[Weird World 11月下旬]


[11月16日]
 長篇の改稿が完成。あとは40枚の短篇を書けば今年のお仕事はほぼ終了の見込み(甘かったりして)。今月はサイクルの変わり目だから、執筆量は激減するでしょう。
 ルマーチャンド『螺旋階段の闇』(講談社文庫・品切)を読了。ただ、「意外な結末」という紹介ですぐネタがわかり、確認のための読書になってしまった。短篇ネタのような気がする。


[11月17日]
 長篇のFDを作り、一年前にご依頼いただいた長篇のプロットをようやく送る。連載のプロットも作らねば。
 坂東眞砂子『屍の聲』(集英社文庫・440円)を読了。『ぼっけえ、きょうてえ』を読んだあとなので、同じホラー・ジャパネスクでもいやにあっさりしたものに感じられる。とは言え、「猿祈願」などはかなりの迫力。あとは表題作と「盛夏の毒」かな。
 さて、「コミック強調月間」のその後の読了本は下記のとおりです。
 伊藤潤二『顔泥棒』『双一の楽しい日記』『双一の呪いの日記』(以上、朝日ソノラマ)、古賀新一『死霊の叫び』(角川ホラー文庫)、明智抄『図説オカルト恋愛辞典』、森川久美『青色廃園』『蘇州夜曲』、和田慎二『左の眼の悪霊』(以上、白泉社)。


[11月18日]
 午後から御茶ノ水の眼科。ずいぶん混んでいて、待ち時間に竹河聖『風鬼』(ソノラマ文庫ネクスト・520円)を一冊読んでしまった。これはどこをどう切ってもホラー。山荘に至ってから予定調和的な展開になるのかと思いきや、ラストで雰囲気が戻る。さて、順調に回復しておりますので、ご心配なく。もっとも、傷が完全に癒えるのはまだ先で二種類の点眼は欠かせないのですが。
 和田はつ子『戦慄のサイコ・キラー 十戒』(徳間文庫・514円)も読了。うーん、やはりプロファイラーが出てくると性に合わないな。サイコも「死者の体温」に比べるといかにも弱い。ただ、一般向けならこちらでしょう。


[11月19〜21日]
 夕方よりミーコを連れて帝国ホテル、集英社の三賞受賞パーティに出席。まず第一の目的である「ブラッド」の原稿を集英社のC塚さんに渡す。C塚さんに紹介していただいた五條瑛さんとともに会場を回るが、最初は大森さんくらいで異様に知り合いが少ない。「お生まれはどちらですか?」などとお見合いのような会話をしながら徘徊しているうち、少しずつ場が動きはじめる。初対面は小沢章友さん、石田衣良さんなど。終わりごろになって津原泰水さんを発見、数名で独自の二次会の予定だったのだがはぐれてしまってしばらく徘徊、結局新人賞の二次会に合流。あ、ちょっと秘書と代わります。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。ミーコは会場でお給仕をする女の人たちにずいぶんかわいがってもらいました。岩井志麻子さんにもなでてもらいました。わーい。
 そのあと、津原さん、集英社のK原さんとともに新宿に向かい、零時よりロフト・プラスワンで行われた菊地秀行さんのトークライヴに合流。今回はハマー特集の第二弾だが、アシスタント(?)の飯野さんの正面に座ったため、脈絡なく桃色の弾が飛んでくる。徐々に死角になる方向へ席を替えたのだが効果なし。具体的には書けませんが、耳鳴りがしそう。映画自体は「吸血ゾンビ」「陰母神カーリ」など珍しい作品が多くて堪能したのですが。
 帰宅後、昼過ぎまで寝てから再びミーコを連れて京都に向かう。車中で矢口敦子『矩形の密室』(徳間ノベルス)を読了。初参加の京都SFフェスティバルのオープニング(合宿)にどうにか間に合う。クイズのあと、しばらく大広間でまんがカルテット・プラスワン(牧野修・小林泰三・田中啓文・田中哲弥+我孫子武丸)のプレ公演を拝聴する。野尻抱介さんとは初対面、異様に某方面の関係者が多い。そのうち綾辻さんが麻雀を打ちにきたので二階の麻雀部屋へ。まだ眼が完治していないから、今回は自重して見物のみ。
 午前一時より、いよいよまんがカルテット・プラスワンの本公演。と言っても、進行の大森さんが加わっておっさんが六人になっただけで、芸風に変わりはなし。三時くらいまで拝聴したあと、大広間の古本オークションへ。MYSCONより一桁低くて盛り上がりはいまひとつだったが、ラファティ『悪魔は死んだ』(サンリオSF文庫)のみ落札。麻雀部屋に戻ると、真剣に四派対抗麻雀をやっている。今回は官能小説代表として我孫子さんが入って負けた模様。まんがカルテット・プラスワンは明け方もしょうもないことで盛り上がっていたが、当方はもはや余力なし。よく飽きないものである。あ、また秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。ミーコは五代ゆうさんにずいぶんあそんでもらいました。わーい。
 八時のエンディングのあと、数名で三条まで歩き、喫茶店に寄ってから浅暮さんとともに京都駅へ。指定券の席を問われて「うー、トの何番と書いてありますな」と必死に乗車券の暗号を解こうとしていたから、この一両日でかなり脳細胞を潰したかも。
 二時すぎにどうにか帰宅。みなさん、お疲れさまでした。


