3.1
 早めに目が覚めたのでべたっと仕事。夜は短篇Aの推敲。先月の執筆枚数は134枚(C標準)でした。
 

3.2
 短篇Aをメール。あとはリテイクに専念。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、パーティにでました。コンサートのあとだったので、ネックレスだけつけていきました。おともだちがふえたし、おとものフェレちゃんも大にんきでした。ミーコはいっぱいお写真をとってもらいました。わーいわーい。
 

[今週のBGM]ミャスコフスキー「交響曲第2・18番」「交響曲第3・13番」「交響曲第4・11番」「交響曲第5・12番」スヴェトラーノフ指揮/ロシア国立交響楽団、「交響曲第6番」スタンコフスキー指揮/チェコスロバキア放送交響楽団
 今回はミャスコフスキー特集です。生涯に27曲も交響曲を書いた作曲家なのでまだ三分の一ですが、とりあえずここまで。どうもつかみどころのない作曲家である。ショスタコーヴィチのように明暗のメリハリが利いているわけではなく、緩徐楽章が多いのだがチャイコフスキーのようにメロディアスでもない。何か鬱屈があったことは伝わってくるけれども、終始もごもごと口ごもっているような感じでよろずにはっきりしない。おまけに派手なフィナーレがないのだから一般受けしないのも当然である。しかしながら、続けて聴くとこの隔靴掻痒感がミャスコフスキーならではの味に感じられてくる。なかには退屈なだけの凡作もありますが、4・5・13番はかなりいいです。その他のCDベスト3は、ブルックナー「交響曲第7番」マタチッチ指揮/チェコ・フィル、カリンニコフ「交響曲第1・2番」クチャル指揮/ウクライナ国立交響楽団、「EARQUAKE」セーゲルスタム指揮/ヘルシンキ・フィルでした。マタチッチ盤は現時点でのブルックナー7番のベスト。巖の光と影が見えるかのような名演です。しつこくカリンニコフの1番ですけど、やはり掛け値なしの名曲。ここからはほとんど妄想ですが、二十代のころキーロフ・クラサコフスキーと名乗っていた私はこの曲を聴くたびに望郷の念に駆られて涙腺が緩んだりするのです。「EARQUAKE」は大音響のうるさい曲ばかり集めた怪オムニバス。指揮者の曲など選曲がむやみにマイナーなところもポイント。ドラックマン「プリズム」、レブエルタス「マヤ族の夜」、レイフス「ヘクラ」あたりがおすすめ。ほんとにうるさいです。
 

[読書メモ]
(小説)レオポール・ショヴォー/山本夏彦訳「年を経た鰐の話」
「年を経た鰐の話」は故山本夏彦翁の著訳書の中で唯一未読だった本。著者の手になるイラストが実にいい感じ。表題作は蛸を食うあたりはすこぶる愉快なのだが、幕切れは寓意が透けて見えてやや興醒め。ベストは「なめくぢ犬と天文学者」。訳文もさることながら、序文もさすが栴檀は双葉より芳しといったところでしょうか。
(小説以外)古川修「蕎麦屋酒」(光文社新書)、渡辺敬一郎「強すぎた名馬たち」(講談社+α新書)、豊田健次「それぞれの芥川賞直木賞」(文春新書)、いしいひさいち「文豪春秋」「ほんの本棚」(創元ライブラリ)、北尾トロ「怪しいお仕事!」(新潮OH!文庫)、山折哲雄「仏教信仰の原点」(講談社学術文庫)、渡辺敬一郎「最強の馬たち」(講談社)、井波律子「中国ミステリー探訪」(NHK出版)、渡辺敬一郎「平成名騎手名勝負」(講談社+α新書)、イエイツ詩集/小堀隆司訳「塔」(思潮社)、本宮輝薫「死の衝動と不死の欲望」(青弓社)。
 本格ミステリ大賞の評論研究部門の候補作をとりあえず読了。普通は小説から読むと思うのだが、最近とみにノンフィクション率が高くなっています。



3.3
 中篇以外の並行作業をいったん凍結し、リテイクに専念。ひなまつりなので秘書猫にキティちゃんのおひなさまを与え、中に入っていた金平糖を食す。べつに食べてうまいものじゃないな。深夜は珍しく東大将棋に10秒将棋で勝つ。序盤に角銀交換の駒損をしながら右玉風車でボコボコにしたから、久々に気持ち良かった。
 

