[Weird World 10月下旬]


[10月16日]
 早起きして御茶ノ水の眼科。来月上旬に軽い手術をすることになり、心電図測定や採血などを済ませる。血まみれの小説は書くけれども現実の血を見るのは大嫌いなので、注射器のほうは見ないようにする。そのあと久々に大久保の新宿古書センターへ。ジェームズ・ハーバート『奇跡の聖堂(上・下)』、デイヴィッド・ショービン『アンボーン』(ともにハヤカワ文庫モダンホラーセレクション)を購入。また、顔写真が入っていたので高瀬美恵『霊獣Cの受難』、図子慧『ピーター・ラビットは、僕の友だち』(ともに角川スニーカー文庫)も購入。わはわは。高田馬場に回り、長袖の服を何枚か買う。考える必要がないから最近はMサイズのど真っ黒な服ばかり買っているのだが、レジに運ぶとまるで忍者の装束。さらに池袋パルコの古書展へ。1500円で買ったばかりのハーバート『奇跡の聖堂』がどうして200円で見つかるんだ? ダブリ本はあまり買わないのだが、これを見逃す手はない。もう一冊、マイケル・スチュアート『モンキー・シャイン』も200円だった。あとは世界探偵小説全集の未購入本など。
 さて、「小説すばる」11月号が届きました。既報のとおり「青磁の壷」という短篇を寄稿しています。わりと私のホラーのイデアに近いものが書けたかなという気もします。次は本格ミステリ特集だから少しテイストを変えねば。
 待ち時間と移動のあいだに近藤史恵『カナリヤは眠れない』(祥伝社文庫・560円)を読了。繊細にして軽快、キャラは申し分なく立ってるし、文庫書き下ろしの軽めのミステリとしてはほぼ理想的な仕上がりでしょう。


[10月17日]
 五十枚の短篇の第一稿が仕上がる。締切は月末だから、プリントアウトしたものを二、三日寝かせてから推敲、余裕をもって渡せそうだ。不測の事態が出来することも考慮して早めに取りかかるから、だいたいこんな感じで進行できているのだが、この先いろいろ重なってきたら恐怖のドミノ倒しが起き見切り発車を余儀なくされるかもしれない。次の短篇も前倒しして手をつけておくかな。それにしても、また厭な話を書いてしまったかも。


[10月18日]
 アレクサンドル・ベリャーエフ『ドウエル教授の首』(創元SF文庫・450円)を読了。前半は人体損壊小説の趣で楽しめたのだが、物語が動きはじめてからはわりと普通のエンタテインメントで刺激に乏しくなる(あくまでも私にとってですが)。
久々にホラービデオを紹介すると、「サスペリア・ナイトメア」はありきたりな話ながら雰囲気重視のオーソドックスな作りで好印象。なお、アルジェントとは何の関係もないドイツ・オーストリア合作映画です。ジャーマン・ホラーは暗くていいな。


[10月19日]
 Fantasy Centreから本が届く。今月の三冊のうち珍しいのは、Lettice Galbraithの怪談集でしょうか。版元はSarob Press。ここはAsh-Tree Pressよりさらに部数が少なく、この本も限定250部。十九世紀末に活躍した怪奇小説家で、1890年代の前半には怪談集がベストセラー・リストにも入ったようだが、今世紀になってからのアンソロジーには一作も採られていないという幻の作家らしい。なお、これはリチャード・ダルビー責任編集による叢書Mistresses of the Macabreの第一巻。次回配本はMary E.Pennなのだが、この作家も全然聞いたことがない。全部買うぞ。
 斜め読みながら豊島泰国『日本呪術全書』(原書房・3200円)を読了。資料的価値が高い。『拷問全書』も読まねば。無言神事は創作心をくすぐるけれども、取材は死んでもしたくないな。


[10月20日]
 北村薫『盤上の敵』(講談社・1600円)を読了。初めて絶対的な悪が描かれているという評判なので期待したけれども、私の感覚(言うまでもなく偏っていますが)に照らせばぬるい。こういうスタイリッシュな構成の小説自体は好みなのですが。


[10月21日]
 四時より神保町で祥伝社のMさん、Yさんと打ち合わせ。Mさんに五十枚の短篇を、Yさんには来年執筆する長篇のプロットを渡す。長篇はホラー・ミステリーではなく、ミステリー・ホラーです。
 有栖川有栖『有栖の乱読』(メディアファクトリー・1200円)を読了。ミステリのみならず他方面にわたってお読みになっていますね。安部公房、カフカ、ボルヘス、カルヴィーノ、三島由紀夫……ずいぶん重なってます。まだまだ本格ミステリと交配されていないものはありますね。


