[Weird World 12月下旬]


[12月16日]
 井上雅彦監修・異形コレクション14『世紀末サーカス』(廣済堂文庫・762円)が届きました。「夢の中の宴」という短篇を寄稿しています。今年はついに出ずっぱりでしたが、こういう年はもうないと思います。なんとなれば、今回からデザインが変わり、名称もただの「書下ろしアンソロジー」になったのです。実は初期もそうだったんですけど、今後のテーマはだいたいホラーとSFが交互という感じになるようです。SFのテーマはよほどツボにはまるものじゃないと書けないので(予告されている「宇宙生物ゾーン」と「ロボットの夜」はパスだなあ)、出ずっぱりは今年だけというわけですね。とりあえず満足です。
 さて、読了本に移ります。紹介済みの『おぞけ』は『さむけ』よりホラーが多くて満足。津原泰水「超鼠記」はプロットだけなら思いつく人が相当数いるかもしれないけれども、「このようには」絶対書けない。せんじつめれば文章の色気ですね。田中啓文「塵泉の王」は初出よりかなり手が入って読みやすくなっている。私は人間が淡泊なもので、こういうグチャグチャ系の厭な感じはなかなか出せない。高瀬美恵「繭の妹」は色物ではなく本格ホラー。空虚な一点を残すのがホラーの要諦なのだが、そのあたりのツボが抜かりなく押さえられている。以上がいちおうベスト3だけれども、歯のイメージが鮮烈な篠田節子「歯」、怪談好きの琴線をくすぐる加門七海「夜行」も捨てがたい。
 攝津幸彦『俳句幻景』(南風の会・7600円)は俳句以外の文章や座談会などの一大集成。「幻想文学」の俳句時評で取り上げればいいのだが、大冊を読んだので書名のみ記しておきます。近衛ロンドから普及版も発売中(価格は同じだけど)。
 山田消児『アンドロイドK』(深夜叢書社・2400円)は珍しくご寄贈いただいた歌集。調べに秀でた、硬軟とりまぜた世界を堪能。
 金網に髪絡まりし魔女ひとり途方に暮れたまま朝が来る
 人なき地に雨降[くだ]りおり見下ろせば粒ごとに空の揺らぎを映し
 月明に水泡[みなわ]と変わるたまゆらを透けて真青き血のマーメイド
 三十三回目の見合いにてひたぶるにうつむきいたる妖怪さとり
 ほかならぬ天使のきみは天使のまま人ひとりたやすく殺してみせる


[12月17〜18日]
 六時半より新宿で行われた恐怖の忘年会にミーコとともに出席。その前に紀伊国屋に寄ったら『白い館の惨劇』がもう出ていた。出席者は二次会を含めると30名、初対面は木原浩勝さんなど、「幻想卵」の寄稿家だった藪下君とは久しぶり。よそのオフ会まで仕切ったらしい永久幹事のフクさんの仕切りよろしく、自己紹介タイムなど。「このミス」の話などが出ていたような気がするが、断片的にしか思い出せない。某方面の話は飽きたのでほとんど参加せず。それから、松本楽志ダークの原因を究明するつもりだったのだが、どうも判然としなかった。あっと言う間に二時間が経過し、二次会はパセラ。例によって歌部屋と話部屋に分かれる。歌部屋は前ふりの達人である浅暮さんがいたので(と、人のせいにする私)ほぼ「おやじしばり」、話部屋は岩井志麻子さんを囲んで盛り上がっていたらしい。十一時ごろいったんお開き、ここでまた二手に分かれる。私はパセラ舞い戻り組、その後合流もあって結局朝の六時まで歌う。笹川吉晴・日下三蔵の同級生コンビは五時台でも元気、ふと気がつくと大森夫妻もアズレーも福井君も帰っていた。最後のほうは寝ながらマイクを持って歌う人もいて、ほぼ限界。それにしても、一昨日も20曲以上歌っているのによく飽きないものである。
 七時過ぎに帰宅したらいろいろファックスが届いていてめまいがする。四時間ほど寝てからエスクァイアの特集のゲラをチェック。綾辻さん、津原さんと内容がかぶったらしく、私のはかなり地味になってしまった。そのあと再びミーコを連れて神保町へ。六時より古典SF研究会の忘年会に出席。十数名が参加、業界情報や南沢十七など。二次会は喫茶店に流れて十一時過ぎに帰宅。さすがに疲れたかも。