3.4
 エッセイの下書きを終え、リテイクを進める。夕方は「将棋世界」を買いに駅前の本屋に向かったのだが、離人症の発作を起こしかけたので怖くなって引き返す。二十代のころの持病ですが、やはりまだ完治していないらしい。急に風景の現実感が冷たく欠落したからうろたえたのだが、こういうときは声を出せばいいのだった(すっかり忘れてた)。というわけで、あまり根を詰めないように夜は静養。
 さて、「死の影」(ワンツーマガジン社・ワンツーポケットノベルス・819円+税)の見本が届きました。見るなり表紙のデザインがいいなと喜んだのですが、盛川和洋さんのお仕事だったんですね(山吉由利子さんのすてきな人形の写真が使用されています)。ありがとうございました。まだあまりなじみのないレーベルですけど、おやじ臭いノベルスの棚を探していただければたぶん見つかると思います。再刊につき献本はしておりませんので、あしからずご了承ください。なお、初刊時はただの「長篇ホラー」だったのですが、はっきり仕掛けがあるので今回は「長篇ミステリーホラー」と銘打っております。文章のシェイプアップのみで大幅な変更はありません。
 

3.5
 秘書猫をつれて六時より東京會舘、徳間三賞のパーティに出席する。初対面の名刺交換は朱川湊人さん、杉本蓮さんなど。久々にお会いしたのは霜島ケイさんなど。日本SF大賞の冲方丁さんにご挨拶してから会場を徘徊していろいろな方と歓談。「恋愛小説を書こう」とか「金羊毛のころから読んでます」とか話題多数。終了後はホテルのラウンジで牧野修・田中啓文・南智子といった面々とよもやま話。続いて東京国際フォーラム内のSF二次会会場に合流。十一時半ごろ上野のパセラに移動し、あとは延々とカラオケ。日本SF新人賞の八杉将司さん、同佳作の片理誠さんを交えた十名余のメンバー。喜多哲士・山岸真ご両人が率いるアニソンがベースにつき、流れが変わったところですかさず曲を入れるというパターン。初めて歌ったのはなぜか「東京五輪音頭」と「恋人たちの100の偽り」。それにしても「うぐいすだにミュージックホール」にセリフが入っていなかったのはいかがなものか。ほとんど意味がないと思うが。五時半まで歌って解散。お疲れさまでした。
 

3.6
 反動で不調。歌ってるときは元気なのだが・・・。
 

3.7
 びわ湖毎日マラソンを観る。雪かと思いきや一転して陽が照るというコンディションで、いやに重装備のケニアのペースメーカーがすぐやめてしまう。いったい何をしに来たのかしら。レースは30キロ過ぎからの一般参加選手を含む仕掛け合戦が面白かったけれども、初マラソンのスペインのリオスに負けてるようでは小島選手はやや分が悪いか(またシンクロでリオスという選手も拙作に出てくるんだけど、これはまあいいな)。代表予想は国近・高岡・油谷なのだが、さてどうなりますか。その後はリテイクの第一稿の作成を完了。
 

3.8
 中篇→短篇B改めAを再開→長篇Bを再開→リテイクの推敲に着手。
 ふと思いついたのでボケを承知で書きますと(「これが現象学だ」を読んだときも素朴に引っかかったんだけど)、「丸い四角」は申すに及ばず、「丸いしかしそして」もシュルレアリスム系の短詩型文学やアブストラクト・アートをやっている人間ならわりと普通にオブジェとしてイメージできると思います(ほかにも前衛系の生け花とか演劇とかいろいろあるでしょう)。試みに「丸いしかしそして」という席題で句会をやったら前衛俳人はいろんな俳句を作るだろうし(「丸いしかしそして真夏の天球儀」とかいくらでもできる)、たとえば草月流の人たちはインスタレーションを交えて面妖なものを造ることでしょう。少なくとも、人間は(それらの表現を)イメージできないと断定することはできない。さらに言えば、いかに文法的に支離滅裂でも「全く無意味な表現である」と断定はできない(七面倒なことはわかりませんがゲーデルの裏返し?)。直観に拠れば、「およそ言語で表現されたものは何らかのイメージを喚起し(意味を有し)、であるがゆえに言語たりえている」ということなんだけど、これって東洋的もしくはアニミズム的言語観なのかしら。ちなみに、「有意味」と「無意味」の境界はあるように見えるけれども、せんじつめればその言語表現がマジョリティによって支えられているか否か(決してスタティックなものではない「文法」を含めて)というグラデーションの問題に過ぎないと思います。
 

