー(例によってちょこっとだけ勝つ)、三時ごろまでしゃべってタクシーで帰宅。お疲れさまでした。
 さて、「小説すばる」2月号が届きました。連作「十人の戒められた奇妙な人々」最終話「メフィストは嗤う」が掲載されています。ついに完結しました。単行本はいましばしお待ちください。
 

1.17
 絵をJPEG形式に変換してCD作成。これはPDFよりずっといいな。秘密プロジェクトは一歩前進といったところ。夜は碁盤に並べて手順を確認しながら昨日の棋譜を清書する。
 

1.18
 都道府県対抗男子駅伝を観る。アンカー区間の前半で長野県人会がホテルの祝勝会の手配をしたというレポートが入ったとき、さぞや多くの視聴者が首をかしげたことでしょうが、どうにか逃げ切って薄氷の初優勝。なかなか面白いレースでした。
 

1.19
 中篇→短篇B→長篇D。登場人物がまだ動いていない長篇はプロローグだけでむやみに時間がかかる。
 

1.20
 午後三時より神保町の古瀬戸で光文社のK林さんと打ち合わせ、長篇Bの原稿を渡す。これで長篇Cまで終わったので、D以降を繰り上げます。「どれがウチのかわからない」と担当さんにときどき言われるため仮題つきで記しますと、長篇D→A「呪われしものの口をふさぎ」、長篇E→B「紫の館の幻惑」、長篇F→C「騙し絵の館」です(D以降は未定)。終了後は神田まつや経由で秋葉原へ回り、CDウォークマンを買って帰宅。
 

1.21
 今日も午後から出かける。まず原宿の積雲画廊で糸大八・長岡裕一郎絵画展を観る。長岡さんは「豈」同人、糸さんは俳人兼画家として有名な方。どちらも繊細な絵でわりと好みでした。下地に凝ったりするとCGアートとは立体感が違いますね。続いて渋谷へ。まず福田屋で野菜天せいろを食す。ここは意外なほど町場の雰囲気で落ち着きます。七時からはオーチャードホール。オッコ・カム指揮、東京フィルハーモニーのコンサートを聴く。プログラムはヒンデミット「弦楽と金管のための演奏会用音楽」、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」、シベリウス「交響曲第2番」。今日のお目当てはシベリウスではなくラフマニノフの3番、ソリストのマルク=アンドレ・アムランは超絶技巧で難曲を易々と弾いてしまうらしいので期待していたのですが、噂に違わぬ快演でした。この曲は難しくて聴かせどころ満載なんですけど(作曲者がピアニストだから目立つように作ってある)、楽々と弾いていたような印象。アンコールは一転してドビュッシー。技術点・芸術点ともに高いピアニストでした。シベリウスの2番はやや俗っぽくてくどいからさほど好きではないのですが、やはり生で聴くといいです(去年のラハティ響のときも同じことを書いたような気がするな)。長く暗い冬が終わり、フィンランドに(聴衆に)来そうで来なかった春がようやく巡ってきたというカタルシスがあるわけですよ。だからこんなに人気があるのか。満足して十時ごろ帰宅。
 

1.22 
 ずいぶん久々に「ボクシング・マガジン」を買う。最近驚いたニュースは38歳の西澤ヨシノリの世界初挑戦。94年までの戦績が7勝8敗4分、横崎哲やビニー・マーチンに勝てなかった選手がこの歳で世界タイトルに挑戦するとは。しかも、結果は5回TKO負けながら、先にダウンをとったのが凄い。一方、36歳の吉野弘幸は格下相手に三連敗。世界に挑戦したころは強かったのだが、中年ボクサーもいろいろですね。
 

1.23 
 秘書猫をつれて出かける。午後四時より神保町の古瀬戸(十日間で三度目なり)で講談社のT中さんと打ち合わせ、新長篇Bのプロットを渡す。あとはボクシングの話など。終了後は松翁経由で御茶ノ水へ。ディスクユニオンでボロディンQのショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲全集などを購入してから帰宅。
「活字倶楽部」04冬号が届きました。恒例の作家アンケートに答えています。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、打ちあわせについていきました。長篇Bはミーコがかく・・・じゃなくて、出るので、ごあいさつしました。んーと、おわり。
 