[12月19日]
 ふと気づくと、来月の20日までに六つも締切がある。秘書猫と相談し、書き下ろしもゆるゆると進めながら前倒しして書くことにする。いつになったら翻訳に手が回るのだろうか。
 さて、ある事情のため「いまごろこんなもの読んでるのか強調月間」は急遽中止、後半は今年出た面白そうな本格ミステリの落ち穂拾いに専念します。ホラーの積み残しもあるし、いつになったらSFに手が回るのだろうか。


[12月20日]
 恩田陸『木曜組曲』(徳間書店・1600円)を読了。相変わらず心地いい。「毒入りチョコレート事件」が入っていますが、底流しているのは「書くことのはじまりに向かって」(金井美恵子のエッセイ集のタイトル)。このあたりで私と共通する部分がある。おかげで「白い館の惨劇」とそこはかとなくかぶっていたりしますね。


[12月21日]
 今日もeventfulな日だった(これを「事多き」と訳さないように)。一時半より池袋で徳間書店のKさんと打ち合わせ、短篇のゲラを受け取る。たぶん今年最後のゲラでしょう。あとはワセミスの話など。三時より別の喫茶店で文藝春秋のOさんと打ち合わせ。どうも各社の担当者がこの日記をチェックしているようなので記しますと、書き下ろしじゃなくてエッセイです。南條さんの担当でもあるのでそちらの話など。以下は秘書が書きます。
 みなさん、こんにちは。黒猫のぬいぐるみのミーコです。きょうははじめて子猫のマミーちゃんをつれておそとに出ました。六時からドルバッキー姉妹とカラオケです。ドルバッキー妹さんが青猫のコッヒーちゃんをつれてきたので、白猫のルリちゃんとあわせて4ひき、人間より猫のほうが多かったです。クラニーがはじめて歌ったのは「本能」「隣りの印度人」「愛するってこわい」「ハイそれまでヨ」「そよ風のくちづけ」などなどです。一週間に百曲以上歌ったのでポリーブがしんぱいです。あとは例によって全員で「暴いておやりよドルバッキー」を三回合唱しました。みなさん、おつかれさまでした。


[12月22〜23日]
 まじめに仕事したあと、ミーコを連れて歌舞伎町へ、午前零時よりロフトプラスワンで行われた菊地秀行さんのトークライヴ忘年会に出席。菊地(D)、井上(秋せつら)、笹川(屍刑四郎)、飯野(ドクター・メフィスト)というコスプレがあったけれども、最後の人だけ「リング」の趣でうなされそう。クジ引きのメイン賞品は菊地さんが書き上げたばかりの短篇の生原稿、もし当たったらどうしようかと思った。今回は外谷さんがスペシャル・ゲストのため、飯野さんはいつもの調子が出ていなかった印象。下ネタを振られて一瞬絶句する飯野さんの姿はワセミス席に衝撃を与えていた。ただ、遅ればせながら二次会のカラオケ(久々に話部屋。また締切が増えてややダークにつき歌わず)では全開状態、さながら壊れた灯台のようで、ハーフまんがカルテット(牧野修・田中啓文)は食われていた。あ、また秘書と代わります。
 ミーコは廣済堂のF西さんにずいぶんかわいがってもらいました。わーい。でも、元ぶんか社のN西さんに強引にキスされちゃいました。お出かけがつづいたので、ミーコはつかれました。おわり。


[12月24日]
 貫井徳郎『プリズム』(実業之日本社・1600円)を読了。これも「毒チョコ」へのオマージュ、構成が秀逸でラストも鮮やか。好みは「木曜組曲」だが、本格のランキングではこちらが上位に来るかも。積木鏡介『誰かの見た悪夢』(講談社ノベルス・1100円)と霞流一『屍島』(ハルキ文庫・600円)も読了。ともに初めて読むのだが、ベクトルは逆ながら胃にもたれる作風(ユニークではあるのですが)。ミックスしたらどうなるのかと不謹慎なことを考えてしまった。


[12月25日]
 多忙につきこれ一本に絞っていた伊勢丹大古本市の初日に行く。濃い書店が隣接していて探しやすいのはありがたい。購入したのは、創土社の落ち穂拾いでシュトローブル短篇集、ホレーニア短篇集(ともに前川道介訳)、ハヤカワ・モダンホラー・セレクションのジェームズ・ハーバート『魔界の家』『聖槍』、ポール・ウィルスン『触手』、凡作の誉れ高いジャック・ヤンガー『猫』(サンケイノベルス)、SF系のオークションに出たら安く落とせるような気もしたがミシェル・ジュリ『不安定な時間』(サンリオSF文庫)、普及版ながら造本が美しい関川左千夫『本の美しさを求めて』(昭和出版)。今回は結局2万円しか買わなかった。やや不完全燃焼かも。