3.9
 短篇Aを進める。この短篇は中井英夫の文体模写で書いているのだが、ほんとに鵺みたいなものにしかならない。うーむ。
 

3.10
 エッセイを送付→中篇→短篇A→長篇B→リテイクの推敲。
 来週は月・火と連続してゲラの受け取りがあるから、いっこうに釜の蓋が開きそうにないな。
 

3.11
 リテイクの推敲を完了。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうもパーティにでました。フェレちゃんをつれていきました。ミーコはおともだちといっぱいあそびました。わーい。えっとそれから、カラオケではおうたにあわせておどりました。ちょっとつかれたにゃ。おしまい。
 

[今週のBGM]ショスタコーヴィチ「弦楽四重奏曲全集(6枚組)」ボロディンQ
 エマーソンQに続いて聴いた二つ目の全集だが、音の深さと恰幅が違う。エマーソンはライヴがかなりあって、演奏が終わるや「イヤー!」というなんとも興ざめな歓声が響き「これだからアメ公は」とむやみに血圧が上がったりするんだけど、この全集にはそんな不協和音はない。ただ、それだけに重すぎて一日一枚聴くとどっと疲れるのも事実。ベストは8・13・15番なのだが、コンサートで続けて聴いたらぐったりしそう。今回の他のCDベスト3は、ぺルト「フラトレス(兄弟)」ベネデク指揮/ハンガリー国立歌劇場管弦楽団、アルカン「ピアノ独奏のための協奏曲」アムラン(pf)、シベリウス「交響曲全集他(5枚組)」マぜール指揮/ピッツバーグ交響楽団でした。ぺルトの音符の少ない静謐な音楽は少し鬱が入ってるときに聴くと親和していいです。迷わず成仏できそう。ベストは「ブリテンへの追悼歌」。長い最後の音が途切れた瞬間に死んでしまいそうで、ある意味怖い曲ですが。アムランのアルカンは超絶技巧に呆然。マぜールの全集は録音イマイチながらテンポは遅めでことさら明るすぎるわけでもなく、決して悪くはないんだけどちっとも北欧の香りがしないという不思議なシベリウス。これを定盤にするのはお薦めしかねます。


[読書メモ]
(小説)柴田よしき「蛇[ジャー]上下」「宙都 第三之書 風神飛来」(以上、徳間ノベルス)、「残響」(新潮社)、「観覧車」「ふたたびの虹」(以上、祥伝社)、「Close to You」(文藝春秋)、「クリスマスローズの殺人」(原書房)、「猫はこたつで丸くなる」(光文社カッパ・ノベルス)。
 今回は柴田よしき特集です。ついにエイジブック(年齢とオリジナル著書数が同じ)を達成された多作家なのでまだ消化しきれていないのですが、とりあえずここまでということで。伝奇物は荒唐無稽なほうが好みなんですけど、柴田さんのそれは関西弁で言えば「無茶しよる」という感じ。「蛇」は舞台がかぶってるんじゃないかとビクビクしながら読んだのですが、幸いニアミス。「宙都」はもしここから風呂敷を畳めと言われたら白旗を上げるしかない展開になっていますが、世界は無茶苦茶になってるのに天狗などが妙にトボけた味を出してます。続いて連作ミステリー集。「残響」はヒロインの設定が秀逸。「キャリー」を想起すると実に説得感があります。震災に材を採った「来なかった、明日」が最も印象に残りました。「観覧車」はプロ第一作を巻頭に据える四十冊目の著書で、あとがきから著者の思い入れが伝わってきます。この表題作は絵的に忘れ難い印象が残りますね。ジェントル・ゴーストストーリーにもなるかも。「ふたたびの虹」はおばんざいがひたすら旨そう(偏食の私でも食べられそうなメニューが多い)。意外にこういう世界は嫌いじゃないので(向田邦子とか神吉拓郎とか読んでたし)おいしく頂戴しました。続いてハードカバー長篇。「Close to You」は好みのダークなコードなんだけど、やはり黒くて邪悪な展開を脳が求めてしまう。「クリスマスローズの殺人」は、設定は全然違うものの私も吸血鬼探偵物を書いているのでそちらのほうをことに興味深く読みました。そういえばウチの吸血鬼は久しく血を吸ってないなとか(笑)。この作品は吸血鬼が探偵役である必然性がはっきりあるのですが、拙シリーズは最終話にならないと明確にわからなかったりします。先の長い話だ。正太郎シリーズは読むたびに「ぬいぐるみヴァージョン」が思い浮かぶんだけど、需要は少ないかも・・・。
(小説以外)松本大輔「クラシックは死なない!」(青弓社)、立花隆「証言・臨死体験」(文春文庫)、井筒俊彦「イスラーム文化」(岩波文庫)、パトリック・ワルドベルグ/巖谷國士訳「シュルレアリスム」(河出文庫)、森田駿輔「殴る騎手」(東邦出版)、赤松啓介「夜這いの民俗学」(明石書店)、橋本治「人はなぜ『美しい』がわかるのか」(ちくま新書)。
「証言・臨死体験」は彗星探索家・木内鶴彦氏の体験がかなりの衝撃。これはミステリーにならないかと思ったり。私も臨死体験をしてみたいのだが、あっさり死ぬような気がするな。以下は疲れたのでコメント割愛。