[今週のBGM]ゲルンシャイム「交響曲第1〜4番(2枚組)」ケーラー指揮/ラインラント・プファルツ州立フィルハーモニー、サルマノフ「4つの交響曲集(2枚組)」ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー
 交響曲のけもの道です。ゲルンシャイムはなぜか埋もれてしまったドイツのシンフォニスト。やや線の細いシューマンの趣もあって耳に心地いい。3番がベスト。2016年の没後百年あたりに小ブレイクするかも。サルマノフは、いかに巨匠の棒でも元が駄作だと救いようがなかったか。ジャケットには「余は大作曲家なり」というポーズでスコアを書いている作曲者が写っているのだが、柔道選手にしか見えないのが笑える。その他のCDベスト3は、ボロディン「ダッタン人の踊り」&カリンニコフ「交響曲第1番」スヴェトラーノフ指揮/NHK交響楽団、カリンニコフ「交響曲第1番&第2番」アシュケナージ指揮/アイスランド交響楽団、ショパン「マズルカ全集(2枚組)」ルイサダ(pf)でした。やはりカリンニコフの1番は珠玉の名曲です。


[読書メモ]
(小説)菊地秀行「妻の背中の男」(角川書店)、「D-邪王星団(全4巻)」「D-妖兵街道」「D-魔戦抄」「エイリアン蒼血魔城」(以上、ソノラマ文庫)、「退魔針」「魔香録」「魔人同盟 青春鬼」「魔人同盟 青春鬼 完結編」「闇の恋歌」(以上、祥伝社ノン・ノベル)、「ブルー・レスキュー」(メディアファクトリー)、「牙迷宮」(実業之日本社ジョイ・ノベルス)。
 今回は菊地秀行特集です。幽剣抄シリーズはやはりいい。人面疽ものにこういう切り口があったのかと膝を打った「妻の背中の男」などの雑誌掲載分の短篇もさることながら、書き下ろしの引き締まった掌編怪談が実にいいです。ことに「鯛の顔」のさりげなさが美味。「夜の番所」も印象深い作品。引き締まっているといえば、お色気は抜きでも手抜きなしのDシリーズ、ロードノベルの形式が目立つのですが、行く手に現れる村のようにSFのガジェットが登場するあたりの呼吸が好み(キャラ読みでも物語読みでもないもので妙なところに反応しておりますが)。ノベルスでは、ウィルバー・ウェイトリイの実家まで出てくるまさに大盤振舞の「退魔針」、「妻の背中の男」所収の「からくり進之丞」とも一脈通じる人形幻想がうれしい「魔人同盟 青春鬼」、本はスリムなれどスケールが大きい「魔香録」がベスト3でした。
(小説以外)「中井英夫全集9 月蝕領崩壊」(創元ライブラリ)、エリック・S・ラブキン/若島正訳「幻想と文学」(東京創元社)、星野博美「銭湯の女神」(文春文庫)、村松友視「トニー谷、ざんす」(毎日新聞社)、泡坂妻夫「大江戸奇術考」(平凡社新書)、姫野カオルコ「愛は勝つ、もんか」(大和出版)、永井均=著・内田かずひろ=絵「子どものための哲学対話」(講談社)、許光俊「クラシック批評という運命」(青弓社)、ポール・デイヴィス/青木薫訳「宇宙に隣人はいるのか」(草思社)、アルフォンス・イノウエ銅版画集「ベル・フィーユ」(サバト館)、久瑠璃魎「呪われた廃墟の怖い話」(竹書房文庫)。
「中井英夫全集9」のうち既読は前半のみ、後半の二冊は初読(氏の文体ではないから敬遠していたのです)。あまり好みではないけれども日記文学に高まっている「月蝕領崩壊」はともかく、別荘でゴルフをやって物を食っている「流薔園変幻」はうーんという感じ(知り合いも出てくるから面白いんだけど)。
「幻想と文学」はファンタジーの基本色を考えるために読んでみました。訳者が「理論家ではない」と記しているように、いざ分析を始めてもほどなくぐだぐだになってしまって隔靴掻痒の部分はあるのですが、逆に読み物としては見かけよりずっと面白い。で、ファンタジーの基本色ですけど、「『ファンタジー』を『幻想文学』に変換するとそこで微妙に色調が変わるからどうしたものか」と考えていたのですが、何のことはない、ファンタジーの基本色は「幻想」だと規定すればいいのではないかと本書を読んでいてふと思い当たったわけです。その前に確認ですが、基本色とはそのジャンルに塗られている濃淡のある色であって、核となる構成要素ではない。では、ファンタジーの主たる構成要素は何かと考えるとこれがまた難しく、他ジャンルとの差異を考えはじめるとむやみに長くなりそうだから(「幻想」はファンタジーだけに塗られているわけではない、神話に最も近いジャンルだから星の形が他と違う、などといった話なのですが)またいずれということで。
 今回はほかにも言及したい本がいろいろあったんですけど、根が続かないのでとりあえず「子どものための哲学対話」は世の心ある親御さんたちにお薦めということで終わります。