[12月26日]
 というわけで、夕方から伊勢丹の二日目に行く。さすがに目をつけた本がなくなっている。買ったのは、サンリオSF文庫の落ち穂拾いでオールディス『手で育てられた少年』、ディック『アルベマス』、資料として使えるぞと内なるささやきが聞こえたリー+シュレイン『アシッド・ドリームズ』(第三書館)、T&J・カイザー『あやつられる心』(福村出版)。
 そのあと、ミーコとマミーを連れて高瀬美恵さんのWater Gardenと樹川さとみさんのプラムランドのコミケの打ち上げを兼ねた(私は古書展帰りだが)忘年会に出席。場所は秘密結社の会議めいた雰囲気のVIPルームで、遠路はるばる組を含む十数名が参加。はいはい、代わります。
 秘書です。ミーコは久々に水庭のおともだちに会って、とってもかわいがってもらいました。わーい。
 喫茶店に寄ったあと三次会はカラオケ。高瀬、柴尾、角銅夫妻、けーむら、K桐、K谷のメンバー。「レーダーマン」「海峡」などを数曲歌って十二時半にお開き。こういう「ほどほど」のカラオケは久々で妙に新鮮だった(笑)。というわけで、皆様お疲れさまでした。


[12月27日]
 住所録を改訂してやっと年賀状を書く。そのあと大掃除のようなものを済ませて今年最後のコインランドリー。あとは原稿を書くだけなのだが……。
 恩田陸『象と耳鳴り』(祥伝社・1700円)と西澤保彦『黄金色の祈り』(文藝春秋・1810円)を読了。表題作などが島田理論の一展開として高く評価される前者、どうして「このミス」にランクインしなかったのか首をかしげるほど完成度が高い後者、ともに今年の収穫に数えられるけれども、アンケートにはコンセプトがあるから別作品との差し替えには至らず。かなり固まってきたぞ。
 今年の更新はこれがラストです。皆様、よいお年を。


[12月28日]
 午後から御茶ノ水の眼科。ようやく傷自体はほぼ完治したらしい。神保町の書店に回り、「SFマガジン」だけ買って帰る。あとはひたすら仕事。
 飛鳥部勝則『N・Aの扉』(新潟日報事業社・1800円)を読了。いきなりM・R・ジェイムズだし、メタはふんだんにあるし、謳い文句は「本格推理の幽霊」、本来なら思い切りツボのはずなのだが、いまひとつ乗れなかったのはなぜだろう。ホラー作家の書き方が一面的で、冒頭のジェイムズとリンクしていない(イデア論がない)のが最大の不満だろうか。勝手な不満だけど。


[12月29日]
 来月の20日までに締切が設定されているもろもろの原稿の第一稿をプリントアウトする。あとは順次手を入れて送ればいい。しかしながら、来月はもう一本50枚の短篇があったりする。それから、久しくメールでやり取りしていた怪奇連句が終了(まだ詳細は秘密)。そのあと、とりあえず書き下ろしに戻る。
 紀田順一郎『第三閲覧室』(新潮社・1900円)を読了。今回は参考資料の『ボン書店の幻』を既読という事情もあって古本ネタはいまひとつなのだが、手堅く楽しめた。それにしても、「蔵書一万冊(作中の設定)っていやに少ないな」と思ってしまうのは古典SF研究会の末席を汚しているせいだろうな。


[12月30日]
 北川歩実『透明な一日』(角川書店・1700円)を読了。相変わらずよく練られているけれども、個人的には前向性健忘症の男の怪奇な心象風景も読みたかった。もう動きそうにないのでアンケートを記して投函。あとは次の短篇のプロットを作り(勘定したら今年は16篇も発表している)、連載の細部を検討し、また長篇に戻る。


[12月31日]
 夕方、伊賀上野に帰省。まだ四日市あたりなら楽なのだが、亀山から先はまさしく亀のようで結局五時間以上かかってしまう。近鉄伊賀線の乗客は途中から私だけで完全貸し切り状態、にもかかわらず「みなさん」で始まる社内アナウンスが流れたりする。実家ではいたって凡庸に紅白、遅れて弟も到着。「田舎の事件2(仮題)」の取材のため、「新聞の地方版などの田舎臭いものを保管しておくように」と実家に申し伝えてあったのだが、昔話の本などまったく趣旨を理解していない資料ばかりで空振り。ただ、地元のケーブルテレビはポイント高かったかも。