[Weird World 7月上旬]


[7月1日]
 ふと気づくと上半期が終わっているではないか。うーん。
 6月の執筆枚数は234枚(解説とエッセイを含む)、お休みは1日だけ、平均すると8.1枚、最高は13枚、最低は2枚でした。こんなもんですかねえ。
 さて、『本当に恐ろしいサイコ・ホラー読本』(ぶんか社・950円)が届きました。
和田はつ子/倉阪鬼一郎/東雅夫「サイコ・ブームを徹底検証せよ!」が掲載されています。「気鋭の業界人による放送禁止(!?)座談会」という覆面座談会を彷彿させる副題がついておりますが(苦笑)、内容はいたってまともですからね。
 がらりと変わって、『現代俳句歳時記』(現代俳句協会・3300円)も届きました。私は推理作家協会ではなく現代俳句協会に入っている珍しい作家です(笑)。現俳協らしく無季の部が充実、拙句は「行列の一人は被る人の面」が収録されています。
[7月2日]
 ついに部屋からゲラがなくなる。ちょうどひと月ぶりだ。
 津原泰水『蘆屋家の崩壊』(集英社・1500円)を読了。初出で半分以上読んでいるのだが、再読して評価の上がった作品が多かった。最右翼が「水牛群」、頼むから私の頭の中のインク罎は転ばないでほしい。「水牛群」が幻想なら、怪奇の筆頭は「反曲隧道」、幕切れが鮮やか。「いまどきこうも『愉しい』小説を書いているのは自分くらいに違いない」と著者自ら述べるように、陰気な南條竹則といった趣の低徊趣味と文体も持ち味で、ことにユーモアとサイコ・スリラーが絶妙に溶け合った「猫背の女」は秀作。いずれにしてもオンリーワンの作家でしょう。なお、カヴァーをめくると現れるロゴめいたマークがかわいいと一部で話題になっています(笑)。
[7月3日]
 森英俊さんの日本推理作家協会賞受賞祝賀パーティにミーコとともに出席。幻想的掲示板からは東雅夫、藤原義也、西崎憲、中嶋千裕の各氏が参加、プレ・オフ会の趣だった。実は初対面の森さんとミーコを交えて記念撮影したあと、藤原さんから山口雅也さんを紹介していただく。さすがにワセミスで、かなりの出席者。
 パーティは歓談するだけのつもりだったのだが、アシスタント司会の高瀬美恵嬢にハメられ(笑)、壇に上がってマイクでしゃべることになってしまった。仕方なくミーコを肩に乗せてあいさつ。ただ、緊張のあまり最後にミーコを落としてしまう。ミーコちゃん、ごめんね、痛かったね。なお、最後の森さんの謝辞はとても律義で丁寧だった。
 二次会では、Water Garden掲示板内「太田裕美カラオケ普及委員会」のオフ会を行う(もっとも、私、高瀬、K村の三人だけだが)。というわけで機は熟し、カラオケの模様はミーコに代わります。
[7月4日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。
 三次会のカラオケは十数名。白石朗、野村宏平、飯野文彦、千街晶之などの皆さんが参加しました。白石さんが飛ばしていたし、ワセミスの集まりなので、先生は太田裕美カラオケ普及活動に専念していました。
 いったん二時半に終わったのですが歌い足りないらしく、普及委員会の三人に清水@没のホームページさんを加えた四名は新宿パセラへ向かい、結局朝の五時過ぎまで歌ってました。先生が初めて歌ったのは「かっこイイ、ダーリン」「肉屋のように」「バーバラ・セクサロイド」などです。みなさん、おつかれさまでした。またあそぼうね。


