2.1
 別府大分毎日マラソンを観る。オリンピックの代表選考会の谷間で二線級ばかりのレース、これまでも意外な展開が多々あった大会だが今年も面白かった。ペースメーカーがそのまま独走かと思いきや、40キロ手前で突然リタイア(かつてのシャハンガを思い出した)、第二集団から徐々に追い上げた一般参加のランナーが優勝という番狂わせ。これだから別大は見逃せない。
 

2.2
 ゲラの追いこみ。五年前の作品は半ば読者モードなのですが、なんだか愉しそうに書いてるなあと少々羨ましく思ったり。先月の執筆枚数は125枚(C標準)でした。今年は四月開幕に向けて徐々にピッチを上げる予定。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは三回もおでかけしました。さいしょの二回はフェレットのフェレちゃん、三回目はひさびさに三毛猫のミミちゃん、オコジョのオコちゃんとジョーちゃんをつれていきました。ミーコはおともだちにとってもかわいがってもらいました。つかれたけど、よかったにゃ。おしまい。
 

[今週のBGM]ラフマニノフ「交響曲全集、ピアノ協奏曲全集、管弦楽集(6枚組)」ヤンソンス指揮/サンクトペテルブルク・フィル
 この廉価版のセットも実にありがたい。ラフマニノフはやはり交響曲よりピアノ協奏曲、4番は落ちるけれどあとはどれもいい。さりげなく収録されていた交響詩「死の島」はベックリンの絵に触発された作品。なかなかに陰鬱で結構でした。生で聴きたいけど需要はあまりないかな。その他のCDベスト3はオール・ヴァイオリンで、コルンゴルト「ヴァイオリン協奏曲」&ラロ「スペイン幻想曲」ハイフェッツ(vn)、「歌の翼に」川畠成道(vn)、シベリウス「ヴァイオリン協奏曲」&シュニトケ「合奏協奏曲」クレーメル(vn)でした。
 

[読書メモ]
(小説)特集はしばしお待ちを。再読モードは必要あって「虚無への供物」。
(小説以外)ツヴェタン・トドロフ/塚本昌則訳「日常礼賛 フェルメール時代のオランダ風俗画」(白水社)、前川道介「愉しいビーダーマイヤー 19世紀ドイツ文化史研究」(国書刊行会)、原功「ボクシング名勝負の真実」(ネコ・パブリッシング)、吉村昭「私の好きな悪い癖」(講談社文庫)、巖谷國士「シュルレアリスムとは何か」(ちくま学芸文庫)、高橋邦弘「そば屋 翁」(文春文庫)、後藤正治「マラソンランナー」(文春新書)。
 ビーダーマイヤーとシュルレアリスムってつながるような気がするのだが、さてどうつなげればいいのかしら。


2.3
「死の影」のゲラを返送。思ったより手間どってしまった。どうも脳細胞を潰したようで、宅配便の用紙に記入する際に自宅の郵便番号と電話番号を思い出せず少々うろたえる。歳なり。夜はデータの打ちこみ作業を再開、収入表から支出表に移る。
 

2.4
 四時より神保町で祥伝社のY田さんと打ち合わせ。長篇伝奇ホラー「大鬼神」の再リテイクの件。前々から伝奇ホラーはいつか手がけてみたいと思っていたのですが、いざ書いてみると完成にこぎつけるまでは実に大変ですね。というわけで、かれこれ三年くらい前から限りなく与太話に近い構想を聞いてくださっていた同業者のM野さんやT中さん、あの話がついに世に出ます。その後は秋葉原経由で帰宅。
 ついでに記しますと、Webにおける「The End」の作者データでずいぶん「伝奇小説家」と紹介していただいているのですが、これは明らかに「怪奇小説家」の間違いだと思われます。解釈にもよるでしょうけど、「大鬼神」が初の伝奇ホラーで、過去に書いた記憶はないのですが・・・。
 