[10月22日]
 明日はMYSCONなのでミステリを読む。都筑道夫『猫の舌に釘を打て/三重露出』(講談社文庫大衆文学館・1300円)は「三重露出」を期待したのだが、前者のほうが面白く読めた。メタは根っから好きだけれども、束見本に書くというアイデアは一人三役ともども秀逸。「三重露出」は作中作の注釈の付け方などは面白いのだが、内枠がチープな冒険アクションだから私にはやや辛いものがあった。
 法月綸太郎『法月綸太郎の新冒険』(講談社ノベルス・880円)も読了。作者自ら会心作と述べるように「背信の交点」は「誰彼」再びといった趣で秀逸だった。またデクスターばりのハードパズラーを書いてください。


[10月23〜24日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。今日はクラニー先生といっしょにプレMYSCONに出ました。場所は歌舞伎町の大きな飲み屋さんです。六時前に会場に行ってみると、おとなりが中学の同窓会のカラオケで異様に盛り上がっています。うるさいので浅暮三文さんと端のほうの席に座っていましたが、恐れられたのかあまり近くに人が集まりません。結局そのテーブルに座ったのは、ほかに櫻井清彦、笹川吉晴、高瀬美恵といった面々で、最初はあまり世界が広がっていませんでした。
 六時過ぎに開会。スタッフは「恐怖の会」永久幹事のフクさん、松本楽志さんなど、幻想的掲示板の関係者が異様に多かったです。みなさん、ご苦労さまでした。そのあとほうぼうに移動しました。クラニーと初対面だったのは、近藤史恵さん、貫井徳郎さん、国樹由香さん、市川昭吾さんなど。ミーコはたくさんのかたがたにとってもかわいがっていただきました。うるうる。
 さて、そうこうしているうちに呼び物の古本オークションが始まりました。kashibaさんの名司会で進行、クラニーは一冊に絞ったピーター・ディキンスン『生ける屍』(サンリオSF文庫)を五千円で落としてました(溝口哲郎さんが競ってくるのは読みに入っていたと言ってます)。オークションでは、声をかけた瞬間にサイフを出して歩きはじめる橋詰久子さんの姿が印象的でした。
 途中から奥で「若ミス座談会」も行われましたが、またおとなりでカラオケが始まってしまい、声があまりとおらなかったのはお気の毒でした。そのあと、十時まで飲み会は続きました。約九十名の参加者のみなさん、おつかれさまでした。ミーコはつかれて寝ちゃったので、あとはクラニーが書きます。バイバイ。

 二次会はカラオケのつもりだったのだが、飛び入りで綾辻行人さんが参加していたので麻雀の方向へ。とりあえず新宿のジャズバーで落ち着く。ほかに大森望、浅暮三文、近藤史恵、笹川吉晴、櫻井清彦、橋詰久子といった面々。途中から「代表落ち」の福井健太も後輩とともに合流。近藤さんが「カナリアは眠れない」をたった二週間で書いたという話を聞いて仰天する。構想はずいぶん時間がかかったらしいが、短期間でどうしてあんなハイレベルな作品が書けるのだろうか?
 さて、高田馬場に移動して第一回四派対抗麻雀名人戦。ちなみに四派対抗戦の歴史を説明すると、第一回は「ミーハー」が交じっていたので正式ではありませんでした。ミステリ代表が惨敗を喫した第二回が正式第一回です。第三回はダサコン2で行われる予定でしたが、周知のとおり牌がなくてお流れ。今回が実質第二回でした。
 で、結果はあまり記したくないのですが、下記のようになりました。

 名人 ミステリ代表 綾辻行人 +31.1
 @+24.7(2位)、A−57.1(ラス)、B+54.0(トップ)、C+9.5(2位)
 2位 ファンタジー代表 浅暮三文 +17.2
 @−8.4(3位)、A+72.7(トップ)、B+8.6(2位)、C−55.7(ラス)
 3位 SF代表 大森望 −19.0
 @+56.0(トップ)、A+2.9(2位)、B−49.7(ラス)、C−28.2(3位)
 4位 ホラー代表 倉阪鬼一郎 −28.3
 @−72.3(ラス)、A−18.5(3位)、B−12.9(3位)、C+75.4(トップ)

 ハイライトは三回戦のオーラス。私がラス親でトップ目だったのだが、綾辻名人が執念の倍満をツモリ上げ大逆転。おかげで僅差の3位にまで転落したのが痛かった。最終戦も浅暮さんがトビ寸前になったから、総合2位以下はかなりきわどい勝負だったんですね。いずれにしても、×××××氏の意志が尊重される結果となってよかったと思います。なお、ホラー代表は喜んでほかの方にお譲りしますのでよろしく。幻想文学会付属「幻想麻雀会」のナンバー3くらいでは荷が重いかも。そのあと、綾辻さんの代わりに橋詰さんが入って東風戦を一回打ってから帰宅。