[11月22日]
 ずいぶん寝てから仕事を再開するも、依然として短篇の調子が出ない。困ったものだ。
 そうこうしているうちに「コミック強調月間」の読了本が溜まってきたので書名を記します。伊藤潤二『富江』『富江Part2』『肉色の怪』『なめくじ少女』『血玉樹』『首幻想』『あやつり屋敷』、諸星大二郎『栞と紙魚子の生首事件』(以上、朝日ソノラマ)、千之ナイフ『SISTER』、谷間夢路『絶叫劇場』(以上、秋田書店)。もっと幅広く読もうと思ったのだが、予想どおり偏ってきました。


[11月23日]
 あまりにも短篇が進まないのに業を煮やし、書き下ろし長篇二冊と書き下ろし短篇集一冊、併せて三冊分を同時に起稿する。すると、不思議なことに短篇も動きはじめた。ひょっとしたらワーカホリックかも。


[11月24日]
 短篇のゲラを戻してから、懸案の短篇を一気に最後まで書く。なんだか座りが悪い作品になったかも。第一稿は36枚しかないから、あと4枚加筆しなければ(依頼されたとおりの枚数の作品を締切に余裕をもって渡している律義な私)。
 丸山圭三郎『言葉とは何か』(夏目書房・1400円)を読了。『ソシュールを読む』と重複している部分が多いので読まなくてもよかったような気もするが、末尾に「術語解説」も付されており入門書には好適。あとは最も難しそうな『ソシュールの思想』が残っているけれども、牧野さんが「偏執の芳香」で使ってるからなあ……。


[11月25日]
 その牧野さんの短篇集『忌まわしい匣』(集英社・1995円)を読了。もちろん初出でほとんど読んでいるのだが、折にふれて付箋を貼りながら頭から読み返した。「厭感」と電波では牧野さんに一日の長があるから、秘密の鍵を手に入れようかと思ったのである(なにごとも勉強ですな)。配列に意が用いられており、前半はホラー(これはオブセッション別)、後半はSF色が濃い。書き下ろしの外枠の部分も、同じことをやってみたくなる誘惑に駆られる迫力。ベスト3は掲載順に「おもひで女」「グノーシス心中」「〈非−知〉工場」だが、人によって違うかも。いずれにしても、これで「活字倶楽部」のアンケートに手が回りそう。今年の国内ホラーのベスト3はすべて短篇集です。