2.5
 秘書猫をつれて午後二時より文京シビックホール、西本智実指揮・東京フィルハーモニーのコンサートを聴く。脇に近い一階最前列というベストポジション、指揮者は人気の男装の麗人とあって、追っかけと思われる女性客の姿がいやに目立つ。ソリストは13歳のロシアの天才美少年サーシャ・クズネツォフ。一曲目はヴュータン「ヴァイオリン協奏曲第5番」、これはハイフェッツ好みの難曲なのでどうかしらと思っていたら、弦の不調で途中からやり直すというハプニングが出来。気を取り直して完奏し、二曲目はサン=サーンス「序奏とロンド・カプリチョーソ」。終盤はやや息切れ気味ながら前半は実に颯爽と弾いていました。もう少し大きくなって名器を手にしたら音が深くなるし、今後に期待。後半はモーツァルト「交響曲第40番」、目をつけられて休憩時間に盗まれないようにここでバッグからミーコを出す。わりと端正な指揮で無難な仕上がりでした(もともとこの曲にはそんなに思い入れがないのですが)。特筆すべきはやはりヴィジュアル、私の席からはベストアングルで、ときどき微笑を浮かべながらタクトを振る美しい横顔が実によかった。ミーハーで恐縮です。帰宅後はリテイクの準備とデータの打ちこみ作業。
 

2.6
 なんだかバタバタしているだけ。とりあえず支出表の打ちこみ作業を終える。会計ソフトは入れていないから、このあとも延々と手作業なり。実はこのほうが楽なのだが。
 

2.7
 目覚ましをセットすると早朝覚醒があったりするもので、早めの予定を入れないようにして成り行きに任せているのだが、今日は二度寝したおかげでお目当てのチケットを逃したり溜まっていたゴミを出せなかったり、まったく散々だった。気を取り直して仕事、リテイクの準備を完了。夜は支払調書と照合しながら収入表を修正、ここでやっと去年の年収を把握する。前年比9%ダウン。恐ろしいことに、小数点以下第二位を四捨五入すると三年連続の9%ダウンになる。どうしてこんな判を押したような数字になるのだろう・・・不気味だ。
 

2.8
 東京国際マラソンを観る。うーん、アテネの男子は惨敗ムードが漂ってきたかも。最後のびわ湖に期待かな。その後は短篇Aを仕上げ、短篇Bを起稿。
 

2.9
 短篇Aをメールし、リテイクに着手。滑り出しは順調。
 

2.10
 リテイクを進めたあと、西日暮里の美容院でカット&カラー、いつものように限りなく金髪に近い茶髪に染める。その後は行きつけの金町東急で黒服と性懲りもなく「最強東大将棋2004」(PS2)を買い、適当に蕎麦屋をハシゴしてから帰宅。喫茶店ならともかく「白樺」という名の蕎麦屋があるとは。深夜はさっそく東大将棋の四段モードと対戦、相変わらずガツガツした大局観のない美的センスに欠ける将棋である。でも勝てないから腹が立つのだが。
 

2.11
 粛々と仕事、夜は支出表の修正。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、コンサートにつれてってもらいました。うるさくするといけないので、おすずをはずしてネックレスをしていきました。ライオンのマルちゃんがおともでした。にしもとさんは、とってもかっこよかったです。ミーコも大きくなったら指揮者になりたいにゃとおもいました。おわり。
 

[今週のBGM]ブルックナー「交響曲全集(9枚組)」ヨッフム指揮/ドレスデン国立管弦楽団
 二つ目の全集。比較的地味な扱いの1〜3番、6番あたりが良かった。一つ目との勝負は、かなり迷ってからビーダーマイヤー的な渋さでティントナーに軍配。4・8・9番のベストはチェリビダッケで動かず。あれを聴くとどれも速すぎると感じてしまうのだが。ブルックナーの交響曲は全部好きですが9番がベスト。やはり空恐ろしいほどの傑作です。その他のCDベスト3は、アルヴォ・ぺルト「アルボス《樹》」ヒリヤード・アンサンブル他、フォーレ「エレジー」ハンナ・チャン(vc)、シベリウス「ヴァイオリンと管弦楽の作品全集」カム、アルミラ他指揮でした。ぺルトはむちゃくちゃ音符が少ないオルガン曲「パリ・インテルヴァロ(断続する平行)」が麻薬的で好み。葬式の前奏曲にいいなと思ったり。
 

