[Weird World 9月上旬]



[9月1日]

 先月の総執筆枚数は247枚、執筆お休みは7日(うち全休4日)、一日当たりの平均執筆枚数は10.3枚でした。目標の二桁に乗ったけど、終盤は息切れ。今月は書き下ろしを一冊仕上げるのが目標です。
 山之口洋『オルガニスト』(新潮社・1600円)を読了。ファンタジー大賞受賞作で裏帯はバロック・ミステリー、「パラサイト・イヴ」を彷彿させるSFのテイストもあるから広義のホラーに入るかもしれないという今日的な作品である。ただ、肝心のファンタジーはどうしたのかと不審に思っていたのだが、ラストで納得。これの有無で評価はおのずと違ってくるでしょう。個人的には音楽のツボは憑依なのですが(偏ったツボだ)、細部もていねいで満足。


[9月2日]
 短篇を昨日メールで送り、今日また別の短篇の第一稿を仕上げる(このひと月間で三本目)。おかげで、光明が見えたと思った書き下ろしの雲行きがまた怪しくなってきた。うーん。
 京極夏彦『百鬼夜行−陰』(講談社ノベルス・980円)を読了。「嗤う伊右衛門」のプレテクストが「四谷雑談集」なら、これはいままでの諸作。「嗤う伊右衛門」はホラーに入れていいかどうか悩ましいけれども、本書は短篇集単位ではホラーでしょう。ことにツボだったのは「目目連」と「小袖の手」。ただ、結びの枠物語的処理は首肯できるのだが、ホラー短篇としての感興を殺ぐのは残念。できれば一行あけてほしかった。我ながら細かいところにこだわっているような気がしますが(笑)。


[9月3日]
 和田はつ子『魔神』(角川春樹事務所・1900円)を読了。帯は「ホラーミステリー」だが、そちらはべつに濃くないし、やや羊頭狗肉のコピーかもしれない。食文化ミステリーが妥当かな(社会派テーマもあり)。料理を含めた食文化に関する蘊蓄が頻出するので私にはちょっとつらいものがあった。食事は錠剤で済めば楽なのにと思っている人間のほうが少数派なのですが。


[9月4日]
 書き下ろしに再び光明が見え、最後までプロットを作ったのだが(いちおう最初に作るんだけど全然違う方向へ進んだりするので)、あまりにも変な小説なので自分で呆れていてなかなか進まない。ひょっとしたら頭がおかしいのではないだろうか? ひょっとしなくてもおかしいですかそうですか。


[9月5日]
 ジャック・ケッチャム『老人と犬』(扶桑社ミステリー・650円)を読了。「隣の家の少女」とは違って普通小説的なコードで、私には退屈だった。犬を殺された老人がなぜか犬を殺し回るようになってしまうとか、自分が犬と化して何の罪もない少年少女を殺し回るとか、そういう展開なら面白かったのだが(勝手なことを言っているのは自覚しておりますが)。


[9月6日]
 幻想的掲示板を中心に最近とみに書きこみが多いのですが、原稿も書いてます。あまり公開の場に顔を出さず、身辺雑記も綴らず、本のあとがきも書かずというのが理想なのですが、なにぶん幻想文学会のクラブノートの半分以上を一人で埋めていた人間だし、出無精で電話嫌いだし、ネットにはまる資質は十二分にあるのであった。これでも自戒してるんですが。
 我孫子武丸『屍蝋の街』(双葉社・1800円)を読了。帯は「近未来クライム・ノベル第二弾」だが、要はSFなんだから電波が飛んできて気持ち良くなればOK(現実崩壊感覚ってやつですね)という邪道な読み方をしてしまった。「目のない黒い犬」「生まれて初めて恐怖という感情を覚える場面」などが印象に残る。


[9月7日]
 午後一時より神保町で集英社のOさんと打ち合わせ。「青磁の壷」(手応えあり)は「小説すばる」12月号の幻想小説系特集に掲載されます。その次はミステリー特集だから、少しテイストを変えなければならない。トリック重視の本格短篇は間違っても書けそうにないからサイコ迷宮系にするかな? 


[9月8日]
 小野不由美『悪夢の棲む家』(講談社X文庫ホワイトハート・上490円、下530円)を読了。これは堂々たるゴーストハントおよび幽霊屋敷物で「本格ホラー」と銘打たれているのも大いにうなずける。ただ、ヤングアダルトのお約束どおりキャラも立っていて、その部分がアトモスフィアの醸成においてマイナスに働いている感も否めない。上巻のあとがきも併せると「『屍鬼』に至る道」がぼんやりと見えてくる。
 なお、この日記には読了本をすべて記しておりません。ヤングアダルトに関してはいずれまとめて紹介しながら考察するつもりなのですが、だんだん「まとまらない」という結論に近づいてきました。
 