[7月5〜6日]
 日本ホラー小説大賞のパーティにミーコとともに出席する。いろんな人が書くでしょうから簡潔に記します。
 初対面は小林泰三さん(もっとお笑い顔かと思いきや、意外に二枚目だった)、瀬名秀明さん、貴志祐介さんなど。ミーコと初対面はC塚さん、柴田よしきさんなど。二次会は銀座に移動。選評だけでは足りずM村S一先生からも説教を受けたらしい長編賞佳作の牧野修さんら受賞者があとで合流。ちなみに、林真理子氏の選評は今年も笑わせてくれます。「救いのない暗さがどうにもやりきれない」(ホラーって救いがなくて暗いものでしょうが)、「ホラー小説だから何をしてもいい、どんな残酷なことをしても許される、というのは大きな間違いだ。恐怖を通して、人間の深いところに触れていくのがホラー小説である」(どんな残酷なことでもできる、もしくは想像できるというのも人間の深いところでしょう)、「(ネタバレ略)かなり注意しなくてはならないであろう。それまで読者が彼に託していた知性や正義感が、がらがらと崩れていくからである」(知性や正義感ががらがらと崩れていくのは、どう考えても優れたホラーでしょうに)。あーあ。
 三次会は新宿ロフト・プラスワンに移動、先発していた菊地・井上・飯野さんらと合流。もちろん牧野組だが、角川の編集者はなぜか一人も来なかった。遅くまで残った人を思い出せる限り記すと、我孫子武丸、田中啓文、田中哲弥、小林泰三、牧野修、菊地秀行、飯野文彦、霜島ケイ、五代ゆう、大森望、さいとうよしこ、東雅夫、津原泰水、北原尚彦、千街晶之、笹川吉晴といった面々。ここでの会話を思い出そうとすると飯野さんの放送禁止用語がむやみに響いてくるので割愛。森さんのパーティ(なお、野村宏平さんはカラオケに出席していませんでした。おわびして訂正します)ではセーブしていたのに、こういうのを外弁慶と言うのでショッカー??? ホラーとワセダのイメージダウンだと思いまーす。失礼しましたー。
 最後にラーメンを食べて五時ごろ解散。それにしても、このメンバーでカラオケがないとは……。

[7月7日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。
 きょうはミーコのはじめてのおたんじょうびでした。でも、メイが先発したのに負けちゃいました。先生も若いころはあまりいいことがなかったので、ミーコもそうなのかなと思いました。くすん。
 おわり。
[7月8〜9日]
 第二回「恐怖の会」(幻想的掲示板のオフ会)にミーコを連れて出席する。最初はがらんとしていたのでどうなることかと思いきや、二十名を超す大盛況。すべて書こうとすると漏れると思うので記しませんが、出席者の方お疲れさまでした。それから、幹事のフクさんの仕切りは見事でした。ずっとやってください。当日の模様は、フクさんのほかに櫻井清彦、東雅夫、大森望、柳下毅一郎、福井健太、溝口哲郎、細田均、松本楽志(電話で乱入)などの各氏サイトで読めると思います。いろいろな話題が出ましたが(笑)、せっかく資料をたくさん持っていったのだからもう少しイデアな話もしたかったような気がする。初対面はシェヴァイクさん、編集稼業の女さんなど。最も印象に残ったのは、久々に会ったM君の頭髪がめっきり薄くなっていたことだった(笑)。苦労してるんだなあ。
 細田氏が「失礼しました」と去ったあと(これはウケていた)、ビッグボックスのカラオケで二次会。大部屋が話部屋(ここから中嶋千裕さんが参加)、小部屋が歌部屋(こちらは三村美衣さん)。もっと話部屋に行くつもりだったのだが、しばらくするとエンジンがかかってしまい、あまり顔を出せませんでした。次から気をつけます。カラオケは最初「ホラーしばり」だったのですが(「肉屋のように」を練習したのに真っ先にさいとうよしこさんに歌われてしまった)、前回の「中島みゆきしばり」のほうが盛り上がっていたような印象。それから、浅暮さんのおやじ芸は強敵かも。
 十二時ごろ解散したあと、最後のイベント「四派対抗麻雀」へ。半荘六回、七時まで打つ。掲示板にも書きましたが、それだけではもったいないのでここにも記します。以下が詳細な結果です。

1位 柳下毅一郎(SF) +86(トップ2回、ラスなし) 
2位 倉阪鬼一郎(ホラー) +63(トップ3回、ラス1回)
3位 浅暮三文(ファンタジー) +11(トップ1回、ラス1回)
4位 福井健太(ミステリ) −160(浮きは1回だけ、ラス4回)

