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[HORROR−BOARD LOG]

福井さんの掲示板から引き継いだログです。

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 怖い長編ホラー 投稿者:中島晶也  投稿日:04月04日(日)19時09分58秒

 西崎様
 ライバーの長編というと、『闇の聖母』でしょうか。これとシャーリー・ジャクスンの『山荘綺談』が、私にとっては海外
長編ホラーの中で双璧です。
 和物では河野多恵子の『妖術記』『不意の声』がシャレにならない怖さですが、この人の小説はホラーでなくても怖い(笑)。

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 東雅夫十番勝負! 投稿者:中島晶也  投稿日:04月04日(日)18時48分20秒

 東様
 東さんが頭を抱えられたのは、

 >現代日本という閉塞状況を、きわめてアクチュアルに表現する手段として「クトゥルー神話」という手法はきわめて有効
 >だ

 とかいう辺りでしょうか?
 ここでもさんざん繰り返しましたから改めて書くまでもないかも知れませんが(笑)、ホラーにそのような機能があるのは
確かだけど、それはオマケのようなものでしかないというのが、私の意見です。ただ、『幻想文学』37号の倉阪・南條・西
崎3氏の鼎談でも話題になりましたが、ラヴクラフトは「青春怪奇文学」的性格が強いので、朝松氏や笹川吉春氏の一見青臭
い理解もそれはそれで的を射ているのではないかとも思うんです。まだ小説の方は読んでいないのですが、そういう視点が優
れたホラーに結実しているのなら、目くじらを立てることもないのではないでしょうか。
 青春文学とクトゥルーというと、伏見健二の『セレファイス』(メディアワークス/主婦の友社)というのを読みましたが、
これはなかなか泣ける話でした。結末が『妖都』っぽくて、この話でこの終わり方はちょっと……と思ったら、5月に続きが
出るらしいことが著者のホームページの掲示板で判りました。ほっとしたけど、そうならそうと本にも書いといて欲しいなあ。
せっかく良い作品なのに、怒ってる読者も多いかも。

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 悲鳴の女王 投稿者:藤原義也  投稿日:04月04日(日)16時39分43秒

 C塚さま
 スクリーム/スクリーミング・クイーンの件ですが、多分どちらでもいいのではないかと思います。英語的にはScreaming
Queenのほうがしっくりくるような気がしますが、高橋良平さんのエッセイによると、アメリカでは「スクリーム・クイーン
ズ・イラストレイテッド」という専門誌も出ているそうですし(やっぱりアメ公って……)、日本でも両方使われているよう
です。高橋さんは「スクリーム・クイーン」、映画秘法では、「悲鳴の女王(ルビ:スクリーミング・クイーン)」という表
記があったと思います。ホラー映画の専門家でも、悲鳴をあげる女性のマニアでもないので、間違っているかも知れませんが、
とりあえず。

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 超自然的恐怖原理主義から見た『屍鬼』 投稿者:中島晶也  投稿日:04月04日(日)10時26分25秒

 橋詰様

 >怪奇小説の時代から主題が変わってきて、恐怖というものに対する人間の対応の仕方を表すことに移ってきた。

 いや、怪奇小説の時代からそういう方向はありましたよ。ジェイコブズの『猿の手』とかね。その極致にエイクマンがいる
わけですし。逆に恐怖の対象の方を描くことに専念する方向の大家がラヴクラフトですね。一見後者の方がプリミティブな印
象を受けますが、実は両者は時代的には平行して発達しています。
 で、モダンホラーへの影響が大きいのは、どっちかというとラヴクラフトの方です。恐怖の対象をリアルな物質的存在とし
て描こうとすると、普通はまず作品内の現実世界の描写をくどくしつこくやらなくてはならなくなるわけです(これが足枷と
なって、モダンホラーはしばしばSFの方向に流れてしまうのですが)。アメリカの田舎町を精緻に描写することで吸血鬼を
現代に蘇らせたキングの『呪われた町』は、そのお手本と言えるでしょう。
 そして『屍鬼』は、『呪われた町』の手法を借りつつ『呪われた町』を越えることを目指した作品なんです。前半で日本の
山村を舞台に吸血鬼をリアルに再生して見せて『呪われた町』に並び、後半は屍鬼という人であって人でない存在の悲しみや、
人が人であることの恐ろしさといったキングが手を出さなかった領域を描いて、『呪われた町』を越えて見せてるんですね。
ただ、いろんな領域に手を出している分、橋詰さんのご指摘の通りホラー本来の楽しみから少しずれているような印象を受け
る方もあるでしょう。
 実を言うと私は、今回の橋詰さんと同じような疑問をダン・シモンズの『戦慄のチェス・ゲーム』を読んだときに感じまし
た。ところが、『屍鬼』にはそういう疑問を感じなかったのです。どういうわけかとつらつら考えてみますに、『戦慄――』
の方は「正義と真実のアメリカン・ウェイ」みたいなノリで書かれていて、何をいまさらと思わされたんですよ。確か、悪役
が同性愛に耽る描写もあったのではなかったでしょうか。一方『屍鬼』の後半の方は、ベースになっているのが異端者の悲し
みで、平和に見えた外場村の抱えていた闇が屍鬼の襲来によって一気に噴出するという、既存の価値観に揺さぶりを掛けるよ
うな内容になっている。これは純粋な超自然的恐怖ではありませんが、それに類する恐怖と言えるものです(過去ログ2月2
4日分の私の発言「何処も同じ秋の夕暮れ」のレベルa2の恐怖ですね)。つまり、『戦慄――』は読者の属する世界を守ろう
としているのでホラーとしては下、『屍鬼』は読者の属する世界を揺さぶろうとしているのでホラーとして上、と私は感じた
ようです。
 要するに、ホラーを成り立たせているのは超自然的恐怖である、という毎度おなじみのお話でした(我ながらワンパターン
だなあ……)。

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 オフ会イベント(?)提案 投稿者:東 雅夫  投稿日:04月04日(日)03時47分52秒

 皆様(特にクトゥルーな方々!?)
 京都取材から戻って、溜まっていた郵便物を整理していたら、朝松健編の書き下ろしクトゥルー神話アンソロジー『秘神』
(アスペクトノベルス)という本が混ざっていた。
 おお、ようやく出たか、と小説「以外」のところをぱらぱらやっていたら……アタマを抱えて、しばらく動けなかった私(笑)。
 そこで、提案です。
 当日、この本を読んだ方の率直な御感想・御意見を是非うかがいたいと思います(特に「評論」および「解題」について)。
この場で議論されていた問題とも密接にリンクする内容を孕んでいるので、そんなに場違いではないかと思いますが……。
 もちろん、気の向いた方だけ、でいいんですけどね。

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 すいません。ちょっと質問が……。 投稿者:C塚  投稿日:04月04日(日)03時22分35秒

 たまに出て来て厚かましく質問……というのも気が引けるのですが(^^;)。ホラー映画に出て来る、とにかく恐怖で叫びまく
るヒロイン、いますよね。あれの呼び名って、
「スクリーム・クイーン」
「スクリーミング・クイーン」
 どちらが正しいのでしょう?
「ファンゴリア」の記事なんかでは後者だったような気もするんですけど……。

 ご存じの方いらしたら、お教えいただければ幸いですm(_._)m。
 よろしくお願いいたします。

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 (無題) 投稿者:西崎 憲  投稿日:04月04日(日)03時20分28秒

 倉阪さま
 長篇で恐いというと私の場合ホジスンとかシェイ(これは中篇連作か)でした。あとライバーの長篇もひとつ恐かったな。タ
イトル忘れたけれど。ラファティの綺想は面白いですよね。 

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 これが実力さ(ふふふタイガースさ) 投稿者:橋詰久子  投稿日:04月04日(日)02時10分11秒

 倉阪さま
 ご説明ありがとうございました。
 つまり、私はモダンホラーが全然わかってないのであります。怪奇小説の時代から主題が変わってきて、恐怖というものに
対する人間の対応の仕方を表すことに移ってきた。その結果、作品の中の世界を細かく描いて構成することが必要になってき
た、とします。
 その時に登場人物が相対するものが、今までの怪奇小説の本質を成していたものであるか。それとも違ったものになってい
るか。そこで皆さんのおっしゃるホラーの論議に入ることになるのでしょう。
 私が疑問に思ったのは、細かく描くことで作り出された物語がどこかホラーというものから離れてしまったような気がした
からです。『屍鬼』では、前半で屍鬼が近づいてきて、そうして後半で屍鬼と人間の諍いが書かれていました。ここの諍いと
いうのが、超自然のものでなくても置き換えられるのではないかということ。そこを疑問に思ったのです。考えてみれば、こ
の諍いを生み出す相手方に、普通の人間や企業や戦争といったものを選ばずに「屍鬼」というものを選ぶ。そのことがホラー
を成立させている、と考えてよいのでしょうか。
 けれど、ホラーはそれだけのものではないという気がします(もちろん『屍鬼』がそれだけだと言ってるのではありません)。
そこのところが、自分ではうまく言えません。なにかプラスアルファみたいな共通したものがあるのでしょうか? 道具立て
だけで出来上がるものではないはず。
 なかなかうまく表現できなくて、あれですが、何かお教えいただけたら。

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 編者の名前の大きさ 投稿者:西崎 憲  投稿日:04月04日(日)01時43分33秒

 倉阪さま、東さま
 うーむ、私は一番新しいシリーズでは編者の名前を大きくしてくれと、少々身勝手な註文を出したような気がします。ただ、
やはり字の大きさはデザイン上の都合が一番大きいでしょうね。ついでに宣伝させて下さい。「英国短篇小説の愉しみ」の第
3巻『輝く草地』が来週には書店の店頭に並ぶと思います。手にとって見てくだされば嬉しいです。

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 恐怖の三要素 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:04月03日(土)23時57分10秒

 橋詰様
 読者が怖がるための三つの要素を挙げます(これだけではありませんが)。
 1 スーパーナチュラルなおぞましいものが外部から襲ってくる
 2 隣人や肉親など善良だった人間が邪悪なものに変容して襲ってくる
 3 自分(読者が感情移入した人物)が内側から邪悪なものに変容する
 要するに外と内の遠近法ですね。「屍鬼」はこれをクリアしていると思います。にもかかわらず、私が怖くなかったのはな
ぜかと言うと、
 1 描写が端正すぎてチラー・ポイントであまりモードが変わらない
 2 現実にあのような村を知っているので、どうもギャップを感じる
 せんじつめればそういう理由です。つまり、怖い長篇ホラーはほんとに難しいわけです。
 「メフィスト」の佳多山氏の評を読んで「面白い見方をする人もいるもんだな」と思いましたから、やはりミステリの人と
は違うテキストを読んでいるのかも。

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 屍鬼の血族 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:04月03日(土)23時40分41秒

 東様
 届きました。編者の字がでかいですね。「怪奇小説の世紀」みたい。
 それから、「自分が毒舌家だと思っていない石堂藍」と「皮肉屋だと思っていない東雅夫」はパラレルなのかも(笑)。

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 この際だから 投稿者:東 雅夫  投稿日:04月03日(土)01時35分33秒

 橋詰様
 おおむね鬼さんの御返事に尽くされていると思いますが、やっぱりミステリの人とホラーの人では、なんか根本的に小説の
読み方に異なる部分がある気もしますね。
 ウチでやった牧野修『屍の王』も、同じようにミステリとホラーのスタンスの違いで、反応する部分が異なっていて面白か
ったんですけど。
 小生の『屍鬼』観は、『ホラーを書く!』での著者との応酬にすべてを注入しましたので、追って御参照ください。

 倉阪様
 えええ〜!?(笑)
 あれは設定上の必然であって(しかし「設定」のある解説ってのも妙なものですな)、別に悪意をもって皮肉っているわけ
ではないのですけどね〜。
 まあ、〈異形〉をめぐる水面下のゴタゴタに関しては、もはや「笑い飛ばす」しかない心境ではありますが(笑)。

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 祝今岡くん初打席初本塁打 投稿者:橋詰久子  投稿日:04月03日(土)01時18分29秒

 聞きたかったのは、『屍鬼』の、ホラーとしての読みどころってことです。後半の面白さはホラーとしての面白さなのかど
うかってことがわからない。怪奇小説とは違うのはわかるんですが、「世界を構築し描ききる」ということがホラーとしてど
ういう意味を持つのか。

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 わかりにくかったかも 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:04月02日(金)23時25分14秒

 橋詰様
 要するに、キングの「呪われた町」に挑戦状を叩き付けて勝った作品なんですよ。だから、屍鬼じゃないといけないんです。
確かに第三部は長いなと思ったんですけど(私に大長編を読む才能が欠けているせいもありますが)、最後はモダンホラーに
よくある安手の救済がないから大変結構でした。個人的にはメタの部分が好きですが(笑)、人に「読みどころ」とは言えま
せん。

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 読みどころって? 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:04月02日(金)22時58分51秒

 橋詰様
 それはやはりミステリの人の発想なのかなあ。「読みどころ」を強制するバリ・ウッドの解説に文句をつけたことがありま
すけど、それは読者によって違ってOKでしょう。ちなみに「屍鬼」の場合は「呪われた町」を読んでいるか否かでかなり変
わってくると思います。

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 『屍鬼』他 投稿者:フク  投稿日:04月02日(金)18時57分28秒

 橋詰さま
 『屍鬼』の件、あくまで私の個人的な読み方では、御指摘の「このミス」的な読み方をしました。ミステリ(だけ)読みの
方の大半は同じ読み方をされるのではないでしょうか。仰られる前半の「怖さ」を愉しむ余裕がなければ、進行している事態
は一体何なのか?大量の登場人物に仕掛けられた伏線が、どう爆発していくか?、どのような収拾がラストに付くのか?等々、
つい「謎」にばかり目が行きがちになってしまいます。反面、きちんと「ホラー」として、ホラーの勘所をきちんと愉しめる
人が読めば、当然その感想は変わってくると思います。

 私自身は読んだ当時と今読んだのとでは、確実に感想が違ってきそうです。

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 『屍鬼』の読みどころ 投稿者:橋詰久子  投稿日:04月02日(金)01時29分46秒

 今は昔のことかもしれませんが、やっぱりわからないのでどなたか教えてください。『屍鬼』について、本作の読みどころ
はどこなのか?
 まず、私は上巻をゆっくり、下巻を一気に読みました。読後、上巻の方が面白かったという感想です。
 どこが面白かったか? それは屍鬼が静かに忍び寄ってくるところ、それに尽きます。下巻は一種のパニック小説かと思え
ます。「このミス」に「人間側の秘められた悪意や狂気の噴出が描かれたり、逆に人間のモラルを持ったまま変容し、蘇って
しまった屍鬼の苦しみや葛藤を描く」と表されてましたが、これは屍鬼でなくとも他の何か(異形のものでなくとも)に置き
換え可能なことで、屍鬼である必然性はないのではないか。それとも、こういう状況を「屍鬼」という存在を通して描いたこ
とが重要なのか。そこのところが今一つよくわかりません。
 まことに大雑把な質問ですが、よろしくお願いします。一人で場を乱しているようで申し訳ありません。

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 明日から開幕 投稿者:橋詰久子  投稿日:04月01日(木)20時26分04秒

 藤原さま
 『グラン・ギニョール』ご紹介ありがとうございました。
 「地上最高のゲーム」全編読めるのですね。作家が書いた作家論は、その著者自身の姿勢にまで思いを巡らせながら楽しむ
ことができ、ましてやカーですからこれはもう。と言いつつ、あまりカーの良き読者とはいえない私ですので、改めてじっく
り本書を読むつもりです。
 それから、世界探偵小説全集、ご説明読みましてなるほど、と納得いたしました。バークリーのようにそっと入りこむセン
ス/バランス感覚。クレイスンのように意地でも書くぞという気合。ライスのシニカルな視線やロジャースの綱渡り等々、さ
まざまに展開されています(視点がばらばらやわ)。印象的なのは、どの作品も楽しげに(二,三鬼気迫る?ものもあります
が)書かれていること。これは訳者の方々の手腕も大きいと思いますが、「こんなのはどうだ」って感じでミステリの中での
お遊びを、作者自身がわかっててやっているからでしょうか。その感覚が読んでて非常に寛げます。
 もうすぐ第二期が完結していよいよ第三期ですね。『第二の銃声』が出てから4年半弱の月日がたちました。途中やきもき
させられたこともありましたが、振り返ってみるとあっという間でした。これからも気長にゆっくり楽しんでいきます。第十
期まではいきましょうって。今後ラインナップ等、お教えいただける範囲でご案内いただけましたら嬉しいです。
 それでは、さようなら。

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 感情移入 投稿者:治田豪和  投稿日:04月01日(木)02時27分45秒

 東様
 ギャオス変異体→朱鷺変異体、集落の地獄絵図→大都会の地獄絵図、みたいな感じですね(笑)。果たして意図的か、読ん
だ上での無意識か…。
 パンフには恐怖の主体であるイリスを「美しく」表現するという事が書いてありましたがその点も似てます。
 VSイリスのラストシーン、なんとなく分かった気が(笑)

 西崎様(レス遅れました)
 怪物が登場する小説が怖くない理由として、どうしても現実に存在する人間なり、他の事物なりが関わらないと、「実際に
自分が小説内のホラーなシーンと同じ目に遭ったとき、どんな事になるか、どんな恐ろしく、または苦しい目に遭うか」とい
うのを連想しにくいというのもあるのでしょうね。純粋に想像の産物に過ぎないものはあまりに突飛すぎて文字どおり現実味
がなくなるというか、逆に滑稽さを生ずると…。異界的感覚に溢れながら、そのあまりの異常さ、異質さに恐怖を感じる、そ
んな小説がある意味傑作なのでしょう。

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 ただいま―― 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月31日(水)23時51分58秒

 京都市中にて生娘、おっととと、間違えた「木娘」を探して奔走中です(笑)。(何のことか分からなければ――分からん
よな、ふつう――後日刊行される『ワールド・ミステリー・ツアー13 京都編』を見よ!)
 あ、それから「木娘」に関して情報をお持ちの方は、ぜひ、至急、御教示くださいませ。

 中島様
 ダイナの「怪獣戯曲」では、澁澤龍彦邸の応接間が、まんま再現されていて、のけぞりました。
 モダンホラーと言ったのは、あの議論での中島さんのスタンスを指してそう言ったまでで、貴兄の守備範囲がそれに留まら
ないことは、先刻承知っす(笑)。
 あ、それから先に鏡花のテキストとして岩波文庫版を推奨しちまいましたが、いまならむしろ、ちくま文庫版『泉鏡花集成』
を挙げるべきでしたね。「春昼」と「草迷宮」と「沼夫人」と「星女郎」が一冊で読めるというのは、かなり強力だ!

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 怪獣に怪獣は不要?! 投稿者:中島晶也  投稿日:03月31日(水)22時51分17秒

 倉阪様
 もちろん「嫌いな物は嫌い」でぜんぜん構いませんが(その方が読者としては嬉しい)、怪獣ってしばしばホームルーム民
主主義や安易な進歩主義への抵抗でもあるのですけどね。まあ、たいていはウルトラマンなんぞにやられてしまうので、ドラ
マ全体としてはせいぜいガス抜き程度。倉阪さんほどの鬼にはぬるく感じられるのでしょうね。でも、中にはこの私のように、
ウルトラマンの眩しい輝きよりも怪獣の底知れぬ闇の方に惹かれ道を踏み外してしまう子供も、何%かはいるのです。
 前にも書きましたが最近のウルトラ・シリーズははっきりとウルトラマン&「科特隊」(名称は番組ごとに違う)寄りのド
ラマ作りなので、どうしてもその辺がちょっと……。さすがに実相寺昭雄だけは、怪獣が本来孕んでいる闇へのこだわりを存
分に見せてくれていますが。もし、機会があったらレンタル・ビデオで『ウルトラマンダイナ』の「怪獣戯曲」(第何話か忘
れた……)を観てみてください。怪獣がウルトラマンに必ず敗北する番組内の現実に不満を感じる作中人物が、番組内の世界
を戯曲に書くことで自らは一つ上の(より視聴者に近い)次元に昇り、ウルトラマンを倒そうとするという、倉阪さん好みの
入れ子構造の幻想譚です。

 中嶋様
 やっと見ましたよ、<砂漠>。良いですねえ、毎回あれぐらい気合いが入ってたらなあと――おっと、またもや小言幸兵衛
(笑)。

 東様
 うーむ、東さんのような保守本流から見ると、私はモダンホラー派ですか。モダンホラーな人たちの集団の中だと、クラシ
ック派になってしまうのですけどねえ……そうか、ホラー・ファンとしてバランスが取れてるってことだ!(←厚かましい)
 くだらない冗談はさておき、鏡花は新刊で読めない作品も多いけれど本の数だけは多いですから、出版社もなかなか手を出
そうとしないでしょうね。現状では、回りくどいようでも『妖髪鬼談』のようなアンソロジーに混ぜるのが普及の手段として
はベストなのではないでしょうか。現代の作家と並べて読むことで、鏡花の今日的な意味が見えてくるような場合もあるでし
ょうし。

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 藤原編集所通信 投稿者:藤原義也  投稿日:03月31日(水)11時35分09秒

 橋詰さま
 「推定相続人」ご愛読ありがとうございます。
 ひとくちに黄金時代ミステリと云うけれど、実は思われているほど謎解きもの一辺倒ではないというのを、この全集では、
すこしずつ明らかにしていきたいと思っています。本格読者もアンチ本格派もちょっとクラシック=パズラーの固定観念に縛
られているところがありますよね。特に30年代英国は、バークリー、ケネディ、R・ハルのような掟破りな人たちがたくさん
いて、ぼくは好きですね。

 藤原編集所 新刊案内
 『グラン・ギニョール』         *来週初発売 翔泳社 
 ジョン・ディクスン・カー 森英俊・白須清美訳
 [収録作品]
 「グラン・ギニョール」★デビュー長篇「夜歩く」の原型となった中篇。といっても第2の事件以降の展開はちがうものに
なっています。本格物に一番適しているのは中篇という形式ではないかという意見がうなずける仕上がり。カーの全てがここ
から出発しています。
 「悪魔の銃」「薄闇の女神」「ハーレム・スカーレム」★短篇。
 「地上最高のゲーム」(完全版)★カーが選んだ傑作ミステリ長篇10作について語ったエッセイ。従来の訳は後半の各論が
割愛された半分くらいの縮約版でした。カーがクイーンやクリスティー、スタウトらの魅力を語り、論じます。
 ゲスト・エッセイ「カーの門」★北村薫
 ※エッセイで北村さんも仰っているとおり、カーへのさまざまな入口を示した、カー入門者にも、カーを極めつくしたマニ
アにもお勧めできる1冊です。

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 毎度あり(笑) 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月29日(月)23時00分55秒

 松本様
 『妖髪鬼談』を御購読くださったとは、ありがとうございます。
 造本その他、旨いことコンパクトにまとまった気がして、本人けっこう愛着がある本なのです。
 鏡花は、確かに今の若い衆には取っつきにくいかもしれませんね。
 小生は小学校5、6年の頃に、澁澤龍彦編のアンソロジー『暗黒のメルヘン』所収の「龍潭譚」で「鏡花初体験」をしたの
ですが、一字一句をたどるようにして読み解いていく行為に、難解を通り越した迷宮探索のごとき興奮を覚えて……あれは貴
重な体験だったと思います。
 文庫。そ、そうですね、頑張ります。
 いちおう小生も文庫で『怪獣文学大全』と『恐竜文学大全』(共に河出文庫)を出しておりますので、よろしく(笑)。

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 軟着陸、成功 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月29日(月)12時27分28秒

 中島様
 いや、こちらも鏡花に関して、よりコアなモダンホラー・サイドからの意見をうかがえて、益するところ大でした。
 特に書き手の側に、鏡花を別格視する傾向があるのはやむをえないかも……と、ずっと思ってきたわけですが、皆川博子の
『ゆめこ縮緬』に接して、「これはイケるかも」と考えを改めた直後だったものでね、ちょっと熱くなってしまいました。
 実は鏡花のホラー作品集は、小生も某研とか某出とか持ち込んでみたのですが、他の企画との兼ね合いもあって、なかなか
……やはり、あの文体がネックになるのですな(ちくま文庫からは例の作品集が出ちゃったし)。
 とりあえずアンソロジーに挿入、啓蒙をはかって、いずれ具体化させたいものです。

 あ、某作家の「怪獣オンチ」は昔から有名なので、放っておきましょう(笑)。
 『私の中から出てって』は、さすが「ポゼッション」の国のホラーだよなぁ、と嬉しくなる怪作でしたな。中沢新一の帯文
は御愛敬だけど(笑)。

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 補足 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月29日(月)01時36分08秒

 倉阪様
 それから、マニア・ネタを盛り込むこと自体は、むしろカルト・ホラーの生命線でもあるわけで、決して非難されることで
はないし、もっと過激に(!?)実践されたっていいとさえ、思うのですよ。
 ただ、それをやるはそれなりの技や戦略がいるだろうと。たとえば(自分が関わった本なので気がひけますが)『1001
秒の恐怖映画』なんか、面白い試みだったと思っているんですがねえ……。

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 およ!? 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月29日(月)01時29分43秒

 倉阪様
 誰か『くらら』を罵倒している人がいるのですか(笑)。
 小生は、井上雅彦は短編を本領とする作家だと思っていますし、『ハイドラ』といい今回の作品といい、それを逆に裏づけ
るような出来だったので、積極的に評価するには値しないと判断したまでのこと。
 確かにカルト系作家に短編型が多いのは事実かも。だからこそ〈異形〉も(内実はともかく)盛り上がってるのかもしれな
いし(笑)。
 でもって、短編型の作家が長編に挑むからには、やはり『赤い額縁』みたいな、それ相応の戦略が必要だと思うわけですよ。

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 怪獣が解らないって? 投稿者:中島晶也  投稿日:03月29日(月)01時19分17秒

 倉阪様
 ええーっ、大きな虫なんかが暴れまくる映画なんかはお好きなんでしょう?クトゥルーだって怪獣みたいなものじゃないで
すか。『ダンウィッチの怪』なんて、怪獣映画そのままだと思うんですけどねえ。
 ひょっとして、着ぐるみ+ミニチュアの特撮を楽しむ感覚とかが、解りづらいということでしょうか?

 名前のない怪物の話を一つ。今日、サンドラ・ヴォ・アンの『私の中から出てって』(講談社)というのを読み終わったの
ですが、「蹂躙と陵辱のホラー」という帯の惹句からたぶんサイコ、せいぜいサイキックだろうと思っていたら、ゲロゲロの
怪物ホラーでした。ホジスンの海洋ホラーみたいに何の説明もなく怪物が現れて、語り手の少女を虐待しまくります。小説と
しては非常に稚拙な代物なのですけど、後書きによると著者自身が暴行にあった(たぶん人間に)経験をベースにしているら
しくて、異様な迫力がありました。ゲテモノ好きの方にのみお勧め、という感じです。

 東様
 お陰様で、鏡花を巡る議論もどうやら着地点が見えてきましたね。

 >そうか、要するに中島さんの言う「技巧」というのは、文章力や表現力の意味ではなくて、ストーリーテリングにおける
 >緻密さとか構成力とかのことなのですね?

