[Weird World 8月下旬]



[8月16日]

『緑の幻影』の再校を返送し、40枚の短篇の第一稿を仕上げる。でも、お仕事はまだまだあります。『田舎の事件』が好評につき毎年一冊書き下ろしでというお話をいただき「努力します」と答えたのだが、とりあえず来年のことを考えるのはよそう。


[8月17日]
 高田崇史『QED 六歌仙の暗号』(講談社ノベルス・980円)を読了。歴史ミステリはあまり得手ではないのだが「暗号」と書いてあるので読んでみた。しかしながら、やはりツボではないようで、「もっと伝奇ロマン仕立ての七福神ホラーなら面白いのに」と勝手なことを考えながら漫然と読んでしまった。すいません。


[8月18日]
〈異形コレクション12〉『GOD』(廣済堂文庫・762円)を読了。例によって迷ったあげく好みの三作を挙げます。
 田中哲弥「初恋」 異形作家というより異常作家。これはホラー・ジャパネスクとスプラッタの融合ではないですか。「天使の指」をお読みになればわかるとおり私は儀式がツボの一つなので「猿駅」に続いて一位。毎回書いてください。
 安土萌「その夏のイフゲニア」 こちらは美しいスプラッタ。初の二度目の巻頭もうなずける。なるほど、この手がありましたか。
 早見裕司「バビロンの雨」 森田童子の名前が出てくるのは多分に象徴的。透明な乾いた抒情が心地いい。
 もう一作なら、志怪の味もある加門七海「小さな祠」かな。


[8月19日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。
 六時から池袋で先生のファンのドルバッキー姉妹(仮名)とカラオケをしました。お姉さんのほうが白猫のぬいぐるみのルリちゃんを連れてきてくれました。ぬいぐるみのおともだちは初めてなので、ミーコはとってもうれしかったです。四時間のあいだに先生が初めて歌ったのは「宇宙士官候補生」「サヨナラは八月のララバイ」「散歩道」「アルプスの少女」「最後の一葉」「禁猟区」「ルイジアナ・ママ」「男のくせに泣いてくれた」などでしたが、いちばんウケたのはミス花子の「河内のオッサンの唄」でした。ミーコは「やぎさんゆうびん」を一曲だけ歌いました。ドルバッキー姉妹さま、ルリちゃん、おつかれさまでした。またあそぼうね。


[8月20日]
「活字倶楽部」のアンケートで今年中に出ると書いてしまった講談社ノベルス(タイトルは「迷宮 Labyrinth」の予定)、やっと[章に入り光明らしきものが見えてきた。幻冬舎のシリーズはホラーとミステリの融合なのだが、こちらはホラーを含む幻想文学との融合というコンセプトで書いています。ただ、厳密にいえば融合ではなく、ホラーもしくは幻想文学の中に入れ子としてミステリが入っているわけですね。これはべつに奇を衒っているわけではなくて、作者がそういう資質あるいは体質の人だから自然に書くとそうなってしまうわけです。ただ、また「策士策に溺れている」部分が無きにしもあらずという気もしますが(笑)。