1.24
 支払調書が続々と届きはじめたので、夜はデータの打ち込みに着手。これは実に退屈な作業につき、飽きないように手回しよくCDウォークマンを買っておいたのだが、思ったより音質がいい。暖かくなったら近所の公園でブルックナーを聴くことにしよう。
 

1.25
 大阪国際女子マラソンを観る。予想を上回るスローペース、表情を見る限り千葉の優勝かなと思っていたのだが、明らかにスパートが早すぎましたね。それにしても放送は無駄な演出が多くて興醒め。レースが動いているのにアルフィーとは間抜けすぎる。
 大相撲初場所回顧。公傷制度が撤廃されたおかげで入れ替えが多くなったのは歓迎。それにしても、34歳の返り入幕の朝乃若が十番勝つとは。あの引き技は技能賞だと思うのだが。外国出身の若手が次々に出世するなか、アルゼンチン出身の星誕期がひっそりと引退。半端なけたぐりと十両最後の場所の全敗が印象深かった。お疲れさまでした。
 

1.26
 中篇→短篇A→長篇B→長篇A。夜はドローイングを再開。AppleWorksの作品をJPEG形式に変換してIllustratorの絵の素材として取りこむという新手の技を覚える。これでずいぶん幅が広くなったかも。
 

1.27
 夕方は北千住でいろいろ買い物。また安い靴を買ってしまう。夜は部屋を整理し、間近に迫った推協の麻雀大会に備えてバットマットの打ちこみ練習を開始。
 

1.28
 44回目の誕生日は慌ただしかった。まず五時より飯田橋の珈琲館で編集プロダクションのS宮さんと打ち合わせ、ワンツーポケットノベルス(ワンツーマガジン社)より三月中旬刊行予定の「死の影」(親本は廣済堂文庫)のゲラを受け取る。スタートしてまだ日が浅いレーベルで、いまのところ再刊が主体のようです。文庫書き下ろし→ノベルスという流れは変則なのですが、なんにせよ二度のおつとめはありがたい限り。終了後は六時よりホテル・エドモント、推協の新年会パーティに秘書猫とともに出席する。仕事の話はそれなりに進んだかな。今日は珍しく一次会のみで帰宅。
 

1.29
 短篇Aを最後まで書き、長篇Cをとりあえず起稿。夜は「死の影」のゲラに着手。五年前の作品だから意外に赤字が入る。「けれども」がうるさいのでずいぶん減らす。完璧には程遠いなあ・・・。
 

1.30
 短篇Aを画面上で推敲してプリントアウト。ゲラを進めてから六時より東京ドームホテル、白泉社の新年懇親パーティに出る。相変わらず知り合いがほとんどいない。いつものように黒ずくめの小沢章友さんとか、いやに白っぽい格好をした東雅夫とか・・・うーん、これでは世界が何も拡がらないではないか。一次会のみで失礼して帰宅。
 

1.31
 本日は強行軍。まず二時より銀座、推協の麻雀大会に出る(二年ぶり三度目)。32名が参加、ベスト10の結果は以下のとおりです。
1位 竹書房I氏
2位 小沢章友
3位 佐野洋
4位 綾辻行人
5位 倉阪鬼一郎
6位 内藤みか
7位 井沢元彦
8位 集英社I氏
9位 権田萬治
10位 徳間書店T氏
 というわけで、現名人を含む強豪ぞろいのメンバーで目標のベストテン入り、しかも5位という大満足の結果でした。唯一沈んだ一回戦の内藤みかさんのバカヅキがなければもっと上位を望めたような気もするのだが、あれは止められなかった。
 終了後は赤坂「ですぺら」に急行、幻想的掲示板の新年会に出席する。初対面の方、初めてお話しする方を含めて二十数名が参加。濃い話、反省する話もろもろを含めて結局朝までしゃべる。ずいぶん有意義な夜でした。午前七時に帰宅して就寝。みなさん、お疲れさまでした。
 最後に、さすがにこれは読むことはないと思うのでブラニーからもらった本をここで紹介しますと、倉阪秀史「環境政策論 環境政策の歴史及び原則と手法」(信山社・3400円+税)が刊行されています。