 より厳密に言うなら、「鏡花に欠けている技巧」となるのでしょうか。文章力や表現力は、もちろん技巧のうちに入ると私
も考えていますよ。小説のいちばん基本的な技巧と言えるでしょうね。で、いちばん基本の部分だけで勝負しているので、
「鏡花は技巧が素朴」と表現したわけです。
 大元の「二流」という発言も、すべての技巧が自在に駆使できているケースを最上位に置くとそうなるというようなことだ
ったのですが、小説はどういう技巧を使っているかではなく、その技巧で何を達成しているかで評価すべきですから、前にも
書きました通りこれは私のミスでした。自分が鏡花のことを嫌いなわけではないのに、鏡花を嫌う人たちの考えを代弁しよう
とするからややこしくなったのですね(笑)。ただ、そういう人たちが出てきてしまうのは、やはりいちばん基本の部分だけ
で勝負しているからではないのかという気はします(私も頑固)。

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 カルト作家は短篇作家? 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月29日(月)00時57分14秒

 東様
 タイトルのような事情があるかもしれませんね。私はリズム的には合うので、そんなに罵倒するような作品なのだろうかと
素朴な疑問を感じたわけで。いちおう、媒体によってはマニアネタを封印しておりますが、ハードカヴァーだとついサーヴィ
スしてしまう(笑)。喜んでくれる読者もいるのでねえ。

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 純真な若者を―― 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月29日(月)00時11分10秒

 修羅の道に誘い込んでどうするんだ(笑)。>倉阪様
 それでは御期待に応えて(!?)。

 松本様
 あなたの感性は間違っていないと思います。
 ホラーも、クトゥルー物も、いやというほど読み続けてきた小生も同じように感じたのだから、きっと正鵠を射た見解なの
ではないでしょうかね。
 しかし……「けれん味にストーリィが埋もれてしまっている」とは!
 よくぞ言った(笑)。これは井上作品に限らず、カルト系ホラーが克服すべき大きなハードルのひとつなのですよ。
 ちなみに小生の『くらら』に対する評価は、『水霊』と同じ回のレビューで間接的に(笑)表明しておきました(私は穏健
派)。

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 消えた太陽…夜明けは近い 投稿者:藤原義也  投稿日:03月28日(日)22時28分53秒

 ついに、アレクサンドル・グリーン「消えた太陽」、最後の1篇が入稿しました。世間的にはもう完結したように(一部で
は)思われている<魔法の本棚>ですが、真の完結まであと少しです。まだ校正が残っていますので予断を許しませんが、5
月、おそくとも6月にはなんとかなりそうです。今度の短篇集では、「波の上を駆ける女」や「真紅の帆」とはまたちがった
グリーンをお目にかけることができそうです。

 そういえば臨川書店のウィルキー・コリンズ作品集、4月からいよいよ始まるようですね。

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 あっ、ホントだ(笑) 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月28日(日)19時28分17秒

 倉阪様
 日記のこの前後、なぜか読んだ記憶がないぞ。更新の不具合かもね。
 そうか、『全仕事』ボツったんですか、それは残念なり。
 でもまぁ考えようによっては良かったかも。いずれ、ちゃんと「編集者のいる」出版社から(笑)出したほうがベターです
って。
 それしても、結局この件に関して、最後まで版元サイドから『幻想文学』に一言の挨拶もなかったのは、どういうことかい
な……理解に苦しみますな。

 ちなみに文芸評論家といえば、さっき近所の「亀戸餃子」でメシを喰いながら毎日新聞の書評欄を眺めていたら、評論家・
清水某の『日蝕』書評が載っていた。
 いきなり「幻想小説というジャンルがある」と大上段に始まるので何事かと思えば、リラダンとホフマンと泉鏡花の名前を
挙げ(大昔の岩波文庫か!?)、トドロフ−カイヨワの定義に照らして(トドロフの本が絶版になって20年近く経つよなぁ…
…)平野の作品は物足りないがその姿勢は評価したい、こうした種類の文学が今後はもっとあってもよいのでは云々……一体
いつの時代の話かと、思わず新聞の日付を確認しちゃいましたよ(笑)。

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 ああ、出掛けなくていけないのに 投稿者:西崎 憲  投稿日:03月27日(土)11時44分42秒

 倉阪さま
 『週刊朝日』に『ダカーポ』ですか、これは最低十万部くらいはいくのではないでしょうか。もう『ウイアード・テールズ』
の揃いとかエイクマンとか買い放題ですね。素晴らしい。

 治田さま
 ふむふむ、私は仕事がら少なからぬ数の恐怖小説を読んでいますが、まだあまり免疫ができた感じがしません。ありがたい
ことです。怪物の登場するものは、文章力が要求されるのと、実際に怪物が現れてしまえば、あとはサスペンス小説になるし
かないからでしょうか。ことに長篇では姿が見えてしまえば危険な生物、例えば猛獣とあまり変わらないものになってしまう
ようです。唯一の例外は恐怖小説ではないですが『白鯨』かな。

 中島さま
 なるほど「サイコ」「異界感覚」という言葉は便利なようですね。しかしやはり話が細部に至ると主観の差が著しくなるも
ののようですね。レ・ファニュ、ひゃっけんは私の感覚ではどうも「サイコ」にならないようです。こうした違いは当然と言
うべきでしょうが、面白いものです。

 東さま
 「感覚的に単純に「怖い」か否か、ってのは、文学としてのホラーにとっては、二義的なこと」というのはひじょうな卓見
ですね。私もじつは恐くなくてもいいなと思っています。「恐怖という感覚」が何か、「恐怖する人間」とは何か、がホラー
や怪奇小説のほんとうのテーマではなかろうかと思っています。「文学として」という観点から考えると、恐怖はただ素材と
いうことですね。べつに恐怖そのものを目指して書いてもなんら差し支えないわけですが、「感覚的」「生理的」なものを目
指す時、しばしば文学的ヒエラルキアの世界では下のほうに追いやられてしまいますね。ユーモア小説やポルノなどがやはり
そうであるように。文学における恐怖やその扱われ方に関してはいつかまとまったものを書きたいなと思っていますが、果た
せるかどうか。
 「百閨vの「閨vは機種依存文字のようですね。私のディスプレイ上では左隅によった小さな四角としか見えません。・の
ごときものでしょうか。

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 怖さについて 投稿者:松本楽志  投稿日:03月27日(土)11時15分02秒

 みなさまの意見が結構バラバラなのがとても興味深いですね。

 読み込んでいくと楽しみ方が変わるというのはどのジャンルでも同じですね。ミステリでも昔は純粋に「楽しいなあ」って
のがあったんですが、最近は「上手い」って思うことが楽しいことになってきてます。

 東さまの言う「文学としての」というのは「怖い」よりも「上手い」ってのが基準になっている、ということなんでしょう
ね。

 そういえば、昨日、田中啓文さんの「水霊」を読みました。角川ホラー文庫の書き下ろし長編ですね。かなり面白かったで
す。(詳しくはページに感想を書きましたが)けっこう「天使の囀り」と似てる部分もあったりして、最近の流行っぽい感じ
がしたんですが、それはそれとして、これは、ホラーなんでしょうか? ネタに当たるのがスーパーナチュラルかどうか、微
妙だと思ったり。あと、当然のようにこれも僕は面白さは覚えこそすれ、怖くなかったのですが、こういうのも怖いものなの
かな?(と、強引に題名に結びつける)

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 あの〜 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月27日(土)07時02分08秒

 倉阪様
 鏡花=短歌的/百閨#o句的ってのは、たしか堀切センセイが前に主唱してましたね。
 うーん、しかし「近代/前近代」かぁ……。
 このタームは不用意に使うと面倒なことになりそうな……。「近代的」な文学観とか人間観、自然観が揺らいだからこそ、
鏡花も復権したわけだしね〜。

 中島様
 そうか、要するに中島さんの言う「技巧」というのは、文章力や表現力の意味ではなくて、ストーリーテリングにおける緻
密さとか構成力とかのことなのですね?
 道理で議論が噛み合わないはずだ(笑)。
 そういう意味でいえば、確かに鏡花と小野不由美の方法は異質ですが、しかし、それのどちらが「素朴」か、というのは、
何を判断基準にするかによって、まったく逆転する可能性もあるのでは?
 ただ、どちらがモダンホラーとしてオーソドックスな行き方か、ということなら、御説のとおり小野不由美のほうだと思い
ますよ。

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 ううむ 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月27日(土)06時57分48秒

 さすがに締切が切羽詰まって、ちょいと間を開けるとエライことになりますな(笑)。
 どんどんいくぞ。

 ニム様
 はじめまして。
 そうですね、いつ出るか、が問題ですよね(笑)。
 今の予定では、遅くとも五月中には発売できると思います。進行状況など、今後はこの場所で随時お知らせしますので、何
卒よろしく。
 山尾さんは自作に対して非常に厳しい方でして、不本意に感じている旧作もあるようです。ですからコンプリートな集成は
むずかしいかもしれませんが、単行本未収録作品が一編でも多く収録されることを、小生も願ってやみません。

 松本様
 毎月毎月ホラーの新刊を読み続けてきた経験から言っても、本当に心底ゾッとさせるホラー小説には、なかなか巡り会えな
い、というのが正直なところ。というよりも、感覚的に単純に「怖い」か否か、ってのは、文学としてのホラーにとっては、
二義的なことではないかという気がします。

 西崎様
 今の作家にも、けっこう大真面目で「視える!」と主張する人はいますからね(別に誰とは言わないが)。主観の極み、み
たいな問題なので、判別はむずかしいですよね。

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 見霊者という言葉 投稿者:中島晶也  投稿日:03月27日(土)04時01分05秒

 西崎様
 私としては西崎さんのおっしゃる「憑かれたような作家」のやや強い目ぐらいの意味で持ち出したのですが、紛らわしい表
現でしたね。鏡花は日常の何気ない事物にも、折に触れ観音力・鬼神力を感じつつ生きていたのではないだろうかということ
です。超自然的な存在がほんとうにいたとして、『ゲゲゲの鬼太郎』的にくっきりはっきり血肉を備えた生物のように顕現す
るものなのかどうか、それも疑問ですし。
 「憑かれた作家」は、東さんが書評でよく使われる「異界感覚」系とサイコ系に分けられるような気もします(それとも、
サイコのバリエーションに異界幻想があると言った方が正しいのかな?)。鏡花やマッケンなんかは異界系で、レ・ファニュ
やシャーリー・ジャクスンはサイコ系というように。百間(誤字)は異界感覚を根っ子に持ちつつも、どっちかと言えばサイ
コ系じゃないでしょうか。

 百間(誤字)の表記問題なんですが、確か百間(誤字←くどい)自身が「百間」を使っていたこともあったような記憶があ
るのですけど? それで私は、ネット上では何にも躊躇わず「百間」と表記しているのですが。

 東様
 >でもって、そこで『屍鬼』の作者を持ち出す中島さんのセンス、嬉しいですね〜(笑)。

 うおおおっ、しまったあ――というのはウソ(笑)。

 小野不由美に鏡花のテイストがあるというのは私としても大納得ですが、だからこそ鏡花の特殊性がはっきり判るのでは。
普通、ああいう作品世界を支えようと思ったら、『屍鬼』の中盤までのしつこい前振りのような手続きがないと、馬鹿馬鹿し
くて読めなくなる恐れがあるのです。にもかかわらず、鏡花はその心配がいらない希有な作家だった、というのが前々発言の
要旨ですので、やっぱり小野不由美でいいんです。
 それから、無技巧とは言ってないですよ。「技巧が素朴」と言ってるんですって。良いように言うなら、小細工を弄する必
要がない作家だった、てことです。素朴なものの方が却って力を持つこともしばしばあるのは、平成ガメラ・シリーズを見て
も判る(私は断然『G1』派)――と無理矢理話を繋いで(笑)――イリスがクトゥルーってのはちょっと意外ですけど、前
田愛との××シーンとか見てると、そろそろ『ダンウィッチの怪』なんかも技術的にはできそうだなあ、と思うんですけど。
ハリウッドはもう期待できそうにないし、日本で作っちゃえ!

 倉阪様
 モダン・ホラーは俳句で、モダンホラーは短歌という感じでしょうか。両方楽しめる方が特なのは間違いないですね(笑)。

 松本様
 私も怪物ものは恐がれません。怪物に惚れてしまうので……。

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 恐怖の心 投稿者:治田豪和  投稿日:03月27日(土)02時47分12秒

 松本様、西崎様
 私は特に幽霊系、実話系が弱いです。鳥肌が立って(実際問題としてインチキだったとしても)とんと駄目な事が多いです。
TVなんかでやってても、確かに結構好きで、そのときはいいんですが、夜中など後から思い出してぞっとします。多分、現
実にそのようなことが起こるかも知れないという意識でも、心の内のどこかにあるんじゃないでしょうか。
 でも、そういうものばっかり見たり読んだりしてると、麻痺してしまうというか免疫が出来てくるんでしょうね。現実には
あり得ないと思うようになったり、冷めた意識が程度の差こそあれ、長年かけてかなり強く根付いてしまうというか。私の場
合は怪物ものに怖くないものが多いように感じたりするのですが、もしかしたら怪物→怪獣→着ぐるみ→作り物、という連想
でも、働いているのかも(笑)。
 昔からのホラー好きの人(の一部)には、そういう意味で変に心臓が肥えてて、そのために怖いホラーになかなかお目にか
かれないんでしょう。ホラーに人気が集まったのは、昔からそういうものを読み慣れていなかった、免疫のあまりない人たち
に、もしかしたら新鮮な刺激を感じるものとしてホラーが映って、読者層の増大に一役買ったからかも知れませんね。

 倉阪様
 すばるの件了解です。注意しておきます。あ、あと前回「活字狂想曲」の想の字間違ってました。すみません。

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 怖いのは 投稿者:湖乃  投稿日:03月26日(金)11時25分31秒

 ニムさま
 あ、ニムさんも怖いと思いますか?
 どこが怖い、と一言では語れないのですが・・・。安房さんはわりと生と死の定義が曖昧というか、異界と現実界の境目が曖
昧な話が多い気がするんですよね。子供が女の人に連れていかれる(=死)とか、生者が死者に会いに行くとか、それでいて
安房さんの物語にはどこか母性的な優しさが感じられる、だから怖いんだと思います。 何より安房さんはべつに、「怖がら
せよう」と意図して書いていない、これが私が怖いと感じる一番の理由かもしれません(笑)。まあ、これはあくまで私の意
見なので、他の方がどう思われているかは解りませんけれども・・・。ニムさんはどの辺りが怖いと思われるのでしょうか?

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 Who is Afraid? 投稿者:西崎 憲  投稿日:03月26日(金)03時06分55秒

 松本さま
 こんにちは、私の友人にも恐くないという人物がおります。その人は書かれたものどころか実話的なものもちっとも恐くな
いようで、怪談を話しても、話しおえると「それでどうしたの?」と訊いてきます。私にとってはこれは大いなる謎です。

 ひゃっけんが見霊者・見神者・見鬼だったかどうかは面白い問題ですね。鏡花は超自然の存在を信じていたのですか、なる
ほど(>東さま)。しかし実際に見たのでしょうかね。信じているが見たことはない、という作家は欧米にもかなりいるようで
すね(『
幻想文学大事典』「作家と信不信」の項が参考になるようです)。私自身は見霊者というとすぐに思い浮かぶ人物がいません。
ブラバッキーやクロウリーが見霊者であったかどうも確信をもてないところです。ブレイクですら怪しいかなと思っています。
つまり「妄想」であるか「超自然」であるかは当然のごとく見分けることが難しいですよね。文筆関係よりあるいはニコラ・
テスラやフラマリオンといった奇妙な人物のことが念頭に浮かびます。日本でしかも文筆関係と言えば誰でしょう。ひゃっけ
んに対しては相当に現実主義者だったのではないかという印象をもっています。あの優れた短篇は技巧の作物かな、と。折口
信夫などに少し見霊の匂いを感じたりはします。綺堂はどうだったのでしょうね。「見た」のではなく憑かれたような作家は
けっこういると思いますが。ホジスン、ホワイト、ベリズフォード、レ・ファニュなどなど。

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 短歌的俳句的 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月25日(木)23時11分00秒

 治田様
 ありがとうございます。何月号が最初か未定で年3回くらいなのですが、「小説すばる」で<文学的な怪談>の連作めいた
ものをやります。ちなみに「ゆめこ縮緬」の担当者です(笑)。

 松本様
 ありがとうございます。ミステリ畑にはそういう方が多いようですね。私は古臭いド怪談でもけっこうゾクゾクしますよ。

 なるほど話が見えてきましたね。泉鏡花・皆川博子・小野不由美は短歌、内田百間・小池真理子・恩田陸は俳句なんですよ。
要するに、言葉で世界を語り尽くすか、行間を読ませるかの相違ですね。どちらが怖いかというのは読者の体質によるでしょ
う。私は説明が欠落している断片的なものが怖いので、前者は凄いなと思っても怖くはないですね。

 東様
 鏡花は文字遣いや文章に関しては意識的だったでしょうけど、それはやはり「豆富」に代表される前近代人の意識であって、
それが作品世界に如実に反映していると思うんですが。

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 ホラーは怖いのか 投稿者:松本楽志  投稿日:03月25日(木)19時55分55秒

 いきなり根本を覆すような発言をしてしまうんですが、僕は文章を読んで本当に怖かったことがほとんど皆無なのです。な
んていうか、友人と「それあったら怖いよなー」ってバカ話をしてる、そんな延長で「怖い」と表現することはあるのですが、
マジに怖いという経験がありません。僕はみんなそんなもんかな、と思っていたのですが、……みなさん、本当に怖いんでし
ょうか?

 怖いという基準が「ホラー」を語る上では(「こわけりゃ、ホラーでしょ」発言との兼ね合いとか)たぶんけっこう重要な
位置を占めるでしょうから、聞いてみました。

 それから
 泉鏡花と内田百間(誤字)はまともに読んだことがないので(恥)今後の課題として読んでみたいと思います。

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 安房直子と聞いて 投稿者:ニム  投稿日:03月25日(木)12時14分08秒

 湖乃さま
 >それより立原えりかの物語世界の方に恐怖を感じるのですが(安房直子も怖い・・・)。

 安房直子の怖さを分かち合えて嬉しく思います。(立原えりかもそうだけれど)どの辺に怖さを感じるかうかがいたいと思
います。

 東さま
 最近山尾悠子にはまりました。集大成の始動、新作の掲載など、多くの人が期待していると思われます。ことに雑誌掲載作
品などが一挙に読めることを望んでおります。

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 ホラー??? 投稿者:湖乃  投稿日:03月25日(木)11時04分13秒

 ホラー・・・・何に恐怖を感じるかは本当に人それぞれですよね、私は「死鬼」は怖くなかったです。それより立原えりかの物
語世界の方に恐怖を感じるのですが(安房直子も怖い・・・)。

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 屍鬼といえば…… 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月25日(木)03時28分57秒

 小生編の吸血鬼小説アンソロジー『屍鬼の血族』(冗談のような書名ですが本気も本気、大マジメです)の見本が出来まし
た。嬉しいよぉ。
 装幀は――『赤い額縁』でおなじみの!?――藤田新策画伯。もうノリノリで、本当に『屍鬼』そっくりのデザインにしてく
ださいました!
 なんと500頁の大冊で価格も2300円とやや高めですが、コスト・パフォーマンスの良い本だと自負しています。桜桃
書房より4月1日発売予定。

 治田様
 ごめんなさい。フライングでした。『ノストラダムス秘録』、まだ店頭には並んでいないかも(笑)。来週あたり、出荷さ
れるのではないかと思いますが。お手数かけて申し訳ない。
 し、しかし。そうかイリスがクトゥルー……(笑)。「触手の化物」的な認識だったらちょっち哀しい気もしますね〜。

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 ただいま帰りました 投稿者:中島晶也  投稿日:03月24日(水)01時26分17秒

 東様
 倉阪さんに先を越されてしまって、いまさら何だかなあ、ですが。

 鏡花って、言うなれば「見霊者の文学」だなと思うのですよ、良くも悪くも(マジカル・リアリズムは念頭になかったので
すが、近いかも知れません)。見える人が見えるままに書いている感じなんですね。それがヤバイ妄想やでたらめの羅列にな
らないで小説として成立しているところが、鏡花の凄さなのですが。
 以下倉阪さんの日記と重なる部分は省略してですね(笑)、ホラー作家が絶対に越えなければならないハードルとして、
「不信感の克服」があります。そこのところに、鏡花はあまり自覚的でないような気がするのです。最近の作品でこのハード
ルを華麗にかつ力強く跳び越えてみせた例として、小野不由美の『屍鬼』が挙げられますが、あの作品の中盤のクライマック
ス、異常な疫病の蔓延を追う医師が、吸血鬼の存在という非合理的な仮定によってのみすべてが合理的に説明できることに否
応なく気付いてしまうくだりの一つずつ逃げ場を奪っていく詰め将棋のような恐怖醸成法は、鏡花ならまず使おうともしない
技法なのではないでしょうか。
 で、使おうとしないのは怠惰なわけではなくて、使う必要を感じないからなんですね。鏡花にすれば、「ここに穴があるじ
ゃないの」てなもので、ほいほい下からハードルをくぐり抜けてしまう。これは凄い才能です。ところが、「より速くより高
く」に燃えている人たちの立場だと、「こんなもの陸上競技ではない!」ということになるわけです(笑)。
 だけど、これは東さんのご指摘で目が覚めたのですが、「技法が二流」という評価はちょっとおかしいですね。技法は効果
のためにあるのですから、まず問われるのは効果を挙げているか否かであるべきです。ですから鏡花についての私の最初の発
言は、「鏡花はホラー作家としては技法が素朴」に訂正させていただきます。効果の優劣=作品の評価は別ということで(私
も鏡花は好きですし)。

 百聞については、倉阪さんともちょっと意見が違いますね。実は、私は小池真理子より百間の方が、技法が新しいと思って
いるのですが……。これは先を越される心配が無さそうなので(笑)、また明日以降にします。

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 藤原編集所通信 投稿者:藤原義也  投稿日:03月23日(火)12時50分47秒

 倉阪さん、かわりに予定のご紹介ありがとうございます。
 あまり人任せでは恐縮ですので、「世界探偵小説全集」(国書刊行会)の今後の予定を少しだけご報告いたします。(昨年
はほとんど出せずに失礼しました。今年は頑張ります)

 4月末「編集室の床に落ちた顔」C・マケイブ
 急遽さしかえの隠し玉。黄金時代本格の最大の問題作といってもいいでしょう。バークリー、M・ケネディ、そしてこのマ
ケイブといった30年代英国本格はもう一度考えてみる必要有り。詳しくは宮脇孝雄「書斎の旅人」をどうぞ(ただしストーリ
ーを明かしているので気になる人は読まない方がいいかも)。

 6月「おしゃべり雀の殺人」ティーレット
 7or8月「悪魔を呼び起こせ」スミス
 つづいてすぐ第3期に入ります。最初はたぶんC・ディクスン「九人と死で十人だ」

 翔泳社ミステリー(今年から始まります)
 4月5日「グラン・ギニョール」J・D・カー
 表題作は文字通り世界初の単行本化。初出はカレッジの同人誌ですからアメリカのカー・マニアもまず目にしたことがない
はずです。D・G・グリーン=森英俊氏のラインで実現しました。「夜歩く」の原型ですが、「本格ミステリに一番適している
のは中篇ではないか」という意見にうなずけるような出来です。あと「地上最大のゲーム」は、個々の作品を論じた後半をお
さめた完全版(従来の2倍の枚数)。カーのミステリ観がよくわかります。

 あとは
 「サヴェッジ・ナイト」ジム・トンプスン(暗い話だ。覚悟しろ)
 「ポジオリ教授の事件簿」ストリブリング(お待ちかね、倉阪訳ポジオリにまた会えます)
 「悪魔に喰われろ青い尾の蠅よ」バーディン(タイトル負けせぬ傑作、だと思う)
 と続きます。

 といった今年の予定ですので、まずは気長にお待ち下さい。督促御容赦。
 なお、「本格ミステリーを語ろう!」で、C・デイリー・キングの「タラント氏」が国書刊行会で予定されているようなこと
が書いてありましたが、それは何かの間違いです。
 ではまた。

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 一言お礼を 投稿者:湖乃  投稿日:03月23日(火)11時08分13秒

 初めまして、平凡な読書人です。
 こちらで堂々と発言できるほどには色々詳しくないのですが、「幻想文学」の東雅夫さんが良く発言していらっしゃる様な
ので、書き込ませていただきます。
 突然ですが、東さんありがとうございます。実は私、天沢退二郎ファンなのですが、先日「幻想文学7号」を入手しました。
そこに天沢さんのインタビューが掲載されており(しかも三つの魔法三部作完結直後の!!)狂喜乱舞して読みました。ファ
ンと言っても、天沢さんの本を集めだしたのは最近のことで、この様なインタビュー記事があった事は古本屋で偶然貴誌を見
つけるまで知りませんでした(この7号発売当時、私は9歳でした)。
 既に十年以上前の事を今更とお思いになるかもしれませんが、一言お礼が言いたいのです。天沢退二郎のインタビュー記事
を掲載して下さってありがとうございます。とても、とても嬉しかったです。

 何だか場違いな発言をしてしまい申し訳ありません、皆さまお許し下さい。
 では失礼いたします。

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 バークリーと言えば 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月23日(火)00時11分11秒

 「地下室の殺人」はあまり評判がよくなかったようですが、あれは未訳の
 「最上階の殺人」とセットで読むべき作品のようです。
 なお、世界探偵全集第2期は夏に完結、また、一冊だけ残っていた「魔法の本棚」も完結します。
 さらに、翔泳社ミステリー第1弾、ディクスン・カー「グラン・ギニョール」は4月中に発売です。ご期待ください。今日
はミステリの人でした。

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 妖怪リアリズム!? 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月21日(日)03時12分18秒

 中島様
 うーん、鏡花が超自然の実在を確信していたことは事実ですが、それでいながら、あくまで確固たるリアリズムを崩さなか
ったところにその真骨頂があると、小生は理解しています。作家の世界観と描かれる作品の手法とは、おのずから別物では?
 おそらく中島さんは『天守物語』や『貝の穴に河童の居ること』みたいな作品を想定しているのかと忖度しますが、登場キ
ャラの大半が妖怪変化の類であるああした作品においても、鏡花のリアリズムは歴然としているように思うのですが(ちなみ
に、この場合のリアリズムは、治田さんのおっしゃる異界の側から見た現実の感覚に近い、かと)。
 もしも「マジカル・リアリズム」という意味での御指摘なら、それはそれで頷けるのですが……。
 あ、それと鏡花は相当に好悪の分かれる作家でっせ(笑)。小生のホラー講座で取り上げたときも、拒否権を発した生徒さ
んが何人かいたような……。
 百●の怪異表現技巧が鏡花の一歩先をゆく、というのは、どうかなあ。「省略」か「過剰」かという技法の違いであって、
そもそもどちらが優れているという比較の対象にはならないような気がします。
 それを言い出したら、皆川博子『ゆめこ縮緬』(=鏡花派)と小池真理子『水無月の墓』(=百●派)のどちらが優れてい
るか、ということになりますが、これって、とてもじゃないけど優劣判定なんかできないでしょ!?
 なんか頑固なことばかり言って恐縮ですが、なにせ鏡花、百●ともに、ひとかたならぬ思い入れのある作家なもので、つい
熱くなってしまいました(笑)。御容赦を。
 なお、このやりとりを見て「?」と思っていらっしゃる方へ――
 鏡花の作品は、ちくま文庫から作品集が出ております。これ一作、ということなら、「春昼・春昼後刻」(岩波文庫にも収
録)をお勧めしときましょう(小生編の『妖髪鬼譚』に入れた「黒髪」も捨てがたいが……ホラーな人には、むしろこっちか
な)。
 百●のホラーを読むなら、福武文庫の『サラサーテの盤』が最適です。

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 先刻は 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月21日(日)03時00分47秒

 松本様
 >幻想文学
 失礼ではありません。たまにはそこそこ売りたいと思って(笑)やるわけです。本誌は基本的に5000人程度の読者を想
定して作っていますが(一万人や十万人を対象にした雑誌では出来ないことをやりたいからです)、想定どおりにさえ、売れ
ないものなのよ(だから定価も高くなる)。でも、現物をお読みいただければ分かると思いますが、決して難解な雑誌じゃな
いんですよ〜。

 >山尾悠子さん
 山尾悠子は早すぎた作家だと思います。今こそ読まれるべき作家だと思います。

 「異形コレクションの作品を肴に皆さんが語ってくれるとすごく楽しそうなんですが」
 うふふふ。すっごく愉しそう……だけど今それをやっちゃうと、日本のどこかにハルマゲドンが到来しそうな気もするので
(笑)。ここは『異形読本』とやらに期待、かな!?