[11月26日]
 短篇の第一稿がようやく完成。時間かかったなあ……と思ったら、再校のゲラが速達で届く。ぐすぐす。
 西澤保彦『殺意の集う夜』(講談社文庫・590円)を読了。殺意の一つはホラーにも転換可能で、書かれてみるとちょっと悔しいアイデア。山荘に集まってきた理由もヌケヌケとしていて秀逸でした。
 「ユリイカ」12月号「ミステリ・ルネッサンス」も読了。殊能将之インタビュー、巽・千街氏の評論など読みどころは多いのだが、首をかしげたのは湯川薫「越境する知性 理系ミステリーの背後にあるもの」。文系の私にはとても理解しがたい神経ですな。


[11月27日]
 二時より新宿のジャズバー「サムライ」で同人誌「豈」の句会および忘年会。昔はほぼ皆勤だったけれども、最近は忘年句会だけ出ている。斯界では有名な同人誌だから他団体からも参加、遠路はるばる組を含めて二十余名に膨れ上がり、4句提出の予定が急遽3句に減る。無記名で短冊に記してシャッフル、紙に清記したものをコピーして配布、そのなかから7句を選び(自分の句を選んではいけない)高点句順にディスカッションするというシステムです。今回の高点句は以下のとおり(*は私も選んだ句)。
[8点句]
*深草の/伏し雷は/いつ起たむ 酒巻英一郎
 どうしても過去にならないバケツかな 川名つぎお
 ぽつぽつと冬を拾っているピアノ 中山みっきい
[6点句]
 また私ですどこが糸瓜でしょうか 川名つぎお
[5点句]
 青岬そのなかほどに手術台 倉阪鬼一郎
[4点句]
*綾取りの紅糸(こうし)絡まる雨月かな 福田葉子
 枯野に帰る筆順はもしもし 山本敏倖
*果てしなく閻魔は胡桃あつめをり 森猿彦
 石ころをうんと太らせ父は死ぬ 鍬塚聡子
 初雪は嘘の匂いを持っている 中山みっきい
 復縁を迫る達筆十一月 貞永まこと

 まあ一年ぶりで5点句が出ればOKでしょう。ちなみに、あとの2句「亡霊の一糸乱れぬ落花かな」「蜘蛛に訊け真塩の水の行く末は」は1点ずつでした。亡霊や蜘蛛がウケないのはわかっているのですが(笑)。
 忘年会は同じ店。さらに三十数名に膨張。連句や言語哲学などのまじめな話をする。いつもは三次会まで残るのだが、ゲラもあるので早めに抜け、カラオケ用のCDを買って十時ごろ帰宅。


[11月28日]
 ユーモア短篇に戻ったら、夕方までにすらすら10枚書けてしまう。やはりユーモア作家なのだろうか? Fantasy Centreにオーダーを出したあと、夜はひたすらゲラ。


[11月29日]
 ゲラを返送したあと神保町から高田馬場、冬物の黒いスラックスを二本受け取る。色がついている服をどんどん捨てているのだが、黒ずくめだと夏は暑いんだよな。
 さて、「現代俳句」12月号が届きました。「鬼畜」7句を発表しています。もっとも現代俳句協会員に配布しているだけの雑誌なので、句会に出した句を除いて記しておきましょう。
 鬼畜なり愛で始まる手毬唄
 凝然と血の一滴や夏座敷
 絞殺も呪殺も花の影の中
 在郷の狐正しく迷いけり
 花筏天皇の名を暗唱す
 館果つ昔々の月明に


[11月30日]
 コミック強調月間が終了。その後の読了本は以下のとおり。伊藤潤二『道のない街』『いじめっ娘』『サーカスが来た』『トンネル奇譚』『死びとの恋わずらい』『フランケンシュタイン』(以上、朝日ソノラマ)、しりあがり寿『カモン!恐怖』(ちくま文庫)、御茶漬海苔『惨劇館2・3』(講談社漫画文庫)。伊藤潤二は右脳重視の不条理性が体質に合う。ベストは「首吊り気球」、連作なら「死びとの恋わずらい」でしょう。
 来月は前からやりたかった「いまごろこんなもの読んでるのか強調月間」。というわけで、私は目下『月長石』を読んでおります(笑)。