[8月21〜22日]
 たびたび失礼します。黒猫のぬいぐるみのミーコです。
 先生といっしょに箱根のミス連合宿にお出かけしました。朝の八時半に新宿に集合したのは、森英俊さん、野村宏平さん、ワセミスのWさんです。電車に乗ってるとき、ミーコはずっとお外を見てました。箱根湯本でまずいおそばを食べてから芦ノ湯の旅館に到着。今回のゲストは恩田陸さんと西澤保彦さん、初参加の先生はただの客です。進行役のS君を交えた座談会はかなり遅れて始まりましたが、質疑応答になるとゲスト同士の会話も弾んで面白かったと先生は言ってました。西澤さんとは初対面で、夕食の折に大森望さんから紹介してもらったそうです。あとでミーコもずいぶんほめていただきました。そのあとは古本のオークションです。先生はP・K・ディック『ウォー・ゲーム』(ソノラマ文庫)600円(競っていたのが担当編集者だったのでおりてくれた)など三冊買っただけで、例によって目ぼしいものはほとんど日下三蔵さんが落としてました。それから、音無しの構えだった恩田さんが最後の一冊を「五千円!」のひと声で落としたのは華がありました。晩秋から来春にかけてご本が次々に出る予定だそうです。
 そのあとは、なぜか上映会になりました。目玉は野村さん主演でワセミスOBがたくさん登場する自主製作の怪獣映画「宇宙最大の決戦」(70分の大作)でした。ワンシーンだけ登場する恩田さんははっきりわかりませんでしたけど、同じチョイ役でも地震で死んじゃう飯野文彦さんはウケてました。ミーコはとっても面白かったです。先生はおふろに入ると眠くなったので三時前にお部屋で寝てしまいました。主力はジェスチャー・ゲームや麻雀などでさらに盛り上がっていたようです。
 朝は九時前に鬼のような仲居さんにたたき起こされました。「あなた、食事しないの? もうみんな行ってるわよ!」と頭ごなしに先生を叱ります。実はなぜか宿では「インターカレッヂ[チに濁音]・ミステリー連合」という名前になっていて、大学のゼミ合宿だと頭から決めつけており、ゲストのお二人が教授で残りは全然勉強をしない学生か学生もどきという「物語」を作り上げていて、ほかにも説教された人がいたそうです。そのわりにお吸い物に思い切り指を突っこんで運んでくるし、浴室にシャワーがないし、たまに旅行したらひどい宿だったと先生は言ってました。
 そのあとは段取り悪く移動し、箱根湯本で二十名あまりがおそばを食べました。先生は西澤さんと日々の執筆や文庫本の解説などについてお話してました。町田の古本屋という案も出たのですが、さすがにみなさんお疲れのようなのでおとなしく解散しました。みなさん、おつかれさまでした。おわり。



[8月23日]

 浅暮三文『カニスの血を嗣ぐ』(講談社ノベルス・980円)を読了。犬が出てくる小説、ハードボイルド・タッチ、まじめに捜査する警察、これはいずれも苦手なのだが、この作品は面白かった。なんとなれば、ミステリの〈外部〉が息づいているからですね。わかりにくいので説明すると、内なるミステリのパート自体はいたってありふれているけれども、それを〈匂い〉の幻想世界が包含する構造になっているわけです。このあたりは私の世界と共通する部分もあるので、道具立ては好みじゃなくとも面白く読めた次第。文末に変化を持たせたリズム感のある文章も心地いい。今年の臭覚じゃなくて収穫の一つ。


[8月24日]
 事故でも起きてもう届かないかと思っていたFantasy Centreの小包が届く。住所はラベルにしてもらいたいものだ。
 Frederick Cowles: The Night Wind Howls (Ash-Tree Press) これは全集です(笑)。コレクターズ・アイテムになっていた二冊の短篇集に加え、未刊に終わった第三短篇集まで入っている。えらいぞヒュー・ラム!
 W.J.Wintle: Ghost Gleams (Ash-Tree Press) 私が最初に邦訳した作家のこれまたコレクターズ・アイテムだった短篇集。背はどちらも黒地に赤、このほうがずっといい。本に関しては意外に実用主義的な部分もあってコンプリート趣味が希薄なのだが(あったら大変だ)、Ash-Tree Pressは揃えたくなってきたぞ。困ったな。
 Ed.Richard Dalby: Shivers for Christmas (Michael O'Mara Books) ゴースト、ホラー、チラーに続くクリスマス・シリーズの四冊目。収録作はいまいちかな。
 Ed.Stephen Jones and Kim Newman: Horror 100 Best Books (New English Library) 作家や評論家がベストホラーを一冊選び、比較的長めのエッセイを寄せている(すべて書き下ろしではなく、ポオやラヴクラフトなども交じる)。巻末には年表と詳細な寄稿者紹介が付されており、実にお得なペイパーバック。
 しかし、自分が訳すわけでもない洋書をのんびり読んでいるヒマはないのであった。


[8月25日]
 エドマンド・バーク『崇高と美の観念の起源』(みすず書房・2200円)をようやく読了。幻想的掲示板にもちらっと書きましたが、うまく敷延すれば「ホラーを書く」になりそうな箇所が散見されます。訳が堅いので具体的な引用はしませんけど。とりあえず読んで正解ではあった。