[読書メモ]
(小説)歌野晶午「ジェシカが駆け抜けた七年間について」(原書房)、安東能明「強奪箱根駅伝」(新潮社)、「中井英夫全集1 虚無への供物」(創元ライブラリ、三回目か四回目)。
「ジェシカが駆け抜けた七年間について」はどきどきしながらページを繰っておりました。なんとなれば、現在リテイク待機中の長篇ミステリーが奇遇にもマラソン物だからです。幸い、小ネタにいたるまでかぶっていなかったのでほっとひと息(いや、絶対にかぶるはずのないネタなんだけど)。ただ、思いきりシンクロしていたのは登場人物の名前。拙作のヒロインは「あゆみ」、準ヒロインは「ジェシカ」だったんですね。あゆみは表記が違うからいいとして、ジェシカはシンディに変えることにしよう。歌野さんもジェシカ・ハーパーのファンだったりするのかしら。なお、いつもながらのスマートなフォームできっちり仕上げてきた作品です(前作と違ってわかったけど)。私は基本的に短中距離ランナーだから、一人で駅伝をやってるみたいにフォームがバラバラだったりしますが。もう一冊気になっていた「強奪箱根駅伝」もノープロブレム。「虚無への供物」はべたべた付箋を貼りながら半ば資料読み(解説がいやに重かった)。こういう読書ばかりというのはなんだかなあという気もするな。
(小説以外)山本六三画集「エロス・タナトス」(サバト館)、「俳人セレクション08 佐々木六戈集」(邑書林)、フィリップ・ジャコテ詩集/後藤信幸訳「冬の光に 附 雲の下の想い」(国文社)、春日直樹「ミステリイは誘う」(講談社現代新書)、渋井哲也「ネット心中」(NHK出版生活人新書)、岡野弁「メッテル先生」(リットーミュージック)。
 ジャコテの詩には何度か胸がつまりそうになったのだが、引用にはやや不向きなので、いささか恣意的に二箇所のみ。
「夏の終わりの この光が、
 たとえ 眩いばかりの、
 ほかの光の影にすぎぬとしても」(「見える」)
「時間[とき]の破片を拾い集めても、永遠は作れぬ」(「雲の下の想い」)
 
2.12
 四時より神保町の古瀬戸で光文社の担当のK林さんおよびW辺編集長と打ち合わせ。長篇ミステリー「42.195(仮)」のリテイクの件。これでフォームがよりシャープになりそうです。終了後は神田の蕎麦屋をハシゴしながら「SFが読みたい! 2004年版」を読む。大森望作成の労作「日本SF作家237名の分布マップ」を見るなり、「現実とは違って郊外のええとこに住んでるやないか」と三河島在住者は思ってしまったのだが、ご近所がグレさんならまあ大したことないかも(笑)。
 

2.13
 13日の金曜日なので思い当たったのだが、過去に共著が一冊あるのにこのところホラー映画をまったく観ていない。いや、映画自体ずいぶんご無沙汰している。そう言えば、一時期は気が狂ったように買っていた怪奇小説の洋書にも手を出さなくなった。コレクションしていた懐メロのミュージックテープはすべて実家に送り返してしまった。古書展はおろか最近は古本屋にも行っていない。どうも急に憑き物が落ちる体質らしい。いま現在はクラシックと蕎麦に嵌まっているようだが、数年後はどうなるかわからない。日記に盆栽の話ばかり書くようになっていたら厭だな、とふと思ったりする。
 さて、「ジェイ・ノベル」3月号が届きました。東京下町ホラー四作目「絵蝋燭」が掲載されています。今回は神田が舞台です。ホラー短篇ならスプラッターからジェントル・ゴーストストーリーまでどんな球種でも投げられるつもりなんですけど、この連作は下町の雰囲気に合う話という方向で毎回苦慮しております。似たような話にならないように球筋を変えているのですが、さてどうでしょう。なお、「筆者の近況」欄にも登板、さりげなくカリンニコフの1番の普及活動をしています。
 