 いや、痛快でしたね(笑)。しかも、福井君は金も持たずにバクチを打ちにきたので(私が立て替えたのだ)、弁解の余地のない二重の恥です。わははは。



[7月10日]
 前日の記述について、「金銭の授受について記すのはどうか」と某氏より忠告を受けましたが(まあ正論なんだけど)、あれは基本的に名誉を競うもので、レートは社会人とは思えない点5だったことを付記しておきます。点5の麻雀で前科がついたらすごく得した気分になるかも(笑)。
 さて、紹介が遅れました。『ホラーを書く!』(ビレッジセンター・1600円)が出ております。細かく紹介しているとキリがないので、「ホラーを書く」という観点に絞って最も同感した発言を引用します。
「大好きな乱歩の言葉があるんです。『人間というのは色盲ではないのか、人間にはまだ見ぬ色があるのではないか、自分はその今まで見たことのない色を探しているんだ』という言葉。誰も見てない色を書かなきゃダメだということですよね」(森真沙子)。
 まあ、これはホラーに限らず基本だと思いますが。個人的にはウェルメイドなハリウッド型のモダンホラーは飽きたので、オンリーワンの作家の登場を待ちたいと思います。
[7月11日]
「KADOKAWAミステリ」プレ創刊号2(角川書店・552円)は、第6回日本ホラー小説大賞特集のようなもの。受賞作や佳作については掲示板に譲って、ここでは座談会を取り上げます。というのは、また林真理子氏が面白い発言をしているからですね(笑)。
「ある意味でモラリストでなければいけないということもあると思います」(社会的なモラルを持ちこまないのがホラーにおけるモラルだと思いますが)。
「『ISORA』のときも、どなたかが、作中の幼女に対する行動がいやだなということをおっしゃった。それは古くさいことでも何でもないと思うんです。こういう世の中だからこそ、そういう感覚を大切にしていきたい」(ホラーと聞くと眉をひそめるPTAのおばさんみたい)。
「だから、私たちが第五回ホラー大賞で『バトル・ロワイアル』を認めなかったのは、品位の問題で」(あれはSFであってホラーじゃないからという理由なら筋が通ってるんですが。ちなみに、『バトル・ロワイアル』はまだぬるいのではないかと思います。ことにラストはもっと救いなく終わってほしかった)。
 高橋克彦氏の発言にも首をかしげる部分があります。「ホラーとかミステリーこそ、常識をもった人が書いてくれないと、ただいたずらに露悪趣味みたいになったりするケースが多いですからね」。私も少女を残酷に殺したりしますけど、単なる露悪趣味だと思われるのは心外ですね。要するに、作家には願望充足型と自己処罰型があることがわかっていない。つまり、黒猫のミーコを猫かわいがりしていることからも察せられるとおり、私にはジェンダーが溶解している部分があって、内部に少女が棲んでいる。作中で殺されるのは、せんじつめればことごとく私なのです。こうして自分の中の歪んだ部分、病んだ部分を造形して作中に投棄・処罰することにより、現実の作者は安寧を得るというシステムになっているわけですね。ですから、現実の私は常識人でモラリスト(のつもり)です。サイコであることはあえて否定しませんが(笑)。
[7月12日]
 菊地秀行『銀月譜』(双葉社・762円)を読了。去年は「律子 慕情」「ALUMA」とジェントル・ゴーストストーリーの当たり年だったのだが、この作品もその系列に加えていいかもしれない(幽霊ものではありませんが)。いずれにしても、アクション皆無の新境地、もっと話題になるべきだったと思う。
 遅ればせながら、山田正紀『神狩り』(ハルキ文庫・580円)も読了。なるほど、「偏執の芳香」と「神狩り」の関係は、「赤い額縁」と「幻詩狩り」の関係とパラレルなんですな。でも、そうすると私もSFの人になってしまうではないか(笑)。「赤い額縁」の肩に手を置くシーンは「火星年代記」だし(実は)、安部公房とディックには相当入れこんでたし、「日本のホラーにはお面を被ったSFが多い」と主張していた人間が実はお面を被っていた・・・ってミステリ的にはどうなんでしょう?
[7月13日]
 四時より神保町で「新潮45」のMさんと打ち合わせ。SF全盛期のワセミス会員だったMさんとSFやワセミスの話で盛り上がる。具体的な執筆は未定。帰りに「活字狂想曲」の書評が載っていた「文学界」を約二十年ぶりに買う(笑)。今月から新企画らしい図書室は結構面白いかも。
[7月14日]
 遅ればせながらビデオで「リング2」を観る。しっかりした作りではあるが、期待したほどではなかった。本篇もそうだったけど、幽霊に当てる光をもう少し絞ってもらいたいと思う。その点、「女優霊」「邪願霊」は幽霊と人間の距離の取り方がうまかった(「女優霊」の最後はナマすぎるけど)。
[7月15日]
 やっと書き下ろしを一冊脱稿する。もっとも後半は勢いで書いたので、これから辻褄を合わせなければならない。それにしても、当初は「クトゥルー伝奇ロマン」を書くはずだったのだが、これはまったく伝奇ロマンではない。だいたい、枚数が三百枚強で伝奇ロマンとは主張できない。では、何だろう。「本格倉阪小説」(C.中島晶也)かな? 
 さて、菊地秀行『魔界都市ブルース〈陰花の章〉』(祥伝社文庫・590円)が届きました。八年ぶりの解説を書いております。最初に総論めいたものをやってしまったから、二度目があったら辛いかもしれない。