3.12
 リテイクのFDを完成させてからサントリーホール、サー・コリン・デイヴィス指揮・ロンドン交響楽団のコンサートを聴く。前半はシベリウス・プログラムで、一曲目は珍しい交響詩「大洋の女神」、弦の強弱による波のうねりがよく表現されていていい演奏でした。二曲目は本日のお目当て、庄司紗矢香をソリストに迎えた「ヴァイオリン協奏曲」。高音低音ともに美しく、予想したよりずっと歌わせる熱演でしたね。シベ・コンは第一楽章が良くても第二楽章でおやという感じになってしまう演奏が間々あるんですけど(CDを20枚持っていたりする)、ややオケと合っていない箇所はあったものの最後まで息が続いてました(邦人ヴァイオリニストによる演奏では諏訪内晶子と前橋汀子の間にランクイン)。アンコールの静謐な暗い曲も琴線に触れたのだが、あとで調べたらサッリネンの「無伴奏ヴァイオリンのためのカデンツァ」らしい。後半はストラヴィンスキー「火の鳥」。生のほうが聴き栄えする曲だということを差し引いても、前日予習したアンセルメ盤よりずっと迫力がありました(とても77歳とは思えない指揮で、アンコールを含めて音がびたびた合ってた)。うねりという点で「大洋の女神」と響き合っていたプログラムも秀逸。さすがにチケットが高いだけのことはあるなと感心しきり。いたく満足して十一時前に帰宅。
 

3.13
 中篇→短篇B→長篇Aを再開→短篇Aのゲラ。
 将棋の順位戦がほぼ終わったけれども(物好きなので三段リーグとか女流育成会とか全部チェックしていたりする)、最大の番狂わせは前期絶不調で降級候補だった同世代の高橋道雄九段のA級復帰。この流れなら来期は中村修八段の悲願の昇格なのだが・・・。
 

3.14
 名古屋国際女子マラソンを観る。調整不足を伝えられていた土佐選手が逆転で優勝。前半から苦しそうに見えたのだが、このあたりは根っからのマラソンランナーの心肺機能でしょうか。それにしても、代表選考がもつれるとすればこれしかないという結果で(実績のない選手が23分台で優勝しても駄目)、ゲストの陸連専務理事の声が心なしか暗かったのが印象的でした。
 

3.15
 午後より秘書猫をつれて神保町、まず三時に古瀬戸で集英社のI藤さんと打ち合わせ、「ワンダーランドin大青山」(集英社文庫6月中旬刊行予定)のゲラを受け取る。解説は浅暮三文さんの予定です。全面改稿しているとはいえ、ファンタジーノベル大賞の落選作がどちらも単行本を経て文庫になるのだからわからないものだ。少し空き時間があったので御茶ノ水のディスクユニオン・クラシック館でCDを漁り、引き返して五時からルノアールで光文社のK林さんと打ち合わせ、「42.195」のリテイク済FDを渡す。その後は発表されたばかりのマラソンの代表選考を踏まえ、2時間40分台のベストタイムを持つ編集者最強ランナー(たぶん)とひとしきりマニアックな話。陸連は思い切った決断でしたね。戦前なら「五人くらいで再レース」というアバウトな結論になったかもしれないけど。終了後は神田まつや経由で秋葉原へ向かい、石丸の4Fでまた山のようにCDを買う。ただのファンでとめておくつもりだったのにクラヲタへの坂道を転がり落ちているような気がするのだが気のせいかしら。蕎麦ツアーの三軒目はなぜか無性に天ぷらを食べたくなるもので、小諸そばでかき揚げそばを食べて帰宅。
 

3.16
 四時より日暮里ルノアールで祥伝社のI野さんと打ち合わせ(担当のY田さんは育児休暇中)、「大鬼神」(ノン・ノベル5月中旬刊行予定)の初校ゲラを受け取る。編集部の発案により、副題は「平成陰陽師国防指令」となりました。いや、ほんとにそういう話でもあるのです。これでゲラが二冊になったので、また当分引きこもりモードの模様。
 