2.14
 今日は完全オフ。ミーコ姫とぬいぐるみ軍団を率い、三時より赤坂見附のビッグエコー、水庭倶楽部カラオケ部の部活「鍋カラ」イベントに出る。高瀬美恵、ブラニー、ウカイ部長、けーむら会計など約十名が参加。鍋をカラオケでサンドイッチする趣向で、まずは昼カラ。これは中学・高校時代に流行った歌縛り、最年長の私の下限は77年なのだが、この年に生まれた人が二人もいる。あまりマニアックな曲を選んでもと思い、前半は「岬めぐり」「心の旅」といった大ヒット曲で無難につなぎ、後半のフォーリーブス「ブルドッグ」とN.S.P.「さようなら」で勝負という構成にしてみました。続いて赤坂のちゃんこ食神で鍋。ちゃんこ鍋は十数年ぶりかも(あとで調べたら・・・ってヒットしたのは柴尾さんの日記だけど、店主は朝乃濤だったのか)。野菜がとても美味でした。鍋のあとは新宿パセラに移動して夜カラ。こちらはとくに縛りなし。初めて歌ったのは中之島ゆき「出町柳から」「朝靄の京橋で乗り換え」、まだちょっと練習が足りないか。引き続き関東普及活動に努めたいと思います。十一時半まで歌って解散。お疲れさまでした。
 

2.15
 一日遊んでしまったので、待ったなしのリテイクに戻る。
 

2.16
 リテイクに専念。夜は内訳書と決算書の下書き。
 

2.17
 ひたすら仕事。急な短篇の依頼があったし、当分は引きこもりモードの模様。確定申告は下書きをすべて完了。
 

2.18
 リテイクは最後の難所を切り抜ける。短期間に40枚も加筆したから疲れた。
 

2.19
 リテイクの第一稿が完成。短篇Aのゲラを返送し、間髪を容れず新短篇Aを起稿。
 

2.20
 中篇を再開、短篇Aを勢いで進め、夜はリテイクの推敲を完了。
 

2.21
 リテイクのFDが完成。とりあえず一冊目が終わる(もう一冊ある)。続いて短篇Aを最後まで書く。まさか三日で下書きができるとは。
 さて、俳句空間「豈」38号(発行・豈の会、発売・邑書林、1000円+税)が届きました。従来の「豈」と「俳句空間」を融合したような感じになりつつなりますね。小生は「一角獣変幻」二十句を寄稿しています。次の俳句を作らねば。では、今週の秘書猫です。 
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、なべカラにつれてってもらいました。おともはフェレちゃん、ミミちゃん、オコちゃん、ジョーちゃん、マルちゃんでした。ミーコはおともだちとあそびました。んーと、カラオケの画面にかわいいこねこがうつったので、ミミちゃんといっしょに手をふりました。つかれたけど、たのしかったにゃ。おしまい。
 

[今週のBGM]チャイコフスキー「交響曲第3番《ポーランド》他」バティス指揮/メキシコ州立交響楽団、モーツァルト「交響曲第31番《パリ》他」バティス指揮/ロンドン交響楽団他、シューマン「交響曲全集(2枚組)」バティス指揮/メキシコ州立交響楽団、チャイコフスキー「交響曲第6番《悲愴》他」バティス指揮/ロンドン・フィル他
 というわけで、エンリケ・バティス特集です。何を振っても爆演にしてしまうという評判の指揮者ですが、さすがに全部がそうではない。緩徐楽章を含む長めの交響曲ではやや不発に終わる場合もあります(「悲愴」はかなりの爆演なんだけど、やはり違うような気が。ちっとも悲しくないぞ)。持ち味が出るのは十分前後の曲。チャイコフスキー「スラヴ行進曲」「イタリア奇想曲」などはまさにバティス節。ボクシングファンはメキシコ国歌のメロディを自然に憶えたりするものですが、バティス&メキシコ州立響を聴くとあの旋律(ちなみに名曲です)がふと甦ります。得がたい芸風なり。その他のCDベスト3は、バントック「ヘブリディーズ交響曲他」リーパー指揮/チェコスロバキア国立コシツェ・フィル、バラキレフ「交響曲第1、2番」スヴェトラーノフ、ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立交響楽団他、バラティ「交響曲第1番・闇の歌」コヴァーチュ、ヴァーレク指揮/ブダペスト交響楽団他とBで頭韻を踏んでみました。バントックはヴォーン=ウィリアムスとシベリウスを足して二で割ってやや俗っぽくしたような作風で、「ヘブリディーズ交響曲」はかなり良かった。「ケルト交響曲」を探さねば。