 治田様
 異界の側から見たら我々のほうが恐怖の対象……という感覚は、ときおりSF系の作品などで見受けられるものですね。
 栗本薫の『魔界水滸伝』の中に、邪神の眷属の目を通して世界を描く試みがなされていて、おおっ、と思った記憶がありま
す。ちょっと違う気もしますが(笑)。
 さて御質問の件ですが、小生が「現実とは別の論理とか法則に拠らずに」と書いたのは、SFやファンタジーのように、エ
イリアンとか超能力とか恐竜といったものを既存の現実として肯定する(=別の論理・法則に拠る)ことなしに、という意味
です。それら本来非現実の存在が「作品世界の法則に属して」しまう事態を迎えるからこそ、作品内現実に亀裂が走るわけで
すよ。
 言葉足らずでスミマセンでした。

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 講師が濃いと生徒も濃くなる 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月21日(日)02時05分07秒

 ホラーな皆様
 頭が回っておりませんが、鏡花だけひと言。
 某社の某シリーズのために、全集でしか読めない鏡花の異常作を集成した案を二年前に出したのですが、何にも言ってきま
せんね。「尼ケ紅」とか「紫障子」とかもっと世に知られるようにしたいのですが。ただ、同じ作家として鏡花は参考になり
ません(笑)。

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 草双子というなら 投稿者:中島晶也  投稿日:03月20日(土)02時42分13秒

 『オトラント城』の方がよっぽど……と思いますよね、ふつう(笑)。

 東様
 鏡花の場合、ホラー的な作品であっても強固な現実をきっちり描写してから徐々に崩していくのではなくて、超自然的な力
があらかじめすべてを支配している混沌とした世界観のような気がするのですけど、いかがでしょう。
 鏡花が凄いのは、そういう異様な世界を主に文体の力で読者にリアルに体感させてしまうことだと思うのですが、あれも反
面、好悪の分かれる「魅力的な悪文」と言えないこともない気が……。私の国語力に問題があるのかも知れませんが、江戸時
代の作家の方がまだしも読みやすいです(また叱られるかな?)。ホラーは文章が命であることは言うまでもありませんが、
特に鏡花のようなタイプは文体が合わなかったらさっぱり乗れなくなってしまうはずで、ひょっとしたら、平井呈一が殊更鏡
花を「肌に合わない」と言ったのは、その辺りもあるのかも知れません。
 で、私自身はどうかと言いますと――もちろん好きです! いや、ほんとに(笑)。ホラーばかりでなく「風流線」みたい
な伝奇物も含めて。ただ、上記のような理由で、本来ならもっと好悪が分かれて然るべき作家だと思うのですよ(例えばラヴ
クラフトや香山滋のように。私はどっちも全集を揃えるぐらい好きですが)。なんで誰も彼もが好きなの、という気持ちがあ
って、平井呈一の意見にも納得できたのですけどね。自分の好みより理屈を優先しているわけです(←ややこしい男)。
 百間については、作者の資質や怪異の素材は確かに鏡花と通じるのですけど、それを表現する技巧はやはり一歩先を行って
いると思いますよ。
 ダーク・ファンタジーを含めたサブ・ジャンル問題については、長くなるのでまた改めて。

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 (無題) 投稿者:治田豪和  投稿日:03月20日(土)02時14分23秒

 幻想文学的な非現実の要素があって、かつ恐怖がそこに内在していればホラーたり得る、程度にしか今まで考えていなか
った(しかも漠然と)自分にとって、学ぶべきものが多いです。
 東さんの言うように、その世界での「現実」が、異常なものによって浸食される恐怖を描くものが「ホラー」だとすれば、
また、「論理」と「非論理」が、SFやホラーを見る上での「尺度」として考えるものであるとすれば、逆に中島さんのおっ
しゃるところの「現実を遊離した幻想の世界」こそが現実であるような物語では、そこに我々の属する「現実」が介入してゆ
くことで…いや、我々の属するものではなくても、とにかく舞台となっている世界に属さぬものが介入すれば、ホラーが成立
し得るということになりますか。あ、何となくダークファンタジーの話に近くなっていますが、そのもっと極端な例ですね。
元々ある「現実」というものがここではもっとこう、夢のようなもやもやした、描写も多分に曖昧で抽象的な、うまい言葉を
知りませんが、それこそモロに「幻想」という感じのもののことですが。別の言い方をすると東さんの定義によるような「確
固とした現実が浸食される」ホラー(1)があったとして、丁度それを逆回ししたような、というか。その逆回しの小説の中
では(1)の小説の中で言う「浸食するもの」の属する世界が現実であって、逆に(1)の世界での現実というものが、逆回
しの小説では恐怖をもたらすものになるという。
 でもここまで考えると、やはり技術的に難しいかもしれませんね。一歩間違えればただのギャグになる(笑)。
 結局ホラーは構築の仕方が正しければ良いというだけではだめで、物語の外にいる「読者」と通じ合い、共感できる何らか
の媒体が少なくなっていけばばなっていくほど、読者は「ホラー的構築法に乗っ取った」物語をホラーとは「感じられなくな
る」というところでしょうか。この意味では、我々の世界以外に住む何者かは、我々がホラーとして恐怖を感じられなかった
物語に恐怖を感じ、本格ホラーということになってしまうのかも…。
 話が飛躍し過ぎました。
 
 松本様、中島様
 初めまして(ちょっと遅いですね…すみません)。SFミステリーホラー、私はSFミステリーホラークトゥルーが見てみ
たいですよ。
 ただしここで話し合われていたような各ジャンルの本質的な部分をしっかりとふまえた上で。ホラーは上で語っている戯言
は無視して(笑)しっかりと恐怖できるものを。旧神はいりません(笑)。できるかどうかと言うよりは、理想ですけどね。
 でも「本格クトゥルー」が全面的に恐怖で彩られた性質をもつものであるとするなら、企画自体を立てた時点で既に異端で
すが。というか、クトゥルー=ホラー、というのは厳密な意味で違いますよね。原点はともかく、現状はクトゥルーの中には
ホラーもある、ほかのジャンルもある、という感じだと思います。しかしほんとうにSFホラーミステリクトゥルー出来るな
ら、それはもう、ホラーの部分以外のところは、ホラーのガジェットでこれでもかと塗り固めてくれると理想かも(笑)。
 プリティーなクトゥーニアン、私はバルゴンではなくて、ジャミラを連想したものですよ。

 倉阪様
 ありがたいお言葉です(笑)。ミステリーのことはホラーやSF以上に分かりませんが、舞台が地球に限られること、日常
生活とその分密接していること、そのような言ってみれば慣れ親しんだ世界で起こる話だから、それだけ世界に入り込んで、
付いてゆきやすい→SFとの出版の差として出てくるのかも知れないですね。
その点SFは場合によっては、ついぞ聞き知らぬ、馴染みもわかぬ専門用語が出てきたりして(笑)。

 東様
 最初に引っ張っておいて何ですが、分かりにくかったところをちょっと…。
 作品世界の「現実法則」を震撼せしめる恐怖の対象がDNA操作で蘇った恐竜やエイリアンで、しかもそれが作品内現実に
おいて現実とは別の法則によらずにリアルに描き出されていたならば、それは「その作品世界の法則に属するもの」であって
「怪異なもの、異常なもの」とは言えないもののように思えるのですが。
 どこか誤解していますでしょうか?

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 「ホラー」のケーススタディ 投稿者:松本楽志  投稿日:03月19日(金)19時44分57秒

 東さま
 >幻想文学
 それは、ぜひ次号買わせていただきます!(ミステリが絡むと売れるかも知れないって思ってしまうのですが、失礼かな…
…)
 でもやはり学生には高いですねー。
 昔からおもしろそうな特集が何回かあったんですが、やはり難解というイメージもあって買う機会がありませんでした。
(でも、幻想文学のブックガイド(正式なタイトルは忘れた)は即買いました、かなり役に立ってます)

 >山尾悠子さん
 そんな伝説の方だとは知らずにかなりテキトーな読み方をしてしまったかたです(知ったのが最近の再評価のちょっと前で
すもの……)。硬質な描き方というものを受け入れる体制が整ってないときに読むもんじゃないですね……すごいということ
をいろんなサイトで聞いて戸惑っています。
 作品集成が出たら是非勉強させてもらいます。

 >ホラーについて「現実と非現実」
 ますますわけが分からなくなってきました。
 おっしゃってることはよく分かるのですが、いざ、実際の作品と付き合わせていくと「うーん、どっちなんだろう?」と。
 やはり実際の作品(それこそ戦略上「ホラー」と名打たれてしまったまがいものホラーや、隠れ本格ホラーなど)をケース
スタディで教えていただくのが一番わかりやすいんですよね……。
 でも、東さまの立場上、そういうのは難しいんでしょうね……
 それこそ、異形コレクションの作品を肴に皆さんが語ってくれるとすごく楽しそうなんですが(笑)

 個人的に書く方のホラーもブームなんで(いろいろ練習のために書いてたりします)、「ホラーを書く!」めちゃくちゃ楽
しみにしております。
 応援しております。

 倉阪先生
 >SFミステリホラー
 なるほど、「ソラリス」ですか!
 たしかに幽霊出てきますし、SFですし、謎がありますねえ。
 ミステリ的な要素には言われるまで気づきませんでした。
 「赤い額縁」も確かに言われるとそうですね。

 こういうのってミステリに偏りすぎた僕みたいな読者から見ると、気づきにくいのかも知れませんね。現に僕はソラリス、
読むのが非常にしんどくて、読み終えるのが精一杯だったしなあ。

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 速報 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月19日(金)04時27分40秒

 朗報です。『山尾悠子作品集成』(あくまで仮称です)が具体化へ向けて本格始動しました! わくわく。
 そんなに遠からぬ時期に、詳細が固まるのではないかと思われます。
 なお、この件に関して、著者御本人や予想される版元(笑)へのお問い合わせは、くれぐれも御遠慮ください。続報が入
り次第、この場所でお知らせしたいと思います。

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 あああぁぁぁ〜(笑) 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月19日(金)04時21分25秒

 鏡花に、百●に、平井呈一に草双子だあぁぁぁ〜。
 ……小生のルーツを直撃してくださいましたわね(笑)。
 え〜、平井呈一への敬愛にかけては人後に落ちないつもりの小生ですが、あの対談における平井翁の発言は、率直にいって
旧弊な鏡花観に基づく浅見といわざるをえません。そもそも江戸の草双子を、秋成を除けば「文学以前の世界」と斬って捨て
ること自体に問題があるわけですが、これはまぁ、時代的な制約もあるのでやむをえないところでしょう。翁は〈幻想文学ム
ーヴメント〉興隆以前の時代を生きた方なのですから。
 鏡花作品で、伝奇・ファンタジー系の作品はむしろ傍流で、その本領は、あくまでも超自然のリアルな描出にあったと小生
は考えます。「春昼・春昼後刻」でも「紫障子」でも「眉かくしの霊」でも「黒髪」でも「陽炎座」でも「高桟敷」でも「沼
夫人」でも「尼ヶ紅」でも何でもいいんですが(ハイハイ、興奮しないでね)、今日の基準に照らしても十分、ホラーの名に
値する鏡花作品は枚挙にいとまがないと考える次第。
 そこには、ハンパな自然主義作家が裸足で逃げ出すほどのリアリズムと異界感覚が奇跡的に同居しているのです。
 まあ鏡花の場合、恐怖と美的至福とがしばしば渾然一体となっているために誤解されやすいのですが、それを言い出したら
秋成だってE・A・ポオだって「草双子的怪奇」ということになってしまうのでは!?(笑)
 でもって、その手の鏡花的ホラーは、実は百●の新しさにも直結するものだと小生は考えています。都筑道夫さんをはじめ
として「鏡花=ゴシック/百●=モダンホラー」といった割り切り方をする向きも多くて、それはそれで尊重すべき意見です
が、まあ文学の実相はそんなに単純には割り切れない、ということでしょうか(笑)。
 伝奇アクションに対する中島さんの見解はごもっとも。あれは本質的にはファンタジーの世界だろうと小生は考える次第。
 逆にダーク・ファンタジーというのは、ファンタジー的世界観に基づきつつ、その作品内現実を震撼させるタイプのホラー
である、と言えるかもしれませんね。

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 草双子問題 投稿者:中島晶也  投稿日:03月19日(金)01時28分06秒

 と、いきなり書いてもほとんどの方は何のことやらさっぱり判らないでしょうが、実は東さんが振ってくださった話題に乗
っているのです(笑)。『牧神』創刊号掲載の平井呈一と生田耕作の対談「対談・恐怖小説夜話」の中で、平井呈一が泉鏡花
のことを「近代文学以前の草双子的怪奇の後継者」という具合に否定的に評しているのですが、これなども現実との距離の取
り方の問題も含めて指摘しているのでしょう。もちろん鏡花の作品にも優れたホラーはあります(それは生田耕作も控えめに
反論しています)が、全体的な傾向としては現実を遊離して幻想の世界に没入してしまいがちな作風であることは事実で、現
実と幻想のせめぎ合いを楽しむ文学であるホラーの作家としては今一つと言わざるを得ないわけです。
 これを現代の作品に当てはめると、伝奇アクション小説がまさしくそうです。ホラー的ガジェット満載で理屈抜きの娯楽性
は良いのですけど、その分現実が侵犯される恐怖が希薄になるんですね。で、もっともっと幻想の方に傾斜していくと異世界
ファンタジーになってしまう。ですから、ファンタジー同盟内部(しかも右派)の指標として、

 幻想
 ↑
  異世界ファンタジー

  伝奇アクション

  ホラー
 ↓
 現実

 という感じになるのではないでしょうか。SFやミステリーを絡めるのは、ちょっと難しいですね(笑)。えっ、ダーク・
ファンタジーですか? あれは単なる売り文句でしょう。
 私の好みでは、近年の英米モダンホラーは全体に草双子的な傾向が強いように思います。娯楽性は高くて楽しいのですけど。
日本のモダンホラーの方は、傾向を簡単に一括りに出来ないバラエティの豊富さが魅力です。<異形コレクション>は、それ
を一覧できるショー・ケースの感がありますね。
 ちなみに、上述の対談の中で平井呈一は、内田百間を日本では希な近代的な怪奇小説の書き手と称賛しています。確かに百
間の新しさというのは、もっと話題にされて然るべきであると思いますね(特に「南山寿」とか)。

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 SFミステリーホラー 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月18日(木)23時52分52秒

 昨日のレムは「ミステリー」でした。「ミステリ」ではありませんので、念のため。
 もう一作浮かびました。「赤い額縁」です(笑)。出来はともかく、設定とラストはSFだと思うんだけど。

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 瀬戸川さん追悼 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月18日(木)23時36分23秒

 お会いする機会はありませんでした。
 「BOOKMAN」のホラー特集に文句をつけたのは私です(まるでいまの風間賢二氏みたい。深く反省しています)。
「夜明けの睡魔」は三回読みました。文章・内容ともに再読の誘惑を与える貴重な書物でした。ご冥福をお祈りします。

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 『活字狂想曲』出版めでたし 投稿者:西崎 憲  投稿日:03月18日(木)20時28分49秒

 倉阪さま
 『活字狂想曲』拝受いたしました。撫掌笑脱頤と云ひませうか、一読人を笑倒(おそらくは驚倒も)せしむる本ですね。誰に
でも自信を以て奨められる本といふのは世に多くないと思ひますが、この本はその数少ない本のなかの一冊だと思ひます。こ
れでまた正当にも貴兄の読者が増えることでせう。まことに恭賀なことであります。日本のユウモア文学史上最高の傑作だと
私が密かに断じてゐる『ゐなかのじけん』連作の公刊も待たれるところです。
 先日、かのエドワアド・ルウカス・ホワイト氏の Song of the Sirensをとある古書肆に註文したところ首尾好く「貴殿の
註文確と賜り候、本日送付せることここに報告致したく候」との電信が返つてきました。いまホワイト氏の暗鬱なる著作は太
平洋上の貨物船のなかでひつそりと昏い光を放つていることでありませう。途上で忽然と消えて仕舞はなければ二月ほどで手
元に届くかと思ひます。じつに楽しみであります。

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 現実を震撼せしめよ 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月18日(木)07時05分38秒

 中島様、治田様、松本様
 SFとホラーをめぐる御意見、興味深く拝読しました。「論理」と「非論理」は確かに有効な尺度になると思いますが、小
生としてはそこから敷衍して、「現実」との関わりというものを問題にしたいのですね。
 ホラーというのは、とことん作品内の現実に、リアリティに、徹底してこだわる文学だと思うわけです。
 ここでいう「現実」とは、別に現在の我々を取り巻く現実そのものである必要はありません。極端なことを言えば、遠い未
来世界や、他の惑星上の世界でもいいわけです。
 読者にとってリアルに感じられる「現実法則」に支配された世界を描いて、それが怪異なもの、異常なものによって侵犯さ
れ、震撼させられる瞬間を描くことに全力を傾ける――それがホラーの王道だと思うわけです。
 その意味では、恐怖の対象が、DNA操作で甦った恐竜だろうと、エイリアンであろうと、ミトコンドリアの化け物だろう
と、それが作品内現実において(現実とは別の論理とか法則に拠らずに)リアルに描き出されているならば、それはホラーで
あると極論してもよいように思っている次第。
 逆にいえば、いくらホラーでおなじみのガジェットに満ち満ちた世界を描いていても、作品内の現実にリアリティがなけれ
ば、それはホラー風味のファンタジーにしかならないだろうと。最近の一例を挙げれば……ってのは、やめときましょうね
(私は穏健派)。

 松本様
 そうですか、「初めて」お買いあげいただきましたか、ありがとうございます(←内心、ショックを受けているヤツ。でも、
しょうがないよな〜、最近ミステリ方面にアピールする特集やってなかったし、学生さんには定価も高いし……シクシク)。
 というわけで(嘘)、次号(55号)の特集は「ミステリVS幻想文学――真昼の決闘」(もちろん仮題)に本日決定しま
したので(笑)、また御贔屓に。

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 (ほぼ)完全復活! 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月18日(木)07時02分33秒

 大森様
 そうですか、やっと小生の心の広さがお分かりいただけましたか、って、ちょっと違う気もするぞ。たんに節操のないヤツ
と言われているよーな……ま、いいや。編集者モードのときの小生は、理想主義者じゃなくてマキャベリストだもんね(笑)。
 確かに〈異形〉と見かけの方向性は似ているように見えるかも知れませんが、違うんですよ。『モダンホラー・スペシャル』
の場合、あくまでコアな「ホラー」の視点から見て、「フム、これはウチの領土に入れてやってもよかろう」(笑)というホ
ラー至上主義の立場。でも〈異形〉は基本的に平等主義でしょ?(おおっと、うっかり「悪平等」と書こうとしちまったい)
 でもって――

 倉阪様
 要するに、同じように「本格ホラー」にこだわっているとはいえ、鬼さんのそれが「対読者」に向けてのこだわりというか
アピールなのに対して、小生のは第一義的には「対作家」に向けてのアピールだったのですよね、特に〈異形〉をめぐる言説
においては。そのへんに問題意識のすれ違いが、若干あったよーな。
 で、まあ対作家的には、もうウンザリ、じゃなかった(笑)今後とも粘り強い批評活動を通じて地道にアピールしていけば
いいので、今後は対読者向けの啓蒙活動をいかに展開するかに、小生も主眼を置こうと思っています(>福井様)。とりあえ
ず『ホラーを書く!』は、かなり有効なアピールになるはず(もうひと息でフィニッシュだ)。

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 瀬戸川さんのこと 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月18日(木)06時59分10秒

 前から闘病中とうかがって心配していたのですが、とうとう……。
 『BOOKMAN』編集長としての、『本の雑誌』を向こうにまわしての(!?)奮戦ぶりは、今も記憶に鮮やかです。『幻
想文学』の「ホラー読本」特集では、エッセイの形で、その歯切れの良いホラー観を披瀝していただいたことを懐かしく思い
出します。
 批評活動の一環として出版の現場にまで踏み込むことを辞さなかった先達に、万感の敬意を捧げたいと思います。合掌。

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 ありがとうございました 投稿者:橋詰久子  投稿日:03月18日(木)01時49分35秒

 瀬戸川猛資さんがお亡くなりになりました。
 昔、まだ一人でミステリを読んでいたころ、『夜明けの睡魔』を読んで謎解き以外の、漠然と感じていた面白さを気づかせ
てもらいました。今でこそ当たり前の感覚ですが、当時の私には、それはとても新鮮でした。『爬虫類館の殺人』を読み返し
たり、『死の競歩』を見つけたときは大急ぎで帰ったものです(中身は地味でしたが)。
 ついこの間も学生さんと「あの本面白いね」と話していたばかり。突然のことに胸がつまります。『夜明けの睡魔』を知ら
ずとも、私はミステリを読み続けていたと思いますが、それは今とは違ったものになっていたかもしれません。ご冥福を心よ
りお祈りします。
 それにしても、署名本買っといてよかった(だからあんたは嫌われるんだよ)。

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 追悼 投稿者:福井健太  投稿日:03月18日(木)01時19分28秒

 瀬戸川猛資さんが亡くなられましたね。ミステリやホラーなどのジャンルを越えた「センスの良い作品」の発掘・紹介者で
あり、個人的にはクラブの大先輩でもある氏ですが……本当に月並みな表現ですが、やはり50歳は早すぎると思います。氏
が生き続けておられれば、さらに「濃い」魅力を湛えた作品がもっと訳されたのではないかと思うと、惜しい方を亡くしたも
のだと思わずにはいられません。残念なことです。

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 SFミステリーホラー 投稿者:中島晶也  投稿日:03月18日(木)01時16分29秒

 「ミステリ」と書くと家主さんに叱られそうなので(笑)、一応延ばしておきます。P・K・ディックの『ユービック』な
んてどうでしょう。ミステリとしてどうなのかは私にはさっぱり判りませんが、ミステリーなら許されるでしょうか。
 どうしてモダンホラーはディック的現実崩壊の恐怖を取り入れないのか、ちょっと不思議。数少ない例外がラムジー・キャ
ンベルの『Incarnate』――と思っていたら、昨年末デヴィッド・アンブローズの『覚醒するアダム』(角川文庫)というのが
出ました。SFホラーのもう一つの可能性を感じさせる佳作です。次の新刊展望はこれだな(とツバを付けておく)。

 治田様、倉阪様
 『定本ラヴクラフト全集』書簡編のころには、朝松健さんはもう国書を退社されていたはずではなかったですか?
 シャッド=メルとはまたマニアックな……。クトゥーニアンって地震を起こしたりして凄いパワーがあるのに、水に弱いな
んてしょぼい弱点があるのがプリティーですよね。私は旧ガメラの最初の敵、バルゴンのことを思い出してしまいました。ブ
ライアン・ラムレイの神話作品を読んでいると、もしかして日本の怪獣映画が好きなのかな? と思うことがよくあります。

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 追悼 瀬戸川猛資さん 投稿者:中島晶也  投稿日:03月18日(木)00時57分42秒

 享年50歳。月並みな表現だけど、ほんとうに早すぎる。
 世間的にはミステリ評論家なのでしょうけど、古株の本格ホラー愛好家でもあったのは知る人ぞ知る。伝説の名雑誌『ブッ
クマン』のホラー特集では、当時流行のモダンホラーを「下品」と総切りにしてクラシック復権をぶち上げ、(一部で)物議
を醸したものです。私もこれはいくらなんでも頑な過ぎると感じましたが、その一方で「ホラーは想像力の文学である」と断
固として言い切る姿勢には、深い共感を覚えました。最近の和製ホラー・ブームについてのご意見を、一度伺ってみたかった
です。
 心から冥福をお祈りします。

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 SFミステリホラーなど 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月17日(水)23時16分17秒

 松本様
 レムの「ソラリスの陽のもとに」ってそうじゃないかな?

 治田様
 明晰で貴重なご意見だと思いますよ。
 本格ミステリでも同じですね。世界探偵小説全集はマニアしか買わないから、再版になっても印税はたいしたことないとか
(笑)。ただ、出版には恵まれている。その点SFは・・ということでしょうね。

 中島様
 ご苦労様でした(笑)。これで「ホラーとミステリーは厳密に考えれば別ジャンル」(北上次郎)などという寝言を言う人
はいなくなるでしょう。考えなくたって別でしょうに。

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 SFミステリホラー 投稿者:松本楽志  投稿日:03月17日(水)20時22分05秒

 ジャンルの問題から派生して思ったことを書いてみます。

 中島晶也さんの地図を観ていると「SFミステリホラー」が可能だなあ、と気づきました。
 なぜなのか、と考えてみますと、それぞれのジャンルの「宿る」部分が違うのだと思います。SFは「世界観」、ミステリ
は「手続き」、ホラーは治田豪和さんのおっしゃる「雰囲気」に宿りやすい。
 世界がSF設定で、ミステリ的「謎ー解決」の手続きが存在して、それをホラーの「雰囲気」で描くことは可能なのではな
いでしょうか。
 そういう作品はなにかありますか?