3.17
 短篇を最後まで書いてプリントアウト。夜はゲラAに着手。ゲラBのほうが重いから配分が難しい。
「小説すばる」4月号が届きました。タイトル拝借短編特集「トリビュート![ザ・芥川]」という風変わりな特集に登板しています。ラインナップは下記のとおり。
 柳広司「鼻」
 嵐山光三郎「芋粥」
 浅暮三文「河童」
 倉阪鬼一郎「歯車」
 我孫子武丸「藪の中」
 清水義範「或阿呆の一生」
 小生は「芥川先生ごめんなさい」と思わず謝りたくなるようなものを書いてしまいました。化けて出ないでください。


3.18
 中篇のみ進め、ゲラBに着手。調べてみたら中篇を起稿したのは去年の6月5日(思い出せないことはGoogleで検索してこの日記を調べていたりする)、半ば予想されたこととはいえ凄まじく時間がかかってるな・・・。
 さて、唐突に短篇の翻訳のご依頼をいただいたのですが、目下とてもそんな余裕はございません(だいたい英語を忘れてる)。ストリブリングの残りはどなたか手がけていただければ幸いです。
 

3.19
 ゲラBの調べ物は一応完了。ややガス欠気味。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、打ちあわせについていきました。ミーコはずっと右がわを下にしておねんねしてましたが、くせがつくので、さいきんは左がわにしています。やっとなれてきたにゃ。
 

[今週のBGM]「フィンランド管弦楽名曲集」カム他指揮/フィンランド室内管弦楽団他、ペッテション「交響曲第2番」フランシス指揮/BBCスコティッシュ交響楽団、サッリネン「弦楽オーケストラ作品全集」カム指揮/フィンランド室内管弦楽団、シベリウス「ティモ・コイヴサロの映画音楽より」ヴァンスカ指揮/ラハティ交響楽団、「オーロラのささやき〜北欧音楽の神秘の調べ」ペッカネン他指揮/クレメッティ協会交響楽団他、シベリウス「ヴァイオリン協奏曲」カヴァコス(vn)/ヴァンスカ指揮/ラハティ交響楽団、アルヴェーン「交響曲第1番、バレエ『山の王』」ヴィレン指揮/ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団、ステンハンマル「交響曲第2番&2つの歌」パーヴォ・ヤルヴィ指揮/ロイヤル・ストックホルム管弦楽団、ラウタヴァーラ「カントゥス・アークティクス、ピアノ協奏曲第1番他」リントゥ指揮/ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団、「ノルウェー・ヴァイオリン名曲集」クラッゲルード(vn)/エングスト指揮/ラズモフスキーSO、「白夜のアダージェット〜北欧管弦楽名曲集」カンガス指揮/オストロボスニア室内管弦楽団、シベリウス「レンミンカイネン組曲」サラステ指揮/トロント交響楽団、「美しい組曲-シベリウス:管弦楽小品集」ヘラスヴォ指揮/フィンランディア・シンフォニエッタ、シベリウス&ゴルトマルク「ヴァイオリン協奏曲」ベル(vn)/サロネン指揮/ロサンゼルス・フィル
 今回は北欧特集です。面倒なのでいちいちレーベルは記していませんが、フィンランディアとナクソスに感謝。スウェーデンの暗黒作曲家ペッテションと、シベリウスの後継者と言われるサッリネンについてはいずれ個人特集を。「ティモ・コイヴサロの映画音楽より」はシベリウスの伝記映画のサントラ盤ですが、珍しいばかりでなくかなりの名盤です(ヴァンスカの全集を買わねば)。葬式に流してほしい曲の有力候補に浮上した「アンダンテ・フェスティヴォ」(これだけ新録音らしい)が終わった瞬間に思わず拍手しました。シベ・コンのカヴァコス盤は原典版と改稿現行版の聴き比べができる貴重なヴァージョン。第一楽章は意外なほど大幅に手が入ってるんですけど、原典版はいかにももっさりしており、協奏どころか相殺してしまっている箇所が目立ちます。そういった余分な音をいかに取り除いてすっきりさせたかがわかって非常に興味深かった(ただし、演奏はベル盤のほうが上)。アルヴェーン、ステンハンマル、ラウタヴァーラはとりあえず判断保留。「カントゥス・アークティクス」は現実の鳥の囀りが入っている風変わりな曲です。猫ヴァージョンはないのかしら。オムニバスはどれもお薦めですが、「オーロラのささやき」のジャケットに記されている五つの単語から二つ選べば、北欧音楽の魅力はSublime&Tranquil、ブルとかクーラとか秘曲がたくさんありますね。
 