[読書メモ]
(小説)山田正紀「サイコトパス」(光文社)、「天正マクベス」(原書房)、「渋谷一夜物語[シブヤンナイト]」(集英社)、「風水火那子の冒険」(光文社カッパ・ノベルス)、「篠婆 骨の街の殺人」(講談社ノベルス)、「火神を盗め」「氷雨」 「謀殺のチェス・ゲーム」「恍惚病棟」(以上、ハルキ文庫)。
 今回は山田正紀特集です。まずは最近のハードカバーから。「サイコトパス」は思いきりツボ。「イレイザーヘッド」みたいだなと少々興奮しながら読んでいたのですが、あとがきに言及があったのでさてこそと思う。「楽しんで書いた」というコメントがうなずける作品です。「天正マクベス」のシェイクスピアはただの趣向で済ませていいものかとふと思ったりする。ガジェットの使い方など作者が〈外〉から本格ミステリーを見ていることは自分もそうだからよくわかるのですが、それはともかく、本格が何を背負っているか(大雑把に短く言えば西洋近代)が作者に見えているからこその配役というのは穿ちすぎかしら。枠物語の舞台にNHKがあるせいか、「渋谷一夜物語」はひとり紅白歌合戦の趣(幕間にチャラチャラしたガキが出てくるし)。やはり後半の歌手のほうが聴かせる。「屍蝋」「さなぎ」「オクトーバーソング」「バーバー バーバー」のグラデーション系四連発は耽能しました。妙に懐かしい感触がある前半の「環状死号線」を加えてベスト5。「風水火那子の冒険」のベストは「麺とスープと殺人と」。それにしても中篇ミステリーはネタの配合が難しそう。「篠婆 骨の街の殺人」はシリーズが完結すれば大きな物語が浮上しそうなのですが、その後どうなったのでしょう。疲れてきたので、文庫作品は「十種競技の鉄人のごとし」と短く。個人的な好みは「恍惚病棟」。
(小説以外)吉川潮「わが愛しの芸人たち」(河出書房新社)、野本由紀夫・原納暢子・満津岡信育編「200DVD映像で聴くクラシック」(立風書房)、野崎六助「世界の果てのカレイドスコープ」(原書房)、松浦直巳訳「ディラン・トマス詩集」(弥生書房)、小山正・日下三蔵監修「越境する本格ミステリ」(扶桑社)、櫻井琢巳「世界詩としての俳句 西川徹郎論」(沖積舎)。
「わが愛しの芸人たち」所収の「桂三木助 死の真相」は初出で読んだときに不覚にも落涙してしまったのですが、再読も胸がつまりました。


2.22
 リテイクのFDを送付、確定申告の書類を清書。ぐったりしたので夜は休養。
 

2.23
 短篇Aを画面上で推敲してプリントアウトしたあと、新三河島の荒川税務署で確定申告を済ませる。その後は都電経由で三ノ輪へ、久々に砂場でもりを食す。昼間からすっかりできあがったおじいさんが「ベビーちゃんができたらアイドントノー」とか歌ってたから思わず唱和しそうになる。強風のなか南千住まで歩き、短篇Bの取材。続いて秋葉原に回り、石丸の4Fで腰が抜けるほどクラシックの輸入盤を買う。これは大いなる錯覚だが還付金の申告をすると丸もうけをしたような気分になるもので、ついつい散財してしまうのである。なんとなくまだ不完全燃焼につき新宿に向かい、本とCDをバッグが一杯になるまで買って帰宅。これで当分聴くものには困らないだろう。
 

2.24
 どれもこれも進まず。夜は付箋を貼りながらリテイクの準備。
 長々と連載させていただいたうえ本が売れないのではあまりにも申し訳がないので、このところたまに恥を忍んで作者自ら「The End」を買っていたりするのですが、本棚に並べるとほんとに美しいです。この初版本はいずれプレミアがつくはずだから、保存状態のいい本を寝かせておいて将来の値上がりを待つ・・・って自作の登場人物の真似をしてどうする。ともかく、こういう陰気な幻想小説は趣味に合いそうにないという方も、お部屋のインテリアとしてご購入いただければ幸いです。
 ・・・なんだか虚しくなってきたな。
 