 東さま
 先日生まれて初めて「幻想文学」を買いました。
 前号かな? 山尾悠子さんの作品の勉強のためでしたが、こちらで先に東さまを知ってしまったので編集後記など、とても
身近に感じてしまいました。
 ホラーの呪いにかかってしまったので、今後は「メフィスト」をやめて「幻想文学」を定期的に買ってしまいそうです(笑)

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 先入観のせめぎ合い? 投稿者:治田豪和  投稿日:03月17日(水)01時33分56秒

 皆さんさすがに普段から文章を書くお仕事をしているだけのことはありますね。
 書き込みの量と早さ、目を見張るものがあります。ホラーとSFについて素人なりに考えるに、SFが売れないという原因
の一つには、(もしかして大森さんのおっしゃっていたことと一部重なるのかもしれませんが)単純に「理解するのがおっく
う」「かったるい」という印象があることも確かなように思います。
 より核心に近づいた本格的なSFに、より顕著であるような印象を持つのですが、ストーリー中に散在する用語、設定、そ
れらによって導き出され、展開が進んでいくような、物語の枠組みを理解するのに労力を感じてしまうということです。そう
でないものも多々あるでしょうがその反面、実際にそのようなデメリットが当てはまる場合も、ジャンルの性質上少なからず
あるはずで、結果として読むのが億劫であるという先入観が、「生まれやすい」のだと思います。
 つまり、深く考えずに読める人、或いはもとからSF的な論理性を好む人がいる一方で、考えながら読むために読書スピー
ドが落ちたり、停滞する人がいる。例え現実にはそんなに悩む話でなくとも、前述のように、ジャンル的に先入観が生まれや
すい(と思う)。それらの結果として、SFは好き嫌いが表にはっきりと出やすい分野となっているではないでしょうか。
 ホラーでは、恐怖の「雰囲気」を味わうこと自体には積極的な労力を必要としませんから、ホラーの文体は必然的に、論理
的思考に訴えないかわりに、雰囲気を醸し出そうと形容詞や副詞や句読点の配置、文体の配置などに、より重きを置くように
なると思います。「考えさせる」ことによって読みを停滞させてしまう、或いは「雰囲気」をぶちぶち切ってしまっては元も
子もないから、読みさえすれば超自然であれ狂気であれ、とりあえず頭には抵抗なく入ってくる内容となる。そういう「先入
観」が逆にホラーには(それが現実に当てはまるものをも含みつつ)あって、結果的に「読むのが億劫でない」→「SFに比
べてホラーが売れる」という思いの要素の一つを開花させたのではないか、と思ったのです(考えるようでは理性にばかり訴
えて、本能には訴えていないことになるし。それで、福井さんや瀬名さんや、大森さんをはじめとした方々が話し合われてい
たような編集者側の戦略、ホラーとしたほうがSFとするより取っつきやすい、という先入観を利用するという結果になって
きたんだろうと。自分で納得してました。
 そんなこと、ないでしょうか?

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 国境問題 投稿者:中島晶也  投稿日:03月17日(水)01時10分23秒

 私の認識を、無理矢理ですが図に書いてみました。拡大印刷して鉄道を引いてみるとか(笑)、お好きにどうぞ。

 論理的
  ↑ ┌──────┬─────┏┯━┯━━━━━┓
    │      │     ┃│ │     ┃
    │      │  SF ┃│ │ミステリー┃
    │      │┌────╂┼┐│     ┃
    │ファンタジー││    ┃│││     ┃
    │      └┼────┗┷┿┿━━━━━┛
    │       │ ホラー  ││
    │       │      ││
  ↓ └───────┴──────┴┘
 非論理的

 JIS罫線は機種依存文字ではないと思うのですが、皆さんちゃんと見えていますでしょうか。見えても判りにくいでしょう
けど(笑)。ミステリーだけは太線にしてみたんですが、やはり線種が4つないと苦しいですね。
 ファンタジーはジャンル・ファンタジーではなく幻想文学全般を指すと思って下さい。各国の面積や水平方向の位置関係に
は、特に意味はありません。
 どこで仕切るのかという問題は、万人が納得できるような合意点を見い出すのはまず無理ではないでしょうか。以前、福井
さんが触れられていたいしいひさいちの漫画じゃないですが、「たぶんこのへんだろう」というのが精一杯なのでは。境界領
域の作品については、「ホラー的にはこうですよ」というように各ジャンルの本質に照らした評価を提示するのみに止め、国
籍は無理に決めてしまわなくてもいいのではないかと私は考えています。
 小林さんや瀬名さんはジャンル間の国境付近でお仕事をされているわけですが、自作の位置づけについてはどのようにお考
えなのでしょうか?

 大森様
 『モダンホラー・スペシャル』は、当初は保守的に原則「怖いかつ超自然」オンリーで行く方向だったのですが(だからV
・C・アンドリュースなんかは抜かれています)、混乱を極めたモダンホラーの現状を前に、筋を通すのは無理だということ
になって、やや緩やかな形になりました。私自身はガジェットよりエッセンスを重視したい考えなので(超自然現象原理主義
ではなく、超自然的恐怖原理主義)、いい形にまとまったのではないかと思っています。

 >したがって、SFと謳ったベストセラーが一発出れば、現在のレッテルと中身の不一致>>問題は一気に解決するかも。

 ケンカ覚悟で梅原克文氏の額にSF印のお札を貼りに行くとか(笑)。

 倉阪様
 >でも、私や牧野さんがメジャーになって売れる世の中というのは間違っているような気もします(笑)。

 「時代そのものがホラー」というやつですね(笑)。

 パソコン通信を始めるまで知らなかったんですが、「文庫しか買わない読書家」というのはけっこう多いようですよ。もっ
ぱら文庫を図書館で借りることにしている読書家だっているんですから。

 東様
 毎回ご丁寧な返事をどうも。
 内輪ボメの問題は私も気になっていて、ここへ顔を出すのも、倉阪さんの本を誉めるのが難しくなってしまうなあ、とかな
り迷いました。

 『インスマスを覆う影たち』、大瀧氏と縁の深い青心社はどうですか。

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 SFとホラーの土壌 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月16日(火)23時34分05秒

 コアな人口は圧倒的にSFのほうが多いんですよ。大学にホラー研なんてないし、サイトは映画関係以外ほとんどないし
(ホラー映画のイメージで小説も規定している読者が結構いるかも)、ホラー大会もホラー作家クラブもない。だから、SF
は沈滞しすぎです。コアな人口が少ないのにホラーがジャンルとして成立しているのは、ひとえに<因子>が強いためでしょ
うね。歴史だけは古い、さまよえるユダヤ人のようなものですから。イスラエルを建国したと思ったらパレスチナ問題が残っ
てるとか(笑)。

 大森様
 その書評、紀田順一郎や長山靖生より右かも(笑)。

 小林様、瀬名様
 「本を買わないと作家が生活できないと実感できない読者」、具体的には図書館の利用でしょうね。先日、図書館で借りて
読んだ方からお手紙をいただいたのですが、「とても怖かったので買おうと思ったのですが、うちに置いとくと怖いので文庫
版は出ていないのでしょうか」というおたずねでげんなりしてしまいました(出てませんよ)。3万部は無理だよなあ。

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 なぜ『怪奇十三夜』は売れないか。 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月16日(火)23時06分42秒

 倉阪様&中島様
 『怪奇十三夜』が哀しいくらい売れなかったのは、ひとえに幻想文学出版局(現在のアトリエOCTA)の営業・宣伝力の
弱さにあります。弱さ、というより皆無(!)に等しいかもしれません。 小社の本は「買切扱い」というシステムで書店に
送られます。これはイコール「返品不可」ということで、書店さんはとても嫌がります。売れ残っても取次に戻せないためで
す。このためごく一部の大書店を除いて、客注以外の余分な発注はまずありませんし、大書店は大書店で、限られた売場に長
期間置いてもらうことは不可能です。毎日新刊が山のように届くからです。
 それなら大・中規模出版社のように、返品フリーの委託制にすれば、と言われそうですが、そのためには東販・日販など大
取次店と契約を結ぶ必要があります。しかし資本力のない振興出版社が新規取引を結ぶのは現状では極めて困難、かつ契約で
きても過酷な取引条件を強いられることになります。
 また、仮に委託扱いにした場合、今度はある程度以上の部数を刷る必要があり、往々にして過剰な在庫を抱えることになり
ます。在庫の管理にかかる人件費・倉庫費もバカになりません。また、委託にしたからといって待っていても注文は来ません。
全国規模で対書店向け営業活動をおこなう人手や資金など、小社には望むべくもありません(それでも『幻想文学』の新しい
号が出るたびに、『怪奇十三夜』をはじめとする旧刊書の注文もDMで募ってはいるのよ、鬼さん)。
 残された道は、宣伝に力を入れて読者からの個別注文に期待することでしょうが、これはこれで広告費がネックとなります。
大新聞のように小さな広告ひとつに何百万もかかる媒体はハナから無視するとして(笑)、一般の雑誌でも数万から数十万、
それに見合ったメリットがあるかというと……大いに疑問なわけです(その意味で、情報発信が基本的に無料でできるインタ
ーネットというメディアは極めて有効な可能性を秘めており、小社も前向きに対応を検討したいと思っています)。
 もともと小社は「いかに会社を大きくするか」ではなく「どうしたら潰れないで息長く出版活動ができるか」を最優先課題
としてきた特異な出版社ですので(その方針を徹底してきたからこそ、なんとか今まで生き長らえてきたわけですが……)、
あまり参考にはならないかもしれませんが、『怪奇十三夜』が売れなかった理由、および小社が現在、単行本の出版から事実
上撤退し、『幻想文学』一本に専念している理由は、以上のとおりです。
 雑誌というものは内容次第で、弱小出版社でもそれなりに「戦える」メディアだと思いますが、単行本というものは、どう
しても出版社の総合力の差が歴然と出てしまうんですよねぇ……。
 あとはせいぜい、評論家の立場で宣伝に努めることでしょうが、これはこれで、自分が作った本で、おまけに著者とは旧知
の仲とあっては、内輪ボメとみなされるのがオチでしょうしねー(笑)。
 やれやれ、です。

 西崎様
 私も驚きましたが(笑)印税が振り込まれたところをみると事実のようです。桜桃書房の営業努力をホメるべきでしょう。
 確かに地味なゴースト・ストーリーというものは到底大部数は期待できませんが、そのかわり息長く読み継がれてゆく、そ
の累積部数は決してバカにならないと思います。創元の『怪奇小説傑作集』なんて、累計どのくらい行っているのでしょうね。
創元関係者の方、いかがなもんでしょう?(笑)

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 やっと復活! 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月16日(火)22時13分56秒

 倉阪様
 ホラー啓蒙書の件ですが、実はその昔、某作家氏の紹介で、某談社新書に企画書を提出、アウトラインを固めていたことが
あるのですよ。その後、久しく梨の礫であることを、卒然と思い出しました(笑)。
 まあ、新書に限らず、『本格ミステリを語ろう』にならって『本格ホラーを語ろう』みたいな本とか、いろいろ考えられま
すよね。

 治田様
 その節はどうも。めったにサインなぞ求められることはないので(笑)、よく覚えてますよ〜。返信が遅れて失礼しました。
 さて、お尋ねの件ですが、『インスマスを覆う影たち』は学研ホラーノベルズで出すべく、大瀧啓裕さんとタッグを組んで
動いていたのですが、同シリーズ自体がなくなってしまったため、残念ながら頓挫中。面白いテーマ・アンソロジーなんです
けどねぇ……意欲的版元を現在募集中です(笑)。
 それから『ラヴクラフトの遺産』のほうは、夏来健次という人が某社でこつこつ翻訳を進めていると風の噂に聞いておりま
すが……どうなってるんでしょうね〜。
他社の企画ゆえ、勝手に詳細を明かすのは遠慮しておきますです。

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 暴力や飢餓の絵本を閉じて伯母の死ぬ 投稿者:西崎 憲  投稿日:03月16日(火)11時39分09秒

 大森さま
 確定申告お疲れさまでした。面倒なものですね。私もぎりぎりになってようやく済ませました。『夜の怪』の書評を書いて
いただいたのですね。ありがとうございます。私ももちろん「偏狭なジャンル主義者」です。あまり「排他的なジャンル主義
者」にはならないようにとは念じてはおりますが。

 東さま
 東さんのアンソロジーはそんなに売れるのですね。うむ、少し羨ましいです。

 みなさま
 翻訳であり、クラシックなものばかりやっているので参考にならないかもしれませんが、小生の出したものはほとんどすべ
てが二千部〜三千部くらいだと思います。しかし英語圏を見渡してもクラシックなゴースト・ストーリーはたいてい多くとも
二千部程度しか刷られていないようですので、この数字はむしろ多いとすら言えるかもしれません。ビジネスとして成立する
ぎりぎりのところでしょうか。今のところは出してもらうだけで有難い気持ちのほうが強いです。いつかベストセラーを出し
て、書庫のある家を買うのが夢ですね。それで規則ただしい生活、明窓浄机。まあ実現しないでしょう。

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 ホラーと SF 投稿者:小林泰三  投稿日:03月16日(火)07時37分38秒

 倉阪鬼一郎 様
 はじめまして。
 当時は舞い上がっていて、他の候補者の名前にまで気が回らなかったのですが、後になって候補者の中に倉坂さんのお名前
があったと気付いた時、驚きと緊張感が背中を駆け上がっていったのを覚えております。

 >私のデータを公表します。

 僕の場合『玩具修理者』はホラー大賞短編賞の肩書きのおかげで、公称5万部に達しましたが、その後の作品はやはりあまり
売れていません。
 #この公称は10万部もサバをよんではいないようです。(^o^)

 >SF・ホラー・ミステリ、いずれにもコアな部分のエッセンスがあり、その周りにガジェ>ットが存在します。

 ホラー、SF、ファンタジー、ミステリは互いに領土を接しているのは確かなようですね。問題はどこに国境線を引くかと
いうことになるのでしょうか?

 葵珊瑚 様
 僕らの子供の頃って、宇宙はもっと近かったですよね。それは僕らが子供だったせいだけではなく、社会全体が宇宙に近か
ったような。世紀末が過ぎれば、みんなまた宇宙を見上げ始めるような予感がします。

 福井健太 様
 >「SFに収まらない」発言については、編集者の個人的認識ももちろんありますが、いわゆる「世間のイメージ」に擦り
 >寄った発言ではないかという気もします。

 おっしゃる通りだと思います。個人的には「これこそが SF!」と言い張って、「世間のイメージ」の方を壊して貰いたか
ったのですが…

 瀬名秀明 様
 >ただ、発行部数を公表することにはそれなりの意味があると思うのです。多くの一般読者は本がどのくらい売れているの
 >かまったく知らない。本を買わないと作家が生活できないことも実感できないようです。

 本を書いてるというだけで、暴利を貪っているように言われることもあります。(^^;)

 >(発行部数についてさらにいえば、角川書店の「@万部突破!」的な宣伝方法は好きではありません。どうせなら実売数
 >を書けばいいのに、10〜20万部もサバを読んでいるのは読者に対して失礼だと思っています。しかし「売れていることを
 >売り文句にしたほうが売れる」のだそうで、私の本からもそういった惹句を削除してはもらえませんでした)

 この慣習によって、大きな数字ばかり読者の脳に刷り込まれて、暴利を貪っていると思われているのかもしれませんね。

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 確定申告やっと終了 投稿者:大森望  投稿日:03月16日(火)02時50分25秒

 西崎さま
 こちらこそ、ご活躍はかねがね。鈴木真仁の『絶対少年』とか……ってそうじゃなくて、《怪奇小説の世紀》とか、『第二
の銃声』とか、ごく一部ですがお仕事は読ませていただいております。
 そういえば昔『夜の怪』の書評を書いたなと思って検索してみたら、「(モダンホラーブームの昨今だが)ホラーと銘打っ
た書物が氾濫する割に、ほんとうにこわい小説にはなかなかお目にかかれない。似非ホラーの跳梁跋扈するこうした現状に敢
然と立ち向かう反時代的恐怖アンソロジーが、西崎憲編の〈怪奇小説の世紀〉全3巻である。」
 とか書いてあったので自分で笑いました。やっぱり偏狭なジャンル主義者だったのか>自分。

 中島晶也さま
 え、そうなんですか。池原さんのお知り合いとは世間は狭い。
 「野獣館」の結末を評して、「(ちょっと香山滋風?)」というのはひとりでウケてました。

 そう言えば、《モダンホラースペシャル》の必携ガイドって、SFもサイコサスペンスもがんがん入ってて、テーマ別分類
で、じつは《異形コレクション》に近いかも。
 というわけで、東さんの心の広さは納得しました。あとはたんに美意識の問題?(笑)

 ホラーとSF
 ホラーの皮をかぶったSFが売れてる――というか、現実密着型のSFは、いろんな皮をかぶってベストセラーになってる
んですよね。『ジュラシック・パーク』とか『クロス・ファイアー』とか。
 そういうのはなぜか「SF的設定のエンターテインメント」と呼ぶらしくて、つまりSFはエンターテインメントじゃない
と(笑)。
 北上次郎が『ソリトンの悪魔』を評して「SF的設定のエンターテインメント」と言ったときはさすがに茫然として、のち
に断固糾弾したんですが逃げられました(笑)。でもしつこく言ってたら、最近は「SF」と言うようになったみたいだけど。
 でもまあ『屍鬼』を「ホラー的設定のエンターテインメント」と呼ぶ人はいないので(たぶん)、それが今のホラーとSF
の立場の違いでしょう。つまりホラーはエンターテインメントの仲間で、まだわかりやすいと。
 そのジャンルの濃いマニアが喜ぶものは、SFに限らず本格ミステリでも純文学でもホラーでも、一般的にはあんまり売れ
ない傾向がありますから、「本格ホラーが売れない」と嘆くことはないでしょう。本格で本が出るだけ(SFより確実に)恵
まれている。だいたい倉阪さんの本がベストセラーになる世の中はそれはそれでこわい気がするし(笑) いや、現状よりもう
ちょっと売れてもいいとは思いますが。3万部ぐらいね。

 「SFというレッテルが売れ行きに悪影響を及ぼす」という信仰はかなり一般的ですが、どうなんでしょうね。
 椎名誠の本でも、SFは(ほかと比べると評価のわりに)あんまり売れないらしいとか。『中国の鳥人』の解説を頼まれた
とき、担当編集者(SFファン)から、「SFって言葉はなるべく使わないでね」と言われたので、その話を枕に使ったぐら
いです(笑)

 『BRAIN VALLEY』のときは、たしか増刷分のオビに書評の一節を使いたいという話があり、編集者と相談のうえ、オリジナ
ル版にあった「本格SF」という言葉を「現代エンターテインメント」に置換して掲載されたような記憶があります。
 個人的には、5万部以上売る本の場合はSFというレッテルがマイナスになる可能性もありうると思いますが、四六判で1
万部、文庫で3万部までなら、むしろプラスの影響のほうが強いレッテルなんじゃないでしょうか。そのぐらいの数のSFフ
ァンはいるはずなんだけど。
 ホラーは、ホラーのレッテルで100万部以上売れることが証明されてしまったので、オビに安心して使える言葉なわけです
ね。
 したがって、SFと謳ったベストセラーが一発出れば、現在のレッテルと中身の不一致問題は一気に解決するかも。

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 美学と形式主義 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月16日(火)01時19分27秒

 福井様
 これってまさにクラシック・ホラーの要諦でもありますね。
 まあ両者は同根ですから、当たり前かもしれませんが。「古臭い」とか「アメリカでは廃れている」とか言われる点も同じ
ですけど。

 皆様
 あたたかいお言葉をありがとうございます。
 でも、私や牧野さんがメジャーになって売れる世の中というのは間違っているような気もします(笑)。

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 もう手遅れ 投稿者:中島晶也  投稿日:03月15日(月)23時49分31秒

 松本様
 >そうか、啓蒙=呪い、なのか!

 ふふ、今ごろ気がついても逃げられませんよ。

 瀬名様
 おお、イギリスにいらっしゃるのですか。うらやましい……。私は3年前に当時勤めていた会社の社内旅行で2日だけロン
ドンに滞在したことがありまして、今日もなおマッケンの描く魔都の面影を色濃く残しているのに、いたく感動したものです。
 その頃のロンドンの大型書店では、ミステリ・SF・ホラーの棚の規模が4:2:1程度でした。本場でもやっぱりホラー
がいちばん弱いのか、とちょっとがっかりしたのですが、よく見ると普通の小説の棚にレ・ファニュ、M・R・ジェイムズな
どの古典作家や、ボナジンガの『シック』、中野善夫さんが注目されているグレアム・ジョイスの『The Tooth Fairy』とい
った活きのいいホラーが混じっているんです。『魔法』のクリストファー・プリーストとか『蜂工場』のイアン・バンクスな
んかは、流行作家扱いで新刊が平積みになっていました。なるほど、そもそも文学に対する意識が日本とは違うんだな、と感
心した次第です。もう一度、たっぷり時間を掛けて行きたいなあ。

 SFとホラーの売れ行きデータの話ですが、角川書店は自社が文庫で抱えていた日本SFの多くを絶版にしていますよね。
これはたぶん、実際に売れ行きが悪くなったというデータに基づいた行動なのではないでしょうか。最近同じ本がハルキ文庫
で復活してますから、需要がないわけではないのでしょうが、角川的には「もう要らん」と思うぐらいに落ちていたのでは。
ホラーへの進出は、「売れている」というより「売ってみせる」という感じですか(笑)。しかし、SFを立て直すよりは、
ホラーを売り出すが方が良いとの判断はあったのでしょう。

 小林様
 ホラー・ブームが幻想であることは、皆さんの証言でバレてしまいましたが(笑)、順番としては福井さんもご指摘の通り
「SFが売れない」→「ホラーとしてなら売れる」ですから、SF冬の時代がすべて幻想とは言い切れないのではないでしょ
うか。やはりSFという名のブランドが敬遠されているのは事実で、それは真剣に対策を考えるべきである事態だと思います
よ。

 倉阪様
 『赤い額縁』→『百鬼譚の夜』→『妖かし語り』→『怪奇十三夜』ですか。売れ行きの比率はともかく、順位はリーダビリ
ティと一致しているような……。ホラーとしては『百鬼譚の夜』が一番だと思いますけど。『怪奇十三夜』は、不勉強な古本
屋が絶版と勘違いして高値を付けていることがありますよ(東さん、もっと宣伝しないと!)。

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 売れるホラーについて私見 投稿者:フク  投稿日:03月15日(月)22時57分42秒

 ますますメンバーが凄いことに(感動)

 ホラーがブームとなっている、という現象、即ち「売れているホラー(と世間的に呼ばれている作品)」には、現在大きく
二つのパターンがあるように思います。
 
 一つは、角川ホラー大賞。瀬名先生、鈴木先生と繋がるメディアミックス戦略。カバーの惹句から、文庫化のタイミングま
で、素人から見ても「いま、こうすれば売れる」ということを知り尽くしたマーケティング力かと感じます。これには読者と
して、もう一つの捉え方がありまして「角川ホラー大賞受賞作」は、受賞した段階で海のもの山のものと知れない(失礼)作
品でも、いずれ世間でも確実に話題作になるという予測がつくのです。あれだけ大々的な売り出しが確実にされるのですから。
他の種々のミステリーの大賞クラスよりも世間的な認知度が「いずれ高くなる」度が非常に高い。従って読者も安心して出版
されてすぐに手を取れる。さらに部数もそれに比例して伸びる。

 もう一つは境界領域の作品。ミステリ帝国やファンタジー王国とホラー帝国との境界線上の作品。こちらの作品は主に相手
の国の読者を中心に支持されることで売れていそうです。
 極論を言えば、少しミステリ帝国もファンタジー帝国も自らの国の生産物に少し飽きだしてきているところにやってきた、
彼らにとって未知の刺激がホラー領域の感覚だったのでは、と考えます。小林先生や倉阪先生もこちらの路線に乗っているよ
うに思いますし、メフィストクラブという、何となくミステリっぽいシリーズから刊行した津原先生も。また、小野不由美さ
んを支えてきたティーンズファンタジーの読者もかなりの人数を抱えていて『屍鬼』には貢献していることでしょう。

 ただ、どちらの路線でもある程度の印象度、知名度が出ればやはり固定のファン?がつくので、その後は極端に冒険をした
り、質を落とさない限りはそこそこは売れる…のではないでしょうか。

 ホラーが売れている、というより、売れるべき作品が売れている、というように感じるのです。個人的には。つまりホラー
がホラーとして読者に手に取られる、という時代では、未だないのだと感じています。

 もちろん、一読者の私見ですので数字の裏付けは全くありませんけれど。

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 お返事 投稿者:瀬名秀明  投稿日:03月15日(月)16時09分55秒

 小林様
 >「BRAIN VALLEY」はサンプルとしてあまり相応しくないような気がします。
 ただ、発行部数を公表することにはそれなりの意味があると思うのです。多くの一般読者は本がどのくらい売れているのか
まったく知らない。本を買わないと作家が生活できないことも実感できないようです。
 >僕の感覚では倉阪さんや津原さんや牧野さんはもっとメジャーになるべきなのです。才能あるホラーの書き手がメジャー
になっていない状態はやはりホラーブームとは呼べないでしょう。
 というご意見にはまったく賛成です。(発行部数についてさらにいえば、角川書店の「@万部突破!」的な宣伝方法は好き
ではありません。どうせなら実売数を書けばいいのに、10〜20万部もサバを読んでいるのは読者に対して失礼だと思っていま
す。しかし「売れていることを売り文句にしたほうが売れる」のだそうで、私の本からもそういった惹句を削除してはもらえ
ませんでした)

 >どんな小説ならSFに収まりきると考えられるのか、そして今までどんなSFを読んできたのかにも興味があります。
 これは福井さんのおっしゃるとおりで、編集者の立場としての意見も含まれると思います。この編集者がSF嫌いかというと
そうでもなくて、かつては半村良や平井和正をよく読んでいたようですが、面白いのは最近の国産SFをほとんど読んでいない
ことです。角川春樹氏によると、SF冬の時代の原因は編集者のプロデュース力不足とのことですが……。

 倉阪さま
 >はじめまして。第二回ホラー大賞で同期の倉阪です(笑)。
 はじめまして。お名前は以前から存じておりまして、ホラー小説大賞の候補作一覧にお名前を見つけたときにはとても光栄
に思ったことを覚えております。私はどちらかというとモダンホラー派なのですが、ホラー全般も好きで、帯に「ホラー」と
書いてあればなんでも買うという人間です。(ぶんか社も学研もホラー文庫も当然全冊購入)最近は文庫解説なども書いてい
まして、なんとか好きな作家の本の売上向上に一役買いたいと思っていますが、なかなかうまくいきません。

