[Weird World 12月上旬]


[12月1日]
 先月の執筆枚数は126枚、執筆お休みは12日(うち完全オフ6日)、一日あたりの平均執筆枚数は7.0枚でした。今月から徐々に盛り返し、来年はまた200枚ペースに戻す予定。
 ミステリ関係の特集を二冊読了。「朱夏」13号「探偵小説のアジア体験」は「幻想文学」と「未来趣味」の中間みたいな趣で資料的価値が高い。南沢十七の本名は憶えたぞ(笑)。せらび書房のHPから直接注文もできます。「鳩よ」12月号は相変わらずむやみに連載が多いけれども、特集は「名探偵たちの90年代」。小森健太朗さん作成の「本格ミステリマップ」を見ると第三象限の左下が空いてるから、私はここに絞ろうかな。


[12月2日]
 朝、執拗なノックの音で目が覚める。いやにしつこい宅急便だなと思いつつ放っておいたのだが、あとでふと時計を見るとまだ六時前。こんな時間に宅急便など来るはずがない。ストーカーだったらどうしよう。仕方なく起きて仕事、50枚弱のユーモア短篇の第一稿を仕上げ、アンケートを送付。あ、秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。きょうはミーコのおともだちが届きました。ファンの方が送ってくださった手づくりの子猫で、マミーちゃんといいます。ちょっと変わった猫ですが、かわいいのでいっしょにあそびました。わーい。


[12月3日]
 短いエッセイの第一稿を書き、連載のプロットに手を入れ、二つの書き下ろし長篇のプロローグに戻り、次の短篇のプロットを考え、某ムックの原稿の腹案をまとめる。そうか、翻訳もやらなくてはいけないのだった……。
 長らくお待たせしました『白い館の惨劇』(幻冬舎)、13日に見本が出るようです。配本などについてはまたいずれ。720枚ですから私の長篇のほぼ二冊分あります。世間的にはもはや普通ですが。


[12月4日]
 ウイルキー・コリンズ『月長石』(創元推理文庫)を読了。百ページくらいまではゴシックの雰囲気もあって面白いのだが、カッフ部長刑事が登場してからはひたすらだるかった。外枠がインドで一カ所だけベナレスも登場、いろいろ補助線を引く分には興味深いけれども、いかんせん作品としてはだるい。
 というわけで、「いまごろこんなもの読んでるのか強調月間」第2弾はクロフツ「樽」です。これもだるそうだなあ……。


[12月5日]
 昨日また再校のゲラが届く。校閲者の疑問は半ばゲーム感覚で取捨選択しているけれども、あまりにも思想的に相容れない人だと血圧が上がる場合もある。茶の間の正義(C.山本夏彦)の一翼を担う凡庸な平等主義ってつくづく嫌いなのだが。それにしても、たった二文字の疑問出しに「この改悪は妥協できません。凡庸な平等主義に対する悪意は私の思想であり、ひいては物語全体のコードとも連関しています!」などと長々と答えていたら時間かかって仕方がないぞ。
 さて、「メフィスト」の最新号が届きました。河内実加さんの「あびこくんと愉快な仲間たち」にチョイ役で出ております。ただ、私とミーコを知らない人には難解なマンガかも(笑)。


[12月6日]
 ゲラの疑問を解決したあと、神保町で同朋舎のMさんと打ち合わせ、「ワールド・ミステリー・ツアー13[空想篇]」の細部を煮詰める。図版を使いづらいテーマにつき、その分多めに書かなければならないようだ。Mさんは私と嗜好が似ている方なので、そのあとはアルジェントやミステリなどについてオタクな会話をする。参考資料などバッグ一杯の本を買って帰宅。明日も神保町でインタビューなのだが。


[12月7日]
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。今日は神保町で「ニュータイプ」のインタビューがあったので、秘書もついていきました。クラニーは「どうして『ニュータイプ』からインタビューがくるのかな?」と首をかしげていたのですが、ふたをあけてみるとインタビュアーは「ダ・ヴィンチ」と同じだったし、編集のYさんはワセミスOBで「幻想文学」の昔からの読者だったし、なんだかせまい世界でした。『迷宮 Labyrinth』の新刊インタビューだから、担当のA元さんも同席しました。終わったあと、カメラマンさんにお写真をとってもらいました。というわけで、来月発売の2月号にまたミーコがのるから見てね。おわり。


[12月8日]
 おかげさまでWeird Worldは昨日で一周年を迎えました。引き続きよろしくお願いいたします。
 今日は電話でインタビュー。昔から電話は苦手なのだが(10分でも長いと感じる)、あらかじめ質問内容がファックスで流れていたから比較的滞りなくしゃべれたような気がする。インタビューも苦手なのだけれども、この方式ならいいな。掲載は「Esquire」3月号のホラー映画特集、話を聞くとJHA(ジェシカ・ハーパー愛好同盟)は総動員らしい。たぶん似たようなことをしゃべったであろう。


