[Weird World 10月上旬]



[10月1日]

 中日ドラゴンズが11年ぶりにリーグ優勝しました! みなさんご声援ありがとうございました……って誰も声援してませんかそうですか。それにしても、よく中継ぎ陣が持ったものだ。個人的には岩瀬にMVPをあげたい。でも、どうして優勝が決まった日にとんでもない大事故が起きたりするのだろうか?
 先月の執筆枚数は181枚、執筆お休みは9日(うち完全休養3日)、平均執筆枚数は8.6枚でした。長篇の改稿作業に4日間を費やしたため、目標をクリアできず。今月は50枚の短篇があるし、ゲラも出るし、長篇は後半だし……カラオケの練習まで手が回るだろうか(あれっ?)。
 それから、「小説すばる」12月号に掲載されると前に記した「青磁の壷」は、予定が変わって今月発売の11月号となりました。ミステリー特集に入るらしいのですが、ちょっと浮くかも。


[10月2日]
 13年の校正者キャリアに照らすと「人間はミスを犯す動物」であって、二重三重のチェック機能を配し十人くらいの目に触れても、ごくまれに2月が31日まであるカレンダーが刷り上がったりしてしまう。印刷物の場合はいくら間違っても人体に影響はないけど、ウランは違うでしょう。「バケツでウランを入れた」だの「警報装置がなかった」だの、町のメッキ工場のほうがよほど厳重。それから有馬朗人科学技術庁長官、「技術者のモラル」とか俳人モードはいいから、本職の学者モードでやってください。会社の訓示じゃないんだから。
 久美沙織『電車』(アスペクト・1800円)を読了。おお、これはマトリョーシュカではないか! 本の中に本があり、また本があり、電車の中に電車があり、現在の中に過去がある。前半はとてもぞくぞくしました。ただ、ちょっと長すぎるし、後半はややウエットかな。
 高橋昌一郎『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』(講談社現代新書・680円)は好著。前半の不完全性定理と後半の時代遅れとも思われる哲学との落差が興味深い。「私の哲学的見解」によると、概念は客観的実在であるらしい。うーん。


[10月3日]
 長山靖生『鴎外のオカルト、漱石の科学』(新潮社・1400円)を読了。近代文学のゼミで華のない実証的な研究発表を聞かされていたので、こういう「外部」の視点からの評論は新鮮に感じられますね。勉強になります。付言すると、大正末期の新感覚派になると、文学者の科学受容はより皮相になっていきます(このあたりのテーマで論文を書いたことがあるのだが、結局ボツになってしまった)。ただ、結語の部分はちょっと首肯しかねますが。


[10月4日]
 ハワード・ヘイクラフト『娯楽としての殺人』(国書刊行会・3500円)を読了。資料的価値が高いし、ミステリの通史としては重宝。ただ、評論としてはあまり複眼じゃないので凡庸かも。アメリカ人は単純だなと思いながら読んでました(笑)。


[10月5日]
 ロバート・シルヴァーバーグ『禁じられた惑星』(創元推理文庫・620円)を読了。いままで読んだなかではいちばん落ちる印象。ネガティヴなのになぜだろう? ホラーの(に変換される)因子の含有率の問題か、冒頭を読んでメタを期待したせいか、ちょっと判じがたい。


[10月6日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。
 今日はクラニー先生といっしょにインタビューを受けました。「ダ・ヴィンチ」の猫ミステリーの企画で、場所は渋谷のメディアファクトリー、インタビュアーはライターの大地洋子さんです。雑誌に出るのは初めてだし、写真はたくさんとられるし、ミーコはとってもきんちょうしました。ぬいぐるみで出るのはミーコだけです。クラニーは「ステージパパの気分だった」と言ってました。12月号にのるから見てね。


[10月7日]
 戸川昌子『私がふたりいる』(光文社文庫・品切)を読了。大枠はジャプリゾ風のミステリなのだが、手記の部分に突拍子もないエロがふんだんに配合されており、ディテールは爆笑の連続。いやー、これは怪作です。古本屋で安く見かけたら迷わず買いでしょう。
 えー、それから、「ダ・ヴィンチ」11月号で二か所にわたって『緑の幻影』を紹介していただいているのですが、「ホラー研究の第一人者と定評ある倉阪鬼一郎」とあるのは何かの間違いだと思います(笑)。私は何も研究しておりません。


[10月8日]
 嵐山光三郎『怪。』(徳間文庫・520円)を読了。怪談、奇妙な味、昔ならSFのアイデアストーリーによって構成されたお買い得の一冊。ベストは断然「蛙女」、鏡花風の道具立てを淡々と描写した大人の怪談で秀逸だった。
 図子慧『猫曼魔』(小学館キャンバス文庫・540円)も読了。ホラーの構造だけを抽出すると、いたってオーソドックスなモダンホラー。ここにユーモアとそこはかとないミステリとマニアネタが配合されているのだから、私が面白く読むのも当然か。でも、私にウケてるようじゃシリーズ化はどうなんでしょう(笑)。