 中島様
 はじめまして。
 >ホラーとSFの売り上げを本気で比較しようとしたら、条件を整えるのがかなりやっかいなことになるのではないでしょ
 >うか。
 おっしゃるとおりです。しかし出版社でも具体的なデータというのを持っていないのが不思議です。私の感じる限り、「ホ
ラーは売れる」「SFは売れない」と編集者がいうのは、データに基づいたことではなく、直感的な印象感想に過ぎないようで
す。

 福井様
 >SF的ガジェットが超自然に蹂躙されるという展開は、たとえば鈴木光司さんの「リング」3部作の正反対だと思うので
 >すが、
 はじめまして。
 実はこのあたり、ちょっと個人的には違和感があるのですが、それゆえにここを攻めると「瀬名・鈴木論」がうまく展開で
きるような気もしています。しかし私が鈴木光司論を書くのははばかられる状況なのがつらいところです。

 現在はイギリスにおります。「黒衣の女」の舞台をやっているのですが、見に行く時間がない。
 それでは失礼いたします。

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 国境の旅人 投稿者:福井健太  投稿日:03月15日(月)14時23分18秒

 小林さま
 もちろん「近い部分がある」と「ごちゃ混ぜにする」は別物ですよね。
 強いてモデル化するならば、SF帝国とホラー帝国は隣接していて、それぞれの辺境にプロットされる作品が有り得ると同
時に、限りなく国境線に近い作品も有り得る、という感じでしょうか。繰り返しますが、もちろん「だから混ぜて良い」とい
うことではないのですけれど。
 「SFに収まらない」発言については、編集者の個人的認識ももちろんありますが、いわゆる「世間のイメージ」に擦り寄
った発言ではないかという気もします。編集者は個人的に「SFに収まらない」と思うと同時に、営業的に見て「SFだと聞
けば、世間はもっと偏狭な作品を連想するであろう」と推測したわけで。要するに、ここで問題になるのは「編集者のイメー
ジ」と「世間のイメージ」の2点――これはとりあえず混同しない方が無難ですよね(究極的にはリンクしますが)。世間へ
のアピール力を持つはずの編集者は、認識改善によって世間イメージを動かす力を持つと同時に、既成の世間イメージに合わ
せる計算もしなければならない……そういう複雑な立場に立たされているのでは、という気もするのです。まあ編集者だけを
擁護してもしょうがないのですが。

 倉阪さま
 そうですね。論理はかなり有力な道具ですが、単なるパズルでは駄目なんです。何らかの「論理」という道具立てがあった
としても、それを作品内のどういった部分に当てはめるか、ということが重要なわけで。それを「非論理」に置き換えた場合
でも、たとえばストリブリングやカーのような「ミステリ」になることはありますし。といっても、それが許容され得るよう
な全体図と関係性が必要なことは言うまでもありませんが。
 さらに付言すれば、その「論理」自体が何らかの飛躍を内包している場合、その「論理」自体が独自の生命を持った「ミス
テリ」になり得ることもあるわけです。トリックもそれに似たような存在ですね。まあとにかく、小道具としての「論理」や
トリックがなくても、全体の構成が計算された美を備えていれば、それは「ミステリ」たり得ることもあるわけです。
 ――と、僕は思っているわけです。具体的に説明するのは難しいのですが、美学と形式主義のパランスが重要だという立場
なんですよ。形式主義は美を生むためのものだったはずなので、形式の帳尻だけを合わせただけのスピリットを持たない作品
よりも、あえて先進性を取り入れることで美を構築しようとする作品の方が、実はミステリの生命を永らえさせているのでは
ないか、と。
 いくつかの反論も容易に予想はつきますが、これは立脚点や視座の問題なので。

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 本格ホラーは売れているか 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月15日(月)01時26分00秒

 小林様、瀬名様
 はじめまして。第二回ホラー大賞で同期の倉阪です(笑)。
 私のデータを公表します。「赤い額縁」は累計1万部で、ほぼ完売していますが、これは松本さんのご指摘のとおり、ミス
テリーとのハイブリッドだったからです(「密室・殺人」の帯を見たときには心臓が停まりそうになりましたよ)。「このホ
ラーが怖い」で国内3位になった「百鬼タン(字がない)の夜」は、初版5千部でまだ在庫があります。さらに、「妖かし語
り」は初版3千部でもずいぶん返品が来て困ったそうです。さらにさらに、かれこれ七年前に出した短篇集「怪奇十三夜」は
初版千六百部でまだ在庫があります(笑)。これは出版社の力にもよるわけですが(とくに後者、東さんのコメントを求めま
す)、やはり「屍鬼」や「死国」は例外として「厳しいホラー」は売れていないようです。おかげで私は貧乏です。福井君に
年収が負けてるんですから(笑)。

 SF・ホラー・ミステリ、いずれにもコアな部分のエッセンスがあり、その周りにガジェットが存在します。ただ、一般で
はガジェットの部分でジャンル分けがされているかもしれませんね。宇宙船や火星が登場してもSFでないもの、幽霊や怪物
が現れてもホラーでないもの、名探偵が推理してもミステリでないもの(コアな本格という意味で)はたくさんありますね。
ごく大雑把に言えば、ミステリとSFのバックボーンは論理で、それを支えているのは近代を是とするoptimismです。逆にホ
ラーは非論理で、支えているのは反近代のpessimismです。両者は完全に分かれるものではなく、おかげで線引きの難しい作
品が生まれるわけですね。SFとホラーで共通するのは崩壊感覚です。確固たる日常世界が崩壊する、しかも超自然的恐怖に
よって現実が侵犯される過程を非論理的に描くのが本格ホラーのエッセンスですが、そこに「理屈」を付与するのはSFのエ
ッセンスに近い。
 基本的に「理屈っぽい非論理の人」なので、結論が出ませんでした。申し訳ない。今後ともよろしくお願いします。

 福井様
 付随して確認しますが、要するに本格ミステリのエッセンスは「関係性」であって、論理は限りなくエッセンスに近い道具
で(道具なんだから「関係性」さえクリアしていれば、非論理に置換してもかまわない)トリックなどはガジェットにすぎな
いということですね? そう考えるととても僕には都合がいいんですけど(笑)。

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 センス・オヴ・ホラー 投稿者:小林泰三  投稿日:03月15日(月)00時14分12秒

 瀬名秀明 様
 ご無沙汰しております。
 以下の引用ですが、環境によっては見にくいので、適当に改行を挿入させていただきます。

 >ちなみに私のデータを示しますと、SF大賞受賞後、BVを上下各5000部増刷し、帯にでかでかと「SF大賞受賞作」と入れま
 >した。その後、下巻のみ3000部増刷がかかりました。ということで、「SF」の文字を入れても増刷はかかるという結果が
 >出ましたが、「日本推理作家協会賞受賞作」「このミス第一位」よりは効果が少ないようです。ただし、SFを読まない人
 >にとって「SF大賞」は非常に権威ある賞に思われていることを実感しています。

「BRAIN VALLEY」はサンプルとしてあまり相応しくないような気がします。SF 大賞をとる前から、既にベスト
セラーだったわけですから知名度は充分なわけで、今後映画化や文庫化があるまでは売れ行きはサチってると考えるのが自然
だと思います。

 >ちなみにBVの場合、編集者は「SF」として売ることを嫌っていましたが、なぜかと問うと「SFでは収まりきらない小説だ
 >から」といったような答が返ってきました。

 これは面白い意見ですね。どんな小説なら SF に収まりきると考えられるのか、そして今までどんな SF を読んできた
のかにも興味があります。

 中島晶也 様
 >しかし、その一方で倉阪さんみたいにマニアックな作風の作家がメジャーになったり、『屍鬼』のようなストレートなホ
 >ラーがベストセラーになる状況もあって、津原泰水や牧野修といった新鋭も現れるなど、本格ホラーも徐々に浸透しつつ
 >あるとは言えるように思うのです。それならば、嘘のブームでもせっかくの機会なんだから本物にしてしまえばいいでは
 >ないか、と私も最近は考えるようになりました。

 もちろん、それはいいことだと思います。しかし、僕の感覚では倉阪さんや津原さんや牧野さんはもっとメジャーになるべ
きなのです。才能あるホラーの書き手がメジャーになっていない状態はやはりホラーブームとは呼べないでしょう。

 松本楽志 様
 >単行本のものしか読んでおりませんが、小林さんの作風はかなり好きです。「酔歩する男」とか「本」みたいな、SFが
 >かった作品が特にかなりつぼにはまりました。これからも読ませていただきます。 

 ありがとうございます。m(_ _)m

 >「肉食屋敷」に収録なかった短編ってまだあるように思うんですけど、どこかから出るのでしょうか? 非常にまちどお
 >しいです。

 SF色の弱いものは今後角川から出る可能性が高いと思いますが、「SFでないと言い逃れできない作品」は他から出るか
もしれません。今のところ白紙状態です。

 福井健太 様
 >小林さんの作品は、結果的に「ホラーとSFの折衝点」を指向しているように感じられるのですが、ホラーとSFの指向
 >性は(魂レベルで)近似しているのかもしれません。「理に落ちる話(SF)」でも「理に落ちない話(ホラー)」でも、
 >作中の現象に求められるインパクトやセンスは似たものであって、ただ「手続き」に微妙な違いがあるだけ――しかしそ
 >の違いに関しても、細かく見ていくと境界線を引くのが難しかったりするわけですよね。極度に進化した科学は魔法とあ
 >まり変わらないわけですし。

「センス・オヴ・ワンダー」と「センス・オヴ・ホラー」には近いものがありますね。「驚きの表情」と「恐怖の表情」も見
た目区別しにくいし。
 ただ、境界が曖昧だということと、片方のジャンルの作品を一方的にもう片方に取り込むのとは違う話だと思ってます。

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 ホラーは売れているか!? 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月14日(日)21時34分35秒

「本格ホラーは売れているのか?」
 この質問に対しては、売れているものもあれば(例:小野不由美『屍鬼』)、売れないものもある(例:これは言わぬが花
ですね)……と答えるしかありません。
 小生が関わった学研ホラーノベルズの場合でも、累計五万部に達した本もあれば、実売五千部未満に終わった(と思われる)
本もあって、悲喜こもごもでありました(まあ、前者よりも後者の占める比率が大きくなったために、同シリーズは打ち止め
となったわけですが……)。
 ぶんか社のHORRORWAVEシリーズ(え〜刊行書目の詳細は、雑誌『ホラーウェイヴ02』に自社広告を沢山入れて
おいたので御参照くださいね>松本様)が中断したのは、会社自体の経営状況&方針に激変があったためで、売れ行き不振が
直接の原因ではありませんが、まあ、そんなに派手な売れ行きでないのは確か……というか、そもそも店頭に本が並んでいな
いのだから売れようもないのですが……これは同社の文芸書営業力がきわめて非力なためです(なお、具体的な出版部数はた
いていの出版社では非公開が常識で、それを前提に仕事をしている以上、小生も独断で具体的数字を明かすわけにはいかない
ことを御了承ください)。
 要するに、現在の「ホラー・ブーム」というものは、実質的には「ホラー文庫」と「ホラー大賞」を両輪にした角川書店の
戦略によって醸成された「雰囲気」的側面が強いと、小生は感じています。
 どんな作家・作品でも、どんな出版社から出る本でも、「ホラー」と銘打てば売れる――そういう状況を「ブーム」と呼ぶ
とするなら、現状はそんな甘いものではない、というのが小生の偽らざる実感です。
 しかし逆にいうなら、文芸書販促のノウハウと実力を兼ね備えた出版社が本気で売る気にさえなれば「本格ホラーだって売
れるんだ!」ということが証明されただけでも、ここ五年ほどの展開は大いに有意義であったと、小生などは前向きに受けと
めている次第(笑)。
 自分の本を例にとるなら、昨年出した『妖髪鬼譚』のような地味な怪談アンソロジー(ただし本格ホラー度の点では純度1
00パーセントと自負しています)が、すぐに増刷がかかって一万部近くまで行ったのは、ひとえにこうした「雰囲気」のお
かげであろうと思っています。「ホラー」と名がつくだけで「暗いオタクの嗜好品」的色眼鏡で見られていた十数年前に較べ
れば、状況は劇的に好転しつつある、とも言えるのです。
 なお、ホラーとSFの問題については、ジャンル論に発展必至なので、パソコンが治ってから改めて。

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 感無量 投稿者:福井健太  投稿日:03月14日(日)13時46分35秒

 東さま
 喫茶店でお話ししたようなテーマ(ガイドブック企画の売り込み/シリーズキャラクターの問題/ホラー因子の所有をチェ
ックするためのマス対策)に関して、個々に討論してみるのも有意義かもしれません。そろそろ現状概観から次のステップに
進むべき時期ではないかとも思うのです。

 小林さま
 小林さんの作品は、結果的に「ホラーとSFの折衝点」を指向しているように感じられるのですが、ホラーとSFの指向性
は(魂レベルで)近似しているのかもしれません。「理に落ちる話(SF)」でも「理に落ちない話(ホラー)」でも、作中
の現象に求められるインパクトやセンスは似たものであって、ただ「手続き」に微妙な違いがあるだけ――しかしその違いに
関しても、細かく見ていくと境界線を引くのが難しかったりするわけですよね。極度に進化した科学は魔法とあまり変わらな
いわけですし。
 帯の惹句に関する疑問点は、おおむね同感です。「(いわゆる「濃い」)SFが売れなかった→売りたいからSFという言
葉は使わない→内容はSFでもホラーという惹句を使った方が売りやすい→ホラーという名称が(なし崩し的に)エンターテ
インメントのかなり広い幅を指す用語になった」ということですよね。おまけに、先述したように、SFとホラーは一見似て
いるケースも多いため、現在のような状況になってしまった、と。

 瀬名さま
 僕は上に書いたような視点の持ち主なので、瀬名さんの2作はボーダー的な作品ではないかと思っています。SF的ガジェ
ットが超自然に蹂躙されるという展開は、たとえば鈴木光司さんの「リング」3部作の正反対だと思うのですが、だからこそ、
いずれも途中までは「自分の好きな分野だ」と期待した一部の原理主義者に「裏切り感」を抱かせてしまったわけですよね。
いずれも個人的には(拡大主義者的には)双方の魅力を備えた作品という印象を抱いたのですが、実のところ、排他主義的な
感想も解らなくもないし……うーん、難しいです。
 結論のない感想になってしまいました。どうも申し訳ないです。

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 すごいです 投稿者:松本楽志  投稿日:03月14日(日)12時19分53秒

 とても濃いメンバーですね……もしかして僕が最年少だったりするのでしょうか……小林泰三さま、初めましてです。
 単行本のものしか読んでおりませんが、小林さんの作風はかなり好きです。「酔歩する男」とか「本」みたいな、SFがか
った作品が特にかなりつぼにはまりました。これからも読ませていただきます。
 「肉食屋敷」に収録なかった短編ってまだあるように思うんですけど、どこかから出るのでしょうか? 非常にまちどおし
いです。

 中島晶也さま
 >通好みのラインナップだった学研やぶんか社のホラー叢書は撤退と不安材料には事欠きませんからね(笑)。

 ちょっとおたずねしたいのですが、この辺の事情はどうなっているのでしょうか、差し支えなければ(ありそうな気もし
ますが)教えて下さい。
 そもそも、ぶんか社のホラー叢書というのはどれのことなのでしょう?

 >しかし、その一方で倉阪さんみたいにマニアックな作風の作家がメジャーになったり、『屍鬼』のようなストレートなホ
 >ラーがベストセラーになる状況もあって、津原泰水や牧野修といった新鋭も現れるなど、本格ホラーも徐々に浸透しつつ
 >あるとは言えるように思うのです。

 倉阪先生がメジャーになったのはミステリを書いたからですよね?
 小野不由美さんはホラーでなくてもたぶんベストセラーになったでしょう。
 僕を含むどれだけの読者がそれらの「本格ホラー」たらしめている部分を愉しめているのかは、疑わしいような気がするの
ですね。
 ですので、

 >それならば、嘘のブームでもせっかくの機会なんだから本物にしてしまえばいいではないか、

 これに、賛成です。
 世の中に本格ホラーがあふれているスキに読者を啓蒙できるようなもの(評論など)が現れてしまえば、いままで「本格ホ
ラー」たらしめているものを見過ごしてきた読者たちが、それらの作品を「本格ホラー」として再認識してくれるかもしれま
せん。

 となると──、ミステリと本格ホラーの融合という小林先生や倉阪先生の試みというのは啓蒙する意味でも、かなりおいし
い作品なのかなあ、と思ったりするのです。
 現に、僕が呪われたのが、倉阪先生の「赤い額縁」ですし(笑)
 #そうか、啓蒙=呪い、なのか!

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 ホラー・ブームについて 投稿者:中島晶也  投稿日:03月14日(日)11時22分55秒

 小林様
 初めまして。
 ご質問の件、実際の売れ行きに関しては私はまったく知りませんので答えようがないのですが、ホラー・ブームについてだ
け、ちょっと私見を述べさせていただきます。
「ホラーは本当にブームなのか?」とは、私も常々疑問に感じておりました。小林さんもご指摘の通り、売れている作品の多
くは本格ホラーではありませんし、さらに翻訳モダンホラーは絶版品切れの山、通好みのラインナップだった学研やぶんか社
のホラー叢書は撤退と不安材料には事欠きませんからね(笑)。
 『幻想文学』最新号に稲生平太郎氏が「ブームなんてどうせすぐ終わるだろうし、関係ないよ」というようなことを書かれ
ていますが、恐らく多くの古参怪奇ファンの意識はそんなところでしょう(これは別に悲観的なのではなくて、怪奇ファンの
尺度が10年20年程度ではなく、100年単位ぐらいだからなのですが)。私も少し前まで同じような意見でした。
 しかし、その一方で倉阪さんみたいにマニアックな作風の作家がメジャーになったり、『屍鬼』のようなストレートなホラ
ーがベストセラーになる状況もあって、津原泰水や牧野修といった新鋭も現れるなど、本格ホラーも徐々に浸透しつつあると
は言えるように思うのです。それならば、嘘のブームでもせっかくの機会なんだから本物にしてしまえばいいではないか、と
私も最近は考えるようになりました。
 うーん、これでは単なる決意表明ですね(笑)。話題がぜんぜんずれてしまいました。ごめんなさい。

 瀬名様
 初めまして。『このホラーが怖い』では好き勝手なことを書かせていただき、たいへん恐縮しております。
 さて、私は完全右脳派人間なので外しているかも知れませんが、ホラーとSFの売り上げを本気で比較しようとしたら、条
件を整えるのがかなりやっかいなことになるのではないでしょうか。複数の作品を対象にする場合には、ホラーとSFの線引
きの問題と、作品の力量の差による影響をどう除外するかという問題があります。下手をすると、<異形>問題の比ではない
大騒動に発展しそうな気が……(笑)。それと何よりも、公の場で具体的な売れ行きの数字を公表することは、どの作家も出
版社もたいていは嫌がるものなのではないですか?
 瀬名さんの『ブレイン・ヴァレー』のケースのように1つの作品のみを対象にした場合には、かなり説得力がありますね。
でも、これで明らかになるのはせいぜい、レッテルとしてのSFとホラーの比較でしかないのでは? もちろん、それはそれ
でたいへん有意義なことではありますが。

 倉阪様
 <異形>問題に関しては、そう心配されなくとも自然に終息していくのではと思うのですが(そうですよね、東さん?)。
根本的な問題は、十分なスペースでホラーに関する議論を尽くせる場が、出版業界で確保できていないことだという気がしま
す。それを補う意味でもここのようなオンラインの交流の場は有効だと思うのですが、福井さんのご負担の増加は一考を要す
ることですね。どういう形であれ、ホラー系サイトして独立することは必然の流れかと思います。独立具体化の際には、微力
ながら私もお手伝いさせていただきますので、遠慮くお申し出ください。

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 はじめまして 投稿者:瀬名秀明  投稿日:03月14日(日)04時27分25秒

 はじめまして。楽しく拝見しております。海外にいるためSF大賞授賞式を欠席し、失礼をいたしました。現在私はインター
ネットになかなかつなげない環境にいるのですが、小林さんのご発言の内容は私も常日頃疑問に感じているところであり、何
かの参考になればと思い、お邪魔いたしました。

 小林泰三さま
 お久しぶりです。ホラーが本当に売れているのか、SFは本当に売れていないのか、というのは私にとっても非常に興味深い
テーマです。
 ちなみに私のデータを示しますと、SF大賞受賞後、BVを上下各5000部増刷し、帯にでかでかと「SF大賞受賞作」と入れまし
た。その後、下巻のみ3000部増刷がかかりました。ということで、「SF」の文字を入れても増刷はかかるという結果が出ました
が、「日本推理作家協会賞受賞作」「このミス第一位」よりは効果が少ないようです。ただし、SFを読まない人にとって「SF大賞」は非常に権威ある賞に思われていることを実感しています。(しかしSF大賞を受賞したから読んでみた、という読者を具体
的に私は知らない。ウェブ上でホームページを開設しているSFファンでも、SF大賞を取ったのでBVを読んでみた、という人を見
たことがない。「SF大賞」はSFファンにとって魅力がないのだろうか? と少し不安になります)
 ちなみにBVの場合、編集者は「SF」として売ることを嫌っていましたが、なぜかと問うと「SFでは収まりきらない小説だか
ら」といったような答が返ってきました。
 ホラーとSFの売上の比較ですが、なぜ誰もしっかりとした調査をおこなわないのか、非常に不思議です。推理作家協会、SF
作家クラブ、文芸家協会の各会員にアンケート調査し、「あなたはどんなジャンルの小説を書いていますか」「あなたはSFが
売れていないと思いますか」「あなたの過去3年間の出版点数と平均的な初刷数を教えてください」などを問い、本当にミステ
リーやホラーのほうが売れるのか調べてもいいのではないかと思います。立派な研究成果として学術雑誌に投稿できるでしょう。

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 はじめまして 投稿者:小林泰三  投稿日:03月14日(日)00時12分22秒

 初めまして。小林泰三と申します。ジャンルとしてのホラーについて熱い議論が行われていると聞き、駆けつけてまいりま
した。ただ、オフラインで書いたものをアップしておりますので、タイミングを逸した発言などあると存じますが、どうかご
容赦くださいますようお願いいたします。

 さて、最近疑問に思うことで、出版現場でのジャンルの混乱があります。特にホラーとSFの関係がおかしいように思いま
す。僕はデビューの経緯からして、出版社からはホラーを書くように期待されているわけですが、実は本人はホラーばかりに
執着しているわけではなく、他分野にも進出したいと考えていました。そこで、意を決して編集者に「ミステリを書いてみた
い」と主張すると、あっさりと「それは面白いですね」と賛同されます。そこで、調子に乗って「実はSFもやってみたいん
ですよ」というと、「小林さん、悪いことは言わない。SFはやめておきなさい」と言われます。
 しかし、同じ出版社からは現にSFのベストセラーががんがん出ているわけです。試しに恐る恐るSFを書いてみると、ち
ゃんとホラーとして出版されました。
 思うに、出版現場には

 (1)SFは売れないが、ホラーは売れる。

 という神話があって、それがいつのまにか

 (2)売れているなら、それはSFではなく、ホラーである。

 とすりかわってしまったのではないかと思うのです。

 で、次ぎの段階として、本来SFファンになる人がこのような「ホラー」を読んで、「ああ。僕はこういう科学的な背景を
持った作品が好きだ。ということは僕はホラーファンなんだ」と認識してしまうことになります。現在の「ホラーブーム」と「SF冬の時代」は実はこうしたジャンルの取り違えから生まれた幻想なのではないでしょうか?

 そこで、皆さんにお訊きしたいのですが、

 (1) 帯や宣伝に「SF」の文字を入れると売れなくなる、というのは根拠があることなのでしょうか?
 (2) 本当に今はホラーブームなんでしょうか? つまり、「ホラー」というレッテルを貼られた SF だけではなく、本
格ホラーも売れているのでしょうか?

 それでは、これからもよろしくお願いいたします。

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 返事と提案 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月13日(土)23時07分58秒

 フク様
 そのとおりです。掲示板の議論のために小説が進まないのは本末転倒です(笑)。

 中島様
 というわけで、東さんと中島さんに任せます。昨日も東さんとさんざん議論していました(べつに争っているわけじゃない
んですが、微妙な差異があるので)。

 それに付随して、櫻井様
 本格的に電脳空間で幻想文学会を再興する気はありませんか。福井君がかなり負担になってきているようで(ミステリのロ
グもできそうな雰囲気だし)、独立してはどうかという提案があったのですよ。で、管理人ができるのはコンピュータが専門
の貴兄しかおるまいと思うのですが。そうそう、会長もネット環境にいるんですよ。

 最後に、松本様
 「呪われた」のほうが正しいと思いますよ(笑)。

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 初めまして 投稿者:治田豪和  投稿日:03月13日(土)16時33分45秒

 東雅夫様
 昨年末には、某所地下で辞典にサインをどうもありがとうございました(笑)。
 ところで「ラヴクラフトの遺産」や「インスマスを覆う影たち」というのは、いつ頃でるのでしょうか?