[8月26日]
 丸山圭三郎『言葉と無意識』(講談社現代新書・530円)を読了。単純なアナグラムは読者も飽きてきただろうからソシュールのアナグラムでと思って読んだのだが、こんなに面倒だと謎解きにならない。ただ、ミステリに分類される作品はポリフォニックなものを書こうとしているので、別の部分では啓発された。ほかの著書も読んでみるかな。それにしても、ソシュールが闡明しようとしたことは、東方の俳人はすべて無意識のうちに実践しているのではあるまいか。前に俳句の同人誌に「流れ行く大根の葉の早さかな 高浜虚子」が名句とされているのは無意識が「はや魚」に反応しているからだと書いて無視されたけど、本書を読むとあながち暴論でもないような気がしてきた。


[8月27日]
 今月二本目の短篇の第一稿が仕上がったので、渋谷東急古本市の初日に行く。絶版モダンホラーも見つかったから、個人的には伊勢丹より収穫があったかもしれない。ロバート・マラスコ『家』(早川書房)、キングズリイ・エイミス『グリーン・マン』(早川書房)、ジャック・フィニイ『マリオンの壁』(角川書店)、ミュリエル・スパーク『運転席』(早川書房)、ジェフリイ・コンヴィッツ『悪魔の見張り』(早川書房)、ロバート・カルダー『犬』(サンケイ出版)など。高い絶版文庫も買ったのだが、翌日のDASACONのオークションに二冊出ていてショック。ロバート・E・ハワード『剣と魔法の物語』(ソノラマ文庫海外)は高い帯を買ったと思えばあきらめもつくけれども、5千円で買ったばかりのロザリンド・アッシュ『嵐の通夜』(サンリオSF文庫)が5百円で落ちるなんてあんまりだと思います。
 値段は全部あわせて3万7千円、そのあと、主目的がカラオケのCDを数枚買ってから帰宅。ああ、また散財したぞ。


[8月28〜29日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。
 今日は先生といっしょにDASACON2に出ました。場所は本郷の旅館です。初対面は涼元悠一さん、山之口洋さん、米田淳一さん、喜多哲士さん、風野春樹さんなど。最初のメイン企画は寮美千子さんと東雅夫さんの対談でしたが、寮さんはずいぶん能弁な方で、ほとんどインタビュー状態でした。続く架空書評勝負は松本楽志さんが決勝まで進みましたが、決勝戦で挙手したのはほとんど幻想的掲示板の人だけで惨敗でした。
 次はいよいよおめあての古本オークションです。今日は日下三蔵さんがいなかったので(笑)、昨日の損のおつりが来そうな収穫だったと先生は言ってました。次のとおりです(総額約1万2千円、一冊平均8百円)。
[ソノラマ文庫海外シリーズ]ロバート・ブロック『モンスター伝説』、C・L・ムーア『銀河の女戦士』
[サンリオSF文庫]ロザリンド・アッシュ『蛾』、R・A・ラファテイ『イースターワインに到着』、シルヴァーバーグ『大地への下降』『内側の世界』、アントニイ・バージェス『どこまで行けばお茶の時間』、ピエール・クリスタン『着飾った捕食家たち』
[その他]ロバート・ストールマン「野獣の書」(全三巻・ハヤカワ文庫SF)、ヴァン・ヴォークト『モンスターブック』(河出文庫)、R・A・ラファテイ『トマス・モアの大冒険』(青心社文庫)『子供たちの午後』(青心社)、紀田順一郎編『現代怪談傑作集』(双葉社)
 そのあと(といっても午前三時)、いよいよ「四派対抗麻雀」に突入する予定でしたが、名人戦のような麻雀部屋が設けられていたのに宿が肝心の麻雀牌を忘れていました。連絡しようにも寝ています。結局、紆余曲折があったあげくお流れになってしまいました。先生は「二週連続で宿にたたられた」とかなりむっとしてました。仕方がないので福井さんと将棋を指しましたが、先生は基本的に本質直観の人だから将棋は弱く(だって考えないんだもん)連敗でした。でも、ダサコン大将に輝いた田中香織さんの主観的年齢世界の調査などでけっこう盛り上がり、朝まで間が持ちました。
 みなさん、おつかれさまでした。おわり。