[10月9日]
 綾辻行人『どんどん橋、落ちた』(講談社・1700円)を読了。前半はテイストが似ていて、井上夢人『風が吹いたら桶屋がもうかる』をちょっと彷彿したりしたのですが、
後半の二作は俄然メタが濃くなる。このあたりは配列の妙。採り上げるのはフライング気味なので各作品については詳しく書けないんですけど、「伊園家の崩壊」の前半で構造について間違った推理をしてしまい、それが「意外な犯人」を最も面白く読むことに通じたとだけ記しておきましょう(何のことかわかりませんね)。メタ的重層性については、認識論的ディスクールをバックボーンの一つとするコード型の本格ミステリが捨象してきた部分を回復させるという機能もあると思ったりするのですが、そういう話になると終わらなくなるのでこの辺で。
 さて、同書の「フェラーリは見ていた」に登場する講談社のA元さんと夕方から神保町で打ち合わせ。その前に、東京堂書店で三つ揃いに古風な山高帽という異様ないで立ちの人から声をかけられる。誰かと思ったら長山靖生さん。うーん、こんな格好で街を歩いてる人はいないよなあ(笑)。A元さんからは『迷宮 Labyrinth』のゲラを受け取る。講談社ノベルス来年1月刊の日程で進んでいます。それから、私の記憶が正しければ、どうやら来年から「メフィスト」で連載が始まるようです。思い切りメタをやろうかな。古瀬戸から古瀬戸へという芸のないルートで八時半に解散。


[10月10日]
 ついひと月あまり前にミーコをかわいがっていただいた方の訃報に接し、ちょっと憂鬱な気分。ちなみに体育の日ですが、スポーツやアウトドアなど体にいいとされていることは嫌いだから関係ありません。ここ十年、休肝日はほとんどないし、煙草は三箱吸ってるし、物を食べるのは億劫だし、検診は三年くらい受けてないし、いまのところ病気は全然しないのですが寿命短いかも。たとえばぼくが死んだら(BGM森田童子)ミーコをお棺に入れてください(遺言)。
 さて、お待たせしている『白い館の惨劇』(幻冬舎)は十一月末か十二月初めの刊行で進むことになりました。複雑系が二冊続くのでどうかなとも思うのですが。


[10月11日]
 ジョン・フランクリン・バーディン『悪魔に食われろ青尾蝿』(翔泳社・2000円)を読了。半世紀前のガイ・バートの趣で、本質的には普通小説の書き手でしょう。とにかく描写が濃厚、音楽がらみもさることながら「赤と黒の格子」などが印象深い(「背中を見せない」も強烈)。ミステリとホラー史のなかにどう位置づけるかはきわめて難しいのだが、彷彿したのはギルマンの「黄色い壁紙」。いずれにしても、薄い本だが意外に時間がかかる。私が書くとすれば、主人公視点の世界を入れ子にして、叙述トリックを含む地の文をもう一つ外枠に設定するだろうな。


[10月12日]
 朝から御茶ノ水の眼科へ行く。最近の検査はライオンやフクロウのたぐいが出てきて面白い。瞳孔が開いた状態のまま神保町へ。ついに野崎六助『北米探偵小説論』(インスクリプト・5800円)を購入して帰宅。
 日下三蔵編『乱歩の幻影』(ちくま文庫・1000円)を読了。掲示板にも書きましたが、蘭光生「乱歩を読みすぎた男」における熊のぬいぐるみ責めが秀逸。亀ヴァージョンを書きたくなってきたな(笑)。誕生日が同じ竹本健治・中井英夫を並べるなど、相変わらず凝った編集ぶり。


[10月13日]
 竹田青嗣『エロスの世界像』(講談社学術文庫・760円)を読了。前半はアリストテレスを切り捨てたりして面白かったのだが、中盤以降は疲れもあって斜め読み。認識論的ディスクールとエロス論的ディスクールというのも二元論であって、タナトス論的ディスクールも絡んでこないとつまらないな……というのは素人考えなんでしょうけど。


[10月14日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。今日は夕方からカラオケでした。出席者は、ドルバッキー姉妹、白猫のぬいぐるみのルリちゃん、クラニー、ミーコです。筋肉少女帯の「暴いておやりよドルバッキー」を三回も歌う人たち(しかも合唱)は珍しいとおもいます。ミーコはルリちゃんとあそんでました。クラニーが初めて歌ったのは、「カントリーガール」「ねこの森には帰れない」「気分を変えて」「サヨナラの鐘」「LIKE A HARD RAIN」「BREAK OUT!」「Sweet Emotion」「女の子なんだもん」「夏が来た!」「悲しき天使」などです。ミーコは「赤い風船」を歌いました。三回目のドルバッキーは時間ぎりぎりだったのですが、「にゃー!」が終わった瞬間に画面が消えました。すごいタイミングでした。みなさん、おつかれさまでした。またあそぼうね、にゃー!


[10月15日]
 井上雅彦監修・異形コレクション13『俳優』(廣済堂文庫・762円)が届きました。「白い呪いの館」という三十枚弱の作品を寄稿しています。ついに寄稿回数が二桁に達しました。いままではちょっとわかりやすい作品が多かったので、今回はマニアネタも含めてやや昔のテイストで書いてみました。どうでもいいけど、飯野さんの隣に並ぶのは二度目ですね。いや、べつに嫌がってはいないのですが(笑)。