[読書メモ]
(小説)牧野修「楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史」(早川書房)、「黒娘 アウトサイダー・フィメール」(講談社ノベルス)、「乙女軍曹ピュセル・アン・フラジャーイル」(ソノラマ文庫)
 今回は牧野修特集です。「楽園の知恵」はまさに一家に一冊(厭な世界かも)の短篇集。わずか二作を発表しただけで夭折した伝説の牧野みちこの作品も入っています。初出で読んだときに狂喜した「演歌の黙示録」が収録されているせいか、のど自慢で次々に面妖な衣裳の歌い手が現れるけれども曲目はことごとく「牧野節」という趣。滑り出しはわりとしっとりしているのですが、「インキュバス言語」の人は強制退場だろうな。このところ小説も折にふれて付箋を貼りながら読んでるんですけど、「この世界はすべてあなたの妄想じゃないんですか」というくだりに発作的に貼ってしまう人ってどうよ。それはともかく、「ドギィダディ」や「逃げゆく物語の話」の幕切れは、いわゆる〈感動のラスト〉と・・・言いませんかそうですか。幕切れと言えば、巻末の「付記・ロマンス法について」もむちゃくちゃ面白い。私と思われる人物(いったいどういう目に遭ったのかしら)が出てくる個所の近くにさりげなく本音が書いてありますね。
「黒娘 アウトサイダー・フィメール」は、「『みんなの理屈』なんか聞きたくない聞きたくない」とか「なんで私が社会的な〈男〉をやらなあかんねん」とか、まあそういったもろもろの鬱屈を抱えている人ならスカッと爽快に読めると思います。そうでない人がどう読むのかは私は知りません。「乙女軍曹ピュセル・アン・フラジャーイル」はもっと活劇なのかと思いきや、〈物語〉などハードな牧野節も配合されています。媒体の読者層に合わせられずに損をしている人が周りには多いなあ、と自分のことを棚に上げて感慨に耽ったり。
(小説以外)「中井英夫全集7 香りの時間」(創元ライブラリ、前半は再読)、久野昭「日本人の他界観」(吉川弘文館)、荒俣宏監修「知識人99人の死に方」(角川ソフィア文庫)、石堂藍「ファンタジー・ブックガイド」(国書刊行会)、鈴木敦史「クラシック悪魔の辞典[完全版]」(洋泉社新書)、東京路傍の麺党「旨い!立ち食いそば・うどん」(小学館文庫)、はんつ遠藤「全国ご当地麺紀行」(ゼネラル・プレス)。
 主要四ジャンルのなかではファンタジーの読書数が最も足りないので、今後の指針にと「ファンタジー・ブックガイド」を繙いてみる。さりながら、率直に言って著者とはかなり好みが違っており、たまに同じ作品を褒めるといった感じ、そういうもの(リンゼイ、コツウィンクル、三田村信行etc.)はすでに読んであるのです。で、未読作品から「これは趣味に合いそうにない」「途中で読むのをやめるだろう」といった諸作を消去していくと、実にいくらも残らなかったりする(笑)。ド有名作では、とりあえずビーグルの「最後のユニコーン」かな(長大な作品は初手から読む気がしない)。話変わって、ファンタジーとホラーの差異で象徴的なのは「向日的」「前向き」という言葉の使い方。ホラーの人は私を含めてネガティヴに用いますが、本書ではまるっきり逆でくっきりとした対照を見せています。「肯定的な精神がなければ、すぐれたファンタジーを書くことはできない」(p213)というくだりを「否定的」「ホラー」に換言することも可能でしょう。ホラーとファンタジーの違いは以上のごとくわりとわかりやすいんだけど、「主要四ジャンルにおけるファンタジーの特異性とその構造」という宿題はますます混迷を深め、ほとんど白旗状態です。


3.20
 ゲラBのプロローグを大幅加筆、本文に移る。
 唐突にテレビの画像がまったく映らなくなる。ビデオとDVDに支障はなく原因不明。普段からあまり観ないとはいえ、ソウル国際マラソンを見逃したのは痛い。寿命が来て壊れたのだろうか。・・・と思いきや、掃除機をかけたときに接触してケーブルが外れただけだった。これで買い替えたらまた世間のいい笑い物になるところであった。
 

3.21
 中篇はようやく難所が終わる。ここからピッチを上げねば。
 NHK杯トーナメントはどちらも決勝戦。まず将棋は久保利明八段が羽生名人を下して初優勝。準決勝の谷川王位戦、229手の凄まじい泥仕合を敗勢から粘って逆転した一局が大きかったですね。囲碁は小林光一九段が久々の優勝。二年連続で準決勝で負けた小松英樹九段を出したかったけど。
 