2.25
 中篇→短篇B→長篇A→エッセイ→長篇B→リテイクの準備。
 仕事の合間に東大将棋2004の「女流棋士に挑戦」で気分転換しているのだが、今回もクリアには時間がかかりそう。駒を渡すとどんな詰まされ方をされるかわからないので丸山棋王ばりの「友達をなくす手」を指すように心がけているのですが、どうもそういう展開にならない。深夜もカッときて負け続けたからAI囲碁で憂さばらし、最強モードに9子置かせて投了を許さず、自己最高の185目勝ちを記録する。愚行なり。
 

2.26
 昨日の短篇Bの執筆分を保存し忘れていたことに気づき愕然。うーん、久々にやってしまった。夜はリテイクの準備を完了。
 

2.27
 リテイクに着手。なぜか鬱々としてきたので夜は静養。
 

2.28
 本日は復調。中篇とリテイクを進めたあと北千住へ。西口には洒落たピロティなんぞができ、これがあの北千住かと怪しまれるほどの変身ぶり。オープンしたばかりの丸井は人出に閉口して何も買わずに出て(テナントの紀伊国屋でまた「The End」を買おうと思ったら置いてなかった・・・うう)、様変わりした光景を眺めていると、「都会みたいで嫌だ」という地元民のつぶやきが耳に届く。確かに、駅前だけ糊塗しても仕方ないかも。その後は心なしか雰囲気が暗いヨーカドーで黒服、ルミネで秘書猫用にキティちゃんのおひなさまを買って帰宅。
 

2.29
 今日は完全オフ。まずは秘書猫をつれて蒲田の大田区民ホールアプリコ大ホール、二時より新田ユリ指揮・アイノラ交響楽団のコンサートを聴く。シベリウスの曲を演奏するために2000年に結成されたアマオケの第1回演奏会、ファンとしては行かねばと思った次第(今年の隠しテーマが女性指揮者ということもあったりしますが)。当日券だが全席自由、誰も前のほうに座らないので心おきなく最前列に座る(音が抜ける感じがするため途中から三列目に移動)。前半は組曲「白鳥姫」、組曲「歴史的情景」、音詩「フィンランディア」。特筆すべきは、初演に近いかたちで「歴史的情景」と「フィンランディア」が続けて演奏されたこと。なるほど、これだと聴衆により感銘を与えたでしょうね。個人的には今日のハイライトでした。「フィンランディア」はシベリウスお得意の陰鬱な冬→春の兆し→寒の戻り→待望の春というパターンを踏んでいるのですが、最初から春一番が吹き荒れているかのような演奏で、アマオケらしくてよかったです。気合入ってました。後半は「交響曲第5番」で、後期シベリウスのなかでは最もとっつきやすい曲(好みは4・6・7番なんですけど)。緩徐楽章はやや乖離気味でどうかなと思ったのですが、終盤の難所はきれいに合ってました。振り終えた指揮者の感無量の表情が印象的。アンコールの一曲目は指揮者のトークの後に「アンダンテ・フェスティヴォ」(これもよかった)、二曲目はなんとまた「フィンランディア」、師のヴァンスカ譲りのサービス精神でしょうか。総じて、細かいミスはともかく随所にシベリウスらしさが出ていたし、第1回としては大成功だと思います。1500円は安かった。
 終了後は乗った記憶のない東急池上線で五反田に出て、都営浅草線の高輪台。ギャラリー・オキュルス&啓友堂で行われた「《『虚無への供物』刊行40年記念企画》永遠の薔薇 -中井英夫へ捧げるオマージュ展」を観る。「虚無への供物」が刊行されてちょうど今日が四十年目なのです。意外な一面を見せた出展者もいて興味深く鑑賞したあと、六時からはオープニング・パーティ。数えきれないほどの参加者でとても会場には入れず、ギャラリーの前は怪しい立ち飲み屋の趣。初対面は渡邊一考さんからご紹介いただいた多賀新さん、相澤啓三さんなど。なにぶん気後れのするたちで、ご挨拶するときに腰が引けてましたが。森真沙子さんにお目にかかるのはずいぶん久しぶり、さっそくミーコ姫を紹介する。二次会は品川のグリルつばめ、逃れたと思ったらスピーチが回ってきたからくだらないことをしゃべってしまう。挨拶は苦手なり。秘書猫を遊ばせたりしながら十時過ぎまで歓談。お疲れさまでした。