[12月9日]
 ゲラを返送したあと、長篇の第一章を進めようとしたのだが資料を読まねばならないことに気づき、別の長篇に移る。ところがユーザー辞書の操作がらみで一枚消してしまい、書き直しを余儀なくされる。その後ホラー短篇に移るが遅々として進まず、業を煮やして書き下ろしのユーモア短篇を二つ起稿する。最後に連載を少し進めて終わり。ずいぶん仕事をしたようですが、全部合計しても10枚。ちなみに、今年の一日の最高執筆枚数は15枚、過去のレコードは23枚、ネットで30枚だの50枚だの80枚だのという数字を見るたびに仰天しております。わりとすぐギアが換わるから、止まらないことだけが強みでしょうな。
 いまごろこんなもの読んでるのか強調月間第2弾、クロフツ『樽』(創元推理文庫)を読了。「月長石」に比べたら読みやすいのだが、いかんせんアリバイ崩しというのは何が面白いのかよくわからず、これまた私にはだるい小説だった。次は「レベッカ」。
 深町眞理子『翻訳者の仕事部屋』(飛鳥新社・1700円)も読了。訳者は「華のある役者」である、などの至言を含む初のエッセイ集。キングのファンは要チェック。
 マンディアルグ『ポムレー路地』(サバト[字がない]館・2400円)は、正確には再読。短篇一本でこの値段だけれども、これは非常にツボにはまる世界でした。


[12月10日]
 インタビューのゲラが届く。プロフィールに「98年デビュー」と書かれていたので訂正する。98年はあくまでも「本格長篇デビュー」であって、私のデビューは87年、新本格の前なんだよう(泣)。
 資料用の本を三冊ざっと読了。定方昭夫『偶然の一致はなぜ起こるのか』(KAWADE夢新書)、丸尾敏夫『目の健康』(創元社)、青山敦夫『活版印刷紀行』(印刷学会出版部)……って、いったいどうつながるんだろう?


[12月11日]
 まだ読了には時間がかかりそうだけれども、このところ井筒俊彦『意識と本質』(岩波書店)を一章ずつ読んでおります。言語哲学にはまっている俳人から丸山圭三郎よりずっと上だからと薦められたのだが、確かに目がくらむほど学がある。俳論や幻想文学論に援用できそうな箇所も多い。世の中には化け物が存在するのですね。


[12月12日]
 四つの小説を細切れに進めて10枚書く。すべて序盤なので、まだ一つに集中できない。従来の長篇は視点と場面が頻繁に変わる「いかにも短篇作家の長篇でございます」という趣の作品だったから、次の二つの書き下ろしホラーは長篇らしいものにしようと考えているのだが、するとなぜか私小説的要素が侵入してくる。うーん、困ったものだ。
[12月13日]
 一時半に千駄木で祥伝社のMさんと打ち合わせ、ホラー・アンソロジー『おぞけ』(祥伝社文庫・590円)を受け取る。「黒い手」という50枚の書き下ろし短篇を寄稿しています。「さむけ」「おぞけ」と続いたので次回は「まぬけ」、ユーモアホラー・アンソロジーと思いきや鬼畜な話ばかり、最後にタイトルの謎が解き明かされます。実は、本文には一カ所も「ま」という字が使用されていなかったのです!……って誰が参加するんだそんなアンソロジー(いまのはヨタですからね)。その後、山村正夫氏の担当だったMさんと訃報報道の話などをして帰宅。
 五時に再び千駄木の同じ店に赴き、幻冬舎のSさんと打ち合わせ、『白い館の惨劇』(幻冬舎・1600円)の見本を受け取る。装幀装画は『赤い額縁』と同じ藤田新策さん、とても上品な仕上がりです(絵が四枚も入っている)。なお、赤い帯にデカデカと「これが最終探偵小説だ」と書かれていますが、私が作ったコピーではありませんので念のため。そのあと、「田舎の事件2」(仮称)の一作目を渡し、今後の総体的な展望について語る。来年のコンセプトは「もう少しわかりやすく」のようです(笑)。


[12月14日]
 なかなか消化できない「いまごろこんなもの読んでるのか強調月間」第3弾、デュ・モーリア『レベッカ』(新潮文庫)を読了。これはホラーとミステリどちらも反応する部分がありますね。一種の館物としても味わい深いし、ゴシックの香りも漂います。ただ、むやみに読点の多い訳文には閉口。


[12月15日]
 ミーコを連れて神保町へ。まず「このミス」を買い、喫茶店で通読する。前回の6位に続きストリブリングの訳書が9位に入ったのだが、また名前が「倉になっている。いいかげん覚えてくれないだろうか。リニューアルした実名+匿名座談会はあまり面白くない。このメンバーなら夏来健次を加えなければ(笑)。
 七時からいづもそばで集英社のC塚さん、Oさんとミニ忘年会。久々にたくさん食べたような気がする。そのあとは神保町のパセラ、途中からアズレーも加わり四時間ほど歌う。最初は戸川しばりで以下は成り行き、初めて歌ったのは「レーダーマン」「昆虫軍」「電車でGO」「終着駅は始発駅」「アポロ」「飛びます」「ララバイ横須賀」「あこがれの郵便馬車」など。「アポロ」で邪悪と言われる人は珍しいかも。あ、秘書と代わります。
 黒猫のぬいぐるみのミーコです。戸川純ちゃんのカラオケの画面におともだちがたくさん出てました。それから、帰りにはじめて生きているおともだちにさわりました。わーい。みなさん、おつかれさまでした。