3.22
 中篇→長篇A→長篇B→ゲラB→ゲラA
 では、久々に近作十句です。
 
とほぼえのべうべうとして御神渡
愕然と室を思へり室の花
永遠や垂直に交はる落葉
迂闊にも救ひの天使冬の田へ
人絞めて荒星徐々に遠ざかる
悄然と飛び立てり寒鴉も我も
冬ざるる猿の世界は猿ばかり
妄想のその中心に忘れ雪
春の雪しろがねこがね猫の鈴
残る寒さの弦やヴィオラヴァイオリン
 

3.23
 ゲラを進めてから東京文化会館、飯守泰次郎指揮、東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートを聴く。プログラムはシューベルト「交響曲第7番〈未完成〉」とブルックナー「交響曲第9番」で、一階三列目の中央というベストポジション。開演に先立ち、指揮者のプレトークつき。どちらの曲も完成していないことはもとより「この世から離れていく」「孤独(宇宙的な孤独)」という点で共通しているという総論から、ピアノで主旋律を弾きながら語る調性などの専門的な話まで非常に面白かったです。前半のシューベルトは、ロンドン響の後ということもあってまあ水準的な演奏かなという感じだったのですが、ブルックナーは大音響部分の厚みがあってなかなかの好演でした。トークで「63歳はまだ若すぎる」という発言がありましたが確かに若々しいブルックナーで、ことに第二楽章は颯爽たる指揮でしたね(ひょっとしたら二十年後は名ブルックナー指揮者かも)。ただ、「北欧のヴァイキングのように勇壮」という解釈をされてましたけど、あの連打はもっと不気味で死の足音に近いと思うのですが(悪魔と天使の戯れといった感じか)。第三楽章はいまにも死にそうな晩年のチェリビダッケ盤に呪われているもので、死人が奏でているかのような寒々とした感じが欲しかったかなという気もします(オケにやや息切れ気味のミスもあった)。それにしても、この曲に拍手前の野蛮なブラヴォーは似合わないと思うぞ。ぶつぶつ。
 

3.24
 仕事は一昨日と同じ。近所のスーパーへ行ったら「豚肉二割引うんぬん」とのべつまくなしに連呼するテープが流れていて気分が悪くなる。中島義道ならスピーカーごと引き抜いたかもしれない。
 

3.25
 短篇をメール。次の短篇まで間が空きそうだから、このあいだに中篇を仕上げて長篇を軌道に乗せなければ。
 

3.26
 中篇が100Pに到達。ここまで来たらもう停滞することはないだろう。夜はゲラの追い込みモードに入る。
 将棋は長らく風車党だったのですが、美しいけれどやはりあまりにも玉が薄いので(いったいどれだけコンピュータにボコボコにされたことか)、このところミレニアム党への脱皮を試みています。対振り飛車は通常の左ミレニアム(3七銀型)、対居飛車は四間に振って右ミレニアムという両刀遣いを目指してるんですけど、右ミレニアムは急戦に弱いのが泣きどころかも。
 

3.27
「ワンダーランドin大青山」のゲラを仕上げる。自作なのにラストで妙に感動してしまった。では、今週の秘書猫です。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコ姫です。こんしゅうは、おうちできゅうようしてました。らいしゅうはお花見につれてってくれるかにゃ。
 

[今週のBGM]ぺルト「ミゼレーレ」ヒリヤード・アンサンブル他、「デ・デウム」カユステ指揮/タリン室内管弦楽団他、「交響曲第1番他」ノーリッツ他指揮/コングレス・オーケストラ、ぺルト他「トリヴィウム」バワーズ-ブロードベント(org)他。
 今回はエストニアの鬼才アルヴォ・ぺルト特集です。それにしても検索のヒット件数が少ないな。「活字倶楽部」のインタビューによると乙一さんはぺルトのファンで聴きながら執筆されているようですが(シベリウスのファンでもあるらしい。いやに趣味が似ている)、まあだからと言ってぺルトが一般受けするかどうかは疑問。何度も書いてますけど私は人の声の入った曲が苦手なのですが(むろんクラシック限定)、ぺルトならあまり押しつけがましくないから聴けますね。しかしながら、好みは純器楽曲。今回の四枚では「トリヴィウム」がベストで、この音符の少ないオルガンはやはり麻薬的です。誰か聴いてるかなと思って検索したら一件もヒットしなかったのはちょっと悲しかったり。今週のその他のCDベスト3は、リスト&ラヴェル「ピアノ協奏曲集」アルゲリッチ(pf)/デュトワ指揮/モントリオール交響楽団、「シルクロード浪漫」天満敦子(vn)、「ウィグモアホール・ライヴ」アルマン(pf)でした。
 