[10月25日]
 出版芸術社のH社長からの情報によると、「『緑の幻影』が回収になった」と横浜の某書店であらぬことを口走った頭のおかしい男がいるらしい。この作品はラヴクラフトが創始したクトゥルー神話の盗作で(爆笑)、ラヴクラフト協会(もちろん実在せず)からクレームがつき、著者も了解して目下書き直している、本は都内の書店で続々と回収になっている、おたくも売ってはいけない、などとまことしやかにデタラメを並べているようだ。「著者に直接電話をして確認を取った」などと言ったらしいからタチが悪い。貧乏作家と良心的中堅出版社をいじめて何が面白いのだろうか。また出没するかもしれませんが、書店の方、真に受けないでください。
 異形コレクション13『俳優』(廣済堂文庫・762円)を読了。今回はきつい縛りのお題でしたね。例によって好みの作品を三つ選びました。
 菊地秀行「化粧(メイク)」。私の感覚では本格ホラーの王道に近い。小池真理子の作品とも一脈通じる秀作。わからなかった方、ゆっくり読み返してみてください。
 五代ゆう「遍歴譚(バラッド)」。こういう芸風もあったのかと驚く。文体の選択が的確で、書かれてみればなるほどというお話。
 飯野文彦「佐代子」。老婆のサイコが印象に残る。あの貼り紙のモデルは高田馬場のさかえ通りにあった八百屋だろうか?
 あとは安土萌「死体役者」、新津きよみ「タクシーの中で」あたりかな。


[10月26日]
 森真沙子『水域 アクエリアス−転校生3−』(角川ホラー文庫・700円)を読了。「サスペリア」や定番の呪物や伝奇などが配合された手堅いホラー。ただ、やはりジャンル・ホラーらしく、いろいろ出しすぎている印象も。「ホラー作家ではない」と自己規定している作家の長篇が恐怖を喚起するのは、家族だの愛だの人間だのといった短篇では夾雑物となるものが、読者の不信を解体していく過程においてはからずも(ここ重要)効果的に機能しているからではなかろうか。では、家族だの愛だの人間だのにまったく興味のない人間はどう書けばいいのか−−これが今後の課題のひとつなのですが。
 「活字倶楽部」99秋号が届きました。澁澤特集がありますのでファンの方は要チェック。どうでもいいけど、ついにゴーストハンターに一票入ったか……。


[10月27日]
 朝、幻冬舎から『白い館の惨劇』の校閲済みのゲラが届く。夕方、講談社のA元さんと打ち合わせ、『迷宮 Labyrinth』の校閲済みのゲラを受け取る。その次の長篇も終盤にさしかかり、頭から手を入れながら読み返している。当分、自分の小説しか読めません。うう。それにしても中日は打てないなあ……。


[10月28日]
 紹介が遅れましたが、神宮寺元『戦国群雄伝1 信長、修羅の妄執』(学研歴史群像新書・800円)が刊行されております。異形コレクション『屍者の行進』に怪作「屍蒲団」を発表した神宮寺秀征と同一人物で、何を隠そう幻想文学会の会長です。この人が員数を集めて旗揚げしたものの、第一回の新人勧誘で入ったのはアズレーとクラニーだけだったという昔話があります(笑)。結構売れてるみたいですね。
 なお、日本シリーズは目を覆わんばかりの惨敗に終わりました。阪神が出たほうがよかったかも。


[10月29日]
 「幻想文学」56号「特集 くだん、ミノタウロス、牛妖伝説」が発売されています。「事件」という10枚の短篇を寄稿しました。11号「幻想SF」に掲載された「インサイダー」以来、小説は実に14年ぶりになります。それから、久々に俳句時評も書きました。俳句関係は日記では取り上げていないので、こちらをご覧ください。
 「週刊小説」11-12号も届きました。「気分はステージパパ」という短いエッセイを寄稿しています。ああ、ミーコのことを書いてしまった(笑)。
 ゲラ地獄で本が読めないので先に紹介だけしておきます。高原英理『少女領域』(国書刊行会・2800円)は初の評論集。第一回幻想文学新人賞を受賞した加藤幹也氏と同一人物です。それにしても、芦辺拓(小畠逸介)、牧野修(牧野みちこ)、中相作(宇井亜綺夫)と幻想文学新人賞受賞者はことごとく昔の名前を捨てていますね。
 西崎憲編訳『ヴァージニア・ウルフ短篇集』(ちくま文庫・580円)はオリジナル編集、結構珍しい作品が収録されているようです。
 

[10月30日]
 久々に天皇賞の前売りを買ったあと(どうせ当たらないだろうけど、8枠三頭のボックスとメイショウオウドウの単)、古典SF研究会へ。今回はいやに出席者が少ない。北原尚彦さんとの話で、某短篇の締切をひと月間違えていたことが判明。にわかに心ここにあらずモードになり早めに退席。うーん、そのうちやるんじゃないかと思っていたのだが……まだ間に合うんだけど、秘書猫によく言い聞かせておかねば。