 倉阪鬼一郎様
 小説、Weird World、楽しく拝見しております。
 そういえば最近、倉阪さんも関わっておられた定本ラヴクラフト全集で、よーく注意して活字を見てみると、何故か同じ文
字について、ランダムに2種類の活字体が使われてるのに気づきました。たとえば今手元にある9巻から適当に探してみると、
162ページの上段1行目「視覚的な印象がつぎつぎに」と、2行目「機械的な運動はまったく関心の外に」では、それぞれ
の文の中の「的」「な」「に」の字体が異なっています。別に意味はなさそうだし、謎です。
 どうでも良さそうなことなんですが、何かご存じですか。

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 梅原書簡=竹内文書説? 投稿者:中島晶也  投稿日:03月13日(土)00時25分28秒

 福井様
 ううむ、ファナティックな雰囲気と大胆不敵な飛躍の連続、細部の詰めの甘さには、確かにトンデモの香りが……(笑)。
何とかまともに対話を進めようとしている青山智樹さんは、ほんとうに凄いと思います。基本的な主張には、確かに見過ごせ
ない指摘もいくつかあるんですが。

 東様
 だから、トンデモの方まで信じちゃう輩が出てくるのでは、という心配が抑えきれないんです。本音はそれより何より、
「舐めたらいかんぜよ!」(古い)ということなんですけど(笑)。

 特定ジャンルへの拘りについては、福井さんがいみじくも「呪い」とおっしゃられたように、確かにマニアを閉じた世界へ
閉じこめる場合もありますが、逆にその呪いを足場にして広大な外界へ乗り出していくことだってできるんですよね。ホラー
関係者だと、荒俣・大瀧の両巨頭辺りが好例でしょう。そもそもオタクやマニアという言葉が悪い意味にしか使われない風潮
は、ちょっとどうかと思います。まあ、オタクはもともとが差別語みたいなものだから、仕方ないと言えば仕方ないのですが。

 倉阪様
 啓蒙書は絶対に必要だと思います。ご指名は光栄ですが、私は一人で一冊書き上げる自信がまだありませんので、東さんに
現在開講中のホラー講座の内容をまとめていただくというのはどうでしょう。ラテンアメリカ文学とか、かなり高度な範囲も
カバーしているみたいですし。あるいは、ここに集まっているメンツに風間健司さん辺りを加えて役割分担し、共著にすると
か。で、皆で大量の返本を仲良く山分けにするんです(笑)。

 SFとの差別化といったら、やはりワンダーを支えるロジックの問題でしょう。ホラーの場合は心理的に了解できればそれ
でOKだけど、SFはそうはいかないし、SFはロジックを楽しむものだけど、ホラーでは理に落ちるのは野暮とされるんで
すから。一般読者にどれだけ理解してもらえるかどうかは確かに難しいですが、両ジャンルの健全なる発展には、互いに本分
を尽くしつつ成果を交換し合うのが理想的かと(いまひとつ具体性に欠けるなあ)。

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 はじめまして 投稿者:西崎 憲  投稿日:03月13日(土)00時00分51秒

 こんにちは、みなさま

 大森さま
 はじめまして。西崎と申します。大兄の精力的な御活躍遠方より敬しておりました。先ほど貴ホームページ上の日記を拝見
いたしたところ、小生も編集に携わった『幻想文学大事典』の話題が出ておりましたので御挨拶がてらこうして書きこんでお
ります。そうですね、タイトルは大変難しかったです。原語を活かすと『恐怖超自然百科』というふうになるわけですが、内
容のすべてを表す適切な言葉、しかもタイトルにふさわしい言葉を見つけることができず、結局見切り発車のようなかたちで
現タイトルになりました。確かに「『幻想文学』に関する事典 」という意識で購入されたファンタジー好きの方などは好きな
作家の名前がなく落胆されるかもしれませんね。その点は少し申しわけなく思っております。ともあれこれからもよろしくお
願いいたします。

                                 西崎 拝

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 書き込みに勇気が必要になってきましたね… 投稿者:フク  投稿日:03月12日(金)21時56分07秒

 ここのところのログの増え方に圧倒されつつも、相変わらず興味深く拝見しています。
 
 松本楽志さま(hosokin's roomの今日の言葉に取り上げられましたね、ぱらでぁす・かふぇ)同様、私もミステリ中心の一
介の読書人です。こちらで相当ホラーについて勉強したつもりですが、やっぱりいまだ自分の判断で「本格ホラーか否か」は
判断しきる強い自信はないです。なぜか、と自分に問いかけた場合、結局のところ層の薄さに繋がっていくのでは、と考えま
した。まだまだ判断母体が少ないのです。私のような一般読者に対し「あれは本格ホラーだ」「これは似ているけれど違う」
と色んな場所で論議されるようになれば、もっと分かるようになる気がします。以下、部外者の戯言です。

 (倉阪先生)
 >一般の人は「黒い家」を評して「ついに日本に本格ホラーが現れた」と書いた北上次郎の文章を読んで「なるほどそうか」
 >と思ったりしているわけで、そちらのほうがよほど足を引っ張っていると思うんですがね。
 
  作家や編集者、評論家など啓蒙する立場にいる人が「ホラー」に対する理解をしていない状態では、濃い(濃くなくても)
ミステリーファンやSFファンの人には「ホラー」を理解することは出来ないでしょう。本格ミステリという言葉は今やミス
テリファンなら誰でも(定義はとにかく)知っている用語ですが、この言葉がこれだけ広まったのはやはり啓蒙する層、作家、
評論家の方々に先に常識のように広まっていたおかげではないでしょうか。
 ですから「本格ホラー」をまず啓蒙すべきは対象になるのは「広義のホラー」を解説したり、出版したりする立場にある人
達なのだと思います。そのためには東さまのおっしゃるように「まず優れた作品ありき」で、その作品が話題性を持ち、色ん
な部分で取り上げられ、かつ「本格ホラー論議」というムーブメントを巻き起こすくらいインパクトがあれば言うことはあり
ません。
 一般読者への啓蒙、という点はその後で充分かと思います。「本格ホラー」の精神に興味を持ってもらうには、その言葉自
体を広める必要があるのではないかと。
 (自分で書きながら理想論に過ぎるとは思いますが…)

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 ホラーはどこにある 投稿者:松本楽志  投稿日:03月12日(金)17時23分55秒

 倉阪さま、東さま
 ショックを与えてしまいましたので、実はちょっとあせっています。

 僕が本を、たとえば〈異形〉を読みますよね、で、僕の中で素人なりに「ホラー」の区分があるので、まずこれに照らし合
わせて、これはホラーかなあ、という評価は漠然と持つわけですが、これには実は全然自信がないのですね。
 だから井上氏の解説でまったくそれらしくないように書いてあればそう下方修正してしまいますし、逆に「これはホラーだ」
とかいてあれば、そう修正しているのです。
 ですから「わからない」というのがまったくゼロからわからないというわけではありません。その点は安心していただきた
いと思うのですが、やはり、何か、啓蒙書のような「保証」は欲しかったりするのですね。

 ところで、
 僕はミステリ研にいたのでミステリに関しては、たとえば「本格」のようなものの肌触り、といいますかそういうものに関
してはわかるつもりでいるのです。
 ここが僕にとってのホラー研になっているのは確実で、すこしはホラーに対しての理解が深まっているのではないかと思う
のです。これは大変に大きいです。
 僕がホラーを最近読んでいるのは倉阪先生の本のおかげです。入るところが倉阪先生だったのはかなり幸せな読者だと思う
んですが、どうでしょうか。

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 ちょっと腰が砕けてきたかも 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月12日(金)12時16分05秒

 東様
 確かに松本さんの書き込みを見てちょっとショックでした。「水無月の墓」の書評をあれだけ書ける方が<異形>のホラー
がどれかわからないという現状なのか。うーん。
 やはり「ホラー入門」という啓蒙書が必要でしょうな。これだけ新書があるんですから(というわけで、編集者のみなさん、
東氏に依頼しましょう。中島さんでもOKですよ)。問題は、東さんのホラー時評を読んでるのは濃い読者であって、一般の
人は「黒い家」を評して「ついに日本に本格ホラーが現れた」と書いた北上次郎の文章を読んで「なるほどそうか」と思った
りし
ているわけで、そちらのほうがよほど足を引っ張っていると思うんですがね。
 さて、松本さんと大森さんと私は水瓶座のA型なのですが、これは単なるつなぎで、<異形>の話に戻ります。SFやファ
ンタジー系にはホラーの因子を持っているにもかかわらず、まだ目覚めていない作家がいると思うんですよ。で、実際に依頼
したら「ホラーまがい」だった、因子がなかったということはもちろんある。でも、なかには牧野さんとか田中さんとか因子
が目覚める人がいるわけですから、結果としての「ホラーまがい」を含めて実験場として正しいと思うんですけどね。もちろ
ん東さんの批評とは別問題で、ホラーと非ホラーを分けて論じるのは有意義だと思うのですが、「足を引っ張るな」というの
はまだ納得できませんね。周辺にいろいろあったほうがコアも目立つし、活気が出ていいと思うんだけどな。

 中島様(一部、大森様、福井様?)
 共産主義というのは半ば冗談ですが、まあ漠然としたリアリズム系という意味で使いました。ここには「水戸黄門」型のミ
ステリーも含まれます。
 あと、SFとの差別化ですが、これも一般読者に伝えるのは難しいですね。それに、「パラサイト・イヴ」も「天使の囀り」
も大森さんに返してあげたいのですが(笑)、これは返すに忍びない。梅原だったら喜んで返しますけど(笑)。
 基本的に私はジャンル・ホラーの書き手なんですが、想像力の淵源をたどると、SFのセンス・オブ・ワンダーや崩壊感覚、
ミステリー(ミステリに表記を変えるかな?)のそれとは質の違う崩壊感覚、笠井理論の謎・解明・謎における後者の謎には
ホラーとの共通点があると思います。だから、作家単位でも分裂している部分があるので、どうもスタンスが取りづらいです
ね。

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 短信 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月12日(金)06時42分16秒

 松本様
 はじめまして。率直な御意見、ありがとうございます(〈異形〉の書評集も興味深く拝読しています)。
 しかし、ちょっとショックを受けています。
 というのも、ミステリ読みとしては決して「そこそこ」なんてものではないと噂に聞く松本さんにして、そういうふうに感
じられているとは……。
 これはやっぱり深刻だと思うよ、鬼さん?

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 心外なのよ(笑) 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月12日(金)06時30分44秒

 中島様
 そうなのです。自慢じゃないが、小生くらい〈異形〉について多くを語ってきた評論家はいないと思うんですけどね〜。そ
れは当然のことながら、〈異形〉の偉業に敬意を払ってのこと、なわけです(というわけで鬼さんも御安心を!)。
 でもって、小生が〈異形〉をネタにあれこれと発言しているのも、評論家として、このおいしい素材を骨の髄までしゃぶり
尽くして(めいっぱい利用し尽くして)やろうと思っているからです(笑)。
「ホラーとは何か」を啓蒙するのに、これほど好適な器はないですからね。なにしろ、優れた本格(超自然)ホラー、凡庸な
本格ホラー、ホラーまがい、非ホラー(SFやファンタジー)と、すべて揃っているのですから!
 もちろん、まず何よりも「優れた作品ありき」なのは当然のことです。
 そのための戦略は、中島さんが提唱されるとおりだろうと思いますし、そのセンに沿って、小生も微力を尽くしたいと思っ
ています。
 梅原氏の主張については、業界の最底辺で仕事をしてきた身としては、非現実的としか思えない部分が多いので(大森さん
の伝言板でも話題になっていた雑誌の収支問題なんか端的な例ですが。あっ、そうだ、大森さん。SFMと『幻想文学』の経
営状況を一緒にしないでください(笑)。これでもまだ身の丈に合ってないから、俺はあちこちで出稼ぎしてるんじゃないか
ぁぁぁ〜)、まあ、今の時点では(要は『カムナビ』の成否次第では!?)
 作家さんとしての決意表明くらいにしか認識していないのですけどね。
 そもそも『幻想文学』編集長としてのホンネを言えば、百万部売れようとクズはクズ。たとえ初版が千部しか売れなくても
名作は名作として存続してゆく……そういうものだと
開き直ってますから(笑)。

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 誘爆続行中 投稿者:福井健太  投稿日:03月12日(金)03時57分18秒

 倉阪さま
 はい。もちろん国民数のことは考えておりました。だからあれは極端な理想論です。
 ああいう書き方を選んだ理由は、現状からすぐに「本格ホラー」の純粋性を持った国家を作ろうとするのであれば、何処か
に無理が生じるのはやむを得ないと言いたかったからですね。あれは「門戸を広げすぎる国々」の逆モデルとして挙げたわけ
で。もちろん、あくまでも「すぐに」という条件下での話ですが。
 長期的展望として言うのであれば、とりあえずはスーパーナチュラル組の結束を固めるしかないと思います。あとは一般読
者にも解る形で「スーパーナチュラル度」の指標を示すとか。「異形」にその旨を明記してもらったうえで、各収録作の表紙
に★印を付す……みたいな手も考えられますね。さすがにちょっと難しいかもしれませんが。

 大森さま
 なるほど。笠井さんと東さんでは「足を引っ張らないでね説」は共通だとしても、一度国家を確立できているかどうかが異
なるわけですね。うーむ。本格ミステリでは拡大主義を取ってもコアの生命維持が可能なので、僕は拡大主義を取っているわ
けなんですが……もしもコアの生命が犠牲になるのなら、いきなり保守に変貌する可能性大です。だから笠井説には「条件付
き反対派」ですが、東説には「賛同派」。あくまでも郷土がちゃんとあるという前提でのやわな遊牧民なので。

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 東さまの危惧について 投稿者:松本楽志  投稿日:03月12日(金)02時09分39秒

 東さま
 >また〈異形〉がおよぼす影響が大きく、しかも「パッケージはホラーに来ている」からこそ、ジャンルに無自覚な一般読
 >者が、ホラーもホラーまがいも一緒くたに「ああ、ホラーってこんなものか」と思われることに一抹の危惧を覚えるわけ
 >です。

 という文を読んで「ああ」と思わされました。
 まさに僕にとってはどれがホラーなのかがさっぱりわからないのです。
 僕にとっては〈異形〉における各短編のジャンルは井上雅彦氏の解説がすべてです。井上氏が「これは○○だ」と書いてい
れば「へーそんなもんなんだ」と思いますし、何も触れていなければ勝手にホラーだと思ってしまうわけです。僕は自分のこ
の読み方から見て、東さんの一抹の危惧は一抹ではない気がしてしまいました。

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 士農工商って…… 投稿者:中島晶也  投稿日:03月12日(金)01時49分27秒

 作家は生産者だから農と工。編集者は流通に携わっているから商。すると評論家が士? 確かに、人の作ったものを消費す
るだけなのに、偉そうにしていますしねえ(笑)。

 倉阪様
 ホラー、ファンタジー、SF、ミステリの連合軍は解りますが、共産主義とはいったい……社会主義ならぬ社会派同盟でし
ょうか?
 私が今までのところ、この掲示板で積極的に<異形>を弁護をしていないのは、東さんだって<異形>の真価をちゃんと判
っているはずだと確信しているからです。

 東様
 その上で危惧を感じずにはいられない、という東さんのお気持ちはよく判るのですが、そもそもその危惧は、本格ホラーの
方が境界領域の作品より勢いがあれば、取るに足りないものになるのではないでしょうか。だから私は、今度は本格ホラーが
どうするかだ、と再々申し上げているのです。<異形>は境界領域の作品をも取り込むことによって、広い層の支持を得てい
る。そのお陰で本格ホラーも発表の場を確保できている。それならば、境界領域の作品についてあれこれ言うよりも(あまり
に酷いものは仕方ないですが)、<異形>という器を本格ホラーがいかに利用するかを考えた方が、得策なのではないでしょ
うか。
 作家は優れた本格ホラーを<異形>に書かせてもらう。編集者はそのような作家を<異形>からスカウトし、さらなる活躍
の機会を与える。評論家は<異形>の中から優れた本格ホラーを取り上げ、然るべき評価をしてあげる。そうして本格ホラー
の勢力を伸ばしていくのが現実的で有効な戦略だと私は思うのですが、いかがでしょう。
「梅原書簡」に言及したのも、もはや帝国内で揉めている余裕はないとの示唆のつもりでした。と言いつつ、地雷は東さんに
踏んでもらおうという小狡い企みもあったのですが(笑)、見事に返されてしまいましたね。戦は士の仕事ということで、仕
方ない、私が踏みましょう。
 梅原氏の<サイフィクト>構想は、SFの再興という観点では検討に値するところもあるように思いますが、ホラーにとっ
ては、ホラーの現状が混乱しているのを良いことに、看板だけを利用し混乱をますます酷くする迷惑行為以外の何ものでもあ
りません。(あ〜あ、言っちゃった)。もし、梅原氏の構想があのまま実現したら、ホラー帝国は存亡の危機に見舞われるや
も知れません(というわけですから、倉阪さん、今後はSFとの差別化も考える必要ありですよ)。
 しかし、現状が混乱しているのは事実なので、帝国の歴史的経緯のみを楯に理屈で梅原氏の動きに対抗するのは、非常に困
難です。こちらから現状を変えること、即ち、力ある作品を生み出していくことで本格ホラーを興隆するしか、対抗する術は
ないのです。
 梅原氏に言わせればホラー帝国なんて、それこそ2400年前の時代遅れのイデア主義者の集団ということになるのでしょ
うね。でも、古いと言われると何だか誉められたような気持ちになってしまう(笑)。どうせなら、2400万年前の人類誕
生以前の、とか言われたいなあ。

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 SFの商業的退潮の原因 投稿者:大森望  投稿日:03月12日(金)00時58分04秒

 東さんのいう、「SF退潮は性急な国際主義が原因」説は、ミステリマガジンの連載で笠井さんが書いてた歴史観と重なり
ますね。帝国主義で領土を拡張したが、植民地(ファンタジー、ホラー、架空戦記、スペースオペラ)がみんな独立してしま
うと本国は著しく疲弊していた、と。
 考えてみれば、笠井さんが本格ミステリについて憂慮していることと、東さんがホラーについて憂慮していることは共通な
ので、問題意識が一致するのは当然かも。
 僕は純血主義原因説(心のせまいSFファンのせい)をとってるので(SFサイドから積極的に拡大主義をとっていた印象
がないため)、倉阪さんと同じ立場です。「魂の叫び」は、おなじ魂を共有している仲間内でしか叫ばないようにしよう、と
か。ときどき失敗しますが。
 なんていうか、「こんなのSFじゃない」と叫ぶと過剰反応されがちなので。わたしの場合、心おきなく「こんなのホラー
じゃない!」とは言えますが(笑)。

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 選民による小国は可能か 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月11日(木)23時08分19秒

 福井様
 本格ミステリーほど土壌があれば可能でしょうが、ホラーでそれをやるとあまりにも小さくなってしまうんですよ。スリラ
ーは当然除く、角川ホラーの大半は私の感覚ではSFですから(だから私も民族主義者なんです。ここでやってるのは右翼内
の主に戦略に関する議論ですから)、これも除く。本籍SFの人まで除くとほんとに少なくなる。怪奇小説の人だけでは国は
できません。だから「スーパーナチュラル」という最低限の旗印でホラー帝国の建国を目指すしかないのです(世間的には
「恐怖」を旗印とするべつのホラー共和国ができつつあるのですが、われわれの理想とする帝国とは違うのですよ)。

 で、ムーヴメントという話になりまして、

 東様
 <異形>と幻想文学会は構造が似てるんですよ。
 一時期いろいろ分科会ができて膨張しましたが、率直に言って幻想文学なんてあまり関係のない人も加わっていた。である
がゆえに、あれだけのムーヴメントになったんですよ。だから、<異形>もホラーのパッケージでたくさん作家が集まってい
るわけですから、「ホラーまがいのもの」が目立つにしても、ホラーの足を引っ張っているとは僕には思えないのですが(も
ちろん、私は優れた本格ホラーを書けばいいだけの話なんですけど、ホラーには「因子の発露」が必要ですから、テーマとの
擦りあわせが大変なんですよ。これはただの弁解だな)。で、空中分解した後、季刊「幻想文学」というコアなものが残った
わけです。<異形>はこれから長編シリーズも始まりますから、コアなものが残っていくと思いますよ。

 それにしても、どうして私ばかり<異形>の弁護をしているのだろうか(笑)。

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 うーん、うじゃうじゃ 投稿者:福井健太  投稿日:03月11日(木)19時14分49秒

 中島さま&東さま
 ホラーログに関しては、適当にカットして編集しますので、書きやすいように書いていただければ大丈夫ですよ。その代わ
り、編集権は(基本的には)こちらにあるということで。
 新しい国の建設という比喩は解りやすいです。で、いきなり結論をいえば、そのためには「異種族の排除」というか、わり
と厳しめの差別が必要だと思います。最もコアな部分に位置する(と思われる)人々は、むしろ意図的に排他性を強めるわけ
ですね。そうすれば、その周囲に位置する人々は、もう少し寛容な立場を取らざるを得ない。その結果として、適正なバラン
スが確立される――という展開を期待するわけです。
 建国段階においては、鎖国というのはわりと正しい戦略だと思います。国家が運営できる状態になるのを待ってから、よう
やく門戸を開くわけですね。少なくとも本格ホラー帝国に関してはそうではないかと(印象論ですが)。「何の国だかよく解
らない大国」よりも、とりあえず「選民による小国」を確立し、その後に拡大を目指すわけです。その戦略としては、近隣諸
国に布教+スカウトに行く(「異形」に書くとか)というのもアリですね。
 ……って、改めて読み返してみたら、東さんとほとんど同意見じゃないか(>自分)。

 倉阪さま
 民族主義万歳です。……というか、僕はわりと選民主義者だったりします。
 世間は「剣呑な場所」かどうかも認識しないと思います。それは「すでにマニアックな視座を持ち得た人」の発想ですよね。
あと、SFが衰退しているという印象も(個人的には)あまりないんですよ。しいていえば、それは「マニアがいう『衰退』」
に過ぎないわけで。まあ外から見た感想に過ぎませんが。
 ともあれ、どんなジャンルであれ、マニアックなレベルまで絞り込めば、読者数が限定されてくるのは当然のことですよね。
京極夏彦が30万部売れるという側面だけではなく、国書の「世界探偵小説全集」の部数にも目を向ける必要があるのと同じ
ことで。

 桜樹ルイ16世さま
 そうなんですよ。実際のところは、さらに遊牧騎馬民族というのがいて、たとえば「俺が通った所は全部ミステリ帝国だ」
とか「俺が触ったものは全部ホラー帝国だ」と主張したりもするわけですが。だから国境線を引くのは難しいのです。
 いしいひさいち大先生の4コマに、国境付近の住民たちが国境の位置を知らず、軍人がやむなく「多分このあたりが国境だ
から、なんとしても死守するのだ!」と叫ぶというものがありましたが……なんだか深いですよね。

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 ソフト右翼とハード右翼 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月11日(木)18時14分27秒

 東様
 SFに関しては確かに二つの説を聞きますね。
 念頭にあったのはクズ論争とか梅原とか、その辺の漠然としたことです。

 話変わって、国際主義と言っても国土の画定が前提ですから、地図を書いたりいろいろやっていたわけです(ことに、ホラ
ーとスリラーは違う、ホラーはミステリーのサブジャンルではないという点が強調点ですね)。で、ここから少し変わってく
るんですけど、ホラー、SF、ファンタジー、一部のミステリーは想像力を基盤とするジャンルですから、いわば自由主義陣
営なのですよ。ですから、国土を画定して独立したうえで近隣諸国と手を結んで共産主義と戦うんです(笑)。そのあたりが、
ソフト右翼とハード右翼の違いなんでしょうな。ミステリーとホラーの違いこそあれ、福井君とスタンスが似ているのかも。
ジャンルミックスはジャンルミックスで歓迎すべきだと思うんですが。それに、他ジャンルの作家がホラーに接近する動きも
(ミステリーではことに顕著ですね。去年の「マニアックス」とか)。
 危機感があるのは同じなのですが、私の場合はただのスリラーをホラーと呼ぶ傾向に対してで(風間賢二氏のもろもろの発
言とかどう思います?)、その点では両氏ともに一致しているのでは?

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 かれらの失敗 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月11日(木)05時15分31秒

 倉阪様
「今日のSFが商業的に衰退傾向にあるのは、心の狭い人が多すぎるためではないか」という御指摘、「ジャンルにこだわる
民族主義者が多すぎるから、SFは衰退傾向にある」と解釈してよろしいのでしょうか?
 もちろん何であれ過剰・過激に走りすぎては事を誤るのは当然なので、それを前提にして敢えて反論してみるのですが、安
易で性急な(富国強兵を怠ったままの)国際主義は、かえって国家崩壊につながる、その典型が日本SFではないか(問題発
言か)という見方もあるのでは?(笑)。
 あれもSF、これもSFと周辺領域を取り込む一方で、「核」となるべき作品を育成する土壌を整える作業がおざなりにさ
れたがために、空洞化を招いた……一部外者である小生の目には、そう映ります。
 だからこそ、小生はジャンル・ホラーの現状に危機感を抱くわけですし、「ホラーの核とは何か」を一般読者に向けてアピ
ールすることが急務だと考えるわけです。
 また、作品の送り手側である作家−評論家−編集者が、相互に甘えや馴れ合いを排した高いレベルで、今こそ切磋琢磨する
必要があると、腹を括っているわけです。
 日本SFの失敗を、ホラーが繰り返さないためにも。

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 異形という器 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月11日(木)04時50分51秒

 倉阪様
 小生は〈異形〉という器そのものを批判する気はないんですよ、まあ先刻御承知かと思いますが。前信でも言明していると
おり、出版戦略としては、あれは正解なのです。
 実際、あのアンソロジーが全国のコンビニに並んだことによって、倉阪鬼一郎とか牧野修とか加門七海とか奥田哲也とかい
った、コアなジャンル・ホラーの書き手の作品が、従来とは比較にならないくらい多数の読者の目にふれるようになった、と
いうメリットは多大なものがあると思いますし。
 この点では小生も、鬼さんのいう「民族主義と国際主義」理論に賛同するものです。
 そういう貴重な晴れ舞台なればこそ、ホラーの書き手諸氏には極力ハイレベルの「これがホラーだ!」と胸を張れるような
作品を一編でも多く発表してほしいと切望するわけですし、SFやファンタジーの書き手諸氏には、「お願いだから、ホラー
の足を引っぱらないでね」と(ホンネを言えば)願ってやまないわけです(笑)。
 また〈異形〉がおよぼす影響が大きく、しかも「パッケージはホラーに来ている」からこそ、ジャンルに無自覚な一般読者
が、ホラーもホラーまがいも一緒くたに「ああ、ホラーってこんなものか」と思われることに一抹の危惧を覚えるわけです。
 小生が〈異形〉に対して、一貫して辛口の批評姿勢をとってきた理由は、以上に尽きます。いちいち「これはホラーではな
い」云々と口やかましいことを言うのも、アンソロジーとしての方向性を糺すのも、それが現状では唯一の「月例ホラー時評」
を担当している「ホラー評論家」の果たすべき最低限の責務ではないかと考えるからです(それに称賛や旗振りならSFの人
たちがうんざりするほどやってくれてるではないの?)。
 SFマガジン三月号のアンケートで小生は、〈異形〉に関して「その臆面もない玉石混淆ぶりが、ホラー評論家に生きる希
望と歓びを(笑)与えてくれる」と書きましたが、これは皮肉でも何でもなく、ホラー評論家としての偽らざる本心なのです
よ。
 なお「民族主義」と「国際主義」の問題に関しては、別に思うところがあるのですが、それはまた改めて。

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 御協力に感謝(笑) 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月11日(木)04時35分53秒

 福井様
 小生がジャンルにこだわるのは、評論家および雑誌編集者としての「業」というか本能みたいなものだと思います。
 新しく誕生した作品なり書物なりを、過去の遺産と照らし合わせたうえで然るべき評価を下し、ホラーならホラーの歴史の
中に位置づけてゆく――そういう作業を遂行するためには、自分なりの確固たるホラー観やジャンル意識というものが必要不
可欠なわけで。
 あとは……中島さんが代弁してくれたな(笑)。
 新しい国を興すには、士農工商(!?)それぞれが、それぞれの本分を全うしなければならないわけで、われわれ評論サイド
に身を置くものは、言わずもがなのことでも、敢えてキチンと言明しておくのが使命ではないかと思うわけですよ(ミステリ
帝国だって、かつてはそうだったわけでしょ?)。

 中島様
 そうなんですよ。そもそも評論家兼編集者というのはイレギュラーな存在なわけで(編集者から評論家になった人はたくさ
んいますけどね)、そこがホラー評論家としての目下のジレンマでもあります。
 もちろん「おまえの本はどうなの?」と批判されることは覚悟の上で、やってるわけですが。それに〈異形〉に関していえ
ば、そういうポジションの人間だからこそ、逆に踏み込んだ発言ができるのだろうとも思うので。
 ただ、ホンネを言わしてもらえば、たまたま一人の人間が二役をやってるだけで、「評論家・東」と「編集者・東」は別人
格であると考えないことには、批評行為というものは本来、成り立たないんですけどね。
 それは作家兼評論家の場合だって同じでしょ?「偉そうなことを言ってるけど、おまえの書くものは……」って(笑)。
 ところで梅原書簡! ついに出てしまいましたか(笑)。中島さんはどのあたりが気がかりなのですか?

