[Weird World 7月下旬]



[7月16日]
「小説すばる」8月号が届きました。小特集〈夏の夜のホラー・コレクション〉に「面」という40枚の短篇を寄稿しています。題名から察せられますとおり、スポ根剣道小説です(嘘)。奇しくも鈴木輝一郎さんの次に掲載されていますが、べつに説教はしておりません。津原泰水インタビュー(面白いです)も載ってます。
[7月17日]
 十二時より幻冬舎のSさんと打ち合わせ。『田舎の事件』(幻冬舎・1500円)の見本を受け取る。搬入は23日(金)なので、都内の書店では24、25日あたり、地方では26、27日あたりから並びます。献本の方は26、27日の見当で届くと思います。装幀は平野甲賀さん、装画はさそうあきらさん、日本版「ミステリーズ」のイメージで、かなり目立ちますね(帯はピンク)。推薦文は有栖川有栖さん、帯に引用されている部分は「笑殺必至。含み笑いから爆笑まで〈七色の笑い〉が楽しめる」です。内容がわかっている著者が読み返しても思わず笑ったりするので、楽しんでいただけると思います。ご期待ください。
[7月19日]
 名古屋場所回顧。出島の逆転優勝は意外性があったが、やはり取り上げるべきは栃乃和歌と琴稲妻の引退でしょう。栃乃和歌はまだ取れたと思うが、琴稲妻ははっきり限界。それにしても、あれで断髪式ができるのだろうか? 終わった瞬間にスキンヘッドになるような気がするが。もう一人、幕下の朝太田(元・朝乃濤)も引退。十両の筆頭まで行った渋い相撲取りだったのだが、ヒザの故障に泣いた。なお、今場所のこの一番は、何度も幕下の筆頭で負け越していた琴岩国が悲願の関取昇進を決めた相撲です。
[7月20日]
 北村薫『ミステリは万華鏡』(集英社・1575円)を読了。「瓶詰の地獄」も目からウロコが落ちるけれども、十蘭の「湖畔」の謎解きはウロコどころか目まで落ちそうになった。そうか、こういう話だったのね。素直にひっかかってたなあ。だから頭からロマンティストだと決めつけられるのかも(『本当に恐ろしいサイコ・ホラー読本』の座談会参照)。いや、実に驚きました。
[7月21日]
 北村薫編『謎のギャラリー特別室V』(マガジンハウス・1400円)を読了。この巻のハイライトは乙一「夏と花火と私の死体」、ガイ・バートの18歳は心底驚いたけれども、16歳の乙一は早熟な才能なら書くかもしれないと思わせる作品だった。もっとも貶めているわけではなく、このセンスは貴重。ところで、最初の二作の感嘆符が斜めで後半は縦になっているが、これは原典どおりなのだろうか? 雰囲気が壊れる斜めの感嘆符は大嫌いで閉口したのだが。
[7月22日]
 三時に出版芸術社に赴き「緑の幻影」の原稿を渡す。今回はクトゥルー物なので従来の二冊とはちょっと毛色が違います。そのあと、社長さんといろいろお話。『百鬼譚の夜』はもう少し在庫がさばけたかと思っていたのだが、どうもそうではないらしい(笑)。それから、第二短篇集『怪奇十三夜』はアトリエOCTAにまだ在庫があります。次は「ふしぎ文学館」という話がなんとなく進んだので、早く売り切れてほしいのですが。
[7月23〜24日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。
 今日はカラオケで、先生といっしょにおでかけしました。七時から新宿パセラ。メインは集英社のOさんと日下三蔵さん(アニメソング研究家[笑])のアニソン対決です。ギリギリの原稿を抱えている日下さんは早めに帰ろうとしたのですが、邪悪な人々はアニソンばかり入れて引きとめます。結局、どうにか理性が勝って終電で帰ったようです。先生が初めて歌ったのは「玉姫様」「銭形平次」「弁天小僧」など。久々に懐メロ攻勢をかけたのですが、リクエストにこたえてまた「桜」を歌って邪悪だと言われてました。ミーコもそう思います。
 三時すぎに解散、みなさんおつかれさまでした。おわり。
[7月25日]
『幽霊の本』(学研・1200円)を読了。ブックス・エソテリカ編集長が怨霊に祟られたいわくつきの本で、いつもながらていねいな作り。なるほど、シュガーのモーリはお岩に祟られたのね。同編集長の自宅に行ったときにこの話をしていたような気がする。なんだか不気味。なお、全生庵の晴雨の幽霊画は生で見ると格別の迫力です。
 デルモンテ平山編『新「超」怖い話Q』(ケイブンシャ文庫・600円)も読了。このシリーズは全部読んでいるのだが、文章的には「新耳袋」より上かな。
[7月26日]
『禁断の恐怖』(青春BEST文庫・495円)を読了。盲点になりそうですが、これは書き下ろしエロチック・ホラー・アンソロジーです。巻頭を飾るのは「異形病棟」。うーん(苦笑)。内容も「うーん」なのですが、秋月達郎「儀式」は『トロピカル』に入っていてもおかしくないかも。
[7月27日]
 坂東眞砂子『葛橋』(角川書店・1500円)を読了。中篇「一本樒」は、もしこの骨格だけで40枚くらいのミステリ仕立てなら凡作。さらに、数枚の怪談実話なら超凡作。にもかかわらず、この作品は傑作なのである。これはひとえに、濃密な人間や風景の描写および文章力のしからしめるところだろう。相撲に譬えていえば、器用な芸はないけれども怒涛のガブリ寄りで寄り切ってしまったというところか。なんにせよ、私には向かない作風だなあ。
[7月28日]
 ふだんは採り上げない本なのだが、竹田青嗣『現代思想の冒険』(ちくま学芸文庫・680円)に興味深い箇所があったのでご紹介。
「彼ら(ボードリヤールやドゥルーズ)の解答は、〈社会〉の中にありながら象徴的な〈死〉や〈狂気〉によって〈社会[システム]〉性に反逆せよといったイメージだが、それが具体的にどういう展望をわたしたちにもたらすのかを、おそらく誰も決してはっきりとは示せないだろう。その理由は明らかであって、彼らの思想はそれをつきつめると、〈社会〉(=現実的な人間の生の条件)をとるか、〈死〉〈狂気〉(=幻想的な人間の生の条件)をとるかという二者択一にゆきつくからなのである」
 おお、これってミステリじゃない!・・・と思うのは私だけかもしれないので説明すると、本格ミステリのエッセンスは論理的整合性ですが、そのほかにも様式美やガジェットなどの構成要素があります。これを全部ひっくるめて〈社会〉とします。「死と狂気」は
逸脱性とか実験精神とかいろんな言葉に置換できそうです。それで、最終的にミステリにとどまるか、アンチミステリになるかという二者択一を迫られる。なるほど、ミステリは現代思想の一部とパラレルで、より先へ行く可能性もあるんだな(全体のことは考えなくていいから)と驚嘆した次第。
[7月30日]
 T・S・ストリブリング『ポジオリ教授の事件簿』(翔泳社・2000円)の見本を受け取ったあと、さる飲み会に出席、さらにカラオケ。また邪悪なレパートリーが増える。「コレクター」はテーマソングにしようかな。
 さて、『ポジオリ教授の事件簿』は来週の半ばくらいから書店に並びます(共訳は多いけれども、単独訳はまだ二冊目)。全十一篇のうち五篇は既訳がありますが、例えば「ジャラッキ伯爵」の二作などは目が腐りそうな昔の訳とは違いますのでよろしく。