[読書メモ]
(小説)浅暮三文「針」(早川書房)、「10センチの空」(徳間書店)。
 今回は浅暮三文特集です。「針」は触覚テーマの長篇。まず第一章の注射針が痛い。これはほんとに痛そう。続いて、第二章のリモコンのスイッチで脳に電波が飛ぶ。この調子で書いていくと未読の方の興を殺ぐので以下は略しますが、前半ではそのような印象的なシーンが突出したかたちで音楽の主題めいて現れます。そして後半、問題のシーンは、やってることは同じでも泉大八(古いか)とは対極にあり、描写がすこぶる音楽的。このあたりはさすがに文才ですけど、べたっと続くと読者の感覚がやや麻痺してしまうかなあとも思いながら読んでいたのですが、甘かった。第五章では第一主題が派手なかたちで変奏されるのです。これには膝を打ちましたね。内容はもちろん「もっとやれもっとやれ」の世界(笑)。いやー、耽能しました。ただ惜しむらくは(これは大森望とまったく同じところに反応してしまったのだが)、まず歌舞伎町のディテールがツッコミどころ満載。もう一つ、あとがきは著者の人の良さが裏目に出てしまったかなという印象。怪奇映画が終わるや否や、主演俳優が「皆さんすんまへん。いまのは役でやってまして、わたしはあんな人とちゃいまんねん」と素で口上を述べたら興醒めでしょうに。「10センチの空」は打って変わり、ベストセラーになってもいっこうにおかしくないファンタジー。広告業界にいたせいか、このあたりの狙い方はいっそ潔く、見習う点があるなあと思ったり。やはり、ここはひとつ、あまあまの恋愛小説を書こうかな。
(小説以外)宮田毬栄「追憶の作家たち」(文春新書)、早坂伊織「男、はじめて和服を着る」(光文社新書)、大森望・豊崎由美「文学賞メッタ斬り!」(PARCO出版)、石井宏「反音楽史 さらば、ベートーヴェン」(新潮社)、小山光一「漢字の遊歩道」(沖積舎)。
「追憶の作家たち」で採り上げられているのは松本清張・西條八十・埴谷雄高・島尾敏雄・石川淳・大岡昇平・日野啓三の七名。どの作家も複数冊読んでいるから興味深かったし、文章もいい(ついでに若いころの写真がかわいい)。この種の編集者回想記の中ではベストでした。「文学賞メッタ斬り!」は網羅しているという前評判だったからひょっとしたらあの賞までとびくびくしてたんだけど、幸い読者モードで楽しめました。いちばんウケてたのは「京都よ、わが情念のはるかな飛翔を支えよ」。これは幻想文学会でも話題になってましたね。ほんとに何だったのかしら。ただ、調べてみたら作者はこれ一作じゃなくて去年「すばる」に新作を二篇も発表しているようです。へえ。「反音楽史」の主張は、イタリアのはるか後塵を拝していたドイツ人が歴史と音楽観を都合よく歪め、それがいかに現代に悪影響を及ぼしているかといったもので、一部で物議を醸しているようです。私は北欧・東欧・ロシアといった周縁部が好きだからどちらが中心でもべつにかまわないし(ベートーヴェンもイタリア・オペラも苦手)、善玉・悪玉がわりとくっきりしたアジテーションの部分は率直に言って白けるだけなのだが。


3.28
「ワンダーランドin大青山」のゲラを返送。夜は「大鬼神」のゲラの一回目が終了。
 大相撲春場所回顧。十両は19歳の白鵬が優勝(この力士もモンゴル出身)。かつて黒海が横綱になると予言しましたが、こちらにあっさり乗り換えようかしら。竹葉山の宮城野部屋から横綱が出たら凄いと思うし。
 

3.29
 不調。勤め人が長かったせいか、ときおりフラッシュバックめいて憂鬱な月曜日に嵌まってしまう。
 

3.30
「十人の戒められた奇妙な人々」(集英社7月下旬刊行予定)の初校ゲラが届く。これはまだ余裕があるからゆっくり見ることにしよう。夜は巻きが入った「大鬼神」のゲラを仕上げる。
 

3.31
 少閑。今月の執筆枚数は135枚(C標準)でした。ふと気づくと、今年はもう四分の一が終わってしまった。こうして私の人生は夢のように終わるのだろう。