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 遅れました、ざんす! 投稿者:桜樹ルイ16世  投稿日:03月11日(木)00時08分15秒

 >これは農耕民族と遊牧民族の違いみたいなものでしょう。どちらもいるという状況は十分に健全だと思いますよ。

 うむー素晴らしい。全くそのとおりでしょう。要はお互いがプロトコルの共有まで拒絶するような展開になると、その「並
立」が圧倒的にしんどくてつまんないものになるということですね。これは先日来福井さんと問題意識を共有している部分で
もあり、吾輩としても非常に頼もしい限りです。頑張ってください。

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 民族主義と国際主義 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月10日(水)23時55分08秒

 この二つがかみ合ってこそジャンルは発展するのです。<異形>を例にとれば、私の本質は民族主義者ですから、一読者と
してはもっと本格ホラーを読みたいと思います。しっかしですね。「ウィアード・テールズ」があったればこそラヴクラフト
もハワードもスミスも残っているわけですよ。ですから、出版形態としてはあれでOKでしょう。パッケージはホラーに来て
いるし、実際にホラーが載っているんですから、もっと広い目で見てもいいんじゃないかと思いますが(私はいい作品を書く
のが第一義なので、ちょっとこの問題は書きづらいのだが)。付随して、今日のSFが商業的に衰退傾向にあるのは、心の狭
い人が多すぎるためではないか(笑)と思うんですがね(問題発言か)。一般大衆は剣呑なところには近寄りませんから。や
はり、ここはミステリーを見習って国際主義も認めたほうが国力の増進になるのではないかと個人的には思いますが、本質は
民族主義者ですから、例えばミステリーの出来の悪い評論家がぼけたことを言ったら攻撃しますけどね。ただ、やはりホラー
時評はもっとないといけません。

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 国籍問題について 投稿者:中島晶也  投稿日:03月10日(水)22時17分48秒

 福井様
 まったくおっしゃる通りですし、東さんもそれは充分ご承知だと思いますよ。だけど、私たちのやっているのは新しい国の
立ち上げなのでして(より正確には、「未だかつて存在したことのないお家の再興」という気分かな)、たとえ端から見ると
大バカであっても、まず旗を掲げ、国境を引く作業をしなくちゃならないんですよ。

 東様
 まずはお礼を。無理を言ってすいませんでした。『ホラーウェイヴ』を取り巻く状況、よく解りました。売れ行き次第では
存続もあるかもしれないんですよね? できるだけ宣伝に努めます。
 さて、東さんは評論家であると同時に編集者でもあるのですから、どんな形であれ同分野の本を批判したなら、そのご批判
の線に沿ってご自分の本が比較の対象にされてしまうのは、避けられないのではないでしょうか。あえて下司な言い方をしま
すと、「文句を言うなら自分でやって見せてよ」というわけです。これが福井さんのいう「世間の視点」ですね。そういうわ
がまま放題な読者の欲求に、今回の『ホラーウェイヴ』はかなりのところまで応えていると私は思いました。「かなりのとこ
ろ」で止まってしまうのは、今回の特集テーマが鬼畜物なので、誌面が否応なくサイコ・スリラーに傾いてしまうからです。
ある程度事情が解っている読者には「ホラーの意地」がひしひしと伝わるのですが(特に「グノーシス心中」!)、「怖けれ
ばホラー」との先入観を植え付けられている読者の意識を改革するには、あと一歩及ばない。悔しいです。次の機会にはぜひ、
ホラーの神髄のみで成り立っているような本を作ってください(私もわがままだなあ)。

 ところで東さん、下記のサイトで騒がれている「梅原克文書簡」は読まれましたか? ホラーについて、非常に気になる発
言があるのですが。

 http://www.din.or.jp/~aoyama/

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 たまには真面目に 投稿者:福井健太  投稿日:03月10日(水)11時54分54秒

 東さま
 「異形」との比較に関しては、もちろん無意味だということは解っていたのですが、世間にそういう視点があるという前提
から、一応、1回だけコメントをしておこうと思った次第です。その結論も「編集方針が違う」というものだったわけですし、
よほどの変化がない限りは、もうやらないと思います。ここでいう「編集方針」には、ホラーに限定するかどうかという点も
含まれている――という時点で、実はすでに意味のない比較だったりもするわけですし。
 ジャンルに関しては……消費者として見た場合、結果として面白い作品が多ければ、それに越したことはないわけです。様
々な外国人による多国籍劇団があったとしても、その演劇が面白ければ観客としてはOKなので、各役者の国籍は二の次です
よね。この**人が好きだから、ほかの**人もチェックしてみよう――と考える場合も、国籍は「対象を選ぶための便宜的
なガイド」でしかないわけです。特定の**人が好きだったとしても、別の**人よりは、また別の○○人の方を選ぶかもし
れないし。でも実際のところ、消費者の多くは相手の国籍なんて調べないのかもしれませんが。
 ジャンルというのは、作品選択にとって便利な(ヒット率を高めるための)恣意的な分類でしかないし、だからこそ最初の
定義(本格ミステリとか、本格ホラーとか)とは別のものに変質して世間に広がっていくわけでしょう。これはもう、言葉の
意味が変わるのと同じぐらいやむを得ないことだったりするわけで。
 で、結局のところ、

 (1)多くの消費者にとって、ジャンルの厳密な定義は問題ではない。
    だから「帯」に誘導されやすく、与えられたものを受け取るだけになりやすい。
 (2)ジャンルに自覚的な読者にも「狭く深く」と「広く浅く」のタイプ差がある。
    もっとも、これだけ多彩なジャンルがあるのだから、特定ジャンルを掘り下げるよりは、目移りする方が
    むしろ自然かもしれない。あとは各読者がどんな原体験を持っていて、どんなジャンルの「呪い」を受け
    ているか……という点に収束するのではないか、と。

 僕個人に関しては、本格ミステリの「呪い」を受けているという自覚はありますが、それ以上に「新しいジャンルを試食す
る姿勢」は持ち続けたいものだと思っています。何処から面白いものが出てくるかは解らないし、視線が内側にしか向かなく
なったら、書き手としても読み手としても(少なくとも僕は)つまらないでしょうし。とはいえ、各ジャンルにしっかりと腰
を据えている人々も必要なわけで、これは農耕民族と遊牧民族の違いみたいなものでしょう。どちらもいるという状況は十分
に健全だと思いますよ。

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 ホラーウェイヴ・その1(再) 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月10日(水)05時08分12秒

 倉阪様&中島様
 せっかくリクエストをいただいたのにナンですが、現時点では「ホラーウェイヴ」の今後について、口にできることはほと
んどないのです。
 ぶんか社に存続の意向があるか否かすら、まだ最終決定とはいえないわけで……。
 ただ、今の時点で明らかな事実のみを記しておくならば、02の見本が出た当日、旧DP2以来「ホラーウェイヴ」を手伝
ってくれていた編集者Nさん(「ジゴマ3」が読めるのは彼女の奮闘のおかげ!)が、藪から棒に解雇通告を受けたこと。お
よび、小生の提出した献本リストに対して「献本は原則として今号執筆者に限る」旨の(それって献本とは言わないんじゃ…
…)部長通達があったこと。以上2点を御報告しておくにとどめます。
 ぶんか社サイドの意向とは別に、小生個人としても思うところは山ほどありますが、今それを言い出すと、まだ同社で仕事
をしている関係者に迷惑がかかる恐れがあるので、これも後日。
 まあ、本誌はもともと明日なき闘い覚悟で「ゲリラ的」に着手したプロジェクトなので、その行く末も神出鬼没であると、
シャレておきましょうか(笑)。
 本誌を御愛読くださる皆様には本当に申し訳ありませんが、何か新しい動きがある都度、この掲示板で御報告しますので、
なにとぞ御海容のほどを。

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 ありゃりゃ、改行がぁ〜 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月10日(水)04時47分47秒

 溝口様
 はじめまして。
 「幻想文学」54号の売り上げに御貢献いただき(笑)、感謝しております。
 貴掲示板での展開、小生も思わず胸ときめかせながら拝見しております。
 今号では特集がらみの掲載となりましたが、小誌は今後とも山尾悠子さんの新作を、積極的に掲載していきたいと思ってお
ります。御期待ください。

 福井様
 好意的な御高評、忝なく存じます。
 だけどさぁ、どうして皆、なにかというと〈異形〉と〈ホラーウェイヴ〉を較べようとするのかなぁ……私見によれば、両
者はまったく異質のコンセプト、異質の刊行形態によるもので、比較のしようがないと思うんだが。
 そもそも〈ホラーウェイヴ〉はホラー専門誌だけど、〈異形〉はホラー専門のアンソロジーではないじゃんか!?(笑)
 監修者みずからホラー・アンソロジーというコンセプトを自己否定して「SF・ファンタジー・ホラー……なんでもあり」
という方針を打ち出してしまったわけで。それは別に非難されるべきことではないんですよ。大部数を前提とするコンビニ文
庫という器からしても賢明な選択だし、それに大多数のエンターテインメント読者にとっては、いろんなジャンルの作品が一
冊で手軽に愉しめるのは、むしろ歓迎すべきことなのだろうし。
 た〜だ〜し、小生のようにあくまでホラーにこだわる心の狭い読者にとっては(笑)、それは歓迎すべき事態ではなく、む
しろ憂慮すべき事態に思える、ということです。
 ホラーというのは、小説ジャンルの中でも最も難しい分野の一つであるというのが小生の持論です。超自然の怪異を正面切
って描いて読者を怖がらせることは、ストーカーや災害・疾病など身近な恐怖を描くより何倍も難しいことだと思いますし、
SFやファンタジーのように、現実とのあいだに一定の枠を設けて超自然を取り扱うジャンルと較べても、微妙に困難さの度
合いが異なると思うわけです(またそれゆえに小生は、ホラーに専心する作家諸氏に深甚なる敬意を抱いてきたわけですが)。
 ホラー・アンソロジーという括りを解除して、「超自然なら、なんでもあり」と宣言したのでは、敢えて困難に挑むよりも
安全パイを狙った作品が増えることは当然の帰結であり、事実、最近の〈異形〉にはその傾向が歴然としているように、小生
の目には映ります。
 誤解のないように付言しておきますが、小生が問題としているのは作品の優劣ではありません。ストレートなホラーよりも
出来の良いSFやファンタジー作品が〈異形〉にしばしば含まれているのも事実ですし、それゆえにまた「ホラーよ、どうし
た、頑張れ」と歯がゆい思いをすることも再々……まこと、悩みはつきませぬ(笑)。
 そうした点について、福井さんや松本さんのような若い方たちはどのように感じているのか、率直なところをお聞かせいた
だけると嬉しいのですが。

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 先日はどうも 投稿者:T.Mizoguchi  投稿日:03月09日(火)11時04分07秒

 最近は怪奇アンソロジーがたくさん出ているのでとても嬉しい限りです。特に新人物往来社とか国書刊行会から出た西崎様
のアンソロジー以来色々な恐怖が味わえるのがとても嬉しいです。
 西崎様、倉坂様、東様今後も読者を恐怖の世界へ誘ってくれるようなアンソロジー楽しみにしております。(まずは筑摩書
店の西崎様の二巻目を買わないと(汗))

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 見えない暗闇 投稿者:フク  投稿日:03月07日(日)21時08分02秒

 中島さまにご紹介頂きました『見えない暗闇』山田太一、読了しました。
 週刊朝日連載だったということにまず驚き。本格ホラーという概念を意識して読んだのですが、「得体の知れない感」「信
じている日常の壊され方」などを感じました。感想はもうすこしじっくり振り返って書きます。

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 春やくる観音の舌見えざりし 投稿者:西崎 憲  投稿日:03月07日(日)11時51分47秒

 橋詰さま
 はじめまして。エイクマン素晴らしいですね。あの微妙な感覚はちょっとほかでは得難いように思います。宝物とまでおっ
しゃってくださいますか。編者冥利につきるお言葉です。バークリーはやる予定がないのですが、チェスタトンなら現在訳出
中です。よろしくお願いいたします。

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 ガメラ3日和 投稿者:橋詰久子  投稿日:03月06日(土)12時41分48秒

 西崎さま
 はじめまして。『英国短編小説の愉しみ』小説と解説を読みましてとても満ち足りた気持ちでおります。エイクマンは部屋
の温度が変わった気がしました。2冊目のあとには、最初の宝物になった本を久方ぶりに開いたりも。読んでみたい作家が増
えて、本屋さんへ出向く楽しみも増えました。これからもいろんな物語をご紹介下さいましね。バークリーも堪能いたしまし
た。ほかの作品もぜひ出版してもらいたいものです。(しかし、『推定相続人』とかどうなってるんでしょう)。

 東さま
 知らず知らずのうちにニヤニヤして読んでいるらしく、不気味がられております。ビデオやゲームの紹介を読んで、ミステ
リーとホラーの違いを改めて考えたりもし、とても刺激的です。伊佐名鬼一郎の紹介文の最後には、目頭が熱くなりました。

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 上品下品問題 投稿者:中島晶也  投稿日:03月06日(土)00時49分52秒

 『ホラー・ウェイヴ』は近所に売っていないので(『赤い額縁』はあるのにねえ)まだ読んでいないのですが、倉阪さんの
おっしゃる通り、そんなことにこだわっても意味はあるまい、と私も思います。私にとってホラーの評価基準はただ一つ、超
自然的恐怖が達成されているか否かのみなのであります。血まみれグチャグチャの連続で現実感覚がゆるんでしまうというの
でも、ぜんぜんOK。でも、ホラーであろうがなかろうか、芸の無い小説は皆さんだって嫌ですよね(ベタ尽くしは芸の内と
しても)。

 東様
 山田太一の怪奇幻想嗜好は有名だと思っていたのに、皆さん意外とご存じ無かったみたいですねえ。勧めた甲斐があったと
いうものです。
 マニア以外の方と話していて、似たようなギャップにぶつかることは当然よくあるのですが、何といってもいちばん面食ら
ったのは、複数の自称ホラー・ファンに「怖ければホラーでしょ?」と言われたときでした。今ではもう慣れましたけどねっ
!(←ちっとも良くないって)
 ところで山田太一のような作家を見ると、技巧だけでは語れない怪奇の血というものが、やはりあるんだなあと思ってしま
いますね。新鋭作家では、牧野修さんが特濃だと思うのですが。

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 御高評感謝 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月05日(金)15時09分24秒

 倉阪様
 >「昔のエログロ作品にしては文章が上手すぎる」

 そうなんですよ! さすがお目が高い。今ならホラー大賞に輝いてもおかしくない、かな!?(笑)
 だからこそ、敢えて復刻してみたわけで。反響次第では『伊佐名鬼一郎著作集』編纂へ向けて動き出そうかと思っておりま
す(版元は国書か、出版芸術か……)。

 ……と書いてアップしようと思ったら、おやおや、西崎憲さんまで!
 シールの『紫の雲』ではお世話をかけました。これ、翻訳出すなら今年しかないと思うんだがなぁ……。

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 朝型の私が昼夜逆転 投稿者:中嶋千裕  投稿日:03月05日(金)03時32分31秒

 櫻井さま
 >フランスのオカルティズム業界(そんなものあるのかしらん)はさぞかし盛り上がっているんでしょうね。

 それがね、あるんざんすよ。もりあがっとりまっせ。だんな。カタリ派の城をよじのぼったあ、あちきがいうんだ。うそじ
ゃあごぜえませんぜ。次を読んでおくんなせえな。

 ●●パリの錬金術本屋「エメラルド盤」リポート!●●(銀河万丈さんになって読むこと)
「エメラルド盤」は、カルチェラタンにほど近いユーシェット通りの中ほどにある古めかしいたたずまいのオカルティズム専
門書店だ。周囲には怪しいギリシャ料理屋が立ち並ぶ雑然とした中でひときわ異彩をはなっている。ショウウインドーにはカ
タリ派やシンボリズム、神秘学に関する本やカードが飾ってあり、胸に覚えのある人は自然と引き寄せられて入ってしまう。
 入るにあたっては、特に石切り職人の服装…はしないでよろしい。広さはだいたい三メートル四方といったところで、そう
広くない。天井は古めかしい板張りである。薄汚れた店内に、裸電球があやしく光る。黒光りした木製の棚には、占い関連本、
ヘルメス哲学、錬金術、ゲール関連(ノルマンディーの口伝も含む)、神秘学、神話伝承、図像学、象徴主義、各種宗教研究
本、などの本が、硬軟、新旧とりまぜぎっしり詰まっている。ここの店主は幻想文学会の会長にそっくりのオリビエという人。
バイトで、白髪の爺がレジ番をしていた。この爺はストーンという名前で、名前からしてまさに錬金術の生き字引。「ムッシ
ュ哲学の石」といったら喜んでいた。実は「エメラルド盤」は、少し離れたトロワ・ポート通りにもう一軒ある。こっちは、
この二つの店舗のオーナーであるクロードが仕切る錬金術、神秘学関連の古書専門店だ。雑然とした店内に古書のかぐわしい
匂いが充満している。値段は……怖くて見れない。なぜか一九三〇年刊の仏語訳近松戯曲集があったことをとりあえず書いて
おく(私は文楽マニアなんす)。ところで、クロードは、オリビエの兄。おお、オカルトブラザースであったか。そして、な
ななんと、あのロバート・フリップにそっくり。なんで。なんでなの。錬金術好きだと顔まで似てくるのね。
 なお、ここの蔵書が知りたい人は、http://www.contrepoints.comにアクセスして、LA TABLE D'EMERAUDEをクリックし
て下さい。ただしpdfファイルなのでアクロバットリーダーが必要です。実は、今後私はここのサイトと絵のことなどでいろ
いろに仕事をすることになりそうです。わーい。そうそう、年末に錬金術研究関連のイベントもあるかもしれません。詳しく
はまた後日。

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 御厄介かけました 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月05日(金)02時56分39秒

 橋詰様&倉阪様
 早速のお買いあげ、ありがとう存じます。
 書店営業の弱さでは(エロ本とタレント本を除いて)定評のある版元だけに、こちらもちゃんと出回っているかハラハラも
のです。
 なお、デザイナーの西村氏と小生の名誉のために申し上げておきますが、ペラペラの紙表紙に赤い腰巻、ザラい本文用紙と
いうちゃちい装幀になったのは、「ダサく、エゲツなく」を社是とするらしい版元の意向によるものです。これじゃ、ただの
雑誌だよな〜。
 
 あ、そうそう、ここで話題になってるダリュセックの小説、『めす豚ものがたり』の邦題(まんまやな〜)で、河出から出
てまっせ。

 中島様
 『見えない暗闇』はいいですね。初読の際、あの得体の知れないモノたちに、泉鏡花『草迷宮』の妖物たちと同質の気配を
感じた覚えがあります。

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感謝感激 投稿者:中島晶也  投稿日:03月04日(木)07時54分14秒

 フク様
 後は読むべし、ですね。
 入手しやすくて、本格系で、和物というと――。まず思い浮かぶのは倉阪さんの本ですが(特に『百鬼譚の夜』とか。この
サイト内の著作リストを参照)、これまでの対話の理解を深めるのに最適と思われるものということで、山田太一の『見えな
い暗闇』(朝日文芸文庫)はどうでしょうか。
 この小説は、筋立てこそ平穏な日常生活を送っている登場人物たちが、妖しのものに出会って……と、まったくルーチンな
のですが、彼らが何者であるかは我々とはあまりに異質であるため記述不可能であるという設定で最後まで解明されず、世界
の禁じられた実相に触れたために登場人物たちが狂っていく様だけが描かれていく、特異な傑作です。実は結末が、「オヨヨ」
という感じで非常に悔しいのですけど(笑)、読んで損はないです。
 一般読者はこの小説をホラーと思って読んではいないのでしょうが、この小説が描いてる恐怖こそがホラーの本質であると、
私は考えています。

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時差ボケ天然ボケ 投稿者:中嶋千裕  投稿日:03月04日(木)02時51分33秒

 福井さま
 >「文学でテーマを表現するうえでは、自然主義的な題材も幻想文学的な題材も同一の地平にある」ということなのでしょ
  うか。

 はい、おっしゃるとおりだと思います。ただ、ビィリエ・ド・リラ=ダンの「未来のイブL'EVE FUTURE」のアオリに「アン
チ・ゾラ、アンチ・ゴンクールの象徴主義の最高傑作」と、ありましたので、一線を引いている人もいるようです。ところで、
他に買ってきた変な本は、サマリーを訳してのちほどご紹介しますね。
 あ、それから訂正です。「秘書」が豚になるんじゃなくて、「香水屋の店員」が豚になるんでした。私の記憶違いでした。
ごめんなさい。題名は「Truismes(トリュイスム/自明の理)」。実は、この題名は、フランス語でメス豚のことを「truie
(トリユイ)」というのと「truisme(トリュイスム/自明の理)」とを引っ掛けているのであります。文体は終始一人称に
なっていて、「豚になりたる女性の手記」の形態をとっています。やっぱ、日本語だったら「アタシ」かしらん。作者はマリ
ー・ダリユーセックMarie Darrieussecqといいます。

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そうだったのか 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月03日(水)23時57分41秒

 東様
 佳作だったんですか。Sさんの話と違うな(笑)。
候補に残ったことを伏せてホラー文庫に入れるというまことしやかな話を聞いたので、日記では書かなかったのだが。大賞は
大森さんからもさんざん聞いたから、早く読みたいですね。でも、これでやっと牧野さんもブレイクだと思ったのになあ。ま
あしかし、私よりはずっといいでしょう(笑)。「野性時代」の第3回ホラー大賞の候補者リストに名前が載っていないのを
確認した日のことを思い出すなあ(泣)。
 まだ聞いてなかったけど、第4回は予備選で落ちたのかな?
 それから、例の井上さんのホラー評論集、始動未定ですが「異形読本」だそうです。異形コレクションについての評論パー
トがあって、そこを東さんメインで厳しい批評をお願いしたいという意向みたいですけど。

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 逆なんです 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:03月02日(火)23時22分48秒

 フク様
 ホラーというのは幻想文学の一翼を担うジャンルですから、言葉と想像力だけで超自然的恐怖を描くのが第一義なんです。
現実的な恐怖(ことに病気とか天災とか)は想像力の介在する余地がありませんから、いくら怖いものであっても文芸として
のホラーとは呼べないのです。確かに現在はストーカーとかサイコとかもホラーに含まれておりますが、それでジャンルが広
がるのは結構ではあるものの、そちらがメインと考えるのは本末転倒です。

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 オープン戦の調子がペナントレースまで持続しますように 投稿者:フク  投稿日:03月02日(火)12時01分03秒

 中島さま
 補足説明までして頂いて有り難うございます。突き詰めて行くと現実的な恐怖が描かれていなくてもホラーは存在しうると
いうことですね。世間的には「怖いか怖くないか」が唯一無二の判断基準→誰にでも理解しやすい恐怖→現実的な恐怖さえ描
けば良い。というのが現在の状態である、という図式が成り立っているように思います。超自然的恐怖はどうしても人間の観
念や存在に踏み込むので、しっかり受け止める必要のある恐怖→うまく仕立てないと世間的に受け入れられにくい、という図
式でしょうか。(段々何が言いたいのか分からなく…汗)
 とにかく後は、読み込んで体で覚えるべきか、と。私の場合。

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 もちろん東さんも、だあ!?(笑) 投稿者:東 雅夫  投稿日:03月02日(火)03時31分53秒

 中島様
 恥ずかしい限りなんて、とんでもない!
 実に良心的かつ的を射たスポークスマンぶりだと思いますよ。
 上っ面だけの「ホラー・ブーム」の陰で、メジャー・ホラーもカルト・ホラーもそれぞれに問題を抱えている……と危機感
をつのらせている小生としては、心強い限りです。
 つい先日も、なぜ小生が「もっとホラーを!」と〈異形〉に注文つけるのか、この伝言板を見るまで理解できなかった、と
ある人に言われました。感謝!