[9月9日]
 ゆうべ幻想的掲示板へ長文の理屈っぽい書き込みをしたのだが、分割に失敗して全部消してしまった。物語的仮説なので、小説を一本消したような気分。
芦辺拓『不思議の国のアリバイ』(青樹社・1500円)を読了。アリバイ物は大の苦手なのだが、顔面ステーキがらみのところがなるほどでした。私がいま書いているミステリ(に分類される小説)とはずいぶん違います。マニアックな蘊蓄も楽しい(なにしろ私まで出てくる)。


[9月10日]
 朝松健『邪神帝国』(ハヤカワ文庫・640円)を読了。掲示板で話が出るかもしれないので詳しく書きませんが、好みは「1889年4月20日」。そろそろ出る「緑の幻影」とは同じクトゥルー物でも全然違いますね。
 と書いたら、『緑の幻影』(出版芸術社・1800円)の見本が届きました。いやー、これは目立ちます。「『田舎の事件』の次がこれかよ」という雰囲気、とても同じ作家の本とは思えません(笑)。


[9月11〜12日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。
 高瀬美恵さんのWater Garden掲示板のオフ会に先生改めクラニーといっしょに参加しました。「少女とおじさんの楽園」と呼ばれている掲示板で、外から見ると何の集まりなのかよくわかりません。榎木洋子さん、樹川さとみさん、野梨原花南さんといったそうそうたる少女小説家のかたがた、はるばる関西方面から来た数名を含む高瀬さんのファンのみなさん、ワセミスOBのおじさんたちなど、全部で31人という盛況でした。一次会は新宿・土風炉、二次会はパセラ、三次会は志ろう、四次会は激しい客引き合戦の末またカラオケ、結局20人が徹夜しました。ミーコはほうぼうへお出かけしてますけど、こんなにたくさんの人にかわいがっていただいたのは初めてでした。ありがとうございます。
 二次会のカラオケはアニソン部屋と「おお辛い」(太田裕美カラオケ普及委員会の略)部屋に分かれました。クラニーはよそでは遠慮するしエンジンのかかりも遅いので、四次会の残り一時間くらいから少し飛ばした程度でした。「やはり20曲以上歌える小人数がいいな」と勝手なことを言ってます(>心あたりのある方)。ミーコはおうたに合わせてずいぶん踊ったのでつかれました。じゃあ、またね。

 最後にクラニーから最新情報です。竹本健治『入神』(南雲堂・905円)、やっと出ました。P219のベタだけ塗っております。さっそく読みましたが、棋譜がらみのところがことに面白いですね。竹本六段の超宇宙流の洗礼を受けたことがある倉阪初段としては布石も面白かったのですが、何と言っても「遠打の妙手」が凄い。ワリコミの筋ならともかく、これは死んでも作れません。



[9月13日]

 品切れの本は入手しただけで安心してしまう部分があって、ずいぶん未読本がたまってしまった。少しずつさばいていきます。
 というわけで、ロバート・シルヴァーバーグ『夜の翼』(ハヤカワ文庫SF)を読了。私の感覚では硬質なファンタジーなのだが、むろん幻想SFでもOKです。山尾悠子さんの世界とも一脈通じる構築性とディテールが心地いい。もっとネガティヴにいったん構築した世界を最後に崩壊させてほしかったような気もするが、これは好みの問題で傑作であることは疑いないでしょう。


[9月14日]
 長篇の第一稿が完成(420枚)。明日から推敲にかかれば来週には渡せそうだ(何度も推敲しながら進めるので仕上げは比較的楽)。これで今年の書き下ろしは残り一冊、こちらも160枚まで書いてあるからやっと見通しが立ってきたぞ。ぜいぜい。
 ヴォルフガング・カイザー『グロテスクなもの』(法政大学出版局)をやっと読了。美学の本は読むのに時間がかかる。個人的には「恐怖と笑いは紙一重問題」がらみで収穫があった。総括部分も重要。あと基本図書ではホッケ『文学におけるマニエリスム』が未読なのだが。


[9月15日]
 西澤保彦『夢幻巡礼』(講談社ノベルス・1100円)を読了。なかなか根の暗い話で満足。ミステリは人を殺す手続きが面倒なのだが、このタイプだとたくさん殺せますね。配合されているSFのアイデアはホラーにも変換可能。実は二十冊中まだ三冊目なのだが、暗そうなのを選んで読むかな。
 書き下ろしアンソロジーも二冊読了。岬兄悟・大原まり子編『SFバカ本 ペンギン篇』(廣済堂文庫・552円)は牧野修「演歌の黙示録」が出色の出来。クトゥルー、オカルト、演歌懐メロのファンはゆめゆめお読み逃しなきように。「恋の法の書横丁」だけでもほぼOK。「藤正樹の『あの娘がくれた塩むすび』を逆回転で聞くと悪魔を賛える曲に聞こえる」も個人的にはポイントが高い。いやー堪能しました。でも、これってほとんど幻想文学会のノリだな。
 東京怪奇作家同盟編『恐怖館』(青樹社文庫・581円)は、いったん途中で投げたのだが気を取り直して読了。ホラーでは早見裕司「あたしのもの」、スリラーでは矢引(字がない)零士「ホーム・パーティ」を一応挙げておきます。