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 虹男蛇男 投稿者:中島晶也  投稿日:03月01日(月)00時05分21秒

 フク様
 あまり恐縮されますと、こちらも何となく気が引けてしまいますよ……と言いつつ、しつこく続けたりして(笑)。
 恐怖の質をとことん分析していくと、フクさんのおっしゃる通り、確かにそうなります。正確な理解です。
 ところが、そこから発生する問題が一つあって、

 >人が信じ切り、我が身を預けている柱

 って自然科学の法則とは限らないんですよ。人間関係だったり、宗教的な信念だったり、社会的な習慣程度のものだったり
……。従って、超自然現象に頼らなくても、超自然的恐怖とほとんど同質の恐怖を醸成できてしまう場合もあるわけでして、
これが超自然現象の無い作品がホラーに混入する原因になっているのです。つまり、一見すると「怖ければホラー」と見えな
いこともないのですが、歴史的にそうだというばかりではなく現状もやはり、ホラーの中核は超自然的恐怖なのです。
 それと、私がゴジラを例に採り抽出してご覧に入れたのは、超自然的恐怖のもっとも純粋な形と言えますが、これだけで成
り立っている作品は本格ホラーでも稀です。ほとんどの場合は、倉阪さんが「ジャンル内ジャンル・ミックス」と呼ばれてい
たような手法を用いて、真打ちの超自然的恐怖を増幅させる工夫をしています。「ゴジラ」ですと、核兵器に対する不安や、
まだ生々しかった空襲の記憶などのスパイスが効いているわけです。
 ここで勘違いしてはいけないのは、そういう現実的な恐怖をゴジラという怪物に仕立てあげているところこそが、ホラー的
な値打ちなのであって、現実的な恐怖が描くのがホラーの目的ではないということです。そういう評価の仕方では、「黒い雨」
でもいいではないか、ということになってしまいますからね(笑)。よく言われる「いちばん怖いのは人間」なんてのはホラ
ー的には笑止千万で、そこからどういうお化けを生み出すかが、ホラーの面白さなのです。

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 なちゅ…は森高千里 投稿者:フク  投稿日:02月26日(金)19時41分19秒

 中島さま
 丁寧な具体例をありがとうございます。
 実感として湧いてきました。本格ホラーで得られる恐怖とは、自分の信じていた世界が揺らぐ、信じられないものが目の前
に存在する…「価値観や自分の実存が脅かされるような怖さ」人が信じ切り、我が身を預けている柱を外してしまうようなも
のですね。
 世界が狂っているのでなければ、自分が狂っているのか?と自問しなければならないような状況。はまりこんだら無茶苦茶
怖そうです。(でも、まだ認識がずれていると思われるようでしたら御指摘願います…)

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 では、具体的に 投稿者:中島晶也  投稿日:02月25日(木)23時26分45秒

 フク様
 怪物が目の前に現れたとします。どんな怪物でも構わないのですが、ここは私の趣味でゴジラにしておきます。ゴジラなん
て恐くないと言われそうですが、それは映画の話で、実際に目の前に現れたら、絶対恐いはずです。どうして恐いのでしょう?
 踏み潰されるからでしょうか。ゴジラに踏み潰されると、間違いなく大怪我をします。いや、たぶん死ぬでしょう。確かに
これは恐いです。しかし、この恐さは言ってみれば交通事故の恐さと何ら変わりません。これは肉体的恐怖とでも呼ぶべきも
ので、超自然的恐怖ではありません。
 もう一つ、ゴジラの存在自体がもたらす恐怖があります。ゴジラは絶対にいるはずのないものです。その絶対にいるはずの
ないものがいるということは、私たちの見知っている世界を成り立たせている法則が、根底から覆されてしまっているという
ことです。ゴジラの出現によって、私たちがそれまで信じていた確固たる現実は、あやふやなまやかしへと一変し、私たちは
もはや何一つ頼りに出来ない宙づりの不安感にさらされます。このような、異界の力によって日常の宇宙が音を立てて崩れて
いく瞬間の恐怖こそが、超自然的恐怖です。お判りいただけたでしょうか?
 角川ホラー文庫は、ジャンルの定義をあれこれ議論するよりも、まず商業ベースに乗せることで安定して作品が出版できる
状況を作る、という方針を採っているんですね。お陰でマニアックな本も出しやすくなっているわけですし、あれはあれで正
しい戦略なのだと思いますよ。後は、角川のお膳立てを本格派がどう活かしていくかという問題でしょう。

 中嶋様
 興味深いレポートをどうも。

 >普通の秘書女性がどんどん豚になっていく

 こ、これが普通の小説? フランス恐るべし……。幻想純文学というやつでしょうか。フランスの池田得太郎とか。
 なるほどロマン・ファンタジックですか。やっぱりフランスでは、

        ┌─SF
 ファンタジー─┤
        └─ホラー

 なのかな。

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 ただいま取材中 投稿者:中嶋千裕  投稿日:02月25日(木)20時31分37秒

 割り込みです。皆さまへ。
 フランスでは、どうも、「ロマン・ファンタジック」と称して、幻想文学全般がくくられてしまっているようです。ホラー
のペーパーバックはDENOELというところから、たくさんでているようですが、SF 、ファンタジー、ホラーがごっちゃになっ
ています。EMMANUEL JOUANNE(一九六〇年生まれ)、 GERARD KLEIN(一九三七年生まれ)、JEAN-PIERRE ANDREVON(一九
九〇年フランスSF大賞受賞者)、SERGE BRUSSOLE(一九五一年生まれ)など何冊かゲットしましたので、後ほどご説明しま
す。普通の小説にもこうした話は潜り込んでいますので、なかなか探すのが難しいということはいえます。ああ、そうだ、昨
年買ってきたもので、普通の秘書女性がどんどん豚になっていく、というのがありました。これは、普通の小説の出版社から
出ているもので、たいへん話題になったものです。同じ作家のもので、夫がある日突然消えちまった、というのが新作として
出ておりました(これも昨年買ってきました)。ただ、私はこの分野が専門外ですので、みなさんは周知のことだったり、噴
飯ものかもしれませんが、どうぞおてやわらかに。

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 勉強になります 投稿者:フク  投稿日:02月25日(木)11時08分57秒

 倉阪さま&中島さま
 倉阪さまの以前のエッセイ(ジャンルを地図に譬えたもの)を読み返して、皆様の御意見を拝聴するうちに憑物が落ちまし
た。私が勘違いしていたのは、小説としての価値論とジャンル論の位置づけを混同して理解していた点です。あとこの場で論
じられているホラーとスリラーの定義についても理解が足りなかった部分がありました。世間的な「ホラー」という単語の使
われ方にがっちりと脳味噌が固定されていたようです。例えば「怖い小説」専門の角○ホラー文庫。これに所収されるような
小説は、みんなホラーだ!みたいな。
 #振り返ると私のコメントは「一般人」の代表のような質問ですね(苦笑)
 その辺りを踏まえてもう一度過去ログを読むと更に皆様が主張されていることが良く分かるようになりました。ただ「ホラ
ーでしか得られない超自然的恐怖」が、もっとするっと頭の中に入るようになれば良いのですが。私の頭の中ではまだこのイ
メージが具体化しづらい部分が残っています。うーん…。

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 『幻想文学大事典』が届いたよ(嬉) 投稿者:中島晶也  投稿日:02月25日(木)07時57分39秒

 フク様
 初めまして。
 ご質問にはすでに倉阪さんから回答が上がっていますが、少々補足など。
 まず、フクさんはすでにご承知だと思いますが、倉阪さんや私が「本格」「周辺」などと言っているのは、あくまでホラー
というジャンルの枠組みの中での位置づけであって、小説としての完成度をランク付けしているわけではありません。その点
はくれぐれも誤解されないよう、皆様にお願いいたします。ときどきそれを勘違いして憤慨される方がいらっしゃるので、困
ってしまうんですよ。
 フクさんが挙げられたようなタイプの作品については、スリラーとの関係を考えていただければ、たちどころに疑問が氷塊
するのではないでしょうか。もし、誰かに「それはスリラーじゃないの?」と問われたとして、明確に違いを説明できますか?
 スリラーはホラー歴史的にはミステリ帝国の領土(ひょっとして、福井さんのような本格ファンは「そんな不純なもんはい
らん!」とお考えなのでしょうか……)ですが、ホラーのレベルa2との絡みと、福井さんのご指摘の通り、

 >ちょっと思ったのですが、なまじ「(世間的)ホラー」が売れているぶん、出版社が「ホラー」という惹句を多投する可
  能性は高いわけですね。

 という事情で、最近はホラー扱いされることが多くなっているのです。
 私たちが「ホラーの本質は超自然的恐怖である」と主張しているのは、「ホラーでしか得られないものこそ、ホラーの本質
である」と、ごく当たり前のことを言っているだけなんですよ。
 繰り返しになりますが、ホラーとして周辺作品だからといって、『黒い家』などがつまらない小説だということになるわけ
ではありません。また、ホラー・ジャンルにとって脅威だから排斥しようなどという意図も、もちろん私たちにはありません。
現状を打開する方法はただ一つ、本格ホラーの方が周辺領域のホラーを上回るインパクトを持つように努力することだけだと
考えています。

 倉阪様
 どんな手段を使ってでも、超自然的恐怖を実現するのがホラーの本義ではないかと。私的にはサイコも蜘蛛も(失敬)ぜん
ぜんOKです。
 福井さんもちらっと触れられていますが、社会派の要素を取り込んでしまうというのもありだと思いますよ。要するに、手
段と目的が転倒していなければそれで良いわけです。

 橋詰様
 国内では若い人にはホラー、年配の方には怪奇小説の方が通りが良いですね。恐怖小説というとスリラーとの関係が判らな
くなるので、訳語としては怪奇小説の方が適切であると思いますよ(>倉阪様)。インターネットのサイトや各種文献を読ん
でも(たくさん読んだわけじゃないけど)、欧米では

        ┌─SF
 ファンタジー─┤
        └─ホラー

 という捉え方が一般的である印象を受けるのですが……。SFやミステリ関係の識者のご意見を伺いたいところですね。
 ホラーという呼称については、語源やテラー問題とかいろいろあるのですけど、長くなるのでまたの機会に。

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 おお、議論が建設的になっている(嬉) 投稿者:福井健太  投稿日:02月25日(木)00時26分24秒

 >要するに、ホラーは幻想文学の一翼を担うジャンルだったはずなのに、リアリズムに侵犯されているという危機感でしょ
  うか。

 おお、なんだか社会派ミステリーの台頭みたい。

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 補足します 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:02月25日(木)00時08分58秒

 ちゃんと読んでませんでした。
 要するに、中島さんの言うレベルa1とa2のミックスということですね(「黒い家」はレベルa2、「殺人鬼」はレベル
a1ダッシュというわけです)。
 要するに、ホラーは幻想文学の一翼を担うジャンルだったはずなのに、リアリズムに侵犯されているという危機感でしょう
か。

 福井様
 それがさらに複雑で、ホラーなのにホラーと書いていないものもあったりするわけですよ(今月の「SFマガジン」で東さ
んが書いてますけど)。本格ホラーのゲームって画面から触手が伸びてくるとか(笑)。

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 ジャンル内ジャンルミックス? 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:02月24日(水)23時51分52秒

 フク様
 それは周辺領域なのですが、レヴェルという問題が関係してきまして、「黒い家」は現実にいるかもしれない奴だからサイ
コ・スリラー、「殺人鬼」はとてもいるはずのない奴だからホラーという分類ができるわけなんですよ。

 福井様
 ちょっとかみ合ってませんでした。作家レヴェルならもちろんそれが目標の一つです(特に長編)。批評を念頭においてい
たもので。

 中島様
 ただ、タイトルのようなことも考えております。真打はスーパーナチュラルでもサイコを出すとか。要するに、恐怖という
感情は持続しませんから、ことに長編ではいろんなカードを切り続けないといけないんですよ。短編も媒体によってはその方
向で書きますので(ほんとはエイクマンみたいなのを書きたいんだけど)、ご了承ください。

 橋詰様
 一般的にはホラーは恐怖小説、ミステリーは推理小説(犯罪小説という人もいますが)ですが、個人的には怪奇小説と探偵
小説ですね。

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 教えてください 投稿者:橋詰久子  投稿日:02月24日(水)19時31分20秒

 中島さま
 ミステリーは推理小説とかも言いますが、結局ミステリーが一番通りがよくなりました(ちょっと残念に思ってます)。
 ホラーはそのへんはいかがなのでしょうか?
 なんか寝ぼけた質問ですみません。

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 本格ホラー 投稿者:フク  投稿日:02月24日(水)10時14分26秒

 皆様
 ログをじっくり読み込みまして、本格ホラーと周辺ホラーの定義が自分なりに理解出来たように思います。面白いお話を拝
見させて頂きました。

 …私の理解力が足りないのかもしれませんが、ただ本質とされる「超自然的恐怖」の定義がしっくりきません。これも個人
的な感覚ですが、例えば人間が原初から持っている根元的な恐怖、痛みや死への怖れなどを扱った作品、人間心理の異常性を
扱った作品などはホラー帝国中枢からすると、周辺領域作品になってしまうのですか?(前者は、綾辻行人氏『殺人鬼』後者
は貴志祐介氏『黒い家』あたりを想定)
 これらは中島様の仰った

 >超自然現象に遭遇したときに感じる種類の恐怖、自分の属する世界を成り立たせている秩序が根底から脅かされるような
  恐怖

 とは違いますよね。
 とすると私は本格ホラーというものを全然読んでいないことになる…

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 原稿執筆中 投稿者:福井健太  投稿日:02月24日(水)06時47分25秒

 倉阪さま
 中島さんの要望とは微妙にずれるかもしれませんが(笑)、僕の意見としては、本格ホラーの魂を持ったミステリ、本格ホ
ラーの魂を持ったSFなどをどんどん書いて、世間に知らしめていくのが積極的で良いのではないかと。もちろんいずれも
「本格ホラーとして優れている」必要があるわけですが。あと、本格ホラーの魂を持ったゲームを作ってしまうとか。……あ、
でも最近のベストセラーから考えるに、ここは本格ホラーの魂を持ったホラーがベストかもしれませんが。

 中島さま
 御丁寧に有難うございます。不勉強ですみませんでした。
 今回のやり取りは(一応)オープンな場所に書かれていたわけで、第三者の眼にも触れていたはずです。だから「これでホ
ラーの理解を深めた」という人の存在は期待できるのではないでしょうか。そうであれば良いなあと思います。
 ちょっと思ったのですが、なまじ「(世間的)ホラー」が売れているぶん、出版社が「ホラー」という惹句を多投する可能
性は高いわけですね。そう考えると……えっと、ミステリ帝国はあまり苦境じゃないです。というか、ホラー帝国の話を伺っ
ていると、なんだかグチるのが申し訳なくなってきました。

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 何処も同じ秋の夕暮れ 投稿者:中島晶也  投稿日:02月24日(水)02時54分54秒

 福井様
 お陰様で、私にもミステリ帝国の苦境が、おぼろげながら把握できたように思います(実際に作品を読み込まないことには、
本当に理解したと言う資格はないでしょう)。ミステリ帝国の中枢におられる方にとっては、私の発言は少々お気楽に過ぎた
ようで、申し訳ないです。
 倉阪さんに先を越されてしまいましたが、ホラー帝国の公式見解としては、そういうことです。超自然的恐怖は、ホラーの
本質及び成立条件以外のなにものでもありません。福井さんにはもうご理解いただけたと思いますが、公開の場ですのでギャ
ラリーに配慮し再確認しておきますと、ホラー帝国で問題視されているのは、

 レベルA:「ホラーには超自然的恐怖の面白さがある」←「本格ホラー」に入る
 レベルB:「ホラーは(題材が何であれ)怖い小説である」

 ではなくて、

 レベルa:「ホラーは超自然的恐怖を描く小説である」(帝国内の認識)
 レベルb:「ホラーは(題材が何であれ)怖い小説である」(一般の認識)

 という、もう少し深刻なギャップなんです。

 ところで、aとbはほとんど対立する概念に近いですから、これは深刻であると同時に、どうしてこんなことになってしま
ったのか、不可解な事態であるというべきでしょう。しかし私見では、これはaを2つのレベルに分割することで、理解しや
すくなるように思うのです。即ち、

 レベルa1:「ホラーは超自然現象を題材に超自然的恐怖を描く小説である」
 レベルa2:「ホラーは(題材が何であれ)超自然的恐怖を描く小説である」
 レベルb :「ホラーは(題材が何であれ)怖い小説である」

 という分類です。レベルa1が狭義のホラー(本格ホラー)、レベルa2が広義のホラー(ホラーの実状)で、ここが帝国の
認めるホラーの限界。レベルbは一般に流布している誤解となります。
 ちょっと戸惑われるかも知れませんが、厳密に言えば超自然的恐怖は、超自然現象に遭遇したときに感じる種類の恐怖、自
分の属する世界を成り立たせている秩序が根底から脅かされるような恐怖であって、超自然現象そのものではありません。従
って、自然現象を題材にした小説であっても似通った恐怖を醸成することは可能で、場合によっては超自然現象を使ったクズ
・ホラーを遥かに上回るものもありますから、レベルa2の混入は無理からぬことだと言えるでしょう。現実に、ジャンルの創
成期から今日に至るまで、超自然現象を題材としていない作品は、常にホラー・ジャンル内に混在しています。
 ここまで来れば、レベルbまではあと一歩です。レベルa1の作品よりレベルa2の作品の方が勢いで勝る状況が続けば、
「超自然」という要素は忘れ去られてしまうわけです。そして、「怖ければホラー」という誤解が広まっていく……。これが、
今ホラー帝国が直面している危機的状況なのです。

 そういうわけですから、

 倉阪様
 周辺領域の作品を蹴散らすような、もの凄い本格ホラーをじゃんじゃん書いてくださいね。

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 地の果てより 投稿者:中嶋千裕  投稿日:02月23日(火)08時36分16秒

 <ご当地本屋情報>
 トゥールーズという街がありますが、私はそこに住みたいなーと思っています。というのはそこは「オタク」タウンだから
です。マニアの街です。フィギュア屋でもなんでもあります。そこの本屋で「白い影(オンブル・ブランシュ)」という本屋
があるのですが、ここは大変すばらしい。本好きならニルバナにいけます。西武や三省堂をもっとおしゃれにしたかんじで、
在庫はすべてコンピューター制御されていてたちどころに探してくれます。店員も本好きがそろっています。詩の朗読会なん
かもあります。今回は英国ホラー(翻訳)平積み大会をしていました。パリの五区も、古本屋や先に書きました、「神秘学屋」
があるのでひかれますが、物価が高い。ところで、この「エメラルド盤」なる神秘学屋の店主は幻文の会長と瓜二つ。はっき
り言ってこわい。それにしても、こちらでラブ・クラフトを読んでいると(もってきたんですよ、ひたりたいがために、はる
ばる)、本当にあちらこちらの街角を彷徨い歩くチャールズ・ウォードや屋根裏でヴィオルをひきまくるせむしの老人はきっ
といると思ってしまいます。

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 割り込み 投稿者:福井健太  投稿日:02月23日(火)05時33分29秒

 倉阪さま
 マニア度は中途半端に薄くなりつつも、頭数だけは揃っている――という意味合いでは、確かにミステリクラブとミステリ
の現状は似ていますね。くだらない内紛や老害もやたらに多かったりするし(←自爆)。
 これはあくまでも印象論なんですが、ミステリ者やSF者に比べると、コアなホラーの人々には「他ジャンルにも進出する
貪欲さ」があまり感じられないような気がします。絶対数が少ないために目立たないだけかもしれないし、まだそれだけの余
裕がないということかもしれませんが、あるいはこれもメジャー進出の妨げになっているのかも、と。どんなものでしょうか
(>梁山泊の方々)。

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 しまった、循環していない(笑) 投稿者:福井健太  投稿日:02月22日(月)02時00分13秒

 倉阪さま
 「超自然的恐怖」が本質であり成立条件であるとすれば、近年の動きに違和感があるというのはもっともですね。発展のた
めに移民を取り込むうちに、サイエンスホラーとかアクションホラーとか、その手のものが「ホラー」として人口に膾炙して
しまったと。
 あとは王家の血統に固執するべきか、さらに国際化を押し進めるべきか――ということですね。まあいずれにせよ、各人の
考える「本質」を知らしめるに越したことはないとは思うわけですが。
 ただ現実問題としていえば、本格じゃなくても「ミステリー」と呼ばれるものが多くなったのと同じことで、世間レベルで
の巻き戻しは難しいでしょうね。結局、区別するために別の呼称を使わざるを得なくなるのかもしれませんが……外界との接
点を得るためとはいえ、それだけの出血は妥当なのかどうか。

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 19日に何が? 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:02月21日(日)23時40分27秒

 あるビジネスマン向けの和英辞典で怪奇小説を引いたらmysteryと書いてあってのけぞりましたけど、歴史を考えると無理
筋ではなく、せんじつめればその部分なんですね、好きなのは。それから、超自然的恐怖はホラーの本質および成立条件以外
のなにものでもないと思います。歴史的にそうなんですから。ただ、周辺のものも取りこまないと町が発展しないので柔軟な
考え方をしてますけど。

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 で、項目を改めて――結論? 投稿者:福井健太  投稿日:02月21日(日)23時12分48秒

 長々と書いてしまいましたが、これは要するに「超自然的恐怖」がホラーにおけるどれぐらいの「本質」なのか――という
問題なのかもしれません。前項ではジャンルの中核とその周囲について書いたわけですが、ホラーの初期定義レベルで「絶対
に超自然的恐怖でなければならない」という認識があるのなら、先程の「レベルA」「レベルB」も大きく変わってくるわけ
です。そして「そもそも定義的に絶対にホラーではないものがホラーとして爆発的に売れている」という問題提起だったので
あれば、確かに「まずは根を張らねば」という感想も切実なものとして了解できるわけで――と、ここで前項のトップに戻り
ます。おお、循環している(笑)。

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 とりあえず 投稿者:福井健太  投稿日:02月21日(日)22時43分09秒

 中島さま
 以前はちょっと解りにくい書き方をしてしまったので、もう一度整理してみます。ここでは(とりあえず)「ミステリ」と
いう言葉を「マニア向けミステリー」という程度の意味合いで使うので、ひとまず御了承ください。
 相手が世間のオジさんやオバさん(以下「世間」と省略)であったとしても、確かに「ミステリーには謎解きの面白さがあ
る」という会話は成立すると思います――が、これを「ホラーには超自然的恐怖の面白さがある」というセリフと同列に扱う
のは違うような気もします。つまりですね、

 レベルA:「ミステリーには(高度な)謎解きの面白さがある」←「ミステリ」に入る
     :「ホラーには超自然的恐怖の面白さがある」←「本格ホラー」に入る
 レベルB:「ミステリーには(チープでもOKな)謎解きの面白さがある」
     :「ホラーは(題材が何であれ)怖い小説である」

 これぐらいの分類が妥当ではないでしょうか。パターン化されたパズルとミステリの謎解きは違うものです(と、少なくと
も僕は思う)し、両者の違いというのは、恐らくは「本格ホラー」と「周辺領域のホラー」に感じられるそれと似たものでは
ないかという気もするわけです。もっとも、ミステリーの場合には文面が(表面的には)同じなので、その違いを説明するの
が難しかったりもするのですが。文面が同じなら、要するに地続きなんじゃないか――という反論も想定できますし、多分に
感覚的なものと「超自然的恐怖」という具体的(?)なものを同列に扱うことには、少なからず違和感を覚える人もいるかも
しれませんが。

 本格ホラーではないものが「ホラー」と呼ばれて売れまくった結果、濃いホラーマニアが「これからは本格ホラーを『ホラ』
と呼んで区別することにしよう」と言い出したと思ってください。そしてその「ホラ」が「ミステリ」に対応している、と
(実際の生成過程は全く違います。念のため)。そして僕が気にしているのは、あくまでも「ミステリ」の分野なわけですね。
周辺領域の方が売れているという気分に関しては、ジャンルの違いこそあれ、だから立場はさほど違わないような気もするわ
けです。

 もっとも「ミステリ」領域の方が「ホラ」領域よりも客が多いことは確かなので、その意味ではこちらの方が「大帝国」な
のかもしれませんが……。

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 やはり俳人は 投稿者:中島晶也  投稿日:02月21日(日)18時37分18秒

 福井様
 自分の趣味を正確に解ってもらえないというのは、どんな分野でもマニアに共通する悩みですよね。恥ずかしながら、私も
ミステリーとミステリの違いが判りません。ごめんなさい。機会があったら、ぜひご教示ください。
 そんなわけですから、もし外していたらまたまたごめんなさいですが、ミステリ(と、とりあえず表記しておきます)の楽
しみは種々あれど、やはりジャンルの核とされるのは謎解きのパズル的面白さで、だからこそそれを中心にしたミステリを本
格と称するのでしょう? そしてそのことは、ミステリをミステリーとしてしか解していないようなオヤジやオバハンにまで、
きっちり了解されているはずです。このような状況を指して、私は「社会に根付いている」と表現したわけです。
 では、ホラーはというと、ジャンルの核になるのは申すまでもなく根源的破滅――あ、違った(笑)――超自然的恐怖であ
ります。ところが、そのことを了解しているのはごく一部の人間だけなのですね。そして、ブームと言いながら、話題になる
作品の多くは本格からずれた周辺領域のものなのです。要するに、まだまだ根なし草なんですよ。とてもじゃないですが、ミ
ステリのような大帝国と同列とは言えないと思いますよ。

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 まとめレス 投稿者:福井健太  投稿日:02月21日(日)02時56分14秒

 中島さま
 ちょっと話はズレますが、世間のオジさんやオバさんに「ミステリを読んでます」と言ったところで、向こうがイメージす
るのは一部のベストセラー作家なわけで、それは「ミステリー」ではあっても「ミステリ」ではないかな、と。だから「ミス
テリ」も「ホラー」と似たようなものではないか――とも思うのですが。

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 今日は畸人郷 投稿者:橋詰久子  投稿日:02月20日(土)11時10分37秒

 中島さま
 ありがとうございました。私の見方はまるで反対方向ですね。
 へんなたとえですが、AさんがBに居住していないということを証明する手続きは存外ややこしい。ホラーの核心は人間の
中の根源的破滅(あ、手がすべった)なものなので、改めてとなると難しいものがあるのでしょうか。倉阪さんも日記で書い
ておられましたが。通じる人には説明不要(山本夏彦ですね)なところだけに、中島さまのこれからの活躍を期待しておりま
す。
 う、強引なおちだ。

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 いろいろです 投稿者:倉阪鬼一郎  投稿日:02月20日(土)00時23分00秒

 中島晶也様
 取り上げる対象にもよりますけど、あらすじ紹介は最低限で批評を盛り込んだほうがいいと思いますよ、あの雑誌に関する
限り。ホラーはブームではありますが、ジャンルとしてはこれからでしょう。ホラー評論家が一人しかいなくし、サイトはほ
とんどないし、ミステリーの中の本格と比べても雲泥の差でしょう。だから、「ついに現れたホラー専門の評論家」と書いた
わけですよ。うまくまとまったな。

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 ギリギリまで頑張って……るかな? 投稿者:中島晶也  投稿日:02月19日(金)22時53分19秒

 橋詰様
 うむむ、さり気なく、核心に触れる鋭い問い掛けをされていますね(笑)。拡散する以前に、日本ではまだジャンルとして
確立できていないような気がするのですよ。ホラー的なものへの嗜好は普遍的なので、ホラーに分類される作品はかなり古く
から存在しますし、また「ホラーを書くんだ!」と努力してきた作家も大勢います。だけど、ジャンルとして一般に認知され
ていなかった
ので、ミステリーやSFなんかの片隅に間借りして生息してきたわけです。それがようやく一人立ちしようとしている、とい
うのが現状ではないかと。
 実際、「趣味は読書、特にホラー小説です」なんて言っても、オヤジやオバハンにはぜんぜん通じませんよ。「怪奇小説で
す」と言えばある程度通じますが、それでも実話怪談やオカルトと混同されたり、「乱歩ですか」と変格探偵小説的に解釈さ
れたり。一方、若い世代はというと……くどくど言うまでもないですね(笑)。そんなわけで、ブームと言われながらも、倉
阪さんが「お家の一大事」と帝国の地図や鉄道網を描いてみせたり(笑)、東雅夫さんが苛立ったりされているのです。
 ふう、どうにか無難にまとめられたかな?

 倉阪様
 遅れる遅れないは別にして、内容紹介と批評性とのバランスについては、いつも悩まされています。私もホラー以外は「新
刊展望」を頼りに新刊を探すことがしばしばありますから、できればネタバレは避けたいと思うのです。だけど現実には、あ
る程度ネタバレしないと批評はできないので、けっこう派手にやっちゃってることもあるんですね。読者の皆さんがどう受け
止めているのか、非常に気になります。
 『幻想文学』の刊行ペースも年刊まであと一歩だし、『SFマガジン』で東さんのホラー時評が毎月あるんだから、もっと
批評優先でいいのかなあ。

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